2001.2.25

安全センター情報


1999年4月号




イギリスの新しいアスベスト規則は2月施行


Mick Holder, London Hazards Centre, U.K., 1999.1〜2.


イギリスの1987年アスベスト作業管理規則(CAW)および1983年アスベスト(認可)規則(ASLIC)の改正規則は、1999年2月1日から施行される(この内容については、1998年5月号24-25頁の囲み記事6月号9-12頁の囲み記事参照)。
ASLICは、新たにアスベスト断熱板にも適用されるが、これは1999年8月まで効力をもたない。すでに使用されているアスベストを管理/調査する義務は課せられていないが、HSE(安全衛生庁)によると、その件について協議すべきかどうかを問うと誰もそうすべきだと言うので、今年これから協議を行なう予定である(おそらく下記の行事の前に)という。
イギリス労働衛生協会(BOHS: British Occupational Hygiene Society)は、今年5月から6月にかけて5つの巡回企画を行なう予定で、労働組合の活動家もゲスト・スピーカーとして招かれる。
× × ×
新しいアスベスト規則をみてひとつ驚いたのは、アスベスト被覆材(アルテックスなど)が認可が必要な適用対象となっていないことである。多数の建設業の親方たちが意見を提出して、反対したためではないかと考えている。被覆材の除去作業は法律の弱点になっており、労働安全衛生法によって規制するべきだというわれわれの要求に関心を払うべきである。
クリソタイルの労働曝露基準を0.5繊維/mlから0.3繊維/mlへとわずかに減らしたが、われわれはすべてをゼロにしろと要求している(日本は2繊維/mlであるが、日本産業衛生学会の許容濃度等に関する委員会では、現在、アスベスト粉じんの許容基準を検討中である)。
× × ×

HSE(労働安全衛生庁)とBOHS(イギリス労働衛生協会)では、改正されたアスベスト規則に関する、イギリス全国での一連の巡回説明会を計画中である。 スピーカーは、Julian Peto 教授ととともに、労働組合、除去業者、無アスベスト製品製造業者・業界の代表が予定されている。 5月13日 ロンドン 5月27日 ニューキャッスル 6月10日 バーミンガム 6月24日 チェスター、ウェールズの 近辺
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クリソタイル(白)アスベストの代替品


HSE: Health and Safety Executive, U.K., 1998.12.15


あなたはこのガイダンスを読む必要があるか?
もしあなたが
、・ クリソタイル(白)アスベスト製品(新品か中古品かにかかわらず)を、輸入、供給、製造、購入あるいは設置しているか、
・ クリソタイル・アスベストを含有する構造物や建築物を指定あるいは設計していれば、
イエスである。
このガイダンスは、あなたが法律を守るのを助ける基本的な情報を提供する。

● なぜこのガイダンスが作成されたのか?

このガイダンスは、次の2つの目的をもっている。
・ 雇用主あるいは自営業者としてあなたには、クリソタイルをより有害性の少ない物質に代替することを検討すべき義務があることを知らせること。
・ 以下のことを示して、あなたがこの義務を守るのを助けること。
― 代替を検討する際に考慮すべき必要事項
― 入手可能な代替物質の範囲
― 代替品に関する情報源

クリソタイルはどう有害か?
クリソタイルは、ヨーロッパではカテゴリー1の発がん物質(最も厳しい分類)に分類されている。それは、中皮腫(肺の膜のがん)、石綿肺を引き起こし、肺がんと関連している。これらの疾病による死亡者は、他のいかなる単一の労働関連疾患よりも多い。

現在使用は禁止されているのか?
クロシドライト(青)、アモサイト(茶)およびいくつかの用途へのクリソタイル(白)アスベストの使用は、イギリスでは1992年アスベスト(禁止)規則によってすでに禁止されている。

