2001.2.25 |
欧米におけるクリソタイルの市場で不確定要素が増大するにつれて、アスベスト企業は製品の売り込み先として、ますます第三世界諸国に目を向けるようになっている。オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スウェーデン、スイスでアスベストの使用を禁じられたヨーロッパの多国籍企業は、余剰になった技術をより安全衛生管理のきびしくない諸国に輸出している。 フランスの指導的なアスベスト、ガラス繊維製造業者であるサンゴバン(Saint Gobain)は、フランス国内でクリソタイル禁止が実施されたため、ノン・アスベスト技術に転換した。しかしながら、海外においてはこの企業はなおアスベストに関与している。ブラジルにおけるサンゴバンの子会社は、この国最大のクリソタイル鉱山における実質的な支柱の役割を維持しており、ゴイアス(Goias)州のカナブラバ(Canabrava)鉱山はサマ・アスベスト鉱業(Sama-Mineracao de Amianto S.A.)によって運営され、この会社は今度は50年以上にわたってアスベスト・セメントを製造・輸出してきたエターニトのオサスコ工場であるエターニトS.A.に管理されるようになっている。 1997年にブラジルのアスベスト・セメント産業が生み出した総収益は5億4千万USドルで、総生産量の40%が、日本、タイ、インドやその他多数の諸国に輸出された。ブラジル・アスベスト曝露者協会(ABREA: Brazilian Association of People Exposed to Asbestos)によれば、何千名ものブラジルの労働者が今なおアスベストに曝露されている。ブラジルにおけるアスベストに関連した死亡に関する政府の統計は存在しない。 昨年の夏、ABREAのメンバーでエターニトの元労働者である Joao Batistica Momi は、サンパウロの第27刑事裁判所の Malfatti 裁判官により、10万ポンドをこす損害賠償を認められた。「この損害賠償判決には、治療費と彼の弁護士が1,200レアール算定した彼の給料の4分の1の毎月の年金という物質的損害および精神的損害に対する賠償が含まれている」と報告されている。Momiは、エターニトにおいて32年間以上経験したアスベスト曝露によるアスベスト肺に罹患している。ABREAのスポークスマンは、このMomiの判決は他の何百という請求への水門を開くに違いないと予測した。会社側はこの判決を上訴している。 この里程標といえる事件がブラジルの裁判所において係争中だった同じ時期に、エターニトS.A.は、ABREAの創設メンバーのひとりである Ms. Fernanda Giannasi に対し名誉毀損罪の咎で、ブラジル刑法第144条にもとづく召喚状を発した。 1998年に Ms. Giannasi は、ブラジルの労働者の健康を防護するための彼女の献身と惜しみない努力によって、オサスコ市議会から表彰されている。Ms. Giannasi は、15年間にわたりサンパウロの労働省の安全技術者であるにもかかわらず、労働省も州政府もこのケース(刑事告訴)に関わろうとしなかった。刑事告訴のニュースは、この包囲された公衆の奉仕者に対する国際的なサポートを呼び起こした。(―省略―)イギリスでは、GMB労組書記長のJohn Edmundsと欧州議員のPeter Skinnerが、ロンドンのブラジル大使に懸念を表明。下院議員Michael Clap-hamは政府に対して、「エターニトがこのスキャンダラスな行動を撤回するように圧力になる取りうるあらゆる行動を行う」よう要求した。 エターニットの弁護士は、Ms. Giannasiの「アスベスト産業の第三世界の医学雑誌に対する誤ったプロパガンダ」と題した文章に異議を唱えた。エターニトとS.A.もまた、あるブラジルの裁判官が、潜在的な原告の職業病、障害や過失の補償を請求する権利を奪うことになり「大いに疑問の余地がある」と評した法廷外和解のケースに関して、数百名の元アスベスト労働者の賛同をつけて公表された Ms. Giannasi の非難に抗議した。