2002.1.5

安全センター情報


2001年12月号




オーストラリアの労働組合はアスベスト禁止を歓迎
ACTU News Release, Aystralia, 2001.10.18


全国労働安全衛生委員会(NOSHC)は10月17日)、2003年末からクリソアイル(白)アスベストを禁止することを決定した。この期日は、アスベスト含有製品(主としてブレーキパッド)からノン・アスベスト製品への転換の猶予期間を与えたものである。

オーストラリアは、現在約1,500トンのクリソタイル・アスベストを輸入し、また毎年、推定100万トンのアスベスト含有製品を製造している。

アスベストが原因の胸膜や腹膜のがんである中皮腫の発生率で、オーストラリアは世界の最高レベルにある。NOHSCは、1987年から2010年の間に、中皮腫によって16,000人、肺がんによって40,000人が死亡すると推定している。これらの死亡の大部分が、過去に広く使われ、採掘されたアスベストと関連したものである。しかし今や、摩擦部品製造や修繕など、「管理使用」された産業であるべきことを要求されたところで働いて中皮腫を発症するという、新たな労働者集団が存在している。

2000年7月に世界貿易機関(WTO)は、フランスの1997年のクリソタイル(白)アスベスト禁止措置を支持した。EUですでに禁止した国はフランスの他に、1990年代を中心に9か国ある(アイスランド1983年、ノルウェー1984年、デンマーク1986年、スウェーデン1986年、オーストリア1990年、オランダ1991年、フィンランド1992年、ドイツ1993年、イギリス1999年)。これら諸国は、加盟諸国に2005年までに白アスベストを禁止することを要求したEU指令に、すでに適合している。

オーストラリア労働組合総評議会(ACTU)は、クリソタイル・アスベストの使用を中止する決定を歓迎する。ACTU副書記長Bill Mansfieldは、次のように語っている。

「アスベストは、オーストラリアの労働者とその家族に恐るべきインパクトを与えてきた。数千人にひとりが、この製品の使用によって死亡している。

アスベスト使用についての推奨される安全対策は、この製品の致死的な影響が知られるようになってからも、あまりにもしばしば無視されてきた。

アスベストを禁止するのが遅すぎたとはいえ、三者構成の全国労働安全衛生委員会が行動を起こし、使用者側の支持をとりつけたこと、および、委員会に代表を出している9(州等)政府がすべての種類のアスベストを禁止したことを、ACTUは喜びたい。」

*****

ヨーロッパ・アスベスト・セミナー
European Parliament, Brussels, Belgium, 2001.6.7-8


※原文は、http://www.ibas.btinternet.co.uk/Frames/f_eas_lka_uk.htmで入手できる。

ウエブページ上では、訳文のゴチック体の部分はリンクが張ってある。


はじめに

ヨーロッパ・アスベスト・セミナーは、2001年6月7-8日、ブリュッセルの欧州議会において開催された。アスベスト禁止国際事務局(IBAS)とベルギー・アスベスト被災者協会(ABEVA)が共催したこの会議には、幅広い課題分野を代表する、21か国から40名以上が参加し、英語、フランス語、スペイン語、イタリア語、オランダ語、ギリシャ語の通訳がなされた。

このイベントの目的には、以下のことが含まれる。

・ アスベストをヨーロッパの優先順位の高い課題として維持する。

・ EU諸国における政治家のアスベストに関連した諸問題に対する関心を高める。

・ EU加盟候補国およびその他の東欧諸国におけるアスベスト問題について調査する。

・ ヨーロッパその他においてアスベスト被災者への補償を拒否するヨーロッパ企業に対する消費者のボイコットの可能性を議論する。

・ 戦略を吟味し、今後のイニシアティブを計画する。

発表を聞き、討論に参加した後、セミナーの参加者たちは、ヨーロッパにおける100年にわたるアスベストの誤った使用によって引き起こされた諸問題を扱った、欧州委員会、欧州議会および加盟諸国政府に要求する決議を出すための投票を行った。この決議[8月号38-39頁参照]は、広く流布されている。2001年6月26日、ロンドンのイギリス下院において、ヨーロッパ・アスベスト・セミナー決議を歓迎する動議[Early Day Motion]が提案された。この動議には、労働安全衛生に関する議会全党委員会議長を含む25名の下院議員が署名した。


