EUがついにクリソタイル禁止を決定
欧州連合(EU)はついに、ヨーロッパ規模での
クリソタイル・アスベストの禁止を決定した(と言って間違いないだろう)。
5月4日の技術委員会(technical committee)の会合におけるEU加盟15か国による投票の結
果は、ポルトガルとギリシャの2か国を除くすべての加盟国が、クリソタイル・アスベスト禁止の導入
に賛成した。禁止に反対するものと思われていたスペインが賛成に投票したことは、驚きをもって迎
えられているようで、スペインの労働組合等の働きかけの成果と伝えられている。
このクリソタイル・アスベスト禁止の決定は、一
定の危険な物質および製品の流通および使用の制限に関する委員会指令(Council
Directive)76/769/EECの別添T(Annex T)によって指令を技術の進歩(technical
progress)に適合させようというものである(現行のアスベスト禁止に関す
る指令―91/659/EEC(http://europa.eu.int/eur-lex/en/lif/dat/1991/en_391L0659.html
で入手できる)も同じ手続による指令である。なお、この
1991年の指令によってすでに、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)は全面禁止、クリソタ
イル(白石綿)についても、玩具、吹き付け、消費者向けパウダーフォーム、触媒フィルター等、喫
煙用具、塗料、液体用フィルター、道路舗装剤、
等々の用途向けについては禁止されている。今回の決定は、クリソタイルについても、わずかな
例外を除き全面禁止にするということである)。
新しい指令は、欧州委員会(European Com-mission)による承認手続を経て、EUのオフィシャル・ジャーナルに掲載されてから
20日後に発効することになる。欧州委員会による承認はほとんど
形式手続であって、加盟諸国により投票が行われた結果が覆されることはまずないようである。報
道されているように、汚職問題に端を発した前欧州委員会メンバーの総辞職と新たな委員会が決
まったばかりとはいえ、2-3週間のうちに承認されるものと予想されている。
技術の進歩への適合というこの手続によると、
通常さらに12-18か月は必要になる閣僚理事会や欧州議会の審議を経る必要がなく、まさにヨー
ロッパの労働組合、アスベスト被害者団体、市民団体等が要求していた手順に基づく禁止の導入
である。
欧州委員会の最終的な承認手続が終了する までEU自身による正式な発表はないようで、新しい指令案の原文はまだ入手できていないが、加
盟国は、2005年までに国内法等によって、クリソ
タイル・アスベストの禁止を導入しなければならな
い(例外は、期限付きで既存のクロロ-アルカリ・プラント向けのダイヤフラム)ということのようだ。
昨年、アスベスト(禁止)規則を改正して、同様
に残されたクリソタイル・アスベストの禁止を提案したイギリス政府は、このEUの決定を歓迎する
意向を表明している。同時に、イギリスの安全衛生委員会(HSC、政労使三者構成)では、昨年の
アスベスト(禁止)規則改正の提案に対して寄せられた各界からの意見(すなわち改正案に対す
る協議の結果―禁止導入に対して圧倒的な支持が寄せられたという)を受けた対応について討議
する会合を5月11日にもった。
その結果、HSCはイギリス政府に対して、クリ
ソタイル・アスベストの早期禁止を導入するよう勧告した。HSCは5月22日に再度会合をもって最
終的提案を仕上げ、閣議にまわされる予定である。今年10
月からまたは年内に禁止を実行するという情報がある一方で、あるアスベスト・セメン
ト屋根用タイル業者が、代替化のためには2年間必要であり、それ以前に導入したら法的手段に訴
えると主張しているようで、(実施時期に関する)政治的決断の行方が注目される。
一方で、フランス政府が1997年からクリソタイ
ル・アスベスト禁止を導入したことに対して、それ
が貿易に対する技術的障壁(TBT: technical
barri-er for trade)に当たるとして、カナダ政府が昨年5月に世界貿易機関(WTO)に提訴してい
たわけだが、カナダのこの動きもまさに今回のような事態を回避するための必死の努力であった
と言える。
EUとイギリスの決定は、言わばEU全体で明確
にフランスを支持する立場に立つという旗色を鮮明にしたわけで、WTOを舞台にしたTBT紛争も
いよいよ正念場を迎えたことになる。すでに3月29日に、紛争解決手続上のパネル(小委員会)
が設置され、議長は Adrian Macey、他の委員に
William Ehlers と Ake Lindon という3名の委員の氏名だけは伝わっている。
パネルの動向は非公開ということであるが、今
年10月までの議事日程が立てられているという。ヨーロッパからは、フランス・EUをサポートする意
見を可能な限り速やかに各国の政府またはEUに提出するよう呼びかけている(28頁掲載の
Barry Castleman の手紙、この問題に取り組んでいるというアメリカのNGO
アース・ジャスティスのホー
ム
ページ http://www.earthjustice.org も参照のこと)。
イギリス副首相はEUの投票結果を歓迎Department
of the Environment, U.K., 1999.5.4
副首相John Prescottは本日(5月4日)、白アスベストの使用の禁止に関する欧州連合(EU)
投票結果を歓迎すると述べた。
立法として承認され次第この指令を導入したい
という政府の意向を強調したうえで、John Prescottは次のように述べた。
「私は、EUにおける投票の結果を喜んでいる。
それが健康に有害であるという科学的証拠が証明されて以来、イギリス政府の政策は確固として
白アスベストの禁止を支持してきた。今日の投票結果は正しい方向に向けた重要な動きである。
現在代替品が利用可能であり、政府は、できるだ
け早い時期に、この潜在的に致死的な物質の使用を段階的に禁止することを決意している。」
「この問題に対する政府のハードワークは報
われたわけで、私は、この決定からもたらされるであろう将来の安全衛生上の利益について考え
ている。」
「私は、安全衛生委員会(HSC)に対して、この
新しい指令をどのように国内において履行すべきかについて尋ねた。彼らは、最近実施したこの
問題に関する協議手続の結果について考慮す
るだろう。」
「安全衛生委員会と私は、この禁止の履行に
高度の優先順位を与えることを決心している。」
3種類(青、茶、白)のいずれのアスベストへの
曝露も死に至る可能性のある、石綿肺、肺がん、中皮腫などの肺疾患を引き起こす可能性がある。
白アスベストは、現在主として、ブレーキ・ライニング、ガスケット、産業プラント用のシール材、ア
