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全体会議セッション2
2004年11月19日(金)
13:30 - 16:00, 井深大記念ホール

全体会議セッション2
環境曝露・危機管理・リスクコミュニケーション
座長: マリ・クリスチーヌ、大島寿美子


吹き付けアスベストのある店舗での勤務が原因で発症したと考えられる悪性胸膜中皮腫の1例
名取雄司1、仲尾豊樹2、片岡明彦3、酒井潔4、熊谷信二5、中野孝司6
1 ひらの亀戸ひまわり診療所[日本]
2 東京労働安全衛生センター[日本]
3 関西労働者安全センター[日本]
4 名古屋市衛生研究所[日本]
5 大阪府公衆衛生研究所[日本]
6 兵庫医科大学[日本]


【目的】
 悪性胸膜中皮腫の原因として、アスベストによる職業性曝露、家族曝露、環境曝露等が知られている。私達は今回吹き付けアスベストのある店舗で長年勤務していたことによる発症が考えられる1例を経験したので報告する。
【症例】
 70歳 男性  既往歴:1970年〜糖尿病
【現病歴】
 2001年11月右胸水を認め、2002年6月兵庫医大で胸腔鏡実施。胸水ヒアルロン酸値は596mg/l、免疫染色の結果はcalretinin(+)、AE1/AE3(+)、EMA(+)、CEA(-)、BerEP4(-))で、悪性胸膜中皮腫上皮型T1a.N0と診断された。現在まで化学療法を施行している。胸部X−P及び胸部CTで胸膜肥厚斑や石綿肺所見を認めず、聴診でfine crackleは聴取しなかった。
【アスベスト曝露歴】
 <家族曝露> 5人兄弟の3番目で祖父母・父母・兄弟・子供にアスベスト曝露職歴なし
 <自宅居住地> 大阪市近郊の農家で生誕、大阪府東部4カ所で居住。住居に吹き付けアスベストはなく、近隣にアスベスト工場はない。1982年から現在の自宅は幹線道路から50mであった。
 <職業歴と曝露> 1949〜1950年農業、1950〜1966年製紙用金網製造会社(青銅の線を織機で織る工場)織工。1966〜1969年喫茶店経営。1969年〜2002年私鉄駅高架下文具店店長。職歴で直接のアスベスト作業は認められないが、金網会社では隣の伸線工場の焼鈍炉にアスベストがあり年2回隣の工場で補修作業があった。文具店は1階が店舗で2階が倉庫で、倉庫の壁に吹き付けアスベストが認められた。8時に文具店を開け21時に帰宅するが、1日4〜5回納品を置きに2階に上がり、1日30回1分程度は倉庫の商品を取りに行く。月1〜2回和箒で20〜30分掃除を、年1回2〜3時間倉庫の掃除を、約30年間行ってきた。
【測定結果】
 2階倉庫の吹き付け材には、クロシドライトが25%含まれていた。大気汚染防止法環境庁告示第93号の方法に準じた光学顕微鏡の測定で、文具店2階の静穏時濃度は1.02〜4.2f/L、2階に荷物搬入時の濃度は14.0f/L、2階に荷物搬入と清掃時の濃度は136.5f/Lで、文具店1階は0.34〜1.13f/L、文具店外の大気中の濃度は定量下限値以下であった。文具店と同じ市内の幹線道路に近い自宅濃度も定量下限値以下で、定量下限値は0.15〜0.4f/Lであった。
【考察】
 吹き付けアスベストのある文具店のアスベスト濃度は大気と比し高く、文具店で勤務した事が悪性胸膜中皮腫の発症の主な原因と考えられた。このことは、吹き付けアスベストのある部屋での滞在自体が悪性胸膜中皮腫の原因となる事を示唆している。吹き付けアスベストのある部屋での作業や、部屋自体が管理人室や休憩室等になっている場合もあり、今後、ビル等での吹き付けアスベストの十分な管理が必要である。