20012.25 

安全センター情報


2001年3月号




チリがアスベスト禁止規則を公布


Fernanda Giannasi, Brasil, 2001.1.17


ブラジルのフェルナンダ・ギアナージさんからの情報。チリのアスベスト禁止規則本文も紹介する。
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チリは、ラテンアメリカで、またアメリカ大陸全体で最初の、アスベストを禁止する法律を承認した国となった。この決定は、2001年1月13日付けのチリ共和国官報に発表された。6か月以内に、あらゆる種類のアスベスト(クリソタイルおよびアンフィボール系)アスベストを含有した建材の製造、輸入、流通および販売を禁止するというものである。これがブラジルのオザスコ市、サンカエタノドスル[サンパウロ州の市、同市周辺の3大工業都市のひとつ]、モギミリム市、マト・グロッソ州[ブラジル南西部の州]とともに、ラテンアメリカ諸国にドミノ効果を引き起こしていることをチリの友人たちと喜び合いたい。アルゼンチンが次に同様の決定をとることは間違いない。(以下に示すオザスコ市のようにブラジルの自治体もアスベスト禁止規則(条例)を導入しはじめているようだ)
アスベスト使用のない世界のための最終的勝利をめざそう!
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2000年11月28日、ブラジル・オザスコ市議会は、同市内における今後のアスベストの使用禁止を満場一致で採択した。この度肝を抜く決定は、9月の世界アスベスト会議の期間中に同会議の名誉議長であるオザスコ市長Dr. Silas Bortolossoによってなされた驚くべき宣言[2000年12月号14頁参照]を受けて行われた。この声明の中で、彼は、オザスコ市をブラジルで最初にアスベストを禁止する都市にするよう市議会を督促するとしていた。
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チリ: アスベストについての規則2001年1月13日付け官報公布指定の製品におけるアスベスト使用を禁止する。656号
2000年9月12日 サンチアゴ

(前書き省略)法令
第1条
国内においてクロシドライト(青石綿)及びそれを含む製品及び材料はいかなるものも生産、輸入、供給、販売、使用を禁止する。
第2条
同様にあらゆる種類のアスベストを含む建設資材の生産、輸入、供給、販売を禁止する。
第3条
第5条に示す例外を除いて、建設資材以外のあらゆる物、部品や製品にクリソタイル、アクチノライト、アモサイト、アンソフィライト、トレモライト及びあらゆる種類のアスベスト及びそれらの混合物の生産、輸入、供給、販売、使用を禁止する。
第4条
この規則を適用するために、以下のように解釈する。
a) アスベスト: 鉱物の繊維状の珪酸塩で、蛇紋岩の変成岩グループに属するもの、すなわちクリソタイル(白石綿)、角閃岩の変成岩グループに属するもの、すなわちアクチノライト、アモサイト(茶石綿、カミングトン閃石−グリュネ閃石系)、アンソフィライト、クロシドライト(青石綿)、トレモライト、及び、明記されていないあらゆるアスベスト鉱物、及びそれら鉱物のひとつまたは複数を含むあらゆる混合物。
b) 飛散性アスベスト: 砕けた状態で、チューブあるいはパッケージ中で、自由なアスベスト鉱物。
c) アスベスト繊維: 空中に浮遊するアスベスト粒子及び空気によって移動可能な沈殿アスベスト粒子。
第5条 本規則の第3条による定めを別として、当事者が他の材料で代替できる技術的、経済的実現性がないことを証明するときには、保健機関は、建設資材ではない製品や部品の工場におけるアスベストの使用を認可できる。
前述の認可を得るには、製造業者は、製造する製品または部品の性質、使用するアスベストの種類、労働者の健康へのリスク管理対策、製造工程や粉じん把握システムで発生する廃棄物の除去方法、アスベストを他の繊維で代替することが可能でないという技術的正当性を示す技術報告を添付しなければならない。 これらの材料を輸入する場合、当事者は、商品化するアスベストの種類や量、保管する場所や条件、材料の取り扱い条件、廃棄物を除去する条件や方法、労働者の安全対策を証明する先例を保健機関に示して前もって認可を得なければならない

