2001.2.25

安全センター情報


1999年1月号




がんの診断はしばしば見逃される


Janice Hopkins Tanne, British Medical Journal 1998; 317(17 October)


アメリカのある大学のメディカルセンターにおける10年間遡った剖検(postmortem exami-nation)研究によれば、致死的ながんのうちの44%が診断されていないか、誤って診断されていた。
JAMAの編集者でもある病理学者Dr. George Lundberg によれば、この食い違いは、臨床上の判定と同様に、死亡診断情報に基づいたすべての公式の健康統計に疑いをいだかせるものである。 Dr. Elizabeth Burton とその同僚たちは、ニューオーリンズのルイジアナ・メディカルセンターにおいて1986年から1995年の間に剖検が実施された1,105人の男女すべてのデータを再検討した(JAMA, 1998; 280)。このメディカルセンターにおける剖検の実施率は、地域の検死官の協力によって非常に高かった(42%)。
死亡証明書の診断が信頼できないことから、Dr. Burton は、外科病理学報告、細胞学報告および患者のカルテを収集した。その結果、225人の患者に250の悪性腫瘍を発見した(103は診断されておらず、8つは誤診断であった)。わずか34の腫瘍だけが臨床的に(正しく)疑われていた。57%の患者の死亡原因が、診断されなかったがんであった。 診断されなかったがんでもっとも一般的だったのは、気道、胃腸管および尿生殖路を侵していた。ルイジアナ南部のがん発生率はそれほど高くないにもかかわらず、このがんによる死亡率は高い。トラウマセンターでもあるこのメディカルセンターは、薬剤の誤用、精神疾患、系統だったメディカルケアの欠如がめずらしくない貧困な黒人住民に対する医療を提供している。本研究において剖検が実施された多くの患者が、進行した疾病によって入院して間もなく死亡している。
「正しい回答を得るためには低い技術の(ローテク)検死でも高い技術の(ハイテク)医学に勝る」と、Dr. Lundberg は語る。アメリカ合衆国においては、病院で死亡した患者に対する剖検の実施率は、1950年代の約50%から、コミュニティの病院やナーシングホームにおいてはおそらく5%かゼロにまで落ちてきている。Dr. Lundberg によれば、1960年代以降、病院の病理学者たちは、年配者に対する実験室テストに対するメディケア(高齢者向け医療保障)からの支払いで収入を得るようになってから、剖検に対する興味を失ってしまったという。
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がん登録、死亡診断からの発生率の推計


Marc Hindry, Anti Asbestos Committee of Jussieu, France, 1998.10.20



がん登録(cancer registers)あるいは死亡証明書(death certificates)から中皮腫の発生率を推計する方法の比較に関するいくつかの取り急ぎのコメント(前頁の情報に対するレスポンス)
フランスにおいて「反アスベスト・キャンペーン」を再スタートするにあたって、われわれは、イギリスのピート(Peto)のデータ(ランセット誌に掲載)および INSERM の死亡数データ(中皮腫と診断された死亡 code 163)を推計のための主な根拠として用いた。 この推計の結果は、ピートのデータと非常に似たものになった(毎年およそ1,000件の中皮腫)。これらの数字については、公的な専門家たちによって激論が交わされた(当時、そうした人々は、巧みなロビー組織である「アスベスト常任委員会(Comite Permanent Amiante)」に所属する、(アスベスト)産業の立場を擁護する専門家たちであった)。 一度は「200件未満の中皮腫」(アスベスト常任委員会のパンフレットでしかみられない数字)というようなばかげた数字が示され、同じ専門家たち(主として P. Brochard と J. Bignon)は、1995年にパリで開催された第3回国際中皮腫会議において、毎年(およそ)600件の中皮腫と、その推計を訂正することになった。彼らはさらに、死亡診断書による推計は中皮腫の発生率をかなり過大評価し、正確な推計を得るためにはがん登録を用いなければならないと主張した。
彼らはアスベスト禁止に反対する闘いで敗北したわけであるが、ある意味では「数字の闘い」は現在重要ですらない。しかし、これらのがんのケースのうちで補償を受けたものと受けなかったものの間のギャップを評価することは、今なお重要なことである。
アスベストと健康に関する INSERM レポート(1996年)は、最小限の推定として、(フランスにおいて)毎年750件の中皮腫による死亡をあげた。この推計は、前述の主張のとおりにがん登録に基づいたもので、死亡診断書によるものではない。
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ブラジルのアスベスト企業が反対者を告訴


