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 練馬区長 志村豊志郎様

 

練馬区小中学校吹き付けアスベスト調査報告

 

2003(平成15)年8月26日

 

アスベスト根絶ネットワーク          永倉冬史

早稲田大学理工学部           教授 村山武彦

医療法人社団 ひらの亀戸ひまわり診療所 医師 名取雄司

東京労働安全衛生センター 作業環境測定士   外山尚紀

アスベスト環境コンサルタント         大越慶二

 

 

私たち5名は、今回練馬区が行った区立施設吹きつけアスベスト調査に関し、現状の確認をふまえた同調査結果の専門的な評価を行うべく、8181923日の3日間にわたって練馬区立小中学校計7校を視察した。以下は、視察を終えてとりまとめたレポートである。なお、視察には教育委員会学校教育部施設課長が同行し、当該校ならびに今回の区の調査全般に関する説明を行った。このレポートが、アスベスト問題に対する区の知見を豊富にし、かつ、児童・生徒、区民、職員の健康を守るために緊要とされる今後の除去対策等の適切な企画・実施に寄与することを願うものである。

 


 


T.目視調査の実施結果について

 

1.第1回目視調査の実施

 

2003年8月18日、19日両日で、以下の練馬区6施設のアスベスト調査を、永倉が練馬区施設課長吉本卓裕氏同行の元で、行った。

 

(1)関町北小学校

    体育館棟1階の第2音楽室、音楽準備室、ミーティングルーム、準備室、集会室の各部屋は天井の吹き付けアスベスト(区調査ではクリソタイル39%含有ロックウール)除去は完了していた。一部、軽鉄が組まれ天井板が張られていた。アスベストを除去した天井面はきれいな仕上がりであったが、グラインダー掛け、飛散防止材の塗布はされていなかった。

    南校舎2階の普通教室6教室(1−1から22教室)は、すべての部屋の天井にアスベスト含有ロックウール(区調査ではクリソタイル12%含有)が全面に吹き付けてあった。すべての部屋で吹き付け材の人為的な劣化が見られ、ボールをぶつけた跡、靴底の跡が見られる部屋があった。

    南校舎3階の普通教室6教室(2−3から34教室)は、すべての部屋の天井にアスベスト含有ロックウール(区調査ではクリソタイル12%含有)が全面に吹き付けてあった。すべての部屋で吹き付け材の人為的な劣化が見られ、ボールをぶつけた跡、ブラシ等でこすったと思われる跡、棒等で引っかいたと思われる傷が見られる部屋があった。一部の部屋では、黒板の上の壁板をはめ込む際に生じたと思われる天井の傷があった。

 

(2)中村中学校

    3階外国語LL教室の天井アスベスト含有ロックウール(区調査ではクリソタイル43%含有)は、ビニール養生内で除去工事中であった。

 

(3)豊玉中学校

    1階用品倉庫の天井のアスベスト含有ロックウール(区調査ではクリソタイル87%含有)除去工事の養生設置前、天井の蛍光灯を撤去した後であった。蛍光灯をはずした際のアスベストのかたまりが床に落ちていた。

 

(4)北町西小学校

    1階図画工作準備室天井のアスベスト含有ロックウール(区調査ではクリソタイル30%含有)の除去は完了していた。

    1PTA室は、天井にアスベスト含有ロックウール(区調査ではクリソタイル18%含有)が全面に吹き付けてあった。ボールをぶつけた跡、棒等で引っかいたと思われる傷がおおく見られた。

 

(5)向山小学校

    1階視聴覚室は、天井にアスベスト含有ロックウール(区調査ではクリソタイル4%含有)が全面に吹き付けてあった。ボールをぶつけた跡、棒等で引っかいたと思われる傷がおおく見られた。天井に設置された木枠を止める金具が、その部分のアスベストを取り除いた上でビス止めされていた。(違法工事が行われた可能性がある。)

    3階児童会室倉庫天井のアスベスト含有ロックウール(区調査ではクリソタイル37%含有)の除去は完了していた。天井板は木毛板であったということで、吹き付け材と木毛板双方を撤去していた。

    3階児童会室倉庫となりの児童会室は、事前の調査ではアスベストがないとされたが、窓のカーテンボックスの外側に吹き付け材が窓枠に沿って残っている事が判明した。追加の成分調査が必要と思われた。

 

(6)旭丘小学校

    集会室及び屋内運動場の天井のアスベスト含有ロックウール(区調査ではクリソタイル38%含有)の除去は完了し、養生内の粉じん濃度を下げている状態であった。養生の外に、落下したアスベストのかたまりが少しこぼれ出ていた。

