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講演録 |
2001年12月3日
石綿対策前項連絡会議第15回総会 記念講演
アスベストの健康被害と代替品の健康リスク
森永謙二
大阪府立成人病センター参事
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※これは、2001年12月3日、石綿対策全国連絡会議第15回総会後に行われた記念講演を編集部の責任でまとめたものです。多くのスライドは割愛させていただかざるを得ませんでしたが、省略箇所の指摘は省きました。 |
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ご紹介いただきました森永です。スライドを使いながらお話をさせていただきたいと思います。
図1 石綿代替繊維の分類
出典:現代労働衛生ハンドブック増補版、P157図6.2.9.b.6)-1
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代替繊維の種類
私どもは、1987年と1989年に各々『石綿・ゼオライトのすべて』a)、『アスベスト代替品のすべて』b)という、文献のレビュー本を出しました。自慢するわけではないのですが、ここに書いてあることが、基本的に間違っているわけではなくて、その後の十数年間に新たな知見が加わってきている。しかし基本的に、ここに書いてある大筋は間違っていないと思っております。
今日は石綿のお話だけでなくて代替品の話もせよということですので、まずは代替品の話から説明させていただきたいと思います。お手元にある図1と表1にしたものは、労働科学研究所の出版部から出版された本c)に書きましたものを、そのまま転載させていただいております。
代替品と言っても、繊維状のものもあればそうでないものもあるわけですが、今日は繊維状の代替品についての話に絞らせていただきます。繊維の話をするときには、必ず「吸入性の繊維」ということが問題になります。つまり、人の肺の中に入り込む繊維の大きさと、そうでない大きさの繊維とがあるわけです。それに関係するのは、繊維の直径と長さ、長さと直径の比―アスペクト比と言うのですが、その
3つが重要なポイントになります。
繊維状物質はたくさんあります。一番簡単な分け方は、天然繊維と人工繊維で、その分け方でお話をさせていただきます。まずは、人工繊維のなかで、一番よく使われているのが人造鉱物繊維です。
十年ほど前のデータですが、すでに石綿以外に、ガラス長繊維であるとかロックウール、グラスウールというものは、かなり使われております(1992年の生産量で各々27.4万トン、43.5万トン、20.9万トン)。ヨーロッパではビニロン繊維が建材にかなり使われているのですが、日本ではまだこの程度です(同じく4.1万トン)。後はそれほどたくさん使われているのではないのですが、セラミック繊維、炭素繊維、いろいろな種類のウィスカ、アラミド繊維などがあり、その他には石綿以外の天然鉱物繊維が使われております。十年前のデータでは、だいたいこのようなものが使われておりますd)。
表1−1 人造鉱物繊維の化学組成、繊維の太さ、用途、動物実験、疫学調査
出典:現代労働衛生ハンドブック増補版、P159 表6.2.9.b.6)-2
繊維状物質の発がん性問題
繊維に発がん性があるという話は、1972年、ドイツのポットという実験病理学者とアメリカの国立がん研究所、ナショナルキャンサーインスティチュートというところのスタントンという方の、同時期の動物実験の成績で問題になったわけです。しかし、実は1960年に、オッペンハイマーという人が、肺の中に溶けにくいものは発がんするのだと言っており、いまはむしろ、PSP(ポアリー・ソリュブル・パーティクル)、これをラットに注入すると、どんな物質でも極端にいえばがんを起こすということが言われています。
表1−2 合成有機繊維及びウィスカー繊維の太さ、吸入性及び主な用途
出典:現代労働衛生ハンドブック増補版、P166表6.2.9.b.6)-3
表1−3 天然鉱物繊維の化学組成、産出国、用途、動物実験及び疫学調査成績
出典:現代労働衛生ハンドブック増補版、p158表6.2.9.b.6)-1
これはスタントンという人のシェーマですが、印を付けてあるこういう繊維では、動物注入実験では発がん性は有意に高く出てくる(図2)。短い繊維や太い繊維では、動物注入実験ではあまり発がん性は有意に出てこないということを書いたシェーマの図であります。これは有名なポットさんの、直径をこちらに取って、長さをこちらに取ると、細くて長い繊維ほど、注入実験で発がん性が高いというデータです(図3)。
図2 繊維の長さと直径別にみた発がんの相関
出典:石綿・ゼオライトのすべて、p432図6.1.1
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図3 繊維のサイズ(長さ・直径及びその比)別にみた発がん力に関するPottの仮説
出典:石綿・ゼオライトのすべて、p433 図6.1.2
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表2 人造鉱物繊維MMVFに関する大規模疫学調査
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そのときに言われた話は、3D―ディメンション(dimension)とデュラビリティ(durability)。つまり、繊維の長さと太さ、アスペクト比と肺の中にどれだけ留まっているのか―これはひとつは溶けないという問題と大いに関係がありますが、それと曝露量(dose)。この3Dが、動物実験で発がんに有意に効いている要素だということを言ったわけです。
基本的には、この考え方が間違っているわけではありません。1972年のポットさんとスタントンさんの動物胸腔内の注入実験の成績を受けて、国際的には、そうすると人造鉱物繊維も人に対して発がん性があるのではないのかということで、1974年以降、会議が国際的に開かれるようになったわけです。人造鉱繊維が石綿と同じように動物実験で発がんするのですから、人にも発がんするのではないかという疑いがかけられたのです。
2つの大規模疫学調査
まずはロックウール、グラスウール、ガラス長繊維の3つが、かなり大々的に使われているわけですから、この3つに対して調査をするということになったわけです。これはグラスフィラメントですが、実際に顕微鏡でみますと、直径が太くて非常に長い。これそのものは吸入性繊維ではないということです。これはロックウールですが、これも同じように非常に長くて、これだけで40ミクロンですから実際の直径もかなり太い。スラグウールとロックウールに分けてありますが、原材料がスラグであるかロックであるかということなんですが、日本のロックウールは、すべてスラグウールなんですね、実は。しかし、ロックウール工業界はロックウールと言っている。実際にはすべてスラグウールです。これはグラスファイバーです。
人造鉱物繊維については、ふたつの大きな疫学調査が、取り組みがはじめられていまして、まずはじめたのが1974年にアメリカで、ナイマ(NAIMA)というという断熱材を作っている業界が、ピッツバーグのエンターラインという疫学者がおりまして―この方はアスベストの発がん性を証明した非常に立派な方ですが―エンターラインさんのところに委託をして、1974年から7つのガラス工場、6つのミネラルウールの工場を対象に疫学調査をしたわけです(表2)。これの最後の結果が、このあいだ(2001年9月)の『ジャーナル・オブ・オキュペーショナル・エンバイロメンタル・メディスン』に報告が載っています。この結果をスライドにする余裕がありませんでした。
もうひとつは、1975年にヨーロッパの、これはユーリマ(EURIMA)と呼んでいるのですが、ユーリマという組織はヨーロッパの断熱工業組合が集まっているもので、もうひとひとつレーヨンなんとか組合というものも最初は入っていて、そこと一緒になってジョイント・ユーロピアン・メディカル・リサーチ・ボードという組織を作って、そこで疫学調査をする必要があるという見解を出しました。ではそれはどこにやってもらうか、IARC(国際がん研究機関)にやってもらおうということで契約を結んで調査が始まったわけです。もちろんお金も出ていると思います。これは1975年から、当初はデンマーク、フィンランド、ノルウエー、スエーデン、ドイツ、イギリス、イタリアの、7つのロックウール工場、4つのグラスウール、2つのグラスフィラメントの工場を対象に追跡調査がはじまり、ケース・コントロール・スタディというのが1999年に終わって報告が出たところです1)。両方とも昨年に実質的に調査は終わったということです。
