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総会報告 総会報告



石綿対策全国連絡会議
第15回総会議案

2001年12月3日 東京・全建総連会議室

はじめに

アスベスト禁止国は30 か国以上に

アスベスト禁止に向けた世界の流れは、昨(2000 )年9 月17- 20 日にブラジルで開催された「世界アスベスト会議」以来、ますます揺るぎないものとなっています。
自国民の健康と環境を守るためにアスベストを禁止することは、自由貿易を侵害する技術的貿易障壁なのか? 注目されていたフランス・EU 対カナダのアスベストをめぐる貿易紛争に関して、世界貿易機関(WTO )の上訴機関は今(2001 )年3 月12 日、昨年のパネル(紛争解決処理小委員会)の結論と同じく、1997 年に実行したアスベスト禁止措置を支持するという最終決定を下しました。これは、WTO の紛争解決ルールが開始されて以来、貿易を制限する何らかの措置をWTO が容認した、初めての画期的なケースでした。

アスベスト禁止をめぐる国際貿易紛争が決着をみたことにより、いまや各国が禁止措置を導入するうえでの障害はなくなりました。
今(2001 )年1 月13 日、チリは、180 日以内にあらゆる種類のアスベストおよびアスベスト含有製品の生産、輸入、供給、販売、使用を禁止する法令を公布しました(例外は、建材以外(建材は完全禁止)で、代替品がないことや安全な管理対策を立証して個別に認可を受けたもののみ)。カナダの政府とアスベスト業界等から猛烈な巻き返しの圧力とNGO や労働組合による干渉反対の運動、内外からの注目のなかで、禁止は7 月12 日に無事実施されました。同じ7 月31 日にはアルゼンチンが、過去数年間にわたる専門家、労使団体、NGO 等との検討・協議を踏まえて、2003 年1 月1 日までに(クリソタイル)アスベストとその含有製品の製造、輸入、流通を禁止する法令を公布しました(例外は、代替不可能と証明して認可を受けたもの)。

ラテンアメリカでは、すでに1980 年代半ばにエルサルバドルがアスベストを禁止しているほか、ブラジル国内のアスベスト市場の70 %以上をカバーする、オザスコ市、サンカエタノドスル州、モギミリム市とマトグラッソ州、リオデジャネイロ州、サンパウロ州が、昨年の「世界アスベスト会議」以降アスベスト禁止を導入、ブラジル連邦議会でもこの問題が検討されています(カナダのアスベスト業界は禁止反対の意見書を提出しています)。このようななかで、アルゼンチン政府は、今年10 月にブエノスアイレスで「ラテンアメリカ・アスベスト会議」を開催することを呼びかけました。

オーストラリアでは、原料アスベストの輸入は年間わずか1,500 トンにすぎませんが、全国労働安全衛生委員会(NOSHC )が2001 年3 月14 日に、2003 年12 月31 日までに(クリソタイル)アスベストの使用を禁止するという提案についてパブリック・コメントを求め、10 月17 日に禁止を決定しました(例外は、航空機・ヘリコプターと一部中古自動車用摩擦材)。NOSHC では提案にあたって、代替品の性能・健康影響面の評価、禁止の経済的影響について独自の分析結果を示していますが、約95 %を使用しているヴィクトリア州の自動車用摩擦材製造企業等と州政府、関係労働組合が上記期限までに使用を禁止するという協定を締結したことが、禁止実施時期を早めさせたようです。(ニュージーランドは、1999 年に、繊維の形状でのクロシドライト、アモサイト、クリソタイルの輸入を禁止しています)。

2005 年までに加盟諸国にアスベスト禁止(例外は、既存の電解装置用隔膜について2008 年まで)を実施することを求めた、委員会指令1999/77/EC を1999 年7 月26 日に採択した欧州連合(EU )では、加盟15 か国中すでに10 か国(1986 年デンマーク、スウェーデン、1990 年オーストリア、1991 年オランダ、1992 年フィンランド、イタリア、1993 年ドイツ、1996 年フランス、1998 年ベルギー、1999 年イギリス)が禁止措置を導入していますが、2001 年7 月、禁止反対勢力の一角であったスペインが、2002 年までに禁止することを決定したとの情報がもたらされています(EU 加盟諸国で残る、アイルランド[2000 年に導入]、ルクセンブルグ[2002 年の予定]、ギリシャ、ポルトガルも2005 年までに禁止を実施することになります)。

ヨーロッパでは他にも、1983 年アイスランド、1984 年ノルウェー、1985 年スイスがすでにアスベスト禁止を導入しており、また、EU 加盟をめざす東欧・中欧諸国も、2005 年までにアスベスト禁止を実施する計画をすでに建てているか、検討中と伝えられています(チェコ(?)、スロヴェニア(?)、1998 年ポーランド、2001 年ラトビア、スロヴァキア(2002 年までに禁止)、リトアニア(1998 年決定、2004 年までに全面禁止)、ハンガリー(2005 年までに禁止)等)。

また、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、バーレーン、クウェート、カタール、オマーンの(ペルシャ)湾岸協力会議の6 か国(2000 年8 月に方針発表→未確認)、シリア(水道管用アスベスト・セメント管の禁止)、南アフリカやアンゴラでも禁止を検討中、そして、アジアでもシンガポールが、すでに1989 年以降、建築物へのアスベスト使用を禁止しているなどの情報も伝えられているところです。
こうして(情報の精度に濃淡はありますが)、ここにあげられた国々だけでも、すでにアスベスト禁止を導入または決定していると考えられるものが34 か国にのぼっています。

1970 年代に年間使用量80 万超トンと世界最大の使用量を誇ったアメリカでは、環境保護庁(EPA )が1989 年に制定したアスベストの段階的禁止規則が、1992 年に連邦高等裁判所によって、手続不備(費用対効果、代替品使用のリスクの評価不足等)を理由に無効とされました。したがって、アメリカではいまだにアスベストの使用が合法とされている製品があるわけですが、実際の年間使用量はもはや1万トンを割っているものと思われます。さらに一昨年末頃から、モンタナ州リビーにあるバーミキュライト鉱山(アスベストが混入。園芸用等に使用されている)跡地の元労働者・住民に恐るべき被害が顕在化していることがマスコミ等でも取り上げられ、2001 年7 月には、上院の小委員会で公聴会が開催され、被災者や専門家がアメリカにおいても禁止を全面禁止を導入するよう訴えると言った事態にもなっています。9 月11 日のニューヨークの世界貿易センタービル等へのハイジャック飛行機による前代未聞のテロ攻撃の被災現場における、アスベスト汚染とその影響に対しても関心が集まっています。

