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対策情報 アスベスト対策情報

●アスベスト対策情報 No.34


(2005年6月1日発行)



石綿対策全国連絡会議

石綿対策全国連絡会議第18回総会議案


2005年4月13日
東京・全建総連会館会議室




T 2003年度活動報告



1. 第17回総会


 2004年2月7日、東京・日本キリスト教会館会議室において、第17回総会を開催しました。
 本総会では、私たちの長年にわたる努力が実って、アスベストの原則使用禁止を導入する労働安全衛生法の改正が行われ、2004年10月1日から施行されることになったことの意義を確認しながら、この新たな局面を踏まえた私たちの課題を、あらためて下記のとおり確認しました。
 @アスベスト「原則禁止」の履行監視と早期全面禁止の実現
 A今後本格的な「流行」の時期を迎えることが確実な健康被害対策の確立
 B既存アスベストの把握・管理・除去・廃棄を通じた対策の確立
 C海外移転の阻止および地球規模でのアスベスト禁止の実現
 また、日本での開催が呼びかけられた、2000年9月のブラジル・オザスコに次ぐ「世界アスベスト会議」について、前年2月の第16回総会での提起を受けて開催の方針が固まり、より広範な人々の手で実現していくために「2004年世界アスベスト東京会議(GAC2004)組織委員会」がつくられ、2004年11月19-21日の開催に向けて準備が進められていることが報告されるとともに、石綿対策全国連としてもこの成功のために最大限の努力をしていくことを確認しました。

2.「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」の設立

 第17回総会後、同じ会場において、「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」の結成総会および結成祝賀の懇親会が開催されました。
 石綿対策全国連では、2002年4月17日の「わが国における悪性胸膜中皮腫死亡数の将来予測」緊急報告集会におふたりのご遺族をお招きして体験を話していただき、同年5月20日に行われた厚生労働省交渉に、全国のアスベスト被災者とその家族の方々にご参加いただき、直接当事者の声をぶつける機会を設けました(当時の坂口厚生労働大臣による原則禁止導入の方針が表明されたのは、その1か月後のことでした)。さらに、2003年2月8日の石綿対策全国連第17回総会に合わせて、初めての全国的な「アスベスト被災者・家族の集い」を呼びかけ、前夜からの食事・宿泊をともにしての交流の機会をつくりました。
 こうした機会を通じて顔と共通の体験を知り合った当事者同士のコミュニケーションが進展するなかで、今回の「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」結成に至ったものです。
 GAC2004前後のマスコミ報道の効果もあって、関係団体に寄せられる相談も激増しています。そうしたなかでまた、新たな患者と家族の出会いがあり、支援を受けた者が新たな方々の支援をしながら、ともに励まし合い、支え合う体制が徐々にではありますがひろがっています。ウエブサイト(http://www.chuuhishu-family.net)もご覧になってください。
 石綿対策全国連は、患者と家族の会に協力・応援しています。

3.GAC2004プレ・イベントの開催

 今期、石綿対策全国連は、GAC2004を全力で支えたと言えるわけですが、まず2004年4月17日にプレ・イベント第1弾として、東京・渋谷勤労福祉会館会議室において「アスベスト問題を考える国際シンポジウム」を、80名の参加で開催しました。
 GAC2004国際委員の中心でもあるおふたり―ローリー・カザンアレンさん(イギリス: アスベスト禁止国際書記局(IBAS)コーディネーターとバリー・キャッスルマン博士(アメリカ:環境コンサルタント、『アスベスト: 医学的・法的側面』の著者)をお招きし、乗り継ぎの飛行機トラブルのためバリーさんがシンポジウムに間に合わないというハプニングがありましたが、その分、ローリーさんが二人分の活躍。バリーさんも懇親会には間に合い、日本側主催者・関係者と顔合わせができ、その後の国際的な連絡調整を円滑にするという役割も果たしました。
両名はその後二手に分かれて、名古屋、大阪、松山、鹿児島、横須賀の地方セミナーに参加。世界会議の宣伝、募金集めの機会ともなって、東京まかせではなく全国的に世界会議をつくっていく気運をつくり出し、同時に、マスコミ報道等を通じて各地におけるアスベスト問題への注意喚起、被災者・家族の結集の促進、取り組みの前進の契機ともなりました。

