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●アスベスト対策情報 No.34


(2005年6月1日発行)



世界会議の成果を内外に

石綿対策全国連絡会議第18回総会






 
石綿対策全国連絡会議の第18回総会は、4月13日、東京・全建総連会議室で開催されました(60余名が参加)。
 総会は、後掲の活動報告・方針、役員体制等の議案を採択の後、全建総連・佐藤書記長(写真上左)の挨拶で閉会。
 本総会では、昨年全精力を注いで取り組んだ「2004年世界アスベスト東京会議(GAC2004)」の世界と意義を確認しつつ、それを世界と日本でひろげていくという方針を採択しました。
 続いて、全日本海員組合・山口守総合政策部長、国鉄労働組合・久保孝幸業務部長からの取り組みの紹介、及び、名取雄司・永倉冬史両事務局次長から各々、「中越地震被災地におけるアスベスト対策」と「子供たちにアスベスト問題を伝える取り組み」について報告が行われました。本号では、4名の方の報告を収録しました。
 さらに休憩をはさんで、永野和則氏(厚生労働省化学物質対策課化学物質情報管理官―写真上右)を講師に、「アスベスト原則禁止後の労働安全衛生対策―石綿障害予防規則を中心に」学習会も開催されました。2005年7月1日の同規則施行に向けて、熱心な質疑討論行われました。
 「2004年世界アスベスト東京会議(GAC2004)」の全記録はホームページ(http://park3.wakwak.com/~gac2004/)でご覧になることができます。石綿対策全国連絡会議のホームページ(http://park3.wakwak.com/~banjan/)もご活用ください。