第6条
前掲の第5条に関するアスベストの製品や部品の製造または輸入は、職場において厳正な安全衛生対策が保持される場合のみ可能である。その対策とは、労働者の健康へのリスクが管理されていると実証する機関、所轄の保健行政局によって、ケースごとに、明確に示され、公認されること。
第7条
商品化するあるいは製品を製造するための在庫としてアスベストを保持する場合、前述の基準に同意し、それぞれ認可された者は、半年毎に該当する保健行政局に、その在庫への入荷と出荷の量を供給者と受取人を示したうえで報告しなければならない。
第8条
原料としてのアスベストの保管には、現行規則で許される最大限度を超えて労働環境中にアスベストの繊維を飛散しないことを保証する義務がある。同様に、集じんシステムは、アスベストを取り扱う区域で少なくとも粉じんの計99%に有効であると保証されなければならない。
第9条
アスベスト粉じんの飛散を誘発させうる飛散性アスベスト繊維の絶縁材がある建造物の解体において、その担当企業は、所轄の保健行政局の工事に対する明確な権限をもっていなければならない。また、その工事において、労働者や周辺住民の健康保護対策が確立されていること。この同じ工程で、解体中に、工事のはじめに前もって知らされなかったアスベスト材が見つかった場合も同様である。
第10条
国の保健行政局と、首都圏においては環境保健行政局がこの規則の管理責任を持つ。この規則の条項の違反は保健衛生法典第10巻の定めにしたがって罰を科される。
第11条
この法律は、官報における公布から180日後より施行される。その日をもって、この最高規則の内容に反するあらゆる別の基準、措置、規定は廃止されるものとする。官報にて記録し、公布せよ。
共和国大統領 リカルド・ラゴス・エスコバル保健衛生大臣 ミシェル・バシェレット・ヘリア
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アスベストと政治: 白い疾病―TheWhitePlague


カナダ労働安全衛生雑誌



カナダの指導的な労働安全衛生雑誌「OHS CANADA」は2001年1月号で、以下のようなアスベスト問題に関する記事を掲載している。
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アスベストはおそらく単一では20世紀最大のオキュペーショナル・キラー(職業上の殺人物質)であり、生産国と開発途上国を除いてはすでに禁止されている。カナダは、アスベストの輸出市場を守るための猛烈なロビー活動を続けている。 クリソタイル・アスベストについてのカナダの公式なポリシーは、安全に使用すれば他の製品より危険ではないというものである。しかし、圧倒的な健康リスクからしてカナダのクリソタイルはもはや価値がないと言い出す貿易相手国―ほとんどがヨーロッパ―がどんどん増えている。

また、目下のところ、世界貿易機関(WTO)もそれに同調している。 第2次世界大戦後1980年代まで建材および建設産業で広範囲に使用されてきたヨーロッパでは、中皮腫その他のアスベスト関連がんが流行と言ってよい規模に達しつつあるようだ。今すぐに禁止したとしても30-40年の潜伏期間があることから、今後30年間にヨーロッパ中で25万人の男性が中皮腫によって殺されるだろうと推計されている。ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・キャンサー(1999年2月号―1999年11月号36頁参照)に掲載された疫学分析は、1945-1950年生まれの男性は最高のリスクに直面し、およそ150人に1人がこの不治のがんによって殺されるだろうとしている。 中皮腫は、アスベストに関連した健康に対する脅威の氷山の一角を明示するものであり、1件の中皮腫につき2件から5件の肺がんや他のアスベスト関連腫瘍を付け加えることができるとされている。アスベスト関連がんは、2030年までに、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、オランダおよびスイスで75万人以上を殺す可能性がある。
フランスでは、国立健康医学研究所(INSERM)が発表した不利なレポートが、1996-2020年に、中皮腫による死亡が男性で約2万、女性で約2,900発生すると予測している。これらの死亡率は、アメリカとイギリスで行われた同種の予測の中間程度である。その後に行われた分析では、2050年までの累積死亡総数を44,000に引き上げている(労働環境医学ジャーナル(1998年11号)に掲載されたこの分析の肯定的な側面は、現在の環境曝露が予測された死亡率に関係しているかもしれないという仮説を支持していないことである)。 イタリアは、世界中の150のがん登録システムによって登録された中皮腫が最も高い発生率を示しているということに疑問を持っている。Epidemi-ologia e Prevenzione(1999年10-12月号)に掲載されたデータは、1946-1950年生まれの男性の生涯累積リスクは1,000分の6.2で、より若い生年コホートほどリスクは増大し続けることを示している。このことは、イタリアのアスベスト関連疾患の動向が、今後の20または30年ではピークに達しないと予測されることを意味している。

