古川幸雄さん(40年近く、関西電力の下請けとして、火力発電所や焼却炉、浄水場のプラント設備の建設に従事。)

被害者の声 目次








 大阪の堺市から参りました古川です。私の主人古川幸雄は、2001年の3月28日に死亡いたしました。アスベストが原因でした。主人は40年近く前から、ある会社に勤務して、主に関西電力の下請けとして、火力発電所とか焼却炉、浄水場のプラント設備の建設に従事していました。

設備の補修や組み立て、解体等にガスとか、アーク溶接を使用して作業していました。その作業の際に、いわゆる火の粉の養生というのですが、アスベストクロスを使用していました。必要に応じて、反物状になっているクロスを切断して使用していたそうです。切断した時に太陽の光の中でキラキラときれいに舞っていたものが、アスベストだったのだろう、と主人が言っていました。

その後昭和60年からはそこまでの会社の下請けとして独立して、労災保険も事業主の特別加入となりました。ある日突然息苦しくなって、検査したら右肺に胸水がいっぱい溜まっていました。原因が解からなくて肺のカメラをのんだり、色々しましたが肺の中は異常がなくて綺麗な状態でした。

転院先の大学病院の主治医の先生から、悪性胸膜中皮腫と言われ、その時に「これは労災だから申請するよう」に勧められました。「労災の申請は、会社に迷惑が係るんではないか?」と主人は悩みました。そこである人に相談すると「古川さんは事業主の特別加入だから、誰にも迷惑は係らない。」といわれて、決心し所轄の監督署に申請しました。

しかし3ヶ月後に、不支給決定通知書が届きました。その時理由を聞いたら、「職業性のアスベスト曝露は十分ある。病名は総合的には悪性胸膜中皮腫、病理学的には悪性だが胸膜中皮腫と断定できない。」とされていたそうです。すぐに労働局へ審査請求を出しましたが、そこでも棄却されました。

失意のどん底でした。死の宣告までされているのに、病名が解からないのです。ワシは一体何の病気なんだ、と主人は言いました。自分が何故死ななければいけないのか、本人が一番疑問に思っていました。発病以来4箇所も病院を変わりましたが、どこの病院でも明確な答えは出ませんでした。

当時入院していた国立病院で詳しく検査したら、中皮腫に間違いないと言われました。それでも、労災としては認めてもらえません。何故ですかと聞いたら、写真の中にアスベストが原因で病気になったという事を証明する「胸膜肥厚斑」、あるいは検査によって出る「石綿小体」が無いと言うのです。

うちの場合常に胸膜肥厚斑をめぐって、監督署や労働局と紛争をやったような形です。労働局への審査請求が棄却された時に、すぐに東京の労働保険審査会への再請求の手続きをしました。この訴えが無効にならないようにする為に。それでも胸膜肥厚斑の確定の壁はとても厚かったです。

その様な時市立図書館で、労働科学研究所から出版されている海老原先生の本と出会いました。ワラにもすがる思いで電話をしたら、毎週火曜日に新橋の芝病院にいるからと言って下さいました。国立病院でCTやレントゲン写真を借りて私は朝一番の新幹線で東京に向かいました。

資料を御覧になった先生は、「これは確かに悪性胸膜中皮腫です、胸膜肥厚斑も確認されています。労災は当然、認定されるべきです。」ということで、全建総連の老田部長さんを紹介していただき、大阪建設労働の書記長さんが監督署との交渉にあたってくださいました。国立病院の先生も証明の書類を書いてくださって、主人が亡くなる1ヶ月余り前に、やっと労災が認定されました。

認定はされたけれども、日ごとに弱って行く主人は、「せっかく労災が認定されても、これでは。」と嘆いていました。本当に、お金とかそんなものじゃないのです。いくら認定されたって寿命が伸びる訳ではないし、命が返って来るわけでもありません。でも本人が死ぬ前に、認定をして欲しかったのです。

若いころから真っ黒になって一生懸命働いてきました。同じ仕事をしている息子が言っていました。「出張に行ったら、ああ古川さん、あの人はとてもよい人だと、仕事先で会う誰もが褒めてくれた。それが嬉しくて、胸を張って仕事ができた。」と。

真っ黒になって日本の産業の発展を支えて働いてきた労働者が、当時何も知らないで吸っていたアスベストによって命を奪われるのです。だから本人が死ぬ前に、どうしても労働災害だということを認定して欲しかったのです。私は、このアスベストの問題は労働だけの問題では無いと思います。

だって神戸の地震の時も問題になり、アメリカのニューヨークのテロでも、問題になっていました。先程の方のご意見で、きれいに机に座っている方にはわからないと言われていました。確かにそうです。

でもきれいに机に座っている方でも、現在家にいて家事労働をしている方でも、アスベストの危険と背中合わせです。この大気中にどれほど舞うような世の中になるか。古い建物はほとんど使用しているのでしょう。それを、知らない間に吸い込んでいるのです。

だから、早稲田大学の村山先生の研究発表にあるように、将来10万人もの人が死亡するのです。その数字の中に、もしかしたらうちの息子が入るかも知れない、弟が入るかも知れない、と思うとぞっとします。だから、本来は労災で認定される病気ですが、そのような枠を超えて、社会現象として考えてアスベストを全面禁止するべきです。輸入も禁止してください。皆労働と言ったら、特殊性のある病気と思いますが、そうではなく全国民の生命が危機にさらされています。
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