4.連続シンポジウム「これからが本番 アスベスト対策」の開催および「ノンアスベスト社会の到来―暮らしのなかのキラーダストをなくすために」の出版

 さらにプレイベント第2弾として、7〜9月にかけて、下記のように4回にわたる「これからが本番 アスベスト対策」連続シンポジウムを開催しました(中皮腫・じん肺・アスベストセンターと共同主催、GAC2004組織委員会・共催)。相対的にこれまで検討が不十分だった課題を取り上げて、今後の取り組みに資するとともに、世界会議の成功に向けた盛り上げを図ったものでした。シンポジウムの内容は、アスベストセンターのウエブサイトで紹介していますので、ぜひご覧ください(http://www.asbestos-center.jp/symposium/)。

第1回(7月19日、豊島区勤労福祉会館)
 「公共建築物の吹き付けアスベストの問題点―子供達の安全は守られているか?」
 永倉冬史氏 (中皮腫・じん肺・アスベストセンター事務局長)「公共建築物と吹き付けアスベストの問題点」
 牛島聡美氏(弁護士)「事件の概要と現在までの経過」
 文京区の保育園の保護者「発症前の損害が認められた意義について」
 池尻成二氏(練馬区議会議員)「岩綿(ロックウール)吹き付け等のチェックは十分か?」
 西田隆重氏((社)神奈川労災職業病センター)「神奈川の取り組み」
 繁野芳子氏(名古屋労災職業病研究会)「名古屋の取り組み」

第2回(8月9日、全建総連会議室)
「石綿(アスベスト)含有建築材料―安全なリフォームを求めて―」
基調報告: 名取雄司(中皮腫・じん肺・アスベストセンター代表)
 大越慶二氏(環境コンサルタント)「アスベスト含有建材・その1 大規模物件での改築と解体時の対策」
高木史雄氏(全建総連東京都連安全対策委員)「アスベスト含有建材・その2 中小規模物件での使用と対策の実情」
外山尚紀氏(東京労働安全衛生センター)「どのような対策が有効か?」
古谷杉郎氏(石綿対策全国連事務局長)「今後予定されるアスベスト建材対策」

第3回(8月22日、早稲田大学国際会議場)
「地震とアスベスト―阪神大震災から10年。今後のアスベスト対策は十分か?―」
 基調報告: 寺園淳氏(独立行政法人 国立環境研究所 社会環境システム研究領域 資源管理研究室)
 牧哲史氏(国土交通省 総合政策局 建設業課 建設業技術企画官)「建造物のどこに石綿は使われているのか?」
 大越慶二氏(環境コンサルタント)「アスベストとの関わりは」
 中地重晴氏(環境監視研究所)「阪神淡路大震災当時の状況」

第4回(9月18日、石綿対策全国連事務所会議室)
 「廃棄物とアスベスト―どこが問題か?」
 大越慶二氏(環境コンサルタント)「アスベスト含有建材の処理、廃石綿とは、溶融処理の実情」
 中地重晴氏(環境監視研究所)「アスベストとPRTR、阪神淡路大震災時のアスベスト廃棄物」
 西田隆重氏((社)神奈川労災職業病センター)「ミッドウェイとアスベスト廃棄物」

 また、世界会議に間に合わせて、『ノンアスベスト社会の到来へ―暮らしの中のキラーダストをなくすために』(アスベストセンターとの共同編集、かもがわ出版・発行、1,200円+税)を発行しました。準備不足の面があったのは否めませんが、GAC2004前後を通じて関心をもった方々から好評を受けています。