Fernanda Giannasi, Federal Work Safety Inspector, Brasil, 1998.10.31


1.1998年3月16日、サンパウロ(ブラジル)の労働省の安全技術者であり、ブラジルにおけるアスベスト禁止活動のリーダーでもある Fernanda Giannasi が、アルゼンチンの雑誌 Salud Occu-pational のケースを引いて、ラテンアメリカにおいて科学医学雑誌がアスベスト産業の宣伝代弁者として使われているという問題に関する声明(manifesto)を、インターネット上で発表した。こうした雑誌が資金難にあえいでいることはよく知られている。Giannasi が指摘した点は、彼女も署名者のひとりである、International Journal of Occupational and Environmental Health(IJOEH), Vol.4, No.2, April-June 1998, p.131 に掲載された「Salud Occupational 編集者への公開状」と題した論説の中で、世界中の科学者たちによっても表明されている

2. この声明には、多国籍企業サン・ゴバン(Saint Gobain)のブラジルにおける子会社である Eternit S.A. が、アスベスト被災者に対する損害賠償の回答を5,000レアール(約4,500US$)から15,000レアール(約13,500US$)に引き上げて、Osasco(大サンパウロ地域内の産業都市)における法廷外和解交渉を促進させようとしているという情報が含まれていた。この提案(回答)には、アスベスト関連疾患の症候はまだみられていないがアスベスト関連疾患の発症につながるレントゲン写真上の変化が認められるすべての元労働者を対象とした医療援助計画を Eternit が実施することも含められていた。和解協定の原文では、この継続的な医療援助は、関係する元労働者たちの費用負担なしに提案される、としている。「私的和解協定書」と称されたこの協定書は、Pinheiro Neto 法律事務所によって提案されたが、以下に掲げるような重大な欠点があった。

