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アスベスト対策情報 No.27
-さしがや保育園-

(2000年2月1日発行)



保育園改修工事で飛散
事実の解明と対策を要求



アスベスト被害を考える会


このたびは、このような機会をちょうだいいたしましてありがとうございます。

今回、子どもたちが、保育園という公共の場所で、公共の工事の中でアスベストに大量に曝露してしまいました。私は、そのなかでも一番被害が大きかったと言われる1歳の子どもの母親として今日はまいりました。

この工事は、最初はただの改修工事のはずだったわけです。それが、どうしてこのようなことが行われてしまったかということについて、永倉さんのお力も借りて、ご説明したいと思います。どういうことかと申しますと、まず0歳児のお部屋があります。ここの定員を増員しよう、部屋が手狭になったので、1歳児の長いお部屋の右半分の3分の1くらいを0歳のお部屋にくっつけてしまいましょうということになったわけです。

ところが、この建物は昭和30年代の建物で、鉄骨に吹き付けアスベスト―クロシドライト30%、というものが入った建物だったわけです。改修工事なんですけど、必要があって天井と床の仕上げ板を外してしまったために、吹き付けられていたアスベストが露出されたかたちになり、また、壁をぶち抜くとき、溶接などを行うときに、柱に吹き付けられていたアスベストを剥がしてしまった。その他に配線工事で必要な手順上、天井の吹き付けアスベストを10か所くらいかき取りました、というようなことが行われてしまいました。しかし、主目的は改修工事であったために、(アスベスト工事としてではなく、)一般工事として行われてしまいました。





1歳児の長いお部屋の、工事部分をベニヤ板で仕切りました。お部屋の3分の1だけ板で仕切って、向こう側は工事部としましょう。こちら側は子ども達の保育場所にしましょうと。いろいろ無理があったと思うんですけれども、場所がないものですから、そんなかたちで保育を継続してしまったわけですね。緑色の線がベニヤ板にありますが、ここは仕切りが1枚の板で密閉されていたわけでははなくて、しかも一部が引き戸になっていました。どうも空気の流れがあったようなんですが、工事をされていたときには目張りはなかったのです。私たちがこれは問題ではないかと言ったので、工事が終わってから目張りをしてくれたんです。

「永倉: これが引き戸なんですが。工事部と1歳児室の間にありました。これはなんのためかというと、工事部の中で工事をしていた作業員が、逃げ場がなくなったときにここから出入りするんだ、という説明でした。人がひとり出入りできるくらいのものなのですが、ベニヤ板の引き戸がただ立てかけてあり、上の方は5pくらいの隙間が空いておりました。それがこの図です(次頁上写真)。これは、工事の作業部分に防じん服を着て確認に入ったときの写真ですが、引き戸のまわりの隙間の様子を確認しております。だいたい幅としては5pから10pくらいの幅で、1mくらいにわたって隙間が空いておりました。」

ということで、仕切りが不完全な状態が、2週間続いてしまいました。どれくらい取れたかは、私はよくわからなかったのですが、これ(次頁下写真)は、一番取れてしまったところで、柱に、元はグレイに吹き付けアスベストがくっついていたはずのところが、壁をトンカチでがんがんがんとやったところが取れてしまったようです。そういう柱が5本くらいあるようでした。高さが3mで幅が40pから100pくらいのものが、ごそっと取れてしまったような状況でありました。その他に、溶接部分が取れてしまったということがわかりました(46頁写真)。

2週間にわたり大量のアスベストが露出されたままで、保母さんや子どもたちがばたばたと通ったり。また、工事部と保育室はベランダを共有しているんですが、暑いし狭いものですから、工事の人も、保育室の方もサッシを開けていたわけですね。子どもも近くで遊んでいたわけです。空気の流通は引き戸だけではなく、窓からもあったのではないかと推察しています。ここは2階なんですが、1階は通常どおり使っていましたので、飛散したアスベストが落ちていくことも考えられるわけです。

これに対して、一般工事の扱いだったものですから、何の防御策がとられていなかったわけです。密閉は行わず、仕切りは不十分なベニヤ板一枚。その結果、109名園児がいたのですが、特に曝露のひどかったと思われる 1歳児が16名、近くのお部屋にいて引き戸の開閉があったと思われる0歳児9名、保育にあたっていた保母さんたちが11名、7月7日から20日まで、工事が中止されるまで2週間にわたって曝露されてしまう結果となりました。

