2001.2.25

安全センター情報


1998年12月号




致死的な繊維の弔鐘:
イギリスとEUの禁止キャンペーンは最後のハードルをクリアした



TUC: Trade Union Congress,
U.K., 1998.9.15



今日(9月15日、火曜日)、欧州委員会(Europe-an Commission)の科学専門委員会(Scientific Committee)は、クリソタイル―白アスベストとしても知られる―は利用可能な代替物質よりも確実に有害であるという決定を下し、アスベスト禁止のためのキャンペーンは最後のハードルをクリアした。安全キャンペーンや労働組合の活動家たちは、これで提案に支障を来たすような技術的障害はなくなったのだあるから、欧州委員会は速やかに白アスベストのヨーロッパ規模での禁止を提案すべきであると言っている。 木曜日(9月17日)には、イギリスの安全衛生局(HSE: Health and Safety Executive)が、イギリスにおける禁止を提案する協議用文書を発行する予定である(8月号13頁)。イギリスにおける禁止は、すでに同様の禁止を導入している(EU)加盟諸国(直近ではフランスとベルギー、より早期に禁止が実施された国としては、ドイツ、イタリア、オーストリア、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、オランダおよびルクセンブルグ)の前例にならったものになるだろう。協議の結果、1999年中のどこかの時点でイギリスにおける禁止が実行されることになるだろう。
労働組合と欧州議会の議員たちは、欧州委員会に対して、「技術的進歩に基づく改正(Technical Progress Amendment)」として知られる手段の採用を要求している。なぜなら、それが禁止を実現するのに最も迅速な方法だからである。イギリスの労働組合は、欧州連合(EU)規模における戦略に貢献するために、イギリスにおける一方的な禁止に向けてプレッシャーをかけ続けていく。TUC(Trade Union Congress、労働組合会議、イギリスのナショナルセンター)の評議員会は、月曜日に建設労働組合 UCATT から出されたイギリスにおける禁止のための要求を支持した。
労働組合と欧州議会の議員たちはまた、雇用主、白アスベストの供給、輸入業者に対して、すでに自車の車のブレーキライニングへの白アスベストの使用を禁止しているボルボ社のような企業を見習うよう求めている。 TUC書記長の John Monks は次のように語っている。
「アスベストは、ヨーロッパにおいて、他の労働災害によるよりも多くの人々を殺している。雇用主がその労働者をこの致死的な繊維に曝露させることは道徳に反することであり、われわれは、禁止がいま実行可能になったというニュースを歓迎する。」
欧州議会のアスベスト関係グループの議長である、欧州議会議員 Peter Skinner は次のように語っている。 「科学専門委員会のレポートは、アスベスト被害者とその家族たちにとって喜ぶべきニュースである。これ以上遅らせる必要はない。私は、委員会がただちに禁止に向かって前進するよう勧告している。」

編集者への注
1. アスベストは、自然界に生成する繊維で、発がん性がある。その耐火性と強靭さのため一世紀にわたり使用されてきたが、いまではより安全な代替物質が利用可能である。イギリスだけで、アスベスト関連疾患により今年4,000人が死亡し、その数は2020年までには毎年10,000人(あるいは毎週200人)にまで増加すると、イギリス政府によって予測されている。ヨーロッパにおいてはそれ以上の人々がアスベスト関連疾患によって、他の労働災害によるものすべてを合計したよりも多く、死亡している。
2. 白アスベストは、禁止されるべき最後の種類のアスベストである(青および茶アスベストはEU法によって、1970年以降漸次制限されてきている)。最新の証拠は、白アスベストもまた禁止する必要があることを示唆している。
3. 白アスベストのほとんどが、屋根用タイル、アスベスト・セメントおよびブレーキライニングに使用されている。これらの用途向けには、代替品がすでに利用可能である。

* 原文は http://www.tuc.org/ で入手可能。
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クリソタイル・アスベストと代替物質に関する見解