戦後復興の影で船員のアスベスト曝露

全日本海員組合・山口守総合政策部長

 全日本海員組合総合政策部長の山口と申します。昨年11月に東京で開かれた世界会議には他の者が参加していますが、そうしたご縁もあり本日ここに参りました。海員組合というのは船員の労働組合ですけれども、組合としての取り組みと、皆さん普段なじみがないと思うので、船員の労働現場の過去及び現在について若干ご紹介したいと思います。
 日本人の船員―最大ピーク時―昭和45年から50年頃にかけて約27万人の日本人の船員がいました。そのうち17万人くらいが海員組合の組合員でした。
 現時点で言うと、商船に乗って国際航海に従事する日本人の船員は約2千人くらいになってしまっています。というのも国際競争力という名のもとに、外国人船員が日本の旗を掲げている船のなかで一緒に仕事をしていますし、日本の外航商船そのものがパナマですとかリベリアだとかのタックス・ヘブン―税金がかからない国に移転してしまって、その国の法律のもとで運航され、地球中の海を走り回っている。そこに日本人の船員も乗っていますけれど、数がどんどん減ってしまっている。国内物流をしている船の乗組員は全員が日本人です。こういった外航商船、国内―内航貨物・旅客船および遠洋漁船などに乗り組む船員が組合員で、現時点では約3万人が海員組合の組合員ということで加盟しています。
 私たちの組合は産別組織です。ちょっと皆さんの感覚と違うかもしれませんが、個人加盟で、A社に所属している人も、B社に所属している人も、直加盟なのです。A社やB社の企業内組合が連携して産別を構成しているというかたちではありません。外航船の船員さんも、内航船・旅客船の船員さんも、漁船の船員さんも、みんな直接、私たちの組合員になっています。そして、働く現場は海上、船上ですから、こういう集会があるから集まりましょうと言っても、すぐに集まれる状態にないので、情報伝達手段は、最近はFAXや衛星通信によるEメールなどで便利になりましたが、定期的に発行している新聞、機関誌等です。
 一般新聞等で報道されてもいますように、元船員だった人が悪性胸膜中皮腫ということで、2004年に2名、それから今年になって1名―お亡くなりになった後ですが―、今のところ合計で3件、船員保険の職務上の傷病ということで認定を受けています。
3名の方のバックグラウンドをお話ししますと、そのうちのおふたりは、戦後―昭和26年から30年代中くらいまでの、その方々の働いていたときの年齢で言うと20歳くらいから30歳代の間、今から4〜50年前に船に乗り込んでいて、当時のかなり劣悪な労働環境のなかで仕事をしていたということもあって、退職後―船員をやめて陸上の仕事をしていた方もおりますが、突然発病して、こういう診断が出て、職務上の傷病として認定されるという扱いがされているということです。
 労働環境が当時どうだったのか、私自身は体験していませんがいろいろ記録ではみています。戦争が終わったのが昭和20年でした。日本は島国ですから、戦前もいろいろなものを輸入したり、輸出したりしていたわけで、そのために戦前も船がかなりあったわけですが、その船が戦争中に徴用されたりして、十分な護衛もなく丸腰で物資の輸送とかに当たっていましたので撃沈されて、船がなくなってしまった。
 戦後、やはりものを運ぶためには船がいるということで、急ごしらえで造られた船―戦時標準船というのですが、戦標船という船が戦後相当数造られました。この船がいろいろと問題になって、最後の記録でいうと昭和35年頃ですから、戦後15年間くらいは、当時造られた劣悪な労働環境の船が存在していたということで、先ほどいったおふたりは、そういう船で日夜労働していて被災したのではないかと思っています。
 もうひとりが、今年認定された方ですが、この方についても年齢がほぼ一緒なので、過去の記録はちょっとわからないのですが、おそらく同じ頃に戦時標準船というようなものでお仕事をされていたのではないかと思っています。
 申し遅れましたが、この3名の方はみんな、機関部の仕事に従事していた人たちです。エンジンルームで仕事をしていた方です。船の仕事というのは大きく分けて、甲板部と機関部そして事務部といった仕事に分かれています。甲板部は航海士―船の運航に携わる人など、機関部では機関士―船の推進力を得るための機関の運転管理に当たる人、それから事務部は―乗組員の生活と言いますか、ご飯をたべたりしなければなりませんから食事を作るとかをする人。大きく分けてそういった3つのパートに分かれるのですが、3人とも機関部の人でした。つまり、機関部の作業現場がいかに劣悪な環境だったのかということです。
