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「パーソナリティ障害」

 パーソナリティ障害は、古い分類でいくと広義の「神経症」に入ります。しかし、いわゆる「神経症」が1つ2つの中心的な問題・症状に辛さがあることに対して、パーソナリティ障害障害ではより問題・症状が広範かつ重篤であるために、症状を1つ2つに限局できないようになります。このため患者の訴えも「この症状が辛いです」というものよりも、むしろ「その人がその人であることそのもの」、「生き方そのもの」が辛いとしか表現できないようになります。一般的に神経症の病名は、その人の辛さの中心に「障害」をつけて病名としている(強迫症状が辛いものは「強迫性障害」、パニック不安が辛いものは「パニック障害」というように)ため、「その人がその人であることそのもの」、つまりその人の「パーソナリティ」が辛さの中心にあるものは「パーソナリティ障害」と呼ばれるようになるわけです。

 パーソナリティ障害とは、つまりは、その人の性格と呼ばれるものや、その人の対人関係のあり方の問題ととらえることもできます。このため、症状や辛さは、その人の人生が続く限り逃れようもなく続くことになり、患者の苦悩は慢性持続性ものになってしまいます。

 ただ、パーソナリティ障害が「生きづらさ」の問題だと言っても、「人は誰しも何らかの生きづらさを幾分かは抱えているものだ」と言う人もいるかもしれません。確かにそんなところはあるでしょう。「生きづらさ」に明確な線を引き、ここまでが正常でここからが異常だということはできないのです。そこで、「生きづらさ」があまりに強いために、日常的な生活や仕事にさえも支障を与えてしまうものを「障害」と呼ぶことにしよう、という発想になってきます。つまり、95%もの人が「正常」に入り、5%が「異常」に入るような恣意的な線を引くことになります。このように定義された、いわゆる「パーソナリティ障害」は、ですから、一般人口の5%程度の有病率ということになっています。そのような有病率になるように線を引いたのだから当たり前ではあります。

 パーソナリティ障害は要するに性格の問題ですから、100人いれば100通りの問題があります。ただ、それでは治療対象にすることもできないので、便宜上、似たような特徴の問題を持つものを「○○パーソナリティ障害」というように分類し治療対象にしていくことになっています。

 米国精神医学会の分類では、パーソナリティ障害を大きく3群に分けています。

●A群パーソナリティ障害=しばしば「変わり者」と呼ばれます。統合失調症の病前性格や家族などの遺伝的につながりのある人たちに多い性格の問題と考えられ、統合失調症との関連が考えているものです。ここには、対人関係を怖がりひきこもりがちになる「スキゾイド(統合失調質)パーソナリティ」、若干奇妙な物事の考え方やとらえ方をする「統合失調型パーソナリティ」、そして対人関係において若干妄想的・被害的で猜疑心の強いとらえ方をする「妄想性パーソナリティ」が入ってきます。

●B群パーソナリティ障害=しばしば「激しい人たち」「困った人たち」と呼ばれます。感情や対人関係が不安定になりがちであり、そのためしばしば周囲から心配されたり、ひどい時にはトラブルメーカー扱いをされていることがあるからです。感情や対人関係が不安定になりがちになるのは、対人関係の理解の仕方に主観が入り込みすぎるために現実的な認識が弱くなり、「思いこみ」的な情緒反応や行動パターンが多くなってしまうからです。ここには、情緒不安定や自傷行為・衝動行為が目立つ「境界性(情緒不安定性)パーソナリティ」、自尊心が傷つきやすく他者から常に尊敬や注目を受けていないと不安定になってしまう「自己愛性パーソナリティ」や「演技性パーソナリティ」、そして対人関係での共感性が極端に乏しく非社会的な行動パターンを繰り返してしまう「反社会性(非社会性)パーソナリティ」が入ってきます。

●C群パーソナリティ障害=しばしば「神経症的性格」、「神経質」、「困っている人たち」と呼ばれます。この中には、対人関係で傷つけられることを過度に怖がり、本当は人と関わりを持ちたいのに避けてしまう(社交不安障害とダブりますが)「回避性パーソナリティ」、極度に自信がなくほとんどすべての行動や決定を他人に依存してしまう「依存性パーソナリティ」、過度な完璧主義で柔軟性に乏しく堅すぎる「強迫性パーソナリティ」などが含まれてきます。

 ただ、繰り返しになりますが、パーソナリティは100人いれば100通りです。 ここにあげられている分類は、あくまで表面的なわかりやすい特徴からとりあえず分類しているだけのものであり、分類名にとらわれることはあまり好ましいものでもないでしょう。

 パーソナリティ障害は、いわば性格の問題であり、場合によっては「物心ついた頃から」の慢性的・持続的な問題であるため、多くの患者さんは「性格の問題だから治らない」と考えてしまっていますし、時々専門家の中にもそんなことを言う人さえいます。しかし、「その人がその人であることそのもの」の問題が生きていくのさえ苦痛になるくらいの苦悩のもととなっている場合、それはやはり治療の対象とすべきものでしょうし、実際に精神力動的精神療法などいくつかの長期にわたる精神療法(心理療法)によって効果が得られる可能性が示唆されています。

 パーソナリティ障害には非常にしばしばうつ病などの気分障害、アルコール依存症や摂食障害などの嗜癖関連障害、ストレス関連障害などが合併します。これらの合併した精神科的疾患に対しては対症療法的に薬物療法が行われることがあります。薬物療法はパーソナリティ障害という性格的な背景を治すものではなく、むしろ合併している諸症状を軽減するための副次的なものであるとみなすべきでしょう。