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対策情報 アスベスト対策情報

●アスベスト対策情報 No.27
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(2000年2月1日発行)




石綿対策全国連絡会議第13回総会議案
1999年11月19日 東京・全建総連会議室



はじめに


● ヨーロッパがついにアスベスト禁止決定

1999年は、アスベスト禁止に向かう世界の潮流にとって画期的な年となりました。ヨーロッパ(EU)がついに、アスベストの全面禁止を決定したのです。

EUの今回の決定は、一定の有害な物質・製品の流通・使用の制限を定めた理事会指令(76/769/EEC)を根拠に、具体的な規制物質・規制内容を指示する同指令の別表Tを技術の進歩に適合させて改正するというかたちで実現しました。

5月4日の技術進歩への適合に関する委員会におけるEU加盟15か国の投票の結果、ポルトガルとギリシャを除くすべての加盟国がアスベストの全面禁止の導入に賛成。7月27日に、EUの内閣に当たる欧州委員会の承認を受け、8月6日付けの欧州共同体広報誌(オフィシャル・ジャーナル)に新しい委員会指令(1999/ 77/EC)が発表され、その20日後に発効しました。

EUレベルではすでに、1983年にはじめてクロシドライト(青石綿)の例外付き禁止が導入され(理事会指令83/478/EEC)、1991年には、クロシドライト、アモサイト(茶石綿)等の全面禁止およびクリソタイル(白石綿)についても14のカテゴリーの製品向けには禁止が導入されていました。(日本でクロシドライト、アモサイトの製造等の禁止が導入されたのは1995年です。)

残されたクリソタイル(=すべてのアスベスト)の全面禁止についても、各国レベルにおいては、1984年にノルウェーが導入したのに続いて、1993年までには、デンマーク、スウェーデン、オーストリア、オランダ、フィンランド、イタリア、ドイツと、7か国が禁止措置を導入していました。この時点でもヨーロッパ規模における禁止の導入がめざされましたが、当時は主にフランスとイギリスの反対によって実現しなかったと伝えられています。

そのフランスが、1997年1月1日からの禁止の導入に踏み切りました。1998年2月にはベルギーが続き、イギリスも同年9月に禁止を提案するに至りました。私たちは、昨年11月6日の第12回総会後の国際交流集会でイギリスとフランスの代表からその経験を直接お聞きする機会をもちました。禁止に反対すると目されていたスペインが賛成にまわったことも、この間のスペインの労働組合等の取り組みの成果であると考えられています。ここ数年間はまさに激動の時期であったと言えます。

EUの新しいアスベスト禁止指令(1999/77/EC)は、遅くとも2005年までに、加盟各国がクリソタイルを含めたすべてのアスベストを禁止する国内法令を整備・実行することを求めています。唯一の例外は、現在のところ、より安全な代替品がないとされる塩素プラントの電解槽で使用される隔膜(ダイヤフラム)向けだけです(それも2008年までと予定されています)。全面禁止と言ってよい内容だと思います。

新指令のもとにおける一番乗りとして、イギリスは、今年11月24日から国内における禁止措置を実行することを決定しました。すでに何らかの禁止措置を導入済みの9か国においても、今後新指令に沿った改正等が実行される予定です。

● 既存アスベスト対策の進展

EUレベルでは、引き続き、既存のアスベスト対策・規制の強化が検討されています。

現在1991年の理事会指令(91/382/EEC)によって、クリソタイル 0.6f/ml、クロシドライト・アモサイト等 0.3f/mlとされている曝露限界を引き下げる改正作業が欧州委員会(第5総局(労働)、上述の禁止措置は第3総局(産業)の管轄)において進められており、来(2000)年はじめには提案されるものと予測されています。これについても、フランスではすでにすべてのアスベストで0.1f/ml、イギリスは今年2月からクリソタイル 0.3f/ml、その他 0.2f/mlに引き下げています。(アメリカでは1994年からすべてのアスベストで0.1f/mlに引き下げられていますが、日本では1988年以来2f/cm3 のままです)。

