2001.2.25

安全センター情報


1998年9月号




クリソタイル禁止に対するカナダの挑戦


British Asbestos Newsletter, Issue 31, Summer 1998


5月28日、世界貿易機関(WTO: World Trade Organization)は、カナダ政府から、「アスベストおよびアスベスト製品の禁止のためにフランス政府によって実施された一定の制限に関して」欧州委員会(European Commission)との協議を求める正式の請求を受け取った。フランスは欧州連合(EU: European Union)加盟国のうちで全面禁止を導入した8番目の国であるが、そのアクションが挑戦を受けたのはこれが初めてのことである。カナダのクリソタイルの輸出の6%と以前に説明された意味のある市場の喪失と、新しいWTOにおける行動がもたらす可能性が、カナダに紛争処理手続を開始することを助長させた。WTO攻撃を発表した記者会見において、カナダの天然資源大臣 Ralph Goodale は、「政府の目的は、政府の鉱物金属政策の安全使用の原則にしたがって適切に使用していれば安全な、クリソタイル・アスベスト製品を流通させる市場を維持することである」と自認した。カナダの閣僚たちはまた、1998年2月にベルギーで王令によって採用されたアスベスト禁止、1998年1月の欧州連合内における3.5トン未満の車両用のブレーキ・ライニングへの全ての種類のアスベストの禁止(委員会指令 98/12/EC)に関しても、「WTOに提訴することを検討」している。オーストリア、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、ドイツ、イタリア、あるいはオランダにおけるアスベスト禁止に対する挑戦の可能性についてはふれられていないが、カナダ当局関係者は、フランスに対する行動が成功したときには他の諸国の禁止措置についても争うことになるとしている。現在のカナダの提訴は、フランスの1996年12月24日の法令が以下の協定の条項に違反しているという点に限定されている: 衛生植物検疫措置の適用に関する協定(Applica-tion of Sanitary and Phytosanitary Measures: SPM/第2、3および5条)、貿易の技術的障壁協定(Technical Barriers to Trade: TBT/第2条)および1994年の関税及び貿易に関する一般協定(General Agreement on Tariffs and Trade: GATT/U、XIおよびXV条)。「食品、飲料あるいは食料に含まれる添加物、汚染物質、毒素あるいは疾病の原因となる有機体」をカバーするSPMについては、クリソタイルの禁止との関連性は希薄である。WTOの紛争解決手順にしたがって、両当事者は紛争を解決するため(の協議)に60日間与えられる。両者間の協議が不調に終わった場合には、カナダは、提訴を調査するためのパネル(小委員会)を紛争解決機関(Dispute Settlement Body)が設置するように請求することができる。欧州委員会/フランスとカナダの間の協議の第1ラウンドは、7月8日にジュネーブで行われた。あるWTOのスポークスマンは、7月の貿易の技術的障壁委員会においてもこの問題が取り上げられたかもしれないことを示唆している。