代替品は何で、それらは安全か?
繊維技術に頼らない、長年の使用で確立された多くの代替品が存在する。例えば、波形ポリ塩化ビニル(PVC)や鋼板は、アスベスト・セメント板の代わりに使用することができる。
いくつかのタイプのノン-アスベスト繊維もまた、アスベストに代替することができ、すでに広範囲の製品用に開発されている。現在使用されている主なノン-アスベスト繊維は、ポリビニルアルコール(PVA)、アラミッド、セルロースである。これらの安全性について検討した科学的レビューが、最近利用できるようになった。1998年7月、イギリス保健省の発がん性に関する委員会(CoC)は、これら3つの物質(PVA、アラミッド、セルロース)はクリソタイルよりも安全であるとの結論を下した(1998年9月号22-29頁の囲み参照)。この見解は、1998年9月の欧州委員会の毒性、環境毒性および環境に関する科学専門委員会の見解によって裏づけられた(1998年12月号38頁参照)。

代替化を検討すべき法的義務はあるのか?
イエス。安全衛生法は、リスクを避けるか最小化することを要求している。とりわけ、
1987年アスベスト作業管理規則(CAWR) 8(1)は、次のように定めている。
8.(1) すべての雇用主は、
(a) その従業員のアスベストへの曝露を防止しなければならず

(b) そのような曝露を防止することが合理的に実行可能でない場合には、呼吸用保護具の使用以外の方法によって、その従業員のアスベストへの曝露を合理的に実行可能なレベルにまで減少させなければならない。
注: CAWR 3(1)条は、これらの条文による義務は、自営業者が雇用主に対して行なう場合にも適用されると定めている。
これは、アスベストに遭遇する可能性のある場合にはどこでも、曝露を防止するために、すべての合理的に実行可能な措置がとられなければならないことを意味している。

また、CAWR 8(1A)は、次のように定めている。(1A)
(1)項の規定を侵害することなしに、何らかの製造または設置の過程において従業員がアスベストに曝露する可能性がある場合で、実行可能な場合には、それを使用する状況のもとでその従業員の健康へのリスクを生じさせない、または、アスベストよりもリスクの少ない代替物質によりアスベストを代替化することによって、そのようなアスベストへの曝露の防止を達成しなければならない。 これは、クリソタイルを新たに使用することが考えられる場合には、実行可能で、かつ、代替物質が引き起こすリスクの方が少ないと思われる場合には、代替物質によって代替しなければならないという意味である。
設計に関しては、1994年建設(設計・管理)規則(CDM)
13(2)(a)(i)は、次のように定めている。
13.(2) すべての設計者は、(a) その用意するすべての設計、および、建設作業用に用いられると考えられる設計考慮事項を、以下の必要性に関して適切であることを確保しなければならない。
(i) いかなる時でも構造物の中または上において建設作業または清掃作業を実施するすべての人々、あるいは、職場でそのような人々の作業によって影響を受けるおそれのあるすべての人々の、予測可能な安全衛生リスクを避ける必要性
これは、設計者は、クリソタイルの代わりにより有害でない代替物質を指定することによって、安全衛生リスクを避ける措置をとらなければならないという意味である。

新たにあるいは交換用にクリソタイルの使用が考えられる場合にどうしなければならないか?
新たにまたは交換用にクリソタイルの使用が考えられる場合にはいつでも、代替化および以下の措置が検討されなければならない。
・ クリソタイル含有製品を使用する対象を確認すること。
・ 入手可能なノン-アスベスト代替品または他の手段とクリソタイルを使用した場合のリスクを比較すること。比較にあたっては、以下のことを考慮する必要がある。
― クリソタイル曝露とノン-アスベスト代替品の人間の健康への直接的な影響― リスクのバランス。
例えば、代替品の技術的性能がクリソタイルよりも劣るとすれば、事故や人間の健康、安全、環境に対する危険につながる、部品故障を生ずるかもしれない、といったこと。
メリットに関する各々のケースを考慮する必要があり、また、決定を正当化できなければならない。しかしながら、より安全なアスベスト代替品の有効性を考えれば、ほとんどの場合、代替化は実行可能であり、そうしなければならない。代替化が実行可能でないという例外的な状況においても、入手可能になる代替製品の適切性をたえず見直す必要がある。 また、1994年健康危険物質管理規則(COSHH)(1999年健康危険物質管理規則によって1999年2月に置き換えられる)に基づいて、代替品としてノン-アスベスト物質を使用することによるリスクのアセスメントを実施する必要がある。