5.2004年世界アスベスト東京会議(GAC2004)への協力・参加

 「2004年世界アスベスト東京会議(GAC2004: Global Asbestos Congress 2004 in Tokyo)」は、「Together for the future」をメインテーマに掲げて、2004年11月19日から21日の3日間、早稲田大学国際会議場で開催されました。もちろん石綿対策全国連とその関係団体・個人は、GAC2004本番に熱心に参加するとともに、その舞台裏を支える一翼も担いました。
 GAC2004は幸い、世界の40近くの国と地域からの120名の海外代表を含めて、800名が参加する一大イベントとなりました。アスベスト被災者とその家族、労働者、市民、医療従事者、弁護士、様々な分野の専門家・研究者、行政関係者、学生等々、実に多彩な顔ぶれです。
講演(全体会議のセッションが7、ワークショップが8)とポスターを合わせた発表数が150。アスベストに関わるほとんど全ての側面を包括的に取り上げ、なおかつ、現状と課題、最新の治験、および解決へのサジェッションが提供されました。
 さらに発表だけではなく、写真展「静かな時限爆弾=アスベスト: 被災者からのメッセージ」、ビジュアル・メッセージ展、展示ブース、初日のウエルカム・パーティと二日目の懇親会といったソーシャル・イベント、揃いの白のスタッフ・ジャンパーを着た総勢130名にのぼったボランティア等による運営・各種サービスの提供等々、実に盛り沢山な内容がGAC2004の内実を構成していました。
 GAC2004は、厚生労働省、環境省、東京都、ILO駐日事務所、日本労働組合総連合会、日本医師会、日本弁護士連合会、日本経済新聞社、アスベストに関わりのある国内の多数の学術団体等、国際的にはラマッチーニ協会、労働環境衛生学会(SOEH: アメリカ)、国際労働衛生会議・呼吸器障害科学委員会(SC-RD, ICOH)、ヨーロッパ労連(ETUC)、国際中皮腫研究会(IMIG)といった幅広い支持(後援)も受けて開催されたものです。
 アスベスト問題が重要な局面を迎えつつあるアジアで初めて開催されたこの会議の真価は、何年かしてからでなければ測れないというのが実情かもしれません。しかし、具体的な果実として、@禁止、A労働者及び一般の人々の保護、B代替品、C情報交換、D公正移行及び開発途上国への移転の阻止、D補償及び治療、F人々の協力、に言及した「東京宣言」(24頁参照)が採択されており、この宣伝・普及とその内容を実践・実現していくことが、会議の残した重要な課題のひとつです。
 また、国際自由労連(ICFTU)系の国際建設林産労働組合連盟(IFBWW)、国際労連(WCL)系の国際建設労働者連合(WFBW)、世界労連(WFTU)系の建築木材建築資材労働組合インターナショナル(UITBB)の各建設労働組合という、異なる建設労働組合組織の共同宣言(25頁参照)がまとめられ、発表されたことも画期的なことでした。
 天明佳臣・組織委員長が、閉会宣言のなかで述べたように、「アスベストのない世界の実現は、もはや夢ではなく、近い将来の現実的な目標なのです。私たちはともに力を合わせて、未来に向けて変化を起こすことができるのです」という思いを、参加者全員が確信したと思います。