このカナダの行動は思いがけないものではなく、また、ハイレベルの外交的抗議、貿易上の会合や、昨年モントリオールで開催されたクリソタイルの健康影響に関する科学的ワークショップとクリソタイルの安全かつ責任ある使用に関する国際会議のような「科学的」ワークショップや会議のスポンサーとなること、を含むよく演出された一連のイニシアティブを伴っている。1996年以来、ケベック州鉱山・土地利用大臣の Denise Carrier-Perreault は、フランス、ベルギー、イギリス、アルジェリア、チュニジア、モロッコ、コロンビア、ペルー、メキシコ、マレーシア、ベトナムにミッションを派遣し、「ケベック州政府当局者がアスベストの安全使用政策を説明し、同様の政策を採用するよう促した」。4ページ建ての「アスベスト問題発展の年代記」には、アスベスト産業関係者、ヨーロッパの外交官、フランス、ベルギー、イギリスのジャーナリストたちとのカナダ人との対談を掲載している。この文書は、カナダの努力の系統的なアプローチと国際的な視野を認めている。カナダの手法に対する批判およびクリソタイルの世界的な禁止を求める声が広まっている。イギリスの指導的な活動家である Rory O'Neill は、5月のカナダのサーニアとウインザーにおける記者会見の場で、カナダの「汚いゲーム」と「粗暴な用心棒戦術」を批判した。カナダにおけるラジオ・インタビューの中で、政府のスポークスパーソン Lesley Swartman はこれに対して、「適切に使用されている場合にそれ(クリソタイル)が安全でないと証明する研究はない…(政府は)ヨーロッパの市場がこのまま進んだら…第3世界の市場も干上がってしまう、ドミノ現象を心配している」と語っている。6月19日に、ウインザーがん予防連合は、カナダ副首相、Herb Gray 下院議員に、「カナダ政府は、アスベストを防衛するために虚偽あるいは誤った情報を用いている。ヨーロッパにおいて、アスベストの代替品もアスベストと同様に危険で、また計量しがたいリスクを生じさせる可能性があると主張している一方で、自らの Health Canada ウエブサイトとカナダ国民に対するアドバイスでは、それらは一般住民に対して重要なリスクを引き起こすことはなさそうだと言っている」とカナダ政府を非難する手紙を送った。6月の年次総会において国際建設研究所(ICI: International Con-struction Institute)は、「クリソタイル・アスベストの全面禁止の実施を加速させるために」一層の努力を傾けることを決議した。AFL-CIO 保温・保冷工、アスベスト労働者国際協会は、クリソタイルを他のアスベストと異なったものにみせようとするカナダの主張は「新しいものは何もなく、また実際、多くの科学者および少なくとも2つのアメリカ合衆国政府の機関―国立労働安全衛生研究所(NIOSH)と労働安全衛生庁(OSHA)を含む―によってもそのようにみなされ、拒絶されている」と述べて、イギリスにおけるアスベストの全面禁止を支持することを誓約した。6月15日には、15か国に3千万名のメンバーを有する国際建設・林産労働組合連盟(IFBWW)、ヨーロッパ建設・林産労働組合連盟(EFBWW)、ノルディック建設・林産労働組合連盟(NFBWW)が、「世界規模でのアスベストの採掘、加工、流通および使用の禁止」を要求した。スペイン労働組合総同盟(TUC)とスペインの労働組合 Comi-siones Obreras もまた、国内およびヨーロッパにおける禁止のためのロビー活動を行っている。カナダはクリソタイルを禁止していないけれども、カナダ自動車労働組合の全国安全衛生ディレクター Cathy Walker によれば、「ごくわずかな(カナダの)雇用主しか、補償請求のリスクと労働の拒絶につながりかねないアスベスト製品を使用しようとはしていない」。

カナダ政府によるアスベスト貿易の擁護に対する国際的な抗議行動は、カナダ大使館が休館になるカナダ・デーの前日、6月30日に行われた。コペンハーゲン、シドニー、ロンドンではデモンストレーションが実施された。デンマークのカナダ大使館宛ての手紙で活動家たちは、WTOでの行動に対する「嫌悪感」を表明し、「肺がんや中皮腫のような致死的な疾病を引き起こすことが40年以上も前から科学的に知られているこの物質を禁止すべきことを、世界中の保健問題の専門家たちが勧告している」と述べて、提訴を撤回するよう迫った。(オーストラリアの)労働組合活動家たちは、「アスベストおよびアスベスト含有製品の使用を全面的に中止するという最近世界が成し遂げた進歩に逆行してカナダが行っている愚行に焦点を当てる」ために、シドニーのカナダ大使館を占拠した。労働組合活動家、建設安全キャンペーンのメンバー、下院議員、被災者支援グループ、アスベスト被災者およびその家族たちが参加したロンドンのカナダ大使館前のラリーでは、全ての種類のアスベストの世界規模での禁止の要求が叫ばれた。4名の代表団が、高等弁務官事務所の中に入ってカナダ当局者に抗議を行った。カナダ大使館におけるアスベスト・デモンストレーションと名づけられた早朝の行動は、下院に向けて行進した。「世界中に致死的なほこりを売りまわる」カナダの企みを非難し、「イギリス政府が一方的な禁止に踏み出すよう」訴えた。