労働環境医学ジャーナルの2番目の論文は、スウェーデンにおける胸膜中皮腫の発生率が他の致死的な労働災害全部を合わせたよりも大きいと結論づけている。おそらく大きな関心を呼ぶと思うのは、この研究者が「様々な予防手段が胸膜中皮腫のリスクを減少させたことを示す明らかな証拠はない」としていることである。現在使用されているアスベストの少なくとも90%はクリソタイルである。

また昨年、ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・キャンサー(2000年7月号)に掲載された多国籍研究は、「アスベスト鉱山の2km以内に居住することまたはアスベスト・セメント工場、アスベスト織物業、造船所やブレーキ工場などで働くことは、約12倍の胸膜中皮腫のリスクを伴う」と結論づけている。筆者は、「相対的に低濃度のアスベストへの非職業的曝露は、数十年後に中皮腫を発症させる可能性のあるハザードである」と示唆している。

全面禁止

ドミノのように1980年代から禁止国が増え続けヨーロッパのアスベスト市場は凋落しはじめている。アスベスト禁止国のリストは、1983年のアイスランドから始まり1993年までに、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、オーストリア、オランダ、フィンランド、イタリア、ドイツと年を追うごとに増えた。 この間、フランスは、カナダ・ケベック州のイースタンタウンシップスで採掘される絹のように白いクリソタイル・アスベストの最良の得意先であった。より危険なクロシドライトやアモサイトといった種類の―より肺の奥まで吸い込まれ、そこに突き刺さって残りやすい、鋭利でもろい繊維―が禁止されるなかで、カナダは、世界のアスベスト生産国のトップ2または3のうちのひとつに君臨し続けた。

フランスはカナダの最大の買い手ではなかったが、最も忠実な顧客のひとりであった。他の開発途上国が、「よい」はずのクリソタイル・アスベストの使用により厳しい制限を課した一方で、フランスは、科学者、労働組合、アスベスト被災者、環境運動家やマスコミのアスベストに対する規制の強化を要求する声が増大するのを無視してきた。

その後、1996年12月に、フランス国立健康医学研究所(INSERM)が破滅的なレポートを発表し、「すべてのアスベスト繊維は地質学的な起源のいかんにかかわらず発がん性がある」と明言した。これはクリソタイル・アスベストのことである。またINSERMによれば、クリソタイルは、より有害なアンフィボール系―クロシドライト、アモサイト、トレモライトその他と同じ程度に危険である可能性がある。 INSERMの研究チームは、「アスベスト繊維曝露による肺がんの死亡者の増加は、クリソタイルに曝露した者も、アンフィボール系のみに曝露した者や複合曝露の者と同様に高い…商業的にクリソタイルとして知られる繊維に職業上曝露した者は、明らかに中皮腫による追加的な死亡がある」と結論づけた。もっとも不利な結論は、フランスにおいて毎年2,000人の人々がアスベスト関連がんによって死亡している、とINSERMが主張したことである。
1996年のクリスマス・イブのちょうど24時間後に、事態は暗転した。ほとんど予告なしに、フランス政府は方向転換して、クリソタイル・アスベストの製造、輸入および流通にほぼ全面禁止を課す―“法令No.96-1133”を公布した。この禁止措置は1997年1月1日に発効し、フランスのカナダ・クリソタイルの輸入はただちにゼロに落ち込んだ。

カナダは、予期せぬこの貿易制限措置に抗議した。カナダは、なだめすかし、反対し、大使や科学者、ロビイスト、弁護士たちを招き寄せた。このケースは結局、世界貿易機関(WTO)の世間から隔離されたブラックルームに持ち込まれた。この紛争は、2000年9月に、WTOが意外な、前例のないやり方で、めったに使われたことのない関税・貿易に関する一般協定(GATT)第XX(b)条に基づいてフランスを支持するまでもつれ込んだ。 WTOの人々は正真正銘の自由貿易主義者であるが、第XX(b)条は加盟諸国に、人間または動植物の生命と健康を守るために必要と判断した場合には貿易制限措置を課すことを認めている。WTOはこれまでこのような輸入制限措置を受け入れたことはなく、ウミガメやイルカを保護することを企図した禁止措置を覆し、毛皮産業における脚を捕らえるわなに関する制限措置を緩和、成長ホルモンを注射した牛肉の輸入禁止措置を無効にしてきた。