スベスト・セメント、繊維製品等の複合物(アスベスト・グローブ等)に使用されている。
編集者への注
すべての(EU)加盟国は2005年までにこの新
しい指令を履行しなければならない。
この禁止にはひとつの例外があり、それは、現
在のところ代替品が存在しない、既存のクロロ−アルカリ・プラント向けのダイヤフラムに使用され
る白アスベストである。この除外は、2008年以前に再検討される。
この指令は、欧州委員会が法案に署名し、EU
のオフィシャル・ジャーナルに掲載されてから20日後に効力を発することになろう。
* この原文は、http://www.coi.gov.uk/coi/depts/
G
TE/coi4744f.ok で入手可能である。 予防原則の重要な勝利
ANDEVA, FNATH, CAAJ, France, 1999.5.5
5月4日の火曜日、欧州共同体の委員会は、 いまだに禁止されていなかったすべてのクリソタイル・アスベストの流通および使用を禁止する指
令を採択した。新しい指令の第2条によれば、加盟国は、2005年1月1日までに新しい条文に従
わなければならない。
最近の疫学的研究によって、ヨーロッパの男性
人口のなかで250,000人が、アスベストに独特ながんである中皮腫によって死亡するだろうと推定
されており、今回の決定は、予防原則(principle
of precaution)の適用の重要な勝利である。
この決定は多数決で行われ、全世界に―まず
最初にまだアスベストを禁止していない欧州共同体諸国(ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペ
イン、イギリス)に、次いでアスベスト業界が強力に市場を開拓している開発途上諸国に対して、明
確なメッセージを送っている。そして最後に、この決定は、自国の鉱山産業とアスベスト輸出による
利益を維持するために、アスベスト禁止は自由貿易に対する障壁だとして世界貿易機関(WTO)を
通じてフランスを攻撃しているカナダ政府の努力を打ち負かすものである。
1991年に、最初のヨーロッパにおけるアスベ
スト禁止の提案が、フランス、とくにアスベスト常
任委員会の動きによって阻止された。ANDEVA(アスベスト被害者擁護全国会)、FNATH(労働
災害被災者全国協議会)、Comite Anti Amiante
Jusseieu(反アスベスト・ジュッシュー(パリ大学第7分校)委員会)は、フランス政府の姿勢を変えさ
せる諸団体の取り組みと世論が成功し、EUが公衆の健康の利益が経済的利益よりもまさるという
決定をしたことを喜んでいる。
一方、今朝の記者会見の場で、ANDEVAは、 アスベスト被災者が十分な補償を受けられるようにするために、犯罪被害補償委員会(Indemni-
sation Commission for Victims of Crimes)における手続を保証することを提案した。これは、
5人のアスベスト被害者に十分な補償を与えたシェルブールとダンケルク裁判所の最近の判決を受
けたものである。また、補償法の改正を政府が拒否したことを受けたものでもある。
FNATHも同様の戦略を採用することにしたと 発表した。
* これは、フランス語によるプレス・リリースから
英語に翻訳された簡単な要約版の翻訳である。
* 以下は、Marc Hidry氏のコメント
アスベスト常任委員会とは、アスベスト業界が
1982年に設立し、世論によって大きく非難されるようになるまでの間フランスにおける公衆アスベ
スト政策を左右した、巧妙なロビー団体であった(産業界、労働組合の代表、医学専門家、保健、
労働、産業、環境各省の代表者たちを含んでいた)。これは、1996年に、その主要な目的(アスベ
スト禁止を回避すること)を維持できなくなって、消滅した。
犯罪被害補償委員会(Indemnisation Commission
for Victims of Crimes)は、1977年から存在するものの、これまでわずかしか利用
されてこなかった。これは、テロや自動車事故等の被害者で、犯人が簡単にはみつからないか、
責任能力がない場合に、補償を行うために創設された(民事法廷のようなもの)。最近、職業病の
労働災害被災者もこの裁判所経由で補償を得ることができるという破棄裁判所(Courts
de Cassation)の裁定が確定した。疑いなく、保険会社や多数の役人がこの問題にかかわりたがって
いる。
これを活用した最初の裁定は、海軍に雇われ
た水兵に関したもので、シェルブール裁判所は3月25日に、中皮腫罹患で980,000フランを認め
た。2番目の積極的な裁定は、ダンケルク裁判所による、がんと石綿肺に罹患した4人の労働者に
関するものだった。
主なポイントは、以下の2点である。
* 補償の重要性: これは、フランスにおいて、アスベスト被害者が十分な損害賠償を獲得した初
めてのケースだった(彼らは、汚染された血液スキャンダル(薬害エイズ)の被災者と比較して
語られている)。
* この法廷において補償を獲得する条件のひと
つは、犯罪の被害者であることを立証しなければならないことである。フランスの裁判所は、ア
スベスト被害者が犯罪の被害者であることを理解しはじめたように思える。これは、アミソル社
の工場(クレルモン-フェランの近く)の前工場長
を裁判所に出廷させた裁判官の最初の決定と関連があるはずだ。
イギリスHSCは白アスベストの早期禁止を勧告
Health and Safety Commission, U.K., 1999.5.11
本日(5月11日)、安全衛生委員会(HSC)は、
昨年の協議を受けて、白アスベストの輸入、供給および使用の禁止を勧告することを決定した。協
議に対する応答は、適当な代替品が利用可能でない安全面で危険のある用途について例外とす
ることを条件に、禁止を導入する規則に対して圧倒的な支持が寄せられた。
HSCの決定は、2005年までに白アスベストを 禁止するように流通・使用規則を改正するために、欧州共同体加盟諸国が投票を行った1999年5月
4日の技術委員会の会合を受けたものである。EU委員会によって採用されることにより、加盟諸国
が2005年以前に、各国内における禁止を導入することを可能にする。
HSCは安全衛生庁(HSE)に対して、本日の HSCにおける議論および協議で提起されたポイントの両方を踏まえて、国内的禁止のための規則
の起草を仕上げるように指示した。HSCでは、今月末までには、規則についての提案が閣議を通
るだろうと予測している。
EU委員会がいつ指令の改正を正式に採用す るかは、いまだはっきりしていない。採用されれば、オフィシャル・ジャーナルに掲載されてから20日
後に効力を発することになる。
* HSCのプレス・リリースは、インターネット上で
入手することができる(http://www.open.gov.
