1. アスベスト禁止に向けた国際的な情勢を踏まえ、日本においてもクリソタイルを含めたアスベスト
の輸入・製造・使用等の禁止を早期に実現するようイニシアティブを発揮されたい。国際的な情勢に
関する貴省としての認識もお聞かせ願いたい。
【回答】 生活衛生局企画課
学校の吹き付けアスベスト等が社会問題となった1988年に(2月1日付け)「建築物内に使用され
ているアスベストに係る当面の対策について」という企画課長通知(衛企第9号、環境庁大気保全局
大気規制課長(環大規第26号)との連名)を出して以降、厚生省としての役割は終わっているという認
識のようである(問題は吹き付けアスベストだけであるという認識のようでもあるか?)。
「一般住宅の建材としては、現在ではアスベストは使用されていないでしょう」と言う一方で、「使用
禁止は建材の話だから建設省の問題」とつきはなす。「クリソタイルというタイルにはアスベストが含
まれているのですか?」という発言には、あきれてしまった。住民の健康確保の観点からのアスベス
ト対策の必要性という発想はまったくないと言ってよい。
「(厚生省としては)アスベストが発がん物質であることは完全に認めている」としながら、議論の中
では、「ハザーズとリスクの違い」を持ち出して、「毒だからといってすべて禁止すればよいということ
にはならない」、「吹き付け以外の建材は安定した状態ではリスクはないのでは」等々の発言が出た
が、いずれもその場しのぎの発言のように思われた。
国際情勢については、どこかに聞いたようで、「EU15か国中すでに9か国が禁止していること(フ
ランスの当局者からは何かのおりに直接話を聞いたことがあるようだ)、一方、アメリカでは環境保護
庁(EPA)による規制が連邦裁判所に否定されて以降とくに禁止の動きはない、と聞いている」。アメ
リカEPAの段階的禁止が連邦最高裁で否定された理由は、禁止の是非を判断したものではなく、規
制導入にあたっての手続上の不備(不十分)を理由にしたものであること。禁止が導入されていなくて
も、かつて年間約80万トンと世界最大を誇った使用量もいまや2万トン程度にまで激減していること
は、全国連から指摘した。
2. 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)の特別管理廃棄物(廃石綿等)にアスベスト含有
保温材等を加えられたい。(アスベスト含有建材を除外した根拠となるデータ等を知らせていただきた
い。) また、廃石綿等に関する規制の周知・徹底を、関係者全般に対して強化されたい。
廃石綿等を受け入れている処分場の数、年度別・都道府県別の処分量等に関するデータがあれ
ばお聞かせ願いたい。
【回答】 産業廃棄物対策室
*前者については、「石綿保温材はすでに対象になっている」。後者については、「データは把握し
ていない」という回答。
質問が明確でなかった。廃掃法により「特別管理産業廃棄物」(特管)とされる「廃石綿等」の対象
は、廃掃法施行規則第1条の2第6項で次のように規定されている。
1. 建築物に用いられる材料であって石綿を吹き付けられたものから石綿建材除去作業により除
去された当該石綿
2. 建築物に用いられる材料であって石綿を含むもののうち石綿建材除去作業により除去された次
に掲げるもの
イ 石綿保温材
ロ けいそう土保温材
ハ パーライト保温材
ニ 人の接触、気流及び振動等によりイからハに掲げるものと同等以上に石綿が飛散するおそ
れのある保温材(解説書では、ケイ酸カルシウム板をあげている)
3. 石綿建材除去作業において用いられ、廃棄されたプラスチックシート、防じんマスク、作業衣そ
の他の用具又は器具であって、石綿が付着しているおそれのあるもの
4. 特定粉じん発生施設(大気汚染防止法第2条第7項)が設置されている事業場において生じた
石綿であって、集じん施設によって集められたもの
5. 特定粉じん発生施設又は集じん施設を設置する工場又は事業場において用いられ、廃棄され
た防じんマスク、集じんフィルターその他の用具又は器具であって、石綿が付着しているおそれの
あるもの
このうち石綿建材については、吹き付け以外では「飛散性の高いもの」が対象とされていることに
なっており、吹き付けのみを対象としている労働安全衛生法や大気汚染防止法の届出義務等の対
象よりは若干広くなっている。しかし、スレート等の石綿含有成形品は通常の産業廃棄物扱いとされ
ているうえに、対象となる吹き付け以外の石綿建材についても、「石綿建材除去作業により除去され
た」ということわり書きがつくことや上記安衛法や大防法の適用対象とされていないことなどから、どれ
