1995年当時の私の「お宝」3点セット。
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以前、私のガレージにはトヨタとホンダが初めて手掛けたスポーツ・カー。
すなわち、トヨタスポーツ800とホンダS800クーペの二つのSが収まっていました。
共に長い間、この2台を同時に所有することを憧れ続け、旧車歴10数年を経て現実の物とする事が出来たのですが、やはり、20数年前のライト・ウェイト・スポーツカー2台を養い、維持していくことは並大抵ではなく、更に、ホンダS800の様な性格のクルマは私の好みとは少し違っていたこともあり、蜜月は3年程度で終わってしまいました。
夢破れたとはいえ、この2台がガレージに並んでいる姿は今でも鮮烈に思い出されます。
旧車雑誌などでは事あるごとに比較されている60年代の国産唯一のライトウェイトスポーツカーですが、実際に2台を所有してみて初めて分かった事が多く、2台のSを飼っていた当時に書き貯めたレポートをここに掲載して、これからこのどちらかを所有しようと考えている方の為に幾らかの参考にしていただきたいと考えました。
尚、このレポートは1995年の2月頃から作成され、同年4月に脱稿していますので、現代の2台を取り巻く旧車事情とは少しズレがあります。
余りにも大きな相違点に関しては改稿しておりますが、基本的には手を入れる作業は行っておりませんので、以上を御理解の上でお楽しみ下さい。
ホンダS800クーペ御覧の通り、仲々の
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こちらは、御存知
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まず2台の諸元ですが、トヨタスポーツ800は1965年生産の初期型で1981年に購入。1989年にフル・レストアが終了し、現在完調でエンジンO/Hの際に新品のシリンダーとピストン等を使用しており排気量の変更はありません。 但し、フライホイールに関しては約20%程の軽量化を行っています。
ホンダS800クーペは1968年生産のMK−Uで国内のMタイプと同一の仕様です。 が、クルマ自体はフランス仕様で、1993年に不動車を購入。1994年2月に機関部のO/Hを完了しています。
エンジンは2mmO/Sで850ccとなり、キャブレターも加速ポンプの付かない30F型に換装しています。 又、点火系をフルトラ化し始動性を向上させる等の若干のモディファイを行っています。
最初に両車のフィーリングを多少の独断と偏見で言い切ってしまえば、幼馴染みの女友達(但し、カワイイ)と気位の高いお嬢様(但し、美人)という所です。
当然、前者はヨタハチで後者はS8ですが。
「ドタドタと騒がしく色気はあんまり無いが、性格が明るくて親しみやすくどんな所にでも付き合ってくれるし、デートのお金もあまり掛からない。
しかもチャーミングで充分人目を引く容姿は男の優越感も大満足。」
そんなヨタハチに対しS8は、
「お付き合いにもお金が掛かるし、御機嫌を損ねないように結構神経も使う。 その上、気が強くちょっとワガママ。
だけど美人で色っぽくって男の征服欲を刺激する。」 と、こんな感じでしょうか。
もちろん、ベッド・インして最後までいくには両車ともかなり手強そうですが。
それでは、短いながらも完調に近い状態にある二つのSを項目別にレポートしたいと思います。
はっきり言ってしまえばホンダS800に軍配が上がるが、これはトヨタが劣っているわけではなく、Sの性能が飛び抜けているからに他ならない。
ヨタハチもスペックからでは考えられないほどの能力を持っており、同時代の英国車(MGミジェット等)を凌駕する。
又、長距離を高速(120km/h程度)で巡航する場合には、両車のエンジン回転数に3000〜2500回転程の差が有り、エンジン・ノイズから来るドライバーの負担は圧倒的にホンダの方が多い。
気候から来るオーバーヒートやオーバークールは両車とも比較的顕著だが、改善することが可能である。
但し、トヨタは空冷であるので冬季のオーバークールは液冷のホンダより顕著である。
制動能力に関してはディスク・ブレーキを持つホンダ(Mおよび輸出仕様)が優れるが、両車ともに現代のクルマに較べると圧倒的に劣っており走行には注意が必要である。
操舵装置(ステアリング)に関してはホンダがラック&ピニオンを採用しシャープでシビアなステアリング・フィールを持っているのに対し、トヨタは当時としては一般的なウォーム&セクターローラーを使用しておりフィーリングはホンダに劣る。
但し、ホイールベースが短いこともあり切り初めはダルだが、しだいに切れ角が深くなるに従ってシャープさを増してくるのでタイト・コーナーでは遜色はない。
