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ワークショップE
2004年11月20日(土)
13:30 - 15:30, 第2会議室
ワークショップE
疫学・公衆衛生・予防
座長:グンナー・ヒラーダル、井内康輝

クリソタイルに曝露した南アフリカ鉱山解雇労働者におけるアスベスト関連疾病の過剰発生が意味するもの
ソフィア・キスティング、モハメド・ジーブハイ
ケープタウン大学公衆衛生・家庭医学校労働・環境衛生部 [南アフリカ]



 南アフリカにおけるクリソタイルアスベストの採掘は、20世紀初頭から行われた。最大規模の鉱山と精製工場をもつアフリカン・クリソタイル・アスベスト社(ACA)は、1937年に操業を始め、2002年に閉山した。
 1975年から1992年までの南アフリカにおけるクリソタイルの生産は、年平均10万トンにおよび(ACAの生産量はそのうちの90%以上を占める)、2000年には2万トン近くまで減少した。1960年代と70年代にACA に雇用されていた労働者の数は、最大時に2千人から2千6百人であった。1990年代になるとその数は徐々に減少し、2000年までに250人ほどに削減された。1977年から1995年までにACAによって報告された年平均のアスベスト繊維の計測数は、1977年(2.5ファイバー/ml)、1979年(2繊維/ml)、1983年(1.21繊維/ml)を除き、1mlあたり1繊維を下回っていた。
 南アフリカ全国鉱山労働者組合(NUM)は、産業医療従事者に対して、ACA鉱山における労働者の健康診断プログラムの審査を行うように求めた。医療記録、胸部レントゲン検査、肺の機能検査についての一連の審査が、解雇された労働者がスワジランドやジンバブエ等の近隣諸国を含む本国に送還されるのに先立って実施された。
 1995年から2000年までの間、1,200人以上ものACA のアスベスト鉱山労働者の医療記録や胸部レントゲン検査、肺機能検査結果が、アスベスト関連疾患について評価された。異なる評価に対するアスベスト関連疾患(ILO分類で1/0以上*訳注)の有病率は、21%から36%だった。
 この結果は、他の調査で、南アフリカ東ケープ州 (22〜37%)や隣接するボスワナ(26〜31%)からの移民労働者に、じん肺(主に珪肺で肺結核を併発している)の有病率が高いとの調査結果に相当するものである。
 これらの審査結果は、記録にあるような低レベルの曝露にもかかわらず、クリソタイルアスベストによる疾病の大規模な発生の危険性があることを示唆しており、労働組合が解雇労働者に対する出国時の健康診断を行うように求めることの重要性が強まっている。
 この中で得られた情報は、以下の点に寄与した。
  • クリソタイルアスベストによる健康リスクに基づいたアスベストの曝露基準の改定
  • 新しいアスベスト規則に、医療サーベイランスを含めること
  • 労働組合との交渉による解雇労働者についての協定に元労働者に対する医療サーベイランスを含めること
  • アスベストに曝露した労働者と地域の人々における民事訴訟への機運を高めたこと

*訳注:ILO score >= 1/0 ILOが定めた肺のレントゲン写真の読影のための分類。0/-, 0/0, 0/1, 1/0, 1/1, 1/2, 2/1, 2/2, 2/3, 3/2, 3/3, 3/+の12段階に分類され、じん肺等の診断の基準とされている。