●世界的禁止の攻防の焦点はアジアに


一方で、カナダを先頭としたアスベスト生産=輸出国による、禁止措置が世界中に広がることを妨害しようとする動きも止まってはいません。前述のように、チリやブラジルでは猛烈な圧力をかけ続けていますし、アルゼンチンに対しても同様な行動に出るだろうと考えられています。ヨーロッパ・セミナー等を通じて、この間、東中欧でも動めいていることも判明しています。

もっとも注目されたのは、インド労働衛生学会(IAOH )が、2001 年2 月にニューデリーで開催する年次総会で、「インドにおけるアスベスト禁止」をテーマにしたワークショップを開催しようとしたことに対する、インドと国外(とくにカナダ)のアスベスト業界から加えられた恫喝です。結局、同学会は脅しに屈せずに、ワークショップを実行しましたが、最後まで政治的・経済的圧力がかけられたようです。
少し古いデータですが、カナダのアスベスト研究所によると、1994 年の世界のクリソタイル消費国の順位は、@CIS (ロシア等)700,000 トン、A中国220,000 トン、B日本195,000 トン、Cブラジル190,000トン、Dタイ164,000 トン、Eインド123,000 トン、F韓国85,000 トン、Gイラン65,000 トン、Hフランス44,000トン、Iインドネシア43,000 トン、Jメキシコ38,000 トン、Kコロンビア30,000 トン、Lスペイン29,000 トン、Mアメリカ29,000 トン、Nターキー25,000 トン、Oマレーシア21,000 トン、P南アフリカ20,000 トン、となっています。(国別データがないのですが、1998 年では、世界消費量合計177 万7 千トンのうち、極東が70 万トン、中東・インド亜大陸が20 万トン、となっています。)

アスベスト産業にとってアジアがいかに重要なシェアを占めているか、一目瞭然でしょう。好むと好まざるとを問わず、アジアの動向が焦点化してくることは間違いありません。マレーシアでは、有力なNGOであるペナン消費者組合や労働組合がアスベスト禁止を求めるキャンペーンを開始し、後述のように労働現場の濃度基準を強化した韓国では、昨年、労働安全衛生規制に違反したアスベスト企業が刑事罰を受けたり、とくに今年になってから地下鉄公社で勤務する溶接工、ボイラー配管工など4 名が肺がん等で労災認定を受けて、アスベストによる職業病認定を受けたものが1993 年からの合計で17 名になるなど、社会問題化しそうな気配も感じられます。

●既存アスベスト対策も着々と進展


ブラジル「世界アスベスト会議」の成功を受けたかたちで、ヨーロッパでは今年6 月、イギリス、ベルギー、オランダ、スコットランドで一連のアスベスト連続行動が取り組まれています。その中核はブリュッセルのEU 議会で、東中欧諸国を含む21 か国の代表が参加した「ヨーロッパ・アスベスト・セミナー」でした。ここでは、ヨーロッパ全体でのアスベスト全面禁止を確実にするということだけでなく、予防戦略、被災者の権利、新たな調査研究の優先順位、ダブル・スタンダード(ヨーロッパの企業の海外における活動)といった幅広い問題が取り上げられています。

そして、EU 議会と理事会は今年7 月20 日、「労働におけるアスベスト曝露に関連したリスクからの労働者の防護に関する理事会指令83/477/EEC 」について、パブリックコメントを求める改正提案を発表しました。ここでは、労働現場の曝露限界値(8 時間過重平均値)を、クリソタイルについては0.6f/cm 3 、その他のアスベストについては0.3f/cm 3 という現行規制から、0.1f/cm 3 に一本化して厳しくするとされているほか、規制対象範囲の拡大、解体等作業前にアスベストと検査を実施する使用者の責任の強化、より徹底的な教育トレーニングの導入等を提案しています。また、これに対して、労働組合やNGO などはさらに、下請けで作業する自営業者も対象にすることや建築物のアスベスト登録、解体等のアスベスト作業のライセンス化等も盛り込むように要求しているところです。

0.1f/cm 3 という労働現場の濃度規制レベルは、すでにアメリカやフランス等で実行されているところですが、EU 全体で採用されることになれば、もはや世界標準になったと言ってよいでしょう。
日本と同じく、クリソタイルについて2f/cm 3 という濃度規制をとっていた韓国が、2001 年10 月10 日に、2003 年1 月1 日からこれを0.1f/cm 3 に引き下げることを決定しました。

日本でも、日本産業衛生学会が、「日本人のアスベスト曝露による肺がんと悪性中皮腫の合計生涯リスク評価値として、曝露がクリソタイルのみのとき、10 - 3 リスクを0.15f/cm 3 (10 - 4 、0.15f/cm 3 )、曝露がクリソタイル以外のアスベスト繊維を含むときは10 - 3 リスクを0.03f/cm 3 (10 - 4 、0.003f/cm 3 )」とすることを2000 年4 月に提案、2001 年4 月には、正式な評価値に格上げされました。これを受けて、(社)日本石綿協会は、今年5 月の総会で、「クリソタイル粉じん自主基準(管理濃度)」を、1f/cm 3 (曝露濃度(8 時間加重平均)だと0.5f/cm 3 に相当するとしています)から0.5f/cm 3 (同じく今度は0.15f/cm 3 に相当するとしています)に引き下げています。

日本での被害は予想どおりの増加傾向

企業や行政が重い腰をあげようとしないうちに、日本におけるアスベスト被害は、「予想どおり」の増加傾向を示しています。ほとんどがアスベストが原因と言われる独特のがんである中皮腫による死亡者数が、2000 年には710 人で、前年比1 割増、1995 年の500 人から6 年間で1.5 倍に急増していることが明らかになりました(6 年間の合計は、3,600 人)。アスベストによる肺がん死が中皮腫の2 倍あるとすれば、肺がんと中皮腫を合わせたアスベスト死は、日本でもすでに、毎年2 千人以上、6 年間で1 万人以上にのぼっていることになります。

中皮腫は、はじめてアスベストに曝露してから発病するまでの潜伏期間が、40 〜50 年間と言われています。1950 年の日本のアスベスト輸入量は6,639 トン、1960 年は77,056 トンでした。したがって、現在現われている被害は、日本のアスベスト使用量が、1976 年のピーク325,346 トンに向けて、まさに「飛躍」しようとし始めていたときの曝露を反映しているものと考えてよいでしょう。今後、何十年間かの日本のアスベスト被害はどうなるのでしょうか? さらに、このまま日本が「世界最大級のアスベスト使用大国」であり続けるとしたら、被害はどこまで拡大するのでしょうか?