uk/hse/press/press.htm、この文章は5月12日
現在、まだ掲載されていない)。
アスベストに関するEU経済社会評議会の 見解
Official Journal of the European Communities,
C 138, 1999.5.18
1997年3月19-20日に、経済社会評議会(Eco-
nomic and Social Committee)は、その手続通則(Rules
of Procedure)の規則 23第3パラグラフに基づき、「アスベスト」に関する見解を作成
することを決定した。
この問題に関して評議会の作業を準備する責
任がある雇用・市民権部門(Section for Employ-ment,
Social Affairs, and Citizenship)は、1999年3月4日に、その見解を採択した。報告者は、
Mr Etty だった。
第362回全体会議(plenary session、1999年3月24日)において、経済社会評議会は、以下の
見解を、賛成55票、反対9票、棄権13票で採択した。
第362回全体会議(plenary session、1999年3月24日)において、経済社会評議会は、以下の
見解を、賛成55票、反対9票、棄権13票で採択した。
1. 序言
1.1. アスベストは、EUにおいてはずっと以前か
らすでに、証明された人間に対する発がん物質である。関連するEUの法令は、1983年か
ら導入されている。
1.2. 評議会(Committee)は、以前のいくつかの
アスベストに関する見解およびアスベスト関連法令において、すべてのタイプのアスベストに
発がん性があるという(欧州)委員会(Commi-ssion)の見解を支持してきた。また、「アスベス
トの有害性に対して『安全』な曝露レベルを設定することは不可能である(…)」と主張してきた。
非常に少ない量であってもがんを引き起こすことができる。それゆえ、真に「安全」な解決策
は、アスベストを禁止することだけである。アスベストに対して設定される限界値(limit
values)は、(…) 科学的知見に基づいた「安全」基準とみなされるべきではなく、むしろ、健康以外の
要素が一定の役を果たす比較考量過程の結果と考えた方がよい(1)。新たな科学的知見に基 づいて、より厳しい限界値が組織的に設定されてきた。
1.3. アスベストによって引き起こされる深刻な、概
して致死的な疾病(いくつかの種類のがん、石綿肺等)は、曝露から何年も(5-10年あるいは
それ以上)たってからでないと顕在化してこない。過去数十年間の防護のための法令の存在に
もかかわらず、科学的知見に基づくアスベスト関連疾患の発生予測は、いまなお警戒心を抱
かせるものである。例えば、オランダの社会問題・雇用省が委託した最近の調査では、オラン
ダにおいて今後35年間に40,000件のアスベスト関連疾患が診断されるだろうとしている。
1945-1995年の間に、オランダ国内で約10,000人の労働者が、工場での原料のアスベストの
取り扱いによってアスベストに曝露したと推計されている。さらに、330,000人の労働者が、ア
スベスト含有物質・製品を取り扱い、直接にまたは間接的にアスベストに曝露した。19,000件
の胸膜中皮腫および19,000件のアスベスト関連肺がんの発生が予測されている (2)。指導的な専門家である Dr. J. Petoのごく最近の論文では、今後35年以上の間に西ヨーロッパにお
いて25万人の人々がアスベスト関連中皮腫によって死亡するだろうとしている。Petoの研究は、
ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、オランダ、スイスの6か国に焦点を当てている (3)(1999年4月号29頁も参照)。
1.4. EUにおいては、3種類の商業的に使用され
ているアスベスト繊維のうち2種類(青、茶アスベスト)とその含有製品だけが、1986年1月か
ら完全に禁止されている。白アスベスト(クリソタイル)は、14種類の製品カテゴリーについて
は禁止されているが、アスベスト・セメント製品
(水道管、屋根材、壁外装材等、使用量の約85
%)、摩擦材(フリクション、9%)、織物、シール材、ガスケット(6%)、および医療用フィルター
のような非常に特殊な用途向けにわずかな量が、いまなお使用されている。
1.5. 9か国の加盟諸国(オーストリア、ベルギー、
デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スウェーデン)が現在、アスベ
ストの新たな使用(first use)(製造、輸送、販売、輸入および流通)の(例外付き)禁止を課
している。アイルランドとルクセンブルグは、原則的に禁止を支持している。イギリス政府は現
在、禁止の導入についての諮問を行っている。重要なアスベスト・セメント産業を有している国
である、ギリシャ、ポルトガルおよびスペインの政府は、なお現状維持をのぞんでいる。彼らは、
他の加盟諸国の姿勢の基礎になっている科学的論拠は容認しがたいと言い、禁止によるマイ
ナスの経済的影響を強調している。
1.6. 労働者および消費者に対するリスクだけで
なく、アスベストの新たな使用に関しては、現存するアスベスト―とりわけ建築物内―の解体、
保守、修繕、電気・配管工事による、EU域内の労働者および一般公衆の曝露がある。これ
らの状況および作業に関連したEU法令も施行されている。
1.7. 最後に、(郊外の)道路の補修に使用される
(アスベスト産業や解体工事による)アスベスト含有廃棄物、およびアスベスト・セメント管の劣
化による、環境(大気、水質)汚染の問題がある。この分野でもEU法令が存在する。
2. この自発的な見解の動機
2.1. (白アスベストを含め)アスベスト曝露による
有害な、かつしばしば致死的な影響に関する圧倒的な科学的証拠が存在する。
2.2. 現行のEU法令とその執行体制は、労働者
および一般公衆を十分に防護していないと考えなければならない。第1に、前述したように、
アスベストの有害性に対して安全な曝露限界を