クリソタイルがすでに使用されていて、その状態が悪い場合にはどうすべきか?
クリソタイルがすでに、建築物の構造の一部または既存の装置の部品に使用されている場合、それが安全でよい状態にある限りは、代替化する必要はない。しかし、HSEや他の入手可能なガイダンスにしたがって、建築物の中の既存のアスベストを管理することが求められている。これは、損傷したアスベストを修理または除去する際のアドバイスを提供している。

残っているクリソタイルの用途は何か?
4つの残っている一般的な用途がある。

アスベスト・セメント
その補強性のよさから、クリソタイルは、アスベスト・セメントに使用されている。製品は主にプロファイルされたシートまたはスレートのかたちである。
摩擦材(フリクション)
その耐久性および熱や油への耐性から、クリソタイルは、摩擦材に使用されてきた。現在では、車両のブレーキ・ライニングの交換用だけに、5トン以上が使用されている。しかし、1999年10月1日に施行される欧州指令 98/12/EC は、道路用車両のブレーキ摩擦材へのアスベストの使用を禁止している。これは、すべての新しい車両およびいくつかの最も古い車両(ノン-アスベスト物質が装備され、試験されたことのない)を除くすべての車両用の交換用ブレーキ摩擦剤へのアスベストの使用を禁止している(1998年11月号20頁囲み参照)。指令 98/12/EC は、イギリスでは、環境・運輸・地方省によって施行される別の規則によって履行される。
シールおよびガスケット
この主な用途は、以下のパッキングおよびシールである。
― ブレードまたはラミネートされたパッキング、防水加工された布またはテープ、モールドされたグランド・パッキング; ガスケット
― 圧縮されたアスベスト繊維(天然または合成ゴム混合物中のアスベスト)
主なクリソタイル紡織製品は、紡織テープ、布、糸である。これらは、現在ではイギリス国内では製造されていないが、まだ輸入されている。混合物は、一般にアスベスト繊維または樹脂浸漬布であり、シート、チューブ、ロッド、成形モールディングに成形される。

入手可能な代替品は?
多数の物質をクリソタイルの代替品として使用することができる。それらは、多くのアスベスト製造業者または供給者によって提供されており、それゆえ彼らは、特別な用途向けの適切な信頼できるノン-アスベストを含め、代替化の技術的側面についてアドバイスすることができる。その仕様が多様であるために、このガイダンスでは、すべての入手可能な代替品の完全な詳細は与えていない。
しかしながら、クリソタイルの主要な用途区分ごとに、以下の表で代替品のいくつかの例を掲げてある。
個々の製品や適切な用途についてのこれ以上の情報は供給者に問い合わせること。

今後他の代替品が入手可能になるか?
他に代替品も開発されつつあり、今後数年間のうちには、クリソタイルは、事実上その現在のすべての用途についてとって代わられることになるだろう。かりにあなたの特別の用途に、現在適当な代替物質が入手できなかったとしても、定期的に新たな物質をレビューし、代替可能なものが入手可能になったらすぐに検討すべきである。

代替品の評価をする際に考慮すべきことは?
主要な特性は、持続性、耐熱性、強度、可撓性、他の混合物との融和性などである。代替品がクリソタイルと同等の性能をもたない場合があるかもしれないが、以下のことを考慮すべきである。
・ わずかの性能の差は問題にならないこと。例えば、non-safety- critical な用途、
・ 代替品の特性が全体として健康へのリスクの減少を確保すること。および、
・ 代替品に合わせて手順や使用を変更することが可能であること。例えば、工程温度を下げることによって、より有害性の少ない代替品を使用することができるなど。

安全代表との協議
雇用者によって労働組合が承認されている場合には、あらゆる重要な安全衛生基準の変更に関して、安全代表と適切な時期に協議しなければならない。これには、関連するアスベスト製品代替化の計画も含まれる。雇用者によって労働組合が承認されていない場合には、従業員または従業員の代表と直接協議しなければならない。