したがって今回が、第XX(b)条による例外をWTOが認めることを選んだ最初のケースになった(本件はなお上訴中である)。クリソタイルは安全、代替物質よりも安全、反対者があげている全証拠よりも安全であるというカナダが固執した主張を却下するのに、この条項が使われたわけである。

その間にも、1999年にイギリスがクリソタイル禁止国のリストに加わった。そして、マスコミの派手な報道はなかったが、欧州連合(EU)の門戸も、1999年7月26日にガシャッと閉ざされてしまった。この日、EUは静かに、一定の危険な物質および製品の流通および使用に関する指令76/769/EECの別添1を改正し、クリソタイル・アスベスト繊維およびそれを含有する製品の使用を禁止したのである。改正指令によれば、「それ以下ならクリソタイル・アスベストは発がんリスクを生じさせないという曝露の閾値レベルは確認されていない」。フランスの禁止をたきつけたのと同じ公衆衛生上の懸念を引用して、EUは、「人間の健康を守る効果的な方法は、クリソタイル・アスベスト繊維とその含有製品の使用を禁止することである」と決定した。この禁止措置は、加盟各国における立法によって実行されることになるが、遅くとも2005年1月1日までに発効することが予定されている。

カナダの姿勢

もし…ならば安全 カナダ政府は、クリソタイルは正しく使用されるならば完全に安全であると断固主張している。それは「安全使用の原則」と呼ばれ、1980年代初め以来、カナダ政府のアスベストに関する公式のスタンスである。1996年に起草されたカナダ連邦政府の鉱物・金属ポリシーは、この原則についていくらかくわしく述べている。「安全使用」は「利益」に伴う「リスク」という考え方を統合するものであり、一定の金属を含有する製品はそのライフサイクル全体を通して管理される必要があるが、社会はその使用によって重要な利益を享受することができる。自然に生成する鉱物および金属「それ自体および何らかの手の加えられたものは、禁止、段階的禁止あるいは事実上の禁止の候補とはならない」。 しかし、わが政府と安全使用の関わりは、1980年代初めの巨大な「オンタリオ州におけるアスベストの使用によって生ずる安全衛生問題に関する王立委員会」の見解にまでさかのぼる。約4年間にわたるヒアリングと討議が行われ、文書で提出された証言や口頭の証言は数千頁におよび、行動方針策定のための117項目の公式な勧告がなされた。 王立委員会は、クロシドライトおよびアモサイトは、主としてその物理的構造のために、クリソタイルよりも有害な傾向があり、その使用を禁止すべきであると述べた。いかなるレベルのアスベスト曝露であっても何らかのリスクを伴うが、委員会は、当時―現在のクリソタイルに関する職場曝露限界(1繊維/cm3、オンタリオ州他いくつかの州では現在は0.1繊維/cc)は、効果的に実行されるのであれば、「オンタリオ州全体の製造業の労働災害による死亡率よりもかなり低い死亡率しか伴わないことが予想される」と結論づけた。それゆえ、クリソタイルの使用は、厳密な職場管理を条件として、「社会的に容認できる産業リスクの範囲内におさまる」。 「私は爆発物をよく例えにする」と、連邦外務・対外貿易省のスポークスマンOussamah Tamimは言う。「爆発物は非常に扱い難いものであるが、われわれはそれを禁止しない。なぜなら、とても有益だからである。アスベストは、安全に使用すれば、他のものよりもはるかに有害でない」と主張する。 カナダの「安全使用」ポリシーは、アスベストに適用されたように、採掘、精製、製造、輸送、取り扱いおよび廃棄に対する厳密な管理を伴う。曝露を管理できない場合には、有害な製品は市場から除去されなければならない。このことは1970年代初めに起こったようであり、カナダの断熱材製造業者は自主的に、飛散性のあるアスベスト含有断熱材の生産を中止した(しばしばアスベストに関する議論の的になる「飛散性」という用語は、「砕けやすく」、大気中に微小な繊維を放出することを意味する)。その他の飛散性および特に有害なアスベスト製品の輸入、販売および使用は、連邦危険有害製品法[Hazardous Products Act]によって禁止されている。アスベスト製品の吹き付け、アスベスト断熱材除去における圧力スプレー装置の使用、アスベスト廃棄物の乾式掃除機もまた、カナダ国内全域で禁止されている。