6.行政の動向とそれへの対応

@アスベスト原則禁止の実施と代替化の促進

 2004年10月1日からいよいよ日本におけるアスベストの原則禁止が実施され、2005年1月1日からは、25か国に拡大したEU(欧州連合)全域での禁止も実施されました。
 日本の原則禁止は、2003年10月16日に公布された改正労働安全衛生法施行令が施行されたことによるものですが、この改正政令には、石綿対策全国連が2003年5月にパブリック・コメント手続に対する16項目にわたる意見で指摘したように、問題を残すものでした。
 残念ながら私たちの危惧を証明する事態も生じています。「無石綿」、「ノンアスベスト」等と表示されて販売されている左官用モルタル混和材に、1%以上のアスベストが含有していることが判明したのです。厚生労働省は、2004年7月2日付け基発第0702003号等によって「蛇紋岩系左官用モルタル混和材による石綿ばく露の防止について」通達しましたが、この石綿含有製品は10月1日以降も禁止はされていません(http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/sekimen/mortar/参照)。2002年に実施された「石綿及び同含有製品の代替化等の調査」から漏れ、改正労働安全衛生法施行令が限定列挙された10種類の石綿含有製品しか禁止していないことから生じた不備ですが、禁止されるべきなのにリストから漏れている製品がほかにもあるかもしれません。
 「石綿紡織品については、ジョイントシート・シール材等の代替化が困難な製品の原料としても使用されるため、今般の改正においては禁止の対象とは」なりませんでしたが、代替化が可能な用途にも使用されていることを私たちは指摘してきました。厚生労働省は、2004年2月16日付けで基安発第0216003号「石綿紡織品の使用にかかる健康障害防止対策の徹底について」を発出し、「事業場内の高温物を取り扱う作業・溶接作業等において耐熱・防火用に使用している被服(手袋、作業衣、前掛け等)、シート等に石綿紡織品が使用されていないか確認」して、「無石綿の代替品を使用した場合には安全確保上支障がある場合を除き、無石綿の代替品に交換すること」を通達しています。
 厚生労働省も、関係団体等に通達したり、「石綿含有製品の製造、使用等が禁止となります」というリーフレット(http://www.mhlw.go.jp/topics/2003/10/tp1016-1.html)を作成・配布するなどして、周知に努めています。2004年3月30日付け基安化発第0330001号「石綿含有製品の代替化に係る計画等の提出の依頼について」では、関係業界団体に対して、代替化計画、代替困難製品の技術的説明書、代替化の好事例等を、同年8月31日までに提出するよう要請しました。この結果は2005年1月17日になって厚生労働省ホームページに公表され、11団体から提出された計画等が紹介されています(http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/sekimen/hisekimen/)。さらに2004年12月17日付け基安化発第1217001号「石綿含有製品の代替化の一層の促進について」を発出して、「厚生労働省では、石綿の代替化をできるだけ早期に実現したいと考えているところであり、今後、各団体の取組みの進捗状況のフォローアップを定期的に行う」ことを明らかにしています。(厚生労働省「石綿情報」:http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/sekimen/)
 関税貿易統計によると、原則禁止実施後にわが国に輸入された「原料石綿」は、2004年10月20トン、11月0、12月60トンとなっています(2004年の累計は8,186トンでした)。含有製品関係では、加工繊維・混合物、糸、ひも、織物・編物、衣類・履物・帽子、紙・フェルトについては、石綿含有製品は2002年以降輸入されていないようですが、「ジョイント用の圧縮した石綿繊維(シート状又はロール状のものに限る。)」は166〜209トン/月、「その他のもの」は14〜47トン/月、輸入され続けていて今のところ減少傾向は見受けられません(石綿含有の建材、ブレーキ・クラッチの輸入は禁止されています)。(38-39頁参照)
A「石綿障害予防規則」制定提案とILO石綿条約の批准
 EUをはじめアスベスト禁止を導入したところでは規制のあり方の見直しが行われており、石綿対策全国連も原則禁止の実施という新たな局面を踏まえた抜本的対策確立の必要性を訴えてきました。
まず労働行政関係で具体的な進展がみられています。前(第17)回総会で報告されたように、2003年9月19日付け基発第0919001号通達によって「石綿による疾病の認定基準」が改正されています(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/09/h0919-6.html、http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/040325-34.htmlにリーフレット)。
2004年10月1日には、作業環境測定基準・作業環境評価基準(いずれも労働省告示)が改正され、2005年4月1日から適用されています。前者では、「石綿の粉じん濃度の測定方法については、繊維の本数を計測するものであり、ろ過捕集方法及び計数方法によるもので足りることから、ろ過捕集方法及びエックス線回折分析方法によるものを削除」、後者では、石綿の管理濃度が0.15f/cm3に引き下げられました。石綿対策全国連は、2004年9月にパブリック・コメント手続に対して、@管理濃度を国際水準に合わせて0.1f/cm3とすること、A現在両基準が適用されない(作業環境測定が義務づけられていない)屋外作業環境管理対策を確立すること等の意見を提出しました(33頁参照)。
