玄武と青龍が北桔梗門の近くで水から顔をだしたのは、夜空に太陽の光が飲み込まれて、遠くで残光が橙色に輝いているときだった。
場所はまさしく大奥の裏がわ、無明口の近く。
「気が付いた。」と玄武。
「うん、気が付いた。」と青龍。

「すごい怨念だね。」
水の上を足長蜘蛛のような、触手だらけの淡い燐光を帯びた虫のようなものが何匹も滑って行った。強力な怨念のため形を持たない雑霊が形を得て動き回っている。
見る人がみれば大奥は暗闇のなか青白い光に包まれているのではないか。


月影が顔をだした。「今日は三輪宝の凶日だ、またあいつがくる。とりあえず我々は与えられた事をやろお。」
「あいつてだれ?」玄武が聞いた。
「夜が明ければ分かる。」そう言って水に消えた、玄武と青龍は顔を見合わせたが直ぐに水に消えた。


白虎と朱雀が鈿女にしたがい、その広間に向かう途中鈿女が念話で話しかけて来た。恰好は白鉢巻きを結った髪に巻き、たすき掛けにして長刀を脇にかかえていた。

「赤鬼は何も言っていなかったけど、これかれ行く広間には将軍の側室、松平伊豆守の娘菊姫様がいる。」鈿女が念話でいった。
姫というのはまだお手付きではないからだ。

白虎も朱雀も異様さに気が付いていた。凄まじい怨念が大奥に送られている。大奥の上空ではその念が渦を巻いているのではないか。

「老中の松平伊豆守、例のきちがいか。」白虎が念話で言った。権謀術数の限りを尽くし官僚として老中まで上り詰めた男であり。江戸城の嗜虐の虜の主である。
小姓の少女たちを木馬責めにして流した涙と、膣が裂けて出血した血を酒にいれて飲むきちがいだ。裏御殿の折檻部屋と西の丸地下牢の有名人だ。

この怨念が呪詛であうことにすぐに気が付いた朱雀が、「そんな男じゃ恨んでいる人間はいくらでもいる。呪いの元を断つことは難しいよ。」
呪詛を逃れる方法、一番簡単な方法は呪っている相手を始末すること。

「前々回の三輪宝、姫の部屋に式鬼がやってきて姫と侍女を朝まで犯し去っていった。法力僧の話で強力な呪詛が菊姫と父親である伊豆守に向けられてるとの事で二回目の法輪宝には江戸で著名な法力僧が三人と伊豆守の家来10人、大奥の腕利きの火の番(くノ一)が固めたが三人の法力僧と家来たち瞬く間ににやられ全身をどす黒く腐らせた死んだ。」
「邪淫の法だね。」朱雀がいった。


「姫とくノ一全員が犯さた。、姫以外最初の侍女たちも含め西の丸の地下牢に閉じ込めている。強靭な精神力を持った仲間達だったが全員が邪淫の念を受けて淫乱女になってしまった。男の牢番が前を通ると尻を出し乾きを訴え、情けをねだるようになっているそうだ。」

「伊豆守も侵されたの?」白虎が聞いた。「そのとうり、ご明察。」
「姫の方は呪詛者が手心を加えているようだ、美しい姫に痴態の限りを演じさせ嬲り殺しにするつもりだ。」

「今晩は、法力僧が恐れをなしてしまい誰も助けに来てくれない。私たちと青鬼、赤鬼、不動と役立たずの伊豆守の家来だけで守らなければならい。」
「式鬼は退治するのは難しい。一番頼りになるのは朱雀についてる式鬼二匹だよ。」白虎がいった。

広間の前についた、膨大な怨念と女を淫乱な動物に変えてしまいそうな念。三人とも気を張っていないと変な気分にされてしまいそうだ。

木戸が開けられた。広間の中央には女が寝かされている。肌は透き通るように白く、彫りの深い顔だち、漆黒の黒髪。こんな呪詛を受けず生気ある姿を想像すると凄い美女だ。
その美女が焦点の定まらぬ半開きの目をして、悪夢に魘されているのか規則正しく「んー、んー」と喘ぎ声のようなうわ言をいっている。肌には血の気配が無い、相当衰弱している。

寝かされた姫の周りには縄が張られ結界が作られていた。法力僧が命が惜しいができるだけの事をしようとしたのあろう。

その周りを血気盛んそうな若い侍が十五六人が取り巻いていた。その横には憔悴しきってはいるが異様に眼光の鋭い骸骨のような老人が椅子に腰かけている「こいつが伊豆守か」と白虎は思った。
部屋の隅には青鬼、赤鬼、不動が控えていた。