人造鉱物繊維の発がん性評価
これはヨーロッパの方のデータです。ロック・スラグウールについてはデンマークとドイツが非常に大きいわけです。当初からできるだけ石綿の曝露の少ない工場を選んだということなのですが、こういう工場もだいたいはもともとアスベストを扱っているわけですから、どうしてもアスベスト曝露者が紛れ込んでくる。とくにドイツはそういうことだとわかりました。
表3 IARCの人造鉱物繊維(MMVF)に関する発がん性の評価
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追跡調査の最後の結果ですが、初期の段階で肺がんのリスクが少し高い、1.5倍ほど高いという結果になり、これについていろいろ議論がありました。初期の頃の工程は、ロック・スラグウールの曝露が非常に高いから、それ自身で肺がんが高かったのではないかとか、いや、やはりアスベストを扱っていたし、スラグですから砒素も混ざっていたのではないかとか、いろいろ議論があり、最終的にはケース・コントロール・スタディ―肺がんで亡くなった人とこの集団の中で肺がんで亡くならなかった人と、家族に聞き取り調査をして調べた結果が1999年に出て、そこではロック・スラグウールそのもので肺がんが起こるという因果関係は証明できなかったという結論になっています。
それから中皮腫なのですが、この報告のなかでは5人の中皮腫の方が出ています。そのうちの2例はドイツのケースで、この人たちは石綿の曝露があったということで、石綿関連中皮腫ということで労災補償を受けています。この人たちは間違いなく石綿による中皮腫であるということがわかりました。あとの2例は、従事期間が1年未満の方で、どうも他の曝露の可能性があったのではないかということです。5例目は忘れましたが、いずれも報告のなかで中皮腫がでた方で、明らかにロックやスラグウールや起こったという方はいなかったということです。
それで今(2001)年の10月にIARCは―1987年に一度評価を行っているe)わけですが、10月にもう一度ワーキング・グループがリヨンであり―再検討をしたということであります。その結果は、ロック・スラグウールは、グループ2B(ヒトに対して発がん性があるかもしれない)という評価であったものが最終的にグループ3(ヒトに対する発がん性について分類できない)という結果になりました(表3)。セラミックファイバーは、ヒトに対する疫学調査はまったくないということと、デュラビリティ―肺の中にたまるのはロック・スラグよりは高いという動物実験がありますから、そのまま2Bの扱いになっています。もうひとつマイクログラスファイバーですけれども、これは非常に細い繊維ですから、疫学調査はありませんけれども、まだグループ2Bのままになっているということであります。
ガラス、ロックウールは発がん性なさそう
見えにくくて申し訳ありませんけれが、マンメイド(人造)のウールは、石綿に比べると非常に溶けやすく、直径も石綿に比べて非常に太い(表4)。それから繊維の割れ方がアスベストと違うということですf)。アスベストは、こういう束のようになっているものがどんどんと、作業工程とか、扱っているあいだに縦維に分かれていく。ですから、どんどんと細い繊維になっていく。肺の中にどんどん入り込みやすくなる。しかし、マンメイド・ミネラル・ファイバー(人造鉱物繊維)は、縦にへき開は普通しないということであります。むしろ、長い繊維がポキッと折れる、直径がどんどん細くなっていくというアスベストの割れ方とは違うということですね。ただし、天然の鉱物繊維は、どうもそうではないということのようです。ですから、少なくともガラス繊維、グラスウール、ロックウールは発がん性はないといっていいと思います。
表4 人造鉱物繊維MMMFと石綿の健康影響に関わる特性の比較
出典:MRC Institute for Environment and Health
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日本ではどうかと言いますと、日本では平成2年に、胸膜プラークの所見があるかどうかを調べております2)。平成2年度のときには、ガラス繊維の製造従事者が5,470人くらい、ロックウールは520人ですが、就業開始がかなり前からの人というのは非常に少ない。疫学調査をすべきであるという話をしたのですけれども、こういう状況であるということと、やはり以前にアスベストを扱ったところがあるというので、実現はしていません。一応レントゲンで胸膜プラークがあるかどうかを調査したのですが、ガラス繊維の方は、655人のなかに誰もいない。ロックウールの方は7人いたということであります。7人いた人をくわしく後で聞いてみると、やはりみんなアスベストを扱っていたという人たちでした。私は、ロックウールでは、アスベストのような胸膜のプラークを起こさないと考えております。
セラミック繊維は、ロック・スラグウール、ガラス繊維と比べると、若干問題があると思います。スラグ・ロックウール、ガラス繊維といったものは、肺の中で非常に溶けやすい。しかし、セラミックは、ロック・スラグウールやグラス繊維に比べると、肺中の滞留性は若干あるという動物実験の結果であります。セラミック繊維にもいろいろの種類があります。これは曝露状態、こちらが動物実験で肺の腫瘍がでてきた吸入実験です。この一種類だけがすこし高い。クロシドライトやクリソタイルは非常に腫瘍の発生が高いのですけれども、セラミックはたまたまこの数字が高いという結果になっています。一体どのくらいの職場で繊維があるのかということも平成2年のときの調査で調べていますけれども、基本的にセラミック繊維の長さというのはかなり長くて、繊維の幅も結構あるということです。
合成有機繊維の生体影響
炭素繊維は、生産量はグラスファイバーよりは非常に少ない。非常に繊維も太い。これがカーボン繊維です。昔は石綿の手袋とか断熱材を使っていたところ、それからガラス工場で働いている人は石綿手袋を使っていたと思いますね。そうしたものの代替品として、こういうカーボン繊維に代わっています。カーボン繊維は、ゴルフのヘッドですか―私はゴルフをしないので知らないのですけれども―それに使ったりしてます。それから、エアバスの尾翼の一部がカーボン繊維です。実はカーボン繊維は、日本が世界の生産量のかなりを占めているわけですね。
表5 EUの毒性・環境毒性及び環境に関する科学委員会
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アラミド繊維は、デュポンが開発した繊維で、日本でも一部独自にでやっていますけれども、アメリカではアスベストの代替品にアラミドがかなり使われているということです。こういう繊維は、ポリビニルアルコールもそうですが、基本的に繊維は非常に太くて、繊維そのものは吸入性ではない。ただ製造加工工程中に原繊維の表面に繊維片―ちょっとちぎれるということがあり、それが吸入性があるので、その心配があるということなわけであります。これがアラミド繊維ですね。顕微鏡で見ますと、こういうふうに一部フィブリル化したものが危ないのではないかなと。しかしデュポンは、大々的な動物実験をして、ネガティブであることを証明しているわけですg)。
これらの繊維では、レスパイラブル(吸入可能)なファイバーそのものは、あまり出てこないので、そういうフィブリル化というか、繊維片、そういうものが少しある程度ですので、吸入性繊維そのものは職場では極めて少ないということです(表5)。
これはビニロン繊維。ポリビニルアルコール繊維ですが、非常に太くて長いのですが、先ほど言いましたように、こういう形をしたフィブリル化したものが出てくるので、それが発がん性を起こすのではないかという心配があります。ポリビニルアルコール繊維は、ドイツでアイディアが出て日本で大量生産された繊維で、ヨーロッパではアスベストの代わりに建材にかなり使われています。日本ではまだそう使われていないのですが、疫学調査はないということです。
私の方で疫学調査をしたのですけれども、ビニロン繊維の曝露者としては450人くらい、曝露を受けなかった人は2,400人くらい。簡単に説明しますけれども、全がんも肺がんも曝露者と非曝露者とではそう変わりはありません。長い間働いた人に肺がんのリスクが高いということは、結局はこの程度でして、そうとくに差は高くなかった3)。
しかし疫学調査でネガティブという(ことを立証する)のは非常に難しいんですね。ヒトを対象としますからこれ以上しようはないのですね、疫学調査というのは。ポジティブのときは簡単ですけれども、ネガティブというのは非常に難しい。そういうことは理解しておいてください。
ウィスカには注意が必要?