一方のホンダはトヨタに較べると明らかにクイックなフィーリングで(実際にはS600の方が遥かにクイックである。)高速道路などの轍では顕著に反応するので注意が必要である。
タルガ・トップとはいえ一応オープンボディーといえるトヨタは、大胆にもサブフレームを有するモノコック構造によって製造されており、その上、非力なエンジンをカバーする目的でアルミ合金を大量に導入して軽量化に努め、この排気量のクラスとしては超軽量とも言える580kgの乾燥重量を実現している。
但し、構造的な脆弱さは解決しておらず多少の軋みや歪みを誘発し易くなっている。
一方、ホンダは当初からシャーシを想定して設計され、多少の設計変更はあるものの単純な梯子型フレームをS500から使用している。
この為、ボディーはオープンタイプでも大変頑丈でトヨタの様な軋みなどは絶無と言っても良く、クーペ・ボディーに至っては閉断面構造でもあり、走行中の不安などは微塵もなく快適である。
但し、頑丈さと引き替えに車体重量は増大し乾燥重量で700kgを越える結果となってしまった。
足回りはトヨタが前輪にダブルウィッシュボーン/トーションバー,後輪にリーフリジッドを採用し、ホンダはS500発売より前輪はトヨタと同様のダブルウィッシュボーン/トーションバーで、後輪には独特なチェーン・ケースを利用したスイング・アクスルの独立懸架としていたが、S800の発売後、一般的なリーフリジッドに変更となった。
結局、ヨタハチは軽量な車体でなければ成り立たないクルマであり、その為に最後まで車体の脆弱さを感じさせた。
又、Sシリーズはオーソドックスな構造を採用したためにエンジンの高出力化で車体重量というハンデと戦かわなければならなかったと言える。
エンジンの構造が空冷2気筒OHVとシンプルなトヨタが優れている。
ホンダは4連キャブレターや高回転のDOHCエンジンを持つ為にかなり複雑であり高度な整備技術が必要でビギナーには不向きであろう。
又、エンジン単体の重量も2倍程の違いがあり脱着時の負担もかなり異なる。
ちなみにトヨタの2Uエンジンは2〜3人いればチェーンブロック無しで脱着が可能である。
メンテナンスに関しては、共に30年以上も前に設計されたエンジンであり、現代の複雑な電子制御のエンジンに較べると驚くほどあっさりしているが、キャブレターを複数使用している上、長年の使用により経年劣化を生じている関係上、大々的なオーバーホールを行わない限り完調を望むのは難しく、又、オイル管理でもストレーナーも組み立て式で汎用性を持たないため面倒な一面を持つ。
加えて、足回りには現代のクルマでは滅多にお目にかかれないグリース・アップの為のニップルが点在しており充填を必要とする。
コンスタントに25km/l程度の燃費を示すトヨタが圧倒的に優れる。
しかも、空冷でありながらエンジン・オイルの容量も2.5l程度でホンダの約2/3であり、共にホンダに較べ安価で経済的である。
これは大衆車のパブリカのコンポーネンツを流用したためでヨタハチ最大の美点である。
因みにホンダは10km/l程度しか走らない。
ガソリンはトヨタが有鉛ハイオク仕様であるが、有鉛ガソリンを入手しにくい昨今では、無鉛のプレミアムガソリンに有鉛添加剤を混入して対応している。
ちなみに、ホンダは高速有鉛仕様で無鉛プレミアムガソリンを使ってやれば機嫌よく走る。
「ホンダは90%以上の部品がくる」という伝説は既に過去のものであり、現在では一部消耗部品にも欠品が目立ち、又、メーカー価格も高騰しておりユーザーの負担となっている。
一方のトヨタは以前よりメーカーの部品在庫が少ないと言われていたが、10年程前には、はかなりの在庫がありエンジン等はカム・シャフトはおろかクランクやシリンダー,シリンダーヘッドに至るまで新品で入手出来る上、価格もホンダに較べてかなりリーズナブルであった。
これはパブリカとコンポーネンツを共有していることによりホンダに較べ部品が大量に生産されている為で、各部の修理の際にかなり有利だった。
だが、現在ではホンダの置かれている状態とドッコイの状況を呈しており、各部のO/H用部品にも事欠く事態となっている。
外装関係の部品に関しては、両車共かなり厳しい状況であり、「大きな事故=スクラップ」の図式は崩せない。
レンズ類などの保安部品は多少は供給されてはいるが、アッセンブリー・パーツや各種ゴム部品は欠品も多く、レプリカや代用品に頼らざるをえない状況である。
将来的には、予備のエンジンやボディースキームを含むストックパーツを入手する必要が大であるが、既に低価格での入手は困難であり、オーナーにとって悩みの種になっている。
インテリアに関しては両車ともスポーツカーらしい機能性を重視したデザインで好感が持てる。
