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対策情報 アスベスト対策情報


●アスベスト対策情報 No.33
1

(2004年3月15日発行)



石綿対策全国連絡会議第17回総会議案

2004年2月7日
東京・日本キリスト教会館



石綿対策全国連絡会議 第17回総会議案


2004年2月7日 東京・日本キリスト教会館6階会議室


T 2002年度活動報告


はじめに

 私たちは、1987年に石綿対策全国連絡会議が設立されて以来の画期的な年を迎えることになりました。日本におけるアスベスト含有製品の製造・輸入・譲渡・提供・使用を「原則禁止」する、改正労働安全衛生法施行令が、いよいよ2004年10月1日から施行されるのです。
 ここに至る政府―厚生労働省の主な動きをおさらいしておくと、以下のようになります。

2002年6月28日
 坂口厚生労働大臣が原則禁止導入の意向を表明(アスベスト対策情報No.32-45頁、http://www.mhlw.go.jp/kaiken/daijin/2002/06/k0628.html参照)
2002年12月12日
 「石綿及び同含有製品の代替化等の調査結果の概要」及び「石綿の代替化等検討委員会の設置について」発表(アスベスト対策情報No.32-45頁、http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/12/h1212-2.html参照)
2003年4月4日
 「石綿の代替化等検討委員会の報告書について」発表(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/04/h0404-4.html参照)
2003年5月2日
 「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令案についての意見の募集」発表(パブリック・コメント手続開始、6月2日締め切り)。
2003年8月18日
 「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令案について(回答)」(パブリック・コメントに対する厚生労働省の回答。43頁参照。http://www.mhlw.go.jp/public/kekka/2003/p0818-1.html)
2003年9月19日
 「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令案要綱(石綿関係)」が労働政策審議会安全衛生分科会に諮問され、妥当と認めることが了承された(21頁参照。http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/09/s0919-8.html)
2003年10月16日
 「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(平成15年政令第457号)」公布(20頁参照)
2003年10月30日
 基発第1030007号厚生労働省労働基準局長通達「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令の施行について」発出(19頁参照。http://www.jaish.gr.jp/hor_s_shsi/100422)
2004年10月1日
 「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(平成15年政令第457号)」施行(予定)
 1970年代前半の最盛期に年間約35万トンに及んだ日本のアスベスト輸入量は、2002年には43,390トンにまで減少し、2003年は24,653トン、前年のおよそ6割弱となりました。「原則禁止」導入でこれがどこまで減るのかも含めて、改正労働安全衛生法施行令の施行を見守っていく必要があります。(財務省税関ホームページの貿易統計(検索)ページで最新の情報を確認することができます。コードは、「原料アスベスト」が2524.00-000、アスベスト含有製品は上四桁6811〜6813に分散しています。)

1. 第16回総会・「アスベスト被災者・家族の集い」

 2003年2月8日午後、東京・渋谷勤労福祉会館会議室において、第16回総会を開催しました。
 今回は記念講演等は持ちませんでしたが、午前中に同じ会館で、ささやかながら全国のアスベスト被災者とその家族の代表が初めて顔を合わせる「アスベスト被災者・家族の集い」を開催しました(前夜、全国連の運営委員等を交えた懇親会も開催)。
2002年6月28日の坂口厚生労働大臣の原則禁止導入方針表明の1か月前、5月20日に行われた全国連の厚生労働省交渉には、初めて全国からアスベスト被災者・家族の方々にもご参加いただき、直接その声を担当者にぶつけていただきました。このときの参加者の発言内容をもとに、同年10月までに、全国連のホームページに「アスベスト被害者の声」のコーナーを開設しました(http://park3.wakwak.com/~banjan/html/higaisha.htm)。
 これは、10月7日の米海軍横須賀基地石綿じん肺訴訟の画期的な地裁勝利判決のマスコミ報道のなかで、続く8-9日に実施された「なくそう! じん肺・アスベスト健康被害ホットライン」に間に合わせたものでしたが、既報のとおり、ホットラインには全国から330件もの相談が寄せられました。
 「アスベスト被害者の声」には、その後寄せられた手記等も紹介するようにしていますが、このコーナーの体験談や手記を読んで、「自分たちの経験と全く同じ」あるいは「恐ろしさを知った」と言われて連絡をいただくケースが、確実に増えてきました。まだまだ多くの被災者や家族が少ない情報のなかで孤立させられているというのが実状です。一方、横須賀や東京では被災者や家族たちが相互に励まし合い、支え合うささやかな取り組みが始められています。
 そのような中で企画された「アスベスト被災者・家族の集い」でしたが、北海道、埼玉、東京、千葉、神奈川、福井、大阪、佐賀、長崎から30数名の方々が参加され、まずはお互いの顔を知り、体験を共有しあうことを基本にしながら、被災者・家族の立場から政府・厚生労働省に要望していきたい内容、全国と地域におけるネットワークづくりの可能性等についての意見交換等を行いました。

2. 代替化等検討委員会の作業と報告書の公表

 2003年12月16日に第1回会合を開いた「石綿の代替化等検討委員会」は、「個別企業の技術的情報を取り扱うため」という理由から公開されませんでした(議事録や下記報告書以外の検討資料等も現在までのところ公表されていません)。
しかし、「早ければ2月中にもまとめたい」という厚生労働省の意向や、3月4日の第7回会合で作業を終了したという情報等が順次伝えられるなか、4月4日に、ようやくその報告書が公表されました。
 その内容は、2002年12月12日に「結果の概要」が公表された、厚生労働省自身が行った「石綿及び同含有製品の代替化等の調査」(アスベスト対策情報No.32-112頁参照)に示された「現在、製造、使用等が行われている石綿製品」の分類をおおむね踏襲しながら、「建材」5製品、「非建材」5製品の製品種別ごとに、代替可能性を判断したものでした。
 結果的に、「建材」に関しては、5つの製品種別全て、「非建材」に関しては、「断熱材用接着剤」、「摩擦材(ブレーキ・クラッチ)」の2つの製品種別、合わせて7つの製品種別については、「国民の安全確保等の観点から石綿の使用が不可欠なものではなく、かつ、技術的に代替化が可能であると考えられる」と判断されました。
残る3つの製品種別のうち、「耐熱・電気絶縁板」、「ジョイントシート・シール材」の2種類については、「非石綿製品への代替化が可能なものがあると考えられるが、一部のものについては、安全確保の観点から石綿の使用が必要とされており、現時点で代替可能なものと代替困難なものを温度等の使用限界や使用される機器の種類等から明確に特定することは困難である」と判断され、「石綿布・石綿糸等」については、「これらの製品はシール材等として使用されるか、二次的にシール材等の代替可能性に連動すると考えられる」とされました。

