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アスベスト対策情報 No.27
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(2000年2月1日発行)



◎ PRTR法の対象化学物質等の案に対する意見 13



中央環境審議会保健部会事務局殿

1999年11月15日



「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」に係る対象化学物質、製品の要件及び PRTR対象事業者の案に対する意見


石綿対策全国連絡会議

代表委員
加藤 忠由 (全建総連委員長)
佐藤 晴男 (自治労副委員長)
富山 洋子 (日本消費者連盟運営委員長)
広瀬 弘忠 (東京女子大学教授)

〒136-0071 東京都江東区亀戸7-10-1 Zビル5階
PHONE(03)3636-3882 FAX(03)3636-3881


1. はじめに


アスベストは、現代の最大のインダストリアル・キラーと呼ばれています。

それは、アスベストが人々の健康に悪影響を及ぼす可能性があるというだけでなく、アスベストへの職業上、環境上の曝露によって、現実に世界中で多数の人々が死亡しているからでもあります。

「西ヨーロッパや北アメリカ、日本、オーストラリアでアスベストの使用は1970年代にピークがあり、約8億人の人口に対し、現在約1万人の中皮腫及び2万人の石綿関連肺がんの発生が予測されている」(1997 石綿関連疾患診断・認定のためのヘルシンキ・クライテリア)。また最近の研究によると、西ヨーロッパにおける中皮腫による年間死亡件数は、1998年の5,000から2018年には約9,000とほとんど2倍になり、今後35 年間の合計は25万にのぼると予測されています(1999 Julian Peto et al)。

アスベスト曝露のメルクマールとも言われる中皮腫の発生件数について、日本でも1995年から人口動態統計により把握可能になりましたが、それによると1995年に500件、最近では毎年約600件の死亡が報告されています(52頁参照)。また、中皮腫1件当たりにつき、アスベストによる肺がんが、少なく見積もる場合でも同数、2〜数倍とするものも多いので、アスベストによる中皮腫・肺がんの両方による死亡が、日本においてもすでに千〜数千件発生していることになります(ちなみに、労災補償を受けている件数は、中皮腫・肺がんを合わせて毎年20数件にすぎません)。

このようなことから、世界ではアスベストを禁止する流れが加速しています。欧州連合(EU)では、すでに加盟15か国中9か国がアスベストのうち最後に残されたクリソタイル・アスベストの法令による禁止を導入していましたが、今年8月に、2005年までに加盟各国に禁止を実行することを求める新たな委員会指令を発行したところです。11月24日には、イギリスが、新指令のもとで初めての国内におけるアスベストの全面禁止に踏み切りました。アメリカでは、環境保護庁(EPA)による禁止の導入が、手続の不備を理由に失敗させられてしまったものの、現実の使用量は数年前の時点ですでに年間2万トン程度と、ほとんど使われなくなってきています。

そのような中で、日本は、いわゆる先進工業国の中では唯一、いまだに年間10万トン以上ものアスベスト(クリソタイル)を使用し続ける、孤立無援のアスベスト使用超大国となってしまっているのです。
日本では、現に相当の被害が顕在化し、この数は今後も間違いなく増加していくと言ってよいというだけでなく、その被害がいつまで継続するかわからない状況に置かれているのだということを肝に銘じる必要があります。

したがって、今回の意見提出の趣旨からははずれるかもしれませんが、日本においてもアスベストの全面禁止を早期に実現すべきことを、私たちは強く求めます。そして、PRTR(環境汚染物質排出・移動登録)、MSDS (化学物質当安全データシート)を含めて、あらゆる化学物質管理の施策にとって、アスベストが最重要ターゲットのひとつとして位置づけられなければならないことを強調したいと思います。


2. 「対象化学物質」に関する意見


上記のような状況、及び、私たちが再三、関係省庁に対して、今回の法律に基づくPRTR・MSDS制度の対象物質にアスベストを選定されたいと要望してきた(1998.4.24、1999.5.27 環境庁、1998.5.12、1999.5.28 通商産業省、1999.5.25 厚生省―別添「アスベスト対策情報」No.24、26に交渉の記録)にもかかわらず、今回示された「対象化学物質(案)」からアスベストが漏れていることは、非常に遺憾です。

「PRTR及びMSDS対象化学物質の具体的な選定基準(案)」では、第1種指定化学物質(すなわちPRTR の対象化学物質で、同時にMSDSの対象物質ともされるもの)の選定基準としては、発がん性を含む9種類の「いずれかの有害性に分類された物質で、『1年間の製造・輸入量』が一定量以上または一般環境中で最近10年間で複数地域から検出されたものについては、現時点で製造・輸入等の取扱いがないことが明らかであるものを除き『相当広範な地域の環境での継続的な存在』があるものとみなし、選定対象とすることを基本とすることが適当である」。「有害性ランクで発がん性クラス1の物質は、特に重篤な障害をもたらす物質であることが明らかであることから、『1年間の製造・輸入量』10トン以上の物質を選定することが適当である」としています。