a. それは23頁もの部厚なもので、大学教育を受けていなければ理解できないような難解な法律あるいは医学用語だらけであり、元労働者たち全員に送られた2頁の要約版も同様のものであった。この「薄い」版は、裁判官に検討のために提出された協定案を裁可することを拒否した裁判所の決定に合わせて送付されたものである。この決定の中で裁判官は、他の事柄とともに、協定案の司法による裁可を求めた元労働者たちは、「法廷外和解の意義に対する理解が全く欠如している」としている。
b. 協定が要求する元労働者のアスベスト曝露の程度を示す「健診対象者」に関しては、「Osasco の Eternit の工場における一時的または常時の、現実的または潜在的なアスベスト曝露によって引き起こされた身体的、外観的、精神的な障害に関連した、直接的または間接的ないかなる損害の請求(裁判提訴)も放棄し、これを取り消さない」という署名をした元労働者に限る、としている。
c. この協定に基づいて設置され、すべてのアスベスト曝露労働者を対象とする予定の医療評議会(Medical Board)は、以下の専門家によって構成される。
Dr. Mario Terra Filho(サンパウロ大学医学部呼吸器疾患学科教授)、Dr. Ericson Bagatin(カンピナス(Campinas)大学医科大学予防・社会医学部職業病課助教授)、Dr. Luiz Eduardo Nery(サンパウロ連邦大学/サンパウロ医科大学肺疾患助教授)。
d. アスベストに曝露した元労働者の数はおよそ800名にのぼり、彼らはすでに下記の機関による健診を受けている。
FUNDACENTRO(労働省内の職業病調査のための連邦機関)、INCOR(サンパウロ大学、カンピナス大学医科大学(UNICAMP)、サンパウロ市保健センターによる衛生研究所)、これらの医師たちは、通常の政府あるいは大学の給与以外の割増賃金なしに、自発的にボランティア参加したものである。偶然にも、INCORとUNICAMPは現在、協定に基づいて設置される予定の、Eternit によって一方的に選ばれた、前述の医療評議会の中に完全に含まれている。協定書では、「医療評議会のメンバーのうちの誰かが、理由の如何にかかわらず、任務を継続することが不可能になった場合には、残るメンバーたちは、Eterint の承認を受けて、代わりの者を選任する義務を負う」としている。ブラジル・アスベスト曝露者協会(ABREA: Brazilian Association of People Exposed to Asbestos)からこれらの機関に対して、この協定に関して「非倫理的」であるという抗議文が提出されている。
e. Eternit が引き受けた責任は、もし Eternit が破産したら実行されないだろう(アスベストに関連した責任を順守した基金あるいは会社は存在しないという点において、アメリカの Johns-Manville 社のケースとブラジルでそのような事態が繰り返されるかどうかは、われわれの大きな関心事である)。元労働者たちの将来は、現行の法律、および、アスベストをすでに禁止している15か国(オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス(現在の Eterinit の母国)、ドイツ、オランダ、アイスランド、イタリア、ルクセンブルグ、ノルウェー、ポーランド、サウジアラビア、スウェーデン、スイス(Eterinitのかつての母国)のように、今後のアスベストを禁止する法令如何にかかっている。
f. 肺がんは、協定においては、すでに石綿肺に罹患している場合にのみ、補償対象疾病と認められる。アスベストに起因したがんの存在を特定するうえで石綿肺の存在は必要条件ではないという、科学的研究結果が明らかになっているのにもかかわらずである。
g. Eternit の利益を代表する弁護士たちが、あたかも両者の間に利害の衝突がないかのごとく、協定によって補償を受けることになるアスベスト関連疾患に被災した元労働者たちの利益をも代表している(この点を論じた後述の裁判所の決定および1998年10月21日付けの Estado de Sao Paulo 新聞の記事を参照のこと)。

3. サンパウロ第27および第3民事行政区の裁判官は、以下のとおり、この協定の裁可を拒絶した。「和解は合法とは認められない」、「Eternit は有罪判決を避ける方策として協定をつくりあげようとしている」、「この協定書は憲法違反とみなすことができる」、また、「…大きな経済力を持つ企業と和解内容を理解する能力が明らかにない労働者との間でなされた正当性が疑われる交渉に、合法的な装いをもたせるためだけに」つくられたものである。裁判官は、いかなる場合においても彼らの裁可が「正当性がないために法的効力のない決定になってしまう」という立場から「裁可を拒絶する」と決定した。第27民事行政区の裁判官である Dr. Alexandre David は、検察官およびブラジル弁護士会に対して、Pinheiro Neto-Advogados 法律事務所と今回の事件に関与したすべての弁護士に関する民事および刑事上の調査を開始することを勧告した覚書を送った。

5. 別の重要な裁判所の決定として、石綿肺に被災した Joao Batista Momi に対して、1977年11月7日以降の生計費に相当する額の物的損害、将来の治療・入院の費用を請求する権利を侵害することなしにこれまでの治療費の物的損害として11,700レアール(reais、約10,300US$)、および、精神的損害として100,000レアール(約90,000US$)の補償の支払いを、Eternit に命じた。