3. 労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令案のパブリック・コメント

 「石綿の代替化等検討委員会報告書」の公表にあたり、厚生労働省は、「本報告書を踏まえ、これらの(代替化が可能と判断された)製品の製造、使用等を禁止する方向で、今後、パブリックコメントやWTO(世界貿易機関)通報等の手続を夏頃までに終了し、速やかに労働安全衛生法施行令の改正を進めていく予定です」としていました。
 厚生労働省は5月2日になって、「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令案についての意見の募集」を発表しました。パブリック・コメント手続の開始であり、意見募集の締め切りは6月2日でした。
 内容は、「製造、輸入、使用等が禁止される物として、石綿を含有する製品のうち、押出成形セメント板、住宅屋根用化粧スレート、繊維強化セメント板、窯業系サイディング、石綿セメント円筒[以上「建材」5製品]、断熱材用接着剤、ブレーキ及びクラッチに使用される摩擦材を追加するものとすること」(以上が提案の全文)というものでした。
 これに対して、石綿対策全国連絡会議は、5月中に、16項目にわたる「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令案に対する意見」(32頁参照)を提出しました。以下に項目のみ掲げておきます。

1. 7種類の製品についてのみの禁止とするのではなく、使用等が許される製品を除き、原則全面禁止とすること。
2. 今回の調査・検討からもれているかもしれない現存の石綿含有製品の使用等を禁止すること。
3. 過去に存在しすでに代替化等がなされている3,000種以上の石綿含有製品の使用等を禁止すること。
4. 石綿その物(原綿・バルク)の使用等を禁止すること。
5. 今後新たに登場するかもしれない石綿含有製品の使用等を禁止すること。
6. 吹き付け石綿を全面的に禁止すること。
7. 石綿含有建材の使用等を全面禁止すること。
8. 「耐熱・電気絶縁板」、「ジョイントシート・シール材」以外の非建材の石綿含有製品の使用等を禁止すること。
9. 「耐熱・電気絶縁板」、「ジョイントシート・シール材」について、温度・圧力・使用有害物等の「使用限界」及び/または原子力発電所内の特定用途等の「使用される機器の種類等」から「代替困難」の要件を特定等することによって、使用等が認められる石綿含有製品の範囲を絞り込み、それ以外の石綿含有製品の使用等を禁止するとともに、使用等が認められる石綿含有製品については、その期間を限定すること。
10. 「石綿布、石綿糸等」について、意見9による要件を満たす「シール材として使用されるか、二次的にシール材等に加工される」石綿含有製品に限定して、それ以外の石綿含有製品の使用等を禁止するとともに、使用等が認められる石綿含有製品については、その期間を限定すること。
11. 禁止は、すべての「石綿」を対象とすることとし、現行労働安全衛生法施行令第16条第1項の第4号「アモサイト」と第5号「クロシドライト」を統合して、新たに「石綿」と規定すること。
12. 0.1%を超えて含有する製品を禁止の対象とすることとし、現行労働安全衛生法施行令第16条第1項第10号もそのように改正すること。
13. 製品によって禁止の実施時期に差を設けずに、遅くとも2005年1月1日までに禁止を実施すること。
14. 禁止が猶予される石綿含有製品については、法令上の規定及び行政指導等の両面において、代替化を促進させる措置をとること。
15. (原則)禁止実施から3年ごとの見直しを規定すること。
16. 石綿含有製品製造の海外移転等を阻止する実効性のある施策を講じること。

4. 外国から提出された意見

 厚生労働省は、国内向けにパブリックコメント手続を実施する一方で、WTO(世界貿易機関)への通報及び申し入れのあった外国人関係者からの意見聴取も行っています。
 私たちは、(社)日本石綿協会「せきめん」誌2003年5/6月号によって、4月8日に設けられた外国人関係者からの意見陳述の機会にカナダがミッションを派遣して意見を述べたことを知りましたが、その後、厚生労働省から関係資料の提供も受けました(38頁参照)。
 これらによると、4月8日の外国人関係者からの意見陳述には、カナダ石綿協会、LAB Chrisotile、駐日カナダ大使館、ケベック州政府駐日事務所の代表が参加していますが、「全面禁止は行き過ぎた措置」、「科学的な証拠に基づかない、政治的判断」であると主張したようです。「歴史的に見て、カナダと日本は、石綿の使用においても、石綿を管理して使用することにおいても、世界のトップを走ってきた」と持ち上げつつ、「クリソタイル石綿の世界最大の輸出国かつ鉱産物の安全使用原則の推進者として、カナダの業界、労働組合、そしてカナダ政府は、日本がこの管理使用原則と反対の立場になりかねない決定がなされはしないかと関心を持ってみている」としています。
 4月11日にも第2回目の意見聴取が行われ、駐日カナダ大使館、ケベック州政府駐日事務所の代表が参加していますが、厚生労働省側からの「カナダにおけるアスベスト関連の疾病の発生状況はどうか」という質問に対して、「調べて回答する」という応答がなされたと記録されていますが、結局、回答は来なかったそうです。
 また、5月6日付けで、ロバート・ライト駐日カナダ大使から坂口厚生労働大臣に宛てた手紙も届けられています。この中では、カナダ政府が厚生労働省の担当者とさらにこの問題で協議する機会を与えてほしいとし、業界団体であるアスベスト研究所が科学的協議を行うために科学者のチームを送ることを申し出ているということについても言及されていますが、それらの協議はなされませんでした。
 なお、正規の手続以外に、北米アスベスト情報協会(AIA/NA)、ラテンアメリカ・アスベスト連合(AIA CLAS)及びコロンビア繊維協会(ASCOLFIBRAS)から、EメールやFAXで、禁止の導入に反対する旨の手紙が届けられています。