問題は、ウィスカという、最近製造がはじまった人造鉱物繊維です。
現実的にどのくらい生産量があるかというと、十年前では圧倒的に多いのはチタン酸カリウムウィスカというものです。炭化ケイ素ウィスカ―私はウィスカの中ではこれがちょっと危ないのではないかなと思いますが、他はそうではない。これは非常に少ない生産量です。これはチタン酸カリウムの非常に細い繊維です。酸化亜鉛ウィスカというものはテトラポッド状をしていて、ちょっと繊維状ではない。他のものはだいたいこれくらいの長さで、直径がガラス繊維とかロックウールと比べると大分細いということであります。
ウィスカの定義なんですけれど、いろいろな定義がありますが、日本のウィスカ懇話会で言っているのは、人造鉱物繊維で、直径は非常に細くて、アスペクト比―つまり長さと直径の比が10以上の単結晶をウィスカだと、こういうふうに定義してます。炭化ケイ素ウィスカだけは、じん肺をおこしたという報告があります。他はありません。
濃度測定の結果も、ウィスカのこういう工程では非常に繊維数が高い。これは他の代替品、石綿、人造鉱物繊維とくらべるとウィスカは高くなっています。製造従業員の数は、ウィスカ全体で百人ほどで(1992年で120人)、長年働いている人はほとんどいない状況なわけです。ですから、今から一応調査してもなかなか答えは実際は出てこない。欧米でセラミックの追跡調査をはじめているという話を聞いていますけれども、日本でやっても、従事歴20年以上の方は本当に少ないということなので、なかなか調査で答えが出るという状況ではないということであります。
ここまでお話したことは、中災防(中央労働災害防止協会)の『石綿代替繊維とその生体影響』という本d)にだいたい書いてあります。
JFM標準資料を用いた研究等
繊維状物質研究協議会(JFM、ロックウール工業会、ガラス繊維協会、セラミック工業会、日本化繊協会、ウィスカ懇話会、学識経験者により構成)というところで、日本で作られている(人造鉱物繊維の)製品のサンプルをつくりました。種類としては、グラスウール、ロックウール、マイクログラスウール、それからセラミックでも非結晶質のものと結晶質のものと3種類、ウィスカも3種類、炭化ケイ素は1種類、それからウオラスナイトはネガティブコントロール。そこにもうひとつUICC(国際制がん連盟)のクリソタイルがポジティブコントロール。これを試験管の実験をやる研究者にディストリビュート(分配)したわけですね。それぞれの繊維の直径と長さを全部調べてあります。これは『インダストリアル・ヘルス』に産業医学研究所の神山(宣彦)先生が分析した結果をきちんと書いてあります4)。電子顕微鏡で見ますと、グラスウール、ロックウールは非常に長くて太いということが分かります。ウィスカは非常に細い繊維だということが分かる。
1997年に国際じん肺会議が日本でありましたので、それに間に合わせるようにと、かなりのデータの成績は出ておりますh)が、私が見た感じでは、ウィスカは若干危ないのはある、とくに炭化ケイ素チタンのウィスカは若干、他のものと比べても危険性があるような感じです。他については、とくに問題はないと結論づけていいと思います。とくにガラス繊維、ロックウール繊維は問題はないと思います。石綿は安全に使えばいいのだという人のなかには、ロックウールも危ないのではないかということをかなり言う人がいますけれども、私は今度の調査で完全に払拭できたと思います。
もうひとつあるのはセルロース繊維で、これも動物の胸腔注入実験をするとがんを起こします。つまり、肺の中に溶けにくいものは、ラット系の実験を使うと全部がんを起こすのですね。シリカもそうですが。しかし、非常に直径も太くて、滞留化するものも非常に少ない。IARCは、セルロース繊維の発がん性があるかどうかを、ジョイントで何か国かで調査をしてます。その結果、中皮腫の患者さんが出てきているのですけれども、中皮腫の患者さんをよく調べてみると、パルプ関係の工場の断熱作業に従事している―すなわちアスベストを扱っていたんですね。アスベストを扱っている人に中皮腫が出たのであって、セルロース繊維そのもので中皮腫が出たということではない、というふうに解釈しているわけなんです。このIARCの結論ももうじき出るのではないかと思います。私は当初、北海道の1工場がこの中に入っていると聞いたのですが、その後どうなったかフォローできていません。セルロース繊維それ自身で疫学調査で発がん性を示唆するデータは出ていないと聞いています。
天然繊維の生体影響
次に天然の鉱物繊維の話をしたいと思います。
ウォラストナイトは、建材で現在でも最もよく使われている天然鉱物繊維のひとつだと思います。アスベストを使わない代わりに、ウォラストナイトを使う。ウォラストナイトはこのように顕微鏡で見ますと繊維状ですが、アメリカのナショナル・トキシコロジー・プログラムが大々的な吸入実験をしてネガティブなデータが出たものですから、それを知った業界は、これは安全だとどんどん使いだしている。たぶん確かにこれは発がん性を起こさないだろうと思います。主にアメリカ、フィンランド、中国、インドなどで産出されます。ただ胸膜プラークがあった、じん肺があったという報告がひとつだけあります。でもインハレーションの動物実験ではネガティブだったということです。見た目はこういう針状結晶をしています。
次にセピオライトとパリゴルスカイトの話ですけども、両方とも粘土鉱物であり、非常に似かよったものです。これは疫学調査がありません。これは日本でとれるセピオライトなんですけれども、塊で出てきます。非常に繊維状で長い繊維です。顕微鏡で見ると短い、こちらは見ただけで分かるように長い。これは中国産ですけれども、立派な長いこういう繊維もあります。顕微鏡で見ると、非常に直径が細いことが分かる。セピオライトとアタパルジャイト(パリゴルスカイト)は、動物実験とかでは短い繊維ではあまり問題はない、長い繊維では少し危ない、こういう成績が出ています。
それから、ゼオライトですけれども、日本で使われる天然ゼオライトは、モルデナイトとクリノプチロライトという種類のもので、このモルデナイトは繊維状ですが、一時期、紙に混ぜたりとか非常にたくさん使われました。日本の動物実験では、腫瘍は出ていない。繊維状でない日本のものは出ていない。ただし疫学調査はない。ゼオライトは、いまはほとんど人工ゼオライトが使われていて、天然のゼオライトは使われておりません。天然のゼオライトは日本では、モルデナイト以外は繊維状ではありませんので、発がん性という問題からいうと安全だということになります。
私は日本でのゼオライトの調査を少ししましたので、簡単に紹介します。これは山形、福島との県境にあった鉱山です。ひとつはカオリン鉱山があって、もうひとつはゼオライトの鉱山です。顕微鏡で見ると、このように見事に繊維状が見えるわけです。これがモルデナイト。こちらの方はクリノブチロライトです。それで追跡調査―だいたい千人弱ですけれども―だいたい完全に追跡ができました5)。肺がんは若干高かったのですけれども―1.4倍です。肺がん以外の呼吸器疾患で亡くなった人の従事期間別に見ますと、きれいに、従事期間の長い人ほど呼吸器疾患で亡くなる人は高いのですけれども、じん肺所見のない人だとこういう関係は見られない。しかし、肺がんでは必ずしもそううまくいっていないという結果です6)。われわれのデータではこうですが、ロック、スラグに関するヨーロッパの調査でも、従事期間1年未満の人に肺がん率が高い。これはだいぶ議論になりました。同じようなことが私のデータにも出たわけです。従事期間1年未満の人は、他の従事期間の人とは違うのだという議論が、この時だいぶ起こったわけなんです。
ということで、天然鉱物繊維で繊維状の物を呈するもの、エリオナイト(ゼオライトの1種)は非常に発がん性がトルコで問題になりましたが、モルデナイトは私のデータしかないのですけれども、私はあまり発がん性があるとは思っていない、そういうデータです。ウォラストナイトは、これはもうまったく動物実験で発がん性はなかったですから、問題はない。
不純物としてのアスベスト
それから、セピオライト、アタバルジャイト(パリゴルスカイト)ですが、これはタルクと同じように、クリソタイルが混ざることがある。天然の鉱物繊維は何らかの不純物がどうしても混ざりやすいという問題があります。
もうひとつはタルク、バーミキュライト―蛭石なのですが、こういうものはアクチノライト、トレモライトが不純物として混ざることがある。トレモライトでなくクリソタイルが混ざることもある。どの程度混ざるかということもあるのですけれども、そのような不純物の問題が天然の鉱物繊維では必ずありうる。すべての鉱山とは言いません。産地によって違うとも思いますが、そういうことが言えます。
タルクというのは、教科書的に言うと滑石とも言い、モース硬度が1で、非常に柔らかい。ですから、ロウ石と同じように道路に線を書くことができます。化学組成としては含水マグネシウム珪酸塩である。非常に純度の高いものは、半透明の無色の結晶ですが、質の悪いタルクは、蛇紋岩や角閃石族、緑泥石を伴うことがあります。日本では、中国とかオーストラリアからの輸入品が多いのですが、問題は国内産のものです。秩父とか飯塚とかのところのものは、鉄分が多くて白色度も外国産に比べて劣ります。したがって、農薬のキャリヤーとか建材用の粉剤に使われるのですが、不純物として石綿を含むことがある、ということが問題になるのです。