@ 有害性

アスベストが、「有害性ランクで発がん性クラス1」であることは、あらためて言うまでもなく明々白々です。「選定基準(案)」で「世界で最も信頼されている発がん情報であるので、十分信頼できることから優先的に利用すべきである」とされたIARC(国際がん研究機関)の発がん性評価でも「1(ヒトに対して発がん性がある)」、「IARCに次いで信頼度の高い機関」であるNTP(米国毒性プログラム)でも「a(ヒトに対する発がん性の十分な証拠がある)」、日本産業衛生学会でも「1(人間に対して発がん性のある物質)」等とされているところです(「選定基準(案)」では、以上のいずれかに該当する物質を、「発がん性クラス1」とするとされています。)。

「参考資料」の「発がん性分類」のデータでは、アスベストのうちのクロシドライト、クリソタイルについて、いずれも「A1(ヒトに対して発がん性が確認された物質)」と評価しているACGIH(米国産業衛生専門家会議)の分類しか示されていません(これだけでも「選定基準(案)」によれば、「発がん性クラス1」に分類されます)が、どのような分類を用いても、「発がん性クラス1」であることは否定しようがありません。ちなみに日本で現在いまだに輸入・使用され続けているクリソタイル・アスベストに関しての最も新しい評価として、IPCS(国際化学物質安全評価計画)のEHC(環境保健クライテリア)「203: クリソタイル・アスベスト」が1998年11月に発行され、ここでも、「クリソタイル・アスベストへの曝露は、量―反応関係をもって、石綿肺、肺がん及び中皮腫の過剰リスクをもたらす。発がん性に関する閾値は確認されていない。」「クリソタイルよりも相対的に安全な代替物質が利用可能な場合には、それらの利用が考慮されるべきである」と結論づけています(別添資料参照―省略)。

A 1年間の製造・輸入量または一般環境中からの検出

日本におけるアスベスト(現時点ではクリソタイル)の年間使用量は、ほとんど全量輸入に依存していると言われている現状の中で、その年間輸入量は、1997年176,021トン、不況の影響が大きいとされる1998年でも120,813トンです。有害性ランクで発がん性クラス1の物質は、「1年間の製造・輸入量」が10万トン以上ということですから、「選定基準(案)」の要件を明らかに満たしています。

また、「最近10年間で複数地域から検出されたもの」という要件についても、環境庁大気規制課のまとめているデータ、及び、いくつかの地方自治体等のデータにより、これまた、要件を満たしていることは明らかです。

以上から、なぜ、アスベストが第1種指定化学物質の対象化学物質から漏れてしまったのか、かえって不可解でなりません。アスベストを対象化学物質に含めるべきです。

B MSDSの対象物質

アスベストは第2種指定化学物質(MSDSのみの対象物質)からも漏れてしまっています。

第2種指定化学物質の選定基準としては、「選定基準(案)」では、「有害性の範囲については、第1種指定化学物質と同じ範囲とする」されており、第1種との違いは、第1種が「相当広範な地域の環境での継続的な存在している」のに対して、第2種は「製造・輸入・使用量の増加等により、相当広範な地域の環境において継続して存在することとなると見込まれる」ものであるということです。したがって、第2種とされた化学物質も、製造・輸入・使用量が増加等すれば第1種になり得るとされ、具体的には、「一般環境中において最近10年間で1か所報告があるもの」、または、「『1年間の製造・輸入量』1トン以上のもの」とされているところです。

アスベストに関しては、第2種の要件よりもむしろ第1腫の要件に、矛盾なく該当していることはすでに述べたとおりです。

しかし、アスベストがPRTRばかりでなく、MSDSの対象物質からも漏れてしまうということの重要さはあらためて指摘しておきたいと思います。

労働安全衛生法においても、先般改正が行われ、MSDSが法制化されたところですが、同法はそれ以前から、第57条において、発がん性等の重篤な健康影響を及ぼす可能性のある特定の化学物質に対して、名称、成分・含有量、人体に及ぼす影響等を表示する義務を課しています。この対象物質はわずか91物質にすぎないわけですが、アスベストはこの対象物質にも含まれています。

これまで述べてきたアスベストが化学物質管理の最重要ターゲットであるという立場からも、アスベストを MSDSの対象物質に含めるべきです。


3. 「製品の要件(案)」に関する意見

@ 固有の形状を有する製品等

「製品の要件(案)」では、「固有の形状を有するもの」のうち、「取扱いの過程で指定化学物質を溶融、蒸発又は溶解しない製品(圧延加工、鍛造加工される金属の成型品を含む)」は、除外されるとされています。

そして、「製品の要件について(案)」では、以下のとおり説明されています。

「これらの製品の中には切断等の加工が行われることが想定される製品(管、板、フイルム等)があるが、ほとんどが、廃棄物に含まれての移動量しか想定されない。本法においては、移動量は補完的なものであるため、このような製品を対象にする必要はないものと考えられる。

また、圧延加工や鍛造加工が行われる金属原料については、金属を引き延ばしたり、変形させたりするが、この工程では金属等の指定化学物質を環境中に排出する可能性は極めて少ないものと考えられる。
このため、これらの製品については、対象から除くことが適当であると考えられる。」

