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2011-02-03
「鬼はー外!」
「うわー」
「鬼はー外!」
「…ちょっと」
「えーい、鬼はー外!」
「ちょっと待てや! え、なに、それ本気?」
「何が?」
「二月だぞ。明日は立春とか言ってるけどいいえ無理です冬です絶対に冬です」
「うん」
「しかも何の因果か、俺めっちゃ薄着だぞ。薄着というか半裸だよ。間違いなく職質もされるだろうこの格好で外に出ろっておまえ何? 友だちをいじめてはいけませんって学校で言われなかったか?」
「友だちじゃないもん」
「あー。言うね。言うね。よーしそれならバラしてやる。いいかよく考えてみろ。その鬼は外ってやつ、去年もやっただろ」
「うん」
「去年外に出たはずの俺は、今年またこうして中にいるわけだよ」
「うん」
「ということはこっそり帰ってきてるんですぅー。去年の場合はおまえが寝るまで二時間ほど物置で漫画読んで、あっさり帰ってきたんですぅー」
「う、嘘」
「嘘じゃない。ドラえもんの六巻でめっちゃ泣いたわ。おまえの親父も『お疲れさまでしたー』って酒持ってきてな、まあその日本酒がうっかり『鬼ころし』だったもんで軽く喧嘩になったんだけどな」
「じゃ、じゃあ豆まきの意味ないじゃん」
「誰か意味あるって言ったかよ。ここだけの話だが、豆ぶつけられて逃げる経路も決まってんだよ。メールで手順決めとくのが大人ってもんだ」
「そんなー」
「だから俺は実際、ずーっとこの家にいるわけ。それを友だちと呼ぶのが嫌なら叔父さんでも何でもいいが、とりあえずこの寒い夜に外に出…うわ、やべっ!」
「え?」
「おまえの親父帰ってきた! おおおおい、おまえ、ほら豆まけ!」
「だって意味ないって」
「おまえにはないけど俺には契約条項的な意味があるわ! ほら早く! そっちの部屋からぐるっと回るから追いかけろ! 最後はここから出るからな! 早く!」
「お、鬼は…外…」
「元気よーく!」
「お、おに…グスッ」
「泣くなーっ!」
2011-01-19
「では次の質問ですが、TPPについて、日本はどうあるべきだと思いますか」
「難しい問題だと思います。我々消費者にとっても切実な事柄です」
「なるほど、そうかもしれません」
「さしあたっては、その数が悩みの種となります」
「数? ええとそれは、輸出入品目の数という意味でしょうか?」
「ええまあ輸入でも何でも構いませんが、例えば数を増やすことで質が落ちてはいけません」
「はあ」
「善かれ悪しかれ、影響を一番受けるのは消費者です。であればまず消費者の意見を尊重すべきでしょう」
「ええまあ。ではTPPの問題で、あなたが一番重視するのはどんな点ですか」
「柔らかさ、でしょうかね」
「はい?」
「たとえ安くなったとしても、柔らかさだけは維持しないと」
「ん、え、それは何だろう、ええと、多国間での柔軟な姿勢みたいなことですか?」
「いえ、肌触りとして」
「え?」
「え?」
「…失礼ですが、TPPが何であるかはもちろんご存知…」
「トイレットペーパーですよね」
「帰っていいです」
2011-01-06
 新年早々、携帯電話の調子がおかしい。誰かとしゃべりながら片手間で携帯をいじってデータを探したりしていると時々、押してもいないボタンが反応して円滑な操作の邪魔をする。とはいえ、おいまだ一年経ってないのに壊れたか、と会話をやめて携帯の操作に集中すると誤作動はピタッと収まるのだから、単純な故障とも考えにくい。
 となるとあれだよ、「あたしと会話とどっちが大の字なの」みたいなことで、どっちも大の字ではないと思うが、ともあれそういう厄介なことになってるわけだよ。「もっと丸ごとあたしを受け止めてほしかった」みたいな三行半だよ。「あの時だってそうよ」といきなり二年前の夏の日に遡られるわけだよ。おまえ卵を買ってくるのは忘れるくせに二年前のことは覚えてんのかっていうやつだよ。なんか俺やだなこの携帯。

…と思っていたのだが、私は今日一つの真実に気付いた。携帯電話のタッチパネルが、どうやら私の息に反応しているらしい。しかも「フーッ」という強い息ではなくどちらかというと「フフン」といった軽い吹きかけに反応、さらには「ハァー」という熱い吐息になるにつれどんどん反応が鋭くなるといった具合で、うん、やっぱりなんか俺やだなこの携帯。

 ただこれが機種変更から約一年経っての新しい発見であることは確かで、その特性を活かせば何か新しいことができるのも間違いない。例えばあらかじめ作っておいたメモ帳をショートカット登録しておき、熱い息を吹きかけるとどうか。

「ううー、朝か。フゥー」
「おはよう。今日もがんばって!(メモ帳:1)」
「俺なんてダメだよな。ハァー」
「そんなことない。あなたにはあなたの良さがあるの!(メモ帳:4)」
「今日は冷えるなあ。手先が凍りそうだよ。ハァーッ」
「きっとあなたが私の、ヒートシンク…(メモ帳:8)」

 ということで果てしなく気持ち悪いので、私は早くも機種変更を考えているのである。

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