 海員組合は船員の唯一の労働組合ということでもありますので、当時船に乗っておられてその後退職された方など、それぞれ地方ごとにOB、退職船員の会なども作られておりますので、こういう方々と私たち現役の者がいろいろ連絡を取ったりしています。去年も年金法が改正になったので、どういうことになるのか教えてほしいということで、退職船員のOB会のところにいって話をさせていただいたりしていますし、それから、こういう問題があるということで、なにかあったら相談を受け付けますというようなかたちでの取り組みを今やっているところです。
 私たちの組合は、昨年の11月に大会で決定した活動方針で、「本年、アスベスト(石綿)疾患で船員経験者が初めて船員保険職務上傷病の認定を受けた。船舶の断熱材としてアスベストの使用は、2004年10月から原則禁止されたが、アスベスト疾患の発病は退職後がほとんどであるため、退職船員からの職務上傷病申請等の相談に積極的に対応する。合わせて、船にはいろいろなものを積んでいますので、有害な積載貨物による疾患に関する相談にも積極的に対応する。」 こういったことを内外に明らかにして、相談があれば積極的に対応していきたいと思っています。
 実をいうと私自身も機関部の仕事―エンジニアで、20年前まではエンジンルームで仕事をしていました。1984年からいまの組合のプロの仕事をしていますが、その間にも調査で船に乗り組んだりもしています。現役の頃のことをいいますと、主機関―メインエンジンが、私の乗っていた船でいうと、デッドウエイト―積載貨物の重量で20万トンくらいの船で、馬力が4万馬力くらいの蒸気タービン機関でした。当時、10万キロワットくらいの発電所の蒸気タービンとほぼ同じくらいの出力だったと思います。
 その蒸気タービンが20万トンくらいの荷物を積んだ船の推進力を得るためのもので、蒸気タービンですから、当然高圧蒸気を発生させるボイラーがあって、私がオペレーションしていたボイラーは圧力が60キロくらいで、500度を超える高温・高圧蒸気が蒸気管を通ってエンジンルームの中を走り回っているわけです。作業現場の中ですからそこで働いている人に直接接触しないよう、また、熱エネルギーを逃がさない、熱エネルギーを有効に使う―運動エネルギーに変換させる、ということで、防熱・断熱材が至るところに使用されていました。
 総会の報告にもありましたが、造船所における被害ということで、船を作る側でそうであれば、私たちはユーザー側ですから、それらが使用された機器類や管系の保守・補修作業を行います。当然、船のなかで管系や機器などを補修する必要が発生した時には、ラギング―断熱材を、いったん取り外します。例えば、パイプに亀裂が入ったり、穴があいたというような場合には、その部分の補修溶接などを施して、取り外した断熱材などを再びかぶせて、あるいは船の中にあるアスベスト・クロスをまいて―私はそのときは何も考えずに使っていましたが―そういう作業を日常的にやっていました。3番目の例の方は、おそらくそういう船での仕事なども影響しているのじゃないかと思います。
 船の中というのは、昭和25、6年頃の船というのは、たぶん1船当たりで50人以上の乗組員が乗船していたんじゃないかと思うんですが、その後船舶そのものの技術革新が進んだことによって乗組員の人数が減って、最少11人の乗組員で運航していたときもあります。技術革新で機器の自動化も進み、もしも何かトラブルが起きて乗組員の手では修理が不可能な時にはもうブラックボックスというか、さわれない部分もあるんですよ。どこか近くの港に寄って、そこで支援を受けるしかない。
 日本の国内を走っているような船は、港が近くにあるので緊急の場合のリスクは低いのだけれど、大洋航海する船というのは、例えば太平洋をわたるだけで1週間かかりますので、その間にもし何か壊れたら自分たちで直さなければならない。自分たちで直すとなると、防熱材だとか断熱シートがあるところをすべて自分たちの手で取り外して、修理した上で元の状態に復旧して、とりあえず動くようにしなればなりません。そういった作業に常にさらされているということが、船員、とくに機関部の作業現場です。私自身も相当アスベストにふれているんじゃないかと思いますが、今のところ特段何もないし、潜伏期間40年ということなのでまだ大丈夫かなと思っています。
 ちょっと冗談ぽい話になりましたが、いずれにしても海員組合の組合員であった人、それから現役の組合員がこの対象となるわけで、アスベストの使用が原則禁止ということで今はほとんど使われていないと思いますけれど、実際、どんな船でも防熱・断熱という材料は船に必要なので、アスベストは入っていないといっていますけれど、そこのところは実は確かではありません。そういったことも含めて、乗組員の安全衛生であるとか、傷病にかからないように、引き続き現場の方には、集会をやってすぐにというわけにはいきませんので、いろいろ機関誌・紙とかを使って情報を伝えていきたいと思っております。
 雑駁になりましたが、海員組合としての取り組み報告と船の機関部の作業現場がどんなものなのか、若干でもご理解いただけたらということで、以上で終わらせていただきます。