カナダの反応が確実であることがイギリスのクリソタイル禁止を遅延させた。6月9日、Angela Eagle は下院で、「クリソタイルの輸入、供給および使用のさらなる制限を進めるイギリス政府のいかなる提案も、それによって世界貿易協定のもとでの義務を果たすことができるような、確固とした科学的証拠に基づかなければならないだろう」と語った。優先的選択肢は、ヨーロッパ規模での禁止という安全帯の範囲内での行動をとるということだと思われる。この終着点に向けて、安全衛生局(HSE: Health and Safety Executive)は、EUのアスベスト代替品に関する情報提供の要請に対して、環境保健研究所(IEH: Institute of Environment and Health)に「クリソタイルおよびその代替物質: 批判的評価」と題したレポートの作成を委託することによって応答したのであった。この文書は、「技術的に適切な代替品が入手可能であるにもかかわらず、アスベスト・セメント製品へのクリソタイルの使用を継続することは正当とは認められない。同様に、摩擦材へのクリソタイルの残った使用を継続することを正当化するいかなる理由もないように思われる」と結論を下した。IEHレポートは、EUの独立した機関で、2月9日に「特定の代替物質が人間の健康に引き起こすリスクが…現在のクリソタイルの使用によるよりもはるかに低い」かどうかは明確でないと主張した驚くべき決定を発行した、毒性、環境毒性および環境に関する科学委員会(SCTEE: Scientific Committee on Toxic-ity, Ecotoxicity and the Environment)に提出された。SCTEEのクリソタイル・ワーキンググループは、6月9日のパリでのミーティングでいくつかのプレゼンテーションを聞き、IEHのスポークスパーソンによる情報もよく受けとめられた。前回の調査結果によって引き起こされた大騒ぎ以来、この委員会は、カナダからのインプットに対する信頼を減らし、国際がん研究機関(IARC: International Agency for Research on Cancer)、フランス国立保健医学研究所(French National Institute for Health and Medical Research)、国際化学物質安全評価計画(IPCS: International Programme for Chemical Safe-ty)のような権威ある機関を含めコンタクト先を広げるようになった。1998年秋以前には、SCTEEからの結論は出ないと予測されている。

イギリス国内では、労働組合、被災者支援グループおよび他の関係者たちから、アスベスト関連の死亡の動かしえない上昇に関して大きな圧力が加えられている。労働組合会議(TUC: Trade Union Congress)は、「より安全な代替物質を使用するためのアスベストおよびアスベスト製品の輸入または新たな使用の禁止」を要求している。2月17日には、TUCは、下院におけるアスベストに関する議会の日およびウエストミンスター・セントラル・ホールでの大衆ラリーを開催した。2月18日の64名の下院議員が署名した早朝行動は、イギリスおよびヨーロッパにおけるアスベスト禁止を支持することが確認した。国内での禁止に対する公衆および政治的支持にもかかわらず、1998年4月17日にHSEによって発行された諮問文書(Consultative Document: CD129)

: アスベスト規則の修正および関係する実践コードの提案は、禁止を盛り込まなかった。この諮問文書は、例えば次のような市民サービス用の言い回しを隠していた

: 「入手可能な証拠はそれらの代替物質が引き起こす健康リスクはクリソタイル繊維によるものよりもより低いことを示唆している。しかしながら、いくつかの可能性のある代替物質については入手可能な限られた数の質のよい科学的証拠でしか示されないという心配がある」。この諮問文書の主要な提案は、曝露限界の強化、認可条項のアスベスト断熱板関係作業への導入、呼吸用保護具、トレーニングおよび適応に関する雇用主の義務の拡大に関するものである。この諮問文書が発行された4日後、14か国を代表する機関である欧州理事会(European Council)の Parliamentary Assembly は、「ヨーロッパは将来のアスベストの使用を根絶する共通条項を作成すべきあり…立法による禁止措置はアスベスト問題の有効な解決策となるだろう」と結論づけたアスベストに関するレポートを受諾した。舞台裏では、HSEは、保健省の食品、消費者製品および環境中の化学物質の発がん性に関する委員会(CoC: Department of Health's Committee on the Carcinogenicity of Chemicals in Food, Consumer Products and the Environment)からアスベスト代替品についての疑問を明白にするよう努力していた。CoCは、「3つのクリソタイル代替物質、すなわち、ポリビニルアルコール(PVA)繊維、パラ-アラミッド繊維、セルロース繊維の相対的な発がん性リスクに関する助言」を求められた。相対危険度の評価を実施した後、この委員会は、これら3つの代替物質によるリスクは「クリソタイルによるものよりも低いようである」と結論を下した。7月21日にHSEはプレス・ステートメントを発表し、CoCの見解に基づいて「白アスベストの輸入、供給および使用の禁止を拡大するための諮問文書の草案」を、安全衛生委員会の8月18日のミーティングにおいて検討することを明らかにした。