現在の日本の中皮腫による死亡者数は人口100 万人当たり年6 人程度ですが、欧米工業国の数字と比べると、高い方のオーストリアやイギリス等はその4 倍程度、低い方のドイツやノルウェーでもその2 倍近い数字になっています。日本では欧米より遅れてアスベストの使用が本格化してきたこと、長年にわたる蓄積効果の影響なども考慮されるべき要素でしょう。

現在のアスベスト健康被害の多くは、アスベストへの職業曝露に起因するものだと考えられます。被災者が労働者として職業上アスベストに曝露して肺がんまたは中皮腫になったのであるとすれば、それは当然、労災補償の対象となります。1999 年度の中皮腫の労災認定件数は25 件で、2000 年の中皮腫による死亡件数647 人に占める割合は、わずか3.9 %。1999 年度の中皮腫と肺がんを合わせた労災認定件数は42 件で、肺がんを中皮腫の2 倍と仮定して肺がん中皮腫を合わせた推定死亡者数647人×3 =1,941 人に占める割合を計算してみると、わずか2.2 %。あまりにも少ない「救済率」であると言わざるを得ません。被災者本人も家族も、医療関係者も、企業も行政も、アスベスト被害の補償に無知・無理解であることの反映と考えざるを得ません。労働者以外の被災者への補償制度が確立できていないことも言うまでもありません。

欧米でも、中皮腫「流行」の当初は、この病気の被災者が「あれよあれよ」と言う間に、あまりにも早く亡くなってしまうため、経験の蓄積も体制の整備もままなりませんでした。混乱の時期がようやくすぎて、いかにして専門家の養成やネットワークづくりを進めていくか、被災者と家族(遺族)に精神的ケアも含めてどのように向き合っていたらよいか、という取り組みが開始されているという話が伝わってきています。
いずれにしろ、日本でこの問題に立ち向かうのに遅すぎるということはありません。対処すべき課題は多々あるわけですが、やはり、将来への禍根を立ちきるための禁止の導入が必要であることは間違いありません。

●自主的使用中止でアスベストがなくなるか?

私たちは2001 年2 月9 日、久しぶりに(社)日本石綿協会との話し合いを持ち、業界として使用中止の決定を下すよう求めましたが、「協会としては、管理して使用すれば安全というポジションに変更はなく、(使用中止については)検討もしていない」、という返事でした。
その約1 か月後に新聞報道されたように(3 月9 日付け朝日新聞夕刊等)、住宅屋根材製造の大手2社―クボタと松下電工がアスベストの使用中止を決定していることがわかりました。
日本の原料アスベスト輸入量は、2000 年にはじめて10 万トンの大台を割って、98,595 トンになりました(1999 年は117,143 トン)。「大手2 社使用中止を決定済み」の報道は、経済産業省にとっても「寝耳に水」だったそうですが、この2 社だけで、日本のアスベスト輸入量の約4 割を使用しているとのことです(2 社の使用中止の影響が貿易統計の数字に現われてくるのは、来(2002 )年分の数字からではないか、とのことです)。

私たちは、こうした動きを歓迎し、使用中止の動きが加速してさらに激減することを期待してはいますが、未来を各企業の自主的使用中止に任せて楽観しているわけにはいきません。
なぜなら、前述の(社)日本石綿協会の公式発言に加え、同協会でも動向を把握できない「アウトサイダー」も存在していること。協会との話し合いでも、また経済産業省の話でも、「波形スレートや中小では(技術力、資本力等から)難しい」と言われていること。経済産業省の委託で(社)日本石綿協会が実施したアンケート調査に対しても、「今後も安心してアスベストを使用できるようにすることを望む」という回答もみられていることなどがあげられます。

技術力については、すでに禁止を導入ないし決定している30 か国以上で可能なことが、日本で不可能なはずはありえないでしょう。私たちが実施した(社)日本石綿協会加盟各社宛ての「今後のアスベスト使用等に関する緊急質問」に対しては、回答をよこした企業の数は少なかったものの、「使用中止のためには法規制が必要」と答えている企業も少なくありません。経済産業省の委託で(社)日本石綿協会が実施した海外調査の「まとめ」でも、「すでに無石綿化に移行している国では、国として無石綿の方針を徹底することにより、アスベストフリーの製品が市場価値を有することとなり、その普及も容易になった」と総括されています。
2003 年末のアスベスト禁止を決定したオーストラリアの原料アスベストの年間輸入量はわずか1,500トン、イギリスは約5 千トン、フランスは約5 万5 千トンの使用のなかで、禁止を決定していることも銘記しておきたいことです。

今年度、私たちは、日本における「原料アスベスト」以外のアスベスト含有製品の輸出入の実態についても調査しました。その結果、アスベストを含有しているものも含むと考えられる製品の輸入量が、2000年に、「セメント製品」―5,810 トン、「石綿紡織品」―2,333 トン、「ブレーキ・クラッチ等の摩擦材製品」―3,272 トン、合計11,416 トンあることがわかりました。輸出の方は、2000 年に、「原料アスベスト」は0 (過去10 年間では20 〜160 トン輸出している年があります)ですが、「セメント製品」―218 トン、「石綿紡織品」―517 トン、「ブレーキ・クラッチ等の摩擦材製品」―7,264 トン、合計8,000 トンです(「セメント製品」には、石綿セメント製品だけでなく、セルロースファイバーセメント製品等も含むこと、「ブレーキ・クラッチ等の摩擦材製品」には、石綿以外のその他鉱物性材料または繊維素をもととしたものを含みます。「セメント製品」の輸入は減少傾向にあるものの、「石綿紡織製品」の輸入は減っておらず、「ブレーキ・クラッチ等の摩擦材製品」の輸入は増加しています)。
やはり、アスベストの使用禁止のためには、法規制による禁止の導入が不可欠であり、一日も早くそれを実現するための重要な山場を迎えつつあると考えます。