これまで石綿に係る労働安全衛生対策は、発がん物質として特定化学物質等障害予防規則(特化則)のなかで主に石綿等の製造・取扱作業の管理について規制されてきましたが、2004年9月に厚生労働省は、新たに「石綿障害予防規則」を制定するという方針を発表しました。労働安全衛生関係法令において、労働者の健康障害防止のための省令を新たに制定するのは、1979年の粉じん障害防止規則以来、25年ぶりのことです。今後の石綿対策は建築物等の解体作業等に重点をおいて充実を図る必要があること、それには製造等の現場とは異なった問題点が指摘されており、講ずべき措置の内容が他の化学物質に係るものとは大幅に異なることから、特化則の一部改正ではなく新たな省令策定で対応することになったと説明されています
 「石綿障害予防規則」は、平成17年厚生労働省令第21号として2005年2月24日に制定され、同年7月1日から施行されることになりました(http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/02/tp0224-1.html)。石綿対策全国連では、「石綿障害予防規則」制定に賛成という立場を明確にしつつ、原則禁止実施後の包括的な労働安全衛生対策確立の必要性に応えるものとなるように、28項目にわたる意見を2004年10月にパブリック・コメント手続に対して提出しています(34頁参照)。意見に対する回答のなかで、施行通達やマニュアル等(本議案作成時点では未公表)で示すとされた内容も多く、それらを含めて十分に学習・検討しつつ、対策の周知・充実に努めていく必要があります。
なお、政府は今国会に、ILO(国際労働機関)の「石綿の使用における安全に関する条約」(第162号)締結についての批准を求めています。同条約は、1986年のILO第72回総会で採択されたもので、石綿対策全国連は、同総会に代表を派遣した当時の日本労働組合総評議会(総評)の呼びかけによって1987年に設立されたのでした。
B関係省庁の動向
 繰り返しになりますが、原則禁止後の抜本的対策は、@既存アスベストの把握・管理・除去・廃棄を通じた対策とA健康被害対策が二本柱ですが、それは労働分野に限ったものではありません。
 原則禁止を導入した改正労働安全衛生法の施行に合わせて、石綿含有建材の例示を削除する、建築基準法関係省令・告示の改正が行われています。同じく国土交通省の所管では、平成14年版(アスベスト対策情報No.32、65-68頁参照)に続き、「平成16年版 公共建築改修工事標準仕様書」が策定・公表されています(http://www.mlit.go.jp/gobuild/)。ここでは、第9章「環境配慮改修工事」の1節「アスベストの処理工事」のなかで、「吹付けアスベストの除去工事」及び「アスベスト成形板の処理工事」を取り上げ、とくに後者において法令による要求事項を超えて前者に準じた措置を講ずるべきことを指示していることが特徴です。「官庁営繕関係統一基準」として公共建築工事においては法令と同様の役割を果たしているものであり、「練馬区アスベスト対策大綱」(2004年5月、http://www.city.nerima.tokyo.jp/kikaku/asbest/pdf/taikou.pdf)等とともに、進んだ前例として一層普及されるべきと考えています。
 とくに教育施設に関して、文部科学省は、2003年7月23日に石綿対策全国連と久しぶりの話し合いを持った後、15年間の空白(無策)を一片の文書で埋めるかのように、同年10月1日付けで「学校におけるアスベスト(石綿)対策について」という事務連絡(アスベスト対策情報No.33、64-65頁参照)を出したわけですが、全国にまだ対策を講じなければならない施設が多数残されています。
 環境行政においては、法規制の対象とされていない「非飛散性アスベスト廃棄物(主にアスベスト成形板が想定されている模様)」の処理におけるアスベスト飛散状況調査や取扱状況に関するアンケート調査等を踏まえて、「非飛散性アスベスト廃棄物の取扱いに関する技術指針」の策定が進められ、近く公表される予定と伝えられています。(平成17年3月30 日付け環廃産発第050330010号「非飛散性アスベスト廃棄物の適正処理について」により、示されました。)
 同じく環境行政で、大気汚染防止法に基づく建築物解体等に係る石綿飛散防止対策に関しては、この間の石綿対策全国連との話し合いのなかで、現在規制されていないアスベスト成形板や保温材等の問題を検討しているという話が出されていました。具体的な動きは伝えられていませんが、大気汚染防止法に基づく規制は、労働安全衛生法に基づく規制と対になるものであり、後者で「石綿障害予防規則」が新たに施行されることになったことも踏まえた対応が必要と考えられます。
 石綿障害予防規則のもとで策定されるマニュアル等と連動して、建設業労働災害防止協会発行(1988年)の「建築物の解体又は改修工事における石綿粉じんへのばく露防止のためのマニュアル」が改訂されることは確実で、同じく1988年に発行された、日本建築センター「既存建築物の吹付けアスベスト粉じん飛散防止処理技術指針・同解説」も改訂されるのではないかと思われます。「建築物解体等に係るアスベスト飛散防止対策マニュアル」(1999年、(株)ぎょうせい)の改訂は、前述の大気汚染防止法令の見直し遺憾によると思われますが、縦割り行政の弊害を排した抜本的・総合的な対策が確立されることが切に望まれています。石綿障害予防規則の施行は、そのためのひとつのチャンスでもあると思われます。
 関係業界においても、(社)日本石綿協会は、当面の技術的課題として、@石綿含有量を判定する分析手法の規格化、A建築物に使用されている石綿の部位、有無、量等の判定のためのマニュアルの作成、B石綿の非石綿化とその再利用の研究、C石綿製品の解体時の安全確保に関する基準のマニュアル化、をあげています。せんい強化セメント板協会も、「せんい強化セメント板協会 廃棄物マニュアル」を改訂し、また、建築改修工事共通仕様書に対応した石綿含有建材の解体作業マニュアル作成を進める予定、等としているところです。