また、欧州委員会では、アスベストの廃棄に関する新たな措置が必要かどうかについて検討するとしています。さらに5月18日に採択されたEU社会経済評議会のアスベストに関する「見解」(アスベスト対策情報 No.26、46頁参照)では、アスベスト使用建築物の登録制度、アスベスト使用状況確認等の義務づけ、免許(ライセンス)制度等のアスベスト除去・解体作業対策、労働者のリスク削減措置の強化、職業病リストの改善やアスベストによるがんの登録制度、実際的な実践コード等の開発、アスベスト含有廃棄物処理の代替技術開発等々、取り組みが必要な課題を提起しています。

上述のような禁止の実現およびその他の課題の前進がかちとられるなかで、それらの根拠となる科学的証拠が一層確立されてきたことが、とりわけ私たちにとって重要です。

● EU決定の波及力と反対派の動向

この数年間の激動は、ヨーロッパ域内にとどまるものではなく、とりわけ国際的なアスベスト禁止反対派、アスベスト産業、産出・輸出国による、禁止に向けた流れを食い止めようとするなりふり構わぬ妨害、反対によっても特徴づけられてきました。

カナダが、フランスのアスベスト禁止決定を、自由貿易を侵害する技術的貿易障壁であるとして、1998年 5月に世界貿易機関(WTO)に提訴したことはその最たるものです。今回の決定は、カナダの脅しに屈せず、 EUはフランスを支持するという旗色を鮮明にしたものでもあります。WTOにおける紛争解決手続は近いうちに何らかの進展を見せることが予想され、大いに注目されます。WTOがカナダの訴えを退ければアスベスト禁止に向けた世界の流れは一層決定的なものになりますし、そうでなければ紛争がさらに拡大することになるでしょう。(なお、この紛争解決手続に、当事国以外の第三者として関与を表明したのは、ブラジル、ジンバブエ、アメリカであり、前二者はカナダと立場を同じくするアスベスト産出・輸出国、アメリカは基本的にフランスを支持する意見書を提出したと伝えられています。)

EUの禁止決定の国際的波及効果としては、フランスの歴史あるアスベスト企業であるサンゴバン・グループがブラジルでのアスベスト事業撤退を表明したこと、カナダのパートナーであるはずのそのブラジルの環境大臣が、「ブラジルもEUに続いてアスベストを段階的に廃止していきたい」という決意を表明したこと、が伝わっています。

● 禁止の根拠となる科学的知見

この間の議論の中では、禁止に反対する側からは、「相対的に安全な代替物質がないのに禁止するのは問題だ(代替物質も有害である)」、「クリソタイルはクロシドライトやアモサイトよりも安全だ(クリソタイルは過大に危険視されている)」、したがって、「禁止ではなく管理使用」という主張が展開されてきました。

代替物質の相対的安全性については、欧州委員会第3総局の委託を受けた毒性、環境毒性および環境に関する科学専門委員会(CSTEE)が、1998年9月に、「クリソタイル・アスベストおよび代替候補物質に関する見解」をまとめています。ここでは、「肺と胸膜のがん、肺の繊維化…およびその他の影響の誘発に関して、セルロース、PVA(ポリ・ビニル・アルコール)、パラ・アラミッド繊維のいずれもが、クリソタイルと同等またはより大きなリスクを引き起こすことはなさそうである。発がん性および肺の繊維化の誘発に関して、CSTEE は、リスクは相対的に低いようであるという合意に達した」と結論づけています。同様の結論を得た、同年7 月のイギリス保健省の発がん性に関する委員会の報告と合わせて、幅広い包括的なレビューによって、決着がつけられました。