が対象になるのかが必ずしも明確ではなく、事業者等に、「石綿建材除去作業」であるという認識や、
特別管理廃棄物であるというが低く、そのように取り扱われていない懸念が大きい。
(「石綿建材除去作業」とは、建築物に用いられる材料であって石綿を吹き付けられ、又は含むも
のの除去を行う事業、「建築物」とは、社会通念としての建築物であり、工作物、構築物、車両等を含
む、と解説されてはいるにしても)。
このため、吹き付け以外の石綿保温材等の石綿含有建材等がすべて特別管理産業廃棄物として
取り扱われるようにして、それが明確になるようにせよという要請の趣旨であったが、議論では、現行
規定でかなり広範なものが適用対象になるかのような発言はあったものの、明確にならなかった。
廃石綿等が生ずる事業場の事業主、および、廃石綿等の収集・運搬・処分を行う処理業者に毎
年度ごとの処理実績等の報告書の提出を義務づけておきながら、「提出先は都道府県知事であるが、
そこから厚生省にデータを吸い上げてはいないのでわからない」ということで、まず、実態を把握しよ
うという努力が一切なされていないことが判明しただけだった。
3. 『快適で健康的な住宅に関する検討会議報告書』(1998.8.5)では、各論編の「住宅の空気環境に
関するガイドライン」の表1「シックビルの原因」のところと、「チェックリスト―集合住宅編」の2-25「アス
ベストを含む建材が使用されていませんか」にしか、アスベストが出てこない。今後の関連施策にお
いて、アスベスト対策を一層強化するようにされたい。
また、国民に、代替製品および代替化の状況に対する情報を提供して、代替化の促進を図られた
い。
【回答】 生活衛生局企画課
* この検討会報告書では、「現在問題になっているホルムアルデヒド等やダニ、カビなどが主な対象
となっている」とのこと。
1.と同様「一般住宅の建材としては、現在ではアスベストは使用されていないでしょう」という認識
がまずあり、一般住宅用としてもまだ依然大量に使用されていることを指摘されると、「業界に聞い
ても、吹き付け以外では、飛散しないように加工されているから、そこに居住しているということだ
けでは問題はない」という回答になる。
同報告書におさめられた「住まい手が快適で健康に暮らすための居住環境のチェックリスト―集
合住宅編―」の中で、170以上あるチェック項目のひとつに、「2-25
アスベストを含む建材が使用されていませんか?」とあるのは、「もちろん、石綿建材は使用しないようにしましょうという趣旨だ」
とのこと(ただし、「戸建て編」の方のチェック項目には入っていない)。
代替化の状況に関しては、「わからない」という回答であった。情報の入手、提供等も厚生省の
仕事とは考えていないということのようだ。
一般住宅用にもアスベスト含有建材がまだまだ大量に出回っていること、施主や購入者には情
報の提供や表示が不十分で、石綿含有(建材使用)の有無がわからない、アスベストに対する規
制がないと代替化が進まない現状、等々について議論したが、積極的な反応はなかった。
4. アスベストによるじん肺(石綿肺)、肺がん、悪性中皮腫の発生件数の推移について承知されてい
ることをお聞かせ願いたい。また、それらを把握することができるような登録システムを整備されたい。
【回答】 生活習慣病対策室
生活習慣病対策室で扱っているのは、主にがん、脳卒中、循環器疾患、糖尿病で、肺がんはその
中に含まれてはいる。基礎となるのは、3年置きに実施される患者調査と人口動態統計の死亡デー
タであるが、いずれにしろ、「アスベストによる」というような原因物質別のデータは持ち合わせていな
い。
がんの登録システムについては、一部地方自治体で行っている例はあるが、全国的なシステムは
ない。
* がん登録システムについては、国民的課題であるがん対策に役立てるためにも、職業上および
環境上の発がん物質の寄与状況を把握するための手段のひとつとして提案した。
これについては、阿部企画課長補佐の方から、デンマーク、フィンランド、スウェーデン等の北
欧諸国でそのようなシステムがあるのは知っているが、一番人口の大きなスウェーデンでも800万
人程度。せいぜいその程度の人口規模でないと実施は不可能という発言があった。
* 生活習慣病対策室の方は、「中皮腫がアスベスト関連疾患のメルクマールになり得る」ということは
理解しているようだった。
人口動態統計による死亡データで中皮腫の件数を示せないか検討するようあらためて要請し、
後日、生活習慣病対策室で確認してもらったうえで統計情報部(年報1係)に確認したところ、
平成6年度までは、中皮腫は「その他の悪性新生物」という分類に含められていた。
