1. はじめに
(1) アスベストとは

 アスベストは天然の鉱物である。
 繊維状になっているとはいえ成分は石なので、熱や酸・アルカリにも強く腐食しない。また絶縁性もあって、引っ張る力にも強い。しかも加工がしやすく安価という、まさに夢のような繊維である。

 アスベストの使用は人類の歴史とともに始まったともいわれるが、広く使われ始めたのは、19世紀終わり頃のことである。今世紀に入って工業化の進展とともに広がり、戦後大量に使われるようになった。

 我が国でも、1960年代の終わり頃から、年間使用量が20万トンを超えるようになり、多い時には、年間35万トンあまりも使用されていた。

 しかし、使われ始めた当初から、労働者に、アスベスト肺といわれるじん肺や悪性中皮腫、肺がんなどの病気が多発することがわかり、発がん性が確認されるにつれて、しだいに世界中で規制の動きが強まっていった。

 1980年にノルウェー、デンマークが、82年にスウェーデンが使用禁止を打ち出した。そして、スイス、フィンランド、ドイツ、イタリア、オランダと、使用禁止の動きが広がっていった。

 日本でも、1975年に吹き付けは原則的に禁止された。
 同じ頃、イギリスでもアメリカでも吹き付けが禁止され、そのころをピークにアスベストの使用量は急速に減少していくことになる。

 しかし、日本では、それ以降も毎年30万トンを前後に使用量は横這い状態が続き、1985年頃に、それまで大量に使用していたアメリカを抜き、当時のソ連に次ぎ、中国とならんで世界有数のアスベストの使用量を誇る国になった。

 そのすぐ後、1987年頃、日本の使用量は戦後数回目のピークを迎え、年間の使用量は32万トンにも及んでいた。学校の吹き付けアスベストが問題になり、大騒ぎになって、全国的に除去工事や囲い込み工事などが行われたのはちょうどこの頃である。
 アスベストは学校や団地の天井ばかりではなく、アスベスト紙からベビーパウダーに至るまで、実に3000種類以上もの製品に使われていたという。

 同時に、環境中のアスベスト濃度が高くなっていることが問題になり、アスベスト製品製造工場のずさんな管理が指摘された。そのような中で、1989年に大気汚染防止法が改正され、アスベストは「特定粉じん」に指定されて、製造工場等の敷地境界での濃度規制が行われるようになった。

 一方、建設省でも、1988年、アスベスト粉じんの飛散防止のため、吹き付けアスベストの除去工事のマニュアルを作ってガイドラインとした。

 厚生省関連でも、1991年に廃棄物処理法が改正され、吹き付けアスベストは「廃石綿」として特別管理産業廃棄物に指定され、厳重な措置をして処分されることになった。

 このころから環境中のアスベスト濃度は少しづつ下がっていった。いろいろな製品に使われていたアスベストも徐々に使われなくなっていき、使われたとしても、含有率は低くなっていった。

 そして、1995年1月、阪神・淡路大震災が発生した。
 復旧工事が急がれる中で、倒壊した建物に使われていたアスベストが飛び散り、大きな社会問題になった。それまで建築物に大量に使用され続けてきたアスベストが、環境中にまき散らされることによって、私たちの健康にいかに大きな脅威を与えることになるのかをまざまざと見せつけることになった。このことが、解体工事に伴って発生するアスベストによる環境汚染を防止することを目的とした、1997年の大気汚染防止法の改正の引き金になってくる。

 同年の1995年4月には、労働法関連の改正によって、青石綿や茶石綿と呼ばれる、より危険性が高いと考えられた種類のアスベストの使用が原則的に禁止されることになった。さらに、それまで5%を越える含有率のものが規制されていたが、1%を越える含有率のアスベスト製品が規制対象とされることになり、アスベストを取り扱う上での規制もいっそう厳しくなった。

 海外では、1997年、それまで管理して使用すれば安全としていたフランスが、ついにアスベストの全面禁止に踏み切った。アメリカでは大量のアスベストに関する訴訟が起こされて、年間の使用量は3万トン以下に激減しているという。そしてイギリスでも、毎年3千人ものアスベストによる死者が出ているといわれ、現在の使用量は1万トン以下に落ち込み、最近では全面禁止の動きも出ているという。

 我が国でも、大気汚染防止法が改正され、1997年4月から、一定のアスベスト含有の吹き付けが行われている建物を対象として、環境部門にも届け出が義務づけられ、一定の作業基準に従わなければならないことになった。
 それで、今、日本で、アスベストの年間使用量はどのくらいになっているのだろうか。

 実に驚くべきことに、アスベストは、我が国で、今でも年間20万トンにも及ぶほど(現在ではおよそ17万トンから19万トンくらいとみられる)大量に使用され続けている。

 危険性が明らかになって、法律で厳しい規制を受け、外国でも毎年何千人もの死者が出て禁止する国が増え、ほとんど使われないようになっているアスベストが、私たちの国日本で、今でもなお相変わらず大量に使用され続けているのはなぜか、ここに私たちのアスベスト問題の出発点がある。
(2) 何を問題にしたのか−代替化の政策−

 アスベストは諸外国で禁止されていることからもわかるように、ほとんどの製品に代替品がある。

 もし、危険性がはっきりしているアスベストではなく、より安全性が高いと考えられる代替品の使用を促すことができれば、将来の被害者を少なくすることができるはずだ。なぜそれができないのだろうか。

 私たちは、このような代替化の政策が、我が国の環境行政の中でどのような位置づけをされ、どのように実効ある政策として取り組まれているのかという点に関心を持った。

 予防原則といわれるような被害を未然に防止するための対策を、我が国がどの程度重視しているのか、具体的な取り組みを知りたかったからである。それはとりもなおさず、我が国の環境行政が、私たちや私たちの子孫の生命や安全をどの程度大切に考えているのかという問題でもあった。


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