T 2000年度活動報告案


1. 第14回総会・世界アスベスト会議報告会

2000年12月4日、東京・全建総連本部会議室において第14回総会を開催し、引き続いて、同年9月17-20日にブラジル・オザスコ市で開催された「世界アスベスト会議」の報告会を開催しました。報告会では、石綿対策全国連絡会議の代表として世界会議に参加した、古谷杉郎事務局長と永倉冬史、名取雄司の両運営委員、大阪の環境監視研究所の中地重晴さんが、分担して世界会議の内容とともに、各々感じてきた日本での取り組みに反映すべき教訓や課題を報告しました。

第14回総会議案、世界アスベスト会議の報告、世界会議への日本からの報告「日本におけるアスベスト問題の状況と石綿対策全国連絡会議の取り組み」(日英対訳)は、「アスベスト対策情報」No.29(2001年2月1日)に収録しています。


2. (社)日本石綿協会への要請と話し合い

2001年1月に、(社)日本石綿協会に「アスベストの早期全面禁止の実現に向けた要請」を提出、2月9日に約2時間の話し合いを行いました(全国連側出席者10名、協会側6名)。これは、「はじめに」で述べたような内外情勢の動向を協会がどう受け止めているか、また、それを踏まえて協会全体としての禁止決定を決断するよう要望したものです。業界内で自主的使用禁止の動きがあるやの情報が協会内外の関係者から漏れ伝えられたこともあって、直接協会の考えを質そうという意向もありました。

結果として、「協会として使用禁止決定」という点については、前述のとおり、(個別企業が独自の判断で使用中止することはありうるとのが)「検討もしていない。協会としては、管理して使用すれば安全というポジションに変更はない」というのが公式回答でした。(要請文と話し合いの内容については、「アスベスト対策情報」No.30(2001年11月15日)に収録しています。)

10年ぶりくらいの直接対話の機会に、全国連側からも様々な提起をしましたが、最後に、全国連からの要請に対して協会側が「検討を約束した点」として、以下を確認しました。

@ 製品にだけではなく、一般消費者向けカタログ等にも、アスベストを含有していることを示す「a」マークの表示および関連情報の提供
A 新法もできて「建設リサイクル」が脚光を浴びるなかで、アスベスト含有建材がリサイクルされたり、不適切な廃棄によって飛散を起こすことなどがないようにするなどの対策の検討(波形スレート等がリサイクルに適していないという認識では一致しました)
B 過去に使われてきたアスベスト含有建材の商品名ごとの、使用年代別のアスベスト含有の有無、含有率のリストの作成
C 製品への「a」マーク表示が遵守されているかどうかの再確認

同協会の月刊誌「せきめん」の4月号には、「(社)日本石綿協会と石綿対策全国連絡会議が意見交換」として当日のやりとりの内容が紹介され、Bに関連して9月号は、「石綿含有建築材料の製造時期等一覧表」が掲載されました(71商品等(「スレート波板」はひとくくりに一括)について、一般名、商品名、主な使用箇所、石綿種類、石綿含有製造期間、を掲載。メーカー名、含有率の記載はなし。うち27商品等は現在もアスベスト含有)。私たちの要請を協会が真剣に受け止め検討していただいているものと評価していますが、今年度も再度同様の場を設定したいと考えています。

同協会が2000年11月に作成した「PRTR排出量推計マニュアル」、2001年9月作成の「窯業系建築材料切断時の粉じん対策マニュアル」(カラー頁付き本文39頁、1冊1,500円で非会員にも提供)は、提供していただきました。また、繊維状物質研究協議会((社)日本石綿協会のほか、硝子繊維協会、ロックウール工業会、セラミックファイバー工業会、日本化学繊維協会、ウィスカ懇親会で構成)が2001年7月16日に開催した「繊維状物質の生体影響に関する最近の研究動向に係るセミナー」、および、(社)日本石綿協会単独で同年9月20日に開催された「石綿・結晶性シリカの問題と動向講習会には、いずれも石綿対策全国連絡会議の代表も参加しました。


3. 協会加盟各社に対する「今後のアスベスト使用等に関する緊急質問

(社)日本石綿協会との話し合いの約1か月後に、「住宅屋根用アスベスト、大手2社 使用中止へ、クボタ・松下電工 輸入の4割分」等との新聞報道がなされました(3月9日付け朝日新聞夕刊等)。この新聞方を見た方々からの問い合わせが何件か全国連にありましたが、「昨年自宅を建築したが、新聞記事を見るまで、使用した屋根材にアスベストが入っていることを誰からも知らされていなかった。わかっていれば使わなかった」という話もありました。

これを受けて、石綿対策全国連ではただちに、(社)日本石綿協会加盟各社(2000年度末時点の会員名簿掲載78社(正会員67社、輸入・販売業者11)社に対して、「今後のアスベスト使用等に関する緊急質問」を発送しました。

回答があったのは全体で10社にとどまりました。そのうち質問項目への具体的回答があったのは8社(すべて製造会社)で、今後アスベストの使用中止を、「決定済み」が2社(今年度中)[内1社は1,000トン]、「時期未定だが決定済み」が1社[50トン]、「決定していないが検討中」が2社[200トンと280トン]は、「すでに使用していない」が3社、でした([ ]内は2000年のアスベスト使用量)。

日本でアスベストを全面的に使用中止にするために必要なことは?との問いに対しては、「代替化技術」と答えたもの3社、「価格差の解消」が2社、「消費者ニーズの高まり」が2社、「法令による規制」が2社。法令による全面使用禁止の導入が、「必要だと思う」と答えたのが3社、「必要だとは思わない」が3社、という結果でした。(質問状と回答の概要については、「アスベスト対策情報」No.30(2001年11月15日)に収録しています。)

経済産業省の委託で(社)日本石綿協会が実施したアンケート調査の結果等と比較してみると、使用中止により熱心ではない企業からは、回答が寄せられなかったのではないかと考えられます。日本のアスベスト使用中止の未来を企業の自主的中止だけに任せておくことはできないことを再確認するとともに、自力で使用中止ができない中小企業等のためにも、使用中止の法的裏づけ=強制および何らかの援助が必要かどうかを検討することが求められているのではないかと考えさせられる結果であると思います。