* この文章は、http://www.lkaz.demon.co.uk/ban31.htm で入手可能である。
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3つのクリソタイル代替物質の発がんリスクに関するHSEへの報告


食品、消費者製品および環境中の化学物質の発がん性に関する委員会,
U.K., 1998.7



はじめに

1. 発がん性に関する委員会(CoC)は、安全衛生局(HSE)から、3つのクリソタイルの代替物質、すなわち、ポリビニルアルコール(PVA: polyvinyl alcohol)繊維、パラ-アラミッド(p-aramid)繊維およびセルロース(cellulose)繊維の発がんリスクに関する助言を求められた。HSEから求められた質問は、これらの3つの物質によって引き起こされる労働者および消費者に対する発がんリスクはクリソタイルよりも小さいかどうかということである。クリソタイルの代替物質の問題に関する環境大臣の助言の緊急性にかんがみて、CoCのサブグループは1998年5月22日の会合で、HSEの質問に対する最初の検討を行った。サブグループでは、HSEから提供された4本のレポートおよび多数の出版された科学的調査を検討した。提供されたレポートは、次のとおりである。
i) クリソタイルおよびその代替物質: 批判的評価。HSEに対する環境保健研究所(IEH: Institute for Environmental Health)の未発行のレポート, 1998年4月6日。
ii) 『アスベストおよび代替繊維の有害性とリスクの最新の評価および世界の繊維性物質に対する最近の規制状況』と題された、欧州委員会第3総局(DG V)に対する環境資源管理(ERM, Oxford)の最終レポート, 1997年11月。iii)
ケベック州天然資源大臣、天然資源省(カナダ)、アスベスト研究所に対する Gibbs, Davis, Dunnigan and Nolan による、1997年6月のERMレポート草案に関する建設的な論評として書かれた文書, 1997年9月。iv) 欧州委員会第3総局(DG V)の委託研究であるアスベストおよび代替繊維による有害性とリスクの最新の評価および世界の繊維性物質に対する最近の規制状況に関するERMによる研究に対する第24総局(DG XXIV)科学検討委員会(SCTEE)の見解, 1998年2月。(1998年5月号28頁参照)

2. サブグループでは、4つの文章すべてをレビューしたが、とりわけIEHレポート(注: 上記i))に重点を置いた。加えて、このレポートの著者の一人である L. Levy 博士がサブグループにIEHの検討結果についての短いプレゼンテーションを行った。
3. サブグループのメンバーは、提出されたすべての文書を検討し、許された期間内でこれらの文献の完全なレビューを行うことは不可能であるということで一致した。しかしながら、サブグループは、物理的特性(寸法および細分化の可能性等)および吸入可能な繊維の曝露がクリソタイルの管理基準である0.5線維/lよりも十分に低くなることを示す情報に関する入手可能なデータを用いて、クリソタイルの代替物質の発がん性の相対危険度の評価(com-parative risk assessment)を行うことは可能であるということで一致した。サブグループはまた、クリソタイルと比較検討して3つの物質の発がんリスクについての結論に到達するために、CoCに提供されるべき必要な追加情報について確認した。

4. CoCでは、1998年6月25日のミーティングで、サブグループの議事録、HSEのためにIEHによって作成されたレポート、およびサブグループによって収集された追加データについて検討を行った。委員会はまた、IEHによって書かれたいくつかの追加のコメントについてもレビューした。クリソタイル代替物質の曝露に関するさらに確証的な情報が議長に送られた。この報告は、CoCが到達した結論を報告したものである。検討された証拠の要約表を表1、別添1(29頁参照)として添付する。