旧国鉄・JRのアスベスト被害が始まった


国鉄労働組合・久保孝幸業務部長

 国鉄労働組合・業務部長の久保です。実は、今日の総会参加と報告にあたりまして、事務局長の古谷さんより、丁重な要請書と連絡をいただきました。案内の内容は、今日の総会で「旧国鉄・JRのアスベスト問題の現状について10分程度の時間で報告してほしい」ということでした。私は即座にお断りいたしました。それは言うまでもなく、とても組織として報告できる取り組みをしているわけではなかったからです。それと同時に、私自身、石綿についてはまったく無知で、かつ「JRへの不採用事件や職場における国労差別の人権侵害問題をかかえているなかで、とてもそこまで余裕がない」という思いが意識の片隅にあったからです。
 しかし、古谷さんの断りきれないような丁重な説明があり、こうして報告させられることになりました。しかし今は、なんら消極的な気持はありません。それどころか、調査していくうちに、「人権侵害に対する攻撃はつらいけれども、その根本において命までとられることはない。しかし、石綿による健康破壊は、特別な治療薬もなく後がないのだ」とわかったとき、知は力になるが無知は力にならないということを痛切に感じました。そういう意味では、この間国労の労災認定にご尽力いただいた、神奈川労災職業病センターの西田さん、労働相談ネットワークの木村さん、東京労働安全衛生センターの飯田さんをはじめ、関係者の皆様方に、この場をお借りして心からお礼と感謝を申し上げます。本当にありがとうございます。
 今日、お手元に報告資料を用意させていただきましたが、この資料は、この間対応が不十分だったことへの罪ほろぼしの意味も含まれています。この資料は実は、明日14、15日、四国で開催する全国の国労のエリア書記長・業長合同会議で私が提起するものを用意したもので、国労として方針化するものです。
 この間の緊急調査で明らかになったことは、第一に、2004年度、わかっただけでも4名の方が亡くなられたということです。私自身もこの事実にびっくりしました。4名のうちの一人は、現・国労本部委員長と同じ職場で働いていた方であります。鷹取工場の方は、前本部役員の同級生であります。あまりにも身近なところから発生しただけに、これは大変なことだと感じとった次第です。石綿対策全国連絡会議の総会方針にありますように、今後本格的な「流行の時期を迎える」この恐ろしい事態がJRの職場で始まったのだということだと思っています。
 第二に、原因が共通しているということです。5名の方全員が検修部門に携わっていました。配管作業だとか、暖房器具の断熱材が使用されている機器の取り外し作業とか、因果関係がまったく同じだったということです。
 第三に、すでに指摘されているとおり、40年間も自覚症状もなく、発病してから余命1余ということで、この残酷な事実を、国労として社会的に告発していかなければならない責務にたたされたということです。
 第四に、それでは、国労がこの問題について「どこまで携わってきたのか」という問題であります。率直に申し上げて、この問題で資料らしい資料はみつかりませんでした。それでは、国労は「どこでも取り組まなかったのか」と言えば、決してそうではありません。分割・民営化時に、余剰人員対策として、貨車解体作業が行われたわけですが、そのときに、お手元の資料にありますとおり取り組んでおります。
 貨車解体連絡会議が緊急に資料を作成し「汐留班」として、会社への申し入れや労働基準監督署への申し入れなどを行っております。しかし、当時全国的に国労差別が横行し、当時としてはやむを得なかったと思いますが、このアスベストの問題が貨車解体作業に携わった人たちの問題だけにとどまり、組織としての記録を残せなかったということだと思っています。従いまして、こうした調査結果と到達点を踏まえ、当面、次のような取り組みを強めていきたいと思います。
 一つ目は、明日の合同会議のなかで意思統一をして本年度の全国大会方針の「健康と命守る闘い」のなかにアスベスト問題をきちっと入れていきたいと考えています。そして全体的な組合員の認識の一致を図っていきたいと思っています。
 二つ目が、すでに取り組みとして始まっているわけですが、退職された方々に手紙や資料等を送付し、連携を深めてまいりたいと思います。
 三つ目は、今後の解体作業対策として、ばらばらの記録はあるわけですが、今現在どういうかたちで残っているかを調査し、会社との間で解明していきたいと思っています。
 四つ目が、これからの取り組みという点では、石綿対策全国連絡会議や安全センターとの連携を深めながら、各機関に必要な情報を提供できるようにしてまいりたいと考えています。
 以上、経過と取り組み状況を報告し、今後の決意にかえたいと思います。