3. 労働現場のアスベスト濃度規制

石綿対策全国連絡会議では1999年5月に、日本産業衛生学会、同許容濃度に関する委員会、同石綿許容濃度小委員会に対して、「日本におけるアスベスト禁止の実現に向けた要請」を行いました。2000年4月25日、日本産業衛生学会許容濃度に関する委員会は、「日本人のアスベスト曝露による肺がんと悪性中皮腫の合計生涯リスク評価値として、曝露がクリソタイルのみのとき、10-3リスクを0.15f/cm3(10-4、0.15f/cm3)、曝露がクリソタイル以外のアスベスト繊維を含むときは10-3リスクを0.03f/cm3(10-4、0.003f/cm3)」とすることを勧告しました。1年間、学会員の意見を求めたうえで、異論なく2001年4月に、これは正式な評価値に格上げされました。

これを受けて、(社)日本石綿協会は、2001年5月の総会で、「クリソタイル粉じん自主基準(管理濃度)」を、1f/cm3から0.5f/cm3に引き下げました(2002年1月1日から発効)。同協会では、世界保健機関(WHO)がクリソタイル石綿に勧告していた曝露濃度0.5f/cm3をベースとして管理濃度1f/cm3(曝露濃度=管理濃度×0.5)を設定していましたが、今回は、管理濃度0.5f/cm3でよい作業管理を維持していれば、曝露濃度0.15f/cm3以下は十分達成できると説明しています(曝露濃度=管理濃度×(0.3〜0.4))。

このような民間レベルの対応が進んでいるにもかかわらず、厚生労働省(旧労働省)が、昨年度(20

00年6月15日)の交渉で「近いうちに見直しを行う」意向を明らかにしたにもかかわらず、今年度(2001年6月25日の時点で)も、「まだ検討会を参集していない、目途もまだ言えない」としていることは、あまりに遅きに失しすぎます。管理濃度と曝露濃度の違いはさておき、「はじめに」で紹介したように、アメリカやフランス等に次いで、日本と同じく2f/cm3というレベルだった韓国が引き下げをし、EU指令の引き下げが現在提案されているように、「0.1f/cm3」が「国際標準」になっていることを踏まえた迅速な対応が求められます。

また、後述の省庁の委託調査報告書などを読むと、環境中のアスベスト粉じん濃度について、労働安全衛生法に基づく現行管理濃度(2f/cm3)を下回っているので安心だといった記述を目にします。しかし、現時点の国際標準と言える0.1f/cm3という物差しで比較するととても安全とは言えないといった場合も少なくなく、過去の危険性(リスク)評価の結果についても相対的に見直す必要があると考えられます。


4. 行政への働きかけ

従来関係6省庁と交渉を行ってきましたが、2001年に省庁再編が実行されたため、今年度は、2001年6月25日と7月9日の2日かけて、環境省(旧環境庁)、厚生労働省(旧労働省と旧厚生省)、国土交通省(旧建設省と旧運輸省)、経済産業省(旧通商産業省)の関係4省との交渉を実施しました(交渉の報告は、「アスベスト対策情報」No.30(2001年11月15日)に収録しています)。


@ 共通的要請事項

「要請書前文で述べたような内外の情勢を踏まえ、日本においてもクリソタイルを含めたアスベストの輸入・製造・使用等の禁止を早急に実現するようイニシアティブを発揮されたい。内外情勢に関する貴省としての認識もお聞かせ願いたい」を、4省共通の要請事項として盛り込みました。全般的に、一昨年、昨年よりは、アスベスト禁止に向かう世界の流れについて一定の情報把握をするようになってきているという印象を受けましたが、2001年3月の世界貿易機関(WTO)上訴機関の裁決については、4省とも事実は承知していたものの、裁定文の本文に目を通しているところは皆無でした。積極的に全面禁止導入に向けてのイニシアティブをとろうという役所も、いまだ現われていません。

要望事項としては別立てにしましたが、以下の3項目についても、ほぼ(後の2項目は経済産業省を除く)共通要望事項として要望しました。

「総合的なアスベスト対策を確立するための、責任体制をはっきりとさせた、関係省庁連絡会を開催するようにされたい。」

「アスベスト処理工事の届出という観点からみると、労働安全衛生法、大気汚染防止法、廃棄物処理法および地方自治体の条例等に基づくものに、[今回]さらに建設リサイクル法に基づく届出が加わることになる。この際、共通する部分に関しては、最も網のかけ方の広い届出対象に斉一化するようにされたい。」

「同様に、労働安全衛生法、大気汚染防止法、廃棄物処理法、建設リサイクル法および地方自治体の条例等が適正に遵守されているかどうかを関係省庁・地方自治体等が共同で調査・監督する体制を確立するようにされたい。」

結果は、縦割り行政の弊害がそのまま現われたかたちで、いずこもやる気のない回答にとどまり、後述の政党の回答状況と比べてもかけ離れています。官僚機構に対しての働きかけだけでは、こうした省庁横断的な施策を実現することは困難ということでもあると思います。

さらに、現行の関係法令で規制の網がほとんどかかっていない、「非飛散性アスベスト」について、旧建設省の大臣官房官庁営繕部が2000年3月31日付けの通知(営計発第44号「非飛散性アスベスト含有建材の取扱いについて」)で、自ら発注する直轄工事において、アスベスト成形板(化粧石膏ボード、ビニル床タイル等々)についても飛散性アスベスト=吹き付け等に準じた対策をとるよう指示していることを、他省の関係者にも知らせて、各々の所管する規制場面においても「非飛散性アスベスト」も規制の対象とするよう要望したところです。

また、今年度は、旧6省庁分について、過去アスベストに関する委託調査等として行ってきた調査・研究の内容を明らかにするとともに、その成果物(報告書)を提供するかコピーをとらせてもらうように要望しました。一部は、これまでも折々に聞いたり、提供してもらったりしていたものを、あらためて整理・再確認するという面もありました。結果、旧労働省分を除く省庁については、おおむね学校の吹き付けアスベストが社会問題化した1987、8年前後移行の状況を確認し、報告書を提供されるかコピーすることができました。旧労働省(厚生労働省労働基準局)に関しては、過去3年度分の委託調査しか示さず、報告書についても情報公開法に基づく開示請求をしなければ提供できない、という対応でした。他省と比べてあまりにもひどい対応であり、是正させる必要を痛感しますが、ともかく過去3年度分の報告書を入手しています。これらの内容についても、手分けして分析しようとしているところです。