* この報告の中で「繊維(fibre)」という用語は、紡織またはフェルト化されて商業的に利用される繊維状の物質から発生する大気中の物質をさすのに用いられる。これは、紡織用語の「regulated fibre」よりも広い定義で、WHOやHSEが計測のために用いる、長さ5μm超、現実の直径3μm以下、アスペクト比(長さ対直径)3以上の小片をさす。この報告の中で「regulated fibre」と「respirable fibre(吸入可能な繊維)」は互換的に用いられる。

背景

5. 世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC: International Agency for Research on Cancer)では、クリソタイルをヒトに対して発がん性が明らかである(グループ 1)と分類している。

1,2 IARCのワーキンググループは、クリソタイルはヒトに対して、また吸入曝露した実験動物に、肺がんおよび肺の中皮腫を引き起こすということに同意している。

2 欧州連合(EU)では、クリソタイルをヒトに対して発がん性の明らかである(すなわち、カテゴリー 1)と分類しており、また、アスベスト指令(91/382/EEC)においてその使用を制限し、曝露を管理するための管理基準が制定されている。これらの規制は、イギリスにおいては、1987年のアスベスト作業管理規則が1992年に修正されたかたちで制定されている。これらの規則では、1日継続時間が平均して4時間以上 0.5繊維/l、または、1日継続時間が平均して10分以上 1.5繊維/lという、大気中のクリソタイルの管理限界が定められている。

3 1992年のアスベスト禁止規則は、クロシドライトおよびアモサイトを含むアンフィボル類のアスベストの輸入、供給および使用を禁止している。これらの規則はまた、クリソタイルの特定の用途での使用を禁止している。しかしながら、クリソタイルは現在、EUの中で供給および使用が可能な唯一の種類のアスベストである。われわれは、現在では15の加盟国のうちの8か国が、現行のEU指令の要求内容を越えて、すでにクリソタイルの全面禁止または制限を制定していることを知っている。Peto J.他が実施した調査によると、アスベスト繊維(クロシドライトおよびクリソタイル等)の曝露に起因した(注: イギリスにおける)年間の男性の死亡者数は、20 20年までには2,700-3,300人にまで上昇するだろうと示唆している。

4 この予測は、死亡診断書の分析およびアスベスト繊維関連疾患の潜伏期間に関する知見に基づいている。リスクのある者の大多数は、おそらく1960年代前半に職業的にアスベストに曝露したものと思われる。HSEは、配管工、大工および電気技師等のように、アスベストに断続的に曝露した職種では、アスベスト関連疾患のリスクが上昇するだろうと報告している。

5 イギリス中の建築物および作業場所に据え付けられた数十万トンものアスベストが現存している。この物質は、漸次除去され、深刻な経営上、管理上の問題を引き起こしている。クリソタイルの新たな使用を継続すること、とりわけ建材における使用の継続は、全般的な管理上の問題を悪化させることになる。

6. われわれは、クリソタイル代替物質およびクリソタイルの発がんリスクに関するいかなる比較評価も、これらの代替物質の使用期間がおよそ20年間しかなく、これらの物質に対する労働衛生管理が実施されてきた中での疫学的評価に重きを置きすぎることはできないと考える。このため、これらの物質に対する曝露は、アスベストの使用に関する現代的な衛生管理が確立される以前に生じたクリソタイルの曝露と比較すると、比較的短期間かつ低い強度の曝露である。したがって、われわれは、繊維の寸法(fibre dimensions)、細分化の可能性(potential for fragmenta-tion)、動物実験による生物学的影響と生物学的持続性(biopersistence)に関するデータと使用中の職業的曝露の可能性に関する情報およびクリソタイルに関するそれらの比較データに重きを置いた。