実際にどういうところに使われているかと言うと、紙に混ぜる、艶が出るんですね。それから、合成樹脂や塗料―塗料には石綿も混ぜていましたけれども、タルクも混ぜたりしたんですね。それから、ゴム製品の打粉剤、化粧品、ベビーパウダーにもタルクが使われています。いつだったか忘れましたが、日本のベビーパウダーにタルクが使われていて、そのタルクにアスベストが混ざっていることを発表したことがありました7)。それ以降、タルクにはかなり不純物が混ざらないということになりましたけれども、それ以前はいろんな混ざりものを使っていたわけです。
タイヤ製造労働者の被災事例
これがタルクです。今はほとんどは中国産ですが、これはオーストラリア産です。典型的なタルク肺というのは、こういうじん肺を起こしまして、石綿肺とは違う。
タイヤの製造労働者にみられた肺がんというのがございます。どこにも詳しいことは書いてありませんので説明させてもらいますが、この方は、1951年2月から1960年10月まで、タイヤの製造の押し出し業務をされていました。1960年10月から1962年2月までは、加硫業務についていた。1962年2月から1975年6月まで、タイヤの仕上加工業務というところで、タイヤの修理、バグ修理をやっていた。修理してから、もう一度オーブンの釜にタイヤを入れて加硫するという業務に就いていました。
1975年6月にレントゲンで異常があり、翌月手術された。肺の腺がんであったということです。その2年後に亡くなった。遺族の方がこれは業務上の疾病ではないかと疑われて、亡くなってから5年になるぎりぎり前に労災保険の給付申請をされました。ところが不支給決定になり、今度は大阪の労災保険審査官の方に審査請求をしたが、これも却下された。ということで今度は再審査請求をして、1991年6月に原処分が取り消されて、労災保険の支給が決定した。
この方の石綿曝露は一体どこであったのかと言いますと、タイヤ仕上げの加工の際に、タイヤ表面の大きな傷にゴム片を詰めて加硫釜に入れるわけです。そのときに、ゴム詰めの部分の接着防止のために、ガーゼ布にタルク粉を詰め照る照る坊主にしたようなもので、ゴム詰めしたところをこすり、タルクの粉を付着させていた、ということが分かりました。この方は手術されて、解剖もされてます。調べてみると、右肺の上中葉、左肺上下葉から、タルク以外にアクチノライトが出てきた。アモサイトも痕跡程度みつかった。アクチノライトの繊維の長さは5ミクロンから40ミクロンで、10から20ミクロンが比較的多かった。アクチノライトを核とした石綿小体もみつかった。
そこの工場ではタルクの種類はいくつか扱っていたわけですが、1975年から1982年まで使用していた「クラウンタルク3S」というものから、X線回折法でアクチノライトが痕跡程度(0.5%)みつかった。このタルクの年間使用量は、だいたい13.4トンくらいということでした。こういう石綿の証拠がみつかったので、最終的に労災になったということです。
これは普通のタルクですね。どちらかというと板状のようなものです。この方の肺の中からは、こういうアスベストボディ―石綿小体を作り始めているんですね、そういう繊維のような物が出てきた。これはアクチノライトでした。結局、その繊維が何かということまで確認しないと石綿かどうか分かりません。
アクチノライトはトレモライトと実はほとんど同じなのです。鉄分が多ければアクチノライト、鉄分が少なければトレモライトです。鉄分の量が標準試料の中間であったらどちらとは言いにくいですね。ですから、よくいろいろなところに「アクチノライト・トレモライト」と書いてある。実質的には一緒なんです。鉄が多いか少ないかだけです。アクチノライトは鉄が多いですからフェロアクチノライトという呼び方もします。石綿は6種類あると言いますけれども、トレモライトとアクチノライトは実質的には同じと考えていただいて結構です。
「タフマグ」にもアスベスト
それから、石綿の代替ということで、1992年に繊維状水酸化マグネシウムというものを輸入して、どんどん使いはじめました。これは、名前は「タフマグ」といって、代替品ということで日本にも輸入されだした。それで私も鉱山に行って来ました。鉱山はちょうど成都と西安の間にあります。列車で12時間くらいかけて、そこから車で4時間くらいかかりました。ウォラストライトの鉱山はこちらで見に行ったんですけれども。日本で輸入をはじめたというふうにニュースにのっていました8)。
こんな立派な繊維なんですね。びっくりするくらいのものです。アスベストと非常によく似ている。これがさきほどの精製工場です。しかし、X線回折をしますと、これがタフマグなんですけれども、これがクリソタイルの回折パターンですけども、ここにピッとこう見えますね。つまり若干、量としてはおそらく1%くらいのクリソタイルが混ざっているんです。ですから、天然の鉱物繊維は必ずこういうチェックをする必要があります。
物の本を後で読みますと、「ブルサイト」と書いてあるんですが、繊維状ブルサイト、コンタミナント・クリソタイルと書いてあります。ですから分量がどの程度か分かりませんけれども、中国のここの鉱山では、だいたい1%くらいのクリソタイルを不純物として含んでいる。1%のクリソタイルがどの程度悪さをするか否かは別の問題ですけれども、ブルサイトそのものはおそらく悪い物ではないと思います。1%のクリソタイルがどうなのかということですね。こういうふうに、アタバルジャイト(パリゴルスカイト)も、セピオライトも、そういう不純物の問題があるということを知っておいてください。
天然鉱物繊維の発がん性評価
表6 IARCの天然鉱物繊維に関する発がん性の評価
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私どもの隣に公衆衛生研究所がありまして、そこの大山先生がいろいろ調べていました。モルデナイトもやりましたしウォラストライト、それからブルサイトもして、それから富良野の非常に細かい繊維、テーリングと言いますが、こういうのをいろいろやってきました。そうすると、クリソタイルでもテーリングというものは、いわゆるがん化につながる一種の指標といわれる活性酸素の産出はほとんどないんですね。ところが繊維状のものはある。ブルサイトは、どうもこのクリソタイルがなんか悪さしているのかな、と。ウォラストライトは初期に上がるだけで後は出てこないので、これはむしろネガティブである9,10)。
これは産医研の福田先生がやったデータですけれども、クリソタイルの短い繊維はこういう細胞毒性というものはあまりない。胸腔に貯留してもがんが出ないですけれども、長い繊維では出てくる。セピオライトも長い繊維だと出てくるけれども、短い繊維だと出てこない。ガラス繊維は出てくる。注入実験すれば出てくる。こういうデータであります。
ということでIARCは1986年i)とその10年後の1996年g)に天然鉱物繊維の評価をしてますけれども、ウォラストライトは、動物実験でネガティブであったということがありますので、グループ3になっている。アタパルジャイト(パリゴルスカイト)、セピオライトは、動物実験などでは長い繊維は危ないから2B、短い繊維は動物実験でも問題ないだろうというのでグループ3になっている。タルクですが、石綿が混ざる―アスベストの繊維を持っているものはグループ1ですけども、ピュア(純粋)なタルクそのものはグループ3である。エリオライト以外のゼオライトも、データがないということなのでグループ3になっております(表6)。私どもがやった疫学調査がひとつだけあるわけなんですが、1996年に間に合わなかったので載っていません。
以上が石綿の代替品の話であります。時間が余りありませんのでだいぶはしょって話しました。
アスベストの種類と用途
次はアスベストの話です。アスベストは何かということはみなさんご存じでしょうけれども、一応アスペクト比が3対1、長さが5ミクロン以上というのがWHO(の定義する)繊維ということです。
しかし日本では、労働基準関係法令のところに、アスベストの定義がないのです。昔はセピオライトなどもアスベストと言っていたんです。中国でも十年前はフルサイトをアスベストと言っていたんです。ですから、定義というのがどこでも大事でしょうから、ちょっと問題があるかなと思いますね。
先ほども言いましたように、トレモライトとアクチノライトは実質上同じものです。鉱物名で言うと別の見方がある。それからこういうトレモライト、アクチノライトは繊維状トレモライト、繊維状アクチノライトという呼び方をします。アンソフィライトはどうもローカルでは少し使われていた。フィンランドでもそうですし、日本でも熊本には鉱山がありました。オーストラリアでもあった。アンソフィライトはあちこちで結構使われていた。
これはトレモライト。九州の飯塚や熊本にいたるところから長崎では、石綿のとれる鉱脈があるんですね。こんな立派なトレモライトがあるとは思ってもみませんでした。これは青石綿、クロシドライトですね。これはアモサイト(茶石綿)。これは白石綿、クリソタイルです。