A 環境省

吹き付けアスベストの除去を伴う建築物の解体・改修作業の届出等を義務づけた1996年の大気汚染防止法改正に関連して、「石綿飛散防止対策基礎調査」が実施されてきましたが、「建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル」の策定(1996年)と改訂(1998年)、「石綿建築物事前把握手法等の調査」、「改正大防法に係る届出・認知状況調査」、「一般向け・事業者向け・自治体向け手引の作成」等を行ってきて、吹き付けアスベストに関わる飛散防止対策については一段落ついたかなという感じ、今後、吹き付け以外の形態のアスベストについて研究していきたいという認識が示されました。

大防法を所管する環境管理局大気環境課は、どしどし提案を寄せてほしいという姿勢なので、私たちの積極的な提起が必要です。

PRTRに関しては、2001年度から企業による排出量等の把握が開始され、そのデータが提出される来年度に合わせて、裾切り要件から漏れる事業者や非点源からの排出量等の推定を行政においてやらなければならなくなるわけですが、アスベストに関する具体的対応はまだこれからという模様でした。

旧厚生省の所管だった廃棄物処理関係が環境省に移管されていますが、以前からこの部門は、実情把握も含めて自治体まかせで中央官庁としては関知しないという姿勢なので、建設リサイクル法の施行に伴いアスベスト含有建設廃棄物の動向について関心を持たせるところから始めなけれればなりません。


B 厚生労働省

労働者の健康と国民の健康を所管する旧労働省と旧厚生省が合体したことの意義を、アスベスト対策で発揮するよう強く求めています。「はじめに」でもふれたように、「アスベストの健康影響のメルクマールともされる中皮腫」について、国民の総死亡件数と労災補償件数が、同じ役所のなかで把握されていることから始めて、実態把握と将来予測、対策の確立を急ぐべきだという要望です。

アスベスト健康被害が労働者にとっても、国民全体にとっても、すでに甚大なものになっているばかりか、激増していくことは間違いないということを、「対策の遅れによって低減できなかった分は行政の責任が追及されることにもなる」という言い方を含めて、共通認識とするべく努力しましたが、まだまだ深刻に受けとられていないのが実情と言わざるを得ないでしょう。各省間の連絡会議もさることながら、厚生労働省に関しては、省内関係部局の連絡会を早急に立ちあげるように強く迫りました。

アスベストに係る作業環境評価基準(管理濃度)見直しの作業が、いまだに具体化されていないことは前述したとおりです。


C 国土交通省

新たに施行される建設リサイクル法をめぐっては、様々なやりとりができました。「アスベスト含有建材は、現時点では、『有害物質等を含むなど分別解体および再資源化等が困難となる素材』として、『非使用―使用しないようにしようという努力規定』の対象となる」、という認識を確認できたことは重要だと考えます。

(社)日本石綿協会も私たちとの話し合いで、「波形スレート等はリサイクルには適さない」ことを明言しているものの、関係業者のアンケートなどをみると、リサイクルされるべきではないアスベスト含有建材が、リサイクルされたり、不適切に廃棄されてしまう―しかも、それが建設リサイクル法の施行によってかえって増大されてしまうかもしれない、という危惧がぬぐいきれないからです。

国土交通省とのやりとりでも、「リサイクルの促進」という法律の目的の裏側にある個々の建材について十分な周知が図られるかどうか疑問があり、各方面への働きかけの強化が求められます。何といっても、この際、「非使用」の促進が図られるべきです。

前述の2000年3月の旧建設省通知「非飛散性アスベストの取扱いについて」、および、廃棄対策について同様の趣旨を示した1998年12月改訂の旧建設省の「改訂版 建設副産物適正処理推進要項」(石綿セメント板、ビニール床タイル(Pタイル)、珪酸カルシウム板、ロックウール化粧吸音板等の「非飛散性」アスベストも、「粉砕することによってアスベスト粉じんが飛散するおそれがあるので、粉砕しないように解体するとともに、安易に破砕して粉じん飛散を起こさないよう、できるだけ直接埋立処分することが望ましい」と行政指導しています)も最大限活用しながら、民間建設工事や建設工事以外のアスベスト関係規制・対策の対象を「非飛散性アスベスト」にまで拡大していくことが求められています。


D 経済産業省

経済産業者がアスベスト製品製造業者からのアンケートによって把握している、アスベストの製品別使用量の概況等について、これまでより詳しい情報を聞くことができました。クボタと松下電工が使用中止を決定していたことは、新聞報道に接するまで知らなかったとのことですが、この2社だけで日本のアスベスト輸入量の40%くらい占めているので、5万トンくらいまでかなり激減するのではないかとの見通しが話されました(ただし、見えてくるのは2002年の数字から)。

一方で、「大手企業は、資本力、技術力があり、ユーザーと対等とは言わないまでもそんなに弱い立場ではないということもある。問題は残ったところで、波形ストレートや中小は、努力はしていても、結構難しい」ともしています。

同省は、1990年、91年頃から、(社)日本石綿協会に委託してきた「石綿含有率低減化製品等調査委託事業」が昨(2000)年度で打ち切り、波形スレート協会を支援してきた中小企業近代化促進法に基づく構造改善事業もあと3年で打ち切られるとのこと。何らかのかたちで代替化や業種転換等の支援を続けたいとは考えているが、新たな予算の獲得は困難ということのようで、このような問題に対処するためにも、アスベストの法的全面委禁止という新機軸が必要かつ有用なのではないかと考えます。


E 全建総連のゼネコン労働環境改善要


全建総連(全国建設労働組合総連合)・関東地方協議会は、2001年4月26-27日に実施した「第34回建設・住宅企業交渉を行い、そのなかで「労働環境改善」としてアスベスト建材の使用に関する方針を、ゼネコン36社に対して質しています。