アスベストの日本における主な使用用途は、その90%以上というほとんどが建材として利用されています。そして、多くの場合、まさに「切断等の加工」によって環境中に排出されているわけです。

提案された案では、アスベスト含有建材等を製造する事業者もPRTRの対象事業者とならず、アスベスト含有建材等にMSDSというかたちでのアスベストに関する情報がつけられないことになってしまって、問題です。

アスベスト含有建材を含めたアスベスト含有製品を、PRTR及びMSDSの対象製品に含めるべきです。

同様の考え方から、「売却され再生されるアスベスト含有製品」及び「アスベスト含有廃棄物」についても、 PRTR及びMSDSの対象製品に含めるべきであると考えます。

A 天然物の取り扱い

「製品の要件について(案)」では、「天然物の取り扱い」に関して、以下のとおり説明されています。

「天然物(鉱石等自然に存在したものを採取してなんらの加工も行われていないもの(自然から採取されたそのままの鉱物等)については、種々雑多なものの)集合体であり、その割合も一定しないことが多く、通常、どのような化学物質が含まれているか把握することが困難である。また、工業プロセスを経たものではなく製造物責任法においても製造物にはなっていないこのため法律上の『製品』としては扱わないことが適当であると考えられる。

なお、一般的に鉱石や原油は、選鉱、脱水、脱泡等の工業プロセスを経た後のものが出荷される。このようなものは、対象とすることが適当である。」

輸入される原料アスベストは、「なお書き」の説明によって、「製品」の対象となるものと考えられますが、そのことをはっきりさせるべきです。

B 含有率

含有率の要件に関しては、「製品の要件(案)」では、「指定化学物質を1%以上(ただし、発がん性の物質であることが知られている化学物質(発がん性クラス1の指定化学物質)については、0.1 %以上)含有するもの(気体の場合には、体積%、液体又は固体の場合には、重量%)とする」としています。

「発がん性クラス1の指定化学物質については0.1%以上含む製品を対象とする」という方針には賛成であり、労働安全衛生法によるMSDS等を含め、類似の化学物質管理施策に関して統一した対応がとられるようのぞみます。


4. 「PRTR対象事業者(案)」に関する意見

@ 業種

「PRTR対象事業者(案)」に関しては、3.@で述べたのと同じ趣旨から、「建設業」がPRTR対象事業者に含まれていないことが、最大の問題であると考えます。

「建設業」をPRTR対象事業者に含めるとともに、3.Aで述べた趣旨から、「アスベスト含有製品(建材等)製造業」もPRTR対象事業者に含まれることを明確にすべきです。

A 従業員数、取扱量等

「PRTR対象事業(案)」では、「従業員数」について「常用雇用者数21人以上の事業者」、「取扱量」について「人に対して発がん性クラス1の第1種指定化学物質の年間取扱量0.5トン以上(その他の第1種指定化学物質の場合は1トン以上)の事業所を有する事業者」という要件を示しています。

このような「裾切り」は、できるならば廃止し、可能な限り狭めていくという方向で、アスベスト含有製品を製
造、使用、その他取り扱いをする事業者をできるだけ広くPRTR対象事業者に含めていくべきであると考えます。当面、少なくとも、「アスベスト含有製品製造」事業者に関しては、「従業員数」及び「取扱量」による「裾切り」を廃止すべきです。


5. 国による排出量等の把握

PRTR制度においては、「定点における排出量の把握自体が困難である場合、業の特性として個々の事業者による取扱量が少ない場合等、届出義務を課すことによって、事業者の負担が排出量等の把握により得られる効果に比して相対的に過大となる場合においては、そのような業種について、個々の事業者に届出義務を課さずに国が推計により排出量を把握することが適当である」とされているところです。

アスベストに関連しては、以下の非点減等からの環境中への排出量を、国において推計、把握すべきであると考えます。

・ 「裾切り」によってPRTR対象事業者から漏れた零細事業者等からのアスベストの排出量等

・ とりわけ、建築物のアスベスト含有建材等の既存のアスベスト含有製品に係る、修繕・解体等作業によるアスベストの排出量等に関しては、本意見で述べてきたことが全面的に採用されたとしても、把握が困難な部分が残るものと考えられ、それらについて国が推計、把握すべきです。

・ アスベスト含有ブレーキ・ライニング、ブレーキ・パッド等が装備された車両の道路走行等によるアスベストの排出量等

・ 自然界に存在する排出源からのアスベストの排出量等


以上

添付資料

・ 「日本における中皮腫も年間約600件に」(49頁掲載の文書)
・ IPCS(国際化学物質安全評価計画)EHC(環境保健クライテリア)203: クリソタイル
「主な評価結果と結論の概要」、「抄録」
・ EUの新しいアスベスト指令(委員会指令1999/77/EC)(52頁掲載の文書)
・ EUの新しいアスベスト指令の「詳細な解説」(55頁掲載の文書)
・ アスベストに関するEU経済社会評議会の見解(アスベスト対策情報No.26、46頁掲載の文書)



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