アスベストはいろんなところに使われています11)。これは泉南の紡績−テキスタイルですね。これはパッキンを作っているところです。黒鉛で染めてますので黒く見えるのです。私も見学に行っていますので石綿を吸っていると思います。これは起重機のブレーキライン。こういうかたちに残って有機溶剤で固めてこういう色が付いているわけです。これは石綿のフィルターですね。日本のお酒のフィルターにこういうかたちでつかわれていた。乾かしているんですね。
吹き付け石綿は、表面上は白石綿ですけれども、実はアモサイトとクリソタイルの石綿も両方使われている。あらゆる種類の石綿―3種類(クロシドライト、アモサイト、クリソタイル)が使われている。変電所の問題がありましたけれども、ああいう騒音が出るような所では、クロシドライトを使っている。非常に高い、しかも立派なクロシドライトを使っている。3種類の石綿は、場所と目的、用途に応じて全部使われているわけです。
これは神戸の震災の時に見に行ったときに、中華料理店の天井の裏がクロシドライトで吹付けられている。これも別の中華料理店なんですけれども、ここの間の隙間、これもクロシドライトです。
はつり労働者の肺がんの事例
1例またじん肺の方で、はつり作業をしておって肺がんになった例がございます。これは最近の例ですけれども。1997年にはレントゲン所見が3/2、分かりにくいかもしれませんが、つまり管理4でないということ、要療養でないというじん肺の患者さんで、ただし、合併症に肺結核で入院加療していたのですが、亡くなりました。この方は、1965年頃から大阪に来て土木作業に従事し、1968年3月からずっと建物の解体、はつり作業に従事していた。亡くなった本来の原因は肺がん、腺がんなんですが、珪肺結節があって、レントゲンでは明らかにじん肺(珪肺)なんです。左胸膜のプラークが解剖所見でみつかりました。石綿肺というのは、肺の下葉が線状といいますかそういう不整形陰影が出るのですが、この方はここ―肺の上の部分―を見て分かりますように、つぶつぶの影がでている。これは明らかにじん肺ですね。これにはプラークはみつかってません。ここに肺がんが出て、亡くなったということです。
職歴ですが、この人は1968年3月からはつり工として採用されて、勤務年数はだいたい30年と5か月。1日の就労時間はだいたい6.5時間程度で、コンクリートを主体としたはつり工事のほかに、既存の建物において内装材の解体であるとか撤去工事の作業にいろいろ従事していた。30年の間にいろいろな改修工事、内装撤去工事に従事していて、石綿が天井や鉄骨に吹き付けてある。これは1994年9月から10月に解体した、森ノ宮の住宅都市整備公団ですが、屋上の一部や地下空調機械室の天井に石綿が吹き付けてあって、それも解体した。こういう職歴がありました。
肺の石綿小体を検索のために、肺の上葉、下葉を2グラム採って、消化試験で石綿小体を調べると、1グラム乾燥重量あたり600個以上みつかった。左肺の方は4,000個みつかった。ということで、この方は石綿肺がんで労災になったというケースでありますj)。おそらく、こういうケースは多いんだろうと思いますね。
石綿小体を評価する際の注意
一応確認のために紹介させていただきますと、石綿小体というのは、過去の石綿曝露のよい指標で、被覆された石綿繊維は金色や褐色の特徴的な形態を示します。石綿小体というのは、普通は繊維のときは2から5ミクロンでして、長さが20ミクロン以下の小さい繊維では石綿小体はできません。被覆されることはない。太い繊維の方がより被覆されやすくて石綿小体ができやすい。実際に人の肺内に見いだされる石綿小体というのは、アンフィボール(角閃石族)の石綿を核としてできる。もっと感度のよい検出方法を用いると、われわれの肺の中にはみんな石綿小体があると言っても過言ではありません。
ですから、実際はどの程度あるのかということが問題になりますが、その時にひとつ忘れてはならないのが、角閃石族の石綿が核になって石綿小体ができやすいので、(蛇紋石族の)クリソタイルの場合はできにくい。クリソタイルの曝露をみようと思えば、石綿小体を見たのでは正しい評価はできないということがあります。
これは石綿小体です。次のスライドをお願いします。走査型の電子顕微鏡でアスベスト小体を見るとこういうふうに見える。石綿小体があるということは、ここに裸の石綿線維があるということですから、石綿小体は石綿繊維のごく一部を見ているのであって、実際は裸の石綿繊維そのものは、石綿小体よりも一般にものすごくあるということになるわけです。
建材に使用されるアスベスト
石綿は建材にたくさん使われていたわけですね。ですから建材の方に目を向ける必要があります。これは石綿スレート協会の広告ですけれども、いろいろなところに使われますよという宣伝ですね。間仕切り壁、吊り板、内壁、階段、踏み板、外壁、天井、堀、あらゆる所に石綿はいいです、と(図4)。これは20年も前のものです。目的は遮音・断熱などですね。
図4 スレートの樹 出典:「SA」スレート(1981,1982)
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あるホテルの天井はアスベストが使われていました。ある県の社会福祉会館の天井はプレスチルボードです。先ほど言いましたが、吹き付け石綿には3種類(の石綿が)全部使われている。ロックウールにも混ぜて使っていた。問題はここなんですね。ケイカル板―アモサイトが使われている。アモサイトは、クリソタイルよりもだいぶ発がん性が強いですからね、建材のアスベストというのは、主要にアモサイトの問題が多いのではないかと思っています。これは大阪の工場。この中に電線のケーブルが通っているんですね。これ石綿スレートですね。ソ連からの石綿袋は紙でできてますね。やっぱり漏れ予防にはビニールの方がまだ強いですね。
石綿建材は、1965年以降に生産量が急激に増えてきている。というのは、それまでは石綿は統制化されていたんですね。石綿は自由に原料輸入できなかった。GHQがコントロールしてましたから。1963年秋頃から石綿は自由化されて一斉にどんどんと使うようになりました。
大阪に中皮腫パネルを組織
これは1981年3月の新聞記事ですけれども、これからアスベストのがんが増えるんじゃないですか、致死性のがんが増えるんじゃないですかという記事が出ています(図5)。実際そうだと思うのですが、今日は主に中皮腫の話にしたいと思います。中皮腫とは、ここに集まっている皆さんはご存じと思いますが、一応教科書的に言いますと、胸膜、腹膜、心膜などに発生する悪性腫瘍で、1年、2年以内に亡くなる。死亡率が増加している。中皮腫と石綿曝露の関連は非常に高い、関係に特異性がある。
図5 朝日新聞記事(1981年3月15日)
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スティーブ・マックィーンが中皮腫で死んだということはみなさんご存じですね。欧米では1960年代から中皮腫の登録をどんどんはじめてます。われわれも1980年に、大阪で中皮腫パネルを組織して、病院病理の先生に集まってもらって検討を始めました。
5年前までですけど、だいたい170例くらい検討しています12)。最近はだんだんと診断が確実になってきましたけれども、最初の頃は、病理の先生は中皮腫の症例は一生に一回見るかみないかの時代だったのですね。本当に診断が正しいか自信がない。それでいろいろな先生に集まってもらって、症例の検討をしたわけです。今でもなかには(診断に)問題があろうかと思いますね。
1985年までに17例ほど集めてみたら、潜伏期間が非常に長く、40年、50年―短いのでは18年ですけれども、肺がんよりもさらに潜伏期間が長いということがお分かりいただけると思います13)(表7)。職種もいろいろですし、外国のペーパーでも50年、60年というのがありますね。石綿を吸い始めてから中皮腫が出るまでを潜伏期間と言うのですけど、それが50年、60年くらいの人もいるという報告があります。
これは一例なのですが、30歳まで石綿のパイプ工場の近くに住んでいて、学生時代にアルバイトに行ったことがある。たばこは少し吸われるのですが、検診で胸のレントゲンで異常があった。しかし、細胞診をしてもがん細胞が出ないということで、成人病センターに紹介された。
ちゃんと職歴を聞いてくれたら、最初から中皮腫を疑っていてくれたんですけれども、成人病センターでも残念ながらこのときはまだ結核かと疑って、治療しても一向によくならない。水が溜まって、引いてまた出てきた。というのでここでヒアルロン酸を計ってもそれほど高くはない。職歴を聞いて、そこで特殊染色というのをやり、中皮腫という診断が出てくるという経過のケースなんです。
表7 石綿曝露歴の明らかな悪性中皮腫ー大阪中皮腫研究会ー
出典:森永(1988)日災医誌36:361
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角閃石族仮説は真実か
石綿セメント管には、実はクロシドライトが使われていました。一番中皮腫を起こしやすい石綿が使われているわけです。アモサイトは、主に建材製品に使用されていた。ですから建築関係の曝露というのはアモサイトの曝露でしょう。
表8 角閃石族仮説
出典:Mossmanら(1990)Science247:294