参考文献
1. 食品、消費者製品および環境中の化学物質の発がん性に関する委員会(CoC), 3つのクリソタイル代替物質の発がんリスクに関するHSE(安全衛生庁)への報告, 1998.7.17(1998年9月号22-29頁囲み参照)
2. 欧州委員会毒性、環境毒性および環境に関する科学専門委員会(CSTEE): CSTEE第5回全体会議のクリソタイル・アスベストおよび代替候補物質に関する見解, ブリュッセル1998.9.15(1998年12月号38-40頁参照)
3. 建設業における安全衛生管理, 1994年建設(設計・管理)規則実践コード(Approved Code of Practice) L54, HSE Books 1995 ISBN 0 7176 0792 54.
建設作業現場におけるアスベスト管理, INDG223 HSE free leaflet5. 建築物におけるアスベスト, 第3版, 環境省, HMSO ISBN 0 11 7523 70 4 このリストの将来における入手可能性および正確さは保証のかぎりではない。

追加情報の入手先は?
アスベスト規則、アスベストに関するガイダンスについての更なる情報は、HSE Bookas へのメール・オーダーで入手可能である。
アスベスト代替品に関するさらなる情報は供給者から入手されたい。
* このガイダンスの原文は、http://ww.open.go v.uk/hse/pubns/misc155.htm で入手することができる。
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ヨーロッパはアスベスト関連がんの流行に直面


Rory O'Neil, WHIN/Hazards, U.K., 1999.1.18



以下の文章は、イギリスのがん研究キャンペーン(Cancer Research Campaign)のアスベストに関するプレス・リリースである。
これは、Julian Peto 教授の論文に基づいたもの。Peto はいつもアスベストのリスクについて警告するが、たいてい労働組合運動が同様の主張を行ってから5〜10年たってからで、当初は Peto はその主張をけなしてきた。それゆえ、Peto のショッキングなアスベストによる死亡件数も控えめなものとみなさなければならない。
実際の合計件数が Peto の推計値よりも大きいと考えられるもうひとつの理由もある。西ヨーロッパにおける今後35年間のアスベストに関連した肺がんおよび中皮腫が50万件という数字を導き出すにあたって、Peto は、アスベスト関連の中皮腫による死亡1件につき、アスベスト関連肺がんが1件あると考えられているとしている。 通常は1:2という比率が用いられており、そうすると予想される合計はさらに50%増加することになる。 たとえアスベストの完全禁止を実現したとしても、西ヨーロッパはなおアスベストによる死亡にさらされる時代に直面することになる。
アスベスト産業の地球的市場―とりわけ開発途上国―のために、さらに100年間もの間、何百万件もの避けることのできた死亡を見続けることになるかもしれない。 このメッセージをできるだけ多くの労働運動関係者に伝えていただきたい。
× × ×
がん研究キャンペーンの基金による研究によれば、西ヨーロッパにおいて今後35年間に50万人がアスベスト関連がんによって死亡するだろう。サリーのがん研究所およびロンドン衛生・熱帯医学校の Julian Peto 教授は、アスベストによって引き起こされる、主に肺の膜を襲うがんの一種である中皮腫のヨーロッパにおける傾向を分析した。
今週の British Journal of Cancer(Vol.79(3/4)) に掲載される論文で、彼は、西ヨーロッパにおける人々のこの疾病による死亡件数は、1998年の5,000から2018年には約9,000とほとんど2倍になると予測している。
今後35年以上の間には、中皮腫による死亡件数の合計は25万になるだろう。
Peto 教授は次のように言う。「1945年から1950年頃に生まれた人々が最もリスクが高い。西ヨーロッパでは、50歳位の男性のおよそ150人に1人が、結局中皮腫によって死亡するだろう。アスベスト作業に従事していた人々のリスクはもちろんもっと高い。」
「建築物や工業におけるアスベストの使用は、1950年に生まれた人々が職業生活を開始した1970年頃にピークに達した。」
「通常20〜60年たってから発症するこの疾病の最初の影響が出始めたばかりである」と、彼は語る。 Peto 教授は、ヨーロッパにおける中皮腫による死亡の流行は2020年頃にピークに達し、その後減少するだろうとしている。 この理由は、1980年代以降、アスベストの使用が大きく減少したからである。 しかし、Peto 教授は、1955年以降に生まれた人々に対するリスクはいまだ知られていないと警告している。現存の建築物には大量のアスベストが使用されており、アスベスト除去・解体労働者と同様に修繕作業において建築業者、配管工、大工や電気工などが、適切な防護策を取らなければ、いまなおひどい曝露を受け続けるかもしれない。
Peto 教授の研究は、西ヨーロッパの人口の3分の1にあたるイギリス、イタリア、フランス、オランダ、ドイツおよびスイスの6か国に焦点を当てたものである。
これは、Peto 教授とそのチームのイギリスだけを対象としたこの疾病による死亡率に関する以前の研究を引き継いだものである。 がん研究キャンペーンの理事長の Gordon McVie 教授は、「イギリスでは、安全衛生局がアスベストによる危険性が持続していることを警告しているが、多くの建築労働者がいまなお重大なリスクがあることを十分に理解していない」と語った。
「この研究結果が、ヨーロッパにおいて大きなインパクトを与え、また、いまだそのリスクに気づいていない諸国、とりわけ管理されないままのアスベストの使用がいまだ一般的な開発途上諸国に、警鐘を鳴らすことになることを期待する」と、彼は付け加えた。