繊維の発がん性

7. 有害な繊維の特性についての概要はIEHレポートの中でレビューされている。
1 繊維毒物学に関する包括的レビューについてもHSEによって発行されている。
6 われわれは、「regulated fibres」を同定するためのWHOおよびHSEの定義は、クリソタイルの代替物質に関連した可能性のある有害性を評価するために用いることができると考える。たとえば、発がん性の可能性は、長さ5μm超以上、直径3μm未満、アスペクト比3:1以上の繊維によって示されると言ってよいだろう。肺がんを引き起こす能力があると知られている regulated fibres の長さは10μm超、中皮腫を引き起こすのは8-10μm以上である。
6 細分化の可能性(換言すれば、有害な可能性のある小繊維への分解)もまた検討される必要がある。われわれは、肺への沈着の有力な物理的因子が繊維の直径であることに注目する。吸入された鉱物繊維の肺胞への最大の沈着は直径がおよそ1μmの繊維で生ずるが、直径3μm超の繊維は本質的に吸入可能ではない(non-respirable)。そのような繊維は、肺への発がん性または中皮腫の誘発を示さないと予測されている。このため、われわれは、繊維の寸法および動物実験による証拠の検討は、発がん性の評価の基礎を提供するであろうということで一致した。
8. 繊維の可能性のある発がんリスクの特性を表わすために、現実の曝露および繊維の生物学手持続性に関する情報も必要とされる。われわれは、生物学的持続性は、
(i)繊維のメカニカル・クリアランス(すなわち、粘膜繊毛による気管からの除去)、
(ii)沈着した繊維の溶解性および分解性、
(iii)マクロファージによる繊維の生物学的除去、に従属していると考える。低い生物学的持続性は、繊維が肺から取り除かれることによって、同等の発がん性があって生物学的持続性の証拠を示すものよりも、発がん性は低いと思われる。

個々のクリソタイル代替物質についての検討

9. われわれは、3つのクリソタイルの代替物質の個々の発がん性および発がんリスクの可能性に関するかいつまんだ要約を提示した図1(別添1―29頁参照)にある関連データを、前節で概説した基準を用いて検討した。(他にことわりのない限り、すべての情報はIEHレポートによる。)

ポリビニルアルコール(PVA: Polyvinyl alchol)繊維
10. PVA繊維の吸入可能な繊維はとても小さいようである。PVAが小繊維に分解するという証拠はない。大気中の大部分のPVA繊維のアスペクト比は3を下回り、これらの繊維が肺がんまたは中皮腫を引き起こす可能性がないことを示唆している。適当な動物による発がん性の生物学的検定報告がないとは言え、PVAに関する情報は発がん性が低いことを示唆している。しかしながら、肺に沈着したPVA繊維は減成する速度が遅いかもしれない。この証拠はクリソタイルよりも発がんリスクが低いことを示唆している。われわれはまた、吸入可能なPVA繊維の曝露(実態)が0.5繊維/lをはるかに下回るようであるということを追記しておく。

7パラ-アラミッド(p-Aramid)繊維
11. PVA繊維の吸入可能な繊維はとても小さいようであるが、一定の条件のもとでは限られた小繊維への分解が生ずるかもしれない。PVAが小繊維に分解するという証拠はない。大気中の大部分のPVA繊維のアスペクト比は3をはるかに上回る。
3 肺に増殖性角化細胞(PKC: proliferative keratinising cysts)を形成することが、ラットを用いた長期間の吸入実験で報告されているが、この著者たちは多数の吸入可能な小繊維をつくるために極端なパラ-アラミッド繊維を用いている。
9 したがって、われわれは、この研究の曝露条件は非現実的であると考える。PKCが肺に損傷を起こす生物学的作用は断定できず、それが新生物かどうかの最終的な判定は現在のところ確認できていない。
10,11 肺の通常の清掃機能を上回る高度の曝露を与えたラットについての報告があるだけで、われわれは、人体への健康評価に当たっては重要ではないと考える。パラ-アラミッド繊維の塵を塩水注射で腹膜内に投与したラットで腹膜中皮腫を低いレベルで引き起こしたというレポートは、有害性の評価に関連性があるとは考えられなかった。とくに、そこでラットに投与されたパラ-アラミッド繊維のサンプルは、動物に投与できるようにするための塩水注射液を調製するのに特別の処理を施されていた(乾燥、粉砕および超音波照射を含む); それにもかかわらず、得られた結果はクリソタイルよりもはるかに(有害性が)低かった。

12,13 したがって、パラ-アラミッド繊維の有害な生物学的影響に関するいくつかの証拠はあるものの、発がん性を示唆する説得力のある証拠はない。ラットの肺におけるパラ-アラミッド繊維の分解速度はクリソタイル繊維よりも早いと報告されている。

14 この証拠はクリソタイルよりも発がんリスクが低いことを示唆している。われわれはまた、吸入可能なPVA繊維の曝露(実態)が0.5繊維/lを下回るようであるということを追記しておく。