中越地震被災地におけるアスベスト対策

名取雄司


 中皮腫・じん肺・アスベストセンターの名取と申します。最近の取り組みのひとつとして、中越地震があります。昨年の10月23日にマグニチュード6.8の地震が中越地方を襲い、3月現在で、全壊―50%以上の損壊の建物が2,827棟、大規模破壊―50から40%の被害が1,969棟、半壊が10,787棟とされています。
 昨年11月3日に現地に行ってきた状態がこちらです。(編注:紹介された写真は紙面ではごく一部しか紹介できませんが、アスベストセンターのホームページで関連写真等が紹介されているので参照してください: http://www. asbestos-center.jp/asbestos/) 一番ひどいところですが、ちょっと盛土があるような道路の部分は陥没している。そういうところの電信柱は倒れています。ただ見ていただく、比較的新しい家はあまり大きな被害は受けていないということがおわかりかと思います。
 小千谷市の一番目抜き通りでフレキシブルボードが割れています。石綿が入っているものですが、割れて落ちているところもあります(写真上)。
 アーケードとビルの間に吹き付け石綿があり、それが下に落ちているという状態です。(写真下) 下を見ると白いものが落ちていて、これを分析してみるとクリソタイルというアスベストが含まれていました。小千谷市の5階建てのビルでも外壁の部分が落ちて、鉄骨の部分のアスベストがむき出しになって、路上に落ちている。こちらも分析すると、クリソタイルが検出されています。
 資金力のある大きな企業はもうすでに吹き付けアスベストの除去工事のための準備として、このような飛散防止剤を持ち込んで、正規のかたちでアスベストの除去を早速始めています(次頁写真)。これは地元の大きな店舗で、営業を再開したい意向でこのようにされているそうですが、他の小規模な企業もしくは民家、店舗付きの住宅、そういうところでは、なかなかアスベストの除去費用を含めたものが、被災直後であってとても出せないと苦しんでいるところでした。
 実際に測定をしてみると、小千谷市役所の前ですが、1リットル当たり0.31本くらい。小千谷の駅前、こちらは先ほどのクリソタイルが落ちていたところですが、0.57本/L。時間は1時間くらいしか測っていませんので、これだけで云々は申し上げられませんが、通常最近では日本の大気は0.1本以下、多くても0.2本くらい。やはり上昇している疑いがあるのではないかと思わせるような結果が得られています。
 新潟県の方でも、私たちの調査の後に、あわてていろいろと測られたようですが、見附市だとか長岡市のあたりだと0.03から0.1本くらいとそれほど上がってはいないのですが、小千谷市とか魚沼の小出だと0.18本から0.21本くらい。絶対にこれで上がっているとは言えないんですけれども、通常やはり0.1くらいの場合が多いので、やはりやや上昇を示しているのではないかというふうに思わせるような結果が、新潟県の方でも出されています。
 分別をしないようなかたちで解体が行われている現場もありますけれど、きちんと解体されている現場も出ています。阪神と比べると、解体・改築がゆっくりと進んでいるということもあり、まったく対策がないという状態ではありません。
 2回の調査に行った段階での結論として、まあ大雪が降っている地域ということもあって、倒壊とか全壊が思ったほどは多くないという印象があるということと、大都市の中心部分が震源の近郊になかったことが幸いして、吹き付けの多い建築物が少ないようです。大気中の石綿濃度はわずかに上昇している可能性があります。今後の吹きつけ石綿除去工事としては、大規模の除去が10件くらいあって、2階建ての吹き付けの小規模の除去工事が50件くらいあるのではないかというような話を、行っていただいた専門家の方から言われています。罹災証明を待っておりまして、雪国ということもあって、4月、5月になってから、除去工事が本格化するのではないかと思った次第です。