クリソタイルの有害性がクロシドライトやアモサイトと比較すれば相対的に低いということ自体はだれも否定するものではありませんが、だからといって禁止が必要でないということにはなりません。国際化学物質安全評価計画(IPCS)の枠組みの中で世界保健機関(WHO)等が、1998年11月に発行した環境保健クライテリア203「クリソタイル・アスベスト」は、「クリソタイル・アスベストへの曝露は、量―反応関係をもって、石綿肺、肺がんおよび中皮腫の過剰リスクをもたらす。発がん性に関する(注: これ以下なら安全だという)閾値(いきち)は確認されていない。」 「クリソタイルよりも相対的に安全な代替物質が利用可能な場合には、それらの利用が考慮されるべきである」と結論づけたことで、この問題も決着がついたと言ってよいでしょう。

スウェーデンでは、1982年にアスベストの使用禁止に踏み切ったにもかかわらず、アスベストによる中皮腫の死亡件数は今日では死亡労働災害全体よりも大きく、1960、70年代に採用された防護措置も中皮腫のリスクを減少させなかったとする研究も最近発表されています。

以上は、いずれもこの間の世界中の科学的研究をレビューしたものであり、クリソタイル・アスベストの禁止に踏み切るうえでこれ以上の科学的知見を待たなければならない必然性はありません。

● 被害の拡大を食い止めるために

アスベスト被害の拡大の予測についても、科学的な知見が前進しています。

アスベスト禁止を導入した各国においては、長期的なアスベスト被害の発生予測が実施されている国々もあり、最近、イギリスのジュリアン・ピート教授らは、イギリス、イタリア、フランス、オランダ、ドイツのデータを基礎にした研究を発表しています。これによると、西ヨーロッパにおけるアスベストによる中皮腫の死亡件数は、1998年の5,000から2018年には約9,000とほとんど2倍になり、今後35年間の合計は25万(アスベストによる肺がんもほぼ同じとして合計死亡件数は50万)にのぼると予測しています。

「石綿関連疾患診断・認定のためのヘルシンキ・クライテリア」(1997年1月)は、「西ヨーロッパや北アメリカ、日本、オーストラリアでアスベストの使用は1970年代にピークがあり、約8億人の人口に対し、現在毎年 1万人の中皮腫および2万人の石綿関連肺がんの発生が予測されている」としています。

さらに、世界労働機関(ILO)が今年4月に発表した、世界における労働災害・職業病の発生状況の推計では、「アスベストだけで、毎年10万名以上の労働者を殺している(労働災害全体の死亡者数は110万名)」としているところです。

科学的証拠が確立し、現に多数の被害者が発生、さらに将来の被害の増加が判明している中で、これ以上アスベスト禁止の導入を遅らせることは犯罪的であるとさえ言えます。ヨーロッパの仲間たちに続いて、日本におけるアスベストの禁止を一日も早く実現するとともに、世界的な禁止の実現のために一層奮闘したいと思います。


T 1998年度活動報告案


1. 第12回総会・国際交流集会

1998年11月6日に、東京・渋谷勤労福祉会館において第12回総会を開催および、引き続いて午後から「11.6 アスベスト(石綿)禁止を求める国際交流集会―アスベスト禁止に向かうヨーロッパ(英・仏)代表をて―」(東京集会)を、約70名の参加で開催しました。

国際交流集会では、基調報告として、日本でのこれまでの取り組みの経過と第12回総会で確認された方針を報告。続いて、イギリスからお招きしたロンドンハザーズセンターのミック・ホルダー氏から、アスベスト禁止の実現を目前にしているイギリスとヨーロッパの最新状況とそこにいたる被災者と家族、労働組合、市民等の闘いの経過を報告していただきました 。また、川崎大気汚染公害裁判とフランスで1996年に開始されたアスベスト裁判の比較研究のために来日中のポール・ジョバン氏が、自筆の墨絵をOHPで披露しながら報告。市民エネルギー研究所の真下俊樹氏からフランスの最新情報について紹介していただきました。

また、カナダ政府への「発がん物質・アスベスト禁止に向けた国際的な流れを妨害する世界貿易機関への提訴に対する抗議文」および日本政府への「発がん物質・アスベストの早期禁止実現いかんする要請」を採択しました。前者については、11月9日にカナダ大使館を訪れて申し入れを行い、参事官に手渡しました。