サンパウロの第27および第3民事裁判所の判決は、「強力な経済グループと、明らかに合意した内容を理解する能力のない労働者との間でなされた正当性が疑わしい和解協議に…裁判所による神聖な見せかけを与え」ようとした「違法な和解」、「違憲とみなされる和解」と呼んで、この和解内容を却下した。 1999年1月23日、サンパウロ市ピンヘイロの第2刑事行政区裁判所の Francisco Eduardo 裁判官は、Ms. Giannasi に対するすべての罪状を退けた。会社側の「われわれはこの決定を誤ったものと考えており上訴する、あるいは、この技術者の言葉によって影響を受けた会社のイメージの損失と損害に対して賠償を要求する」という脅しにもかかわらず、具体的行動は立ち消えになり、刑事事件は終結した。民事提訴がなされるかどうかはわかっていない。 1999年2月3日、Tarciso Beraldo 裁判官は、署名は関係者の参加の結果とは認められないという立場から、エターニト、S.A.およびその元労働者の間の和解を破棄した。判決は、元労働者全員の代理人が(会社側と)同じ弁護士事務所という「職業倫理上の疑い」に疑問を呈し、このような深刻な疾病に対して提示された「最小の」補償を叱責した。 なお昨年、別の名誉毀損事件がエターニト、S.A.の弁護士によって今度はサンタアマロの第3刑事行政区裁判所で提起された。原告はジャーナリストの Adriana Isabel Aguilar で、罪状はメジャーな経済新聞 Gazeta Mercanti に1998年9月に掲載された文章である。この記事の主題は Momi のケースでの Malfatti 裁判官の決定であった。エターニトとABREAの代表、被告、原告側の弁護士もまたインタビューを受けているにもかかわらず、エターニトは、Ms. Giannasi のコメントの内容に異議を唱えたのである。エターニトは、この文章は「同社の財政的安定性に直接的影響」を与える「倫理的名声に対する攻撃」であると主張している。 エターニト企業は世界中に増殖しており、それらのいくつかは相互に連携し、他のものはそうではない。エターニトとは、20世紀初頭に開発された製造工程の名称である。アスベスト・セメント板を製造する技術はフランチャイズ供与され、その名称はフランス、イギリス、ドイツ、チリ、オランダ、アルゼンチン、香港、ウルグアイ、中国、ナイジェリア、インドを含む多くの国々の企業によって採用されている。進行中の調査によると、エテックス(Etex)・グループとして知られるエターニト・ベルギー、エターニト・スイス、エターニト・デンマークの3つのエターニト・グループが確認されている。 業界オブザーバーの情報によると、ベルギーとスイスのグループは1989年まで密接な関係にあった。現在の両者の関係は競争相手であるけれども、密接な接触とある程度の相互所有関係は残っているとみる向きもある。1985年に、Ste-phan Schmidheiny の所有するエターニト・スイスは、世界第2位のアスベスト販売業者であり、その32か国におけるアスベスト・セメントの生産量は年間売上高にして20億ドルであった。1997年に、エテックスの19,478名の人員が生み出した純売上高は世界中で20億4千万ドルで、前年を12%上まわった。 関係があるか独立しているかを問わず、エターニットの子孫たちをざっと観察してみれば、ある種の類似性が浮かび上がってくる。1996年12月16日、エテックス・グループに属するエターニト・フランスは、テレビジョン・フランス 2を、「致死的なアスベスト」と題したドキュメント番組の中の表現を取り上げて名誉毀損で告訴した。この番組は「フランスでは毎年2,000名の人々がアスベスト中毒で死亡している」で始まり、産業のリーダーたちに焦点を当てて、「サンゴバンやエターニトなどのアスベスト多国籍企業は、その労働者の健康をもてあそぶことにまったく躊躇していない」と言っている。番組は、企業のアスベスト製造のフランスから第三世界諸国への移転にハイライトをあて、産業界が資金援助するPR・ロビー団体であるアスベスト常任委員会(Permanent Committee on Asbestos)が過去12年間以上に果たしてきた役割について議論した。このドキュメンタリーの厳粛な趣旨を理解して、Domb、Charruault、Nesi の3人の裁判官は、1998年3月25日に告訴を退けた。 