 実際そのときに阪神・淡路の大震災時と同様の対策をするという話があったのですが、阪神・淡路の大震災の場合は、建築物の解体は、災害廃棄物として自治体が処理をしました。阪神・淡路では、自治体が処理したものを申請しますと、環境省の方で50%補助を出しましょうと。プラス、残りの50%のうち47.5%は、総務省―旧自治省の方がいろいろな起債というかたちで面倒をみましょうと。実際には自治体は25%のお金を出すだけですんだのです。建物の所有者が、この建物はもう建物ではなくて廃棄物だと自治体に申請すると、自治体の方はそれを受け取って、建物の所有者であるとか解体業者に、じゃあうちが廃棄物として処理します、という指導をしたわけです。さらに自治体、とくに神戸市等は、独自に建物の調査も実施して内容も把握しましたし、環境省、自治体含めて―これは環境監視研究所とか住民のネットワークが動いたこともありまして、濃度測定もされました。
 残念ながら、よくもあしくも被災者生活再建支援法というものができてしまいましたので、罹災証明によって国からお金が出る。全壊だったら300万円、それから県単独で100万円、さらに皆さんから集められた義援金をもとにして200万円出るのですね。全壊でしたら合わせて600万円出る。半壊だとだいぶ少なくなる。これがどうなるのかを待ったうえで、はじめて工事に入る。
 しかも、建物の所有者が解体、改築、改修については実施してくださいと。自治体はあくまでその廃棄物の収集・運搬はしますが、解体の費用は、支援法でお金を出すんだから所有者がやってくださいということで、厳格にこの間やられています。そのために建物の石綿の除去を、廃棄物として処理することに実際はなかなかなりにくいですね。被災者生活再建支援法のお金が出るということによって、どうもこうなっているということがわかってきました。これは、住居に限定しておりまして、基本的に店舗であるとか工場とか対象にならない。店舗付き住宅だと、どうもよいこともあると。こういうこともわかりました。
 今のところ、新潟県の自治体の対応は、石綿を災害廃棄物の処理としてあまはりしていません。その理由としては、総務省の補助がないので、環境省の50%補助だけでは自治体への負担が大きいということと、生活再建支援法の施行後なので、建物の所有者は解体費の補助がそれなりに利用できるじゃないか、というようなこともどうもあるような感じです。それから大気測定は県の保健所でやっているんですが、独自に建物を全部調べることは、これはもう大変でできませんと。申し入れごとにはやっていきますけれど、ちょっと消極的な対応です。石綿の定点濃度の測定は先ほどお示ししたようにやっています。
 生活再建支援法の改正の議論が現在されていますので、新潟県選出のご理解のある議員さん含めて、そのような部分を追加できないかという働きかけを、この間してきたわけです。建築物の被害の認定基準の部分に、アスベストのことはまったく入ってない。建物が壊れたら大変だからというようなことしか入っていませんので、その分を解体の費用としてぜひ盛り込んでほしい。具体的には、内閣府の通達のなかに入れていくということになろうかと思うのですが、そのような働きかけをぜひしていく必要があります。
 現在うかがったところでは、3月末から少しずつ工事が始まってきておりまして、4月に入って、とくに中旬以降本格化しているという話です。とくに5月以降になるとピークになるだろうと、新潟の方の関係者から聞いております。ので、4月25-26日に西田さんと私が、新潟県の方と連絡を取り合って現地での勉強会とか監督署への要請とか、大気汚染防止法に基づく除去工事がどのくらいなされていて、実際には出していないところがどのくらいあるかとかついても調べてきたいと思っています。聞いた話だと、明確な違法工事だというようなことは今のところ起きていないそうです。しかし十分なお金がないなかで、違法工事が行われる可能性はある程度高いと思いますので、今後の現地での監視が必要です。以上です。


