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全体会議セッション3
2004年11月19日(金)
17:00 - 19:30, 井深大記念ホール

全体会議セッション3
被災者・家族のエンパワーメント
座長:名取雄司、アニー・デボモニ


8.石綿関連肺癌 −夫を失って−
古川和子
中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会 [日本]

 私は、大阪に住んでいます。夫が死んで3年半が過ぎました。最初にアスベストが病気の原因だと聞いても、その意味をよく理解する事が出来ませんでした。夫は若いころから発電所の中で配管等の溶接を行っていて、アスベストを吸い込み、その数十年後に肺がんで死にました。

 夫の死後遺された私は、この病気になった方達のために労災認定のお手伝いをするようになりました。そして、認定のお手伝いだけではなくてこの苦しみを共有する仲間として、患者や家族の方達と接しています。夫が病気で苦しんだ時に心を救ってくださったのは、医療関係者の方や、周囲の人たちの暖かい励ましでした。そして今度は私が、不幸にしてこの病気になった人たちの手助けをすることが夫への供養であると信じて活動を行っています。

 若いころから真っ黒になって働いてきた労働者達が、人生の円熟期を迎えようとしていたら突然に発病する。仕事をしたがために病気になった。被害者や家族の方達の苦しみは、このような理不尽さから余計に絶望感と怒りが込み上げてくるのです。私の毎日の活動においては、辛い事もあります。最初は電話での相談から始まって、徐々に親しくなり、信頼関係が生まれてきたころに、悲しい別れを経験した事も少なくありません。

 夫もそうでしたが、病気になった方達の多くは「なぜ、こんな病気に」・「アスベストが発ガン物質だと解って、国や会社は我々に使わせたのならば悔しい。許せない」といいます。「体をもとに戻してくれ」と訴えながら亡くなった方もいます。生きるという事は誰でもが平等に与えられた権利です。その権利をむしり取り、平然と利益のみを追求してきた企業と、今でもなおそれを黙認している国は一日も早く被害の実情を認めて、救済の措置を行うべきです。その為にも、私は一人でも多くの方の声を聞き、その苦しみを社会に訴えてゆきます。