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表9 石綿の種類別中皮腫リスク
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表10 肺がんの市町村別標準死亡比(1969-78)
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角閃石族(アンフィボール)の仮説というのがあります14)(表8)。
「クリソタイルの中皮腫リスクはアンフィボール(角閃石族)に比べて低い」―私はこれは正しいと思います。
「ケベック鉱山労働者の中皮腫、バーミキュライト鉱山労働者の肺がんの原因は、主に随伴するトレモライトである」、「クリソタイルの石綿肺、肺がんのリスクはアンフィボールに比べて低い」―これは少し問題です。クリソタイルの石綿肺リスクはアンフィボールに比べて低い。これはそれなりにそうでしょうけども、こう断言できるほど明らかではないと思います。
私どもが調べたかぎりでは、クリソタイル(の曝露)だけで中皮腫が出たのは5例あったということであります。ですから、クリソタイルも中皮腫は起こします。でも私の感じでは、短期高濃度曝露ですね。長期低濃度曝露では、クリソタイルは中皮腫は起こしにくい。これは私の仮説です。
これは私どもの症例で、クリソタイルだけがみつかった例です15,16)。プラスチックに混ぜたアスベスト。これは先ほどと同じですけど、クリソタイルはやはりアンフィボールと比べると中皮腫の発生率は低いですね。
これは最近、イギリスのヘルス・アンド・セーフティ・エグゼキュティブ(HSE、安全衛生庁)の人が、クリソタイルの中皮腫のリスクが1だとしたら、アモサイトが100でクロシドライトが500だという説を出しました(表9)。そこまで言えるかなと私は思うのですけども、おそらく、アモサイトはクリソタイルに比べて20倍以上高いし、クロシドライトは100倍くらい強いのかなと思います。
トレモライトによる健康被害
私の研究テーマの一つであるじん肺で、い草じん肺というのがあるんです。みなさんご存じでしょうか。い草は、いまほとんど倉敷、福山、八代。八代が大産地です。これがい草じん肺の典型例です。い草を買い取って、泥で染めて乾燥させて、この泥が粉じんとなって、じん肺を起こします。いま「3品目」のひとつになっているのですね。セーフガードの。ほとんど中国。これは普通のい草の染土のパターン。石英、クロライト―日本語で緑泥石−がみられます。
ところで、染土をいろいろ調べました。中国でも実際にい草じん肺を起こしているんですけれども、中国の染土と日本の染土を調べたら、日本の「クミアイ染土」というものにアンフィボールがみつかった17)。ごく少量ですけどね。これが「クミアイ染土」の中の染土の分析パターンなんですけれども、ここにトレモライトがみつかった。これがトレモライト。これは、い草じん肺で亡くなった人の肺の中を調べてもみつかった。染土の中でもみつかっているし、い草じん肺の患者さんの肺の中からもトレモライトがみつかった。
図6 わが国の石綿輸入量(1926-2000)
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図7 アメリカ、スウェーデン、日本の対国土当たりの石綿消費量の推移
■ USA
○JAPAN
×SWEDEN
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八代市というのは、い草じん肺で有名なんですが、八代市のちょっと北側にある鏡町も、い草をたくさん扱っていて、ここの肺がん死亡率が高いのです(表10)。女の人で1.82倍。三和町というところも、アスベスト鉱山が昔あったところですが、1.6倍と高いですね18)。三和町では調査を断られました。本当にトレモライトが発がん―中皮腫を起こすのなら、ここは調査すべきだと思っております。
先ほど紹介したタイヤ労働者の肺がんはアクチノライトだと言いましたが、トレモライトと同じです。タルクの不純物として混入していて肺がんが出た。その後、中皮腫も出ていますけれども、トレモライトが中皮腫の原因であったら、説明は簡単になります。クロシドライトと同じように発がん力があるのかどうかが問題ですね。このように少し繊維が太いですよね。
アスベスト被害の国際比較
日本の石綿の輸入量は、1949年から再開して、1974年にピークになった(図6)。これはスウェーデンのヒラーダルという医者が、人口単位あたりのアスベスト使用トン数を調べたら(図7)、日本がこう。アメリカは落ちてきている、1960年頃からもう落ちてきてる。スウェーデンはここで止めましたから、どんどん、ここでも1970年代の後半でもこうですね。
私が最初の頃、1979年から1982年に調べたころは、(都道府県別では)佐賀が中皮腫死亡6例で一番多かった2)(表11)。これは何かなと。ひょっとしてタイヤ会社かなと思いましたら、やはり石綿セメント管の会社とあとで分かりました。
これはフィンランドのトサヴァイネンという人が、石綿の使用量と中皮腫の死亡数を出して、そこに日本の高橋(謙)先生が日本のデータだけ
表11 がん登録データによる中皮腫の年齢調整死亡率
(1971-81,1982-86)
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図8 人口当たりの石綿消費量と中皮腫罹患/死亡率の関係
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表12 諸外国における中皮腫粗死亡率(対百万人)
出典:森永ら(1983)JUOEH 5 Suppl:215
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を付け加えたものです(「アスベスト対策情報」No.28、2000.9.30、14頁の図参照)。でも見て分かるように、潜伏期間を短くとっていますからおかしなことになった(図8)。1974年というのは日本の使用量が一番高いところで、1965年にはこんなに少なかった。急激に伸びた。イギリスは1970年代前半から中皮腫が増え出す(図9―次頁に掲載)。ノルウェーはもっと前から増え出す。南スウェーデンも1965年あたりから。潜伏期間を30年でそろえて、30年前の石綿消費量に数字を置き換えて改変してみると、図8のようになります。(編集部注:
ノルウェーがちょっとはみ出しますが、おおむね右肩上がりの直線上にきれいに並びます。)
これはだいぶ昔に調べたデータですけれど、日本の中皮腫の死亡数は当時は非常に低かった18)。人口100万単位で0.5くらい。フランスも低かった(表12)。いまヨーロッパではだいたいこれくらいの、年間に中皮腫の患者さんが出ているということです19)。一体日本はどれくらいの中皮腫の死亡率があるかというと、1990年から1994年で、人口100万単位で1.4です。今回(1995-1999年)の5年間は胸膜以外の中皮腫も入りますけど、だいたい人口100万単位、4です。イギリスはこの時ですでに人口百万単位12ですが、日本は少ない。しかし、明らかにこの時代(1980-1984年)から10年後に2倍に増えているということであります(表13)。(編集部注:
16頁の表も参照してください。)
イギリスのピートさんらは、イギリスの中皮腫は1940年代生まれが高いんだということを言ってます。これはこの時に生まれた人が、この年代のときに中皮腫になった率を書いてあります。ですから1915年生まれの人よりも、1920年生まれの人の方が少し中皮腫の罹患率が高いと。こうなっています。みんなだんだん高くなってきているということを意味しています。同じように日本の成績もこれを見れば、最近になればなるほど少しずつ高くなってきているということがわかります(図10)。
イギリスはだいたい年間650から700の間、労災認定の件数がある。中皮腫は670。イギリスは肺がんは認定件数は非常に少ない。一番多くても77。ドイツもどんどんと増えてきまして、中皮腫は668。肺がんも増えて、だいたい700弱と認定されています(図11)。日本では少ないですが、最近増えてきています(図12)。
図9 イギリス及び日本の中皮腫死亡数の推移
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図10 男の生年別階級別中皮腫/胸膜癌死亡率,イギリス・日本
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表13 欧州7カ国及び日本の男性の胸膜がん死亡率(/100万人)の推移
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図11 英独における石綿がん・中皮腫の職業病認定件数
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図12 我が国における石綿肺がん/中皮腫の労災認定件数
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表14 イギリスにおける石綿関連疾患の補償件数、1999年