これは事故ではないと思います。事故というのは誰かのミスで起こるものだと思うのですけれども、これはそんな生やさしいものではないと考えています。みんながちゃんと仕事をしたらこういうことにはならなかったと思います。もともとは区長が定員を増やそうということを指示したわけです。それで、保育園の管轄である児童課が、保育場所が狭いから、拡張工事をしようと決定し、営繕課に発注しました。発注に当たり、アスベストだけではないですね、工事を行って出てくるのは、粉じん、騒音すべて。それが0歳の赤ちゃんから6歳の子どもまで、いい影響があるわけないのに、そのことは全く検討もせずに、即座に育児と一緒にやると決定し、営繕課という工事の担当部署に発注しました。

営繕課は、どういうわけかわからないんですけれども、アスベストはない、という判断を下して、業者に委託をしました。

実は事前にアスベストの問題を知っていたお母さんがいて、アスベストはあるのか、あるのだったらちゃんとしてくれというような要請をしたのですが、どこに根拠があるのかわからないのですが、営繕課の方で「(アスベストは)ない」という返答が帰ってきたんです。それで児童課もそれを鵜呑みにして、「ない」という答えを私たちに返してきました。そんなわけはない、と保護者の方が再度、営繕課などを回ったんです。にもかかわらず、アスベストに対しては全く何もされることもなく、しかも事前の説明会もなく、突然工事が始まってしまったわけです。

ところが、夏で窓が開いていたものですから、工事の部分は密閉しているはずなのに窓が開いている。窓を見ると、アスベストがあるのが私たちにもわかったわけですね。それで、おかしいということになって、 1週間後に一部の保護者を集めて説明会を行いました。ところが、その時点でさえもアスベストはないよ、というようなはぐらかすような答えで、安全措置をとるからということで折り合いがついたのですが、それ以降も継続して、アスベストの撤去が、営繕課の職員のいるところで行われているというような事態が続きました。その事態に不安を抱いた保護者の方から、私も保護者の代表の集まりで父母会の役員なんですけれども、陳情があって、私がその事態を知ったのは、工事が始まって2週間をすぎたときでした。

もう2週間もすぎていたのですが、その時点で営繕課にその事実を確認いたしましたら、営繕課はあっさりと、アスベストはあって、取れてしまったと言うのです。その時言っていたのは、実は仕上げ板のことだったのですが、仕上げ板については取れてしまったということがわかったものですから、大騒ぎになりました。しかし、まあいいじゃないか、工事は続けたい、保育も中止したくないという両方の意向があったわけですね。でも私たちは納得できなくて、資源環境課という公害対策をやっているところに、何とかしてくれと要請をしました。しかし、わからないと言われました。しょうがないので、今度は保健所の環境対策課に、「明らかにアスベストは有害である。そこに子どもがいてはおかしい。何とかしてくれ」と言ったら、ここでもアスベストのことはわからないと言われてしまいました。どこも、うちは保育だけ、うちは工事だけ、うちは頼まれただけでそういうことは知らない、とそれぞれ縦割りで、みんな危ないんだろうなとは思っていたんですけれど、誰も動いてはくれませんでした。児童課の言い分は、工事のことはわからない、うちは保育だけである。営繕課の言い分は、危ないことはわかっている、アスベストは危険である、だけど避難させる権限は私にはない。

保育園には、園長を初めたくさんの保母がいました。アスベストが大量に剥離したときに、空気がほこりで真っ白になって息苦しいから子どもがわらわらと逃げたんです。そうしたら、保母さんたちは、行くところがないからといって、逃げる子をみんなで捕まえてその部屋においておいたたのです。園長さんに文句を言ったら、私はここで雇われているだけだから、区の建物で区の職員がどうしようと、直属の上司がいるのに私が文句言えるわけないじゃないか。危ないと思ったから、皆さんの健康をお祈りしていました。―こんなことを 2週間後に言われてもですね、私たちには納得できようがないわけです。

このような対応をした人たちがどうなったかというと、処分は軽くて、みんなそのまま働いているわけです。課長さんがどっか飛ばされて、以前の、保育と同時に工事を行うと言った人も怒られて、その程度なんですよ。保母さんも園長も、そのまま何事もなかったかのように、楽しそうにやっているというのが今の現状です。

