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アスベスト対策情報 No.27
変電所内作業で中皮腫

(2000年2月1日発行)




変電所内作業で悪性中皮腫


飯田勝泰/大森華恵
東京労働安全衛生センター事務局長
/遺族(写真)

[飯田勝泰さん]

お手元の資料(省略)に、「発電所の労働者が悪性胸膜中皮腫で死亡―足立労働基準監督署への労災認定の闘いにご支援を!」という文書がございます。本日、亡くなられた大森国男さんのご遺族の奥様が参加されていますので、私の最初の経過の報告が終わりましたら、ご紹介してご挨拶をいただきたいと思います。

まず、この文書にしたがって簡単にご説明いたします。

荒川区にあります、ある電気会社に勤務する大森さんが、一昨(1997)年の9月から胸部の圧迫感を訴えられて、病院を受診いたしました。当初はわからなかったんですが、胸水からがん細胞が出てきたということで、埼玉県立がんセンターに入院して、療養を開始されました。このH電気というのは、東京電力の下請、実際には孫請の会社です。大森さんは、そこに18年間勤務されました。仕事は何かと申しますと、東京電力の変電設備の保全・清掃作業に従事されていたんです。最初の頃は鉄塔の送電線などの工事もしました。具体的には、変電所の中に入って、トランスルームの中で、トランスの点検ですとか部屋の中の掃除、配電盤の点検、備品交換、そういった作業をずっやっておられました。

変電所というのは、本当に至るところにございまして、街の中住宅街の中にあります。まあ、注意深く見ていないと見落としてしまう、そういうような施設です。

変電所の中には、壁面に大量のアスベストが吹き付けられています。場所によっては「石綿をはがさないように」という表示が掲げられています。今日はOHPで説明いたします。

ある変電所の中のトランスルームの入口です。ドアのところには、ちょっと見にくいんですが、黄色い看板の下に、「アスベストをはがさないように」という注意書きがしてあります(30頁右写真)。ということはこの中に大量のアスベストが吹き付けられているということを示しています。これ(30頁左写真)は内部なんですけれども、見ていただくとわかるように、天井の部分に大量にアスベストが吹き付けられています。最近は開放型の変電設備が多いのですが、昔ながらの古い変電施設の中にはこういった壁面やトランス室の中に大量のアスベストが吹き付けられています。現在もそのままの状態であります。

電力会社の設備ですから、東京電力のほうでも、ドアにそういう表示をしてたりするわけですが、当然その中で作業をする、そしてまた掃除ですとかやりますので、劣化した石綿の粉じんが飛散をする、という状況があったわけです。会社の方では特にそういったことに対して、何らかの防護策をとるということはしておりませんで、真っ黒になって皆さん掃除や作業をされるんで、あまりにもひどいということで5年くらい前から、いわゆる簡易マスクが支給されている程度でした。

変電設備というのは、当然一般の人は全く立ち入れないように、頑丈な柵で囲われています。したがいまして、このような内部には関係者以外、東電の関係者やそこで作業や清掃をされる労働者以外は内部を知ることはないわけです。ですから、一般の近隣の住民の方々は、そういった状況にあることは全く知らない。建物の壁面あるいは天井に、おそらく排気や熱を逃がすためにファンが回っています。そのためにトランスルーム等から、劣化したアスベストの粉じんが飛散している可能性があるんじゃないかと思います。

たとえば、上野のアメ横の商店街の通りの中に、下谷変電所というのが、飲屋街の一角にあります。今度気づいたら見ていただきたいと思いますが、ここもかなりアスベストが内部では大量に吹き付けられていて、全く外からはうかがい知ることができない状況です。

そのまま大森さんは、大宮にある自治医科大学の医療センターに転院をされまして、そこで初めて悪性胸膜中皮腫という診断を受けたわけです。そこの先生の薦めもあり、左肺、そして胸膜の摘出手術を受けられました。しかしその後、あまり病状は思わしくなく、昨(1998)年の3月に残念ながら亡くなったわけです。当然ご遺族としては、生前旦那さんは真っ黒になって帰ってこられていて、アスベストの話もされていたようで、やっぱりアスベスト以外考えられない、ということで労災のことを考えたわけです。