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表15 ドイツにおける石綿関連疾患の申告数、認定数、給付件数
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表16 ドイツにおける石綿関連疾患の産業分類別件数,1999年
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表17 イギリスの種類別石綿輸入量と世界生産量
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表18 中皮腫の石綿暴露の種類、Australia,1986-95年
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表19 16−74歳男性中皮腫の職業分布
England&Wales,1979-80年,2-90年
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図14 英国、米国、スウェーデン、日本の肺がん
年齢調整死亡率の推移、男性
出典:大島(2001)第42回日本肺癌学会
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質疑応答
大変膨大な内容で最後は駆け足のようになりましたが、しかし大変インパクトのある、わかりやすい内容だったと思います。少し時間がありますので、質問がある方はどうぞ挙手をしてください。
問 先生はウィスカの一部のもの以外の代替繊維には、発がん性はないから安全だとおっしゃったと思います。WHOの専門家の方もセラミックの一部のもの以外は発がん性がないから代替品は安全だと見解を表明されたと思うのですが、日本の専門家の方のなかで、それと同じような意見をお持ちの方はどのくらいいらっしゃるんでしょうか。それに反する意見の方もたくさんいらっしゃるのでしょうか。まだ結論は出ていないとお考えの方もいるのかどうか。というのは、今(2001)年の厚生労働省の省庁交渉の時に、一番最初に担当者の方が、代替品の安全性についてはまだ見解が出てない段階なので、その段階でアスベストを止めるとか止めないとかは言えないんだと、はっきりおっしゃっていました。そのことと今のお話との違い、考え方の違いがどうして出てくるのか、よく分からないのですが。その点、教えてください。
答 IARCが代替品の発がん性評価をグループ3にしたというのは、今(2001)年の10月なんですね。まだパブリッシュ(公刊)されていません。多分来年になると思います。労働省の交渉に行ったときというのは、まだ情報がなかったときの話だと思います。専門家の間では、以前から石綿、クリソタイルは安全だという人が、石綿代替品は危ないよということを言っていたことはあります。両方とも危ないという人もいます。私のように、石綿は危ないが、代替品は大方のものはデータから見る限り、そう心配はないのではないかという人もいるわけです。それが、今度のIARCの決定を受けてどう変わるかというのは、これからだと思います。そういう新しい情報が流れただけで、オフィシャルなドキュメントは私も手に入れてませんし、おそらくワーキンググループでいろいろ議論があって、最終の意見調整はまだかかっているんじゃないかと思いますので、オープンになるのは来(2002)年だと思います。それでよろしいでしょうか。
問 どうも貴重な話ありがとうございました。先ほど石綿セメント管の話で、工事とかに過去に携わっていた方の曝露の問題などをお話しされていたと思いますけれども、実際に水道管に石綿管がどれくらい使われているのか、その実態のなかで水道管による水を飲むものによる曝露というのがどのような関連があるのか、お分かりでしたら教えてください。
答 それは20年前にもだいぶ問題になりましたが、基本的には経口摂取の方は、あまり問題ないでしょう。石綿セメント管に混ざっているクロシドライトの話ですね。大気中の粉じんでクロシドライトを吸えば、それは経口でもクロシドライトは耐酸性が強いですから、胃の中に入っても結構残る可能性がありますので、大量曝露で経口曝露は問題になるかも分かりません。ですけれども、セメント管の水の中に入っている石綿を飲んで何か影響が出るかというと、疫学的なデータではそういうのは出てないんですね。だから心配はない。この問題が大きくなったのは1980年過ぎころだと思いますが、その頃から石綿セメント管は鋳鉄管にどんどん転換しておりますので、詳しくは知りませんが、いまはほとんどは鋳鉄管だと思います。ほとんど使ってないんじゃないでしょうか。ただ、石綿セメント管はクロシドライトを使っていて、たくさんの中皮腫の患者が出ておって、今回報告しませんでしたが、腹膜中皮腫は、ほとんどクロシドライトによるものです。ですから、ここから中皮腫の患者さんが出たら、それはまず特定の企業を疑って間違いないことなんですけども、がんの診断が難しい。女性の腹膜中皮腫は、卵巣がんとの鑑別とかいろいろ難しいので、死亡統計では診断がやや問題というところがあります。クロシドライトが一番危険であることは、みんなが承知している事実です。(編集部注: どれだけ使っているかというのは、実は平成になっても、いろいろな自治体の工事を見ても、アスベスト管を変えているということが断続的に出ているので、残っているところはまだまだあるということです。)
問 用語の説明なのですが、実は、その他の繊維というところで、セルロース繊維という用語が出てきたんですけども、私の家の断熱材がセルロースファイバーというふうに説明を聞いたのですが、それは同じものと考えていいのでしょうか。なぜセルロースファイバーの断熱材かと言いますと、新聞の印刷の際に出る印刷ミスの用紙を回収して、それを原料にしたものだというふうに説明を聞いたわけです。他のグラスウールとかロックウールとはまったく違うんで、発がんの可能性は少ないというふうに聞いたもんですから、それに変えたので聞きたかったのです。
答 私がここで説明したセルロース繊維と同じだと思います。
問 ごく簡単なことなのですが、家庭の火を使っているところですね、台所とか居間で使うとか応接間で使うとか、火を使うところは天井とか壁とか、大工さんの話ですと防災ですか、そういうのを防ぐために石綿類を多く使っていると。それに代わる代替品を使わなければならない、よいものはできているのでしょうか。
答 私もそこは詳しくありませんけれども、ウォラストナイトを使ったものとか、あるいはセピオライトを使ったものとかが出回っているとは聞きますけれども。石綿よりは性能は少し落ちるかもしれませんが、十分いけるんじゃないかと思いますね。建築法のいろんな基準があって、それとの絡みで石綿建材がどんどん使われてきた、といういきさつもあるんじゃないでしょうか。企業努力で石綿代替はやればできる。ヨーロッパはそれでやってきたわけですし、日本もやればできる、日本は石綿がないわけですから、何も輸入しなくとも、日本で作った代替品でやればいいんじゃないかなと思います。私どもは中国に石綿を禁止せよというほどのえらそうな立場にあるかどうかは別ですけれども、日本は石綿を輸入してるのですから、と思いますけれどもね。
問 建材のことでおうかがいしたいのですが、先ほどロックウール、グラスウール、どちらだったか忘れましたが、吸い込んでも溶ける、肺内で溶ける、とうかがったのですが、吹き付け剤としては一般に使われているんですが、ただ埃がね、太陽が当たるとぎらぎらと埃が落っこるわけですよ。そこが、いかにも吸い込んだらかなりあれがあるんじゃないかなと常々思っていたんですが、溶けると聞いて、そのへんを伺いたいなと思ったんですが。
それからケイカル板については危ないよ、とさっきありましたよね。ケイカル板に含まれているもの。ケイカル板については非常に使われているんですよ。私は建築家ですから、軒天とか非常に軽いものですから、防災上軽くていいものですから使っているんですが、私も加工しながらずいぶん埃になるし、危ないなとは思いながらやっていますが一番危ないなと感じています。
もうひとつは、い草の問題が出ていましたが、土壌に使うものと製品として畳屋さんが使うものでは問題がないのか、それを少し。
答 最初のロックウールの件ですが、吹き付け作業をするときは大変な高濃度になりますから、これはどこの国でも作業の時は、マスクとかの、しかるべき対応をしようとは言っています。もうひとつは、皮膚に刺激も若干ありますし、溶けやすいと言っても、高濃度短期曝露だと、処理しきれずに若干残るのがありうるわけですね。私はクリソタイルがそうだと思っています。クリソタイルが長期低濃度曝露が危ないなどと新聞に専門家と称して談話が書いてありますけれども、私はそれは間違いで、むしろ短期高濃度曝露の方が間違いなく危険だと。つまり非常にたくさんのものを吸うと、処理しきれなくて、それが胸膜へ行ったりして中皮腫を起こすわけですから、クリソタイルでも中皮腫は起こすわけですから。