5. パブリック・コメントに対する回答

 厚生労働省は、8月18日に、 「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令案について(回答)」(パブリック・コメントに対する厚生労働省の回答)を公表しました(43頁参照)。
 実際に寄せられた意見が何通であったかはわかりませんが、厚生労働省が分類した意見の概要別で延べ約90件あったことになっています。
 これによると、国内関係者からは、「摩擦材については、当面適用を猶予してほしい」(1件)、「繊維強化セメント板の使用禁止はやめるべきである」(8件)以外には、原則禁止の導入に反対する意見はなかったことになります。
結果的に、厚生労働省は、禁止導入に反対するカナダ等の意見を採用しない一方で、石綿対策全国連の意見も採用せず、規定方針をつらぬいたことになります。
 施行期日に関しては、全国連の「遅くとも2005年1月1日までに」という意見のほかに、「早くとも2005年1月1日」(5件)、「施行までに十分な猶予期間を設けていただきたい」(5件)という意見があり、この時点では「施行期日については、周知に必要な期間等を考慮して、今後検討してまいりたい」とされていましたが、現実にはその後、全国連の意見が採用されたかたちです。
 なお、「石綿含有率の判定方法」に関する意見に答えて、「独立行政法人産業医学総合研究所等においても、判定方法等に関する相談を受け付けている」としていることを指摘しておきたいと思います。

6. 労働安全衛生法施行令の改正・公布

 厚生労働省は9月19日に、労働政策審議会に対して、「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令案要綱(石綿関係)」についての諮問を行い、同日開催された安全衛生分科会において、妥当と認めることが了承されました。厚生労働省では、即日、「『労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令案要綱』についての労働政策審議会の答申について」発表を行っています(21頁参照)。
 この段階で、施行期日を2004年10月1日とすることが明示されました。分科会では、「既に建材等に使われ存在している石綿の危険性を広く周知する必要がある」、「スムースに代替品に移行できるようお願いする」等の意見が出されています。
 以上を受けて、政府は、2003年10月16日 「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(平成15年政令第457号)」を公布するに至ったわけです。
10月30日付けで、改正政令を解説する、基発第1030007号厚生労働省労働基準局長通達「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令の施行について」も発出されています。
 改正の内容は、以下のとおりです。(禁止される石綿含有製品の数が10種類になっていますが、これは、「摩擦材(ブレーキ・クラッチ)」を4種類に細分化したためです。)

 石綿(アモサイト及びクロシドライトを除く。)をその重量の1パーセントを超えて含有する以下に掲げる製品を、製造し、輸入し、譲渡し、提供し、又は使用してはならない。
@ 石綿セメント円筒
A 押出成形セメント板
B 住宅屋根用化粧スレート
C 繊維強化セメント板
D 窯業系サイディング
E クラッチフェーシング
F クラッチライニング
G ブレーキパッド
H ブレーキライニング
I 接着剤

7. 石綿関連疾患労災認定基準の改正

 「『労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令案要綱』についての労働政策審議会の答申について」発表を行った(化学物質調査課が担当)同じ9月19日に、厚生労働省は、「石綿による疾病の認定基準の改正について」も発表を行っています(24頁参照、こちらの担当は補償課職業病認定対策室)。
 厚生労働省が「石綿ばく露労働者に発生した認定基準に関する検討会」を、2002年10月29日に参集し、石綿対策全国連では同年12月3日に、「『石綿ばく露労働者に発生した疾病の認定基準』見直しに係る要請」(アスベスト対策情報No.32-110頁参照)を厚生労働省に提出、この「要請」が同年12月25日に開催された同検討会の第2回会合に報告されたことは、第16回総会で報告したとおりです。
 同検討会は、2003年8月8日までに7回の会合を持ち(第2〜3回会合は、「個別症例検討のため非公開」)、公開された会合には毎回、全国連の関係者らが傍聴を行いました。8月26日になって、「石綿ばく露労働者に発生した認定基準に関する検討会報告書」が公表されました(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/08/s0826-4.html参照。同検討会の議事録・資料等については、http://www.mhlw.go.jp/shingi/other.html#roudouで入手できます)。
 新しい労災認定基準は、平成15年9月19日付け基発第0919001号「石綿による疾病の認定基準について」(26頁参照)及び同日付け基労補発第0919001号「石綿による疾病の認定基準の運用上の留意点について」(28頁参照)からなっていますが、後者で、「改正認定基準のより正確な理解のため、『石綿ばく露労働者に発生した認定基準に関する検討会報告書』を活用するものとする」と明記されており、報告書の内容を含めて一体的に運用されるものと予想されます。
 今回の認定基準改正は、この報告書を踏まえたもので、主な内容は以下のとおりです。
@ 過去の労災認定事例等を踏まえて、「石綿ばく露作業」の例示を追加し、分類・整理し直したこと。
とくに、「石綿又は石綿製品を直接取扱う作業の周辺等において、間接的なばく露を受ける可能性のある作業」を追加したことが大きな特徴です。
また、基労補通達で、「中皮腫は低濃度ばく露でも発症することがある」と解説して、「特に、石綿を不純物として含有する鉱物等の取扱い作業及び間接的なばく露を受けた可能性のある作業については、労働者等が、石綿にばく露していたことを認識していない場合があることに留意の上、職業ばく露歴の調査に当たること」と指示している。このような作業の労災認定事例として、石筆(原料のタルク(滑石)に石綿含有)を用いたけがき作業と、造船所内の玉掛け作業で間接ばく露(溶接工場等石綿取扱現場あり)の例を挙げています。
基労補通達では、(1)「石綿ばく露歴チェック表」の活用も指示されており、また、検討会報告書にも、(2)「主な業種別に、中皮腫を発症し得る職業性石綿ばく露の機会」や(3)「ドイツにおける石綿利用/ばく露状況とその職業(仮訳)」等が紹介されており、参考になります。
(2)では、「石綿吹付け場所での作業」も列挙されており、「石綿が吹付けられてきた場所で電気配線やエレベーター・変圧器などを設置する際に、吹付け石綿を削ったり、穴空け作業をしたりすることにより石綿ばく露を受け、中皮腫に罹患した例もわが国で経験されている」と記述されています。作業場所に石綿が吹き付けられていることは明らかであるものの、「吹付け石綿を削ったり、穴空け作業をした」かどうかがはっきりしないようなケースが、今後の争点のひとつになってくるかもしれません。
A 石綿との関連が明らかな疾病のうち、「中皮腫」について、従来から明示されていた「胸膜、腹膜の中皮腫」に、「心膜、精巣鞘膜の中皮腫」を追加したこと。
「ここに掲げた4つの部位以外の部位に中皮腫が発症することは極めてまれ」とされていることからもわかるように、いずこの部位に発症した中皮腫であっても石綿との関連が明らかな疾病として取り扱うという趣旨だと理解されます。
しかし一方で、新しい認定基準のもとでは、原発部位を特定することを含めて、中皮腫という診断の妥当性(確からしさ)が、従来以上に求められる可能性が大きいことが予想されます。とくに現実にはしばしま見受けられる、「部位記載なし」の中皮腫や「部位不明」という診断の場合には、「診断精度そのものに疑義がある場合も想定される」とされています(検討会報告書)。検討会報告書が、「中皮腫の診断に際しては、病理組織学的所見は必須であり、中皮腫の原発部位も明記されるべきである」と指摘していることに、留意する必要があります。
B 業務上認定の要件としての「石綿ばく露作業従事期間」についても、中皮腫の場合には、「5年以上」から「1年以上」に短縮されました。 肺がんの場合の、「10年以上」という要件は変更されていません。これも、検討会報告書で、「ばく露状況等によっては、1年より短いばく露期間での中皮腫発症も否定し得ないものと考える」としていることに留意する必要があり、具体的には、本省と協議して個別に判断されることとなりますが、「1年未満」では認定されないということではありません。
C 業務上認定の要件としての「医学的所見」については、以下の3つに整理されました。「医学的所見」の要件は中皮腫・肺がんどちらの場合も同一で、「石綿ばく露作業従事期間」の要件が異なるというかたちです。
(1) 胸部X線写真像第1型以上の石綿肺の所見が得られていること(「石綿肺」とは、石綿による間質性肺炎・腺維症であり、単なる不整形陰影を呈する「じん肺所見」ではなく、診断には明確な石綿ばく露歴が不可欠、とされていることに留意)
(2) 胸部X線、胸部CT検査、胸腔鏡検査、開胸検査または剖検により「胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)」が認められること
(3) 肺組織内に「石綿小体または石綿繊維」が認められること((1)(2)のいずれも認められない場合において、石綿ばく露歴を推定し得る重要な指標。石綿の職業ばく露の機会があったにもかかわらず、石綿小体が検出されない場合には、分析透過型電子顕微鏡による検索が必要―必要な場合には本省照会―とされていることに留意)
「胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)」の鑑別、「石綿小体または石綿繊維」の検索について、医療機関・医療関係者に周知がなされるかどうかが、今後の最大の課題だと思われます。
ただし、(1)胸部X線写真所見に関して、肺がんと中皮腫の双方について旧認定基準にあった、「地方じん肺診査医の判定によりエックス線写真の像が第1型には至っていないが石綿肺の所見があると認められる者」については、第1型以上の石綿肺有所見者と「同様に取り扱うこと」という記載が削られてしまいました。この点については、検討会報告書で提言されているわけでもないのに、「改悪」になってしまっています。石綿対策全国連が要請した、「胸部X線写真で石綿肺と考えられる不整形陰影0/1以上の場合は、5年以上のアスベスト曝露歴に相当すると考えられるので、曝露歴の長さに関わらず認定すること」を含めて、整理が必要と思われます。
D 石綿との関連が明らかな疾病として、石綿肺、肺がん、中皮腫以外に、「良性石綿胸水」(診断には3年間の経過観察が必要)、「びまん性胸膜肥厚」(著しい肺機能障害等で要療養事案のみ)を追加したこと。具体的取り扱いについては、本省に協議して、個別事案ごとに認定されることになりますが、検討会報告書に、ここで疾病名の後に括弧書きした内容を含めて、診断及び業務上外判定の留意点となるような事項が記述されているので留意する必要があります。
現実の医療現場は、中皮腫も含めてここで挙げられた「石綿との関連が明らかな疾病」についての理解自体がまだまだ不十分な状況にあると考えられ、医療機関・医療関係者に周知が何よりも今後の課題となっています。