入ると白虎と朱雀は異様なにおいに気が付いた。腐臭だ肉が腐る匂い。

朱雀はすぐに匂いの元が姫に掛けられている布団の下と椅子に座る老人の足であることであることに気が付いた。
朱雀は赤鬼に視線を送り、念話で「いくらか楽にできる。言ってもいいか」と聞いた。「構わん、老中様は藁にもすがる気持ちだ。」

朱雀は老人の前に進み「ご無礼で差し出がましいようですが、ご老中さまと御姫様をいくらかお助けできると思います。」
「そうかありがたい、ワシよりもまず娘を救ってくれ。」と老人が哀願した。

「白虎手伝って。」二人は長刀を置き、侍たちが明けた道を通り結界に入った。
かけ布団を剥ぐと菊姫は全裸だった。異様なのは腰から下、怨念により実体化したイモリの形をした雑霊が無数に張り付いていた。そして広げられた足の間にはすっぽんのような亀がいて
首を長く伸ばしたその亀頭は姫の膣に深く突き刺さっている。その首は伸び縮みしながら脈動していて深く姫の体に入ると菊姫は「んー」と声を上げる。呪詛の念を受け周りにいる雑霊が実体化
して夢魔と化し姫に淫夢を見せているのだ。さらに両足の足首の下は既に腐敗が始まりどす黒く変色していた。

前では菊姫がこの世の事とは思えない快楽に狂っている。二人の声が屍だらけの広間の中に響いた。


式鬼の太い腿にまた別の男の顔が浮かび上がり物欲しそうに白虎と朱雀を見つめている。

「どうする。」朱雀が言った。
「力ずくで行くと菊姫と鈿女が危ない。朱雀、式鬼を打て。」白虎が叫んだ。
「私の意志では自由にならん。」
「なんとかしろ、このままでは菊姫と鈿女が犯し殺されてしまう!」

「頼む、菊を助けてくれ!」老人が絶叫した。

その声を聴くと朱雀は意を決した。袖から右腕を抜くと首からだして肩と腕を露わにした、上腕に填められている水晶の腕輪を左手で下して腕から抜くと無防備に太ももに浮かんだ顔に向かい進んでいった。

朱雀は触手に直ぐに絡みつかれ鈿女の様に大の字にされ宙吊りにされた。体側から腕が四本生えてきた、着物を引き裂かれ裸にされた下から顔が上目づかいに朱雀の秘肉の割れ目を見つめ不気味に笑った。

両手両足に絡みついた触手から淫蕩な念が朱雀の心に流れ込んできた。それは優しく心を撫でてくる、撫でられるとその温かさが心に広がる。しかし、温かさが心にしみこむとそれは快感の波となり心に広がる。気が遠くなってしまいそうだ、朱雀は心をかなくなにして自分を守ろうとすると快感の波は高く激しくなった「あ゛、あ゛、あ゛」と自分で気が付つづ自分で声を上げていた。

下を見ると式鬼の口から犯し棒が伸び不気味な血走った目で朱雀の下の口を見つめている。式鬼の手が朱雀の乳房を撫で始めた快感が心だけでなく体にも広がった。乳首に指が当たると体が自分の意思では無いのにビクビクと反応した。やがて犯し棒の先が朱雀の秘肉の谷間の入り口に押し当てられ朱雀は目を背けた。

「護鬼、戦鬼早く来て。」と恐怖にかられつぶやいたが、淫の念を流し込まれて生まれた心のドロリした部分が犯し棒に早く入ってきてと願っていた。心が相克し「あ゛ーーー」朱雀は悲鳴をあげた。その時男根を吐き出した男の顔が一瞬当惑したような顔に変わった。

朱雀の後ろの空間が歪み始め鋭い爪を持つ腕が現れた。爪が朱雀に肉棒を突き入れようとしていた顔をひっかいた「ぎゃー」と顔が悲鳴をあげた。

護鬼が飛び出し触手を引きちぎり朱雀を抱きかかえると飛び下がった。
「菊姫と鈿女を助けて。」と朱雀が叫ぶと戦鬼が空間から飛び出した。戦鬼は式鬼の背中に抱きつく鈿女の体を抱く四本の腕を振りほどくと鈿女を体を式鬼から抜き後ろにとんだ。
「早く菊姫も!」戦鬼は鈿女を下すと再び式鬼に飛びつき後ろから羽交い絞めにして式鬼の体を左右に振ると菊姫に突き刺さっていた式鬼の体がぬけた。