7.マスコミ報道と激増する相談

 GAC2004の前後を通じて、再びマスコミがアスベスト問題を取り上げる機会が増えてきていることは歓迎されます。
 毎日新聞はGAC2004の会期中すべてをフォローしていただき、朝日新聞、東京新聞、共同通信、公明新聞等がGAC2004のことを報道してくれています。また、2004年12月14日付けの朝日新聞朝刊の「私の視点」には、中皮腫・じん肺・アスベストセンター代表・名取雄司医師の投稿「アスベスト・健康被害の防止策を急げ」が掲載されています。
 GAC2004後には、NHK「クローズアップ現代」(2004年12月20日)、フジテレビ「トクダネ」(2005年1月6日)、テレビ朝日「報道ステーション」(1月19日)、「テレメンタリー」 (関東地区は1月29日)、他にNHKの広島放送局、名古屋放送局等も、アスベストに関わる特集番組を放映しています。3月10日には、NHK衛星放送(BS-1)でラジオ・カナダが作成したドキュメンタリー「終わらないアスベスト問題〜増加するがん患者〜(Asbestos: A Slow Death)」が放映されました。
 このようなマスコミ報道と連動して、全国連および関係団体に寄せられる相談等が激増しています。1月19日の「報道ステーション」放映後1時間で、中皮腫・じん肺・アスベストセンターのウエブサイト(http://www.asbestos-center.jp/)へのアクセス件数は一気に千件増加。インターネットの検索サイトYahoo! JAPANの新着情報ページ(http://picks.dir.yahoo.co.jp/)の「新着オススメサイト」に同センターが紹介されると20日1日でアクセスがさらに千件増え、中学生や若い世代の相談メールが多かったそうです。
 GAC2004の会期中にも、同センターのブースに臨時電話を引いて「中皮腫・アスベスト(石綿)ホットライン」を開設し、同センターや地域安全センターのスタッフ、医師らが対応しましたが、3日間で93件の相談が寄せられています。
 石綿対策全国連への電話およびEメールでの相談も増えており、関係団体で分担して対応しているところですが、引き続きご協力をお願いします。また、アスベスト問題専門の相談窓口である中皮腫・じん肺・アスベストセンターの電話番号(03-5627-6007)、Eメール(info@asbestos-center.jp)も周知・活用していただければと思います。

8.労働者・労働組合の取り組み

 GAC2004では、「ワークショップC: 労働組合のイニシアティブ」が設けられ、自治労、全建総連、全造船機械、全水道、全駐労、日教組の各代表がその取り組みを発表、フロアから全港湾も発言し、海員組合、全国医療、JAM、JEC連合、森林労連、建交労等々、数多くの労働組合代表が参加し、海外の代表らと経験交流、討論が行われました。発表された日本における取り組みの経験は海外参加者から高く評価されました。
 「ワークショップB: 建設とアスベスト」では、全建総連傘下組合と関連建設国保組合、専門家やNPO等による、建設労働者のアスベスト被害の掘り起こしから補償、被災者の組織化、さらには組合員への教育・訓練、予防、職場・作業改善を含めた包括的な取り組みの経験が紹介されました。国際的にも建設業における労働安全衛生対策、アスベスト対策の重要性が認識されつつあるなかで、重要な実践報告として高い評価を得ています。
 これら二つは、ワークショップのなかでも最も多くの参加者があり、百個用意された同時通訳のレシーバーでは足らず、ドアの外にまで参加者があふれ出すほどの盛況でした。
 一方で、これまでどちらかというと各組合内や地域で取り組みを進めてきた関係労働組合が一堂に会して、百名を超す規模の集まりで、経験を共有し合ったのは今回が初めてと言ってよいかもしれません。
 また、これまでアスベスト被害の報告が知られていなかった労働組合関係でも、現役組合員またはOBの中から被災者が出てくるというケースが実際に生じてきています。
 今後の労働組合の取り組みの前進と経験共有の促進に、石綿対策全国連が一定の役割を果たしていけたら幸いです。まずはGAC2004に積極的に参加してくださった労働組合を中心にニーズ調査を行い、必要な支援・連携・調整を図るようにしたいと考えています。