11月10日には大阪集会(エル大阪)、11日には広島集会(呉勤労プラザ)が、ミック・ホルダー氏を講師に、各々約80名、35名の参加者で開催されました。大阪集会は毎日、朝日新聞で事前報道され、広島(呉)集会は、当日の朝日新聞朝刊が報道、RCC(中国放送)が集会にカメラをもって取材し、翌12日朝7:20頃、TBS 系おはようクジラのローカル・ニュースで報道されました。また、13日には、NHKラジオ第1放送の「海外の話題」で、アスベストをめぐる国際情勢、東京集会等について報道されています。

なお、ミック・ホルダー氏は、7日には安全活動家や医師らとの交流、9日には建設職人との交流やIFBWW 東京事務所の訪問等々、あわただしい日程をこなして13日に無事離日されました。

2. 日本産業衛生学会への申し入れ

1999年5月1日付けで、日本産業衛生学会理事会、同許容濃度委員会、同石綿許容濃度小委員会宛てに、「日本におけるアスベスト禁止の実現に向けた要請」を送りました(アスベスト対策情報No.26、2頁参照)。同学会においては現在、アスベスト粉じんの許容濃度の検討が進められています。

要請内容は、@日本におけるアスベスト(クリソタイル)禁止の早期実現、Aアスベスト被害の実態の把握・将来予測、B現在なおアスベストに曝露する可能性のある労働者に対する防護措置の一層の強化、のために格段のイニシアティブを発揮していただきたいというものです。

5月2-4日に東京ビッグサイトで開催された第72回日本産業衛生学会会場で各責任者に趣旨を説明、また、4日の地域交流集会の場でも要請の趣旨を説明しました。

3. 行政への働きかけ

今年度も関係省庁との交渉を、1999年5月25-28日の4日間連続で6つの省庁と実施しました。

@ 共通要請事項

今回は、全省庁に共通の要請事項として、日本におけるクリソタイルを含めたアスベストの輸入・製造・使用等の早期禁止の実現および国際情勢に関する認識を質しましたが、省庁によってまったく認識がバラバラであることがあらためて浮き彫りになっています。(省庁交渉の詳しい報告はアスベスト対策情報No.26)

「世界の流れは禁止に向かっている。日本でも規制が必要と考えるが、うちには権限がない」という環境庁から、IMO(国際海事機関)の場で日本政府として船舶への新たなアスベスト使用禁止に賛成しているという運輸省(ただし、IMO以外の世界の動きは御存知ないようです)。

国際的な動向もそれなりに入手しながら、「@安全な管理のもとで使用すれば基本的に問題なし、しかし、 A代替品の開発、アスベスト含有量の低減化は促進する」という通産省。

労働省は、「可能な限り情報収集に努めたうえで、総合的に判断し、適切に対応してまいりたい」との官僚答弁に終始し、真意はつかみどころがありません。

建設省は@は通産省と同じですが、Aの代替化の促進に関しては、毎年担当者によってニュアンスが異なる感じ。今年は、防火性能と経済性等、市場の選択に委ねる、と最悪でした。

A 厚生省

厚生省とは数年ぶりの交渉でしたが、学校等の吹き付けアスベストが問題となった1980年代後半以来、厚生省としての役割は終わっているというばかりの認識にはあきれてしまいました(「クリソタイルというタイルにはアスベストが入っているのですか?」という発言まで飛び出す始末)。

国民の健康確保という視点からのアスベスト問題の位置づけから、廃棄物対策、「健康住宅」といったアスベストと関連する個別具体的施策にいたるまで、基本的認識を返させる必要があることを痛感させられました。

そのような中で、目新しいこととしては、厚生省関係で、人口動態統計による死亡データの中皮腫の件数が、平成7年度以降把握できるようになったことが判明したことです。平成7年度 500件、8年度 576件、9年度 597件、10年度 570件となっています。欧米諸国よりは遅れているものの、これまでの専門家による予測を上回るかなりの件数が出ているということだと思います。労働省のデータによれば、中皮腫だけでなく肺がんも含めた労災認定件数は、ここのところ20件台で推移していますから(それでも職業がんとしては最大件数)、数十分の1くらいしか労災補償を受けていないということが言えそうです。