他方でカナダ当局は、クリソタイル・アスベストは建材、ブレーキ・ライニング、上下水道管などの製品に安全に使用することができるとしている。これらの用途では、繊維はセメントや合成樹脂などの結合剤で包まれ、環境中に容易には発散しない。世界的に、クリソタイルの約90%がパイプやプレート、屋根材、波板などのアスベスト・セメント製品を製造するのに使用されている。残りの10%は、ブレーキ・ライニングやその他の摩擦材製品、ガスケット、織物、衣類、その他多様な専門用品に組み込まれている。

カナダの各州および準州が次々に、加工・建設産業におけるアスベストの取り扱いを対象とした法規を承認してきている。現在では、すべてのアスベスト含有製品にラベル表示がされなければならず、労働者は解体・改修工事中のアスベスト粉じん曝露を減少させる措置に従う義務がある。各州の法規やガイドラインは、多種多様な規定の仕方で、医学的モニタリング、換気装置、個人保護機器、職業曝露限界、記録の保存、その他の労働安全衛生の基本事項に関する要求事項を明らかにしている。アスベスト・マネジメント、義務的な巡視によって建築物に飛散性アスベストが発見された場合の除去および廃棄に関する要求事項を定めているところもある。これらの法規は、わずか25-35年前にはカナダの労働現場で見受けられたような危険で、ほこりっぽい状況をなくすのに大いに貢献してきた。

CAW: 「…あまりに不道徳」

それでも、カナダの安全使用アプローチは、安全衛生関係者のなかで支持を得られてはいない。CAW(カナダ自動車労働組合)全国安全衛生部長のキャシー・ウォーカーは、カナダの安全使用スタンスはまったく正当化できないと言う。「あまりに不道徳だ」とウォーカーは語っている。 CAWは、オンタリオ州サーニアの悪名高いホームズ断熱[Holmes Insulation]の工場とホームズ鋳造[Holmes Foundry]の組合員の代表であると同時に、アスベストにまつわるすべての問題に激しい敵意を燃やしている。「最高のアスベスト繊維濃度が記録されている」にもかかわらず、労働省の監督官は事実上何の制約もなしにこれらの工場が16年間操業するのを許してきた。 1987年の調査によって、ホームズの元労働者において、肺がん死亡率の6倍の増加、呼吸器疾患による死亡の11倍の増加と、5件の中皮腫―アスベスト曝露による典型的ながん―が明らかにされた。ホームズでは、ウエストレー[Westray]鉱山災害の2倍もの人々が、職業病によって死亡しているのである。「中皮腫は、本当に恐ろしく、苦痛に満ちた死に方だ」とウォーカーは顔をしがめて語る。「わずか数か月の延命のために、医師は肋骨や肺の肉を取り除いて、腫瘍にもっと生長する余地を与えることになるのだ」。