CSTEE, EU, 1998.9.15


毒性、環境毒性および環境に関する科学専門委員会―クリソタイル・アスベストおよび代替候補物質に関する、1998年9月15日のCSTEE第5回全体会議(ブリュッセル)において明示された見解

1. 背景
欧州委員会(European Commission)第3総局(Directorate General V)から求められたオプションに関して、CSTEEはまず第一に、考慮すべき最低限の事項として、以下のことを決めた。

「入手可能なデータに基づき、以下の代替繊維は、ヒトの健康に対してクリソタイル・アスベストと同等または相対的に高いリスクを引き起こすか?
―セルロース繊維
―PVA(ポリビニルアルコール)繊維
―パラ-アラミッド繊維
とりわけ、準職業的(para-occupational)曝露を受ける労働者や他の使用者にとっての、アスベスト含有製品のノン・アスベスト製品に対する相対的リスクについて考慮されなければならない。」

CSTEEは、アスベスト原料の採鉱、加工および使用のほかに、職業上(例えば、建築物のメンテナナンスや建設労働者)繊維の曝露を受ける労働者に対するリスクが存在することを知っている。また、一定の状況のもとでは、一般(非職業的)環境の大気中のアスベスト繊維が、ダメージを生じ関連した事態を引き起こすような濃度にまで達することがあることも承知している。それにもかかわらず、CSTEEは、委託された検討事項は、比較検討される物質の固有の有害な特徴に関する性質上の基礎に関することであると考える。また、すべての環境危険要因と同様にクリソタイル、代替候補物質についても、曝露量または環境濃度によって量的なリスクアセスメントも判定されるべきことは明白である。 CSTEEに委託された検討事項には、各物質の環境に対する潜在的危険性およびリスクを考慮することは含まれていない。CSTEEは、クリソタイル・アスベストが一定の用途に対しては、PVC(ポリ塩化ビニル)等の非繊維性物質に代替される可能性があることを理解しているが、それらの潜在的危険性はこの見解の対象外である。

CSTEEに提出されたすべての証拠資料は詳しく吟味された。それらの文書はCSTEE事務局によって CSTEE 97/2 Adds 1-42 として一覧表にされ、本文書の中に引用されている。CSTEEに提出された質問を直接扱った最新のレポートが、1998年4月6日にレスター大学環境保健研究所(IEH: Insititute for Environment and Health)によって「クリソタイルとその代替物質: 批判的評価」として発行されている(CSTEE 97/2 Add. 18)。

国際石綿協会(AIA: Asbestos International Association)のヨーロッパ助言委員会とスペインの科学者たちによって提出されたいくつかの文書(CSTEE 97/2 Adds. 20, 21, 22, 34)が提起している、クリソタイル曝露の安全レベルが存在するかどうかという問題は、本意委員会の対象外であると考えられた。クリソタイルは証明済みの発がん性物質であり、それが非遺伝子毒性メカニズムによって作用するという十分な証拠は存在しない。したがって、慎重なアプローチは、この物質の発がん効果に関する閾値は存在しないということである。代替候補物質に関しては、もしあったとしても、発がん性に関する証拠も、影響を及ぼすレベルを確定するのに十分な毒物学的情報も存在しない。したがって、閾値の問題を考慮することは、現時点においては生産的でない。

出版されている参考文献については本文中に番号をふり、本文書の第8章で引用されている。レビューした研究のうちで、異なるタイプの繊維の影響に関する比較を直接扱っているとCSTEEが考えたいくつかのものについては特記している。CSTEEに委託された質問に関連した研究自体の妥当性を検証する試みはなされていない。にもかかわらず、CSTEEは、その結論(第7章参照)を変更する必要があるようなものを考慮から落とすようなことはしていないと信じている。

2. 曝露したヒトに対する長期的な発がん影響
3. 曝露したヒトに対するがん以外の影響
4. 動物実験による長期的な影響
5. 毒性
6. 比較されるべき繊維の特徴 (以上、2.〜6. 省略)