8. 国土交通・文部化学・環境・経済産業四省交渉

 アスベスト禁止導入をめぐる以上のような動きの中で、例年、5・6月を中心に、厚生労働省を筆頭に行ってきた関係省庁交渉は、厚生労働省については省内の方針が固まるのを待って行うこととして、まず7月23日に、国土交通省、文部科学省、環境省、9月5日に、経済産業省との交渉を行いました(詳しい交渉記録は、45頁以下を参照してください)。

@ 国土交通省
 アスベスト含有建材の使用等が2004年10月1日から施行されるのにともなって、建築基準法施行令(3箇所)・告示(10箇所)に残されたアスベスト含有建材の例示も削除されることになります。これも規制の新設・改廃に該当するので、改正にあたってはあらためてパブリック・コメントを実施するとのことでした。
 建築基準法は、歌舞伎町のビル火災事故を契機に、建物の所有者に建物の適正な維持管理を促すことを目的とした定期報告制度に関する改正が行われており、国土交通省(住宅局建築指導課)では、改正法の周知のなかでも、防火被覆等に使われているアスベストの管理状況についても注意を促すようにしたいということでした。
しかし、その後の調査によると、現実には十分な注意が促されていないどころか、独自にアスベストの管理も盛り込んでいた地方自治体で、法改正を機にチェックが後退する例もみられており、「何かのついでに注意を促す」という姿勢ではなく、国土交通省の所管している様々な法制度等を駆使した建築物の既存アスベスト対策の確立が望まれています。
 アスベスト被害は主に労働環境曝露によるものであって、居住環境のみの曝露では健康被害は生じない―したがって国土交通省の所管する事項ではないという認識がどうも伏線にあるということが、今回の交渉で浮き彫りになったような気がします。
国土交通省(官庁営繕部)自らが発注者となる官庁営繕直轄工事については、「先導的立場」ということから、法令の要求事項を超える対策を「共通仕様書」に組み入れてきています。2002年に「建築改修工事共通仕様書(平成14年版)」が改訂されたばかりですが、2004年度にも再び改訂する予定とのことでした。ここ数年官庁営繕部からは、法規制の対象となる「吹き付けアスベスト」及び対象外の「非飛散性アスベスト」の双方について、毎年度の改修工事の実績数字の調査結果が示されていますが、学校の吹き付けアスベストが問題となった(いわゆる「学校パニック」)1987年度に初めて実施された吹き付けアスベストの実態把握調査についても、官庁営繕部では、継続して状況を把握しているとのことで、最終調査は2002年度となっていることも判明しました。

