2001.2.25

安全センター情報


1999年3月号




アスベストのないヨーロッパに向けた次のステップ


ETUC TUTB, Newsletter No.10, Dec. 1998


10月に、(EU)第V総局(DG V―域内市場)は、ヨーロッパにおけるアスベストの流通と使用を中止する欧州委員会指令の草案を公表した。提案された規則は、一定の危険な物質とその調整品の流通と使用を禁止して、指令76/769/EECを科学技術の進歩に適合させようとするものである。
× × ×

ヨーロッパにおいては、クリソタイル以外のすべての種類のアスベスト繊維および14のカテゴリーのクリソタイル含有製品を、流通あるいは使用することは、すでに違法とされている。しかし、全面的禁止の最終的な社会経済的なインパクトに関する調査、および、入手可能なデータに基づくクリソタイルとその3つの主要な代替物質(原注: セルロース、ポリビニル・アルコール(PVA) パラ-アラミッドの各繊維)への曝露から生ずる人体の健康へのリスクを比較したリスク・アセスメントについて検討するまで、委員会は、この最後の繊維の使用を(例外および移行措置をおいて)禁止することができなかった。
DG Vワーキンググループの第4回会合において、毒性、環境毒性および環境に関する科学専門委員会(CSTEE)は、9月15日に発表されたその「クリソタイル・アスベストと代替候補物質に関する見解」(1998年12月号38頁参照)の背景および主要な結論を提出した。

「…肺と胸膜のがん、肺の線維化…およびその他の影響の誘発の双方に関して、セルロース、PVA、パラ-アラミッド繊維のいずれもがクリソタイルと同等またはより大きなリスクを引き起こすことはなさそうである。発がん性および肺の線維化の誘発に関して、CSTEEは、リスクは相対的に低いようであるという合意に達した。」
また、「CSTEEは、これらの結論は、代替物質を製造または使用する作業環境の管理を緩めてもよいという意味に解釈されるべきではないことを勧告する。…CSTEEは、新たな、より太い(吸入可能性のより少ない)繊維を開発する技術とともに、代替繊維に関する毒性学および疫学の領域での調査研究の一層の拡大を、強く勧告する。」

ERM(原注: 環境資源管理=Environment Resource Management)は、禁止のアスベスト・セメント産業(ヨーロッパにおけるアスベスト使用量の85%を占める)に対する社会経済的、とりわけ雇用に対する影響に関する最終レポートを提出した。昨年3月にまとめられた中間報告に、最近アスベスト禁止を実行したフランスおよび1980年に実行したデンマークの2か国における、アスベスト禁止の社会経済的インパクトに関する評価を付け加えたものである。

このレポートの主な調査結果の概要は;

・ (6か月-2年以内の)即時禁止は、残っているアスベスト製造産業と関連分野にシビアなインパクトを与えるが、5年以上かけて段階的に実行する場合のインパクトはより限られたものになる。
・ 選択された移行期間の長さによって、アスベスト産業・セメント企業に対する直接の雇用の喪失は従業員のおよそ75%(6か月)から75〜63%(5年)、それに追加して間接的喪失および雇用の減少はおよそ49%(6か月)から36%(5年)になるであろう。
・ 必ずしも雇用の喪失の影響を受ける部門ではないが、この雇用の喪失の52%近くが、代替品製造業の中で創出される新たな雇用によって相殺されるだろう。
・ アスベストがすでに禁止されている他のEU加盟諸国の経験は、当面転換が実行可能でない圧力パイプ(pressure pipe)部門を除いて、5年の移行期間は現存の施設を無アスベスト製品向けに転換させるのに十分であることを示唆している。
・ 禁止のはね返り(backlash)は、労働者の再教育や代替品(生産への転換の)ための調査への財政上その他の支援のような、政府による特別の施策によってさらに緩和することができるだろう。
両方のレポートの調査結果および(EU)加盟15か国のうち12か国が、いくつかの例外と移行措置つきのヨーロッパ規模でのクリソタイル
・アスベストの禁止を支持しているという事実が、委員会を動かし、一定の危険な物質とその調整品の流通と使用を制限して、委員会指令76/769/EECを科学技術の進歩に適合させるという提案の草案を提出させたのである。 委員会の指令に対するいくつかの支持があったのと同時に、ほとんどの加盟諸国が早期の解決をもたらすものとして委員会の指令を歓迎した。
加盟諸国の大多数がまた、いくつかの言葉の変更およびわずかな法律的な留保をつけて、委員会の草案の提案もまた支持した。作業の進行を早めるため、委員会は、クリスマスの前にもう一度ワーキンググループの会合をもって、修正版の討議を行なうことを求めた。
社会問題委員会の昨年4月の決定にしたがって、第4総局(DG W―雇用・社会問題)では、アスベストに曝露する、とりわけメインテナンスおよび建築部門の労働者の安全衛生を防護するための現行の規則の改正について討議している。これには、現行の曝露限界の引き下げ、アスベスト含有建築物のアスベスト除去、解体および保守等に従事する人々のためのヨーロッパ規模での基準の設定、が含まれる。
ヨーロッパ労連(ETUC: European Trade Union Confederation)は、委員会のイニシアティブを歓迎する。ETUCでは、昨年10月に、ヨーロッパ規模でのアスベスト禁止に関する決議を採択している(1998年12月号41頁参照)。

