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全体会議セッション2
2004年11月19日(金)
13:30 - 16:00, 井深大記念ホール

全体会議セッション2
環境曝露・危機管理・リスクコミュニケーション
座長: マリ・クリスチーヌ、大島寿美子


リスクコミュニケーション―保育園児童曝露事件の事例研究
内山巌雄
京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻[日本]

 日本は吹き付けアスベストの使用はすでに禁止されているが、既存の建物の改修や建て替えの際の環境中への飛散が心配されている。飛散防止ガイドラインが公表されているが、守られない例も多い。1999年7月に東京都の区立S保育園の拡張工事の際に不適切な工事管理のために、園児がアスベストに曝露されるという事態が発生した。
 当初は父母の間で健康被害に関する不安と情報不足のための混乱と怒りが大きかったが、事件発生約40日後にリスク評価及び建築衛生の専門家を仲介者として園児保護者とのコミュニケーションが開始された。その後健康対策等検討委員会が組織され、その委員には保護者から推薦のあった専門家、NPO代表も加わった。アスベストの健康リスクは、工事を再現して曝露量を推計し、最もリスクが高く推定されるモデルを用いた結果、生涯発がんリスクが105(10万人に1人)を越える園児が認められたため、曝露した園児全てを生涯にわたって観察していくべきと結論し、保護者代表を加えた新たな委員会が発足した。検討会は全て公開とし、父母からのヒヤリング、中間報告のパブリックコメントを行うなど、地方自治体としては新しい試みがなされたが、結論を出すまでに時間がかかったこと、父母に対する心理相談のようなサポート体制が十分取れなかったことが反省点である。また園児が成長したときにどのようにこの事態を本人に説明していくかなどの問題点が残っている。