子供たちにアスベスト問題を伝える取り組み

永倉冬史

 私も中越地震の被災地にまいりまして、阪神・淡路大震災のときとは違ってそれほどないのではないかという予測に反して、意外と細かなところに飛散性の高いアスベストが出てきたということで、びっくりしました。
 そういうこともあって現地の子供たちの被災をどうしたら防げるかということをいろいろ考えました。10年前に阪神大震災があって、そのときにアスベスト根絶ネットワークとして、タレントのマリ・クリスティーヌさんと一緒に、被災地の子供たちに防じんマスクを配布して、アスベストの啓蒙活動をしようということで取り組んだことがあります。私自身は阪神の方に行けなかったのですが、そういう報告を聞いてぜひともそういうことは続けていきたいと思っていたところなのですが。
 今回もマリさんの方からやりましょうという声をかけていただいて、まあ世界会議の前後であわただしかったので、ちょっと時期的に調整したりするのがむずかしかった面もあるのですが、小千谷市の小千谷小学校に電話をして校長先生に、ぜひ子供たちにアスベストについての話をしたいと。身近にある危険なものから自分たちが身を守るための情報を子供たちに伝えたいということで話しましたところ、快諾していただけました。
 それで私とマリさんと、きちっとした防じんマスクではないのですが一定程度の粉じんは防げる簡易的なマスクを持ち込みまして、小千谷小学校、これは生徒数が160名くらいだったと思いますが、これは完全な防じんマスクではありませんよという説明も子供たちにしながら、3千個ほどマスクを配布しました。
 そこで、いま私が手に持っている、世界会議のときに「解説パネル」ということで、アスベストについてわかりやすい内容のものを作ろうということでつくったものを利用しました。そして紙芝居のように、子供たちに、アスベストとはこういうものだと。こういうところにあって、身体の中に入るとこういう病気を引き起こしますという話をさせてもらいました。
 ひとつ重要なことは、解体工事の現場とか、これから増えるであろう工事現場に近づかないということを言いました。もうひとつは、そういう危険なものが身近にあるということを頭の片隅においといてほしいと。これから大きくなって、いろいろな職業についたときに、そういう知識があれば、必要なときに防じんマスクをするということに結びつくだろうと考えました。
 これが子供たちの写真(上)ですが、非常に素直な子供たちで、6年生でしたが、私が東京で知っている小学6年生よりはよっぽど素直。このことがNHKのニュースで報道されまして、その日のうちにニュースで流れました。
 で今度は、それをみた埼玉県さいたま市―以前の大宮市の桜木小学校というところの保護者や市議会議員から問い合わせがありまして、小千谷市でやったようなことをさいたまでもぜひやってもらえないかというお話でした。
 私とマリさんでまた時間を調節させていただいて、さいたま桜木小学校に行きました。そこに集まったのは、小学3先生から6年生まで、それから隣にあります中学校2年生、440名と言っていましたが、小中一貫教育という枠組みのなかで環境教育を取り組みたいと。校長先生の方からも、アスベストの話をしてくださいということでした。
 最初に、マリさんから30分ほど話してもらい、そのあと私が20分ほどアスベストについての話をしました。そのときに思ったのですが、やはり私たち、子供向けの本というか、非常に分かりやすい資料をいままで作ってこなかったということに思い当たりました。非常にむずかしいというか、専門的なものはいろいろ作ってきた気がするのですが、いざ子供たちに説明しようとしますと、配付する資料も含めてわかりやすいものがありません。
 そこでひとつ工夫しましたのは、世界会議のワークショップのひとつの中であったのですが、参加者にストローを1本配って、鼻をつまんでそのストローだけで息をしてもらう。アスベストで肺を痛めたときに、こんなに苦しい呼吸のなかで生活せざるを得ないんだと。そういう体験をしてもらうプレゼンテーションがありまして、それを思い出して同じことをやらせてもらいました。
 440名ほど子供がいたわけですが、500本ほどストローを用意して、みんなに配って。喘息の子はやめておいてねと言いましたが。そしてみんなストローをくわえてもらい、鼻をつまんで2、3度呼吸してもらいました。こんな呼吸の生活をずっとしなければならないんですよという話をしたところ、そもそも話よりもそういうイベントそのものが受けたんだと思いますが、非常に子供たちが集中して話を聞いてくれるようになりました。
 話がひととおり終わってから質問を受けたわけですが、3年生、4年生、5年生あたりがどんどん手を上げて、答えにくいような質問もたくさんしてくれました。非常に大きな関心を持ってもらえたと思っています。
 そういう意味では、これから被災者になる可能性のある子供たちに対して、いろいろな資料の準備も含めた、私たちのやってきたことが次の世代に引き継がれるような準備を、これからいろいろしていく必要があるのではないかと思います。
 これが桜木小学校の小学生たち。(前頁写真下) ちょっとわかりにくいですが、後ろに椅子で並んでいるのが中学2年生です。マリさんが中学生たちに対して、あなたたち、タバコ吸っている人いますかと聞いたら、誰も手を上げませんでしたが、タバコとアスベストの相乗作用の話も皆さんにお伝えしました。

 これは話が一変しますが、最近報道もされています、渋谷公会堂のアスベストの状態ということです。これは客席の天井裏に、このようにアスベストが積もったまま放置されています。このように放置されていることによって、渋谷公会堂というのは、「お母さんといっしょ」という番組とか、「8時だよ全員集合」とかいろいろな番組の収録などで子供たちが利用してきました。ロックコンサートのメッカのひとつということもあって、建物自体が振動を受けるような演奏会も開かれていると聞いています。
 天井裏のこのようなアスベストが、振動によって客席や舞台に舞い落ちる可能性があるのではないかということで、いま渋谷区と交渉を重ねているところですが、区の方は明確な根拠なしに安全であるという主張を続けていて、いまだに使用を続けています。少なくとも安全性を科学的に確認したうえで、使用するか否かは決めるべきだと私たちは言っています。
 これも同じ天井裏の写真です。天井裏に吹き付けられたアスベストが下に落ちて降り積もっているという状態です。こういう天井裏の状態をわれわれにも確認させろということで、いまようやく区の方はその内容について認め始めていますが、話し合いの席にPTA連合会の会長さんが同席させろと言ったところ、そういう役職の人は同席させられないとか、わけのわからないことを言っています。むしろ私たちよりも、渋谷区の区民である会長さんに説明する方が、彼らの重要な仕事だろうと、私たちは主張しています。
 それでPTA連合会の会長さんとも話をしていますが、子供たちやPTAの保護者の人たちに、アスベストについてわかりやすい話がさせてもらえればということで、いま要請しているところです。
 これから被災者になり得る子供たちに、きちんとしたアスベストの知識を伝えていくことが私たちの重要な仕事のひとつではないかと考えています。




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