平成7年度以降、胸膜中皮腫、胸膜の悪性新生物、腹膜中皮腫、という分類が設けられた。
年度 胸膜中皮腫 腹膜中皮腫 中皮腫合計 胸膜悪性新生物
7 275 51 326 15
8 358 45 403 30
9 355 48 403 29
これによれば、イギリスの1,235件(1994年―がん登録)、フランスの750件(1996年―推計)、
西ヨーロッパ全体で約5,000件(推計)に比べればまだ比較的少ないものの(13頁の資料参照)、
年間約400件の中皮腫による死亡が発生していることになる。北欧諸国等ではアスベスト関連肺
がんによる死亡は中皮腫の2倍と見積もられており、少なくとも同数という専門家のコンセンサスは
あるようなので、肺がんを含めると少なくとも400件の2倍、800件になる。またヨーロッパでは、今
後20〜25年間にその数が2倍にはねあがると推測されているわけで、日本における動向が懸念
されるところである。
さらに、アスベストによると思われる400件の中皮腫およびそれと同数ないし2倍の肺がんの、
その原因となったアスベスト曝露は環境上よりも職業上の方がはるかに多いと考えられるが、業務
上疾病として労災補償を受けているのは中皮腫と肺がんを合わせて毎年20件台にとどまっている
わけで、補償を受けているものはわずか数十分の1にすぎないということにもなる。
5. 貴省が所掌または関係する保健所、医療機関等の施設・設備におけるアスベスト使用状況およ
び除去、改修、新築にあたっての方針(仕様)等についてお聞かせ願いたい。
【回答】 事前に回答できないとの回答あり。
6. 通産省・環境庁および労働省において、国会で審議中のMSDS(化学物質等安全データシート)
の法制化と連携して、一般消費者に対する情報提供に努められたい。
【回答】 産業廃棄物対策室?
平成5年度から実施してきた、法律に基づかない行政指導によるMSDSについては、通商産業
省と一緒に厚生省もやってきた(連名告示)。今回の法案は通商産業省と環境庁の作成によるもの
だが、対象物質の選定にあたっては、両省庁の関係審議会とともに、厚生大臣が生活環境審議会
の意見を聴くことになっており、厚生省としても連携はとっている。
* 議論の中では、「消費者向けの情報の提供は必要。ただし、形式としてはMSDSがよいのか、どの
ようなかたちがよいのか検討が必要」という発言あり。
7. アスベストに関する啓蒙および住民からの対策等の問い合わせに対して、保健所が積極的に関
与できるようにされたい。
【回答】 生活衛生局企画課
1.でふれた1988年の生活衛生局企画課長通達で、「都道府県、指定都市、保健所政令市及び特
別区は、建築物の所有者等に適切な指導が行えるよう保健所等を含め体制づくりに努めること」等
を指示している。問い合わせがあれば、対応できるはずである。
ヨーロッパ6か国の中皮腫による死亡件数とその予測
Julian Peto et al, The European
mesotherioma
epidemic, 1999
渡良瀬遊水池堤防改築工事の石綿混合アスファルト廃棄物問題
ここに紹介したのは5月28日付け朝日新聞朝刊の記事のコピーです。26日の建設省交渉で、要請
書には入っていませんが、この件を取り上げ後日説明するように求めていたところ、28日に連絡があ
り、6月1日に、アスベスト根絶ネットワークの永倉冬史さんが利根川上流工事事務所に出向き、富田
副所長と話をしてきました。
後日送られてきた資料・回答も含めて―「アスファルトの中のアスベストは飛散性はない(根拠は示さ
ず)」が、「念のため、アスベスト処理工事として発注した(後日送られてきた資料でも確認はできていませんが)」。「作業環境測定は、屋外作業なので適用対象外」。「担当した舗装業者は、作業主任者は選任
しているとのこと」。「(提供を求められた)施工計画書とマニュフェスト伝票については、取り扱いについ
て検討中」。
この件では、廃棄物の搬入先の千葉市内の最終処分場では「特別管理廃棄物」として取り扱われず、
袋が破られてじかに埋め立てられていたことも問題になっています。厚生省(生活衛生局水道環境部)
が1987、1988年度に実施した「最終処分場におけるアスベストの挙動に関する研究」では、最高33.3f/
lのアスベスト繊維が検出されたというデータもあります(大気汚染防止法によるアスベスト製品製造工場の敷地境界の規制値が10f/l)。
今後さらに調査を進めたうえで、関係省庁等に必要な働きかけをしていきます。廃棄物対策につい
ては、今後重視していきたいと考えています。
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