B 運輸省

運輸省とは今回が初めてで、国際海事機関(IMO)がフランスの提案によって、新造船・現存船への新たなアスベストの使用を禁止する条約の改正を検討していることを受けて行いました。

日本政府としてこの問題についてはフランスの提案を支持していることを明言、反対がなければ改正条約が発効するのは2002年7月頃で、日本も国内法の改正によって対応したいとのことでした。

また、廃船の解撤が国外で行われ、運輸省が補助金を出してそれを促進していることから、廃船に設置されているアスベストが有害廃棄物の国境異動を規制しているバーゼル条約に抵触しないかという点も質しました。

国際的には条約の解釈が統一されていないが、日本政府(所轄は通産省と環境庁)としてはバーゼル条約の対象となるという見解です。

しかし、国内における船舶解撤、修繕作業等におけるアスベスト対策を強化していくことに関しては、運輸省の管轄ではないという消極姿勢を抜け出せませんでした。

C 建設省

建設省は、アスベストの禁止・代替化の促進について、毎年担当者によって姿勢が異なるという印象がありますが、前述のとおり今回は最低でした。

日本建築センター刊行の『既存建築物の吹付けアスベスト飛散防止処理技術指針・同解説」のアスベスト含有製品の商品名の列挙を改善せよという要請に対しては、前年の交渉後、正誤表を挟み込むことによって対応したと回答されました。

48年ぶりに建築基準法が改正され、来年施行される予定ですが、施行規則等からアスベスト建材が一掃されるよう注意していく必要があります。また、建設・通産両省によって、次期通常国会めざして、建築物解体・リサイクル制度の立法化が検討されており、これをどう活かしていくかも今後の課題です。

交渉直前に建設省が所管する渡良瀬遊水池堤防改築工事でアスベスト混合アスファルト廃棄物が千葉市内の産廃処分場に袋詰めもされずに埋め立てられていたことが朝日新聞(8月1日付け)で報じられました。主に今回の交渉後に、建設省、当該工事事務所に対して、アスベスト根絶ネットワークが事実確認等を要請していますが、十分な回答は得られていません。

廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法、所轄は厚生省)の特別管理廃棄物の対象となる廃石綿
が、吹き付け材等だけに限定されていることにも問題がありますが、厚生省は実態データすら示せませんでした。

D 労働省

建築物の解体・改修にあたって事前のアスベスト使用状況の調査、吹き付け除去作業の労働基準監督署への届出、アスベスト曝露防止対策等の義務づけが、1995年の労働安全衛生法令の改正によって導入されていながら、現場の監督署の無理解で法違反が野放しになっていることが追及されました。

また、日本産業衛生学会で石綿粉じんの許容濃度策定作業が進められていることも踏まえて、アスベストに係る管理濃度を現行の2繊維/cm3から0.1繊維/cm 3に引き下げるよう要請しました。労働省としては、日本産業衛生学会の勧告等と同時に、測定の精度や工学的技術の状況等について総合的に判断するという官僚的回答ですが、見直しを行う気はあるようなので、管理濃度の見直しと合わせて禁止の実現を強く働きかけていきたいと思います。

E 環境庁

改正大気汚染防止法の施行に関連した施策として、「建築物解体等に係るアスベスト飛散防止対策マニュアル」がリニューアルされ、今年2月に出版されました。昨年の交渉で、リニューアルに当たっては出版の前に私たちの意見を聞く機会をつくるよう要請しましたが、環境庁はこれを実行しました。昨年8月6日に、草案に対する修正要求事項を提出しましたが、ほとんどの内容が取り入れられています(しかし、重要な点で取り入れなかったものも残っています)。