1997年、ディジョンの控訴裁判所は、フランスの労働者の企業に対するアスベスト曝露による民事訴訟の最初の成功例として、エターニト・フランスに対する票決を下した。元エターニト労働者の妻 Domagala 夫人の勝利は、他の民事訴訟のための道を開いた。現在、600名以上のフランスのアスベスト被災者が、エターニト、サンゴバン、海軍工廠その他の事業主を、言い訳の立たない過失(faute inexcusable)によって提訴している。 1999年1月21日、1980年代中頃までエターニト・スイスが所有していたエターニト・レバノンの要請により、ベイルート株式取引所は、同社株の取り引きを中止した。以前の同社の最大の市場であったシリアにおけるアスベスト・セメント・パイプの禁止によって、同社は過去3年間以上に2,450万ドルの損失を被った。1月中旬、エターニトは、立法的措置である「予防政教条約」によって、改造のための3千万ドルの責任を課された。地中海グリーンピースを代表して Ghassan Geara は、「もしエターニト代表の Pierre Abboud が、アスベストを段階的に廃止し、コンクリートやプラスチックPEパイプのような代替品に転換するのであれば、エターニトの300名の労働者の仕事と健康は救われるだろう」と述べた。 エターニトとサンゴバンだけがアスベストをめぐる苦境にさらされているわけではない。旧ケープ・アスベスト・カンパニーのケープplcも、イギリスとアメリカでがたついている。1999年2月4日、インデペンデント誌は、「何千件もの補償請求をくいとめることをねらったゼノフォビック・キャンペーン」を組織するために、PRコンサルタントを雇い入れたと報じた。以前ジョン・メージャー政権下で通信事業の支配者だった Charles Lewington はケープに、「たとえひとにぎりであってもイギリス国外からの補償請求に法的救済を与えようという、より幅広い政治的な圧力が、すぐにデイリー・メールのような新聞にあらわれるだろう。政治的なあてこすりはメールのような新聞にとっては食指をそそるものだから…請求の詳細などは二義的な関心事でしかない」と助言した。イギリス上院中枢部の昨年のまとめによると、南アフリカでアスベスト曝露を受けた2千名近い労働者が、ケープに対する法的救済をイギリスの裁判所に提起することを希望している。これらの事件の法的手続は現在進行中である。 1998年11月、以前のケープの実質的な出資者であったチャーターplcは、イリノイ州第4行政区上訴裁判所の決定を見直すようアメリカの最高裁判所に申請した。2件のアスベスト死亡訴訟に関する裁判所の予審決定を支持して、最高裁判所は、不法行為を犯していれば州外の被告を審理することができることを是認した。チャーター側の弁護士は、「修正第14条のもとにおける正当な法的手続では、外国人被告と共謀したと申し立てられた別の被告と取引関係のある外国人被告であるということだけを素因としている場合、取引関係のなかった外国人被告に対する裁判の管轄を選択することが認められている」と疑問を呈している。 5月13日から7月8日にかけて、イギリスの安全衛生庁(HSE)とイギリス労働衛生協会(British Occupational Hygiene Society)は、イギリス国内5か所で1日のアスベスト・ロードショーを主催する。この会合は、「仕事でアスベストを取り扱うすべての人」を対象に、「アスベストをめぐってどのような問題が起こっているかについて一層の理解を深める機会を提供」することを目的にしている。予定されている発言者には、ケープ・カルシル・システムズLtd.、エターニトUK Ltd.、「アスベストとノン-アスベスト・フリクションの製造業者」であるBBAフリクション Ltd.、ある労働者によれば100年以上も前から南アフリカでアスベスト原料の加工を行っているクリンガー・グループと関係があるというクリンガーLtd.の代表も含まれている。ある面では、何百年ものアスベスト生産の経験全体を知っているという意味で、うまく選ばれた発言者だとも言える。他方では、アスベスト被害者とその家族たちは、会議の壇上でHSEや地方当局、労働組合活動家と並んで、商業的利益が申し立てられることを不愉快に感ずるだろう。 * 原文は http://www.lkaz.demon.co.uk/ ban34.htm で入手できる。 *****
