それは舞い散る桜のように BasiL / 2002年
 恋の魔法、なんてよく言うけどさ、あれって実に言いえて妙なのね。
 その人のちょっとした仕草を、ある日気が付いたらいいなって思ってる。
 一般にそれを恋って呼ぶわけだけど、それって結局のところただの勘違いよね。
 だからいつかその思い違いに気が付くわけ。
 そしたら――。

 はい、恋の魔法はおしまい。



 引用したのは、八重樫つばさの台詞。
 これが全てを示唆していたのだなぁと気付いたのは、エンディングを見終わった後だった。

 システム周りは問題なし。まあ、古臭いけど、当時はあれでも最先端。
 原画も問題なし。と言うか、興味無し。ボイスは割とはまってて良かったんじゃないかと。
 音楽は素晴らしい。主題歌もエンディングも実に良かった。ムービーも良いですね。
 テキストも上手い。重厚な名文ではないのだけれど、軽やかで面白い。
 シナリオは最後の放り投げが気にはなるけど、そこを除けば大絶賛ですよ。まあ、続編出なかったから、思い出のフィルターを通して評価されてるんだろうけど。


・星崎希望
 希望と書いて“のぞみ”と読むとはこれ如何に。
 まあ、判り易い学園のプリンセスですなー。王道中の王道。そこ以外に評価点はないのだけれど。
 そりゃ、セレクトの中に1つは欲しい要素だけれど、他のキャラ程の強みが無いのにメインに据えられてもなぁ。
 過去の因縁も後付で唐突に出てきた印象。伏線見落としたかな。

・八重樫つばさ
 桜井舞人と並ぶ恋愛否定組。
 桜井舞人は記憶を失った過去の経験から、八重樫つばさは両親の離婚が原因でと、それぞれきっかけは違うけれど、似た者同士だよねぇ。
 意地を張って認めなかった恋愛感情を認めた瞬間の盛り上がりと、その後の落差が実に見事。見事過ぎて痛いよ、これ。
 達観してきた人間が恋愛するとこうなるんだなぁ。
 個人的には一番きたルート。

・雪村小町
 えーっと、ストーカー?
 積み重なった想いと、その重さに心打たれる。その分、ラストの衝撃は大きい。前知識無しで、初回攻略でこのルートに入ると痛い目見るんだろうな、きっと。
 俺にもこんな幼馴染がいればなぁと思いつつも、俺の幼馴染はすぐ殴る人だったんだよな。今でも仲良いけど。
「どんなに綺麗な雪の結晶だって、核になってるのはごみとか塵なんですから」とは、真理。

・里見こだま
 顔と身長は子供、体は大人。
 イマイチ感情移入出来ないと言うか、シナリオがあっさりし過ぎていて落差が小さい。
 星崎希望なんかは好き嫌いは兎も角として、シナリオを丁寧に作り込んであり、ブリッジ部分とラストの落差が非常に激しい(だからこそ心にも残るんだが)。
 が、里見こだまの場合はその辺りがさっぱりし過ぎていて感情移入が難しい。強いて言えば、ドクターイエローの格好良さが引き立つルート。
 オーラスの「思いません? ご都合主義のエピローグがあったっていいじゃないですか」にはちょっとだけ感銘を受けました。アンチご都合主義だけどね、俺は。

・森青葉
 純真無垢、天然ロリっ娘。
 纏わり付いてた仔犬がいなくなった時の寂しさはあるけれど、だからどうした? って感じ。はっきり言えば、ロリ2人は評価の対象外。
 しかし、私服とリボンはどこからどう見てもバーバリーチェックだよね。本当にあ(略)。


 総括を。
 ラストで主人公は、理不尽に恋人を無くしてしまう訳だけれど(そしてエピローグでご都合主義的に戻ってくるのだけど)、作中でその説明はない。まあ、桜井舞人は朝陽や桜香と同じ存在で人間ではない為だとは想像出来るけど(完全版では人外のものだからと説明される。恋人が戻ってくる理由は説明されないけど)。
 理不尽な理由はさて置いて、恋人同士が別れる時なんてこんなもんだよなぁと思いつつも、非常に胸が痛くなる。
 謎自体を小出しにして別れの予感を煽りながら、最後に落すと言う演出も上手い。と言うか、エピローグがなかったら欝ゲになってしまいそうだ(狙ってやってるんだろうけどさ)。
 でもなー、桜井舞人や桜っ子の正体は置いておいても、恋愛って実際そんなもんじゃん? 熱病のように始まって、ピークでは幸せを感じながらもどこかに不安を覚える。別れの予兆から目を逸らしていても、いつかはその日が来る。そういう意味では実にリアルなシナリオだった。だからこそ終った後に胸が痛くなる。
 本当に良く出来ていたよ。きちんと続編が出来ていれば更に評価が上がっただろうになぁ。


● おまけ
 それは舞い散る桜のように 完全版 / 2008年 ★☆☆☆☆
 既存部分は相変わらず素晴らしい。まあ、当然だけど。
 が、追加CGは違和感バリバリだし、追加部分は蛇足だし、テキストも上手くないし、ギャグは寒いし、なんだかなぁ。
 酷評するほど酷くはないけど、褒めることは到底出来ない。行間を読ませれば良い物を、わざわざ表記してしまうと野暮になるとは思わなかったのかなぁ。
 まあ、『それは舞い散る桜のように』に深い深ーい思い入れのある方々にとっては到底許容出来ないものだとは思います。
 俺は「それ散るを汚した!」とまでは言わないけど、『完全版』の看板には間違い無く偽りがあるね。
 星数は既存部分の5つに追加部分のマイナス4つを足して1つ。異論は認めない。

 以下は追加ヒロイン。

・結城ひかり
 シナリオはさておいて、テキストの下手さにはストレスが溜まる。
 シナリオだってそれ散るで入れる意味があったかどうか、怪しいもんだ。

・芹沢かぐら
 森青葉ルートでの彼女は実に美しかったんだけどな。積み重なった想いと、その重さに心を打たれ、叶わない想いに涙するって雪村小町ifルートじゃないか、これじゃ
 テキストの下手さにストレスを感じつつ、シナリオの無意味さにってこれも結城ひかりと同じだな。
 土台彼女の魅力は“叶わない恋”にあったわけで、いくら人気があってもヒロインに昇格させちゃダメでしょ。属性が小町とかぶる上に、小町に比べて浅過ぎる。

 総括。
 追加ヒロインがイレギュラーであるとは桜っ子達から説明のあった通りだが、そこに隠されている当てこすりにはカチンと来た。ついでに朝陽と桜香の会話にも怖気が立った。
「彼女は違います」じゃないよ。はっきり言えよ。「お金が欲しかったから2人追加しました」ってな。
 こんなものに誰がアンコールをするものか。オナニーは、確かに本気でやればAVにもなるが、本気じゃないオナニーは醜いだけだ。
 はっきり言おうか。BasiLには失望したよ。このスタッフが制作を続ける限り、新作は買わない。そんな価値はない。