改正大気汚染防止法の規制対象を、吹き付けアスベスト以外にも広げるよう引き続き求めています。

昨年度は他に、アスベスト製品の代替化の動向に関して建材製造事業者、建設事業者へのアンケート調査等を実施し、また、札幌市と千葉市の協力を得て石綿の事前使用把握調査事業を実施して、札幌市では石綿使用建築物のマップが作成されたとのことです。前者については、海外におけるアスベスト規制の動向調査と合わせてまとめられた「平成10年度石綿飛散防止対策推進基礎調査」が届けられましたが、とくに海外の動向等については石綿協会等の情報に主に依拠していて、情報も古く、不十分な内容です。

F 通商産業省

環境庁と通産省の所管で、「特定化学物質の環境への排出量の把握及び管理の改善の促進等に関する法律」が成立し(交渉時国会審議中)、来年度以降施行されることになっています。両省庁に対して、PRTR の対象物質にアスベストを含めること、MSDSの記載内容を正確かつ充実したものにさせることを要請しました。昨年の後ろ向きの姿勢から変わって適用される可能性が出てきているようで、さらにプッシュしていきたいと思います。

通産省に対しては、カナダとフランス・EUの間のアスベスト禁止をめぐる紛争において、日本としてフランスを支持するよう要請しましたが、立場を表明しませんでした。

4. 被災者、市民団体等の取り組みの支援

@ アスベスト被災者支援等の取り組み

今年3月20日、四国電力西条火力発電所の元労働者Aさんのアスベスト労災裁判の原告側証人として来日されたニューヨーク・マウントサイナイ医科大学の鈴木康之亮教授を講師に、「アスベスト被災をなくす松山集会」が開催されました。約100名の参加者で、石綿対策全国連絡会議から老田事務局次長が来賓あいさつしました。同裁判は、10月29日に、被告会社側が500万円の解決金を支払うことで和解しました。 11月18日に、新居浜市で報告集会が開催されます。Aさんのケースは、1991年に石綿対策全国連絡会議が全国安全センターと協力して初めて行った全国一斉「アスベスト・職業がん110番」に寄せられた相談でした。

7月7日には、米海軍横須賀基地の元労働者・遺族ら16名による石綿じん肺損害賠償請求裁判が横浜地裁横須賀支部に提訴されました。日米地位協定に基づく民事特別法による横浜防衛施設局に対する請求が、不当な時効解釈を理由に拒否されたことを受けたものです。防衛施設局に対する第2次集団請求も、 1月と3月に計7名によって行われています。

横須賀では、じん肺・アスベスト被災者救済基金が7月8-10日に実施した「じん肺・アスベスト健康被害ホットライン」に関東一円から76件の相談がよせられています。

全建総連による健康被害実態の把握・掘り起こしや、地域安全センターの相談活動等も地道に継続されており、石綿対策全国連絡会議としても様々なかたちでアスベスト被害者支援の取り組みに協力しています。珍しいケースとしては、戦時中の海軍航空技術廠の仕事でアスベストに曝露、一昨年悪性胸膜中皮腫で死亡され、戦傷病者戦没者遺族等援護法による補償を受けたケース、北海道富良野のアスベスト鉱山で働き、やはり一昨年都内で悪性胸膜中皮腫で死亡された方の労災認定が認められたケースなどがあります。

A 市民団体等の取り組み

アスベストに対する市民の取り組みでは、昨年10月、アスベスト根絶ネットワーク(アスネット)が、東京都中野区の「中野簡易裁判所解体工事に伴うアスベスト除去工事」の近隣住民に対する工事説明会に参加しました。これは、中野簡易裁判所跡地に、三井不動産がマンション建設を計画したもので、三井建設が解体工事のアスベストについて、近隣住民に説明会を行ったものです。しかし、当初の説明は不十分なもので、アスネットと住民の参加した工事現場の目視調査では、含有建材と疑われる26のサンプル中21からアスベストが検出されました。そのため、アスベスト除去工事は大幅に計画が変更され、さらに住民の強い要望にそって、アスベスト含有建材についても吹き付けアスベスト同様、養生内で負圧をかけて除去を行い、管理型処分場に埋め立て処分されました。この話し合いは最終的に、「吹き付けアスベスト除去およびアスベスト含有建材撤去工事における協定書」が結ばれています。この協定書には、アスベスト粉じん濃度が管理濃度(0.5f/l)を越えた場合には、ただちに作業を中断し、原因が解明し、粉じん濃度が正常になるまで作業を再開しない、との項目と、本作業に起因して将来アスベストによる疾病が発生した場合には、すべての責任を持って補償する、との項目が盛り込まれています。

