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全体会議セッション1
2004年11月19日(金)
09:50 - 12:30, 井深大記念ホール

全体会議セッション1
アスベストの地球的健康影響:緊急の行動の必要性
座長:小木和孝、ローリー・カザンアレン

中皮腫の地理学:概観
クラウディオ・ビアンチ、トマッソ・ビアンチ
イタリア対がん協会・環境がん研究センター[イタリア]

抄録:

 中皮腫の地理学における根本的問題として、データの不足があげられる。中皮腫の発症率、中皮腫による死亡率についての信頼できるデータは、世界の人口の約15%について得られているに過ぎない。とりわけ、アスベストの主要な生産・消費国の大部分においては、中皮腫の疫学はほとんど知られていない。データが得られる地域においては、中皮腫の発症率に著しいばらつきがみられる。過去数十年間、工業化された様々な諸国では、中皮腫の発症率は着実に増加し、オーストラリア、ベルギー、イギリスで最高の数値に達している。これらの諸国においては、年間の大雑把な発症率は百万人あたり30人である。これとは対極的に、チュニジアやモロッコでは、百万人あたりの発症率はおよそ0.6から0.7人ほどと報告されている。日本は、ここ数年間、中皮腫死亡率の著しい増加を示している。これら全ての国において、腹膜に対し胸膜の中皮腫の割合が高いことが観察されている。発症率は、女性よりも男性において顕著に高く、職種は一つにとどまらず実に多様である。いくつかの業腫(例えば、海運、非アスベスト繊維産業)は、最近になってようやく、中皮腫のリスクがある職種として認知されてきた。国レベルでは、異なる地域間で幅広いばらつきが認められる。以上のような特色は、アスベストの使用における多様性によるものと、おおかた説明できるかもしれない。潜伏期間(アスベストへの初回曝露から中皮腫の診断に至るまでの期間)は、これまでに報告されてきたり、一般に認識されているよりも、かなり長い。大規模な調査において、平均潜伏期間は約50年であった。アスベスト曝露の強度と潜伏期間の長さとの間には、相反する関係が観察されている。将来の中皮腫流行の傾向を予測するうえでは、一般的な潜伏期間は20〜30年よりも長いことが考慮されなければならない。1970年代の世界的なアスベストの大量消費の結果としての中皮腫発生の波は、まだ現われてはいない。