「実際問題として、クリソタイル・アスベストは必要でない」とウォーカーは言う。「いまでは輸出するためだけの製品であり、禁止されるべきである」。 カナダ天然資源省の鉱物経済学者であるルイス・ペロンは、アスベスト輸出ビジネスを、WTOの最終決定次第で「かなり永続性がある」と考えている。「たとえ禁止が覆されたとしても、フランスへの輸入が再び蘇ることはないだろう(カナダの生産業者になにがしかの補償が支払われるべきであるかもしれないが)。しかし、他の貿易相手国に対して、禁止措置はアスベスト曝露を管理するための適切な方法ではないというメッセージを伝えることになるだろう」と、ペロンは言う。
ペロンによれば、アスベスト・ビジネスは、ちょうどアスベスト断熱材の禁止が世界で始まった1973年にピークに達した。20年前、カナダの加工業者は毎年、130万トン、6億4,200万ドル(1980年ドル)を船積みしていた。昨年の輸出は、332,400トン、現在の価値の下がった通貨で1億9,600ドルに落ちている。「この落下は主に用途のパターンが変化したことによるものである。たとえば、摩擦材を切り替えるスイッチはアスベスト・ブレーキ・ライニングの市場を大幅に削減した」とペロンは解説する。
需要が縮小するなかで、カナダのクリソタイルは他の世界の70か国の生産国よりもなおよく売られており、アジアおよび環太平洋地域に広大な市場をもっている。そのほとんどすべてはケベック州の3つの大鉱山―LABクリソタイル社が経営するブラック・レイク[Black Lake]とベル[Bell]鉱山、J.M.アスベスト社が経営するジェフリー[Jeffrey]鉱山のものである。2000年に、Cassiar Mines and Metals社が、ブリティッシュ・コロンビア州北部にある施設における高品質のクリソタイルの商業用生産を再開した。Cassiar社は、以前のアジアのアスベスト・セメント市場を再び取り戻すことを期待している。 カナダがフランスの禁止措置に反対していることは、「まったく見下げ果てた行為である」とCAWのウォーカーは語る。「政府は、残されたアスベスト市場にドミノ効果が広まることを心配しているだけである。この物質を自国民に負わせようとは思っていない」とウォーカーは言う。「われわれはそれを、適切な安全衛生法が存在せず、安全監督官が買収されることも多く、労働者に対する防護措置がまったくない開発途上国に輸出しているのである」。 ウォーカーは実際に、ラテンアメリカでまったく訓練を受けていない労働者がカナダのアスベストを取り扱っているのを見ている。「数名の男たちがアスベストの大きな袋をつかみ、ナイフで切り裂き、手でつかんでセメント・ミキサーに放り入れていた」と彼女は言う。とてもほこりっぽいが、急性症状はないので、だれも文句を言わない。彼らは、アスベスト粉じんの付いた衣服を家に持ち帰って洗濯している。

こうした心配に応えて、連邦政府は1997年3月3日、カナダのクリソタイル製造業者たちとの間で、公式の責任ある使用ポリシーを支持する覚書[MOU: Memorandum of Understanding]に署名している。この覚書によれば、オタワ[連邦政府]は、カナダのアスベストを購入する諸国が安全使用ポリシーを支持し、安全規則が存在しない場合にはそれを策定するようアスベスト産業が促進するのを援助することになっている。また、カナダのアスベスト専門家が、対象となる消費国で、安全で責任あるアスベスト取り扱い技術を労働者にトレーニングしてきている。世界労働機関(ILO)の「アスベストの使用における安全」に関する第162号条約に基づく規制体系の最終目標は、各国に対する輸出を制限することである。カナダは1988年にこの条約を批准している。

お人好しはもはやいない

何人かの批評家は、フランスの禁止措置に精力的に反対することによって、カナダはそのボーイスカウト的イメージを脱ぎ捨てる危険をおかしていると警告している。外務省は、ロビイ活動に関するくわしい年表を作成している。これには、首相や他の閣僚、貿易使節団によるおびただしい数の個人的アピール、大使の訪問、安全使用のコンセプトを後押しするための科学者によるワークショップ、フランスの調査結果の穴をつつくための徹底的なレビュー、さらには外国のジャーナリストを動かすことを狙った高価な旅行が含まれている。もちろん、こうした努力をしたにもかかわらず、紛争はWTOの最低に持ち込まれたのである。

政府のハイレベルによってクリソタイル・アスベストを支持してきたことは信じられないことだとウォーカーは言う。「ケベック州をめぐる政治的動きであることは疑いない。自由党は、彼らが他のだれよりもケベックの雇用を守ることができることを示そうとしてきたのである」と彼女は解説する。

「アスベスト産業はおそらく1,5000人を雇用するだけの、決して大きな産業ではないが、政府の十字軍のシンボルになった。アスベストはケベックでは目立つ産業なのである」とウォーカーは言う。他にアスベスト混合物や摩擦材製品の加工産業でも、おそらく1,500人雇用していると思われる。

この産業は、何年間にもわたって政府や州から多額の助成金を受けてきているが、カナダの非燃料鉱物の価格に占める割合はわずか1.5%にすぎない。「アスベスト鉱山を支える代わりに、[その金で]個々の鉱夫たちに生涯年金を与えることができた」とウォーカーは笑う。「たぶん加えて彼らの子供たち一人ひとりに生涯年金を支給することもできただろう」。 しかし、疑問は残る。われわれがケベックのアスベストの将来を保証することをのぞんだからと言って、カナダはクリソタイルに関するより厳密な管理―禁止措置を含めーを後退させてきただろうか?カナダには利害の衝突があるのか?