A 文部科学省
 文部科学省とは久しぶりの交渉を行いました。東京都文京区の保育園の違法工事や練馬区の小中学校に吹き付けアスベストを放置されたままの教室が多数残されているなどの問題が注目を集めつつあったなかで、「学校パニック」当時の調査・対策の問題点といま取り組むべき課題を確認しようとしたのですが、入口のところで、「陳情は1団体年1回30分」ということになっている等と、大きな制限を付けられてしまいました。
 要請事項も削らざるを得ず、その分要請書前文で、過去の経過と現状の問題点をできるだけわかりやすく述べたつもりでしたが、文部科学省の姿勢は、半ば予想どおり、1987年後半にとった一連の対策によって、アスベスト問題は「措置済み」の問題であり、その後重要な法改正等も行われてきているものの、それらの内容を周知徹底することもないまま、「法律を守って適切に行われているはず」と考えているというものでした。
 しかし、1987年当時の調査自体が不十分きわまりないものだった上に、封じ込めや囲い込み等によって吹き付けアスベストがそのまま残された場合であっても、「措置済み」とされて、調査資料は(国土交通省の官庁営繕部とは異なり)文書保存年限も切れて残されても、引き継がれてもいない、さらにこの間重ねられてきたアスベスト関連の法令改正や前述の「共通仕様書」の改訂等も周知されないまま、児童や生徒等を危険にさらす違法工事すらまかり通っているというのが実態です。
そのような実態を認識・把握するよう迫りましたが、理解したというには程遠い状況でした。
 その後、練馬区の問題等が度々マスコミでも取り上げられるに至って、2003年10月1日に、文部科学省の大臣官房文教施設部施設企画課と初等中等教育局施設助成課は連名で、都道府県教育委員会施設主管課宛てに、「学校におけるアスベスト(石綿)対策について」という事務連絡を出しています(64頁参照。写真は練馬区内の小学校の吹き付けアスベストを視察する永倉冬氏事務局次長)。
 これは、言わば約15年にも及ぶ空白を一片の通知をもって埋めて、一般的に関係法令や関係省庁の通知等を遵守するよう指示しているだけで、過去何が不十分であって、いま何が問題になっているのかを明らかにしているものではありません。他の省と比べても、文部科学省の認識ははなはだしく遅れていると言わざるを得ません。

B 環境省
 厚生労働省による「原則禁止」導入の動きが追い風となって、環境行政においても新たな動きがみられています。
 ひとつは、大気汚染防止法に関連して、従来規制の対象としてこなかった吹き付け石綿以外の石綿含有建材について、建築物の解体・改修工事にともなう石綿飛散濃度の測定と石綿飛散防止対策技術調査が進められていることです。(調査を実施する前に、私たちの意見や要望を反映させるよう再三要請していますが、話が調査実施後になりがちなところは問題です)。
 また、廃棄物処理法の関連でも、現行法上「非飛散性」とされている石綿含有スレート板等の廃棄物処分場における挙動を調べる調査が行われています。「石綿含有スレート板の適正処理ガイドラインの作成」を念頭に置いているとも伝えられているところですが、調査結果を待って対応を検討していきたいとのことでした。
 いずれの動きも、現在、吹き付けアスベストのみにほぼ限定されている環境行政上の法規制の対象を、国土交通省官庁営繕部の「共通仕様書」と同様に、アスベスト成形板等のアスベスト含有建材にひろげる可能性もないとは言えません。この際、規制対象を拡大すること、及び、各省にまたがる法規制の整合性を高めることが求められています。
 化学物質管理促進法に基づく、PRTR(特定化学物質の環境への排出量の把握)制度実施後、初(2001年度分)の排出量・移動量の結果が公表されています。パブリックコメント手続における石綿対策全国連等の意見が採用されて、アスベストも対象物質に加えられているわけですが、事業者による推計・届出、国による推計いずれの部分についても、一層の評価と分析、さらなる改善が必要です。

C 経済産業省
 今年の経済産業省との交渉は、要望に対する回答だけで予定の1時間をほぼ使いきられてしまい、目立ったやりとりはすることができませんでした。

9. 厚生労働省交渉

 アスベスト「原則禁止」導入にかかる方針が固まるのを見定めながら、厚生労働省とは、10月24日に、昨年同様、2時間の時間と2部屋分のスペースを確保して、交渉を実施しました。
 昨年に引き続いて、全国から患者・家族の参加を呼びかけた結果、5名の遺族と、中皮腫、肺がん、石綿肺に罹患した被災者9名を含めた25名の方々が参加していただきました。(詳しい交渉記録は、86頁以下を参照してください)
 要望事項は、大きく、@アスベストの早期全面禁止、A健康被害対策、B既存アスベスト対策、C総合対策、の4つに分けた、「原則禁止」導入を踏まえた今後の総合的・抜本的対策の確立を迫るものでした。
 @に関しては、今回禁止されなかった石綿含有製品について、厚生労働省も放置しておいてよいという考えではないようなので、早期全面禁止に向けた具体的作業を一層促したいと思います。国際的にも、ILO石綿条約の見直しが行われるのならば、安全確保上支障のないものについては原則使用禁止という基本方針に基づいて対応すると明言しました。
 しかし、AとBを二本の柱とした、抜本的・総合的対策の確立については、問題意識がまったく希薄と言わざるを得ません。 とくに今回は、労働基準行政という枠内だけではなく、厚生労働省全体として、国民の健康という立場から、中皮腫・肺がんをはじめとしたアスベスト関連疾患の今後の増加に対処する抜本的・総合的対策の確立に着手すべきであると迫りました。
 アスベスト曝露に特異的な疾病である中皮腫による死亡者は、人口動態統計によると昨(2002)年810人(108頁参照)。石綿肺がんによる死者がその2倍とすると、アスベストがんですでに年間2,400人殺されていることになり、今後激増することが予測されています。これを国民の健康に対する重大な脅威ととらえ、「対がん戦略」に位置づけることを含めて、中皮腫・石綿関連疾患の健康、医療、福祉等に係る総合的対策を、医療関係者のみならず、被災者、家族や支援NPO等を含めて早急に検討することを求めたのです。とくに、被災者の数がまだこのレベルにとどまっている今だからこそできる、中皮腫の全例実態調査を実施して今後に活かすことが重要だと訴えました。
 しかし、事前に窓口となった大臣官房総務課との間で、答えられる部署がない、出席者の誰かにその旨を答えてもらいたい、それを答えられる部署もない、等々といったやりとりがあったあげく、交渉前日になって、FAXで以下のようなメモが届けられました。
 「明日24日に予定されている要請については、電話でもお話させていただきましたが、要請項目の『II 健康被害対策』については、厚生労働省におけるアスベスト関連疾患の対策は労災関係の対策が主であります。
 アスベストに限定しての全体的な対策は厚生労働省として行ってはおりません。そのため、要請項目の全てに厚生労働省としてはお答えはできませんので該当する要請項目についてご連絡させていただきます。
1. 『要請項目の1及び2』は、健康局では一般的ながん対策について、労働基準局では職業関連がん対策について対応します。
2. 『要請項目の3及び9』は、全省庁的な対策についての要請であり、環境省が中心となって対策が講じられるものと考えております。
アスベスト関連疾患は原因が職業関連が主であり、現在、一般の方が広くかかる病気ではありません。そのため、厚生労働省では労災関係での対策は行っておりますが全体的な対策を行っているわけではありません。
したがいまして、現段階で厚生労働省としてお答えすることはできませんのでご了承願います。
3. 『要請項目4』は、労災認定基準関係の周知の部分については労働基準局で対応しますが、その以外の要請については上記2.のとおりでありお答えできませんのでご了承願います。」
 これには、参加した被災者、遺族のみならず全員が納得できません。「厚生労働省は国民の健康を所管しているのではないのか」。中皮腫と診断されてまさに闘病中のAさんは、「私は死刑宣告されている身です。放っぽっておけということですか」と怒りに声をふるわせました。(しかし回答はなし)
 大臣が率先して「原則禁止」導入を決断した厚生労働省がこのような状態では、縦割り行政の旧弊を排し、省庁の垣根を超えてなされなければならない抜本的・総合的対策の確立に向けては、一層性根を据えて取り組まなければなりません。従来の各省庁交渉の積み重ねだけでは、実現できないと実感させられました。

