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ワークショップE
2004年11月20日(土)
13:30 - 15:30, 第2会議室
ワークショップE
疫学・公衆衛生・予防
座長:グンナー・ヒラーダル、井内康輝

製鉄所におけるアスベスト対策について
宇土 博
広島文教女子大学人間科学部[日本]


 製鉄業では、溶銑、溶鋼などを扱う高熱作業が多く、耐熱材・断熱材としてのアスベストの使用が多い。これまで、製鉄所におけるアスベストの問題が取り上げられたことはないが、早期からアスベスト対策が取り組まれた事例について報告する。
 製鉄所におけるアスベストの使用には以下のものがある。
 @ 高炉、転炉、圧延、A 熱風炉、B 製鋼造塊定盤、C 発電所ボイラー、D 起重機ブレーキライニング。
 石綿対策は、1977年に製鋼造塊定盤での石綿エアー清掃による発塵が問題となり、これをロックウールへの変更を契機に石綿対策が取り組まれてきた。
 1978年、全社の作業環境管理要領が改訂され、石綿の環境管理基準が強化され、0.2線維/cm3以下に設定された。
 1982年、横須賀共済病院による造船所での石綿肺がんの報告が行われ、更に石綿対策が強化された。
 1983年、石綿取り扱い要領を制定し、新規設備の石綿使用を禁止。同年、高炉の垂れ幕集塵での石綿使用がガラス繊維に変更された。
 1988年、所内設備の石綿実態調査を行い、サンプリング調査を開始した。
 1990年、石綿分析結果189件中、161件(85.2%)が石綿と判明。同年、起重機のブレーキライニング(40〜50%の石綿含有)のノンアスベスト化を開始。同年、旧海軍工廠、民間造船所従事者の悪性中皮腫の報告。関係課に対して1992年5月までに既存設備の石綿の完全撤去が要請された。
 同年、全従業員を対象に間接X-pによる胸膜肥厚の調査。在籍者2,689名中の有所見者IIIa 16名、IIIb 11名、およびIV 21名(総計48名:1.79%)(アスカグレン、スサモジイ等の分類)が認められ、以降、追跡調査を行っている。
 現在までのところ、対象者からの石綿腫瘍の発症は認められていない。現在、代替品のない既存設備やブレーキライニングの一部に石綿が残っているが、概ね撤去が完了しており、さらに完全な撤去が図られている。石綿健康障害の予防のため、製鉄業全体での取り組みが要請されている。