ポリモーダル文章

 インターネットをのたくっていると、特に欲してはいないにせよ思わぬ情報に当たる場合があるもので、そしてその日いきなり突き付けられた言葉は「ビリーズブートキャンプ」というものだった。
 ビリーズブートキャンプ。そこではその言葉だけで具体的な内容は得られなかったものの、七日間実践して云々ということだけは書いてあった。どうやら実践するものらしい。
 ビリーズと言われるとどうしてもメリーズを思い出して、何だみんなでオムツ替えるキャンプかこのやろうと意味もなく腹立たしくなってみたり、あるいはIntelMac上でWindowsXPが動くというアップルコンピュータの技術も確かブートキャンプとか言ったぞと今度はジョブズとオムツに思いを馳せてみたり、そもそもブートキャンプって新人兵士の訓練施設じゃなかったか、ということは兵士集めてオムツ替えかこのやろうとやっぱり腹立たしくなってみたりと、一人で大変忙しかったが、よく調べてみればただのエクササイズプログラムであるようだ。オムツは関係ないらしいよ。

 さてここで一つ思うのが、ビリーズブートキャンプは名前がビリーズブートキャンプだったから良かった、ということである。ビリーズブートキャンプでエクササイズ。一瞬何だかよくわからないが、しかしわからないからこそ一抹の怪しさと共にある種の「効果」を訴えてくるのではないか。例えばどうだろう、これをわかりやすくしようと下手に努力してしまったら。
「ビリーの☆お気楽運動七日間♪みきゃっ」
 ぶっとばすぞ。最後の「みきゃっ」って何だコラちょっと来い。
 人口に膾炙していない上に適切な訳語がある外来のものをカタカナで使い続けるというのは、政治屋を見ていればわかるように度を過ぎれば滑稽ではある、しかしこと商品の場合、和訳することで最初のインパクトを失ってしまっては元も子もない。「わからないけど何かすごそう」というものは確かにあるのだ。

 そしてそれは何も海外のものばかりではない。ある日うちに放り込まれたメールにも、その雰囲気は見て取れた。迂闊にも曰く「超音波掃除機」だそうで、もう率直に言ってナンノコッチャと思うしかないが、とはいえ超音波を前面に押し出してくるほどであるから、ただの掃除機ではなかろう。インパクトという点では大成功だ。字面を眺めるにつれ、掃除機において超音波をいかにして使うのかという好奇心がだんだん抑えられなくなるから不思議である。たぶん原理を説明されたとて理解はできないだろう、だがわからないからこそ「何かすごい」と思えるのだ。超音波だよ。超音波だぜすっげーよ。お、おまえ、おまえさ、超音波なんか使っちゃってさ、コウモリとか寄ってこないのかよすっげーよ。未来だよフューチャー!
 とまあ、実際にウェブサイトに行ってみれば果たして、そこにはメガネなどを洗浄する「超音波洗浄器」しか売っておらず、それを掃除機と表記してメールをよこした人間に対して私はいま「右足が左足になれ」と密かに呪いをかけているわけだが、しかしこれはどこかで使える手だとも感じた。つまり「すごそうな表記」である。

 例えば季節柄、傘のことを考えてみよう。
 傘はいつまで経っても進化を見せないというのが周知の事実であり、裏を返せばいつでも一様に売れるので進化の必要がないということなのかもしれないが、しかしそこにあぐらをかくばかりでは、いつ雨ガッパの後塵を拝することになってしまうかわからない。ひとつここでインパクトを与えてドバッと売ってみてはどうか。
「タキオン傘」
 こんな宣伝文句を打たれて、手に取らない者などいるのだろうか。実態はわからない、仕組みもわからない。しかしわからずながらも臥しておののけ、ここにおわすは超光速との銘を持つあのタキオンである。それを冠する傘だというのだから、まともな神経ならばまず買わずにはいられまい。すっげーよ。タキオンだよ。
 ただ一つの問題は、どこがどうタキオンかと問われた場合だが、なにそれも心配ない。単にそういう名前の傘なのだと主張すればいい。返品はご遠慮いただいております。

 それから忘れてはいけないのが、ダイエットに関する市場だろう。この分野は何をやってもまず外れることはないと思えるものの、とはいえこれだけ数が多いと、ともすれば類似の中に埋没しかねない。大切なのはやっぱり最初のインパクトである。
「電子ダイエット」
とこうしたらどうか。だいたい文系の人間は原子、電子、素粒子、中性子といった「子」にだまされやすい。時として優子や恵子にだまされる奴もいるがそれはそれとして、「〜子」は一見難しそうでよくわからないゆえに、何だかすごいぞとテンションが上がりやすいと思う。なんとなれば私がそうだからだ。中身はといえばそりゃ、電子(でんこ)さん四〇歳がゼイゼイとフラフープをやってるDVDしかないだろう。返品はご遠慮いただいております。捨てるのはご自由に。

 また、こうなると食品部門にも手を広げたくなるが、しかしここには一つの陥穽というべきものがある。
「ニュートリノまんじゅう」
「ゼロ磁場せんべい」
「ロズウェルおかき」
 探せばすでにどこかにありそうだから困るのだった。それならまだ「輪廻転生コロッケ」などの方がいい。新しい賞味期限を与えられ、ええと、知らない聞こえない何も言ってない。

 他にも「高床式目覚まし」「ワープ靴下」「シナプス耳かき」「高分子ゲル携帯」など、応用はいくらでも利く。「超伝導年金」に至っては「浮いてるからね。浮いてるからね」と二回言えば納得してもらえるようになっている。
 そういったわけで、特長がないと言っては失礼だが、今さらこれといって喧伝できるでもないものの場合、まずはインパクトを与えるためのいわばハッタリが必要とされてくるのではないか。こんな大層な名前を付けちゃって大丈夫だろうかと憚られるものではあるかもしれないが、それを今ここで乗り越えてこそ前途に光明が見えてくるのではなかろうかと、モホロビチッチ不連続面ウェブサイトを運営するスーパーノヴァ管理人である私は、そう思うわけなのだよ。

20070627