世界中でアスベスト曝露によって引き起こされる疾病と死亡の苦しみを根絶するために、ラマッチニ協会(Collegium Ramazzini)は速やかなアスベストのすべての採掘および使用の禁止を要求する。実効あるものにするために、この禁止は国際的規模で、また、世界中のすべての国々で実施されなければならない。 アスベストは、破滅的な職業上および環境上のハザードである。アスベストは、アメリカにおいて20万以上の死亡の原因となっており、世界中ではさらに数百万の死亡を引き起こしている。アスベストによる流行病の根深い悲劇は、アスベストによる疾病や死亡が完全に予防可能だということである。 より安全なアスベストの代替品は存在しており、それらは多くの国々で成功裏に導入されている。アスベスト曝露の重大な危険性とより安全な代替物質が利用可能であるということは、多くの国々をすべてのアスベストの輸入および使用の禁止に続々と導いている。アメリカにおいては、アスベスト使用の劇的な減少が生じた。アスベストはすでにスウェーデン、ノルウェー、デンマーク、オランダ、フィンランド、ドイツ、イタリア、ベルギー、フランス、オーストリア、ポーランド、サウジアラビアで禁止されている。 ● ラマッチニ協会 ラマッチニ協会は、労働・環境医学的な重要問題を調査研究している、国際的な学術団体である。協会は、疾病の予防と健康の促進のために献身している。協会は、その名称を労働医学の父と称される、1600年代後半から1970年代初頭まで(イタリアの)モデナおよびバドヴァ大学の医学教授であった Bernardino Ramazzini からとっている。協会は、選挙で選ばれた35か国180名の医師および科学者で構成される。協会は、商業的利益からは独立している。 ● 背景 現代の産業社会におけるアスベストの健康影響は、世界中の科学文献のなかで詳細に証明されてきている。鉱業、建設業、重工業におけるアスベスト労働者の疾病、死亡の犠牲はよく知られている。イギリス、南アフリカおよびイタリアのパイオニア的な研究(Doll, 1955; Wagner, Speggs, Marchan, 1960; Vigliani, Mottura, Maranzana, 1964)が、アメリカの断熱工における Irving J. Selikoff とのその同僚たちの最も権威のある研究のための土台を生み出した。Selikoff の不朽の研究は、第一に、断熱工の著しく過剰な死亡率を示しており(Selikoff, Hammond, Churg, 1964)、後には、タバコの喫煙とアスベスト作業の共同作用的な関係を示した(Selikoff, Hammond, Churg, 1969)。最初の曝露開始から20年以上経過した者には、過剰な肺がんおよび中皮腫のリスクと過剰な他の腫瘍形成のリスクが確認された(Selikoff, Seidman, 1991)。これらのリスクは、アスベスト労働者に影響を及ぼすだけでなく、彼らの家族や隣人(衣服や工場から(周辺環境へ)の放出による)、アスベスト含有製品のユーザーおよび広範な公衆に対しても影響を及ぼす。 アスベストとは、断熱性、抗張性、防音性をもった、ある種の繊維性鉱物につけられた名称である。アスベスト鉱物は、蛇紋石族と角閃石族の2つのグループに分けられる。蛇紋石族鉱物としては唯一、白アスベストとしても知られるクリソタイルがある。角閃石族鉱物には、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライトおよびアクチノライトのの5つの種類のアスベストが含まれる。これらのうち、アモサイトまたは茶アスベスト、クロシドライトまたは青アスベストのふたつが商業的に価値がある。他の角閃石族アスベスト鉱物は、商業的な重要性はわずかでしかない。 すべての種類のアスベストが、進行性の肺の繊維症である石綿肺を引き起こす。また、すべてが肺がんおよび悪性中皮腫を引き起こす(IPCS, 1988; Dement, Brown, Okun, 1994)。アスベストは、ヒトに対する証明された発がん物質であるということが、アメリカの環境保護庁(EPA)および国際保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)によって宣言されている(EPA, 1986; IARC, 1987)。