編注
* アスベストによって引き起こされる肺がんの死亡件数は、中皮腫の件数と同様である。したがって、今後35年以上の間の西ヨーロッパにおける合計死亡件数は、およそ50万になるだろう。* 中皮腫とは、主に胸膜(肺を覆う膜)を襲うある種のがんであるが、腹膜(腹腔の膜)に生ずることもある。
* とくに建築や電気工事などで業務でアスベストに曝露する人々ほど、中皮腫を発症する率が高い。
* この疾病は治療が非常に難しく、生存率はきわめて低い。
* 研究チームは、1970〜1989年の中皮腫の発生件数の傾向を分析することによって推測値を試算した。これらのデータを用いてヨーロッパ各国の1990〜1994年の死亡件数を予測し、それを実際の件数と比較した。その結果、予測値は正確であった。
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スウェーデンにおける悪性中皮腫


Jim Brophy, OHCOW, Canada, 1999.1.27



以下に引用する論文で、スウェーデンの研究者は、スウェーデンにおけるアスベストの職業曝露による胸膜中皮腫の発生率は、今日では死亡労働災害の全体よりも大きいと言っている。彼らはさらに、1960、1970年代に採用された防護措置は、胸膜中皮腫のリスクを減少させなかったと仮定している。
この事実は、この物質を禁止することだけが、予防可能ながんを根絶するという所期の効果を達成することができるという明白な結論を支持するものである。 論文の結論部分だけを以下に紹介する。
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スウェーデンにおける胸膜中皮腫:
アスベスト使用に伴う発生率の分析
Jarvholm et al, British Occupational and Environmental Medicine, Vol. 56 No. 2, February 1999

以前のアスベスト使用による中皮腫による死亡率が死亡労働災害の合計件数と同程度であるという今日のスウェーデンの状況は、使用されたアスベストの少なくとも90%はクリソタイルであるという状況の中でもたらされている。しかしながら、中皮腫の各事例がクリソドライトかアモサイトか、どの種類のアスベスト曝露によるものかという情報はもっていない。世界中のアスベスト産業によって、クリソタイルの使用を認めるようにアスベスト規制を変更させようとする圧力が加えられている。そのような試みを評価するためには、さらに少なくとも30年かかるだろう。もしスウェーデンにおける中皮腫の主な原因がクリソタイル以外のアスベストの方にあったとしても、スウェーデンにおいてアスベストを使用することが不明確なリスクよりも利益があるとみることは困難である。ノルディック諸国やイギリスのように健康リスクに関する全国人口ベースのデータが利用できるようにはなっていないEU加盟国を含めたヨーロッパ諸国においては、同様の慎重なアプローチを採用することが適当である。*****