7セルロース(Cellulose)繊維
12. セルロース繊維の吸入可能な繊維はとても小さいようである。セルロースは小繊維に分解する可能性があるが、実際問題としてはそのような事態が生ずることはきわめて限られている。
14 大気中のセルロース繊維のアスペクト比は産業および用途によって変化しやすいようである。適当な動物による発がん性の生物学的検定報告はない。セルロース繊維に関する最近の研究は、ラットの肺における生物学的持続性の証拠を報告している。
16 しかしながら、CoCは、HSEから提起された要請の検討にあたっては、この研究は関連性がないということで一致した。とくに、この研究者たちは、肺の通常の清掃機能に負荷をかけすぎることになるような過度に大量の吸入可能なセルロース繊維を使用している。IEHレポートの曝露(実態)に関する情報によると、セルロース繊維の総数は、時々0.2繊維/lにまで上昇することもあるとは言え、一貫して0.05繊維/lを下回っていると報告している。CoCではIEHレポートに引用されたレビューにあげられた疫学的研究17 について検討した。メンバーは、これらの研究は不十分であり、セルロース繊維に起因する発がん性反応を確認することはできないようであるとの結論を下した。

18-21

討論および結論

13. われわれのアプローチは、提出された情報に基づいて、相対危険度の評価を行うことであった。検討にあたっての基本的な仮定条件は以下のとおりである;
(i) クリソタイルの曝露に関連した発がん性が明確に証明されていること。
(ii) クリソタイルの代替物質の物理的特性(すなわち、寸法および細分化の可能性)が可能性のある有害性を指摘するのに利用できること。
(iii) 適切な疫学的データは入手可能になっていないと思われること。
(iv) 吸入可能なPVA、パラ-アラミッド、セルロース繊維の職業的曝露(の実態)がクリソタイルの管理限界である0.5繊維/l(4時間加重平均)を下回っていると考えられること。

14. われわれの結論

「委員会に提出された、繊維の寸法、肺における生物学的持続性を含む動物実験に関する証拠は、PVA繊維、パラ−-アラミッド繊維およびセルロース繊維によって引き起こされる発がんリスクはクリソタイルによるものよりも低いようであるということを示している。さらに、これらの物質は、通常の作業条件のもとにおける吸入可能な繊維の総量は重要なレベルには至っていないようであること、および、これらの繊維の職業的曝露(の実態)はクリソタイルの管理限界を下回っていそうなこと、を追記することができる」。1998年7月

* 参考文献は省略した。
* 原文は、http://www.open.gov.uk/doh/chrys.htm で入手することができる(PDFファイル形式で9頁)。
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イギリスのアスベスト禁止計画は蘇った


Rory O'Neill, Hazards/WHIN, U.K., 1998.7.21


イギリスの安全衛生委員会(SHC)は、今日(7月21日)、アスベスト禁止に向けた取り組みを検討する意向を表明した。
「白アスベストの輸入、供給および使用の禁止の拡大」という諮問文書の草案が、次回、8月18日のHSCのミーティングに提出されるだろう。
委員会によって承認されれば、その文書は公開の諮問のために公表されることになる。
HSCの情報筋は、諮問はもちろん、禁止に対する大衆的な支持―イギリスの産業界のすべての側が禁止に向けた動きを支持している―を再確認することになろうが、少なくともここ1年以内にイギリスがアスベスト禁止を導入する見込みは小さいとしている。HSCおよび政府の優先的な選択肢は、ヨーロッパ規模での禁止を押し進めることである。
HSCのアスベスト禁止の展望を追及する動きは、禁止を求めた当初の諮問文書の草案がイギリス政府の閣僚たちによってたちきられてから4か月かかったことになる。
政府の情報筋は、イギリス首相トニー・ブレアのオフィスからの圧力を受けて(当初の草案を)撤回したのだと話している。ブレアは、ヨーロッパのいかなる国の禁止もカナダの白アスベスト(クリソタイル)に損害を与えることを懸念しているカナダ首相ジーン・クレチエンから、度重なるアプローチを受けていた。 カナダ政府のロビイストたちは、代替物質の導入に伴う健康リスクの点から、禁止は正当化されないと主張した。カナダ政府はすでに、フランスの白アスベスト禁止に対して世界貿易機関における挑戦を開始した。 HSCでは、アスベスト禁止の可能性をもう一度調査するという決定は、保健省(Department of Health)の発がん性に関する委員会が先週、「一般に使用されている代替繊維のほとんどはクリソタイルよりも安全であるとの結論を下した」ことによってもたらされたと言っている。
イギリスにおけるアスベスト禁止提案の草案を復活させたことに加えて、HSCは「ヨーロッパ規模での前進を引き続き精力的に追及する」と言っている。
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クリソタイルのさらなる使用制限に向けた前進イギリス安全衛生委員会