クリソタイルは他の種類のアスベストよりも相対的に安全かもしれないという初期の指摘は確認されている(UNEP, ILO, WHO, 1998)。データに関する科学的証拠の多数は、クリソタイルもまた肺がんおよび中皮腫を含むがんを引き起こすことを示している(Smith, Wright, 1996; Stayner, Dankovic, Lemen, 1996)。角閃石族を含まないカナダ産のクリソタイルでも、中皮腫と関連している(Frank, Dodson, Williams, 1998)。 アスベストに関する主導的な研究者である Julian Peto とその同僚たちは、西ヨーロッパの男性における中皮腫による死亡は、1998年の5,000強から2018年までにはおよそ9,000に増加するだろうと予測した。西ヨーロッパだけで、過去におけるアスベスト曝露は、今後35年間に25万の中皮腫による死亡を引き起こすだろう。アスベストによって引き起こされる肺がんによる死亡は、少なくとも中皮腫の数と同等であることから、西ヨーロッパにおける今後35年間のアスベストによるがん死亡は50万以上にのぼるだろう(Peto et al., 1999)。スウェーデンにおいては、Jarvholm が、毎年の悪性中皮腫を原因とする死亡は、この国の労働災害にる死亡件数全体よりも大きいと報告している(Jarvholm, Englund, Albin, 1999)。 ● 禁止の必要性 アスベストの採掘および使用の速やかな国際的禁止は、技術的にあるいは作業慣行の規制によってリスクを管理することはできないという理由から、必要なことである。世界中で最も厳しいクリソタイル・アスベストの労働曝露限界(0.1f/cc)でも、肺がんの生涯リスクが5/1,000、石綿肺の生涯リスクは2/1,000と推計されている(Stayner et al, 1997)。このような曝露限界は、アメリカや他のいくつかの高度に産業化した国々では達成することができるが、それでもなお残されたリスクはあまりにも高く、容認しがたい。採掘、製造、建設に関与する新たに産業化しつつある諸国においては、アスベスト曝露(のレベル)はしばしば非常に高く、アスベスト疾患が流行する可能性は大きく増加している(Giannasi, Thebaud-Mony, 1997; Izmerv, Flovskaya, Kovalevskiy, 1998)。 アスベストの使用を今なお許している国々の科学者および責任ある当局者たちは、アスベストの管理された使用」が禁止の現実的な代替になるというような幻想を持ってはならない。しかも、最良の作業場の管理であっても、すでに使用されている製品あるいは廃棄物による職業上および環境上の曝露を防止することはできない。アスベストの使用継続による環境的曝露は、今なおシリアスな問題である。カナダのアスベスト鉱山地帯の地域に居住する女性に関する最近の研究は、胸膜中皮腫による死亡率の7倍の増加を観察している(Camus, Siemiatycki, Meek, 1998)。産業化した諸国においては過去の建設慣行の遺産として、何千もの学校、家屋、商用ビルディングに大量のアスベストが残っており、開発途上国の数千の地域社会においても現在蓄積されつつある。 アスベストの採掘および使用の速やかな国際的禁止は、国ごとの取り組みではアスベストによる健康リスクを根絶するよりも、それを移転させてしまうという理由から、必要なことである。アスベスト産業は多くの国々で、公共政策に対して大きな影響力を持っている。アメリカにおいては、アスベスト産業は1991年に、EPAが勧告した禁止と段階的除去を、裁判における手続的な決定によって覆すことに成功した。カナダ、ロシアおよび他のアスベスト輸出国は、新興産業化諸国に巨大な市場を開発している。現在の開発途上国におけるアスベスト使用の状況は、アスベストの危険性が広く理解される以前の産業化諸国の状態に似ている。 アスベスト産業の営業戦略は、タバコ産業のそれに非常によく似ている。世界中で聖域がなくなっているなかで、産業化諸国におけるシガレット消費減少の結果である損失は、第三世界諸国に対する猛烈な販売によって埋め合わされている。