式鬼の背中の4本腕が戦鬼をつかんだ、そのまま二体は絡み合い、転げまわり壁をぶち破り外にでた。

「白虎、気砲を撃て、戦鬼は時間があれば再生する。式鬼を倒せ。」朱雀が護鬼に抱かれながら叫んだ。
白虎は壊れた壁から外にでた、式鬼と戦鬼がとっつかみ合い転げまわっていた。
白虎は両手を内側にかざして念を集めた。手と手の間が恐ろしく輝きだした。

そして
「食らえ!」両手の間の光が式鬼に向かい放た。式鬼に当たると凄まじい閃光がはしった、その後轟音と生臭い爆風があたり一面を覆った。
白虎は力を気砲に使い果てへたりこんで「式鬼は去ったのか?」と白虎は独り言のようにつぶやいた。
「去ったよ。」と朱雀が護鬼に抱えられながら答えた。
「戦鬼が再生するのに3日かかる。明日来たらまずいかもしれない。」朱雀が付け加えた。

広間ではバラバラになった肉片のなか菊姫が血まみれになりながらうつ伏せで尻を振り、鈿女も腰を使いながら喘ぎ声を上げていた。



「あ゛あ゛ーーーーー。」人間の声ではなかった。菊姫は声とともに上半身を大きく反らせ目を見開き苦悶とも快楽とも取れぬ表情を浮かべ固まった。
式神の触手が菊姫の体に絡みつくと菊姫の体が腰を屈めたまま浮き上がた、その姿勢のまま菊姫の体が前後に動く。

引くと式鬼の男根が深く力んで菊姫の体に分け入り、緩められては後退した、規則正しく菊姫の体は前後に動き繰り返された。触手が体を引き深く突かれつと菊姫は頭を反り、結んだ口から「んーん」とよがり声を上げる。前に運ばれ体の中で引かれると頭を倒し長く美しい髪が揺れる。何度か菊姫を突いた後で式鬼は深く菊姫に入りそのまま動きを止めた。菊姫は顔を立て、涎を垂らした口を開け頭と尻を左右に振った。

肉棒が突き出た男の顔が卑しく不気味に笑った。もはや菊姫が完全に邪淫の呪詛に溺れ自分で自分の命を削っている。あの気味の悪い笑いは自ら進んで嬲り者になっているこの美しい娘の業の深さ、肉欲に淫する餓鬼を嘲笑し、畜生に堕落させた達成感と命の手綱を自分が握ったことに対しての満足感を表しているように思えた。

男根が再び暴れ始めた「んーーーーん、んーーーーん」と菊姫は今までより大きな声をあげ首と頭を振り狂った。


「なんとかせよ!」倒れた老人の声で全員が我に返った。その足はどす黒く壊死していて自分で立ち上がることができないのだ。

「でも、あの騒ぎの中で老中は無事だったのか!」朱雀は思った、いやこれから起こることを見せる為にワザと生かしてあるのだ、手塩に掛けて育てた娘が犯され淫楽の実を貪り食う姿を。

不動が赤鬼に「火弾は打てないか!」「だめだ姫が危ない!」

「白虎は!。」白虎は念力で式鬼と菊姫を引き離そうとしているが念が式鬼の前で捻じ曲げられて全く手ごたえが無い。さらに強い淫蕩な念が式鬼から菊姫に流れ、菊姫の心の闇に住む淫女が式鬼の念にムシャブリ着ついている。
物理的には二つの個体だが霊的には一つになっている。「念力が捻じ曲げられている全く手ごたえが無い、おまけに姫と式鬼が霊的に一つになってしまっている。」

「力ずくで引きはがすしかないぞ、鈿女!、白虎!、朱雀。おれと不動で式鬼を姫から引き剥がす。お前たちは長刀で触手から我々を守ってくれ。」
「いくぞ!」赤鬼が叫んだ、5人で飛びかかったが触手は溶けた飴ように伸み、鞭の様にしなる、おまけにまるで目がついているように長刀に絡みつき三人から奪った。赤鬼と不動と鈿女が触手に絡みつかれた。

