干渉文

 このたびは「宿題ヘルプシリーズ夏休み特別パック3:ゴミに出して読みたい読書感想文講座」を落札いただきありがとうございます。これを落札いただきましたということは失礼ながら、宿題の読書感想文が思うように捗っていらっしゃらないとお見受けいたします。ですがどうぞご安心ください、今ここにこうして、その筋では日本一とも言われる人間に読書感想文講座を作成させました。価格を抑えるためこうしてデジタルデータなのが恐縮ではありますが、これさえお読みになれば読書感想文など必ず二時間後には完成していることでしょう。余裕をもって夏休みの最終盤を満喫できますよう、最大限このデータをお役立てくださいませ。
1、構想
 本文を読む前に巻末の解説なり書評なりを読んでおく。だいたいどのへんがポイントなのかはそこを読めばわかるようになっている。もしわからなければそれはその解説がろくなものじゃないということなので、すぐさま窓を開け内側にえぐりこむようにその本をぶん投げるべし。角度、体調、天候に風向きと様々な条件下での飛距離データを取りながら二〇回ほどぶん投げているといつの間にか自由研究にもなるので大儲け。

2、書き出し
「僕は夏休み中に〜を読みました」という書き出しが許される年齢は限られている。国語教師とてくそ暑い中、四〇人なら四〇人分の原稿用紙を繰らねばならずだいたい斜め読みになっているはずだ。書き出しで目を引いておかねば最後、教師の机に山と積まれた書類の一部となりついでにコーヒーをこぼされたりする。それでイライラしたのか「チョーク折ったの誰だ!」とかどうでもいいことでゴロ巻くんだからやってらんないよ。
 ということでここはひとつ、解説で得たいくつかのポイントの中で一番書きやすそうなところをいきなり引用して始める。例えば「こうなれば、もう誰も哂うものはないのにちがいない」とやる。以下「これは禅智内供の…」とその文章の前後を簡単に説明し、なぜその部分が心に残ったのかをもっともらしく説明する。
 最後に「…という心情が自分には見て取れる」と段落を締めておくと、実際の作者の意向はどうであれ、説得力だけはある。見るところ教師というのは、たとえそれが大人から見て不正解だとはしても、「子供の視点」というものにけっこう弱い。あとは保健室にいる若い女の先生とかにも弱いがそれは今関係ない。

3、中心部
 本文の全体を絡めながら書くのもいいが、どうしても破綻しやすい上に浅い。あっちこっちに飛んでいくよりはどうせなら一点だけを思いきり掘り下げる。しつこいぐらいに書く。とはいえ他人の一行から書けることなどタカが知れている。そういう時には本文の当該箇所を引用したのち「僕にも同じような経験がある」等、嘘八百とでっち上げをしれーっと書き始める。その嘘八百に「この部分を読んだ時、僕は何かに撃たれたような衝撃を覚えた」「作者と僕の中に、何か共通したものを感じた」などというオプションを組み込めれば最高だ。嘘八百・でっち上げの書き方がわからなければ世の雑文サイトと呼ばれるところを参照のこと。

4、締め
 書き出しと同様、「また読みたいです」という締めが許される年齢は限られる。最近はゆとり教育とやらの失敗を埋めるために夏休みを早めに切り上げて授業を増やす学校が多くなっているらしく、たぶんそれで迷惑しているのは子供たちよりもむしろ教師の方だ。「また読みたきゃ勝手に読めーっ」と八つ当たりされるのだけは避けたい。それでもイライラが収まらないのか「給食当番、先生の牛乳は!」とかどうでもいいことで絡むんだからやってらんないよ。取ってこいよ自分で。
 ということで、セオリーとしては読後に感じた意志や希望を書いて終わるということになろう。と言っても「ヒロインのヨーコを嫁に迎えたい」なんていう希望はダメだ。ぶち壊しだ。「とにかく嫁が欲しい」というのもおかしい。読書が関係なくなってきている。「当方、農家。コシヒカリ旨いから是非」誰が自己紹介しろと言ったんだコノヤロウ。
 やはりここは、この作品がいかに自分のこれからの生き方や考え方に影響を与え得るか、具体的にどうしていきたいかというのを多少オーバーに書くべきだろう。「…というたった一行が、僕の蒙を啓いてくれたような気がする。この作品を読むことで与えられた今のこの気持ちを、いつまでも忘れないようにしたい」とでもやっておけばまあ気持ち悪いが無難ではあるというところだ。
 それからあと一つ、前述の「また読みたいです」。これはそのまま使うのではなくちょっと方向を変えてやれば、実はあっという間に化ける言葉でもあるのだ。
「…と読める。しかし主人公の思惑は本当にそうであったのだろうか。また主人公の心理描写に隠しながらではあるものの、僕には作者の『人間に対する根本的な猜疑心』が見え隠れしているように思えてならない。人間の優しさと醜さ、そしてその境界線とは。この作品はそういうものを命題として自分の目の前に突き付けてくれたような気がする。今はまだわからない、しかしこれから大人になるにつれてその命題が少しでも解明しつつある時、この作品はまた違った一面を見せてくれるのだろうか。そうあることを楽しみに、また数年後ぜひ読み返してみたいと思う」
 子供にどれだけ深刻な本を読ませてるんだということは置いとくとして、まあとにかくこういう感じにはなる。ここはわざと堅めの文章に仕上げておくと、さも深く考えて書いているように錯覚させやすくなる。ただし自分でもあやふやな漢語的表現をやりすぎてしまうと、馬鹿の書く架空請求のメール文みたいになるのでそこは注意。あと堅めの文章を書いていると意図しないままついつい「いたしたく候」「拙者」「介錯無用」などが入り込んでくるが、どう考えても時制が合っておらず、加えてつられた教師がチョンマゲで登場するかもしれないので控えるべきである。嫌だよ長裃で入ってくる教師。それからいないとは思うが「駄洒落で落とさなきゃ!」と焦って余計なことをしてしまうような者はすでに重症なので冷えピタでも貼って震えて眠れ。

 以上、では健闘を祈る。
 いかがでしたでしょうか。さあ早速書き始めてはみませんか。これを読破したあなたにもう恐れるものなど何もありません。次回からは読書感想文なにするものぞと鼻で笑うことになるでしょう。なお弊社では他の特別パックとして「数学のプリント合法的焼却講座」「クラスの秀才とドリルこっそり取り替え講座」「自由研究はやらないのも自由だと言い張る屁理屈講座」などを取り扱ってございます。よろしければご検討くださいませ。それでは残り少ない夏休み、どうぞ楽しくお過ごしください。

20060823