設定することは不可能であるという根本的な問
題がある。第2に、専門家は、アスベストまたはアスベスト含有製品を取り扱いまたは使用する
労働者その他の曝露を管理することは困難であると考えていることである。EU法令によって
設定された限界値を、しばしば上回っている実態がある。
2.3. 評議会はまた、現在の経過措置(deroga-
tions)はあまりにも広すぎ、まったくアスベストを使用する必要がない場合やより安全な代替
品が利用可能な場合においても、不必要なアスベストの輸入および使用を認めてしまってい
ると考えている。多くの場合、これらの経過措置をいまも使用し続けているのはわずかな加
盟国だけであって、一定の時期にそれが必要であったとしても―いくつかの加盟諸国ではそ
れを初期の段階に用いた―これはそう長くかかることではないと思われる。
2.3.1. しかしながら、そのような経過措置は、同
等の代替品が入手できない場合にのみ許されるべきであると考える。ほとんどすべての場合
においてそういう代替品は存在するわけであるから、経過措置は必要でないにもかかわら
ず、実際問題として相対的に大量または少量使用されているという奇妙な状況に置かれている
(例えば、ある加盟国は独特な経過措置を設けているが、それが使われたことは8回だけであ
る)。委員会は、適当な代替品が存在する場合には、経過措置は不必要であり、やめるべきで
あると考える。
2.3.2. 評議会はまた、経過措置が認められるか
どうかを決定するのに用いられる科学の役割は、それが、そのアスベスト含有製品が使用さ
れてから時が経過して、すでに一定使用し続けられあるいは劣化しつつある状態よりも、製造
段階や初期の段階のみを扱ってきたことによって価値を損なってきたと考えている。EUのいた
るところで、完全な状態ではまったく安全なアスベスト含有製品が、意図的にそうさせられてい
ようとなかろうと、ぼろぼろになり、労働およびより広い環境中に繊維を飛散させつつあ
るのである。
2.4. 9か国の加盟諸国がアスベストの新たな使用
の禁止に賛成しているというEUにおける現在の状況は、EUの白アスベストを禁止するとい
う政策に対して、明らかな有効過半数があるということである。
2.5. 産業界は、アスベストよりも相対的に安全と
判定される、規制に適合する代替品の開発において、大きな進歩を遂げてきた (4)。欧州委員会が委託した研究は、現在では、白アスベスト
のほとんどすべての用途に対して、ポリビニルアルコール繊維、セルロース、パラ-アラミッド
のような、相対的に危険性が少ないと考えられる利用可能な代替物質が存在する (5)(1998年12月号38頁参照)。
2.6. 評議会は、これらの点を考慮に入れて、欧
州委員会がきわめて近い将来に白アスベストの新たな使用を禁止する意向を表明したことを
歓迎する。伝えられるところでは、この禁止においては、ごく限られた数の経過措置しか許さ
れないとのことである。これは、「一定の危険な物質および製品の流通および使用の制限に
関する、加盟諸国の法律、規則、行政上の規定の適合に関する理事会指令76/769/EEC」
の別添T(http://europa.eu.int/eur-lex/en/lif/dat/1991/en_391L0659.htmlで入手できる)の
改正という立法形式をとることになるだろう。それは、移行期間(transitional
periods)に関する規定を含むことになるだろう。
2.6.1. 明らかに、白アスベストの新たな使用の禁
止は、ギリシャ、ポルトガル、スペインのアスベスト・セメント産業に重大な影響を及ぼすことに
なるだろう。評議会は、この問題に関する見解を表明しておきたい。
2.7. 1998年4月7日の社会問題閣僚理事会 (Council)は、労働者のアスベスト曝露に関する現行の管理を強化することを求めた。アスベ
ストの流通および使用を全面禁止あるいはきびしく制限する指令は、正しい方向に向けた重
要な一歩になるであろう。しかしながら、それは、今後数十年間にわたって残り続けるであろうEU
における現存のアスベストによって引き起こさ
れる多くの諸問題を取り扱うものではない。これらの問題は、別途もう一度取り組まれなけれ
ばならない。
2.8. 評議会がこの自発的な見解を提示するにい
たった別の理由は、白アスベストの世界最大の輸出国であるカナダが、フランスのクリソタイル
禁止決定に対して世界貿易機関(WTO)にフランスを相手取って提訴を申し立てたことであ
る。この提訴は、輸入の禁止を含んだアスベストおよびアスベスト含有製品の禁止に関してフ
ランスがとった措置、とりわけ1996年12月24日の政令(Decree)に標的を当てている。カナ
ダは、1998年5月28日の提訴(WT/DS 135―1998年10月号19頁)の中で、これらの措置は、衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS)
第2、3および5条、貿易の技術的障壁に関する協定(TBT)第2条、1994年の関税及び貿易
に関する一般協定(GATT)第U、XIおよびXV条に違反していると主張している。カナダはま
た、これらの協定のもとで得るべき利益の無効化と侵害を主張している。もしカナダがこの提
訴に成功すれば、関連するEU法令に対してきわめて好ましくない結果をもたらすことになる。
2.9. 最後に、評議会のイニシアティブは、いくつ
かの―おそらくはすべての(EU)加盟候補諸国における状況に対する関心に動機づけられて
いる。中央・東ヨーロッパ諸国においては、非常に長い期間、アスベストに曝露する労働者
の健康影響についてわずかな関心しか払われてこなかった。ほとんど確実に、大量のアスベ
スト含有製品がビルディングや建築物に使用されてきている。そこから多くの諸問題が―大
きなスケールで、これらの諸国に存在していると思われる。欧州委員会によれば、いくつかの
加盟候補諸国は最近、アスベスト曝露の影響からの労働者の防護に関する規制的措置を開
始したという。