10. 衆議院選挙にあたって各政党に公開質問状

 2003年11月9日投票の衆議院選挙に向けて、石綿対策全国連は、各政党に対して、「アスベスト対策に関する質問状」を出しました。
この質問状の前文は、@早期全面禁止を実現する必要性、A既存アスベスト対策の必要性、B今後の健康被害対策の必要性、C海外移転の防止と地球規模での取り組みの必要性、Dアスベスト総合対策円卓会議の開催を呼びかけます、という5項目からなっていますが、今年度の関係省庁交渉等も踏まえた、全国連としての現状分析の集大成とも言える内容になっています。
 幸い、民主党、保守新党、社会民主党、日本共産党、公明党、自由民主党(回答到着順)の、質問状を出した6党すべてから回答が寄せられています。
 「貴党自身、アスベスト被災者やその遺・家族の生の声を聞くご用意がおありですか」との問いに対しては、基本的に前向きの返事をいただいています。(質問状と回答の内容については、108頁以下を参照してください)
 前項の厚生労働省交渉について述べたように、今後、省庁の垣根を超えた総合的・抜本的対策の確立を求めていくためには、従来のような関係省庁交渉の積み重ね等だけでは打破できないのではないかと感じているところです。
 そういう意味では、政党や議員に対しても、今後粘り強く働きかけを行っていきたいと考えています。

11. 9月の連続行動からアスベストセンター設立

 2002年10月8-9日に、横須賀のじん肺・アスベスト被災者救済基金と全国労働安全衛生センター連絡会議加盟の全国18団体が、フリーダイヤルを設置して開設した「なくせじん肺・アスベスト被害ホットライン」に、全国から330件もの相談が寄せられたことは、第16回総会で報告したとおりです。
 @中皮腫をはじめアスベスト関連疾患を疑われる相談、Aこれまで相談がなかった地域からの相談、が増えたことが顕著な特徴のひとつであり、その傾向はますます強まっています。
 相談に乗ってくれる労働組合ももたない未組織労働者や退職労働者である場合が圧倒的に多く、そもそも労働者であったかどうか(労働者性)が問題となるケースも少なくありません。被災者本人からの相談であっても、いつ、どこで、どの程度アスベストに曝露したかもよくわからないケースも決して稀ではなく、被災者本人がすでに亡くなっていて、遺族がそれらの事実関係を探り出さなければならない困難は並大抵のものではありません。
 (元の)会社が協力してくれない場合も多々あるほか、すでに会社が存在していない場合もあります。医師や医療機関の、アスベスト関連疾患に対する認識は残念ながらいまだ無きに等しいという状況で、労災認定や補償に協力してもらえるケースの方が例外的と言わざるを得ない現状です。労働基準監督署等の行政機関も、十分な援助を提供できているとは言えません。
 被災者・家族にとっては、アスベスト関連疾患の正確かつ十分な知識、治療、心のケア等の闘病にまつわる諸々の苦難に加えて、労災認定や補償をめぐっても多大な重荷を背負わされているというのが現状です。
 身近に適当な相談窓口のない被災者・家族の相談にいかに対応していくか。予後のきわめて悪い中皮腫の被災者からの相談で、面談して本人から話を聞く間もなく亡くなられてしまったという経験もすでにあり、迅速な相談への対応が求められています。アスベスト関連疾患ならではの医学的あるいは心のケア等の知識を持って相談に対応するという専門性を求められる面もあります。
 さらに言えば、環境アスベスト、市民からの相談に対応できる体制や調査・分析能力の強化なども、切実に求められるようになってきました。
そのような中から 新たなサポート・センターの設立及び同時並行的にいくつかのキャンペーンの構想が持ち上がり、推進されました。
 まず、9月の第4週(21-27日)に池袋の東京芸術劇場展示室で開催された「写真展●静かな時限爆弾=アスベスト被害」です(全国連も実行委員会に加わりました)。すでに横須賀で写真展の実績のあるカメラマン・今井明さんの、東京等で新たに撮影した建設労働者やその家族等の写真も加えて、57点のパネルが展示されましたが、7日間で約600名が会場を訪れる盛況でした。
 写真展3日目、秋分の日の9月23日には、写真展会場近くの豊島区立勤労福祉会館において、「パネルディスカッション: 中皮腫・アスベスト被害―被災者の声と今後の対策」が開催され、これにも予想を上回る120名以上の方々が参加しました。
 パネルでは、悪性胸膜中皮腫で療養中のAさんが、自らの被災体験と思いを語ってくれました。Aさんは、40年前にマリン・ボイラーの製造工場で7年間、ガス溶接作業に従事し、特殊溶接をする際に、除冷と養生のためにアスベストクロスを使っていました。昨年6月、身体に異常を覚え市立病院を受診したところ、胸水が溜まっており、精密検査の結果、悪性胸膜中皮腫と診断されました。40年前のアスベストが原因と知ったときの衝撃、中皮腫という病気の恐さ、なぜ自分がという悔しさ、有効な治療法がないという怒り。インタビュアーの名取雄司医師の問いかけに、Aさんは淡々と答えられました(前頁下写真参照)。
 翌24-25日の両日には、「中皮腫・じん肺・アスベスト被害ホットライン」が開設され、北は網走から南は鹿児島まで全国各地からの相談に電話は鳴りやまず、2日間で180件の相談が寄せられました(写真は名取雄司医師)。健康被害に関する相談が約50件で、そのうち中皮腫が24件―九州2件、四国2件、中国3件、近畿1件、北陸4件、関東甲信越12件、しかも、わずか2週間のうちに2名の方が亡くなられています。
 前述した練馬区の小中学校の吹き付けアスベスト問題等をめぐる一連のマスコミ報道、ホットライン開設を紹介した共同通信配信記事の地方紙掲載、26日にNHKテレビがAさんの話を放映等々も重なり、ホットラインへの全国からの相談につながったばかりでなく、マスコミで取り上げられるたびに写真展を訪れる人数も増え、写真展会場まで相談に出向かれる方も相次ぎました。
 この9月の連続キャンペーンのなかで新たなサポートセンターが事実上立ち上がったといってよいのですが、12月6日に墨田区産業会館ホールにおいて、「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」が正式に設立されました(写真下参照)。代表・名取雄司医師、副代表・平野敏夫医師、事務局長にアスベスト根絶ネットワークの永倉冬史さん、事務所を置く東京労働安全衛生センターの飯田勝康さんが事務局次長、医師・看護士・弁護士等の専門家や労働組合、被災者団体などが支えていくという体制です。東京をベースにしながら支援の手が差し伸べられない全国の被災者・家族、労働者、市民の相談、調査・分析等々、今後の活動に期待したいと思います(同センターのホームページ: http://www.asbestos-center.jp/)。