議 題

6月7日午前中のセッションでは、フランス、イタリアおよび東欧7か国のアスベスト問題に関する発表が行われ、午後のセッションでは、世界貿易機関(WTO)クリソタイル紛争、ブラジルにおけるアスベスト、インドにおける偽情報キャンペーンなどの世界的トピックスや、消費者ボイコット、企業行動監視、会議決議の起草などのイニシアティブが取り上げられた。

6月8日午前中の2時間のセッションは、主にアスベスト被災者グループを対象とした、よりインフォーマルな会議にあてられた。報告や討論は、進行中の諸問題や現出している脅威にかなった成功する戦略を確認することに焦点が当てられた。


全般的コメント

東欧諸国におけるアスベスト状況に関する情報がほとんどないということについて、参加者のコンセンサスがあった。この問題に取り組む仲間たちと出会うことは歓迎された。次のアスベストに関する会議は南ヨーロッパで開催されるべきであるということが提案された。6月7-8日に行われた発表は、有益なデータや情報が詰まったものであった。これらの貢献の重要性とユニークさから、これらの発表をIBASのウエブサイトに掲載することが同意された。討論のなかには、いくつかの傾向がみられた。多くの東欧諸国がEU加盟を計画しているなかで、加盟候補国が、2005年のアスベスト禁止のデッドラインを含めたEUのアスベスト法に適合できるかどうかが心配された。いくつかの国は、この目的に向けて取り組んでいる。東欧諸国から参加したほとんどすべての発表者が、自国におけるアスベスト関連疾患の発生が、診断も受けずにいる場合が非常に多いと報告した。多くの参加者が、アスベスト作業の下請会社が不熟練かつ監督されない労働者に引き起こす問題点を示し、アスベスト関連問題に対する一般および専門家の関心が危険なほど低いことを明らかにするための、国際協力の重要性を強調した。様々な課題分野および諸国から、多くの関係者がともに集まることの重要性が、認識された。欧州議員Peter Skinner―彼の事務所は、ブリュッセルでの会議の手はずに協力してくれた―を含め、会議の組織者の働きも評価された。総選挙のためPeterはイギリスにいたが、連帯のメッセージを届け、参加者を支援してくれた。


ベルギー

Paul Vandenbroucke博士が、ヨーロッパ・アスベスト・セミナー共催団体のひとつであるベルギー・アスベスト被災者協会(ABEVA)の議長として、歓迎の挨拶を述べた。ABEVAは、ごく最近、2000年12月に設立されたばかりの新しい組織である。この協会は、アスベスト被災者とその家族、環境運動家、専門家やマスコミ関係者によって支えられている。2001年3月10日に開催された、健康上の問題や健康保険基金、政府機関に対処するうえでの問題を議論するための会議には、80名のアスベスト被災者が参加した。個人からの寄付によってなりたっているABEVAは、マスコミ、ベルギー対がん連合、その他のNGOや政府当局者とのよい関係を築いている。

協会の組織化の契機となったのは、JonckheeresとVandenbrouckesというふたつの家族をおそった悲劇だった。Francoise Jonckheereは、2000年に中皮腫によって死亡した。彼の父も1999年に中皮腫で亡くなっている。協会議長の兄弟であるLuc Vandenbrouckeは、1999年に、中皮腫によって49歳で死亡した。1995年に、彼は、使用者を相手取って、職業上のアスベスト曝露による、ベルギーではじめての民事訴訟を提起した。この訴訟は、下級審で敗訴し、上訴でも認められなかった。ベルギーの法律では、犯罪は、きわめて早く、法定出訴期間を過ぎて、訴権を失ってしまう。

ABEVAの目的は、

・ アスベスト関連疾患罹患者の地位の公的な認定をかちとること。現在は、アスベスト被災者と認定されるのは、業務上疾病保険会社等によって指定された者だけである。

・ ベルギーにおけるアスベスト関連疾患の地理的分布およびそれと工業地域との関係を明らかにするために、アスベスト登録制度を創設すること。この登録制度(レジスター)の目的は、ハイリスク地域の医師たちの意識を高めることである。この問題に関する疫学調査が、保健省の支援によって開始されている。