    他の部屋で、以前アスベスト撤去した後にパーライト吹き付けがされていたが、今回のサンプル調査から漏れていた。

 

以上の調査の結果、数名の各種専門家の調査が必要と判断した。

 

2.第2回目視調査の実施

 

2003年8月23日、アスベストの劣化状態の判断及び除去工法等の技術専門家である大越、作業環境測定士の外山、環境中のアスベストリスクの専門である村山、アスベストによる健康障害が専門である名取、永倉が、練馬区施設課長吉本卓裕氏同行の元で、早宮小学校及び関町小学校の吹き付けアスベストの目視調査を行った。

 

(1)早宮小学校

1階、普通教室、図書室、図画工作教室、2階、普通教室、図画工作作品室、家庭教室、3階、普通教室、音楽教室等を視察した。各教室とも天井部分に全面吹き付け材が施行されていた。吹き付け材の含有量は、区の調査報告によればアスベスト含有ロックウール(クリソタイル3%または9%含有)であった。

 

視察した目視の判断では、仕上げの状態等により、昭和47年前後のアスベスト含有岩綿で、工場で成分が配合されたものであろうと判断した。その場合は乾式の吹きつけ工法であり、10%前後の均一なアスベスト含有量である場合が多いとされている。 また1・2階と比して、3階では岩綿吹きつけの下地がスタイロフォームであり、図面上も目視上もより注意を払わなければならないと考えた。

 

ほぼ各教室ともに、損傷、ボールをぶつけた跡、棒状のもので引っかいた跡、こすり跡等が見られた。3階の各普通教室では、教室前面のスクリーンボックスはアスベストをカッター等で切除し天井に取り付けてあり、天井の吹き付けアスベストの断面は劣化状態であった。3階普通教室の一部では、天井からの雨漏りによる吹き付けアスベストの劣化が見られた。1階、廊下の天井板の点検孔から天井裏を確認したが、吹き付け材はなかった。

 

(2)関町小学校

1階、家庭教室を視察した。天井部分に全面吹き付け材が施行されていた。施行状態、劣化状態とも早宮小学校のものとほぼ同等であった。

 

 専門家は、一定の看過し得ない、吹きつけアスベストの劣化状態を普通教室等に認めた。

 

U.練馬区の今後の対策への提案

 

以上の調査後、5名で今後の望むべき対策について検討した。その際に5名が共通して参考にした資料は「区立施設の吹付けアスベスト調査結果について 総務部営繕第一課 営繕第二課 学校教育部施設課 平成15年7月17日」「石綿に関する資料 昭和62年8月21日 施設課」「各小中学校をご利用の皆様へ」である。限定した情報を元にした段階での提案をする事は一般的には適切でないと考えるが、夏休み終了直前という緊急性もあるため、限定した資料と2校の視察より、以下の提案をさせて頂く。今後の対策に有効に活用して頂けると幸いである。

 

1.吹きつけ材の含有率に関する見解

 

1)       含有率について

 

今回の「区立施設の吹付けアスベスト調査結果一覧」のアスベスト含有率は、相当のばらつきがある。純粋なアスベスト吹きつけでも、吹き付け時は60%以下の含有率といわれ、含有率が高い場合は、セメントとの混合の偏りや劣化でのセメントの減少等で高含有率となる場合やサンプル時の偏り、測定方法での誤差等が考えられる。

岩綿へのアスベスト混合は5〜10%内外の事が多く、工場で一定の濃度に調整されてくる工法ではほぼ一定の値となる。現場で混合する工法では一定のバラツキが生じるが、含有率が高い事は一般に考えにくい。1970年代価格の安い岩綿(ロックウール)に価格のより高いアスベストアスベストを混合したのは、付着がより良いためであり、高い含有率にする位ならアスベスト吹きつけとした訳である。特に豊玉中学校用品倉庫の87%含有や、中村中学校外国語LL教室43%含有等については、岩綿(ロックウール)吹き付け材へのアスベスト混入としては、一般的にありえない含有率である。

また1970年代初頭の岩綿はアスベストを一定量混合しないと付着が良くなく容易に剥離した訳で、1970年代当初の施工では含有率が5%以下等低い岩綿も想定しにくい。施行年度の調査と共に疑問の含有率に際しては、各施設の吹き付け施行年代を早急に調査すると共に、含有率の再調査が必要な例もありうると思われた。

 

2)           含有率を根拠にした夏休みの除去工事

 