「グアー」「ギャー」赤鬼と不動は白目を剥き口から泡を吹いて失神し広間の隅に放り投げられた。この触手男には失神して命を奪うほどの苦痛を与えるが女に対しては凄い快感を与えるのだ。
鈿女は大の字に宙吊りにされた。
「あああー、ああー。うう、ううう。」鈿女の体に触手から淫蕩な念が送られ鈿女の心の闇に住む淫女を誘惑している。
「鈿女、だめー、だめー落ちてはだめー、しっかりして。」白虎が叫んだ。

式鬼の背中から四本の腕が生えてきて鋭い爪で鈿女の帯と着物を引き裂き全裸にすると両の乳房を揉みはじめた。揉まれてしこった乳首を親指と人差し指でつまみ弄と「あ、あ、ああああー」
とよがり声を上げた。鈿女の秘肉のあたりに男の顔が浮き上がってきた。口を開けると菊姫に突き刺さり暴れている同じ赤黒い犯し棒が顔をだした。

「は!え!」と肉棒を見た瞬間鈿女が我に返った。触手が動き鈿女の足を広げ、亀頭が大きく左右に開かれた鈿女の肉の谷間の入り口に押し当てられた。
「やめろ、やめろ!」鈿女はか細い声で哀願した、大声を上げようとしたが恐怖で体中がこわばり声にならなかった。一気に肉棒は鈿女の体奥深くまで容赦なく突き入れられた、鈿女は目をかっと見開き口を大きく開け音の無い声をあげた。肉棒が鈿女の体の中で脈動すると脈動するたびに信じられない快感が襲い掛かってくる。両腕と両足から流れ込んでくる念が肉棒の脈動と一緒になり快感がどんどん膨れ上がる。快感膨れ上がったところでそれは破裂した。鈿女「きゃー」と悲鳴を上げ狂った快感から逃れようと体を振った、でも体を振れば振るほど快感は深く鈿女の肉体と精神に食い込んでいった。

やがて鈿女の体の震えが止まり両の足に絡みついている触手が離れた。拘束から解放されたのに鈿女は自分で両足を式鬼の体に巻きつけ自ら肉棒を自分の体に招き入れると四本の腕が鈿女を抱いて背中と尻を撫始めた。鈿女が落ちた事に気づいたのだ。
今度は腕が解放された、鈿女は両腕で式鬼の背中に抱きつき乳房を擦り付けながら菊姫を責める式鬼の体の揺れに併せて腰をつかい「あ゛ー、あ゛ー、あ゛ー」よがり声を上げ自分で楽しみだした。



大奥に上がる日は青鬼が人夫を雇い、私(玄武)と千代(青龍)を同心長屋から、赤鬼が白雪(白虎)を奉行の屋敷から、不動が沙羅(朱雀)を浅草の投げ込み寺に迎えにきてくれて北桔梗門を通り無明口まで付いてきてくれた。

「ここで一旦お別れだ、女中切手書を持っているなそれを門番に見せろ中から役人が出てきて荷物を長局の部屋へ、お前らは裏広敷の大広間に案内される。その広間で待たされて一人ずつ奥に連れていかれ体を調べられる、つまり素っ裸にされるのじゃ。」
まだ処女の白雪(白虎)と沙羅(朱雀)が反応した。白雪はニヤニヤした青鬼を睨み付け、沙羅は恥ずかしそうに顔を伏せた。

「心配するな、体を改めるのは城婆と裏使と言う女中だ。覗きもせんぞ、お前らに気付かられたらこちらの命が危ない。夕方には裏長局に連れていられるそこでまた会おう」

青鬼、赤鬼、不動とも御庭番であり同心でもある。かつての父殿先代玄武の部下だ、青鬼は骸骨のよう痩せた体で、白髪の混じった髪を正髪にして後ろで縛り馬のしっぽの
ようにしているが次元抜刀波と言う念力技の名手。ゲスな冗談ばかり言っているが大奥と江戸城について一番詳しい、結局私たちが大奥にいる間一番頼りになる男だった。

赤鬼は炎の魔女といわれた母殿蛍火の弟子、火遁の名手、顔に大やけどをしていうとのことでいつも目と鼻と口のところが開いた白い面をつけ頭巾をかぶっている。
最後が不動7尺はある大男、大岩が動いているような体格をしている。体術の名手で拳や蹴りは岩をも砕く、噂では背中に不動明王の入れ墨をいれているとのことだ。