「使用していない」と答えたのは、15社(竹中工務店、熊谷組、戸田工務店、ハザマ、佐藤工業、東急建設、青木建設、飛島建設、不動建設、東洋建設、松村組、鉄建建設、新菱冷熱、高砂冷熱工業、日産建設の各社)。

「使用しないようにしていく」と答えたのが2社(大林組、前田建設工業)、「やむを得ず使用することがある」が1社(清水建設)、「検討中」が1社(鹿島建設)、「管理して使用するという立場」が2社(大成建設、三井建設)、無回答が15社、という結果になっています。

5. 政党に対する「アスベスト対策に関する質問」

石綿対策全国連絡会議では、2001年7月、参議院選挙に向けて政党交付金助成届出政党と日本共産党に対して、「アスベスト対策に関する質問状」を送付しました。これは、関係各省要請文の前書きに述べたのと同じく内外情勢を詳しく説明しながら、@日本におけるアスベスト全面禁止、Aアスベスト被害の実態把握と将来予測、B既存アスベストの現状把握と除去対策、C既存アスベストに対する規制の強化、D各省にまたがった規制の斉一化と共同調査・監視体制、各々の必要性についての意見を求めたものです。

回答が寄せられたのは、民主党、自由党、公明党、保守党、二院クラブ、日本共産党、社会民主党の7政党でした。自由党以外の6政党からは、いずれの質問に対しても肯定的な回答をいただいています。(質問状と回答内容については、「アスベスト対策情報」No.30(2001年11月15日)に収録しています。)


6. 被災者、市民団体等の取り組みの支援

@ アスベスト被災者支援等の取り組み

はじめにでも述べたように、すでに年間2千人以上とも予測されるアスベストがんによる死亡者数のかなりの部分がアスベストへの職業曝露に起因するものと考えられるにもかかわらず、実際に労災補償を受けた被災者・遺族の数は2%程度とも推定される微々たるものにすぎません。(都道府県別データも含めて、くわしくは「アスベスト対策情報」No.30(2001年11月15日)72-73頁を参照してください。)

この間も、全建総連等の労働組合や各地の安全センター等により、潜在している被害の掘り起こしと、被災者支援の取り組みが進められています。アスベストによる肺がんと中皮腫を合わせて、労災補償件数が1998、99年に42件という数字は、それでもこうした取り組みによって、以前から比べると増加した結果なのです。関係団体へ寄せられる相談でも、30、40歳代の若年時発症を含めた中皮腫の事例が目立って増えていることが、この間の目立った特徴です。

欧米の経験を見聞きしていても、中皮腫増加の初期段階では、あれよあれよと言うまに患者が亡くなってしまう中で、総括もされず、経験も蓄積されない事態が続いた後で、「これではいけない」と、中皮腫患者のケアに関する専門的トレーニングの必要性やネットワークなどが議論、実践されているところです。医師、医療スタッフ、医療機関にとっても、診断や補償に対する理解だけにとどまらず、中皮腫という病気と、また、患者・家族とどう向き合っていくのかが問われるときが、すぐそこまできていると言えそうです。

アメリカ海軍横須賀基地の元労働者・遺族16名による石綿じん肺損害賠償請求裁判は、被告国側の裁判引き延ばしを許さず、来春にも結審、判決を迎える予定です。日米地位協定に基づく直接請求の第2陣等についても、裁判の追加提訴も含めて検討されているところです。

この裁判の支援を含め、横須賀地域でのアスベスト被害の掘り起こしの中心となってきたじん肺・アスベスト被災者救済基金が、2001年7月7-9日に行われた第5回じん肺・アスベスト健康被害ホットラインには58件もの相談が寄せられています。同基金や被災者の会、神奈川労災職業病センターは、2001年3月18-31日に、「写真展●基地・造船の街ヨコスカ じん肺・アスベスト被害―生きる、怒る、支える―」も開催しています。ブラジルの世界アスベスト会議の「南アフリカ写真展」等も含め、この間の国際交流の蓄積から話がはずみ、2001年9月21-23日にオーストリア・ウィーンで開催された第8回ヨーロッパ・ワークハザーズ会議の会場で、日本(横須賀)とイギリス、南アフリカ3か国のアスベストに関するジョイント写真展も実現しました。

アスベスト曝露の機会が多い造船労働者によるじん肺労災損害賠償裁判として、横須賀に続く三菱長船じん肺訴訟(長崎)、肺がんで死亡した元旭硝子船橋工場労働者の遺族による労災認定をめぐる行政裁判、家庭内曝露によるアスベスト被害を問う日本で初めての損害賠償裁判(父親が元エタニットパイプ大宮工場で働いていたという息子がアスベストがんにより42歳で死亡)が争われているほか、2001年2月には、四国電力アスベスト裁判を記録した『石綿曝露―四国電力労災死事件訴訟』(愛媛労働安全衛生センター、本体1,900円、発行: 晴耕雨読(TEL 089-933-3273)が発行されています。

A 市民団体等の取り組み

一昨年夏に起きた東京都文京区のさしがや保育園の違法改修工事・園児らのアスベスト曝露問題は、文京区がアスベスト除去工事に際して実施されたシミュレーションや関係者からの聞き取り等に基づいて実際の曝露量を推定し、さらに、曝露を受けた子供たちらの健康リスクを推定して、必要と考えられる対策を提言するための「文京区さしがや保育園アスベスト曝露による健康対策等検討委員会」(委員長: 内山巌雄国立公衆衛生院労働衛生部長)を設置し検討を続けています。この委員会には、古谷杉郎事務局長、名取雄司運営委員、永倉冬史事務局次長の3名が全国連から父母の推薦によって委員に選ばれ、昨年に続き検討が進められています。現在、子供たちらの曝露量の推定値が確定し、リスク値の推定から健康対策へと検討委員会の山場にさしかかっています。

さしがや保育園で曝露を受けた子供らのお母さんが、文京区内の5件の解体工事現場で工事業者や区の環境課にアスベスト除去の確認を行っています。そのうちの1件は、アスベストが吹き付けられている鉄骨がまさに違法に解体されようとしているところを、直前に工事を止めて粉じん防止対策を取らせる事ができました。また、これらの5件の工事現場共に、特化則38条に規定されているアスベストの事前調査と調査の記録保管を行っていない違法な工事でした。大阪からの報告では、同様の解体工事の事前調査について公共工事を含む6件の工事現場で調べたところ、すべての工事現場でアスベストの事前調査と調査の記録保管を行っていませんでした。