以上の様に含有率について問題が指摘される部分がある事、たとえ含有率が低くても使用されている部屋の使用頻度(普通教室が児童の滞在時間が長い)が高いのかどうか、劣化状態の緊急性により除去工事の優先順位を決定付けるべきであると思われた。含有率を根拠にして夏休み先行して行われた6校のアスベスト除去工事は、優先順位の点で適切であったのか疑問が呈された。

 

2.アスベスト濃度結果に関する見解

 

1) 「区立施設の吹付けアスベスト調査結果一覧」で、測定する教室を選んだ根拠と経過が明確ではないので明示して頂く必要がある。

 

2)今回の測定は、金曜日の放課後や土日の休日に、普通教室は窓を開けて測定されている。吹き付けアスベストのある建築物内の濃度は、文献的に大気中より少し高い事が報告されている。その際窓を開けた状態と比べ窓を閉めた状態では数倍高いとされる。静穏時である場合と日常の活動時で3倍程度、更にボールをぶつけたり、強い風があたったり、こすったりのアスベストを乱す行為が行われると数倍〜100倍以上の濃度となる事が知られている。

 今回の測定は普通教室の測定を、窓を開けた状態で静穏時に実施しているため、普通教室の休日の静穏時のアスベスト濃度の評価は可能である。しかし今後児童が生活する季節の、窓を閉めて日常の活動(机の移動や掃除等)が行われる時期のアスベスト濃度の評価をする事は適切ではない。現在までの報告例から考えると、今回の濃度の10倍以上の濃度を想定する場合がありえる。

 

3)以上より、現在の濃度測定結果を元に大気中濃度と等しいと判断する事は適切ではなく、その判断から今後普通教室での生活を続行する事を安全と判断する事は適切ではないと考える。

 

3.劣化状態のランク付けに関する見解

 

早宮小学校、関町小学校の各部屋の吹き付け材の劣化状態を、区の調査による劣化状態のランク付けと比べ合わせた。

ランクがAとされた部屋で劣化状態が進んでいたり、ランクAとされた部屋とランクE及びFとされた部屋が同等であったり、劣化状態の判定基準が曖昧であった。区の行った調査に基づく劣化状態のランク付けを持って、濃度測定箇所の特定や除去の優先順位が付けられる事は合理性を持たないと考えられる。

このようなケースでは、各教室の天井伏せ図に、ブラシこすれ跡、ボール跡、損傷、傷等の劣化状況を落としていく方法が適切と思われる。

 

4.除去等対策の早急な対策の実施の提案

 

 原則的には、児童が長時間滞在する普通教室は早期のアスベストの全面除去工事が望ましい。また極力空き教室等を使用し、吹きつけアスベストのない教室の利用が望まれる。あえて順位をつけるならば、劣化の見られる普通教室、劣化の見られない普通教室、劣化の見られる使用頻度の少ない教室の順番での除去等考慮も要する。日程が限られている事を考慮すると、いくつかのプランを考慮しながら進む必要がある。

 

1)       普通通教室で、窓を閉めた日常活動時での緊急測定の提案

 

児童が今後普通教室での生活を継続する事がありえるなら、まず夏休み中に大至急、窓を閉めた状態で濃度測定を実施する必要があると考える。

アスベスト含有率が最も高く、目視で劣化が最もひどいと思われた教室で窓を閉めた状態で、掃除や机の移動等を含めた状態で、10名以上の人数が室内で動く条件で測定を行う。この測定は最大限の濃度となりうる条件設定である。(天井等を箒でこする行為等が最大限の濃度となる訳だが、飛散防止の観点から明らかな高濃度曝露が生じる行為は文献的調査で十分と考える。)

可能ならば、アスベスト含有率が最も低く目視で劣化が認められなかった教室を対照とし、それぞれの教室で、窓をあけ静穏な状態、窓を閉め一定の人が室内で机や掃除等で動く状態(こうした日常動作の条件設定が必須である)、コントロールで校庭等大気の3状態での測定が必要であろう。尚、この測定では定量限界を小さくするために「建築改修工事共通仕様書 平成14年版」の表9.1.1の測定5により、吸引空気量2400L、定量限界0.3/Lの方法で実施されるべきである。

 

この結果は1回の測定であり、大気中とほぼ同等の濃度が得られたからといって、必ずしも他の教室のすべての時期が安全とはいえない。しかし現状で考え得る最大の設定での測定結果であるなら、一定の安全の確保とはいえよう。児童の日常生活の開始と共に、決して天井にはふれない条件でさまざまな条件での測定の継続が必要と思われる。