同様の状況で、産業化された諸国は、漸進的なアスベスト使用の禁止によってアスベストによる健康の破局に対処してきている。その結果、アスベスト産業は徐々にその営業活動と健康に対する危険を第三世界諸国に移転しつつある。 アスベスト多国籍企業は、国際的な搾取の嘆かわしい歴史を呈示している。こうした企業は、ブラジルや他のラテンアメリカ諸国、インド、タイ、ナイジェリア、アンゴラ、メキシコ、ウルグアイ、アルゼンチン等において、広大かつ収益の多い国内または輸出市場を開いている。ブラジルは現在、ロシア、カナダ、カザフスタン、中国に次ぐ、世界で第5位の巨大生産者であり、また消費者である。白アスベストのアメリカにおける使用量は毎年国民1人当たり100gよりも少ないが、ブラジルにおけるアスベスト使用量は毎年国民1人当たり1,000gである。第三世界諸国においては、アスベスト使用量は毎年およそ7%ずつ増加しつつある。 ● 結論 重大なアスベストの健康ハザーズは、完全に予防可能である。アスベスト曝露による健康リスクは、産業化した諸国においても新たに産業化しつつある諸国においても、容認できるものではない。しかも、適切かつ安全なアスベストの代替物質が利用可能なのである。速やかな世界的規模でのアスベストの生産および使用の禁止は、とっくに機が熟しており、完全に正当化できるだけでなく、絶対的に必要なことである。 ● 参考文献(省略) ● ラマッチニ協会 国際本部 : Castello dei Pio, 41012 Carpi(MO), Italy 事務局長: Castello di Bentivoglio, 40010 Bentivoglio(BO), Italy ***** 新しい管理規則、さらなる起訴、禁止はまだBan Asbestos Newsletter, Issue 34: Spring 1999 新しい法律、ガイダンス、そして起訴のラッシュは、イギリスにおけるアスベスト曝露の締めつけ強化を示しているが、国内におけるクリソタイルの輸入と使用の禁止の課題は残されている。 1999年2月1日、より厳しい規則および実践コード(ACoPs: Approved Codes of Practice)の導入によって、アスベスト作業の規制が強化された。この改正は、アスベスト関連疾患のリスクが最も大きいのは大工、電気技師、配管工、他の建設業の職種の者であるという証拠が増大してきていることを受けて提案されたものである。 1983年アスベスト(認可)規則は、アスベスト断熱板を扱う作業にまで拡張され、HSE(安全衛生庁)の認可(ライセンス)がこの種の材料に関する作業についても必要になった。 1987年アスベスト作業管理規則の改正では、クリソタイル曝露のアクション・レベル(action level)および管理限界(control limit)を引き下げ、以前は規制されていなかったアスベスト作業も規制の対象とし、また、アスベスト実験室の認証基準を課した。 (注) イギリスでは、管理限界は、 @4時間平均値およびA10分間平均値で示される。Bアクション・レベルは、それを超えると、作業の届出を含め多数の規制の対象になるトリガー値で、継続12週間の累積曝露量で示されている。クリソタイルについては、各々(@ABの順)、0.5f/ml、1.5f/ml、96fh/mlであったものを、0.3、0.9、72に引き下げた。なお、クリソタイル以外のアスベストについては各々、0.2、0.6、48である。 2月にはまた、HSEが、雇用主、請負人、自営業者を対象とした2つの実践コード(ACoPs)を発行した。ライセンスを必要とする作業のためのアスベスト除去管理技術では、「管理されない乾式のアスベスト除去は可能な場合はいかなる時でも避けなければならない」と警告している。訓練された作業習慣と湿潤化剤の使用を組み合わせることが勧告されている。「個人用保護具(PLE)をアスベスト除去作業中の唯一の曝露管理手段として頼ってはならない」。アスベスト・セメント作業については、使用状況、組成、リスクについて述べた後、一般原則、作業方法、除洗、清掃、廃棄物処理、大気モニタリングの手順を示している。 