7. 結論
繊維に対する主要な関心は、その発がん能力である。クリソタイルを含むすべての種類のアスベストはヒトに対して発がん性があるという十分な証拠が存在する。3つの代替候補物質(訳注: セルロース繊維、PVA(ポリビニルアルコール)繊維、パラ-アラミッド繊維)の繊維がヒトにがんを発生させたといういかなる証拠もみつかっていない。PVAおよびパラ-アラミッド繊維は、おそらく産業用に使用が開始されてから相対的に短期間しか経過していないために、疫学研究がなされていないのに対して、セルロース繊維に関して言えば、基礎研究のデザインに限界があることの反映かもしれない。
肺の線維化(lung fibrosis)は、よく知られたクリソタイル曝露の結果であるが、3つの代替候補物質の曝露による労働者の発症事例は、今日までのところ報告されていない。
クリソタイルの発がん性は、動物実験の結果によって確認されている。代替候補物質の中では、パラ-アラミッドだけが、適切にデザインされた長期間の吸入実験研究がなされているが、その結果は発がん性があるという証拠は示されなかった。
全体的にみて、3つの代替候補物質の急性・亜急性毒性に関するデータは、パラ-アラミッドについての、同量のクリソタイルによるよりもわずかな炎症と細胞増殖を発生させたラットによる一連の実験を除いて、非常に不十分であり、クリソタイルとの適切な比較を行うことができない。試験管内では、セルロースはクリソタイルよりも明らかに炎症性変化を引き起こすようである。 寸法、吸入可能性、生物学的持続性、破砕性といった繊維の特徴は、間接的に異なるタイプの繊維の間の潜在的影響の包括的な比較のための要素を提供する。これらの特徴に基づいた繊維性物質のヒトに対する長期的な毒性のメカニズムに関する現在の知見は、代替物質は商業用クリソタイルよりも有害性が相対的に低いという推論と矛盾しない。
以上に基づいて、CSTEEの見解としては、セルロース、PVA、パラ-アラミッド繊維がヒトにがんや肺の線維化を引き起こす能力は、クリソタイルによるよりも相対的に低いようである。 3つの代替候補物質についての限られた数の毒物学的研究は、がんおよび肺の繊維化以外の影響を生じさせる能力を検討するためには、不確実な余地を多く残している。それにもかかわらず、現在の曝露の水準および繊維の特徴に関する入手可能なデータは、ヒトの肺胞にまで到達するような危険なサイズと形状をした繊維の量はきわめて限られていることを示唆している。
したがって、肺と胸膜のがん、肺の繊維化―すなわち、広範囲にわたり調査された最終時点の状況―およびその他の影響の誘発の双方に関して、セルロース、PVA、パラ-アラミッド繊維のいずれもがクリソタイルと同等またはより大きなリスクを引き起こすことはなさそうである。発がん性および肺の繊維化の誘発に関して、CSTEEは、リスクは相対的に低いようであるという合意に達した。
CSTEEは、これらの結論は代替物質を製造または使用する作業環境の管理を緩めてもよいという意味に解釈されるべきではないことを勧告する。最後に、CSTEEは、新たな、より太い(吸入可能性のより少ない)繊維を開発する技術とともに、代替繊維に関する毒性学および疫学の領域での調査研究の一層の拡大を、強く勧告する。

8. 参考文献 (省略)

