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●アスベスト対策情報 No.26

米海軍基地石綿じん肺損害賠償

請求訴訟 7月7日に提訴





米海軍基地石綿じん肺損害賠償
請求訴訟 7月7日に提訴!

(社)神奈川労災職業病センター

7月7日、いよいよ基地石綿じん肺訴訟が横浜地裁横須賀支部に提訴された。基地のじん肺訴訟と してははじめてのものである。原告は米海軍横須賀基地で働き、アスベストなどの粉じん曝露が原因で じん肺になった被害者12名と同じ原因で肺がんとなり死亡した被害者1名の遺族4名で、全部で16名で ある。原告中1名を除いてほとんどが昨年、日米地位協定に基づいて損害賠償請求し時効で棄却され た請求者たちで、じん肺に時効はない!という思いを胸に秘めて、10か月間にわたる紆余曲折の準備 期間を経ながらも、晴れて今回の裁判提訴に至った。

被告は国である。もちろん、裁判では原告らの使用者として粉じん対策を怠った米軍の過失を不法行 為として争うことになるが、賠償責任は民事特別法、国家賠償法などに基づいて米軍に労務を提供した 雇用者である国にあることになり、国を被告とし、国の雇用契約に基づく安全配慮義務違反(債務不履 行違反)を追及することになる。米軍の安全配慮義務違反について国の責任を認めることについては 既に判例がある(横浜地判昭和54.3.30判時942号82頁)。

また、じん肺の時効については「もっとも重い管理区分決定から10年」という最高裁の判例(平成6.2.22 長崎じん肺訴訟)があり、最近の秩父じん肺訴訟の判決でもそれを一歩進めて時効の起算点を「死亡 時から」としており、時効で門前払いさせられた日米地位協定に基づく請求に比べて、裁判では有利に 展開できると考えられる。

請求金額は総額3億2,450万円で、原告のじん肺の症状に応じて、これまでのじん肺裁判の判決の 慰謝料の水準を踏まえて算定したものである。じん肺管理区分2の合併症が2,200万円、管理区分3の 合併症が2,750万円、管理区分4が3,300万円、遺族が3,300万円という金額となっており、被害者13 名のうちじん肺管理区分2の合併症が9名、管理区分3の合併症が1名、管理区分4が2名、肺がんで 死亡したものが1名という構成となっている。

この裁判の争点について、原告らの代理人である古川弁護士は、「最大の争点は被告に責任原因 があるかどうかであるが、米軍や被告である国が対策を怠ったという立証は容易である。必ず短期の うちに勝ち抜きたい。これまで横須賀でじん肺裁判のために積み上げてきた成果を活用して、一刻も早 く結審までもっていきたい」と確信に満ちた見通しを述べている。

私たちセンタ−などが訴訟を準備する過程で調査した結果でも、少なくとも1975年以前には基地内で アスベトなどの粉じん対策はほとんどなされてこなかったことがわかっている。そればかりでなく7日に提 訴された同裁判の訴状には、米軍や国が対策を怠った証拠として決定的事実が指摘されている。

「被告は昭和54年、56年の2年にわたり、管理2及び管理3の者について1年以内ごとに行うべきじ ん肺健診を行わず、また、じん肺所見のあるものついてエックス線写真やじん肺健康診断結果証明書 を神奈川労働基準局に提出せず、また、昭和53年のじん肺健診の結果、管理3イ等に該当する労働 者に就業場所を変更する等の措置を講ずるよう努めなかったとして昭和57年3月17日に被告の横須 賀労働基準監督署が横須賀労管所長に対して措置勧告をしている。更に、これだけでは不十分と判断 したのか、同年4月3日には被告の神奈川労働基準局長が神奈川県渉外部長に同様の要請をしてい る。その翌年の昭和58年2月23日には横須賀労働基準監督署の労働基準監督官が、横須賀労管所長あてに是正勧告を出した。その主な内容は局所排気装置の未設置や有効性の問題、粉塵作業者に 有効な呼吸用保護具を使用させていない(要するに粉塵職場にもかかわらず防塵マスクをさせていな かったということである。じん肺法施行後23年もたった時点でかかる怠慢があるということ自体驚くべき ことである等であった。そして、同日指導票が交付されたが、その内容たるや『有機溶剤を使用する職場、 粉じんを発生する職場において環境、設備、作業方法等の見直し、点検を全面的に行われたいこと』、 『有資格者の衛生管理者に権限を与え、職場の衛生管理に当たらせること』などというものであり、安全 衛生のイロハのイができていないことを如実に示すものであった。」(以上訴状より)

これによれば、基地内では1975年以前はおろか1980年代になっても、法で定められている最低限 のじん肺対策もやっていなかったことになる。しかも、何より被告である国自身がこの時期に是正勧告 を出さざるをえなかったということは、対策が遅れた動かぬ明明白白の証拠とも言えよう。被告である国 はこの決定的事実をどう裁判で釈明するのか?