6. Giannasi は、健診を受けた労働者たち(1998年10月16日現在で764名)をしっかりとフォローし続けているが、これまでに、70名が進行中の石綿肺と診断され、2名が石綿肺により死亡、154名が胸膜肥厚、97名が呼吸容量低下、3名の元労働者が肺がん(生存中)、1名の元労働者が胸膜中皮腫で死亡(遺族が25,000レアール(約22,500US$)の補償を受給)、5名が肺がんで死亡および7名が胃腸がんで死亡(いずれも公的な認定や補償なし)、その他に死亡した28名が死亡診断書に記載された最終疾病が呼吸器または胃腸系に関連した疾病で、医療記録が概して死亡原因を確認するのに不十分なため、今もなお調査中となっている。

7. Eternit 社は1998年11月8日、刑法第144条を根拠に、Giannasi をサンパウロの第2刑事行政区の Pinheiros 地方裁判所に告発した。召喚状では、48時間以内に Eternit に対して答弁を提出するよう求められたが、これは本件についての彼女の弁護人 Dr. Idibal Pivetta によってなされた。

8. 1998年11月20、21、22日付けの Estado de Sao Paulo 新聞の記事によると、Eternit は、「われわれの企業の評判が虚偽の非難を受けることは認められない」として、Pinheiros の第2刑事行政区に対して、「名誉毀損罪」で告訴するよう要求している。

9. この告訴は、専門家、科学者、労働組合、労働者、学生たちの間で大きな抗議を呼び起こし、下記の団体は Pinheiros 第2行政区の裁判官に手紙を提出した。
アメリカ公衆衛生協会(APHA: American Public Health Association)
労働・環境衛生学会(SOEH: the Society for Occupational and Environmental Health)
金属労働組合(Metal Workers Union of Osasco, Sao Paulo state)
また、下記の団体は、ジュネーブの国際労働機関(ILO)に手紙を書いた。
ALERT: Association Pour L'Etude des Risques du Travail(フランスの安全センター)
ANDEVA: Association Nationale de Defense des Victimes de L'Amiante(フランスのアスベスト被害者擁護団体)
Reseau International Ban Asbestos
Federation de La Chemie CGT
White Lung Association(アメリカのアスベスト被害者擁護団体)

10. 世界中の科学者たちが、Eternit の告訴を「悪辣な行為」で「無責任きわまりない行動」であるとみなしている(1998年11月22日付け Estado de Sao Paulo 新聞のインタビューに対するサンフランシスコのカリフォルニア大学医科大学の Joseph Ladou の発言)。

11. 他に今回の事件に関して報道されたものとして以下のようなものがある。
* カンピナス大学医科大学(UNICAMP)の労働衛生分野のコーディネーターである Dr. Manildo Fevero はインタビューに答えて、「白アスベストが肺の中にもたらす影響に関して、世界の医学出版物でいま以上のいかなる情報にも遭遇することはないだろう」(世界中の医学出版物ですでに、白(クリソタイル)アスベスト曝露がアスベスト関連疾患の発症と関係があることを証明する何千もの論文が発表されている)と断言した。 そうした論文を書いた科学者のかなりの部分にあたる200名が、1998年10月19-21日にワシントンのアメリカ保健省の国立環境保健研究所(NIEH)で開催された労働・環境衛生学会に参加しているが、彼らは Estado de Sao Paulo 新聞のインタビューに、UNICAMP の医師の声明に接して「当惑した」と述べている。
* Giannasi の告訴が、民主社会での常識に反して民事法廷ではなく刑事法廷でなされているという事実
* 何らの個人的な罪状は存在せず、Giannasi は、医学出版物の中や「犯罪」とみなされるようなこの発がん産業を禁止する立法的措置が世界中でとられることによってその有害性が認められている、労働者の健康に有害なビジネス慣習に反対する声明を作成しただけであるという事実
* この告訴の重要な点は、もしこの告訴で有罪とされたりすれば、1998年2月には招待されてアスベスト禁止に関してイギリス議会で証言を行い、また、Osasco 市参事会が彼女の労働者の健康を守りアスベスト被災者を支援してきた活動を表彰していることに特徴的なような、15年間にわたり労働者の健康を守り、世界中とブラジルにおける無数の論説を行ってきた彼女の活動により認められてきた Fernanda Giannasi の専門家としての信望を傷つけ、彼女が今後専門性を磨く機会を妨げることである。

