抄録トップページ
全体会議セッション4
2004年11月20日(土)
09:30 - 12:30, 井深大記念ホール
全体会議セッション4
医学的側面:アスベスト関連疾患の診断・治療等
4-B:アスベスト関連疾患の診断及び治療
座長:ブルース・ロビンソン、中野孝司

アスベスト関連疾患のためのヘルシンキ・クライテリア
アンティ・トサバイネン
フィンランド労働衛生研究所(FIOH)産業衛生・毒物学部門[フィンランド]


 アスベスト、石綿肺及びがんに関する国際専門家会議が、1997年1月20〜22日にヘルシンキで開催されたが、その目的は、肺と胸膜の病変について討議し、それらの診断とアスベストの属性に関する最新の基準について合意することであった。参加グループは、会議の報告書を"ヘルシンキ・クライテリア"(Scand J Work Environ Health 1997;23:311-316) と名付けることを決めた。
 アスベスト関連疾患の臨床診断は、患者の詳細な問診とアスベスト曝露に関する職業上のデータ、徴候と症状、放射線医学的及び呼吸機能所見、及び、細胞学的、組織学的、その他実験室での研究に基づくものである。石綿肺は、一般的に、相対的に高い曝露レベルに関連する。
 小陰影(ILO grade 1/0)の放射線による検出は通常、石綿肺の初期段階であると見なされる。
 呼吸機能検査及び呼吸器系症状の評価においては、喫煙の影響を考慮しなくてはならない。石綿肺の組織学的診断には、かなり膨らんだ肺組織中における、びまん性間質性肺繊維症(diffuse interstitial fibrosis)及びアスベスト小体、または被覆されていないアスベスト繊維の存在を確認することが必要である。職場、家庭及び自然環境での低レベル曝露も胸膜肥厚斑(プラーク)を発症する可能性があるが、びまん性胸膜肥厚については、曝露は高レベルであることが必要とみられる。
 中皮腫については、職業上の短期間又は低レベルの曝露履歴で十分であると見なすべきである。
バックグランド範囲を超える肺内アスベスト繊維数、X線所見、又は細胞病理学的証拠も胸膜または腹膜中皮腫とアスベスト暴露を関連づける。喫煙は中皮腫へのリスクに影響を与えない。
 肺がんの全ての主要な組織学的タイプは、アスベストに関連付けることができる。臨床的徴候と症状は、個々の症例がアスベストに起因するかどうか決定する上で、なんら重要な価値を持たない。1年間の高濃度暴露(アスベスト製品の製造、アスベスト吹き付け、断熱工事、古いビルの解体工事)、または、5年から10年の中程度の曝露(建設、造船)によって、肺がんのリスクが2倍、あるいはそれ以上に増大する可能性がある。最初の曝露から最低10年の潜伏期間が必要である。25繊維・年の累積的曝露量は肺がんのリスクを2倍にすると推定されていた。アスベスト肺の存在は重度の曝露の証拠であり、アスベスト肺がある場合には、肺がんに対する何らかのリスクが加わることによって、アスベスト曝露だけによる場合よりも肺がんのリスクを増加させる。肺乾燥重量1グラム中における200万(>5μm)または500万(>1μm)の角閃石繊維(amphibole fibres)の繊維レベルの残存が2倍の肺がんリスクと関係する。このレベルは肺乾燥重量1グラム当たり5000〜1,5000アスベスト小体、または気管支肺胞洗浄液1ミリリットル当たり5〜15のアスベスト小体に匹敵する。喫煙はアスベスト曝露が寄与する肺がんのリスクを減少させるものではない。