* TUTB: European Trade Union Technical Bureau for Health and Safety

委員会指令の提案の主な内容

□ クリソタイル
・アスベストの流通及び使用は2005年までに禁止される。
□ 2つの例外: ダイヤフラム(電解塩素用―は2010年まで製造することができる)および2005年までに市場に出されたその他のアスベスト含有製品
□ 現存するアスベスト含有製品(アスベスト・セメント含有製品、中古車アセチレンガス・シリンダーのような)は、それらのライフサイクルの終了まで使用することができる。ただし、加盟国が、健康保護の観点からこれらの製品の使用を禁止することは可能である。
□ 加盟国は、2005年までに、クリソタイル・アスベストの禁止を導入する独自のタイムテーブルを選択することができる。
□ この指令が発効してから2005年までの間の、加盟国内でのクリソタイル・アスベストの新たな使用は許されない。
□ この指令の提案は、以下の内容の委員会および加盟国の共同の宣言の草案を伴う。

・ 委員会は、クリソタイル・アスベストとその代替物質の健康リスクに関する現在から2003年までの間の新たな科学的情報についての詳細な調査を実施し、この指令の適切な修正を提出する。
・ ダイヤフラムの製造の除外期間は2010年より先に延長することができる。
・ この指令は、すべての種類のアスベストの全般的な除去を強制することを目的とするものではない。
* 1998年12月3日の委員会の草案に基づいている。
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クリソタイルをめぐる1998年末の進展


British Asbestos Newsletter, Issue 33: Winter 1998/99



2年間待たされた世界保健機関(WHO)の環境保健クライテリア(EHC: Environmental Health Criteria) 203: クリソタイル・アスベストが、1998年10月に公刊された。化学物質の適正管理のための国際機関間プログラム(IOMC: Inter-Organization Programme for the Sound Management of Chemicals)の枠組みの中で作成されたこのレポートは、「クリソタイル・アスベストへの曝露は、量―反応関係をもって、石綿肺、肺がんおよび中皮腫の過剰リスクをもたらす。発がん性に関する閾値は確認されていない」と結論づけた。飛散性や高度の曝露をもたらす製品にクリソタイルを引き続き使用することによる潜在的な危険性を強調して、この200頁の本は、「クリソタイルよりも相対的に安全な代替品が利用可能な場合には、それらを使用することが考慮されなければならない」と述べている。

この秋、欧州連合(EU)のいくつかのレベルにおいて、クリソタイル禁止の実現に向けた進捗がみられた。1998年10月19日に、委員会指令の草案が加盟諸国に協議のために送付された。この文書では、「クリソタイル・アスベスト繊維およびその含有製品を禁止することが、人々の健康を防護する非常に効果的な手段である」と指摘している。理事会指令 76/769/EEC 付属書類1に基づく技術的進歩への適応による対応は、新たな立法を必要とせず、それゆえ1999年3月の技術進歩委員会(Technical Progress Committee)の会合で採用される可能性がある。欧州議員で欧州議会アスベスト関係グループ議長の Peter Skinner は、これはおおいに見込みのあることだと信じている。