この工事では、煙突の内部にアモサイト50%以上の保温材が大量に見つかっています。今までは煙突内部の保温材は見逃されがちでしたが、今後は十分に注意される必要があります。

11月には、東京都台東区上野のJR御徒町ガード下の飲食店から、屋根裏にある吹き付け材についての相談がアスネットに寄せられました。飲食店の天井裏には、アスベスト5%含有のロックウールが30mmの厚さで吹かれており、相当に劣化していました。鉄道のガード下の吹き付けアスベストについて、大規模な調査をする必要があるでしょう。

1999年2月には、東京都築地市場では、波型スレート板の葺き替え工事が行われました。除去されたスレート板は特別管理産業廃棄物として、管理型処分場に廃棄されました。除去された後には、アスネットと市場の労働組合の要望を入れて、折板屋根が葺かれました。

また、2月、神奈川県の厚木市下川入中央青年の家の解体工事に伴うアスベスト除去工事の説明会にアスネットが参加しました。県から説明があり、近隣住民の強い要望を受け、含有建材の養生・負圧による除去工事を認めました。さらに、神奈川県では、他の工事についても、県としてアスベスト建材の除去工事について、検討していきたいと答えています。

4月に、埼玉県行田市の行田駅前の「ニチイ行田支店」で、吹き付けアスベストが除去されないままに解体工事が行われているという情報がアスネットに寄せられました。埼玉県と行田労働基準監督署に連絡をしたところ、監督署では「吹き付けアスベストがあっても、水をかけて除去すれば問題ない」と発言するなど、 担当官の認識不足に驚きました。また、この件は、前年の4月に「ニチイ行田支店」は、吹き付け材の分析調査を行っており、その際アスベストの含有率は4%との調査報告書があることがわかりました。これは、解体工事でのアスベスト隠しの疑いがあるケースです。工事がストップされるまでに、8,000m 2の吹き付け材の半分以上が野放しに解体されており、解体作業者や近隣住民のアスベスト曝露は深刻です。

5月、建設省が発注した渡良瀬遊水池(栃木県)の堤防改築工事で、5%のアスベストを含むアスファルト約4,500トンが、特別管理産業廃棄物として二重の袋に梱包され千葉市内の産業廃棄物処分場に持ち込まれましたが、処分場業者は梱包を破って埋め立てたという記事が朝日新聞に報道されました。この件についてアスネットは、建設省関東地方建設局利根川上流工事事務所に出向き、話を聞いてきました。この工事は、アスベスト工事として発注されていないこと、アスベスト粉じんの測定をしていないこと、同様の工事はまだ330m分残っていること(今回の工事は2,950m)などがわかりました。これらに基づいて、現在建設省に、アスベスト含有のアスファルトを使用したダムの施工、解体工事の資料を請求しています。

現在、京都市では、高野プラザの解体工事について、近隣住民によるアスベスト除去工事の協定書が作成されています。これは、東京女学館や中野簡易裁判所解体工事における協定書を踏まえ、より前進させたもので、これからの協定書のモデルになっていくものと思われます。

また、国立大阪南病院の立て替え工事のアスベスト問題について、隣接する大阪府立長野北高校の先生から、安全なアスベスト工事についての相談がアスネットに寄せられています。