ブラジル: 名誉毀損罪の告訴を却下


Fernanda Giannasi, Federal Work Safety Inspector, Brasil, 1999.1



「アスベスト・マフィア」に対する最初の勝利を分かち合いたい…。ブラジルの刑事裁判所は、昨日(1月23日)午後、Eternit 社の私に対する告訴(1・2月号38頁参照)を却下した。私に寄せられたすべての激励のメッセージに感謝します。
私は、今日の新聞で裁判官のこの決定を知らされた。Eternit 社の弁護士たちは、そのジャーナリスト向けの声明で、これは「誤った判断」であり、(もし会社が許可すれば)民事裁判所に対して賠償請求を起こすつもりであると語った。しかし、これは新たな別の話であり、刑事訴追のおそれはなくなった。
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ブラジルの保健大臣 Jose Serra は、本日(1月25日)新聞紙上で、公的(無料)公衆保健サービスによるアスベスト疾患の被災者の治療は高額を要することを指摘し、ブラジルにおけるアスベスト使用の禁止を支持した。彼にアスベストを禁止するという考えを支持し、恐喝や企業側が使う失業が増大するとか、クリソタイルは有害でない(「安全な」アスベスト)などというような嘘に惑わされないようにという手紙を書いていただくよう、皆さんにお願いする。
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第2刑事行政区裁判所の Eduardo Loureiro 裁判官による、名誉毀損罪には該当せず、私の発言の自由を保証する決定は、ほとんど完全な勝利と考えてよい(この国では大変めずらしい)。
私が謝罪しなければ高等裁判所に決定の無効を求めると Eternit 社は脅しているが、世論は私にとって有利な状況にある。昨日(1月29日)、ブラジリアのイタリア大使館から電話で、身体的安全を含めて保証しようという申し出があった。イタリア大使館の代表は、高等裁判所、ローマの新しいブラジル大使や保健大臣ともコンタクトをとってみるつもりだし、安全の確保やブラジルにおけるイタリア市民の身分のように必要な援助は何でも提供すると言った。
再度、国際的な支援に心から感謝する。
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Fernanda はとても忙しいが、彼女に対する名誉毀損罪での告訴が刑事裁判所によって、ついに最終的に退けられたというニュースを皆さんに知らせてくれるよう頼んだ。Eternit 社がマスコミを脅迫したにもかかわらず、裁判所の棄却決定のアピールは広く報道された。彼らは使える法的手段は何でも駆使するものと思っていたので、彼女の弁護士もこれには驚いたと言っている。Saint Gobain 社は、今年 Estado de Sao Paulo 紙の編集委員会に彼ら側の人間(Faust という名前の!)を得たにもかかわらず、彼らの影響力をダメージをコントロールするよりも、ブラジルでの彼らの投資の拡大のイメージをよくすることのために使ったようだ。
* 2月24日付けの Barry Castleman からのEメール。Fernanda 氏は、4月14日、サンパウロで開催されるILO世界労働安全衛生会議で、「労働衛生および環境についての国内的・グローバル的思考と行動: アスベスト禁止ネットワークの経験」を発表の予定。
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南アフリカ: アスベストの遺産


British Asbestos Newsletter, Issue 33: Winter 1998/99



南アフリカ大統領 Nelson Mandela は就任の日に、「貧困、欠乏、苦痛、ジェンダー、その他の差別という隷属状態からすべての人々を解放する」と誓約した。アパルトヘイト時代における南アフリカのアスベスト産業の横暴と怠慢は、アスベスト労働者とその家族、地方の住民たちの障害、早すぎる死、そして経済的な苦難のひどい状況をもたらした元凶である。