イングランド中部の Clarity Print Ltd. の工場のアスベストを除去させるために「居酒屋で労働者(“a man in a pub”)を雇った」事件について、1999年2月、ウエスト・ブロムウィッチの軽罪判事は、13,000ポンドの罰金を科した。以前はアスベスト除去業者に1,500ポンドかかっていたものを、この仕事では700ポンド支払っただけだった。昨年の秋、無認可のアスベスト請負人である Paul Evans は、「居酒屋で徴募」した労働者を9か月、それと知らぬまま断熱材、屋根剤の除去作業で茶アスベストを扱わせたという理由で投獄された。 別のケースでは、ローバー(Rover)グループが、ロングブリッジ・ワークスにおいて、初期の調査でパイプのアスベスト断熱材の状態を劣化させることが確認されていながら、自動車運搬装置を処分する作業でアスベスト曝露を許したという理由で、1974年労働安全衛生法第3(1)項に基づいて、バーミンガム軽罪判事により6,000ポンドの罰金を科せられた。特殊鋼メーカーであるビッカース(Vickers)plcは、1997年12月に、請負業者がハーレスコット工場のアスベストで断熱された炉を解体するのを許したという理由で、シュルップシア軽罪裁判所に起訴された。ビッカースのスタッフは、1980年代の改修作業でアスベストは除去されたものという誤った認識によって、作業開始前に点検することを怠った。 キッダーミンスター工場で従業員と外部の請負業者をアスベストに曝露させた、カーペット製造企業であるブリントンLtd.では、「驚くばかりの過失」が10万ポンドの罰金をもたらした。ウスター刑事裁判所は、1995年12月にオルディントンの施設を買収したときに、この建物にはアスベストはないと口頭で補償されたと、聞かされた。残念ながら、ブリントンは文書による確認を要求しておらず、購入前にアスベスト調査をした方がよいという検査官の勧告も見落とされた。Martin Wilson 裁判官によって課せられた罰金の水準に対して、会社側は上訴している。 環境保健事務所の警告を2年間以上無視して、エリスとケントにあるP.P.メーリングLtd.は、最近、60人の労働者を劣化したアモサイト含有屋根材に曝露させた関連で、複数の安全衛生法規違反で22,500ポンドの罰金を科せられた。 これらのケースで検討されている金銭的刑罰に照らして、1999年3月に、アスベスト・ライセンスの偽造で有罪と宣告された元廃金属ディーラー Joseph Nash に与えられた条件付き罰金免除は驚くべきものであった。スタワーブリッジ病院の解体作業中に、Nash は計画監督官の検査に対して偽造文書を提示した。HSEの監督官 Alan Craddock は、「ライセンス供与はわれわれの持つ最も強力な管理手段のひとつである…その価値を損なうことがないようにさせることが絶対必要である」と言っている。この業者に対して2,000ポンドの訴訟費用が認められた。 1992年アスベスト(禁止)規則の改正提案: CD140(1998年11月号13頁参照)の協議期間は1998年12月に終了したにもかかわらず、まだ議会に対して何の報告も勧告もなされていない。1999年2月11日には、「かりに近い将来におけるヨーロッパにおける禁止が失敗したとしても、イギリス政府が一方的禁止を押し進めること」を促す下院での早朝行動が取り組まれた。 欧州連合の禁止に向けた動きが一時的に立ち往生している間に、地球の反対側で前進がみられている。ニュージーランドにおいては、クリソタイル繊維の輸入を制限することが検討され始めている。1999年2月に、オーストラリアの全国産業化学物質告知・評価計画(National Industrial Chemicals Notification and Assessment Scheme)は、「輸出目的の製造を含めてオーストラリアにおけるクリソタイルの使用は、段階的に廃止されるべきである」と勧告した。 * 原文は http://www.lkaz.demon.co.uk/ban34.htm で入手できる。HSEのホームページ、http://www.open.gov.uk/hse/press/c9902.htm、99022.htmも参照のこと。*****
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