* このレポートの原文全文は http://europa.eu.int/comm/dg24/health/sc/sct/out17_en.html で入手可能である。
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カナダの国際貿易大臣 Sergio Marchi と天然資源大臣 Ralph Goodale は本日(10月7日)、カナダは、クリソタイル・アスベスト問題に関するフランスとの紛争を解決するために、紛争解決小委員会(パネル、Dispute Settlement Panel)を設置することを世界貿易機関(WTO: World Trade Organization)に要求すると発表した。
カナダのパネル設置要求は、WTOの紛争解決機関の10月21日の会合の議題になるだろう。カナダは、フランスのクリソタイル禁止措置がフランスの国際的責務に矛盾しないかどうかを、パネルが審査するよう求める。この決定は、この問題に関するカナダ政府のパートナーたちとの一連の討議の後に決定された。
「さる5月、われわれは、WTOの紛争解決手続の第1段階である(当時国間)協議を正式に要求し、これを実施した」と Marchi は語った。「残念ながら、この手続ではカナダとフランスがこの問題について相互に満足する解決を見出すことができなかった。われわれは、過去2年間にわたって解決しようとしてきたこの紛争について、WTOのルールを必要とするときであると信ずる。」
「カナダ政府の目的は、鉱物および金属に関する政府の安全使用の原則(safe-use principle)が順守されれば安全に使用することができるクリソタイル・アスベスト製品を流通させる市場を維持することである」と Goodale は語った。 1997年1月1日以来、フランスは、わずかな例外を除いて、アスベストおよびアスベスト含有製品の製造、輸入および販売を禁止している。
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欧州委員会(European Commission)は、カナダが要求したWTO(世界貿易機関)のパネル(紛争解決小委員会)の来るべき審査に当たって、欧州連合(EU: European Union)はフランスを支持するだろうと語った。
WTOのルールのもとでは、ある国が、他国がWTOの自由貿易のルールを破っていると信じれば、それを事件として取り上げることができる。そのような事件はパネル(小委員会)によって審議される。
今回のカナダのケースは、フランスが1996年12月に、すべての種類のアスベストの製造、加工、販売、輸入および流通を禁止する決定をした結果、生じたものである。カナダは、世界における最大のアスベスト産出国のひとつである。近年、アスベストの輸出は、この製品をめぐる重大な健康リスクのために、とりわけEU諸国に対して、大幅に落ち込んできている。1996年12月に、フランスは、すべての種類のアスベストの禁止を実行したEUで8番目の国となった。ドイツ、オーストリア、デンマーク、オランダ、フィンランド、イタリアおよびスウェーデンは、すでに禁止を実施している。ベルギーが1998年に禁止を導入し、イギリスでは最近立法化を検討している。フランスおよびすでに禁止を導入している他の加盟諸国のケースは、すべての種類のアスベストは発がん物質であるという事実に基づいている。フランス政府は、フランスにおいては毎年およそ2,000名の人々がアスベストによって引き起こされたがんによって死亡していると主張している。EUはすでにWTOに対して、すべての種類のアスベストの禁止を求める証拠を提供している。欧州委員会では最近、ヨーロッパ規模ですべての種類のアスベスト禁止を導入する提案に関して作業を進めている。
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ヨーロッパにおけるアスベスト禁止を要求するヨーロッパ労連の決議

infoBASE EUROPE FLASH, Issue No.49, 1998.10.28


10月9日、ヨーロッパ労連(ETUC: European Trade Union Confederation)の執行委員会は、ヨーロッパ規模でアスベストの使用禁止を要求する決議を採択した。この決議は、
* (欧州)委員会に対して、今年末までに、技術的進歩への適応手続に基づいて、アスベストおよび関連製品の取引(trade、貿易)を禁止する提案を提出するよう要求する。
* アスベストに対する労働者の防護のための現行法の見直し要求を理事会(Council)が解決するのを援助するとともに、委員会に対して、必要な財政および人材を割り当てるよう要求する。
* 除去、解体、補修(作業に関する)専門技能、および、アスベスト含有廃棄物の取り扱い、管理に関する要求事項のための規則を作成するヨーロッパ法の導入を要求する。
* 被災者が補償を獲得するのを助けるために、加盟諸国が、中皮腫およびがんの発生登録を維持することを要求する。* 委員会に対して、建築物、プラント、施設、輸送用機器、家庭用機器その他に使用されているアスベストの登録を取り扱う現行の各国のルールを整合化させる可能性について検討するよう要求する。
* アスベストの代替物質および代替品として使用される調整品(preparations)によって引き起こされるすべての危険を評価するための優先順位を提供するための、EUの調査研究プログラムを要求する。
* すべてのEUの(加盟)諸国および委員会に対して、WTOにおけるカナダとの紛争においてフランスに対して全面的な支援を与えるよう要求する。
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