ドライビング・ポジションもこのサイズのクルマとしては満足できる物であり、シートも固めで、ある程度は体をホールドしてくれる。
インテリア・デザイン自体は個人の好みがあり評価を避けるが、ロータス・エリートを範とし、合成樹脂の成型部品を多用してモダンな(当時としては)雰囲気を持つホンダに対し、オースチンヒーレー・スプライトMK−T(カニ目)を意識したと思える構造材にレザーを張っただけのインテリアを持つトヨタは、潔さとスパルタンな一面を感じさせる。
各メーターや装備は両車とも充分完備しており(クルマを走らせる為に本当に必要な物しか付いていないが)満足出来る。
又、エクステリアに関しては、これこそ個人の好みがあり評価などは出来ないが、まさに(当時としては)空気抵抗を極限まで少なくしようとした独創的なデザインのエアロ・ダイナミクスな軽量モノコック・ボディーを持ち、低く取り付けられアクリルでカバーされたヘッドライトや車体の丸みに合わせたテールランプ,簡単に取り外せる量産車初のルーフなど、意欲的なデサイナーのコンセプト・デザインがそのままクルマになったような魅力的なスタイルを持つトヨタ。
対するホンダは、頑丈なシャーシにコンパクトなオープンボディーを改装したクーペボディーを載せ、多少腰高だが背中を丸めた独特な形状のルーフと、実用性が高く大きく開くテール・ゲート、スッパリと切り取られたコーダトロンカ・テールなど、アクが強く、いかにも当時のホンダデザインらしいボディーは、オープンボディーの英国スタンダードなスタイルよりも魅力的ですらある。 共にデザインが先行して多少後方視界が狭い等の欠点はあるが、全体的には大変魅力的である。
又、両車共,車体は非常にコンパクトでありながらも室内は縦方向には充分に広く、対する横方向では適度なタイト感を感じさせてくれる上、ドライバーにホールド感を与えてくれる。
流石に身長180p以上のドライバーには窮屈だが、バケット・シートに交換してヘッド・クリアランスを稼ぎ、純正の大径のステアリング・ハンドルを小径のものに換装すれば、必要にして充分なドライビング・ポジションを得る事が出来る。
耐候性に関しては完全なルーフを持つホンダが優れており、雨水の浸入や隙間風等に悩まされる事も無く快適である。
対するトヨタはタルガ・トップという点が災いして、僅かに雨水の浸入や隙間風を発生させるが、オープン・カーの幌に較べると遥かに優秀であり、許容範囲内である。 使い勝手は、大きなリア・ゲートを持つホンダが優れるが、トヨタもルーフをトランクに収納しなければかなりのカーゴ・スペースを持っており、二人乗りでの小旅行には十分対応できる。
暖房装置は、トヨタは空冷であるが故に暖房にオプションの燃焼ヒーターを採用しており、長年の使用によってO/Hを必要としている物が多く、更に不幸にして装備されていないクルマにおいてはひたすら寒さに耐えねばならない。
対するホンダもヒーターはオプションだが装備されているクルマが多く、充分な暖房を与えてくれる。 しかし、このクルマ達の現在における使用目的を考えると、耐候性や使い勝手の比較はナンセンスであろう。
最後に室内における走行中の騒音については、両車とも高速走行時にかなりのこもり音を発生するが、特に高回転のホンダにおいては独特の高周波を発し、会話はもとより、高出力のカー・オーディオでもボリュームをかなり上げないと聞き取れないほどであり、更にその高周波によってドライバーの精神的負担は増加するため、高速道路での高速クルージング(120〜140q/h)では鋼のような精神力が要求される。
同様にトヨタでもOHVエンジン独特の断続的な野太い低音がドライバーを襲ってくるが、ホンダのそれに較べると多少ましである。
いずれにしても、高速走行は快楽を通り越して苦痛を伴う行為である事に間違いはなく、やはりワインディングやサーキットで楽しむほうが健康的であろう。
両車共に、遥か以前に生産され、殆どの場合は幾人かのオーナーの元で現在まで使用されてきたクルマであり、リビルドやレストアという作業を既に受けている場合が多く、このために現在稼働中の車両についてはそれほど神経質になる必要は無い。
しかし、不幸にしてクルマになんらかの異常があり本来の機能を失っている場合には、修理や修復を施さなければならない。
又、車体の塗装や構造材が経年劣化により痛んでいたり、錆びによって腐食が起こっているような場合には大規模なレストアを施す必要があり多大な費用が掛かる。
このような経費を維持費として考えるかどうかは各オーナーの判断となるが、それ以外の車検費用や任意保険料等は一般的な予算で充分賄うことが出来る。
但し、旧いクルマを管理していく上で最低限の設備として車両保管用のシャッター式のガレージと日常整備が可能なツールセットは必要不可欠であろう。