12. そのような事態を防止するため、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の科学博士、アメリカの環境保健また労働衛生機関の環境コンサルタントで、有名な986頁もの労作「ASBESTOS: Medical and Legal Aspects」の著者でもある Dr. Barry Castleman は、ブラジルの上院議員 Eduardo Sulpicy、Eduardo Gabeiraに手紙を送った。この手紙の中で彼は、ブラジルにおいて「名誉毀損罪」という犯罪を完全に撲滅させるために提案されるべき法律、別の言い方をすれば、刑法から削除して民法に移し換えるということ、あるいは、法人を名誉毀損罪から外して個人だけに限定し、この種の犯罪は普通の市民による陪審制度で審議するようにして、そのブラジル市民に完全な表現の自由の権利を与えるというような別の選択肢、を勧告している。

13. これを読んだ皆さんに、Fernanda Giannasi とブラジルにおいてアスベストを禁止するための彼女の活動を支援するEメールを送っていただくようお願いする(fernanda@base.com.br)。また、皆さんの団体のニューズレターや科学雑誌に掲載し、抗議の声が世界中に拡がるようにしていただきたい。
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カナダにおけるアスベスト問題


Winnipeg Sun, Canada, 1998.11.8/London Free Press, 1998.10.30


* 以下は1998年11月8日付けウイニペグ・サン(Winnipeg Sun)紙に掲載された Doug Smith の記事である。
カナダ人は、自らを国際的場面における Dudley Dorights と見なすことを好む。国連ではカナダは住むのに最良の国のひとつであると言われているし、世界の紛争地帯に平和維持軍を派遣し、地雷禁止キャンペーンで指導的役割を果たしていることで、自らを称賛している。

それらのことよりはよく知られてはいないが、カナダ政府は、第三世界に職業病(industrial dis-eases)を拡散するキャンペーンを実施している。カナダの政治家たちは常々、平和のためのカナダの沈着な政治的手腕を自慢しているが、今(1998)年、カナダ政府は、地球中にがんを拡大させる沈着なキャンペーンの戦線に乗り出したのである。 信じられないことだろうか?
ボーイスカウト役を果たしている国家が、死の商人になれるのだろうか?
カナダチームは何を売っているのだろうか?

1998年5月、カナダ政府は、フランス政府のアスベスト禁止決定に関して世界貿易機関(WTO)に対して提訴した。アスベストは、それによる疾病がアスベストーシス(石綿肺)と名づけられるような健康的な製品である。この致死的な疾病は、アスベスト曝露に関連した数多くの致死的な疾病のひとつにすぎない。そして、フランスは、すでにアスベストを禁止した多くのヨーロッパ諸国のうちのひとつにすぎない。この製品をかつて生産してきた企業は、その労働者たちに偽り、この製品に曝露することによるリスクを包み隠してきた。アスベストの危険性が最終的に一般に明らかになったときに、いくつかの企業は、以前働いていた労働者や顧客に対して負うべき補償の費用を支払うよりも、破産する道を選んだ。

それは、死の繊維である。 私は、CBC(Canadian Broadcasting Corpo-ration)の仕事で労働衛生問題のドキュメンタリーの調査のためにオンタリオ(Ontario)に滞在中、今月のはじめにこの話を知った。1960〜70年代に、サーニア(Sarnia)にある鋳造工場の労働者たちは、犯罪的と言っていいほど高レベルのアスベストに曝露した。現在、彼らはアスベスト関連疾患によって次々に死に見舞われている。私が到着した前の週には、労働者たちの疾病の補償獲得のための闘いを牽引してきた人物が、がんによって死亡している。

ウインザー労働者健康診療所ディレクターの Jim Brophy によれば、これは職業病における Westray であるという。Brophy は、今日のカナダでは20年前にサーニアの労働者がアスベストに曝露したような状況はあり得ないだろうと指摘した。しかし彼は、カナダは、アスベストを売り込みたいがために、フランスのアスベスト禁止措置に反対している。いかなるフランス企業もアスベストを使用することによる法的および財政的なリスクを背負わないだろう。他のヨーロッパ諸国も同様である、と語った。それでは、現在の問題は何か?