なんでこの三人が御庭番でもあり同心なのかは、大奥のごたごたが町中にも滲みだしていたからだ。典型的なものは大奥女中と町人との心中と駆け落ちだ、心中はご法度で町人の場合三日日本橋下の川原に死体がさらされ川原で火葬になる。駆け落ちもご法度。
捕まれば女は吉原勤め、男は島流しになる。
しかし、心中も駆け落ちもどちらかが武家出身者になると話が複雑になる。心中の場合は年頃が近い死体を何処からか見つけてきて武家出身者の死体と変えて川原にさらす。駆け落ちの場合は捕まれば自害が言い渡されるが惨い話だ、多くの場合青鬼たちで始末した(殺害した)とて実際は上方に逃がす場合が多いようだ。奉行も目付も青鬼たちに裁量を任せていた。このような問題を内々に処理するのが青鬼たちの役めだった。

裏広敷で待たされると思っていたが私が一番に呼び出された。広間の奥に木戸がありそこが開くと壁で閉ざされた通路が現れた。
裏使いの女中に促されるまま通路を女中について行くと向こう側にも木戸がありそれが開けられ、「さあ、中へ。ここで着物を脱いでください」

朧が部屋に入ると木戸が閉められた。十畳ほどの座敷だが異様なのはそこに座る二人の娘だ、二人の異様さに一瞬息をのんだ。雛人形のように
白い肌くみずみずしい肌をしていたが一人は漆黒の長い髪、もう一人は老婆のような白髪なのだ。朧ははっとした息も心臓の音も聞こえない
この二人式鬼だ。

「着物をぬいで裸になってください。」黒い髪の式鬼がいった。朧は帯を解き着物を脱いぎ、襦袢と腰巻を外した。二人の式鬼は手際よく着物を畳み
 桐の箱にいれた。

「足袋も脱いでください」白髪の式鬼に言われ、足袋を脱ぐと「結った髪を下ろしますので座ってください」と白髪に座ると髪が解かれ櫛がいれられた。

二人の式鬼は朧の体を見て確認すると「それでは奥へ。」と言って奥の襖が開けられた。

その部屋は光の一切ない闇だった。しかし朧の視覚は光を必要としなかった。三人の老婆が座っている。

念話が突然頭の中に響いた。

「美しい体をした娘だね。肌もみずみずしい、若さが羨ましいよ。」

「この子、角とエラがあるよ、鬼と人魚のアイの子だよ。珍しいね。」

「美しいだけじゃないよ。強くてやさしくて利口で猛々しい、通路が開き魔物たちが飛び出してきたときはきっと役にたつよ。」

この三人の老婆メシイ(盲目)だと朧は思った。

「おやおや、この子私たちの話を盗み聞きしているよ。」
「いいじゃないの正直な話なんだからさ。」

「もっと前にきて座って、よく見せておくれ。」
朧は進み横に三人ならんだ老婆たちの前に正座した。

「この娘は良い赤ん坊を産みそうだよ。」
「たくさんは産めないけどね。」
「お乳を飲ませて、立派に育てるよ。」

「じゃ、決まりだね。」
「決まった。」
「決まったね。」

「なんの事を話しているの、なにが決まったの?」

「その内わかるよ。」
「下がっていいよ。」
「そうそう、下がっていいよ。」

後ろの木戸が開くと、正座したまま朧の体が滑るようにさっきの控え部屋に送り出された。
婆たちはまだひそひそ話をしている。

広間に案内されるとすでに先客がいた、全部で四十人ばかりの娘たち。娘たちは大きく分けて五つの組にわかれていた、外様から送られてきた下級藩士の娘たち(上級藩士やお姫様は表)、町人から選抜された下働きの下女たち、吉原から来た女郎、お小姓の10歳から16歳までの少女、そして私たち4人の忍者。

広間で待っていると、白虎が呼び出され奥に行き代わりに青龍が帰ってきた。あの城婆たちに透視されるのは我々4人でけのようだ。ほかの
女たちは別の木戸から3人ずつまとめて出入りしている。
「母が言っていた通りだ。」青龍が念話で話しかけてきた。
「あのお婆さんたち念話を聞いているじゃないの。」
「城婆たちは大丈夫だって、悪い人はいないって母がいってた。」
「通路が開くとき大奥の女たちを守るのは私たちの仕事だときいていたけど、子供を産むだの、育てるだの、決まっただのなんなの。」