青森市内からは、債権整理機構が所有するパチンコ店の解体工事で、吹き付けアスベストがあるにもかかわらず、粉じん防止対策が取られずに工事が行われているという報告がありました。青森県庁の生活環境課に問い合わせた所、なかなか調査しようとしない腰の重い対応でしたが、環境庁に電話でこの件について緊急に調べて指導してほしい旨要請したところ、急に態度が変わりこれからもどんどん通報してほしいとのことでした。この件では、廃石綿の廃棄について最終処分場の受け入れ先が県内にはなく、他県に問い合わせているが難しいとの担当者の話がありました。

北海道の旭川からは、最終処分場内の埋め立てられているはずの廃石綿が露出し、アスベストと記載のある黄色い袋が破れ、中のアスベストが剥き出しになっている衝撃的な写真が送られてきました。これは、産業廃棄物処分場の拡張に反対する近隣住民たちの運動の経過のなかで、処分場内を視察した時に見つかったもので、旭川市のずさんな産業廃棄物の管理が露呈したものです。この剥き出しになったアスベストは、ビニールの袋に再び詰められ埋め立て処分されましたが、詰めなおしの作業は、なんの粉じん対策もとられていない中で、作業者は防じん服もマスクもせずに行われるというお粗末なものでした。作業者は高濃度の曝露をし、周辺にもアスベスト粉じんを撒き散らした事でしょう。旭川市の行政責任が問われます。

東京都大田区の雪谷保健福祉センター雪谷庁舎の改修工事に伴うアスベスト撤去工事が昨年9月に行われましたが、近隣の住民から工事がずさんであった点が指摘され、工事の届出書や設計図面を情報公開手続きにより入手し分析中です。このアスベスト撤去工事では、アスベスト含有建材の使用面積について記載がなく、一般の建材として解体廃棄処分されている点、配管のエルボー部分や排気口のパッキンについての言及がないこと、煙突内のカポスタックのアスベスト調査がされていない事など、アスベスト工事としては十分な配慮がされていない公共工事であったといえるようです。また、同じ工事について実際の工事期間ではない平成13年1月から3月までの工期の工事請負契約書が、平成12年9月の工事届とは別に存在するなど不明な点があります。今後の調査の継続が必要です。

また、家の建材にアスベストは含まれてはいないか、どうしたらそれが判るか。現在住んでいるアパートの鉄骨の吹き付け材はアスベストではないか。職場の吹き付け材が設計図面ではアスベストとなっているが、調査報告を見てほしい。など、身近な建材についての問い合わせが増えています。これらに答えていく体制が求められていくと思われます。


7. 宣伝・広報活動

「アスベスト対策情報」は、今期中には、No.29(2001年2月1日)のみの発行でしたが、2001年11月15日に、No.30も発行しました。

No.29では、第14回総会議案、世界アスベスト会議報告、世界アスベスト会議への日本からの報告(日英対訳)を掲載しました。

No.30には、(社)日本石綿協会に対する要請と話し合いの内容、同協会加盟各社への緊急質問、政党に対する「アスベスト対策に関する質問」、関係4省交渉の記録と関係資料を収録しました。

今年度も可能な限りマスコミ等に対する情報提供に努めてきましたが、特筆すべきは、ジャパンタイムズの2001年7月29日日曜版で、まるまる1面を使って、「Every breath you take」、「What you don't know can hurt you」というタイトルで、東京都文京区の保育園改修工事の問題を中心に、日本におけるアスベスト問題が紹介されたことです。英文ニュースの配信には、私たちのところにも内外から問い合わせがありました。


U 2001年度活動方針案

1. 集会および宣伝・広報活動
日本におけるアスベストの早期全面禁止実現の必要性および内外情勢の進展等について、あらゆる機会をとらえて宣伝・広報していくとともに、タイムリーな機会をとらえて集会、署名等の取り組みを展開していきます。
とりわけ、日本でも現実にアスベストによる健康被害が顕在化しつつあり、今後の急増の不可避性と対策が急務であること、世界的趨勢のなかで日本を含むアジアの動向が最も注目されること、などに焦点を当てていく必要があると考えます。

2. 行政・業界・政党等への働きかけ
日本のアスベスト関連業界、また、建設業界等に対して、アスベスト使用の中止と禁止導入への支持を働きかけていきます。
日本におけるアスベスト禁止の早期実現を関係各省に強く働きかけるとともに、政府、政党・政治家、労働組合等に対する働きかけも強化します。

3. 被災者、市民等の取り組みの支援
参加団体の協力を得ながら、取り組んでいきます。とくに、増加を示している中皮腫の被災者・家族の自立自助・相互援助の体制および医療的、経済的、精神的サポート体制のあり方を検討していきます。被災者・家族の生の声を対行政交渉等に反映させるよう努力していきます。

4. 組織の拡大・強化
石綿対策全国連絡会議の会員の拡大を図っていきます。

5. 会費等について
会費は、従来どおり、団体会員の中央単産等が年間10,000円、その他団体会員が年間5,000円、個人会員は年間2,000円とします。会費には、「アスベスト対策情報」1部の代金を含みます。


V 2001年度役員体制案


代表委員
加 藤 忠 由 (全建総連委員長)
佐 藤 晴 男 (自治労副委員長)
富 山 洋 子 (日本消費者連盟運営委員長)
広 瀬 弘 忠 (東京女子大学教授)

事務局長
古 谷 杉 郎 (全国安全センター)

同次長
老 田 靖 雄 (全建総連)
草 野 義 男 (全港湾)
永 倉 冬 史 (アスベスト根絶ネットワーク)

運営委員
吉 澤 伸 夫 (自治労)
水 口 欣 也 (全造船機械)
西 雅 史 (全建総連)
吉 村 栄 二 (日本消費者連盟)
西 田 隆 重 (神奈川労災職業病センター)
鈴 木 剛 (全国じん肺弁護団連絡会議)
信 太 忠 二 (個人)
名 取 雄 司 (労働者住民医療機関連絡会議)
大 内 加寿子 (アスベストについて考える会)
林 充 孝 (じん肺・アスベスト被災者救済基金)

会計監査
仁 木 由紀子 (個人)
平 野 敏 夫 (東京労働安全衛生センター)



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