3. EU加盟諸国における現在の国内法令(とくに経過措置に関して)
3.1. ヨーロッパ法によって認められている主要な
経過措置は、アスベスト・セメント製品、シール材・ガスケット、摩擦材(フリクション)、である。
各加盟諸国においては、特定の製品について多くの細かい経過措置が設けられているが、
全般的には、状況は以下のとおりである。すなわち、以下で言及はしないがある国では、適当
なより安全な代替品が存在しない製品について一般的に経過措置を認め、以下に述べる諸
国は、完全に使用を禁止するか、ごく限定された経過措置を許しているだけか、である。
3.2. ドイツ、イタリア、オーストリア(水道管につい
ては例外)においては、アスベスト・セメントに対する経過措置は、1994年ないし1995年に
終了した。デンマーク、フィンランド、オランダ、スウェーデンにおいては、より以前からすでに
その使用が禁止されている。フランスでは、1997年から使用が禁止された。7か国の加盟諸国
はいまもアスベスト・セメントに対する一般的な経過措置を認めている。
3.3. シール材およびガスケットに対する経過措置
は、多くの諸国で認められている―デンマーク(高圧と高温が併存した状況向けに)、フィンラ
ンド、オランダ(デンマークと同じ)、スウェーデン(同前)―しかし、オーストリア(1993年)、ドイ
ツ(既存プラントのクロロ-アルカリ電解槽の隔膜(ダイアフラム)については例外)、イタリアに
おいてはすでに終了している。経過措置が認められていたとしても、個々のケースにおいて
は、利用可能であれば代替品を使用しなければならない。8か国の加盟諸国においてのみ、
一般的な例外措置を認めている。
3.4. 摩擦材(フリクション)に対する経過措置(1999
年1月1日から禁止された)は、デンマーク(代替品が存在しない場合と1988年以前に登録さ
れた車両に装備されたもののみ)、フィンランド(同等の代替品が利用できない場合)、フラン
ス、オランダ(一定の重量輸送用車両)、スウェーデン(同等の代替品がない場合)、ドイツ(鉄道
のクラッチ・ライニング向けのもののみ)、イタリアで認められている。9か国の加盟諸国で最近まで一般的な例外措置があった。
3.5. 2.3項で述べた評議会の本見解の動機に加
えて、現行のヨーロッパ法令の現実の履行状況についても関心をもっている。EUにおける経
験が不足しており、加盟諸国における履行状況を監視・管理する能力は多くの場合十分では
ないことが懸念される。
4. アスベストの代替品
4.1. より安全な代替品が利用可能であれば、経
過措置を残しておく必要はない(とりわけ多くの経過措置が、すでにそのような代替品の段階
的な導入を見込んでいるのであるから)。
4.2. しばしば、アスベストの「代替化」は、必ずしも
その製品を使うことやアスベストを含有しない製品を作るということだけではない。アスベストは
あまりにもたやすく、現実には存在しない危険(火災等)に対する安全対策として用いられす
ぎてきた。アスベスト製品を使用する必要性を確認する中で、それらの製品を使用しない場合
に生ずる危険が検討され、適切に評価されるべきである。
4.3. 例えば、多くの建築物の屋根にアスベスト含
有製品が、それを使う必要性もまたアスベスト代替品を使う必要性もないにもかかわらず、使
用されている。同様に、アスベスト含有製品(またはその代替品)の必要性は建築する前に検
討することができるし、現在ではアスベストか適切な代替品かを検討する手順が重要であると
考えられている。
4.4. 評議会は、EUにおいては白アスベストの現
在のほとんどすべての用途に対して、市場に代替製品が存在していると確信している。いくつ
かのものは性能の点でわずかな違いがあり、また、価格の面では大きく異なるものも多い(し
かし、価格の相違は、部分的には禁止が実施されるかどうかによって左右される)。アスベス
トの代替品は、高圧と高温が同時に存在する状況下で使用されるシール材・ガスケットの場
合に最も入手しにくい。
4.5. アスベスト含有製品に対してはしばしば複数
の代替品が存在し、いくつかのケースでは、アスベスト代替品についての議論でしばしば焦点
となる人造鉱物繊維ではなくて、代替品が自然的生産物(植物を原料にしたもの等)である場
合もある。
4.6. 評議会は、アスベスト代替品のいくつか、と
くに人造鉱物繊維に関しては、かなり、場合によっては重大に、有害であるかもしれず、第24
総局(DG XXW)の毒性、環境毒性および環境に関する科学専門委員会(SCTEE)が取り
扱うべき問題であるということを認める。これらの代替品については、さらに研究が実施され
るべきである。評議会は、発がん性および肺の繊維化に関しては相対的に低いリスクであると
いうことを含む、た3つのクリソタイル代替製品についての2.5項で述べた重要な結論を歓迎す
る。評議会は、新たなより太い/吸入可能性の少ない繊維を開発する技術とともに、代替繊維に
関する毒性学および疫学の領域での調査研究を拡大するというSCTEEの勧告に完全に同意
する。また、労働現場における代替繊維の環境管理を緩めてはならないというSCTEEの要求も
支持する。(1998年12月号40頁参照)
4.7. 評議会は、いくらかの関係者からなされた、
さらなる調査研究が実施されるまでの間は、労働者は白アスベストの判明しているリスクに曝
露し続けてもよいとする提案については、これを拒絶する。カナダにクリソタイルの健康リスク
の管理に関する証拠を提出する機会を与えるために設定された、1997年9月30日のカナダ
とイギリスの科学者による合同会議は、白アスベストは肺がん、中皮腫および石綿肺を引き
起こす可能性があるということで同意した(6) 。このような状況のもとでは、他の製品についての純理論的なリスクよりも、判明しているリスクに
優先して対処すべきである―しかし、評議会は、得られている知識が相対的に十分でないこれ
らの製品は、特別な注意をもって使用すべきであることに同意する。
5. 関連した国際機関
5.1. 世界労働機関(ILO)は、アスベスト使用の