12. 「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」(仮称)の設立へ

 2002年4月17日に石綿対策全国連は、村山武彦・早稲田大学教授を講師に招き、その1週間前に日本産業衛生学会で発表されたばかりの「わが国における悪性胸膜中皮腫死亡数の将来予測」の緊急報告集会を開きましたが、被害の実態をより理解してもらうために、アスベスト関連疾患で夫を亡くしたふたりのご遺族、古川和子さんと大森華恵子さんに会場で実体験を話していただきました。
 そして翌5月20日に行われた全国連の厚生労働省交渉に、おふたりを含めて全国から遺族10名、石綿肺の被災者3名に参加していただき、初めて、アスベスト疾患の恐ろしさと被災者・家族の苦しみ、悔しさ、願い等を直接、訴えていただきました。
 この一連の行動が、翌6月28日の坂口厚生労働大臣のアスベスト原則禁止導入方針表明に至る政府の決断を後押ししたと評価していますが、同時に前述の2003年2月8日に、初めての全国的な「アスベスト被災者・家族の集い」を開催する気運も醸造されました。何よりそれが、全国の―とりわけ頼れる者もなく孤立させられていた被災者・家族自身の願いでもあったわけです。
 その後、顔と共通の体験を知り合った当事者同士のコミュニケーションは自然に進展し、2003年10月24日の厚生労働省交渉での新たな仲間を迎えての再結集、さらに12月6日の「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」設立総会等々の機会に、主だった顔ぶれが集まったり、連絡をとりあいながら、アスベスト被災者・家族の全国ネットワークを結成する可能性が追求されてきました。
 じん肺のひとつである石綿肺の被災者には、全国じん肺患者同盟という同じ疾病をかかえる仲間が団結する組織があります。私たちはこれまでも、石綿肺被災者の同盟への加盟や支部づくり等に協力してきましたし、また、共通の課題では協力・連携をしてきたところであり、今後も促進していきたいと考えています。
 しかし、現在の日本では、中皮腫や肺がん等、じん綿肺以外のアスベスト疾患被災者やその家族には、残念ながらそのような組織がありません。そのような被災者・家族自らのネットワークとして、相互の親睦と交流、同じ立場にある人々の支援、被災者・家族の立場からの行政等への働きかけなどを目的として、2004年2月7日に「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会(仮称)」が設立されることになりました。石綿肺の患者と家族、アスベスト関連疾患に罹患してはいないアスベスト曝露労働者やその家族をはじめ、会の目的に賛同する個人・団体には賛助会員になって会を支えていただくと同時に、会と緊密に連携しながら共同の取り組みを促進していただくことが期待されています。
 全国連としても、このアスベスト疾患被災者・家族のネットワークに協力、応援していきたいと考えています(写真は2月7日、石綿対策全国連第17回総会後に開催された設立総会での記念写真。近日中にホームページが立ち上がる予定です。http://www.chuuhishu-family.net)。