7月、東京都文京区の「さしがや保育園」で、アスベスト対策を施さないままに、改修工事が行われていると、保育園の父母からの相談があり、区の工事説明会に参加しました。工事現場を実際に確認してみると、含有建材の天井板が撤去され、吹き付けアスベストが一部はがされ、幼児が保育されていた部屋との間にはベニヤ板の仕切りがありました。この件は、現在工事のシュミレーションを行い、園児、保母さん、作業者などのアスベスト曝露量を算出する作業が進められています。今後の補償問題や再発防止対策について、文京区に対し園児の父母とともに取り組んでいきたいと思います。

5. 宣伝・広報活動

「アスベスト対策情報」は今期、No.25(1998年12月15日発行)およびNo.26(1999年8月1日)の2号発行しました。

No.25では、第12回総会議案および11.6 アスベスト禁止を求める国際交流集会の内容を報告しました。

No.26では、日本産業衛生学会に対する要請、関係6省庁交渉の報告、および、米海軍横須賀基地退職者・遺族の石綿じん肺訴訟提訴について紹介しました。

また、「はじめに」で述べた国際状況に関する資料としては、イギリスのアスベスト禁止規則改正提案(1998 年9月)、CSTEEのクリソタイル・アスベストと代替物質に関する見解(1998年9月、以上No.25)、アスベストに関するEU経済社会評議会の見解(1999年5月)、EUのアスベスト禁止決定発表(1999年7月27日)等を紹介しました。


U 1999年度活動方針案


1. 集会および宣伝・広報活動

11月19日の第13回総会においては、十分に時間をとって、各地の労働者、市民の取り組みの経験を交流する機会を持ちます。また、来春、内外の動向を踏まえて、講演集会等を企画するとともに、石綿対策全国連絡会議として行動する機会を増やしていきたいと考えています。

ヨーロッパがアスベストの全面禁止に踏み切ったという事実すらまだ十分に知られていない中で、その意義と日本における早期禁止実現の必要性をあらゆる機会をとらえて宣伝・広報していきます。

とりわけ今年度は、世界貿易機関(WTO)の紛争処理手続に進展がみられることが予想され、それは宣伝・広報の重要な契機となると考えられます。

この間方針に掲げながら実現できてこなかったホームページの開設についても、早急に実現します。

2. 行政・業界等への働きかけ

昨年に続き、日本におけるアスベスト禁止の早期実現を前面に掲げながら、政府・関係省庁に対する働きかけを強化します。

また、地方自治体や関係業界、学会、労働組合、政党等に対して働きかけを行っていきます。

3. 被災者、市民等の取り組みの支援

アスベスト問題への注意を喚起するためにも各地における様々な取り組みを支援していくことがきわめて重要になっています。参加団体の協力を得ながら、取り組んでいきます。

4. 組織の拡大・強化

石綿対策全国連絡会議の会員の拡大を図っていきます。

5. 会費等について

会費は、従来どおり、団体会員の中央単産等が年間10,000円、その他団体会員が年間5,000円、個人会員は年間2,000円とします。会費には、「アスベスト対策情報」1部の代金を含みます。


V 1999年度役員体制案

代表委員 加 藤 忠 由 (全建総連委員長)
佐 藤 晴 男 (自治労副委員長)
富 山 洋 子 (日本消費者連盟運営委員長)
広 瀬 弘 忠 (東京女子大学教授)
事務局長 古 谷 杉 郎 (全国安全センター)
同次長 老 田 靖 雄 (全建総連)
草 野 義 男 (全港湾)
永 倉 冬 史 (アスベスト根絶ネットワーク)
運営委員 吉 澤 伸 夫 (自治労)
島 修 身 (日教組)
野 沢 実 (全造船機械)
西 雅 史 (全建総連)
高 橋 厚 子 (日本消費者連盟)
西 田 隆 重 (神奈川労災職業病センター)
鈴 木 剛 (全国じん肺弁護団連絡会議)
信 太 忠 二 (個人)
名 取 雄 司 (労働者住民医療機関連絡会議)
会計監査 仁 木 由紀子 (個人)
平 野 敏 夫 (東京労働安全衛生センター)





石綿対策全国連絡会議(BANJAN)
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