・ アスベスト被災者への正義と全世界的なアスベスト禁止のための世界的キャンペーンを促進するために、世界中の関係団体とのコンタクトを維持すること。

・ ベルギーのアスベスト被災者のための補償を獲得すること。ベルギーの法律は、被災者の補償獲得を困難にしている。災害・保険基金から認定された者への部分的な補償は可能であるが、他の人々は何も受け取れない。フランスの例にしたがって、ABEVAは政府に対して、職業曝露と環境曝露双方を含めすべての被災者に、申請から3か月以内に補償を行うアスベスト基金を創設するよう要求している。ベルギーでは、無過失責任を認める、すなわち医療過誤のための、新たな立法がまもなく行われると見込まれている。ABEVAは、この一部をなすものとしての全国アスベスト計画を要求している。この無過失損害賠償基金は、被災者が義務を怠った企業を裁判所に提訴することを妨げるものであってはならず、その立場を悪用し、アスベストへの職業曝露を引き起こした使用者は、裁判にかけて処罰されなければならない。

・ 14の競合する州長官や大臣がアスベスト関連問題に対する責任を分担している現在のベルギーのシステムを、国全体で斉一のアプローチが採用されることを国のアスベスト問題担当長官が確保するシステムに変えること。

ベルギーのインフラには88万トンのアスベストが含まれており、建築物―とりわけ1970年代、80年代に建築されたもの―や多数の家屋が、アスベスト含有製品やアスベスト含有セメントをはりめぐらされている。一般および産業用建築物からアスベストを除去する際の規則は存在しているものの、産業用建築物が焼け落ちたとすれば、瓦礫はアスベストが含有している場合であっても通常のごとく取り除かれる。汚染された廃棄物に対するコントロールはない。建築廃棄物も規制を受けていないが、アスベストを含有していそうである。

最後にPaulは、ABEVAは、政府と産業界が問題を解決するうえでの要素となるように、どちらにとっても有利な戦略をとることを希望する、と語った。「われわれがベルギー全体をマネージすることができるとしたら、産業界には国と一緒に補償基金に寄与する準備をさせ、産業界の残りのコストを総売上高の0.04%へと大いに削減することができるだろう」と、彼は付け加えた。

[プレス・リリース、ABEVAのパンフレット参照、ともにフランス語]


フランス

フランスの報告者は、パリ第8大学CRESP研究所の社会学者でフランス全国アスベスト被災者擁護協会(ANDEVA)のメンバーでもあるAnnie Thebaud-Mony博士だった。ANDEVAは、アスベスト被災者、労働者グループ、専門家、労働組合その他が一緒になって1995年に創設された。ANDEVAによるロビー活動は多くのことを成し遂げ、それには1997年のフランスのアスベスト禁止と被災者の補償に関する新たな立法も含まれているが、進歩はつぎはぎだらけであった。過失のある使用者に対して民事訴訟手続を起こす権利は、1996年以前から存在していたが、ANDEVAのメンバーが使用者を首尾よく裁判に訴えるまでは、この種の訴訟は職業病の被災者については提訴されたことがなかった。不幸なことに、刑事訴訟はすべて回避されてきた。

フランスにおけるアスベスト運動は、アスベスト被災者たちの横顔を引き立ててきた。ANDEVAは、被災者の権利が道理にかなったものであるとみなされる風潮の形成に貢献してきた。彼らは、たとえ離退職した後であっても、その疾病にふさわしい医学的モニタリングを、無料で受ける権利を与えられる。アスベスト労働者には、早期退職する選択権がある。業務上のアスベスト関連疾患の認定件数は、上昇してきており、現在では、中皮腫、石綿肺、アスベスト関連肺がん、および胸膜肥厚が含まれている。残念ながら、医師と保険会社についてはなお問題がある。アスベスト関連疾患を証明する診断書を発行する責任のある医師は、きわめて保守的である場合があり、また、アスベスト関連疾患の診断の医学的確証を得るには困難がある場合も多い。保険会社も障害物であり、ANDEVAは、健康保険会社の慣例を変えさせるための不断の闘争に追われている。

