2004年11月20日(土) 13:30 - 16:00, 井深大記念ホール 全体会議セッション5 アスベスト被害に対する補償 座長:森田明、牛島聡美 古谷杉郎 石綿対策全国連絡会議・全国労働安全衛生センター連絡会議[日本] 各国の補償制度は、その国の歴史的、社会的及びその他の背景を反映して実に多種多様である。筆者は、それがその国の人権意識のレベルをはかる指標のひとつになるのではないかと考えている。また、アスベスト被災者とその家族に対する正義を実現することは、われわれすべてにとっての共通の課題だろう。 日本では、アスベスト訴訟事例はきわめて稀れである。補償を受けている事例のほとんどが、労働者のケースであり、国が運営する労働者災害補償保険制度からの給付のみを受けている。 わが国の法定の職業病リストには、石綿肺(じん肺の一種として)、アスベスト関連肺がん及び中皮腫が含まれている。最近、良性石綿胸水及びびまん性胸膜肥厚も、ケース・バイ・ケースで補償が受けられるようになった。アスベスト関連疾患の被災者は、(100%の)療養・(労働できない場合は平均賃金の80%の)休業給付を、死ぬ(か当該疾患が治る)まで、期間制限なしに、受けることができる。被災者が死亡した後は、その者に扶養されていた遺族は、年金として遺族給付を受けられることになろう。アスベストに曝露した業務から離職または退職した後にアスベスト疾患に罹患した場合であっても、被災者は補償給付を受けることができる。また、使用者が保険料を支払っていなかった場合であっても、労働者は補償給付を受けることができる。にもかかわらず、日本における、補償を受ける資格がある者に対する補償を受けた者の比率は、毎年わずか数パーセントにとどまっているものと推測されている。 過小報告、過小補償及び過小診断は、すべての国に共通した問題であろう。加えて、アスベスト関連がんの多くが離職後または退職後に発症するにも関わらず、多くの開発途上国においては、離・退職後に発症した場合には労災補償が受けられない。このことが、それら諸国のアスベスト関連がんの実情をみえにくいものにしている理由のひとつだろう。 筆者は、今後の研究に資するために、いくつかの国におけるアスベスト被災者に対する労災補償の初歩的な比較を提示したいと考えている。 |