青龍が話し始めた。
「大奥て将軍や老中、各奉行はもちろんだけど、元は幕府の御用人にお嫁さんを世話する場所で、大奥は上は御三家や譜代や旗本や外様の御姫様で
下は足軽や町人の娘の下女まで位分けされた組織だった。長い年月でその意味が変わってきているけど、まだその基本は少し残っていて血族により
必要な能力や霊格によりお嫁さんを欲しがっているところに世話するんだよ。私たち水棲族、鬼族、光翔族とも数を減らしているからその血筋の旗本
や大名から身分に関係なく側室を探してくれと頼まれてるんだと思う。」

「それじゃ、私たちどこぞの側室になるの。」
「相手によるって、私たちの能力が高いことも分かるから覚悟を決められる男じゃないとだめらしい。母は殺傷能力高すぎたので男が震え上がって
相手がいなかったんだって。」
「どんな人だろうね。その人。」

私たち四人組の調べが終わると、ほかの女たちを置いて先に裏長局に案内された。かつては三千人居たといわれる大奥も財政難で半分の千五百人ほどになっている。
千五百人のうちの二百人が上層部というか大奥の特権階級になり御台所、御年寄、側室、中臈(実質的に将軍の側室)、御客応答などが大奥御殿、一丸、西丸に住み。
残りの千三百人が向と裏の長局にすむ。
私たち火番は外でいう与力分に相当する。

「人魚だったらもう一匹いるよ。」
「富姫の娘だろ、あの品の良い気は城に来ただけですぐに分かったよ。」
「富姫の娘ならもう決まりでね。」

「じゃ、見なくても良いかい。」
「いやいや、若い女の気に触れると心地よいよ。見てみようよ。」
「そうだね、富姫の娘の気だったら今の子みたいに心地いいね。」

「それじゃ、見てみよう。」
「見ようね。」
「それじゃ、呼ぶよ。」

部屋をでると、さっき脱いだ着物ではなく火の番の着物が用意されていた。奉行所で寸法を取ったので大奥仕立てられていたのであろう。
式鬼に手伝ってもらい着物を着ながら父殿に言われた城婆のことを思い出した。徳川家は魔人の血筋だ、だから徳川の血を引くものと交わ
り精を受けていると特殊な能力に目覚める女がいると言う。そんな女が子を産み、育て一人前にし、夫が死ぬとまた大奥に戻ってくる。
それを城婆と言うと父に教わった。仕事は女たちの精神と肉体を調べること、城を守ること。かつて本丸を破壊してしまうような御姫様を大奥
に入れぬこと。

着物を着ると、式鬼が二人で火の番の髪に結いなおしてくれた。桃割にしてきたけど下女の島田崩しに結ってくれた。
「広間にもどってください。」感情のない声で式鬼がいった。
「それが仕事なら子供を産むだの育てるだ、決まっただのなにを言っているのだ。」

「広間にもどってください。」感情のない声で式鬼がいった。

朧は式鬼が開けた反対側の木戸を通り通路を進んだ、反対側から青龍(千代)がきた。「どうだった?」青龍が念話のひそひそ声で聴いてきた。
「通路が開いたとき役に立つだの、良い赤ん坊を産むだの育てるだの、決まっただの城婆どもにいわれたよ。」
「母に言われたとおりだね。」
「なにそれ。」
「後で話すよ。」
青龍はすれちがった。

朱雀は両手を重ねて姫の腹部に置いた。「白虎、力を貸して。」「わかった。」白虎も手を重ねて朱雀の手に重ねた。
「いくよ、そいのせ。」二人で姫に念を送り込んだ。チーチーと言う無数の鳴き声とともに股座に忍び込んでいた亀とイモリたちが弾き飛ばされ空中で消えた。
「菊姫様はこれでひと段落だね。」朱雀がいった。
わずかだが血の気配が姫にもどった。

「そろそろ子の刻だ来るぞ。」青鬼が縄の前にきていった。白虎と青龍はいったん結界をでて長刀を拾い、あたりの念の流れに精神を集中した。

そしてそれは突然に来た。強力な怨念が堰を切ってこの部屋に流れ込んできた。菊姫が寝かされている広間の中央の北東側、鬼門の空間が歪み穴が空き念の波動が押し寄せてくる。
一瞬だったその波を受けると侍の肉が首や足や腕が引きちぎられ絶命した。結界は簡単に破られ張られていた縄は吹き飛び、あたり一面血の海になった。

青鬼ら三人は念の壁をつくりやり過ごした。朱雀と鈿女は白虎の作った念の壁に隠れて助かった。そしてそれは菊姫のすぐそばに立っていた。

それは下半身は牛の蹄と足をもち、屈強な上半身をし、首と頭のある場所には千触蛸の様な無数の触手を生やしている。そして何よりも異様なのは生殖器があるべきところに男の顔があるのだ。