大気の一定倍の濃度の結果がだされた時は、普通教室の使用は行わない事を原則とした方が、最大限児童の安全を重視した対策であると考える。

 

2)       吹き付けアスベストのある普通教室を閉鎖しても代替の空き教室がある学校の対策     

 

極力代替する事が望ましい。

 

3)       吹き付けアスベストのある特別教室がある学校の対策

 

使用せざるをえない時、短時間使用する事が望ましい。

 

4)       吹き付けアスベストが極めて多い学校の対策

 

@    全校除去を行う場合の日程・費用の見積もり

A    除去時の代替場所の検討

 

A、Bに関しては、空き教室を利用する事によって工事期間を遅らせる事が可能と考えられるが、Cに関しては、代替教室等を設け順位を早め除去を行う必要がある。

 

5)       天井にふれる行為等の禁止

 

「天井を箒でこする」「天井を棒でひっかく」「ボールをあてる」等の行為の後や、電気や器具を設置した際の後が天井に無数に認められた。こうした行為は高濃度のアスベスト飛散を起こすため、今後除去が行われる間禁止する必要がある。そうした行為の可能性の高い教室は、早急に除去を行う必要がある。

 

6)       リスク・コミュニケーション

 

 児童・保護者・教員向けに、専門家を交えた、リスクと対策に関する十分な説明と納得の機会を設ける必要がある。

 

5.今後のリスク評価の必要性の提案

 

過去、および今後のリスクに対する科学的な評価を行う事が必要であると考える。

 

1)       リスク評価のための濃度測定の必要性

 

アスベスト曝露による児童へのリスクを評価するためには、児童の教室における滞在時間とともに、教室内のアスベストの濃度を把握することが極めて重要である。

仮にある学校の各教室のアスベストの平均濃度が、一般的な大気中の濃度と比較して12倍であったとする。一日当りの学校滞在時間を8時間、1週間当りの登校日数を月〜金曜の5日間、1年間当りの登校期間を46週とすると、小学校6年間での曝露量は一般的な大気濃度による曝露量で約15年分に相当することになる。アスベストによるリスクは曝露量に比例して増加すると考えてられているので、平均寿命を75〜85年間と想定すると、上記で想定した濃度の教室で6年間就学した児童の生涯リスクは、一般に比べて約18〜20%増加することになる。

仮に各室の平均濃度が3倍程度の教室を持つ小学校であれば、大気濃度レベルの約3.8年分の曝露量となり、生涯リスクでは約4.5〜5%程度上昇すると予想される。このように、アスベストの濃度によって将来のリスクは大きく左右されるため、室内の濃度を可能な限り正確に把握することが重要である。

 

2)       多数の児童に対する曝露可能性の把握

 

児童の普通教室における滞在時間が長いこと、アスベストを含有する吹付け材が施された普通教室が多数に上ることを考慮すると、過去から現在まで多数の児童にアスベスト曝露の機会があったことは否定できない。曝露をうけた人数が多ければ、濃度上昇が大気中よりわずかであっても環境曝露による被害が今後生じる可能性は高まる。このため、過去に曝露した児童の人数を把握するとともに、アスベスト含有吹付け材が現存している100の普通教室で就学する児童の人数や行動パターンについて把握する必要がある。

 

3)       学校生活における行動調査の実施

 

その際は、児童が行った行為を頻度も含め、教員及び児童等に正確にアンケート及び聞き取り調査の上で、濃度測定を行う事が重要である。

 

4)       リスク評価のための委員会の設置 

 

詳細な濃度測定結果を行う事が、今後のリスク評価に必要である。十分な測定を行っておかないとリスク評価はかなり幅のあるものとなってしまう。そうした点を検討する、発症リスクを評価する委員会の設置が今後必要になると思われる。

 

6.パーライト吹き付けに関する見解

 

今回の区の調査ではパーライト吹き付け材の調査は行われていない。

環境庁による「建築物解体等に係るアスベスト飛散防止対策マニュアル」(環境庁アスベスト飛散防止対策研究会監修・平成11年2月)によれば(P36)、

「吹付け石綿と類似している材料としては、吹付けロックウール及び吹き付けバーミキュライトなどがある(1%を超えて石綿を含有する吹付けロックウール、吹付けひる石(吹付けバーミキュライト)、パーライト吹付け、発泡けい酸ソーダ吹付け石綿等は規制の対象となる)。」

とあり、1%を超えて石綿を含有するパーライト吹付けに注意を喚起している。

したがって、昭和55年までに施行されたパーライト吹付けについて、成分調査を行う必要がある。

以上



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