9.市民・環境問題の取り組み

 市民・環境問題の取り組みとして、今期はGAC2004に向けて全面的に協力し、大きな成果がありました。4月のプレイベント、それに続く4回にわたった連続シンポジウムで、わが国の環境アスベスト問題が俎上にのぼり、現在の緊急な課題について議論を深め、方向性を確認できました。この連続シンポジウムには、自治体の職員が毎回熱心に参加するなど、今までになかった環境アスベストへの強い関心を見ることができました。
 これは、昨年来練馬区で問題となった学校の吹きつけアスベストの大量の「発見」、そこから浮き彫りになった1987年当時の文部省が行った学校アスベストの一斉調査のずさんさがマスコミ等で取り上げられ、自治体の一部が危機感を抱いた結果が反映したものと思われます。
 また、昨年の練馬区での学校アスベスト問題は、豊島区、江東区、横須賀市、名古屋市等へ飛び火し、それぞれの自治体が公共施設のアスベスト一斉調査を試みています。今年度はその成果が順次まとめられる予定です。
 世田谷区での福祉施設のアスベスト除去工事では、保護者と行政とアスベストセンターが情報を共有し、工事の進め方を検討し、環境測定結果を業者とアスベストセンターでダブルチェックを行う等の、リスクコミュニケーションが成立した模範的な工事を行うことができました。
 このように、自治体が他の教訓を生かし、アスベスト問題に積極的に取り組んでいるところがある一方、大阪府や一部の自治体では認識、対策が遅れているところもあります。これらについては、順次取り組んでいきたいと思います。
 2004年10月23日中越地方をマグニチュード6.8の地震が襲いました。その結果の建物の被害は、2005年3月22日現在で、建物の被害は全壊(50%以上の損壊)2,827棟、大規模半壊(50〜40%)1,969棟、半壊10,777棟とされています。地震とアスベストのシンポジウムを8月に行った直後であったアスベストセンターは、11月3日に第1回の現地調査を行いました。外山氏による小千谷市の石綿濃度の結果は0.31−0.57f/Lで、現地が農村地帯の市街地である事を考慮すると地震による石綿濃度上昇も疑わせる結果でした。また現地の舗道上に、吹きつけ石綿(クリソタイル)の落下が1か所で確認されました。12月1日に小千谷市と川口町の現地調査を実施し、5階建てのビルでの吹き付け石綿の道路上への落下(クリソタイル)を確認しました。耐火及び準耐火建造物数の特定と吹き付け石綿建造物の正式な調査による確認が必要と考えました。一方、2回の現地調査により、今後の石綿除去工事としては大規模除去が10件程度(学校体育館及び数階規模のビル)と2階建て鉄骨の小規模除去工事は50件程度ではないかとの推定も考えました。実際には2か所で石綿飛散防止措置が取られており、1か所では吹き付け石綿除去工事が準備中でした。12月13日には、マリ・クリスティーヌさんと永倉冬史さんが、小千谷の小学生に石綿の危険を伝える学習を行いました。
 12月23日にアスベストセンターは新潟県と意見交換を行いました。その場で被災地自治体と新潟県は、被災者生活再建支援法の枠内の解体費用を想定した解体を予定しており、阪神淡路大震災で行われた災害廃棄物として吹き付け石綿のある建物の解体を処理する方向ではないことが確認されました。廃棄物処理は本来各自治体の業務ですが、災害廃棄物の場合には自治体が実施した災害廃棄物の運搬及び処理を、国が25%、都道府県が25%補助し、自治体負担を50%とする補助制度が環境省にあり、神戸市等はこの制度を利用しました。さらに自治省(現総務省)が当該自治体を補助したため、阪神淡路大震災の当該自治体の負担は2.5%でした。もちろんその前提は建物の所有者が、吹き付けアスベストのある半壊等の建物を「がれき」=廃棄物と承認することでした。今回、その扱いを難しくしていたのが、被災者生活再建支援法による全壊及び半壊の建造物の解体費を法律内で補助する制度があり、解体は所有者負担とされるようになったことでした。
 2004年の災害に遡り、住宅本体の解体費用等を増加させる被災者生活再建支援法の改正案が、2005年野党3党から提案されました。吹き付けアスベストを解体費用に上乗せさせるように、新潟県選出の無所属黒岩議員への相談と要請行ってきました。積雪のため解体の進行は一時停止していますが、2005年4月〜5月以降、吹き付け石綿の建物の解体もピークを迎えます。現地と連携した飛散防止と違法解体の監視が重要となる予定です。
 なお、マリ・クリスティーヌさんらによる小千谷小学校での経験は、2005年2月にさいたま市桜木小学校での小・中学生及び保護者へのアスベスト講義に結びつきました。桜木小学校の講堂に集まった440人の子供たちは熱心に話しを聞き、さかんに質問をしていました。今後、子供たちへのアスベストの正しい知識の紹介が求められます。