既に生産されてから四半世紀を越えたクルマであり、クルマの性格上新車当時から大切に保管されていたものは少ないと考えられ、更に所有者が複数存在したであろう事を考慮した上で、ある程度の車体の痛みや室内の汚れ、部品の欠品等の問題には納得した上で購入する覚悟が必要である。
購入する価格によってクルマの程度は千差万別であるが、基本的には動いているクルマを購入対象にする事により手っ取り早くそのクルマの程度を知ることができ、購入の判断が下しやすい。
不動車はエンジン等のO/Hを考えに入れた上で計画しないとたちまち予算オーバーとなる上、最悪の場合、修理不可能という事も充分に考えられ注意を要するので、安いからといって安易に飛び付くのは考え物である。
ボディーに関してはホンダもトヨタも、ある程度の痛みは覚悟する必要があるが、特にトヨタは錆による腐りの進行が激しく車体強度を著しく失っている場合があり、この場合のボディー・レストアには多大な出費を必要とするので注意を要する。
ホンダはフレームがある為、それほど神経質にならなくても良いが、エンジン等の機関部の故障に関しては細心の注意を払ってもらいたい。
不幸にして、エンジン等が不調もしくは壊れて異常音を発する様な場合はO/Hを施す必要が生じるが、この時点で掛かる費用は圧倒的にホンダのエンジンの方が高価であるので、注意を要する。
トヨタの大量生産され、在庫部品も安価に確保されている2U型に較べるとホンダのAS800E型は中古エンジンも高価であり、又、在庫部品も少なく猛烈に高価でしかも構造は複雑であるので当然の結果としてO/Hはコスト高となる。
両車ともレストア済みのクルマを購入する方法もあるが、一部の業者は、とてもレストアとは言えないシロモノを高価で販売しており、注意を要する。
又、両車とも真面目にフル・レストアされたクルマは非常に高価である事も理解してもらいたい。
以上が私なりに両車に接し、乗り較べた上での感想と比較ですが、「スポーツ・カーに乗りたい」と考えるのなら、迷わずにホンダを選ぶべきです。
但し、今頃になってSに乗るのですから、かなりの出費を覚悟して購入しないとすぐに手放すことになります。
安く買ったつもりでも、真面に走るようになる頃には最新の3000ccクラスのスポーツ・カーを買ってオプションをつけまくった位の費用を出費しているでしょう。
対して「経済性とスタイル」を考えるのならヨタハチを選ぶのも良いでしょう。
但し、トヨタはホンダに較べると比較的安価ですが、車体自体の痛みも酷く、オリジナリティーを失っているクルマが多いので、納得出来るところにまでレストアするにはパーツ探しを含めて根気が必要です。
ですからファッション感覚で乗ろうという方には少し荷が重いかも知れません。
逆にD,I,Yに徹しようという方は、いじりやすくパーツも安価でしかも壊れない、と三拍子揃ったヨタハチの様なクルマは最適でしょう。
「パーツがないのも、自分でいじるのも、壊れるのも嫌だ。」という我儘な人には英国のMGミジェットあたりが妥当でしょう。パーツもふんだんに有りますし(但しお金を出せば。)、最近ではスペシャル・ショップもかなり増え、修理にも困りません。
しかも、英国車に乗っているという安っぽい優越感も味わえます。
「休日デート車」として考えるのであれば、国産スポーツ・カーは手間とお金が一杯掛って、しかも貧乏臭く見えるので止めたほうが良いでしょう。
リセール・バリューを考えての購入も当然あるでしょうが、売買の対象となる状態にまでレストアを行ってあるクルマは非常に高価である上、その転売価格は購入価格を上回ることは殆ど無いと言って良いでしょう。 (但し、更にフル・レストアを行った場合は別ですが)
一般的にヨタハチやS8の様な人気車は値落ちが少ないと認識されていますが、現実は販売価格の上限もあり、上記したような手間と費用を注ぎ込んだクルマは、その全ての代価を転売によって得る事は、ほぼ不可能であると考えて間違いないでしょう。
最後に気になる価格ですが、ある程度の美しさとオリジナルを求めるのであれば、トヨタで\1,500,000〜\2,500,000 程度。
ホンダで\2,000,000〜\3,000,000 程度(含む、個人売買)の予算は必要でしょう。
それ以下の価格のクルマではなんらかの問題があると考える方が良く、ある程度のレストアやO/Hが必要であり、その費用を含めると上記した価格になってしまうのが現実で、安価なクルマを購入する場合には+\1,000,000円を購入資金に加えておく必要があります。
トラブル・フリーでパーフェクト・ランニングのフル・レストア車を考えているのであれば、新車のクラウン1台分程度(\4,000,000〜\5,000,000) の予算を用意すれば必要にして充分なクルマが手に入るでしょう。