13. 世界的なアスベストをめぐる動向等

 欧州連合(EU)加盟諸国のアスベスト禁止のデッドラインである2005年1月1日まで1年足らずとなるなか、アスベスト禁止に向かう世界的潮流はますます確実なものになってきていると言えます。日本の原則禁止導入はまさにその流れに乗ったものですし、2004年は、オーストラリアのアスベスト全面禁止発効によって開けました。
 ヨーロッパ・レベルでは、全面禁止導入を踏まえた総合的アスベスト対策の確立がまさに焦点になっており、その一環として、労働者の曝露限界値の0.1繊維/cm3引への引き下げ(日本の現行の作業環境管理濃度は2繊維/cm3で、近く0.15繊維/cm3に引き下げられることが見込まれています)や規制対象範囲を拡張する新指令(「職場におけるアスベスト曝露に関連したリスクからの労働者の防護に関する理事会指令83/477/EECを改正する欧州議会及び理事会指令2003/18/EC」)が採択され、2003年4月15日に発効しています。
 同指令は、「解体又は保守整備作業を開始する前に、使用者は、適当な場合には設備の所有者から情報を得ることにより、アスベストを含有していることが疑われる物を確認するために必要なすべての手順がとられなければならない」としていますが、労働組合や市民団体等は、「アスベストを含有する建築物の公的登録システムの創出」を求めています。
 同指令は、「アスベスト解体または除去作業を実施する前に、企業は、この分野における能力[を有していること]の証拠を提供しなければならない。証拠は、国内の法律及び/または慣行に従って策定しなければならない」としていますが、解体・除去業者のライセンス(免許)制度は各国においてホットな話題であり、同指令はまた、「アスベスト除去作業者向けの実際的ガイドラインが、共同体レベルで開発されなければならない」とも規定しています。
 2003年9月3-6日、ドイツ・ドレスデンにおいて、EUの上級労働監督官会議(SLIC)のイニシアティブによって、EUの全加盟国・加盟予定国の政労使代表等が参加した「2003年欧州アスベスト会議」が開催されました。同会議は、欧州委員会とSLIC、各国の政労使及び国際労働機関(ILO)に対する要請事項を列挙した、「労働者の防護に関するドレスデン宣言」が採択されています。
 同宣言は、「アスベストに関連した健康リスクを根絶することは、欧州の経験を普及し、それを他の諸国のニーズに適合させるということを意味している。2003年欧州アスベスト会議は、究極の目標は、アスベストの生産・使用の地球規模での禁止であるという確信を表明」しています。
 2003年9月12-13日は、草の根の国際会議として、「カナダのアスベスト: 国際的関心」というタイトルを掲げて、オタワの国会議事堂内においてカナダ・アスベスト会議が開催され、石綿対策全国連から2名の代表(古谷事務局長と名取事務局次長)が参加しました(写真参照)。
 日本も含めて世界中で、禁止導入に反対して、「クリソタイル・アスベストの大使」としてふるまってきたカナダ連邦政府のまさにおひざ元でこのような会議が開催されるのは初めてのことであり、また、カナダ・アスベスト産業の本拠地であるケベック州からを含めた、各地のアスベスト被害者・家族がカナダにおける被害の実態を公に語ったのも初めてのことということでした。
 連邦及び各地方政府に対してアスベスト擁護を中止することを求める「決議」が採択されただけでなく、この会議を契機にして、労働組合、市民団体等による「アスベスト禁止カナダ(BAC)」や「ケベック・アスベスト被災者協会(AVAQ)」が設立され、同時に、カナダからアスベストが輸出されているインドやペルー等を含めた世界の草の根の動きとの連帯が築かれたことは特筆すべきことでした。
 2003年12月9-12日には、スイス・ジュネーブのILO本部において、労働衛生に関するILO/WHO合同委員会(JCOH)の第13回会合が開かれましたが、特別の注意を払うことを勧告する世界的な労働安全衛生課題の筆頭として、アスベスト関連疾患を珪肺の根絶に付け加えました(http://www.ilo.org/public/english/protection/safework/health/session13/report.pdf)。ILOで石綿条約の見直しが議論の俎上に乗る日も近いと感じています。
しかしながらすべてが順風満帆というわけではなく、逆流もみられています。
 特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意(PIC)の手続の適用に関するロッテルダム条約の、政府間交渉委員会の第10回会合が、2003年11月17-21日、ジュネーブで開催されました。ここですべてのアスベストがPIC手続の適用対象化学物質とする最終決定がなされるかと見込まれていたのですが、カナダ、ロシア、ウクライナ、中国、ジンバブエ、インド、インドネシア、南アフリカ、エジプト、モロッコの反対によって、クリソタイルに関しての決定のみ先送りされてしまったのです。
 インドでは、インドのアスベスト業界がカナダ等の支援を受けるようなかたちで、アスベスト・セメント製品の使用を維持・拡大することを目的とした国際会議が、2003年11月10-11日にニューデリーで開催されています。中央・地方政府要人への働きかけやクリソタイル・アスベストは安全だと宣伝する一面広告が全国紙に掲載されるなど、アスベスト産業による巻き返しは強まっているということです。

14. 2004年世界アスベスト東京会議の開催準備

 以上のような情勢のなか、世界的なアスベスト問題の行方を左右するアジアで、アスベストに関する世界会議が開けないだろうかという打診があったのは2002年末のことでした。この提案は石綿対策全国連の運営委員会に報告され、物理的可能性等を調査すると同時に、加盟団体においても検討していただくよう要請しました。2003年2月8日に開催された第16回総会では、「早急に実現の可能性を見極め、可能となれば上述した諸課題実現に向けた世論喚起や政府への圧力の一環として、また、アジア・世界規模での禁止の実現に向けた努力の一環として、全力で取り組みます」という方針が確認されました。
 その後、全国連の主要構成組織や関係者の皆様方と協議するなかで、2004年秋を目途に開催をめざすこと、より幅広い人々が参加できるものとするために、組織委員会をつくり、多くの関連機関・団体・学会等の協力を仰ぐことなどが確認されてきました。
 そして、2003年4月30日に、「2004年世界アスベスト東京会議組織委員会」が立ち上がり、10月に第一報、12月末に第二報を発して、2004年11月19-21日の開催に向けて、現在、精力的に準備が進められています。
 全国連としても、「2004年世界アスベスト東京会議(GAC2004)」の成功のために最大限の努力をするだけでなく、この準備を通じて、また、様々な取り組みの成果を世界会議に結び付けていくことによって、アスベスト問題の総合的・抜本的対策の確立に向けて奮闘していきたいと考えています(118頁に第二報を掲載。組織委員会のホームページ: http://park3.wakwak.com/~gac2004/)。

 厚生労働省は以下のリーフレットを作成しています。最寄りの労働基準監督署等またはホームページから入手可能です。
 「石綿含有製品の製造、使用等が禁止となります。」
 http://www.mhlw.go.jp/topics/2003/10/tp1016-1.html
 「『石綿による疾病の認定基準』が改正されました!!」
 http://www.mhlw.go.jp/topics/2003/10/tp1015-1.html

 石綿対策全国連絡会議のホームページ: http://park3.wakwak.com/~banjan/


U 2003年度活動方針


1. アスベスト「原則禁止」の履行監視と早期全面禁止の実現

2. 健康被害対策、既存アスベスト対策を中心とした総合的・抜本的対策の確立に向けた政府・国会等への働きかけ

3. 「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会(仮称)」への協力・応援

4. 「2004年世界アスベスト東京会議」への協力・参加

5. 労働者・市民の取り組みの支援

6. 組織の拡大・強化

7. その他



V 2003年度役員体制案


代表委員 山 口 茂 記 (自治労労働局長)
佐 藤 正 明 (全建総連書記長)
富 山 洋 子 (日本消費者連盟運営委員長)
天 明 佳 臣 (全国安全センター議長)
事務局長 古 谷 杉 郎 (全国安全センター)
同次長 宮 本 一 (全建総連)
伊 藤 彰 信 (全港湾)
永 倉 冬 史 (アスベスト根絶ネットワーク)
名 取 雄 司 (労働者住民医療機関連絡会議)
運営委員 水 口 欣 也 (全造船機械)
西 雅 史 (全建総連)
吉 村 栄 二 (日本消費者連盟)
西 田 隆 重 (神奈川労災職業病センター)
鈴 木 剛 (全国じん肺弁護団連絡会議)
大 内 加寿子 (アスベストについて考える会)
林 充 孝 (じん肺・アスベスト被災者救済基金)
外 山 尚 紀 (東京労働安全衛生センター)
会計監査 仁 木 由紀子 (個人)
信 太 忠 二 (個人)





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