安全に関する第162号条約および第172号勧告をもっている。この条約はアスベストの管理
使用に関するものであり、EUにおいてはすでに完全に禁止されている種類を含み、また経過
措置も認めている。青アスベストおよびすべての種類のアスベストの吹き付けは、禁止してい
る。防護および予防措置については、関連するEU法令と同様の要素を扱っているものの、
全般的に手続的要素が多く、比較すると厳格さおよび詳しさに欠けている。作業環境および
労働者の健康に対する監視、アスベスト曝露に固有の健康影響に関する労働者および雇
用主への情報および教育、予防および管理の手法についても同様である。
5.2. 現在までに22か国のILO加盟諸国がこの
条約を批准しており、そのうちEU加盟諸国は、ベルギー、フィンランド、ドイツ、スペイン、ス
ウェーデンの5か国である。ポルトガルは、批准文書はまだ受理されていないものの、1998
年12月2日の大統領令 No.56/98によってこの条約を批准した。オランダにおいても、議会
が1999年はじめに承認を与えたので、近く批准が行われるであろう。
5.3. これが、この問題に関連する唯一の国際条
約であり、可能な限り多くの諸国が当事者となり得るという点で非常に重要である。ほとんど
のEU加盟諸国がまだそれを批准していないということは不幸なことである。その理由は、この
条約がEU法令と矛盾しているからということではなく、安全衛生分野のILO基準の設定およ
び履行手続の一定の重要な側面に関して、欧州委員会がしばしば排他的な権限を要求してき
たからである。
5.4. すべてのEU加盟諸国が批准することは、労
働者の安全と健康の世界規模における防護のための主要な機関としてのILO条約の名声に
貢献するだけでなく、より重要なことは、明らにわずかなEU加盟諸国しか条約を批准できて
いないということが、この機関が設定する基準は高水準すぎるためにそれらの諸国が批准で
きない証拠であるという、多くの開発途上国が用いる(誤った)主張を根絶することになる。こ
れはもちろん今回のケースに限ったことではない。前述したように、第162号条約で規定され
た基準よりも、EU法令の方がより詳しく、厳格である。(ILO条約および勧告は、それに基づ
いて経済開発段階の異なる各国が国内法令を整備できるような、世界的な最小限の基準を提
供するように設計されたものであり、これを批准した各国の国内法令においてそれを上回る
改善は許されないという見地からの拘束的な責任はないことに留意されたい。)
6. EUの取り組みの提案
6.1. 原則的な点として、評議会は、EUはすべて
のアスベストの新たな使用の全面的な禁止を導入すべきであると考える。それゆえ評議会は、
一定の危険な物質および製品(アスベスト)の流通および使用の制限に関して加盟諸国の法
律、規則または行政規定を整合させることに関する理事会指令76/769/EECを、すべての種
類のアスベストの流通および使用を禁止することによって(科学技術の進歩に)適合させよう
という(欧州)委員会の意向を歓迎する。
6.2. 一切の例外なしの禁止は、現時点では現実
的な政治的選択ではないと考えられる。そこで、EUが経過措置を認める場合には、範囲と期間
の両方について最大限に限定すべきであり、EU域内で現に施行されている最も厳しい制度
よりも拡大すべきでないことを、評議会は強く勧告する。
6.3. 貯蔵されている危険な製品を止めるために、
評議会は、禁止が発効するまでに利用されなかったクリソタイル含有製品は、きわめて速や
かに禁止すべきであると考える。
6.4. クリソタイル・アスベストを禁止することの、ギ
リシャ、ポルトガル、スペイン、とりわけこれら諸国のアスベスト・セメント産業に対する経済
的影響に関して、評議会は、欧州委員会が委託した環境資源管理(ERM)のレポートがこの
問題に言及していることを指摘する: 5年間の移行期間で、無アスベスト製造技術への投資および地域経済内での余剰労働力の吸収に
関してアスベスト・セメント産業が調整するのに、十分な時間を与えることになる (7)。また、3か国は、すでに白アスベストを禁止している他の加
盟諸国が自らの資金でそれらの問題を解決する間に、禁止によって生ずる雇用上、経済上の
リストラによる困難を克服するために、EUの構造基金(Structural
Funds)から財政的支援を受けるであろうということも指摘しておく。
6.5. 全面的禁止(またはごく限定された例外付き
の禁止)は、法令の遵守の監視および管理という分野において、加盟諸国の一段の努力を
必要とするであろう。評議会は、(欧州)委員会が、ごく近い将来に、現行の法令の遵守状況
を調査し、効果的な遵守および履行措置を促進するための提案を行うよう勧告する。
6.6. 経過措置および点検整備に関して、評議会
は、現在最もリスクのある職業グループは、修繕、保守、改修、解体および除去作業でアスベ
ストに曝露する人々であることを、憂慮をもって指摘する。これらの曝露は、しばしば事前に
設計できない偶然に左右されており、また、すでに高率の死亡および疾病が確認されている
そのような製品の製造および設置作業者と違って、保守および除去作業者は、関連する製品
の劣化した状態に曝露している。彼らの多くは自営業者である。彼らの仕事の流動性のため
に、労働監督官の目がなかなか届かない。これらの労働者の安全と健康は、雇用主に対す
る効果的な規則(免許および作業の質の評価を含む)、作業条件の詳細に関する適切な規
則、公的当局による十分な監督を含むそれら規則の効果的な履行確保を必要としている。評
議会は、この点に関するEUの安全法の現在の実施状況に満足していない。(欧州)委員会
が各国当局と密接に協力して状況を改善し、も
し、そのような協力によっても近い将来に十分
な改善がなされなければ、そうした問題を改善するように立案された提案を行うように求める。
6.7. いくつかの加盟諸国はすでに、アスベストが
使用された建築物の登録制度をもっている(フランス、ドイツ、オランダ)か、関連するデータを
収集している。第1段階として、(欧州)委員会は、各国レベルにおけるこれらの経験および