それに対する回答は明快だった。「カナダは精力的に、タイ、インド、韓国、その他の多くの第三世界諸国に対してアスベストを売り込んでいる。カナダ政府は、それらの国々の医療関係者、あるいは労働組合運動関係者が、アメリカが、イギリスが、そしてヨーロッパが要らないと言っているものを、なぜ自分たちが買わなければならないのかと言い出すことを心配している」。だからこそ、カナダ政府は、アスベスト産業で働く労働者のためというよりも、アスベスト貿易を生き延びさせるために、ヨーロッパにおけるアスベスト反対の動きを踏みつぶそうとしているのである。

Brophy は、「韓国やタイの労働者たちがアスベストに対する防護措置で守られていないことを知っていながら、この物質を輸出するということは、それと同時に害毒を輸出することになる。カナダやアメリカで何十万名もの労働者の生命を奪ったのと同じ疾病によって、それらの国々の労働者たちが殺されることになるだろう」と言う。
カナダ人であることを誇れるだろうか。
× × ×

* 以下は、1998年10月30日付け London Free Press の Jody Jones の記事である。

Jody Jones は、American Federation of Grain の workers' compensation representative である。 通信・エネルギー・製紙労働組合(CEP: Com-munication, Energy and Paperworkers Un-ion)の Keith McMillan がとんでもない決意をして、私に電話をしてきた。彼は、ある特定の労働現場をターゲットにした、被災した労働者のための相談所(clinic)をサーニア(Sarnia)で開設する決心をしたというのである。私は、いくばくかの懐疑心をもちながら、協力することを約束し、ネットワークを広げる取り組みが開始された。

オンタリオ労働組合連合(Ontario Federation of Labour)を通じて、オンタリオ州の各地からボランティアが集まってきた。労働災害によって被災した労働者に、複雑な労働現場の安全および労災補償のシステムを理解させ、さらに今後の方向を示そうという計画だった。

1998年6月16日に、ファイバーグラスの製造工場で1991年に閉鎖された、以前の Fiberglass Canada 社、後の Owens Corning 社で働いていた労働者のための相談所を開設した。170名以上の被災労働者らがこの相談会にやってきた。この数はわれわれの過去の経験を上回り、この地域社会における関心の強さを証明した。 労働者たちは、自らががんと診断されたときのことを思い起こし、また、この工場での仕事こそがその死を招いた原因であると考えている同僚たちのことについて証言した。死亡した労働者の妻たちは、家で夫の作業衣を洗濯して何日もたってからでも、自分や子どもの衣服を洗濯したときに繊維がついていたことを思い出した。退職後の日々は死と病苦の悲惨な物語に満ちていた。これを仕事、環境あるいはライフスタイルの選択と関連づけられるだろうか? ハミルトン(Hamilton)の McMaster 大学が、1980年代の後半に、サーニアの Owens Corning 社の労働者の疫学調査を行っている。それによると、期待値の2倍の肺がんと、呼吸器疾患では40%の過剰が報告されている。

別の研究では、例えば American Journal of Occupational Medicine に1996年に掲載された Murray Finkelstein の予備的報告によれば、Lambton 州のファイバーグラス労働者に4倍の肺がんの過剰がみられている。
その日の終わりまでには、私たちは消耗し、黙りこくってしまった。ウインザー(Windsor)にあるオンタリオ労働者健康診療所(OHCOW: Occupational Health Clinics for Ontario Workers)のディレクター Jim Brophy が、その日の議論を終了させた。決して忘れられないほど、私たちは一時的に、疲れ切り、虚脱状態になり、呆然としてしまっていた。