営繕課は、年に何件もアスベストの撤去工事を区の施設で行っていて、その手順にしろ、危険性にしろ、知っているはずです。ですから、わからないという言い訳は通用しないと思うのですけれど、この時点では無知を装って、当初は、開いてしまったところは天井を打ち付けて、何事もなかったかのように保育をしませんか、という申し出でした。吹き付けのアスベストに2週間もさらしておいて、そこに帰りたいかと言われても、納得いきようがないわけです。私たち保護者は働いているから預けているのであって、昼間は子供と一緒にいないわけです。私たちが預けてしまった後に、こそこそっと来て、天井を打ち付けようとしました。保護者の人が見張っててくれていて、いけないということで止め、そのあたりから西田さんや永倉さんにいろいろな助言をいただけるようになり、性急に簡単な措置で済ませてもらっては困るということで、区も少しは本腰を入れるようになりました。

当初は開いたところだけ固化して、そのまま建物を使おうということだったのですけれども、やはり全面撤去をしてほしいというような要請がありまして、最終的には撤去ということになりました。



こんな感じですから、私たちが言わないことに関しては、何事もなかったかのように済ませたいという意図だったのですけれども、全部私たちの要求に対して、しぶしぶ認めた結果です。私たちはわかったときに、とにかく工事を続けないでくれ、密閉してくれ、子どもを避難させてくれ。いろいろあったけど、それは一応呑んでもらえたわけですね。同時に全員をすぐには移せませんので、とりあえず0歳と1歳、近くにいる子どもが別のところに移されたわけです。ほかのお部屋のある子どもたちは、5、6か月にわたって、アスベストむき出しのところを避けて別の階で、保育がずっと続けられました。その5か月の間に何をしてたかというと、閉園になった保育園を改修して、何とか全員を移したあとに、アスベストを全部撤去しようというような計画で、今ちょうど引っ越しが終わったところです。

どうしてこうなってしまって、どうしたらいいか、という情報が、今回極端に不足していました。区は、何が起こったかということを全く説明しなかったのです。それで、私たちからの情報だけが唯一のものでしたから、普通のお母さんたちは何が起こっているのかわからなくて、どれを信じていいのかわからないので、説明してもらうように要請しました。

最初のひと月くらいの説明では、さきほど永倉さんが説明してくれたような、大量の剥離があったことについては知らないと思ったらしくて、全く触れずに、板だけ取ってしまいましたというような説明がありました。後にマスコミも入って、写真もありましたので、取ってしまったじゃないかということで突きつけましたところ、それはあっさり認めて、言うのを忘れてしまったというような説明がありました。

2か月くらい経ってきますと、お母さんたちが騒ぎ初めて、アスベストでうちの子はどうなるんだ、といったようなことが出始めたわけですね。私どもでもいろいろと、アスベストがどんなもので、どんな危険なものなのかといったことに関して情報を流したのですけれども、お母さん方はそれに不安をあおられたということもあって、パニックになってしまったわけです。いろいろ説明はしたのですけれども、なかなか皆さん信じたいことしか信じないものですから…。アスベストが心配でレントゲンをかけてしまうお母さんとか出てきてしまったんです。ご存知と思いますが、アスベストはレントゲンに映りませんし、X線自体が有害なものですので、そういったことには私どもも黙っていられなくて、結果的にはいろいろな専門の先生が来て下さったんですけど、その前に、区がお医者さん呼んで、健康相談会を開きました。しかし、付け焼き刃でよくわかっていない人が来てしまって、不適切なこと夥しくて、X線はいくら当てても大丈夫ですとか、職業病ですから子どもはならないとか、言ってしまったものですから、お母さんたちも誤解するのは無理ありませんよね。それで私ども抗議しまして、もっとちゃんとした人を呼んでくれというわけで、ここからちゃんとした人になるんですけれども、建築と医学のアスベストに詳しい人を呼んできて、まともな解説をしていただいたんですけれども、それまでにもう、皆さんの情報は混乱を極めておりました。

ところが、この時点で本当に区が言うだけしかアスベストは飛ばなかったのかということに、みんなが疑問を抱き始めたんです。それでいろいろな方のお力を借りて、永倉さんが防御服を着て入って下さって、中を目で確認したんです。そうしたら当初私たちが把握していた分の数倍のアスベストが、実はかき取られているということがわかりました。