(HSC), 1998.7.21


安全衛生委員会(HSC: Health and Safety Commission)は本日(7月21日)、アスベストの代替繊維の安全性に関する保健省(Department of Health)の発がん性に関する委員会(CoC: Committee on Carcinogenicity)の見解について検討した。委員会(CoC)の見解は科学的に疑わしい領域を明らかにしており、それゆえ委員会(HSC)では、8月18日の次回のミーティングで、白アスベストの輸入、供給および使用の禁止を拡大するための諮問文書の草案について検討する予定である。

背景

1. 3月にHSCは、アスベスト作業防護規則を強化する提案についての公開諮問を発表した。委員会は同時に、ノン・アスベスト代替繊維の安全性に関する科学的知見が明確になるまでは、白アスベストの輸入、供給および使用のさらなる制限に関する諮問に着手するのには法律的な障害があると表明した(5月号25頁の囲み参照)。
2. この見地から、HSE(安全衛生局: Health and Safety Executive)では、代替繊維の安全性に関して、検討のために提出された科学的証拠および他の重要な証拠のレビューをCoCに委託した。先週、この委員会は、一般に使用される代替繊維のほとんどはクリソタイルよりも安全であるとの結論を下した。
3. CoCの見解は、インターネット上で入手することができる。 http://www.open.gov.uk/doh/coc.htm
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8月18日HSC会議当日に早朝行動地方自治体におけるアスベスト問題


Mick Holder, London Hazards Centre, U.K., 1998.8.14


▼ 安全衛生に関する政策を立案する政府の委員会である安全衛生委員会(HSC)は、イギリス国内へのアスベストの輸入禁止に関して討議するためのミーティングを8月18日に行う予定である。
当日午前9:30から、安全キャンペーンおよび労働組合の活動家たちは、HSCの建物の外側で、今こそ彼らが政府に対してすべてのアスベストの輸入の禁止を勧告するよう要求する。
カナダ政府からの圧力によって、HSCは3月のときの議案から、イギリスにおける禁止を実現に導くはずだった条項を取り下げた。イギリスが歩を進めて禁止に踏み切るかどうか、1998年8月18日に再度、HSCに注目する必要がある。
建設安全キャンペーンの事務局長の Tony O'Brien は、「政府は(前回)、すべてのアスベストの輸入を禁止するという最も基本的かつ緊急の約束を果たさなかった。われわれの行動は、今こそこのキラー・ダストのすべての輸入を禁止せよと、大きな声ではっきりと言うことである」と語った。

▼ 安全衛生局(HSE)は、イギリスの地方自治体の担当責任者宛てに、アスベストを管理する義務―とりわけその管轄地域内の建築物、学校、レジャーセンターについて―に注意を喚起する手紙を起草中である。
HSEでは、その履行状況を調査するために40の地方自治体を訪問する予定である。
地方自治体における労働組合の安全代表(safety rep)は、HSEが自分のところの地方自治体を訪問するのであればそのことを知り、調査のプロセスに参加させるよう要求しよう。HSE事務当局の Jenny Bacon 自身が、安全代表の取り組みを称賛しており、HSEは彼らをもっと巻き込むべきだと言っている。建築物の居住者の代表(tenant rep)もまた参加を要求しよう。
もしHSEが訪問しなかったとしても、これは安全衛生委員会協定の問題を点検するよい機会である。また、アスベストに関する様々な問題を取り上げるすぐれた機会でもある。
* HSEではこの計画を発表していない。
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石綿対策全国連絡会議
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