基礎となった要因を調査研究し、登録制度の実効性および有用性についての評価を行うべき
である。その上で評議会は、各加盟諸国にアスベストが使用された建築物および設備の登録
制度を創設するという提案を実行できるかどうかについて、(欧州)委員会が検討するよう勧
告する。
6.8. また、建築物の所有者に対して、居住者と協
力して、アスベストが存在することを知らないで労働者が作業を開始することがないようにする
ために、例えば測定を実施するなどして、その建築物にアスベストが使用されていないか確認
することを求める国内法を整備する必要がある。
6.9. 除去および解体に関しては、評議会は、労
働現場と居住施設を含めて、EUにおける建築物の環境中に膨大なアスベストが使用されてい
ることを認識している。そのようなアスベストが安全な状態で含有されている場合には、労働
者や公衆が繊維に曝露するリスクの大きい危険な状態にある他のアスベスト含有物質にま
ず対処する優先順位を与えなければならない。したがって、第1優先順位は、損傷したアスベス
トを除去または修繕することであり、適切に封じ込められたアスベストの除去は、最も危険な
源が処理されるまで後に残しておくべきである。このことは、アスベストが安全な状態にある場
合には、そのような作業に伴うリスクは安全な状態にあるアスベストをそのままにしておくリス
クよりも重大であるから、しばらくの間は除去すべきではないということである。
しかしながら、アスベストを除去する場合に
は、安全に除去作業を実施し、労働者および環境を防護するための適切な注意を払った廃
棄が行われることがきわめて重要である。アスベスト除去作業では常に、除去作業に従事し
ないスタッフは避難させておくこと、除去作業前、作業中および作業後における作業許可制度、
免許制度および作業の質および除去作業に従事する企業の操業を監視する制度、除去作
業労働者に対して上述した保全労働者に対するよりもより厳格な実効性のある防護措置、を
用いることが必要である。
6.10. アスベスト含有製品の転売および中古品
使用を防止するための、効果的な措置を開発することが非常に重要である。
6.11. 6.5項で行った提案に加えて、評議会は、
(欧州)委員会が、労働者のリスクを削減するための新たな措置を講ずることを希望する。そ
れには、以下の提案が含まれる。
― 曝露限界値を厳しくすること
― 解体または保全の場合に、建築物の所有者
に対して、アスベストの存在を調査する義務を課すこと
― 多様な手段による、より安全な代替品に関す
るおよびそれらの使用を積極的に促進させるための情報キャンペーン
― 代替品を使用する場合のリスクに関する情
報キャンペーン
評議会は、これらの目的に十分に対処する ための(欧州)委員会による関連するサービスが適切に整備されることを期待するとともに、
求める。
6.12. 評議会は、軍人に対する非常に特別な
ケースに関心を寄せている。現行のEU法令は彼らを適切に防護していないことが懸念され、
(欧州)委員会がこの状況を改善するための方策を開発するよう求める。
6.13. (欧州)委員会は、アスベスト代替品を使
用することによって生ずる労働者および一般公衆の安全と健康に対するハザードに関する調
査研究を積極的に支援すべきである。
6.14. いくつかの加盟諸国においては、アスベ
スト関連疾患の職業病としての認知(recgni-tion)および被災者およびその遺族に対する給
付のための補償制度に関して、興味深い進展がみられている。中皮腫は、EU、WHOおよび
ほとんどの加盟国によって職業病として認知されている。他のアスベスト関連疾患についても、
概して職業病として認められている。いくつかの諸国は、中皮腫の被災者の登録制度をもって
いるが、アスベストによる他のがんについて同様の制度をもっている国はわずかである。この
ような背景に対して、評議会は、(欧州)委員会が、ヨーロッパ職業病リスト(European
Schedule of Occupational Diseases)への適合に関する加盟諸国に対する1990年5月22日の勧告に
ついて、現在の要求事項を改定する必要があるかどうか、再検討するよう求める (8)。
6.15. 労働者の安全と健康に関する法令を改善
するための加盟諸国による近年の努力は、法的措置を厳しくしてきただけでなく、「柔軟な法律
(soft law)」および実践コード(codes of
conduct)の面でも進展してきた。例えば、技術面および労働安全衛生面の双方をカバーし、
関連する産業分野の雇用主および労働者団体によってつくられた、建築物のアスベスト含
有物質除去作業のための実際的な「ステップ・バイ・ステップ」ガイドがある。評議会は、(欧州)
委員会が、法令に加えてヨーロッパ・レベルで同様のものを開発できるかどうか検討するよう
求める。
6.16. 評議会は、フランスによるクリソタイル禁
止に対するカナダのWTO提訴の及ぼし得る影響について重大な関心をもっている。EUにお
いていまだこの問題に関して何ら公開の議論がなされていないことは、驚くべきことである。
評議会は、(欧州)委員会が、カナダの提訴に対する批判的評価を行うとともに、討論を開始
するよう勧告する。閣僚理事会(Council of
Ministers)が、フランスを支持する強力な声明を発表するよう勧告する。
6.17. 1995年のEUとILOの関係に関する評議 会の見解に関して、いまだ未批准の10か国の加盟諸国がアスベスト使用の安全に関するILO第162号条約をごく近い将来に批准することを
促進するために、(欧州)委員会が加盟諸国と協力して緊急にイニシアティブを発揮するよう提
案する。ILO第172号勧告の中のいくつかの要素は、将来のEUの法令またはsoft
lowに利用できるかもしれない。
6.18. 評議会は、(欧州)委員会が、この時点で、
また、EU法令の新たな発展(提案されるであろう禁止の導入)に関連して、その関連する環境
政策体系を新たな目で検討してみることが論理的であると考える。