アスベストの使用を防止し、既存のアスベストを管理し、また、アスベスト調査の義務を課す立法提案の実施は、過去2年間、阻まれてきた。アスベストの使用や加工がかつて一般的であった巨大産業諸部門では、状況は改善されてきた。一方で、アスベストが除去されつつある現場では、状況はまったくコントロールのらち外にある。アスベスト除去は、金になる産業であり、多数の下請会社を使うことをともなっている。元請けの段階では、通常は予防計画が存在しているが、作業が2倍ないし3倍の数の下請会社にまかされるときまでには、警戒心は捨て去られてしまっている。リスクの多くは、南ヨーロッパやトルコ、マグレブ、東南アジアからの移住労働者が負わされている。したがって、フランスのアスベストの流行は、自らの権利を知らされていない労働者人口のなかの、より恵まれていない、もっとも問題の多い部門に移転しつつある。このようなダブル・スタンダードは、EU域外の地球規模でのヨーロッパ企業の振る舞いを反映したもので、フランス政府がアスベストを禁止してからも、フランスの多国籍企業は、もうけの多いアスベスト商品を生産するブラジルの子会社のシェアを保持した。多国籍企業にこの発がん物質の商売をやめさせるには、国際的な圧力と地球規模でのキャンペーンが必要である。Annieは、南ヨーロッパのキャンペイナー、アスベスト被災者グループ、労働組合との、アスベスト問題と今後の計画について討議するための会議を来年開催するべきだと提案した。

まとめとしてAnnieは、フランスと海外におけるダブル・スタンダードの問題を繰り返した。彼女は、フランスにおけるアスベスト禁止は、まさに始まりであり、アスベストの全地球的禁止という最終目標は残されていると強調した。それが成し遂げられれば、すべてのアスベスト被災者の権利を認め、世界のインフラにおける既存のアスベスト製品の適切かつ慎重な取り扱いによって、将来のアスベスト曝露を防止しなければならない。


イタリア

腫瘍学者で法医学コンサルタントのDaniela Degiovanni博士は、25年間、アスベスト関連疾患を専門にしてきた。彼女は、研究対象でもあるカサーレ・モンフェラート市を一度も離れたことがない。この街は、20世紀の大部分、ヨーロッパ最大のアスベスト・セメント業者であるエターニト社が所有するアスベスト工場のホームタウンであった。Danielaは、アスベスト被災者、労働者、医師、労働組合活動家、弁護士、ボランティアたちが、被災者に対する正義の実現を拒み続けてきたシステムを打ち負かすためにくりひろげてきた痛ましい物語を語った。彼女は、「堅実な科学的トレーニングと強力な社会的モチベーションが、法令の限界を乗り越え、新たな道筋を切り拓くことができた要因だ」と考えている。過去何年間も、彼女は、2,000人の元エターニト労働者を診てきたが、そのほとんどが、無防備な労働条件のなかで、何十億ものアスベスト繊維を吸入して病気になったものだった。被災者とその支援者たちは、「文化的偏見と反応のなさ、厳格で保守的なメンタリティやいかなる革新も閉ざしているシステム」に対して闘わなければならなかった。負けることも多かったが、次第に、地方における勝利が、全国的にアスベスト被災者に有利な変化をもたらしていった。1980年以前は、胸膜中皮腫または肺がんのケースでは、裁判所から補償を認められるためには、石綿肺があることが必要であった。1980年に、3件の胸膜中皮腫のケース(石綿肺なし)を職業病と認定することを拒否した保険会社を訴えた訴訟が地方裁判所で勝訴した。この判決以降、保険会社は、その職業病リストを修正して、石綿肺なしの中皮腫・肺がんを含めざるを得なくなった。この変化は、イタリアのアスベスト被災者がその疾病に対して補償を獲得するうえできわめて重要であった。

Danielaは、不都合な状況を変えていくうえでの、強力な社会的モチベーションの重要性を強調した。「法律ないし明確な規則の不在または古くさい法律の存在のなかで、目標を獲得できるかどうかを決定するうえでもっとも重要なことは社会的モチベーションであることが多い」。法医学者または企業医の役割は、彼/彼女の職能を超えており、市民の健康の防衛と結合して考えられるべきである。