その時代に、Cape plc、T&N Ltd、Griqualand Exploration and Finance (GEFCO)、Everite-Eternit といった南アフリカと外国の企業は、Northern Cape、Northern Province、Mpumalanga で発見された天然資源から最大限の利益を絞り出すためにたゆまなく働いた。1977年に、アスベスト生産量は38万トンとピークに達し、南アフリカは世界第3位の輸出国となった。GEFCO は1966年に生産量の記録を達成し、10年間で収支を逆転させ、1970年代に企業の利益は32%増加した。
政府の出版物によれば、南アフリカ共和国は現在、「過去の行動に起因したアスベスト疾患の流行」に直面している。不幸なことに、過去の行動が唯一の問題なのではない。いまなお毎年2万トンのクリソタイルを国内で使用しており、アスベスト含有建材やパイプの製造に、7つの企業が3,000人の労働者を雇用している。いくつかの地域における環境汚染のレベルは驚くべきもので、North-ern Cape だけでも82もある多数のアスベストのゴミ捨て場が、国中に拡散してしまっている。今日までに政府は、放棄され「持ち主のいない」鉱山の土地回復のために、4,400万R(750万$)を支出した。この仕事を完成するのに楽観的な見積もりでも5,200万Rが必要とされる。

1998年11月、「南アフリカにおけるアスベスト起因疾患に関連した緊急の健康・福祉問題に対処」するために、ヨハネスブルグの環境問題と観光に関する国会ポートフォリオ委員会の後援のもとに、科学者、医師、政府当局者、安全衛生専門家、労働組合活動家、アスベスト産業の代表、地方住民ら250名が3日間の会合をもった。南アフリカとジンバブエの閣僚、アメリカとオーストラリアからの専門家、その月のはじめに開催された各地域アスベスト・ワークショップのオブザーバーなども参加し、南アフリカで使用される11の言語での通訳がついた。配布された公式資料には、「影響を受けている」地域とグループの代表たちの意見の方がより反映されていた。

全国アスベスト・サミットの歓迎の挨拶で、下院議員で環境・観光委員会議長の Gwen Mahlangu は、「国際社会にも認められ…関係者全体のコンセンサスが可能な固有の解決策」を求めた。労働幹部会を代表して発言した Fred Gona は、「アスベスト生産の利益だけをすべてすくいとり」、南アフリカに対する責任を放棄した多国籍企業を非難した。 地方の代表およびアスベスト被害者たちは、アスベスト、アスベスト含有製品、アスベスト関連疾患に関する情報の欠如、労災補償の低いレベルと獲得する困難さ、臨時工や環境曝露による被災者の補償の不適当さ、不適切な労働保健サービス、政府の調整機能の欠如およびリハビリテーション、社会復帰プログラムに地方当局を巻き込む必要性、等々の多岐にわたる問題点を指摘した。

クリソタイルの禁止と「汚染者負担の原則」の実行せよという要求が、Northern Province のワークショップからの提案で述べられた。North-ern Province の会合で、Dr. Marianne Felix は、「これまでに Mafefe で実施された成人についての調査では、成人の50%以上がアスベストの影響を受けていた」と語った。 Kwazulu-Natal の代表と West Cape のワークショップの報告者から出された、一方的な禁止を求める提案は、「いくつかの国が禁止を実行しているが、そのことが法廷で争われて後退している…命を救うことが、失業や天然資源の喪失を正当化することはできない、というのが結論である」と指摘するある産業界のスポークスマンによれば、非現実的とされた。

ジンバブエの代表団は、全体集会とワークショップの両方で、2001年までに禁止するという要求を妨害するために、必死に闘った。南アフリカは、ジンバブエの主要輸出品のひとつである、クリソタイルの事実上の輸入国なのである。
100年にもわたるクリソタイル原料の加工業者である Klinger グループもまた、副社長の Don Munro が「安全な持続可能な使用」というポリシーを頑なに表明した。しかし、彼は、「アスベストに対する地域の反感がある」ので、現在ノン・アスベスト技術を開発中であることを認めた。