6.18.1. ひとつは、アスベスト含有廃棄物を取り扱
う代替技術の促進である。この種のゴミを廃棄する一般的な方法は、管理された処分場(投げ
捨て)である。いくつかの諸国で現在使用または開発中の技術においては、繊維構造を破壊
するためにアスベストを高温または化学反応によって処理する。これらの技術は、これまでは
投げ捨てよりも非常に費用がかかった。いくつかの加盟諸国は、このような環境技術の研究
および開発に対して助成金を支給している。評議会は、(欧州)委員会もこれに関与すること
が重要であると考える。
6.18.2. 評議会はまた、道路の建設に大量に使用
されている粒状の割石(granulated rubble)の製造に関連した諸問題に、(欧州)委員会の関
心が払われることを期待する。解体作業に関する厳しい規則が存在するにもかかわらず、
この物質はしばしばアスベストを含有している。評議会は、(欧州)委員会が、解体廃棄物およ
びgranulated rubbleに含まれるアスベストの、標準化された、有効な規制方法の開発を含め
た、健康リスクに関する研究を支援することを希望する。その結果、EUによる対処が必要で
あれば、評議会は、(欧州)委員会が、重要な物質に関する規則制定を含む提案を行うよう
求める。
6.19. 最後に、EUに新たな加盟国を迎え入れる
という観点から、評議会は、それら諸国が直面しているアスベストに関連した諸問題、および
とりわけ中央・東ヨーロッパ諸国の状況に対して、(欧州)委員会が関心を払うよう期待する。
(欧州)委員会は、彼らの抱えるアスベストに関連した諸問題および関連する現在の政策につ
いての目録を作成するために、これまで述べてきた諸問題およびアプローチに関して、これら
の諸国と討論を開始すべきである。そのような目録に基づいて、例えば、新たな法令の作成
およびとくにその法令の実際の履行確保のような、EUと加盟候補諸国との間の一定の協力
作業を開発することもできるであろう。
ブリュッセル、1999年3月24日
経済社会評議会委員長
Beatrice RANGONI MACHIAVELLI
(1) 「労働における化学物質への曝露によるリ
スクからの労働者の防護に関する第2次理事会指令の提案に関する見解」OJ
C 310, 30.11.
1981, p.44, para.1.9, 同旨 「労働におけるアスベスト曝露に関連したリスクからの労働者の
防護に関する指令83/477/EECを改正する理事会指令の提案に関する見解」
OJ C 332, 31.12.1990, p.162
(2) A. Burdorf et al, Schatting van asbest-gerelateerde
ziekten in de periode 1996-2030 door beroepsmatige
blootstelling in het verleden, Den Haag,
maart 1997.
(3) ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・キャンサー,
Vol.79(3/4). 「アスベストによって引き起こされる肺がん死の数は、少なくとも中皮腫の数と
同程度である。したがって、今後今後35年以上の間に西ヨーロッパにおけるアスベストに関連
した死亡は50万件以上になるだろう。」(1999年4月号29頁参照)
(4) すべての代替繊維は、労働における化学的、
物理的、生物学的要因への曝露に関連したリスクからの労働者の防護に関する1980年11
月27日の理事会指令80/1107/EEC(OJ L327, 3.12.1980)、および、1998年4月7日の化学物質指令94/24/EC(OJ
L131, 5.5.1998)によって規制される。
(5) 毒性、環境毒性および環境に関する科学専
門委員会(CSTEE: Scientific Committee on
Toxicity, Ecotoxicity and the Environment)の1998年9月15日の見解の基礎となった環境
資源管理(ERM: Environmental Resource Management)の研究
(6) カナダとイギリスの代表によるHSEミーティ
ング, 30.9.1997; HSE発行のレポート, 12.12.
1997
(7) この3か国においては、13の企業が15のア
スベスト・セメント・プラントを操業しており、全体で2,480名の労働者が雇用されている。ERM
によると、間接的または誘発される雇用は、5,695名と推計されている(1997年の統計)。製造品
は、屋根材および圧力パイプ(pressure pipes)である。イタリアが1991年に国内の鉱山操業を中止して以降、ギリシャには、EUにおける唯
一の操業中のアスベスト鉱山がある。ERMは、ギリシャ、ポルトガル、スペインに5年間の移行
期間を与えれば、2,480名の直接雇用のうちのわずか3分の1だけが残ることになるだろうと見
積もっている。アスベスト・セメント産業における雇用の喪失は、PVCパイプおよび鉄製シー
トを製造する企業の中で創出されであろう雇用の拡大によって相殺されるだろう。これらの企
業において1,000名以上の雇用を創出することが可能と思われる。
(8) これに関連して、経済社会評議会(ESC)の
「労働医学(Occupa-tional Medicine)」に関する自発的な見解も参照のこと,
OJ C307, 19.11.
1984
* 原文は、7月19日までの間は、http://europa.eu.int/eur-lex/en/dat/1999/c_138/c_1381999
0518en00240029.pdf で入手することができる。経済社会評議会は、労使および農業、自
由業、消費者、の三者の代表で構成され(3分の1ずつ)、独自の発議権に基づき、共同体の
経済的、社会的活動に関する「見解」を欧州理事会および欧州委員会に提出することができるとされている。
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