20012.25 

安全センター情報


2000年12月号




環境団体がWTOのアスベスト裁定を批判


WTO Reporter, 2000.9.20



環境団体は、フランスのクリソタイル(白)アスベストの輸入禁止に関する世界貿易機関(WTO)の裁定について、WTOは人々の健康を守るために必要な貿易制限措置を行使することについて、多くの条件を付けすぎたといって批判している。 9月18日に公表された決定[11月号42-43頁囲み参照]の中で、3名の委員からなるWTOパネルは、フランスの措置は、人間または動植物の生命または健康を守るために必要とみなされる措置についてのWTOの諸規則の一般的免除を定めた、1994年の関税及び貿易に関する一般協定(GATT)第XX(b)条によって正当化されると結論づけて、禁止に反対するカナダの訴えを退けた。 この決定は、7月25日に、カナダおよびWTOにおいてフランスの立場を代弁する欧州連合(EU)に内々に知らされた。 このパネルの裁定は、WTOが公衆衛生の観点から何らかの貿易制限措置を支持した初めてのケースではあるが、3つの環境団体が9月18日に発表した共同声明の中で、「この決定の背後にある論法は危険な前例になる」と警告した。 世界野生生物基金(WWF)、ロンドンの国際環境法・開発財団、ジュネーブの国際環境法センターの3団体は、「パネルはまず最初に、フランスの貿易制限措置は、すべての輸入品が公平に扱われるべきことを求めたWTOの基本的な規則に違反しているとしたうえでのみ、禁止を認めた」と言う。「そのため、フランスは、公衆衛生予防の観点からのWTO規則に対する例外[であるということを立証すること]によって、その『違反』を正当化することを求められたのである。」 カナダはすでにこの結論について上訴する意向を表明している。カナダは世界第3位のクリソタイル・アスベスト生産国であり、その年間売上高は2億C$と見積もられている。クリソタイル・アスベストは、地下埋設用パイプ、シーリング材や、ブレーキライニング、ディスクパッド、クラッチパッドのような摩擦材製品に使用されている。 多くのEU諸国がすでにすべての種類のアスベストの輸入、販売および使用を禁止している。欧州委員会自身、2005年1月から、EUにおいて使用が許されている最後の種類のアスベストであるクリソタイル・アスベストのEU規模における禁止を課すことを決定している。 EUによれば、フランスでは毎年2千人の人々がアスベスト曝露によるがんで死亡しており、その数はEU全体では1万人にも達するという。 今回の係争で問題になっているのは、クリソタイル・アスベストの製造、輸入および販売の禁止を課した、1996年12月24日の法律No.96-1133である。相対的に安全な代替品が存在しない用途に対しては、一定の例外が適用されている。

環境団体が批判する焦点

環境団体が批判している主要な問題点は、クリソタイル繊維製品およびセルロース、グラスファイバー、PVA(アスベスト・セメントの代替品のひとつ)等の危険性の少ない代替品がGATT第III: 4条の趣旨の範囲内の製品「であるようだ[like]」とし、それらの製品はWTOの内国民待遇の原則に従って加盟諸国の国内市場において平等に取り扱われなければならないとしたパネルの結論についてである。 パネルは、禁止対象とされていない国内で生産される代替品とカナダから輸入されるアスベストとを異なった取り扱いをすることによって、フランスは内国民待遇の原則に違反しているとした。 「パネルによれば、発がん性のあるアスベストを含有した輸入コンクリートを、有害でないセルロースを含有した国内で生産されるコンクリートと『同等[like]』として、それらに異なった取り扱いをすることは、カナダがフランスの市場に参入する権利を侵害しているというのである」と、環境団体は指摘した。「であるから、人間の健康…を防護するためにWTOの諸規則に対する例外と認められるということを立証する責任はフランスの側にある。言い換えれば、いったん自由貿易の原則が確保されれば、公衆衛生の立証責任が生ずることになる。」 「将来の紛争において同じ論法が適用されることになれば、最終用途は同じだからという理由で、政府は有毒な製品と有毒でない製品を区別したがらなくなるかもしれない」と、環境団体は指摘する。「公衆衛生への脅威であるという証拠が、アスベストの場合よりも明白でない場合には、貿易偏重のパネルは輸入国に例外を認めないことになるかもしれない。このようなやり方は、社会、環境、文化政策という重要な分野における民主的な選択を危うくする。」 第XX(b)条の免除の解釈において、パネルは、フランスの禁止措置を人間の健康に対するリスクという点から正当化すること、および、より貿易制限的でない措置によってでは人間の健康を防護するという目的を達成できないということを立証する責任はEUの側にあるとした。」 最初の条件と比較してパネルは、EUは、禁止措置がは衆衛生の見地から正当化されること、また、フランスの「同等」製品の生産者を保護するために行われたものではないことをうまく証明してみせたと結論づけた。 「クリソタイル繊維の発がん性は、国際機関によって何度も確認されてきている」と、パネルは指摘した。「この発がん性は、肺がんと中皮腫双方について、パネルが諮問した専門家によって確認された。…したがってわれわれは、クリソタイル繊維の吸入に伴う深刻な発がんリスクが現実に存在するという十分な証拠があると考える。」