この裁判の争点について、代理人の弁護士が述べているように原告側の立証が容易だとすれば、 もうひとつの注目すべきことは、いかに短期間で勝訴の判決を勝ち取れるかということである。原告ら の年齢は66歳から80歳までで既にかなり高齢の域に達している。しかし、時効にかかってくるほどに裁 判提訴が遅れたそもそもの原因を辿れば、そこに紛れもなく米軍や防衛施設局の対策の遅れが見え隠 れしていることはどうしても否定しようがない事実なのだ。そのために、補償も著しく遅れてしまったことは 原告のほとんどが、症状が進んだ退職後にじん肺の労災認定を受け、休業等の補償がされていること をみても明らかだろう。被告である国に対しては、このことも含めて謙虚な反省を促したい。そして、一刻 も早く原告らの十分な補償がなされるよう訴訟上の配慮がなされることを望みたいと思う。

命あるるうちに原告らの笑顔が見られるよう裁判の早期解決のために心あるすべての人達の支援 を請いたい。

1999年7月11日 ベース(基地)石綿じん肺訴訟決起集会(横須賀)での原告団の顔ぶれ


米海軍横須賀基地石綿
じん肺裁判について

弁護士 古川武志

7月7日、横浜地方裁判所横須賀支部に、米海軍横須賀基地石綿じん肺損害賠償請求訴訟を提出 した。いよいよ、裁判が始まるのである。

原告は16名、内訳は12名の基地従業員の退職者と、1名の死亡した退職者の遺族4名である。原 告らは、横須賀基地の艦船修理廠等で働いていた間、石綿粉じんを吸い、じん肺に罹患した。米海軍 基地には、米海軍の軍用艦を修理する艦船修理廠がある。軍用艦には、断熱材、防火材として大量の 石綿製品が使用されていた。原告らの大部分は艦船修理の際に、狭い修理船の船内で、断熱材をは がすときなどに出る石綿粉じんの曝露にあったのである。

石綿粉じんを吸入すると石綿肺というじん肺になること、並びに、これを防ぐために何をしたらよいか、 ということは、実は、昭和15年ごろには、既にわかっていたのである。更に、昭和35年には、石綿粉じ んも対象とした「じん肺法」が成立している。しかしながら横須賀基地で石綿粉じん対策が本格的にとら れたのは、昭和50年代半ばごろなどである。あまりにも遅いという他ない。国や米軍の落ち度は、極め て明瞭である。

ご存じのとおり、原告らは、昨年4月に、総理府令に基づき、防衛施設庁の労災の上積み補償を請 求したが、同庁は9月に屁理屈をこじつけて請求を却下した。このため、今回の裁判提訴となったわけ であるが、実は、防衛施設庁が請求を却下する1年前に、原告ら以外の3名の石綿粉じん曝露被災者 に労災の上積み補償をしていたのである。この事実は、今回の裁判にとっても、非常に大きな意味をも つ。つまり、この3名に上積み補償の決定をする際に、米軍の石綿粉じん対策に落ち度があったことを、 一度は、認めたということなのである。逆に言えば、米軍の落ち度が、あまりに明瞭なので、補償せざる をえないと考えたのかもしれない。

この裁判の被告は、国である。その国が一度は、米軍の落ち度を認めているのである。米軍の石綿 粉じん対策に落ち度があったとする今回の我々の主張に、国が、どう答弁するのかが、当面のこの裁 判の注目点である。官僚制度に「良心」というものがあるならば、高齢の原告のためにも、米軍の落ち 度をもう一度答弁で認めて、損害賠償に応じるべきであるが、昨年9月、請求を却下したときの状況を みると「良心」などは、かけらほどもありそうにない。だが、われわれは、被告の答弁に、良心のかけら もなければ、徹底的に追及するつもりである。

最後に、この裁判のもつ意義について。もちろん、第1の意義は、長年、じん肺に苦しんできた原告 の救済である。同時に、それにとどまらない意義をこの裁判はもっている。日本の石綿対策は、諸外国 に比べて、遅れている。現実には、建築資材として使用された石綿製品の解体、撤去も、実にいい加減 に行われている。石綿の危険性を世の中に知らしめ、世の使用者に「石綿対策をきちんとしないといず れ、損害賠償の裁判で負ける」ということを、はっきりとみせることが、石綿対策を促進することになるの である。また、米軍基地内の労働安全衛生の向上にも、必ず、役立つと考えている。






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