米山さん(住友造船で溶接の仕事、断熱材としてアスベスト使用、悪性胸膜中皮腫)

被害者の声
目次

私の夫は昨年56才で悪性胸膜中皮腫により亡くなりました。
夫は住友造船で溶接の仕事をしていました。アスベストは、溶接の火花が周りに燃え移らないようにと火除けとして使ったり、断熱材としてパイプに巻いたりして使っていたそうです。アスベストは危険だと知らされていないころ、冬の寒い日に、寒さよけとして体に巻いていた人もいたそうです。夫が仕事が帰ると、今日は作業着にキラキラたくさんついているから作業着とフィルターをはずしたマスクは最後に洗うようにと、良く言われました。

咳がとまらなくなり、体の不調を訴えてから中皮腫と診断されるまで6ヶ月かかりました。レントゲン、MRI、CT、腫瘍マーカー、いずれの検査にもはっきりとした結果は出ませんでした。それ程、診断が難しい病気なのです。早期発見が困難なため、中皮腫と診断されたときにはすでに手遅れだと医学の本にも書いてありました。そんなことも知らず、私も夫も胸膜中皮腫ですよと言われたときに一瞬、ガンじゃなくて良かったねと言いました。でもその直後、担当医からこの病気はガンよりも悪く、直す薬も治療方法もありませんと言われました。

その言葉に夫がどれだけショックを受けたことか計り知れません。残された道はアスベストに冒された胸膜の摘出手術でした。16時間かけての片肺切除、手術は成功しましたが、念のためにと抗ガン剤治療も受けました。髪の毛が抜け、食事もとれず、苦しくなると、もう長いことないかも知れない、病院のこの階から飛び降りたらどんなに楽になるだろうと口にするようになりました。

1年近い入院生活で1ヶ月だけ退院しました。やがて呼吸が苦しくなり眠れぬ夜が続き、布団で苦しいのでソファーに座るがそれもダメでした。あまりの苦しさにいつもは1錠飲んでいる睡眠剤を2錠飲みました。肩を大きく上下させながら苦しそうに呼吸する夫を見るに耐えなく救急車を呼びました。レントゲンの結果、今度は心臓に水が溜まって12月15日に再入院となりました。当日より歩行禁止と言われ、ベッド上での生活でした。数日後、医師より「最後の正月になるかもしれませんので酸素をつけて家に帰りますか?」ときかれた夫は「家に帰るのは怖い。」と答えました。

家族が待つ家にどんなにかえりたかったでしょうと思います。でも恐怖が先に立ち、帰りたいとは言えなかったのです。それ程苦しさと不安と恐怖を体験したのです。年が明け1月2日の早朝、呼吸困難になり人工呼吸器を付けました。声も出ず一滴の水も飲ませてあげることもできないまま、1ヶ月後に息を引き取りました。老後も楽しみもなく、苦しみながら無念の思いで旅立った夫を思うと、国の杜撰な対応の犠牲になったと怒りが込み上げて参ります。入院中、仕事の同僚が集まってくれました。全員が口をそろえて言いました。

ご主人はいつもマスクをつけて、気を付けていたからこんな病気になるとは思いませんでしたと皆さんに言われました。夫は、自分たちがマスクを使用するようになった時にはすでにアスベストを吸った後だったんだろうと言っていました。国の対応が早ければ防げたのかもしれないと悔やんでいました。

労働省の皆さんはアスベストの恐ろしさをどれだけ知っているかはわかりませんが、中皮腫になっても治る人もたくさんいると思っていませんか?一度肺に入ったアスベストは一生涯抜け出ることはなく、肺に入った後に胸膜に入り、肺全体を蝕むのです。このような恐ろしいアスベストに冒されて、年間700人もの人が中皮腫で亡くなっているのです。他国では、30カ国の国で使用を禁止しているというのに、先進国である我が国日本でどうして使用禁止ができないのですか?

輸入し使用し、いざ病気になると商工労働センターに行きなさい、次は監督署に行きなさい、監督署からは労働局に行きなさいと言われ、どの窓口でも私は悪性胸膜中皮腫というメモを前に話しました。でも最後に渡されたのはじん肺の申請の紙でした。医師に渡すと用紙が違うと言われ、これ以上どこに行けば良いのかと途方に暮れました。その時夫がベースの裁判の事を思いだし、Y新聞社に電話して、神奈川労災職業病センターを紹介して下さいました。

そこで間違った用紙が渡されていて、中皮腫の場合なので監督署で手続きする事になりました。後で知りましたが、悪性胸膜中皮腫とか肺ガンと家族がいっても、私と同じ様にじん肺の管理区分の申請の用紙を渡す監督署や労働局が案外あるそうです。神奈川労災職業病センターには御世話になり、お陰様で労災認定がおりました。

輸入国第2位の日本で、アスベストによって起こる病気の治療の研究費は少ししかだされていないと聞いています。一体、労働者の命を何だと思っているんでしょうか! 日本でもアスベストに代わるものが製造され使われていると聞いています。今後、労働者の安全とアスベストの根絶を願い、一日も早いアスベストの使用禁止を訴えるものでございます。

一つ質問してもよろしいでしょうか?先程廃止に向けての話がちょっとありましたが、具体的に話があれば、労働者の命に代えてもアスベストを使用禁止できない理由がございましたらお聞かせ願いたいです。

(石綿対策全国連)
労働局にまず申請するじん肺と、監督署に提出する中皮腫やアスベスト肺癌では、労災申請の処理の仕方が違う事を十分認識し、所轄の監督署を指導していただきたい。中皮腫や肺癌は、じん肺申請では管理1相当となる位の方に起きる場合も多い。管理1の決定通知書の記載は、「じん肺法上、異常ありません」と読めるので、間違った申請をしその結果を見て、断念されかけた方の例も多い。管理区分が仮に必要な場合も、署から相当の判断を局に仰げばすむ事である。署だけでなく局の衛生課も認識がなくてたらい回しということもあり問題である。
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