一方、カナダ自動車労働組合(CAW: Cana-dian Auto Workers)では、同じくサーニアの Holmes 鋳造社の元労働者たちの潜在的な健康問題に関する重要な調査に着手していた。1998年9月、CAWのイニシアティブによって労働運動の協力した取り組みが実施された。CAWのコーディネーター Nick DeCarlo は、200名もの Holmes 鋳造の労働者たちでホールがあふれかえったため、受付を完了するまで会合の開始を40分以上も遅らせなければならなかった。

そこには、内臓を取り囲む薄い膜のがんである中皮腫に罹患した労働者が少なくとも6名出席していたと思われる。その他のがんや心臓疾患に罹患し、あるいは呼吸機能に問題をかかえた労働者も多数いた。ポリウレタン製品を製造するのに用いられたアスベスト、シリカ、燃焼コークスアンモニアあるいはイソシアン酸類に曝露していたという。労働者たちは、事業主が「空気が吸えるように」、製造をいったん止めなければならなかったほどだと、曝露のひどさを証言した。

アスベスト問題に関する Royal Commission が、Scarborough にあった Jons Manville 社の工場をそのアスベスト曝露のひどさから「世界的な産業災害」と呼んだことを銘記することは重要である。今回の情報はこれが過去の問題だけでないという、Holmes 鋳造におけるアスベスト曝露の驚くべき状況を明らかにした。Holmes における1973年のアスベスト測定結果は、1949年の Manville の最高レベルの記録の21倍も高かった。 Sarnia で現在生じている事態は、1970年代にウラニウム鉱山労働者の疾病をめぐる事態の再現となる可能性がある。
相談所は5時間以上開設することになった。ここで聞かされた証言の数々は、ボランティアの心を痛めるものだった。Brophy が、「これまでに参加したうちでもっとも注目すべき取り組みのひとつだった」と総括した。私は、今日労働者が1990年代のカナリヤの役割を果たしていることに驚いた。1990年代のはじめには、炭坑の中に致死的なガスが存在するか確かめるために、そのようなガスに敏感に反応するカナリヤをまず先に中に送り込んだ。今日のカナリヤは反応があらわれるまでに時間がかかり、労働現場との因果関係を証明するのが困難になっている。
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カナダの「安全なアスベスト」を東南アジアに輸出


