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全体会議セッション5
2004年11月20日(土)
13:30 - 16:00, 井深大記念ホール
全体会議セッション5
アスベスト被害に対する補償
座長:森田明、牛島聡美

保育園児童暴露事件損害賠償請求事件
牛島聡美
弁護士、牛島聡美法律事務所[日本]


 この裁判例は、アスベスト曝露被害者が未発病の段階で、加害者による損害賠償的な和解金支払いが認められた世界的に画期的ケースである。
 1999年7月、文京区の公立保育園の建物の改修工事が行われた。この際、区は養生などの措置を取らずに、吹きつけアスベストを大量に飛散させ、保育中だった児童らに多量のアスベストを曝露させた。
2003年1月、アスベストに環境曝露した未発病の児童とその保護者らが、加害者である文京区と施工会社に謝罪と損害賠償(経済的損害や慰謝料)を請求する訴訟をおこした。
 裁判では、@約20日ほどの作業で、一般の人の生涯リスクと同程度のリスクの上昇があったこと、A故意または重過失と言いうるずさんな態様であったこと(設計図書にアスベストの商品名が記載されていたこと、建物の建設年次から当然アスベストが使われていたことが推定されたこと、保護者等が再三にわたって警告をしたにもかかわらず、養生措置をしない予算しかつけなかったこと)が明らかになった。
 裁判所は、未発病の場合でも、生涯リスクが高まり、将来の健康診断を受ける必要が生じたことは現に生じた損害であることを重視して、原告等の意向を汲む全面的解決のための和解を勧めた。
 2004年4月の和解概要は次のとおりである。@区が原告を含む全児童と全保護者らに対する謝罪をし、A区らによる原告となった児童・保護者等に対する和解金を支払い(総額300万円。そのうちには、児童1人当たり10万円の見舞金も含まれていた。)、B健康対策のための健康診断や、万一発病した際の治療費の支払いについても区が原則として負担する、C公共の建物からのアスベストの除去を早期に進めるとともに、民間の建築物の解体・改修の際に、行政としてアスベストの存否や施行方法についての指導を積極的に行う。
 なお、和解後の現在、原告とならなかった児童・保護者等と文京区との間でも、和解内容を考慮しつつ、全児童に対する見舞金支払いを含む、協定、又は、条例の策定を検討している。
 この裁判が、今後、日本でピークを迎えるアスベスト含有建築物の解体・改築にあたって、養生などの措置に費用をかけることの方が経済的にも社会的信用の面でも見合うという考えを根付かせ、アスベスト飛散を未然に防止することにつながることを望む。