サミットの場で配布された産業界の見解を述べたブックレットは、以下のような議論のある主張を展開している。「アスベスト曝露の安全な限界は存在する…もしアスベスト・セメントが折れたり割れたりしても、吸入可能なアスベスト繊維はセメント材料の中に包まれている…アスベストを原料物質として使用する7つの主要製造業者はその操業の継続を認められるべきである。」 アメリカから参加した環境コンサルタントの Barry Castleman は、3年のうちに「Msauli にあるこの国の残ったアスベスト鉱山は枯渇するだろう…ファイバー・セメント・パイプの製造は…無アスベストになり、ブレーキ製造工場はすでに(無アスベストへ)転換している」ことを指摘し、南アフリカにおける禁止提案を支持した。Castleman は、「第3世界諸国におけるアスベストの管理された使用は持続可能な開発につながると、誰もが言うが、誰も実行していない」と、産業界の姿勢を批判した。
この会議の宣言と最終レポートは、国民議会と関連する政府部局に提出され、近日中に議会のウエブサイト http://www.parliament.gov.za/ で入手可能になる予定である。サミットの4つの委員会による勧告には、「人体への被害、環境の悪化、および、土地回復、改善や保健サービスの提供に支出した政府の10億Rの費用に対する、外国企業の責任を追及する」政府による行動、などが含まれている。 アモサイト、クロシドライト、トレモライトの即時禁止については合意をみたが、クリソタイルに関しては、調整の結果、「妥当な期間内に」禁止を実行するという同意にいたった。

12月14日のBBC2の深夜のニュース番組は、イギリス企業 Cape plc の南アフリカにおける商業活動についてのレポートを特集した。1915年の Cape Province のアスベスト産業に関する覚書によれば、「Cape におけるアスベスト産業の歴史は、ごく最近まで、実質上 Cape Asbes-tos Company の歴史であり、この企業はなお生産量の大きな部分を支配している」。
番組の中で、イギリス国内では「数千万ポンド」が支払われているのに、南アフリカにおけるアスベスト関連疾患や環境汚染に対する補償は一切なされていないということが暴露されて、ダブル・スタンダードの存在が実証された。Koegas と Prieska の Cape の施設の生存者たちが、施設の中では家族が驚くべきレベルの汚染にさらされていたと証言した。
下院議員で環境問題省の副大臣 Peter Mokaba は、Cape は「操業し…利益を享受していたあらゆる場所で、その操業の結果に対する責任がある」と述べて、南アフリカの5人の被害者が最近イギリスで起こした法的行動を南アフリカ政府は支援すると主張した。12月14日、イギリスの下院は、(問題を審議するのに)適切な法廷は南アフリカであるとする Cape の主張を退けて、訴訟手続を開始することができると決定した。原告側弁護士の Leigh, Day & Co は、Northern Cape と Northern Province の2千人の申請者から訴訟委任状を受け取っていることを確認した。
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今後の拡大販路は日本以外では開発途上国


Workers' Health International Newsletter, Issue No.54, Jul.・Dec. 1998



ジンバブエの独占的なアスベスト生産業者である African Associated Mines 社は、1998年6月に、きびしい経済的風潮と国際的な反アスベスト圧力にもかかわらず、生き残れることを確信していると発表した。 会社の代表である John Mkushi は、「われわれは、今後も長期間にわたって、われわれのアスベストが使用され続ける用途は残ると信じている。そのために、われわれはアスベストの長期的な将来を見据えているのである」と語った。
彼は、「われわれのアスベスト輸出は、アスベスト禁止を求める国際世論の影響をそれほど受けてきておらず、むしろ一般的な経済の大変動の方がわれわれの関係する市場により影響を与えている」と付け加えた。African Associated Mines 社の市場は、アフリカ、中東、東南アジアや極東といった、今日のグローバル経済危機の影響を最も大きく受けた地域にある。
「日本を除いて、われわれが開発途上国に販売しているアスベストの量は実質的には微々たるものである。それゆえ、市場拡大の道は開発途上国にある」と、Mkushiは語る。African Associated Mines 社は、約6,000人を雇用しており、ジンバブエの鉱山産業労働者の20%を占めている。
ジンバブエは、カナダ、ブラジルに次いで、世界3番目のクリソタイル産出国。昨(1997)年の輸出量は、1996年の165,000トンと比較すると減少して、162,000トン。今(1998)年は160,000トンの輸出量と予想されている。
* 1998年6月4日のプレス・インフォメーション
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