「ノー」と、連邦外務・対外貿易省のOussamah Tamimは困惑ぎみに力説する。「いかなる輸出産業においてもわれわれは既得権をもっているが、利害の抵触にであったことはない」。カナダ当局は、科学的証拠はクリソタイルの禁止をまったく支持していないと主張している。

結局、WTOの紛争解決パネルはカナダ当局やその専門家を信じなかった。2000年9月にパネルは、クリソタイルは発がん物質である、カナダの安全使用ポリシーは現実的でない、より安全な代替品は存在すると判定を下した。

カナダの法律家たちは、貿易制限的な禁止措置の代わりに、フランスは、製品ごと、使用状況ごとのアセスメントをとり、必要な場合にはより厳しい管理を実行することができたし、そうすべきであったと力説してきた。禁止措置は状況に対して「道理がなく、不相応」であり、科学的データによって裏づけられていないと彼らは言う。現在のクリソタイル・アスベストは、「感知できるいかなる健康リスクも生じさせず、安全に使用することができる」と主張した。 パネルの見解は異なっていた。「中皮腫の少なくとも25%を占めている建設産業のように、安全衛生措置が最小の産業で日常的に曝露する何十万の人々を守るのには、管理使用という手続を効果的に適用することはできない」。WTOは、この見解は、多数のレポートやパネルが審議中に意見を聴いた専門家たちによって確認されているとしている。

カナダはまた、アスベスト代替物質の信頼性は「安全性に関して嘘のかたまり」であり、代替物質の長期的な健康影響についてはアスベストのようにはよくわかっていないと主張した。「カナダのポジションは、アスベストの利益とリスクの双方を見極め、その後にそのリスクを管理を図るということである」とTamimは言う。 パネルはどちらの議論も受け入れなかった。世界貿易機関は、この紛争で吟味された代替繊維―すなわち、ポリビニル・アルコール(PVA)繊維、セルロース、ガラス・ファイバー―がクリソタイルによって生ずるのと同程度のリスクを示すということを考慮していない。 この紛争はまだ終わっていない。カナダは、2000年11月にWTOの裁定を上訴し、上訴機関に対して適用書を提出した。12月には弁護士たちが欧州共同体の主張に対する反論を送った。口頭での意見陳述は1月中旬に予定され、最終報告書は2001年3月初めになるものと見込まれている。

アスベスト産業はまだ死んでおらず―第3世界諸国はカナダのアスベストの購入を熱心に求めているようにみえる―、WTOもクリソタイルの墓碑銘を書くことをためらっているかもしれない。
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インドのアスベスト業界が労働衛生学会を脅迫


Laurie Kazan-Allen, IBAS, 2001.1.17



以下はインド首相宛ての手紙の案文である。インド労働衛生学会(IAOH)が2月開催の全国会議で、「インドにおけるアスベスト禁止」をテーマとしたワークショップを開催する予定でいることに対して、アスベスト産業が露骨な脅迫を行っているという(主催者は恫喝に屈していないとのこと)。
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10年以上にわたって国際的なアスベスト産業の動向を観察してきた者として、私は、新世紀の最初の年に、アスベスト製造業者がなおも開かれた科学的討論を脅迫、抑圧することによって市場を守ろうとしている報告に驚きを禁じ得ない。2001年1月5日、インドのアスベスト・セメント製造業協会は、インド労働衛生学会(IAOH)会長のDr. Tushar Kant Joshiに書留の手紙を送りつけた。Dr. Joshiは同僚とともに、2001年2月初めにニューデリーで開催されるIAOH全国会議の準備をしていた。手紙のなかでMr. A. K. Sethiは、製造業界の要求に応じなければ、「IOAHに対して上記のトピック(インドにおけるアスベストの禁止)に関するワークショップ開催禁止令を追求することを含め、適切な改善処置をとることになろう」と脅迫している。 Sethiは、「アスベストは安全な方法で使用すれば有害ではないということは…よく知られている」と主張する。過去数十年間にわたりアスベスト産業はこの神話に固執してきた。彼らは何度も何度も繰り返して、「管理された方法」で使用されればアスベストは安全であるという呪文を唱えてきた。それとは反対の証拠が山積みされているのに対して、アスベスト生産者と製造業者たちは、消耗戦を遂行し、それができるとなればどこででも混乱と不確実さをまき散らしてきた。その間に、何百万人もの人々がアスベストによって死亡してきたし、今後も死亡し続けるだろう。科学者たちは、今後35年間に西ヨーロッパにおいて50万人以上の人々が死亡するだろうと考えている。アメリカでは、アスベスト疾患の流行期間中に20万人が死亡している。