Laurie Allen, British Asbestos Newsletter, U.K., 1998.11.27


* 以下は、1998年10月27日付けのロイズ・リスト(Lloyd's List)というニューズレターの商品欄に、「安全なアスベスト」というタイトルで掲載されていた記事の要約である。
「アスベストは安全専門家および保険業界にとっての悪夢であり続けているが、この物質のファミリーの中でほとんど無害といわれているひとつの製品がある。
その製品はクリソタイルであり、より柔軟で人体の中で細分化しやすいがんを引き起こすタイプのものとは明らかに異なっている。
これは、暑くて湿気が多いため伝統的なセメント製品が劣化しやすい熱帯地域において、とりわけ有用である。クリソタイルをめぐる問題点は、アメリカにおいて一時、包括的な反アスベスト規則の適用対象とされていたことである。この禁止措置は1991年に取り払われたが、それまでにクリソタイルのビジネスに大きな損害を与えた。
ブリティッシュ・コロンビア州(カナダ)にあるもっとも重要な鉱山のひとつが、トロントにある Minroc Mines によって復活しつつある。
この会社は、日本企業 Kakiuchi のアレンジによって、東南アジアの市場向けに製品の販売を開始した。
ロンドンの鉱山保険会社 David Williamson Associates は、この会社に関するレポートの中で、クリソタイルはまったく安全であると考えられており、カナダの鉱山の38年間におよぶ操業の歴史の中で、ひとりの労災補償が問題になったケースも報告されていないと言っている。
Minroc は、生産増強とマグネシウム生産の可能性追求のための資金を求めている。「ハイリスクな今日の世の中で、Minroc は、ブリティッシュ・コロンビアにおける操業についてまったく政治的リスクが存在しないように、安全を提供しているのである」と Williamson は言っている。
* Laurie Allen 氏やイギリスの欧州議会議員等が、この記事の(クリソタイルを安全だとする)誤りを指摘する手紙をロイズ・リスト紙に出したとのこと。
* 以下は、上のEメールに対するブラジルの Fernanda Giannasi からの1998年11月27日付けのレスポンスである。
これらの人々は第3世界の人々に対して何という信じがたい暴挙ができるのか。
以前コスタリカのエターニット(Eternit)は、工場の外では同様のプロパガンダを行っていた……「ここではノン・アスベスト製品を製造している」と。私はこの件に関しては何枚かの証拠写真も持っているが、この工場は、著名な Stephen Schmidheiny (「アスベスト・マン」と呼ばれていた)が所有しており、彼は現在、1992年のリオ会議以後持続的開発評議会(Sustainable Develop-ment Council)の議長におさまっている。彼の「帝国」については、ポルトガル語で書かれた本があり、ドイツ語と英語に翻訳されているが、このような人々のことを知るうえでとても興味深い。
熱帯地域には、セラミック・タイルを利用する伝統的な文化があり、それはオラリア(olarias)と呼ばれる小さな工場で製造されていた。しかしブラジルでは、1960-80年代の独裁政権の時代に、Brasilit(親会社は Saint Gobain)や Eternit(当初は同名のスイス企業のグループとして、現在では Saint Gobain の子会社になっている)に主導されたアスベスト・セメントのブームのために、ほとんどすべてのそれらの工場は閉鎖されてしまった。ブラジルの北部では、自然繊維の屋根が一般的であり、それは高温多湿な風土に適しているのである。
× × ×
* 上記の情報について、カキウチ株式会社(東京)の担当者に問い合わせたところ、以下のような説明を受けた。 ブリティッシュ・コロンビア州政府の要請によって(補助金を受けて) Minroc Mine によるアスベスト鉱山の再開発が計画されていることは事実。
@鉱山跡地の植生、
Aボタ山からのクリソタイル・アスベスト回収・再利用、
Bマグネシウムの生成(クリソタイルの科学組成は含水珪酸マグネシウムである)が目的で、本命はBと思われる。この鉱山のアスベストがかつて採掘されていたときにカキウチでも取り扱っていた関係で、Aのクリソタイルの中南米、東南アジアへの販売のアレンジを依頼されたが、中南米はもとより、東南アジアにも支店や販売網をもっているわけでもなく同社ではそれは無理。同社が知っている東南アジアで顧客になりそうなところのリストは紹介した。情報提供というかたちでお手伝いをしただけなので、ロイズ・リストの記事を読んで驚いた(日本で販売したいという話であれば取り扱う可能性はあるとのこと)。いずれにしろ、上記計画自体が具体的に動き出していないし、今後どうなるのかもわからないとのことである。
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EUのアスベスト禁止に関する情報


Laurie Allen, British Asbestos Newsletter, U.K., 1998.12.11



届いたばかりのニュース。EUは、1999年の夏までにクリソタイルの禁止を決定するだろうとのこと。スペイン、ポルトガル、ギリシャ等の諸国が、実施までの期間として10年間を求めているにもかかわらず、移行期間は5年間に制限(?)される見込みである。その5年間の間も、クリソタイル含有製品の輸入、流通、製造は禁止されるが、現在のストックを売り切ることは認められるという。
この禁止措置は、欧州議会(European Parlia-ment)による審議を経ないで実施される見込みである。技術的手続によって行われる。1999年3月の科学技術進歩委員会(Technical Progress Committee)の会合において、詳細を決定するという。

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