10.補償・訴訟をめぐる問題

 2002年7月、横須賀の米海軍基地アスベスト訴訟第1陣の判決は横浜地裁横須賀支部で国敗訴となり、時効の2名を除いて国は控訴できずに地裁レベルで判決が確定しました。米海軍基地アスベスト訴訟第2陣の和解は、2004年11月に時効の1名年を除き成立、第3陣も2005年前半の和解の方向となっています。10年時効を争った第1陣2名の東京高裁判決は敗訴となり、2004年4月最高裁は上告不受理とし10年時効の3名は敗訴が確定しました。同じく横須賀の住友造船所第2陣裁判は、2003年7月に提訴され、現在同地裁の勧奨による和解交渉が労使間で進められています。
 労災認定後の企業責任追求の裁判として昨年注目を集めたのは、東京地裁で2004年10月に判決のあった保温工遺族が関西保温等を提訴した裁判でした。横須賀米海軍基地第1陣裁判の悪性中皮腫例は、石綿肺管理2の続発性気管支炎で労災療養中に悪性中皮腫が合併した例で、悪性中皮腫単独事例では初めての判決となりました。会社が東京高裁に上告し、2005年3月現在、高裁レベルでの初めての判決となるのか和解となるのか注目されています。
 同じく労災認定後の訴訟では、札幌地裁でのホテルのボイラーマンの裁判があります。吹き付け石綿のあるボイラー室での滞在と配管部の石綿作業による責任を問う裁判で、4月以降に証人や証拠調べが始まる予定です。硝子作業での肺癌が石綿関連と労災に認定されなかったことを不服として、船橋監督署を相手におこされた行政訴訟は地裁レベルで敗訴し、2月に東京高裁で公判が行われました。家族曝露での会社の責任を問う裁判は東京高裁で敗訴し、最高裁で係争中です。


U 2004年度活動方針


I 「2004年世界アスベスト東京会議(GAC2004)」の成果を踏まえ、組織委員会から委託された事後処理を担当します。

 @ 報告書、DVD-Video・Audio、プロシーディングスの配布
 A 東京宣言及び世界会議の成果の宣伝・普及
 B 世界会議の趣旨を引き継ぐ国内でのイベントの開催等
 C 海外の関係団体・個人等との連絡・連携等
 D その他対処が必要な事項

II 「原則禁止」の実現はアスベスト問題の解決に向けた最初の一歩であり、以下の課題が存在していることを確認、周知宣伝するとともに、その実現をめざします。
 石綿対策全国連絡会議は、草の根でアスベスト問題に取り組む団体・個人のもっとも広範なネットワークとして、情報収集・提供、各々の取り組みの連携・調整、共同キャンペーンの推進等の役割を担っていきたいと考えています。
 @ アスベスト「原則禁止」の履行監視と早期全面禁止の実現
 A 今後本格的な「流行」の時期を迎えることが確実な健康被害対策の確立
 B 既存アスベストの把握・管理・除去・廃棄を通じた対策の確立
 C 海外移転の阻止および地球規模でのアスベスト禁止の実現

I
II 今年度、具体的には以下の取り組みを行っていきます。
 @ 新規に制定される石綿障害予防規則の内容を中心に、「原則禁止」後の労働安全衛生対策について学習会を開催し、また同規則の7月1日施行前に厚生労働省交渉を行います。
 A 「原則禁止」を踏まえた既存アスベスト対策の確立に向けて、環境省、国土交通省、文部科学省等の関係省庁および団体の動向を把握し、また働きかけ、必要に応じて交渉も行います。
 B 「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」の行う厚生労働省交渉等に協力します。
 C 被災者・家族、労働者、市民からの相談に応じ、その取り組みを支援します。とくに当面、GAC2004に積極的に参加してくださった関係諸団体へのニーズ調査を行い、必要な支援・連携・調整を図るようにしたいと考えています。
 D ウエブサイト(http://park3.wakwak.com/~banjan/)、「アスベスト対策情報」(年1回発行予定)等を通じて情報を発信します。


V 2004年度役員体制

代表委員 山 口 茂 記 (自治労労働局長)
佐 藤 正 明 (全建総連書記長)
富 山 洋 子 (日本消費者連盟運営委員長)
天 明 佳 臣 (全国安全センター議長)
事務局長 古 谷 杉 郎 (全国安全センター)
同次長 宮 本 一 (全建総連)
伊 藤 彰 信 (全港湾)
永 倉 冬 史 (アスベスト根絶ネットワーク)
名 取 雄 司 (中皮腫・じん肺・アスベストセンター)[所属団体名変更]
運営委員 水 口 欣 也 (全造船機械)
吉 岡 修 (全建総連)[担当者変更]
吉 村 栄 二 (日本消費者連盟)
西 田 隆 重 (神奈川労災職業病センター)
鈴 木 剛 (全国じん肺弁護団連絡会議)
大 内 加寿子 (アスベストについて考える会)
林 充 孝 (じん肺・アスベスト被災者救済基金)
外 山 尚 紀 (東京労働安全衛生センター)
吉 田 茂 (労働者住民医療機関連絡会議)[新任]
会計監査 安 元 宗 弘 (横須賀中央診療所)[新任]
中 地 重 晴 (環境監視研究所)[新任]





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