アスベスト産業の最善の努力にもかかわらず、クロシドライト(青石綿)とアモサイト(茶石綿)が危険であるということは科学的コンセンサスとなった。アスベスト産業は再編成され、クリソタイル(白石綿)の評判を支えることに全精力が注がれることになったが、クリソタイルはつねにアスベストの総量の80-90%を占めてきたのであるからこれは理解できることである。科学者たちは、クリソタイルおよび増大しているアスベスト関連疾患とクリソタイルとの関係についてより綿密に調査研究するようになった。

この結果については、世界保健機関(WHO)が1998年に発行したレポート: 環境保健クライテリア203: クリソタイル・アスベスト(ISBN 92 4 157203 5)をみるだけでよい。

このレポートは、「クリソタイル・アスベストへの曝露は、[曝露]量に応じたかたちで、石綿肺、肺がんおよび中皮腫のリスクを増大させる。発がんリスクに関して閾値は確認できなかった」という、クリソタイルに関する真実が正しいことを確かめた。クリソタイルを使用し続けることの潜在的危険性にふれて、国際的に著名な科学者たちによって書かれたこのレポートは、「より安全なクリソタイルの代替物質が利用可能な場合には、その使用を考慮されるべきである…いくつかの理由から、建材がとりわけ重要である。建設産業の労働人口は多く、アスベスト管理手段を設定することは困難である」と結論づけている。私は、インドにとって、この最後の文章はとりわけ関連があると思う。尊敬されているインディペンデントな国際的労働環境保健学術団体であるラマッチニ協会は、クリソタイル使用の国際的禁止を支持している。欧州連合(EU)は1999年に、加盟諸国においてクリソタイルは2005年までに禁止されなければならないと決定したが、ヨーロッパの多くの諸国がそれ以前にクリソタイルを禁止してきている。欧州指令は、「それ以下ならクリソタイル・アスベストは発がんリスクを生じさせないという曝露レベルの閾値は確認されていない」ということを再確認した。

山積みされたクリソタイルの有害性に関する証拠に照らして、Dr. JoshiとIAOHの関係者たちが、クリソタイル曝露によって生ずるリスクからインドの労働者・市民を守るための行動を起こそうと考えることは不思議なことではない。間違いなく、これは非難されるどころか称賛されるべき行動である。しかし、医学者たちを沈黙させようと試みているのは、アスベスト産業だけではない。ダーンバード市(インド北東部ビハール州の鉱業都市)の鉱山安全部長であるDr. P. K. Sishodiyaもまた、Dr. Joshiに圧力をかけていることをお伝えしなければならない。彼は2001年1月11日付けの手紙のなかで、「物事をあらかじめ判定してインドにおけるアスベスト禁止のワークショップを開催することはIAOHにとって適当なことではない…私は、『インドにおけるアスベスト禁止』というタイトルは避けるべきであるという意見であり、あなたがこの提案に賛同し、必要な行動をとることを希望する」と警告している。

アスベスト・セメント製造業協会が、インドにおけるアスベスト禁止に関する公開の討論を禁止させる権限を持っていると考えていることは、インドの男性、女性、子供たち、すべての献身的な公務員、関心をもつ医師や科学者、および、この恐るべき物質による死亡、喪失、苦痛の証言となりうる人々を侮辱するものにほかならない。あなたが、IAOHとのそのメンバーたちの民主的権利を擁護するためにあらゆる措置を講じることを信じています。
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