大森さんの職歴を見てみましても、他にこの18年間の職歴以外にアスベストとの接触、あるいは曝露する機会というのは考えられない。ましてご本人は喫煙もされないということで、アスベストによる悪性胸膜中皮腫になったんじゃないかという疑いをもたれました。これはがんセンターの先生のアドバイスもあったと聞いています。

そして、会社の方に労災申請をしたいという話しをされたんですが、会社からは「それは絶対にだめだ、アスベストとは関係ない」ということで、拒絶されました。

やむなくあちらこちらを調べて、最終的には独力で足立の労働基準監督署のほうに労災の申請の手続きをされたということになるんですが、その間、娘さんもいろいろアスベストのことについてもっと知らなければいけないということで、情報を集めまして図書館である本を読んで、その中に私ども東京労働安全衛生センターの名前が出ていて、電話をかけられたというのがお会いするきっかけになったわけです。

その後、現在まで足立の労働基準監督署の方に、労災認定の取り組みということで私どもセンターがとりあえず支援をしながら闘いをすすめている最中です。

やはり今回の場合も、ぜひきちっとした鑑定意見を提出しようというわけで、アメリカのマウントサイナイ医科大学の鈴木康之亮先生に大森さんの肺の組織のプレパラートとブロックをお送りしまして、鑑定を依頼しました。その結果、軽度の職業曝露であって、クリソタイルの量は通常の13倍。悪性胸膜中皮腫という診断に間違いない、という鑑定意見をいただきました。

その意見と、実際にとったアスベスト腺維の像、それがクリソタイルであることを示す検出データ、そういうものを合わせて足立労働基準監督署に現在出しておりまして、交渉を進めています。

現場に行けば一目瞭然であるということで、いくつかの変電所に立ち入り調査をしてほしいということで要求してきまして、一か所、綾瀬の変電所に入ったんですが、そこは比較的吹き付けも少なく―それでも問題なんですが、もっと悪いところがあるということで、現場をきちっと複数確認して、アスベストの曝露についておさえた上で認定をという話を現在してます。しかし、どうやら、やはりそれだけでは判断できない状況で、労働者の方にうかがいをたてる、というような現状です。

現在進行中ではありますけど、街中にある変電設備の中で働いている労働者はたくさんいらっしゃいます。一般の市民の皆さんには全然わからない状況です。そうした中でアスベストが飛散しているという現実がありますので、ぜひこの労災の認定をかちとって、その問題を調べてみたい。これは私だけの希望じゃなくて、ご遺族の希望でもあります。

今日は奥様の大森さんがいらっしゃってますので、ぜひご挨拶のほうをどうぞ。

[大森華恵さん]

すみません…主人の話が出ると…涙が出てしまうものですから…。よろしくお願いします…。

病院にいるときから、労災にするのをやめた方がいい、というのをケースワーカーからも言われて、労災認定の書類を出さないようなかたちをとられていたんですよ。

それと会社からと病院の先生方にも、私に納得できないことがいろいろあって、それでもやっぱりあきらめきれないんで、娘と相談して翌日に検査したんですけれども、私たち個人の意見は採り上げてもらえないんです。

飯田さんに頑張っていただいて、よりよい方へ持っていっていただいているんですけど、やっぱり壁は厚いと思いますね。同じような病気で、一人でも死んでもらいたくないと思うんです。同じような人を出したくない、そういう気持ちを労基署の人にもわかっていただきたいんですけど、なかなか納得いくようにはいかないんですね。

口惜しい思いを何度もしています。それは先ほどお話された方々も同じだと思うんです。私がアスベストの話をしても反応が鈍いんですよ。そんな病気があるの? という程度なんです。だけども、最初はただの肺がんで終わるはずだったんですよ。それを私が納得いかないから、埼玉がんセンターへ行ってもらいたいと無理にお願いして、転院させたんです。そこで悪性中皮腫―アスベストでなる病気だってことを知らされたんですよ。電力会社関係では、今までも同じような病気で亡くなっている方が随分いると思うんですよ。ほんとうの病名が表に出ないで、肺がんということですまされてしまっている人が随分多いと思うんですよ。それではいけないと思います。だから、皆さんに少しでも、アスベストは恐ろしい病気になるということをわかっていただいて、一人でも多くの人に理解していただけたら幸いだと思うんですね。

よろしくお願いします。




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