2番目のケイカル板は、1980年ぐらいまでアモサイトを使っていた。アモサイトはクリソタイルよりははるかに危ないことは間違いないわけですから、そういう意味で石綿の種類という観点から危ないということを申し上げたい。それからついでにちょっと言いいますと、石綿布団とか使っていて、発電所とかでも石綿布団を使って、クリソタイルの曝露があったと言いますけれども、石綿布団というのは、カバーと綿があるわけですから、綿はアモサイトなんですよ。カバーがクリソタイル。ですから、表はクリソタイルの曝露ですけれど、実際はアモサイトの曝露も起きているわけです。それで中皮腫にもなっていると考えられます。私はそう考えていますね。アモサイトはクロシドライトに続いて非常に危険であるということですね。
3番目のい草じん肺ですが、畳屋さんでじん肺を起こした例は一例報告があるというだけで、畳屋さんあるいは畳表を加工する人にじん肺は出ていない。少なくとも私が20人くらい調査したところでは出ていない。そういう意味で、だけど本当に八代だけがトレモライトを含んでいるんです。備中、備後は含まれてないんですね。八代産の染土がいいから使いはじめているんだと。止めておきなさいと指導してるんですが、これは出来がいいから使わないとだめなんだという言い方をしてましてね。本当はそれで中皮腫の患者さんが出るか出ないかが大事な問題だから調べなきゃいかんではないかと言ってはいるんですが。それで八代の方に話にいっても、今はセーフガードとかでそれどころの話でないという話で、調査は進んでないのですけれども。本当にトレモライトが危ないんでしたら、本当にやらなければならないとは思っていますが。
問 今日のお話しをまとめてみますと、アスベストの代替繊維は危ないという話がある程度あったけれども、この間の調査であまり危ないものがかなりないと分かってきたよと。
答 少なくともアスベストに比べるとはるかに危険性は小さいということは間違いなく言えるわけであって、そういう意味では、代替はどんどん押し進めていけばいいことだと思います。
● 参照図書
a) 横山邦彦編 (1987) 石綿・ゼオライトのすべて(環境庁大気保全局企画課監修).日本環境センター、川崎
b) 横山邦彦編 (1989) アスベスト代替品のすべて(環境庁大気保全局企画課監修).日本環境センター、川崎
c) 森永謙二、横山邦彦(1994) 石綿代替繊維による健康障害. 現代労働衛生ハンドブック 増補版、pp156-163、労働科学研究所出版部、川崎
d) 中央労働災害防止協会編 (1996)石綿代替繊維とその生体影響(労働省労働基準局安全衛生部化学物質調査課監修). 中央労働災害防止協会、東京
e) International Agency for Research on Cancer (1988) Man-made-Mineral Fibres and Radon. IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans. Volume 43, IARC, Lyon
f) MRC Institute for Environment and Health (1997) Fibrous materials in the environment: A review of asbestos and man-made mineral fibres. Institute for Environment and Health, Leicester
g) International Agency for Research on Cancer (1997) Silica, Some Silicates, Coal Dust and Para-Aramid Fibrils. IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans. Volume 68, IARC, Lyon
h) Chiyotani K, Hosoda Y, Aizawa Ymordenite, eds. (1998) Advances in the Prevention of Occupational Respiratory Diseases. Elsevier, Amsterdam
i) International Agency for Research on Cancer (1987) Silica and Some Silicates. IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans. Volume 42, IARC, Lyon
j) 森永謙二編 (2002) 職業性石綿ばく露と石綿関連疾患−基礎知識と労災補償. pp256-261、三信図書、東京
● 参照文献(上記の参照図書に記載のあるものは除く)
1) Boffetta P, Kjaerheim K, Cherrie J, et al. (2000) A case-control study of lung cancer among European rock and slag wool production workers. Final report. IARC Internal Report No. 00/004
2) Morinaga K, Fujimoto I, Sakatani M, Yokoyama K, Yamamoto S, Akira M, Sera Y (1993) Epidemiology of asbestos-related diseases in Japan. Health Risks from Exposure to Mineral Fibres (Gibbs GW, et al, eds), pp247-253, Captus University Press, Ontario
3) Morinaga K, Nakamura K, Kohyama N, Kishimoto T (1999) A retrospective cohort study of male workers exposed to PVA fibers. Ind Health 37:18-21
4) Kohyama N, Tanaka I, Tomita M, Kudo M, Shinohara Y (1997) Preparation and characteristics of standard samples of fibrous minerals for biological experiments. Ind Health 35:415-432
5) Morinaga K, Kohyama N, Nakamura K, Ohyama M, Satoh Y, Matsuda T, Oshima A (1998) Mortality of male workers exposed to quartz, kaolinite, clinoptilolite, and fibrous mordenite. h)のpp342-345, Elsevier, Amsterdam
6) 広橋説雄 (2001) ヒト発がん要因の相互作用の解明に基づくがん制御に関する研究(10指-1). 厚生労働省がん研究助成金による研究報告集、pp559-575、国立がんセンター
7) 神山宣彦、森永謙二 (1987) ベビーパウダー中のアスベスト. 医学のあゆみ 142:47-48
8) 森永謙二 (1993) 中国?西省のブルサイト鉱山. がん特別調査ニュースレター No.7:4-8, 文部省国際学術調査研究がん特別調査総括班
9) Ohyama M, Otake T, Morinaga K (2000) The chemiluminescent response from human monocyte-derived macrophages exposed to various mineral fibers of different sizes. Ind Health 38: 289-293
10) Ohyama M, Otake T, Morinaga K (2001) Effect of size of man-made and natural mineral fibers on chemiluminescent response in human monocyte-derived macrophages. Environ Health Perspect 109:1033-1038
11) 森永謙二、神山宣彦、横山邦彦 (1988) アスベストによる健康障害の予防対策. 公衆衛生 52:374-378
12) 佐々木正道、北川正信、森永謙二 (1999) びまん型悪性中皮腫の病理―大阪中皮腫パネル117例の検討―. 病理と臨床 17:1111-1116
13) 森永謙二 (1988) 石綿がんの現状と展望. 日本災害医学会誌 36:361-365
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23) 大島明(2001) 肺癌専門医と喫煙対策. 第42回日本肺癌学会(東京)
図13 アスベスト(石綿)曝露に関するチェック表
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