健康リスクに関する一応の証拠

EUは、「クリソタイルの使用に関連した健康リスクの存在、とりわけ生産・加工の下流に当たる職業部門における、およびクリソタイル・セメント製品と関連して一般公衆における肺がんと中皮腫について、一応の証明[prima facie]をすることができた」と、パネルは言う。「この一応の証明に対してカナダは反証することができなかった。…したがってパネルは、EUは、(1996年の)法律によって履行されたクリソタイル・アスベストを禁止する政策は、人間の生命または健康を守ることを意図した政策の範囲内に含まれることを証明したものと考える。」 これによってパネルは、フランスはその公衆衛生目的を達成するうえで、より貿易制限的でない手段、とりわけ労働者のクリソタイル・アスベスト取り扱いに対して管理使用の実行を採用することによることができたというカナダの主張を却下するところとなった。 「アメリカやカナダのように管理使用を用いている国があり、フランスでも、その効果がまだ認められる一定の部門では一般的に用いられているとはいえ」と、パネルは言明する。「このことは数多くの調査研究や専門家の意見によっても確認されている。したがって、管理使用は、製品使用の上流(採掘・製造)と下流(除去・解体)においてうまく適用することが可能だと思われたとしても、当該法律に規定する様々な規制措置がとくに重点的に対象としている分野のひとつである建築部門に適用する方がより容易であると思われる。」 パネルはまた、人間の健康に対する影響がより不確かな製品によってクリソタイル・アスベストを代替することを求めることによって、フランスは「安全に関する誤った観念」を創作しているというカナダの主張も却下した。 「この紛争ケースで審査された代替繊維(PVA、セルロース、ガラス)については、WHO(世界保健機関)は、クリソタイルに関するリスクと同じレベルには分類していない」と、パネルは指摘する。「さらに、このケースで審査された代替繊維(PVA、セルロース、ガラス)および他の繊維(とくにアラミッド、セラミック)に関連するリスクについて詳細に意見を述べたパネルの諮問した専門家たちは、クリソタイルと同等の健康リスクは示さないことを確認した。」 「カナダのアプローチは、クリソタイルは安全に使用することができるという事実に基づいているように思われる」と、パネルは続ける。「われわれがすでに結論づけたように、合理的に利用可能であるとは思われない…われわれがカナダの論法に従うとしたら、代替繊維はその確実性がクリソタイルについて現に確立されてきたのと同程度になるまで使用されないことになってしまうだろう。」 「パネルの見解において、クリソタイルによるリスクよりも低いことがすでに評価されているというリスクの確実性の確立の度合いによって、一定のリスクに関連した健康防護措置の採用を決定することは、公衆衛生の分野における立法のいかなる可能性をも妨げる効果をもつことになってしまう」と、パネルは続ける。「現実にはそれは、多くの場合に達成することが困難な科学的確実性が、一定の分野の全体について確立するまでは、公衆衛生措置を履行することができなくなるということを意味している。」

カナダの上訴の焦点

パネルの裁定に対する論評において、カナダの国際貿易大臣Pierre Pettigrewは9月18日の声明の中で、パネルの最終報告の中の一定の論点については、上訴するのに十分な法的根拠があるものと、政府は信じていると言明した。 カナダは紛争解決パネルの見解とは異なり、WTOの貿易の技術的障壁に関する(TBT)協定は、フランスのアスベスト禁止措置のような製品の全般的禁止に対しても適用されるべきであると信じており、上訴においては、カナダはTBT協定の対象範囲に関する説明を求めてくるだろう。 カナダは、パネルの権限は、フランスのアスベスト禁止措置が多国間貿易に関する約束に反しているかどうかを決定することだけであって、クリソタイル・アスベスト使用の安全性やこの製品の安全使用の原則について裁定することではないにもかかわらず、パネルは今回の裁定を行うにあたってその権限を逸脱していると信じている。 「パネルは、アスベストを禁止したフランスの措置は差別的なものであるが、フランスが適切と考えたレベルにフランスの労働者を防護するために必要なものであったと決定した」と、声明は言う。「カナダは、フランスのアプローチは行き過ぎであり、安全使用アプローチは労働者と公衆の安全と健康を確保するのに十分であると主張し続ける。」 声明は、国家が公衆の利益のための規則を採用したり、公衆衛生の理由から適切な防護レベルを設定する権利を有することについてはカナダは争わないということを強調しているが、安全使用の原則は強固な科学的根拠をもつ合理的なアプローチであり、クリソタイル・アスベストを含むすべての鉱物・金属に対して安全使用の原則を適用することを支持すると言っている。

* CEO(ヨーロッパ共同監視団)
: CEOは、企業とそのロビー集団の経済的、政治的権力による民主主義、平等、社会正義、環境への脅威に対抗するリサーチとキャンペーンのためのグループである。
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