青鬼が抜刀して上段に構え念を刀に貯め振り下ろした、抜刀波が式鬼に向かって放たれた。一瞬抜刀波を受けた式鬼の体に刀傷を受けたように歪んだがすぐにもとどうりになてしまった、全く手ごたえがない。
今度は式鬼が青鬼に向かい手のひらをかざした、波動が手のひらから放たれた。「グワー!」と青鬼はそれを受けると泡を吹いてそこに倒れた。

生き残た全員が如何すればよいのか驚愕し当惑する間に式鬼の股間にある顔の口が大き開き赤黒い巨大な男根が中から生えてきた。それは赤黒く血管を浮かび上がらせ、霊体のような燐光を放ち、まるで男が拳を作り力む姿に似ていた。

いつの間にか全裸の菊姫が立ち上がり式鬼の前にたっていた。

菊姫は薄気味の悪い笑みを浮かべて欲望でぎらつかせた目で式鬼の男根をじっと見つめている。菊姫は体を回し背中を式鬼に向けると足を大きく広げ、上半身を倒し尻を式鬼の男根に正対する
よう突き出した、そして両手で尻の肉をかき分け男根に自分の肉の割れ目を差し出した。式鬼は両手で菊姫の腰骨をつかむと一気に肉棒を突き入れた。
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ああああ裏長局の自分たちの部屋に案内された。部屋は一階の入り口を入ってすぐの部屋12畳の4人部屋で木戸を開けて中に入ると左右が押し入れになっていて
そこに布団と郡をしまう。荷物はすでに運び入れられて、家から持たされた長刀と月蛍石のついた銛が郡の横に寝かされたいた。
青鬼と月影にくノ一頭の鈿女が座って待っていた。月影は先代玄武である父殿の後を継いで水棲族御庭番の頭をしている。同じく鈿女は大奥に百人いる
くノ一の頭だ。

私たちが部屋にはいると「大奥に入ったら最始は大奥の仕来りとか約束事を仕込むのだが今は人手が足りんので直ぐに仕事についてもらう。わかったな。」


青鬼が言うには外にいる時に父殿たちがこの話を聞けば絶対に大奥に寄こさないだろうと言う事で伏せられた話だった。まず鬼亀の話、通路が開いた時に
討ち漏らしたのか逢魔が森からきたのかわからないが、江戸城の濠に鬼亀が住み着いて20人の女中が食われているのだ。この鬼亀が狡賢く戦闘能力も高く
狩り出して倒せない。鬼亀は水棲族の女の肉が大好物だ、私と青龍に囮になれという話なのだ。

「初日にいきなり命懸けの仕事かい。」朧がいった。

「城の見回りだけの仕事じゃないの?」と青龍が聞いた

「水棲族の御庭番が何人もやられていた。お手上げなのだ、たのむ。」月影がいった。
玄武と青龍はしばらく考え込んだが。

「玄武,やろう。女たちを救おう。」
「そうだな、私たちは結局用心棒だからな。」
父殿に大奥に上がるのは操の危機だの、性奴隷にされるだの言われたが結局は能力を生かして大奥の女たちを守るのが仕事だと言われた。御殿地下にある扉が年四回
開くときに生贄だけでは食い足りない連中が結界から外に飛び出して大奥の女中たちを食いに来る。その魔物たちから守るのが私たちの仕事だ、父殿も母殿も
そうやって務めた。われわれの種族が人間と共存できるている理由だ、今市中にある奉行所と百人組は江戸の治安維持と魔物の捕食から江戸の人間をまもるのだ。

しかし、大奥だけが特別に狙われる理由がある。生贄に女ばかりが与えられていて、女の肉の味を覚えてしまったのと魔物は人間の女を生殖の対象にする事。

牛鬼、馬鬼、鬼亀、壺蛙、樹鬼、千触蛸だいたいこの六種類がよく出くわす魔物だが、人間を食うが人間の女に精を仕込んで子孫を増やすのだが魔物の赤ん坊は母体を
食い破ってうまれてくるが。変わり種は壺蛙だ、直接女を体の中に取り込み壺蛙として出産するのだ。だから壺蛙は全員メスだそうだ。
だから食欲と性欲の両方を簡単に満たせる場所が大奥なのだ、だから江戸城が扉の中心ではあるが三族の家臣と御庭番により守られている。