12月に、イギリスの安全衛生局(HSE: Health and Safety Executive)化学物質対策課の責任者である Dr. Jeanie Cruickshank は、Skinner の予想を支持して、「来(1999)年草々にヨーロッパ規模で同意に到達することは可能である」と述べた。アスベスト・セメント産業をかかえるギリシャ、スペイン、ポルトガルをなだめるために、5年間の移行期間が提案されている。subsidiarity の原則のもとで、加盟諸国は、2005年1月1日までに包括的禁止を実施しさえすれば、国内規定を提出する必要はない。大多数の国々は、代替品に関するさらなる情報の集積によって例外をなくしながら、段階的に禁止を導入しそうであるが、ドイツやイタリアなどの数か国は、EUの決定によって現行の国内規制を強化することになりそうである。

イギリスでは、12月17日が、協議文書 140: 1992年アスベスト(禁止)規則を改正する提案(1998年11月号11頁参照)に対する意見の提出期限であった。カナダとブラジルの代表がロンドンまでやってきてこの問題はまだ確定されていないと抗議したにもかかわらず、130以上の団体からのコメントが期間内に提出されたとみられている。イギリスの禁止をすでに既成事実とみなしている関係者たちは、HSEがリーフレット: クリソタイル(白)アスベストの代替品(注: http://www.open.gov.uk/hse/pubns/misc155.htm で入手可能)を発行したことが、政府のさらなる規制導入への意思の証拠であるとしている。HSEが「建築物にすでに使用されているアスベストを管理する義務」を課すという提案の詳細な詰めをしているという情報は、この見方を裏づける。

EU第3総局(Directorate-General V)内の組織である危険物質とその調合品の流通および使用の制限に関するワーキンググループ: アスベストは、1998年10月29日にブリュッセルで会合し、提案された禁止指令を検討した。この会議で配布されたある討議用文書は提案文書の法的効果について検討し、「(WTOにおける)紛争の結果が明らかに委員会のこの指令草案に非常に重要な影響をもつもので、草案がWTOの要求事項および委員会がWTOにおいてとっている姿勢と完全に一致したものにすることが必要である」と指摘している。

11月25日、カナダは、クリソタイルの輸入と販売に関するフランスの制限に対する提訴を調査するため、世界貿易機関(WTO)の紛争解決機関が小委員会(パネル)を設置するという以前からの要求を確認した。WTO関係者によれば、「アメリカがパネルの作業に第三者として参加することに関心を示している」という。12月中旬に、EUの代表団が紛争パネルの構成について討議するためにジュネーブに到着したが、カナダは討議を開始する準備ができておらず、延期を求めていることを知らされた。同時に、EU当局者たちは、クリソタイル禁止を再考するよう公式に請願された。

11月中に、イギリスの西バーンズリーとペニストーンの下院議員 Michael Clapham は下院において次のように述べた。「カナダの生産者たちはわれわれに、白アスベストは安全だから朝食のコーンフレークにふりかけることができると信じ込ませようとしている。彼らは問題を理解していないか、それが危険な物質であるという証拠を受け入れようとしていない。けれども、ヨーロッパは彼らの真のターゲットではない。彼らのターゲットは、管理が存在しない第3世界である。彼らは、そこが限りない市場を提供することを非常によく知っている。同時に、WTOを通じて彼らはヨーロッパにおける禁止を妨害することができる。このような問題は無限の官僚主義の泥沼に陥るようになりがちである」。

カナダのクリソタイルに対する支持は、カナダにおけるアスベスト産業の中心である、ケベックをめぐる潜在的な不確実性と込み入った関係がある。他の州は、自らの利益のためではない闘いに引きずり込まれることに嫌気がさしはじめているということが明らかになりつつある。カナダ政府内でも、公衆衛生、労働衛生の担当部門を含めた様々な部門は、国際的なクリソタイル擁護の指揮をふっている貿易省を疎んじているという噂が広まっている。11月に、ウイニペグ・サン紙に書いた記事で「第3世界に職業病を拡散するキャンペーン」を批判したあるジャーナリストは、「ボーイスカウト役を果たしている国家が死の商人になれるのだろうか」と問うている(1999年1・2月号42頁参照)。

12月17日に発表されたカナダの貿易政策審査機関のレポートは、カナダの環境問題に対するコミットメントおよび「貿易と投資の自由化が、基本的な価値、規範、文化や合理的な公衆の利益を調整する政府の権利を侵害することのないようにするため」、民間および公共セクターとともに取り組む意思を表明している。それにもかかわらず、WTOにおける行動によって、カナダは、フランス「政府の公衆の利益を調整するための権利」、すなわち、アスベスト曝露による危険性からその国民を防護する権利に、公然と挑戦しているのである。
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