このあたりになってくると、みんな、今後のことが心配よねということで、保母さんにどんな感じで保育をしていたのか、窓はどうだったか、その時誰がいたのか、といったことや、その時の空気の状況はどうだったのか、すでに2か月経過しているんですが一応事情を聞きはじめました。その他にどんな状態でかき取ったかがわからなければ、どうしようもないので、工事を実際に行った下請の方たちにお話を聞く、といったことも行われました。

現在はもう撤去工事が始まっていますが、それに先立ち、子どもたちが実際にどれくらい曝露したかということを推計し、それに伴い、どんなことをしたら今後子どもたちの健康の被害に対して役立てるか、そういったことを検討してもらうために、専門家の先生たちが招聘されて委員会が発足しました。主には、曝露量の測定と、健康被害の推測、さらにはどんなことをしたらいいか、という3本立てだと思います。現在は、どうせ撤去してしまうのだから、その前に実際にあったと思われることを再現してみて、飛散濃度を測って、子どもたちがどれだけ吸ったかを予測しようというシュミレーション実験が行われたところです。その飛散状況をいま専門家の方が計測して下さっていて、今後は健康への影響と、それから私たちの子どもにどんなことを教えて下さったらいいか、ということを考えてくださったらいいなと考えています。

このようなことは、区自体は考えてくれるような感じじゃなくて、私どもでお願いしてたんですが、もともと私は保護者の代表の役員だったんですが、いまは、被害者を考える会、というのを作ってそこの役員をやっています。それにはいろいろなことがありまして、こういうみんなでやらないといけない問題というのは、いかに被害者が結束するかだと思うのです。私たちの場合、子どもですので、親なんですけれど、親はもう自分たちの子どもがこんなになったと、その時点ですでに冷静さを失っています。しかも就労している両親ですから、毎日子どもを育てて、幼稚園に連れてって、働いて、というのを繰り返しているだけでも、あっぷあっぷなんですね。その上引っ越して下さいって言っても、もうどうしようもなくなるんです。そういうふうになると、誰が言い出したのこんなこと、ってことでまとまらなくなってきてしまったんです。ことは迅速に対処しないと、子どもがどんどん曝露してしまうので、早く対処したいわけですから、父母会で全員の一致を採るのを待っていると、子どもはどんどん危険にさらされるので、とりあえず問題意識を持った保護者だけが団結して、そこで要求をとりあえず出そう、という目的で結成されました。

主には事実の解明と、専門的なことを学習し、区や保育園に働きかけてきました。本来であれば、区がどうするべきかを考えて、私たちに提示して、説得してくれるべきだと思うんですが、そういう機能が文京区にはなくて、とんでもないことばかり言うもんですから、私たちがむしろ案を提示して、自分たちでお母さんたち、保母さん、それから行政の人たちを説得しないといけなかったんですね。そういった働きをしながら、同時に親もぼろぼろ、子もぼろぼろ保母さんもぼろぼろなんで、みんなで支え合いながら頑張って運動していこうというような働きをし、それには情報が著しく不足しておりますので、実際事実はなんなのか、それからアスベストに関して私たちがどのようなことを知っていれば判断を誤らないか、といったような情報を流す、といったようなことをしてきました。今後は、2、3年すると子どもたちは卒園してしまうわけですけれど 、アスベストの毒性を考えれば、子どもたちが本当に問題に直面するのは、もしかしたら私たちが生きているときではないかも知れない。ですから、そういった子どもたちがどこに行っても、バラバラになっても、それから私たちがいなくなっても、互いに支援できるようなネットワークとして活動し、その時その時、必要なことを、ニーズにあったサポートを私たちができるような機能をしていければいいなと思っています。

今後の子どもの健康フォローについてはある程度専門家の方がやって下さると思うんですけど、課題として、どうしてこんなことが起こったか、ということが欠落してしまっているのです。区の方はもう禊ぎは終わったと思っているものですから、どうして起こってしまって、誰が悪かったかということは、まあ、その話はなしにしましょうや、といったような雰囲気があります。担当者が変わっても本当に再発を防ぐようなシステムがない限り、またかかわった自分たちが何をしなかったから、どうしてこんなことが起こって、自分はどうすべきだったかを一人ひとりが問わない限り、また起こると思うんです。ですから、私どもではそういったことを忘れるんではなくて前向きに考えていただくような働きかけをしたいと思っています。

長くなりました、ありがとうございました。






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