そこで言うと小伝馬町にある通路は抵抗する奴がいない。女囚もいるが圧倒的に男ばかりだ人数も多い。扉が開く日小伝馬町の牢屋敷の周りは百人組が周りを固めいるが
通路が開く丑三つから通路が閉じる明け六つの間は屋敷の中は阿鼻叫喚の騒ぎになるそうだ。


「そして、白虎と朱雀は別の話があるので鈿女と火の番の詰め所に言って話を聞いてしたくしてくれ。」

「分かった。」と白虎。「私も。」と朱雀。しかし、この時私たち四人がとんでもないことに巻き込まれていることなんて少しも思わなかった。


怨嗟の鬼

帝が生まれるはるかに昔、人間は今よりも遥かに高度な文明を持っていたと言う。その時に別世界の魔物が空間に通路を作り人間世界に攻め込んできた。
それに対して人間と水棲族、鬼族、光翔族が力を合わせ戦い魔物たちを破り通路を塞いだ。しかしそのすぐ後に仲間割れを起こし高度な文明が滅んでしまった。

その後は飛鳥、奈良、京都に王朝が興亡を繰り返し今から1000年位前に武装集団としての武士が生まれた。王朝の権力にその武士たちが加わり安定していた時期も
あるけれど700年位前からこの武士と三族が敵味方に分かれて戦乱を繰り返した。その戦乱のなかで権力は王朝から武士たちに移っていった。

それが今から250年位まえに江戸幕府の始祖大魔神徳川家康が閉められたはずの空間の通路を再び開き魔物と取引し、彼らの力を使い戦乱を終結させて徳川幕府を開いた。
だから徳川家は人間じゃない、家康はその父が別世界から召喚した魔物で自分の側室に産ませた子と伝説でいわれている。徳川幕府を開いた後家康は魔物たちとの取引を反故にして空間の通路を閉じようとした。こちら側にいる奴はあとで狩り出して殺せばよいと考えたのだ。しかしこれがうまくいかなかった。

年に4回1日だけその通路が開いてしまうのだ。そこで家康は考えた魔物のくる通路の出入り口は2か所、その周りに結界をはり、通路が開いても結界から外にでれなくして
しまえとなった。しかし、これは甘かった。こちら側で狩り出し殺すはずになっていた生き残りたちが結界の外側から攻撃をかけ反対側から強力な念を送ってきて
家康の作った結界は破壊され。人間、三族と魔物たちの壮絶な殺し合いになってしまった。その結果互いに認識したことがある魔物たちは年4日しか開かぬ通路を利用
しても魔物の軍団を送り込むにはタカがしれている、扉が閉じられれば残った連中は皆殺しにされる。人間側も通路が開くたび犠牲者を出しても割に合わない。

このままでは共倒れだ、そこで取引が行われた。年4回の通路が開く日に人間は出入り口に生贄を用意すること、人間の裏切りを監視するため魔物の居住地を用意すること
居住地にも生贄を用意すこと。通路の開く日に結界を飛び出したものは人間のほうで自由に殺してよいこと、居住地より飛び出したものが殺されても一切咎めないこと。

それが怪物のような私たちが人間と共存できている理由だ、江戸城の結界や居住地から飛び出してくる不心得ものを始末するのが3族の同心や百人組(後で話す。百人組の住む長屋には町人たちからのか供物が絶えなかった)。通路が開く、夏至、冬至、春分、秋分には我が母蛍日と青龍の母富を頼って付近の町人たちが押し寄せてくる。町内には夜になると松明と篝火がたかれ父殿たち同心と百人組の手練れたちが江戸八百八町を巡回する。

魔物が使う通路は江戸城本丸の地下にある土蜘蛛御殿の最深部にある。そこには年4回女たちが生贄としてつるされる。もう一つは小伝馬町の牢屋敷にある、生贄の時期になると
無宿人狩りがおこなわれ犯罪者が詰め込まれる。明けた朝には土蜘蛛御殿も牢屋敷も人っ子一人いなくなる。

魔物の居住地として選ばれたのは高尾山の裾にに広がる逢魔ヶ森だここにも年何回か生贄の男女が放される。生きて帰ったものはほとんどいない、しかしこれが将軍や正室の
世継ぎ候補選びの儀式に利用されている(これも後で話す)。

だから江戸城の御庭番には私たちような怪物が必要とされるのだ。角とエラと翼を持つ私たちが必要とされる。