[発表原稿: 英語またはイタリア語]


リトアニア

ヴィリニュス(リトアニアの首都)にある衛生研究所の労働医学センターのViktoras Seskauskasは、「リトアニアにおけるアスベスト: 現在および将来の戦略」を用意して、ソビエト体制から受け継いだ状況についての率直な評価を与えた。ソビエト体制のもとでは、「法令も、専門家も、職業病登録システムも、モニタリング施設・機器や品質管理も、労働慣行の改善・是正も、廃棄物対策も、一般の関心もなく、大量の知られていない、登録もされていないアスベストによる死亡事例が存在する」。

リトアニアでは、毎年4,000トンのアスベストが輸入され、1965-1994年の間に25,800件の男性の肺がんの事例が登録されている。ゼロからはじめて、現在の政府は、著しい改善を成し遂げ、EU加盟というゴールをめざしている。過去10年間以上にわたり、アスベストを制限して最終的には禁止するという1998年の決定(全面禁止は2004年までに実施される見込み)を含め、アスベスト・マネジメントに関する国内法令を導入する作業が行われてきている。2000年には、制限された作業の予防と環境汚染をコントロールするプログラムが開始された。時代遅れのエストニアの衛生規範HN23-1993 危険有害物質: 作業場の大気中の最大許容濃度が今なお施行されているが、EU指令にしたがったその修正の最終案(衛生規範HN23-2001)が準備されているところである。

状況を改善するための、その他のイニシアティブには以下のようなものがある。

・ アスベスト・マネージメントというテーマについてのリサーチャーや労働監督官の教育とトレーニング

・ 大気中のアスベストを測定する機器の購入および使用

・ WHOの分析手法(1998): 位相差光学顕微鏡を用いた気中アスベスト繊維数濃度の測定(メンブラン・フィルター法)のリトアニア語への翻訳

・ 7,500人の労働者がアスベストを取り扱う作業に従事していることを明らかにした最近の調査(CAREXプロジェクトのなかで実施)

・ バルチック・アジェンダ21のもとで2000-2002年に実施される、環境・公衆・労働衛生問題に関するトレーニング・プロジェクト(オランダ政府・労働省の資金提供による)の調整; このプログラムには、トレーナー、労働監督官、安全専門家向けのリトアニアにおけるアスベストに関する情報の発行が含まれる

・ 新しいハード、ソフトの活用、専門家のトレーニング、アスベスト、鉛、ベンゼン等の発がん物質に重点を置いて職場におけるOSHデータを記録するためのOSH登録制度の創設による、労働安全衛生法(PHARE-TWINNING/LI 991.01)の執行体制強化プロジェクト

・ 予備的な結果を入手した、1997年のリトアニアにおける発がん物質への職業曝露プロジェクト

何十年にもわたるアスベストの誤った使用がもたらす諸問題が確認されてきており、政府は状況を改善しようと努力している。リトアニアにおける現在のアスベスト・リスクマネジメントは、専門家や一般の関心の低さ、各省間の連携の欠如、低減手順に関する知見の不在のために効果がない。Victrasは、「アスベスト・マネジメントをめぐる現在の諸問題を解決するもっとも効果的なやり方は、アスベストの低減、リサーチや品質マネジメント、一般および専門家の教育に経験のある諸国との国際協力を拡張することかもしれない」と示唆した。


ポーランド

ポーランド全国労働監機関(NLI)のMieczyslaw(Mike) Foltynは、ブリュッセルでの会議の後、NLIのアスベスト問題コーディネーターとして主任労働監督官に任命された。ブリュッセルでのMikeの内容の濃い報告は、「労働監督官の立場からみたポーランドにおけるアスベスト問題」というタイトル。ポーランドにおけるアスベスト使用のピークだった1970年代に、原料アスベストの年間消費量は10万トンであった。1980年代までに、それは6万トンにまで減少し、1991年には3万トンに落ち込み、ポーランドは世界第16位の消費国となった。1952-1997年、9,000人の労働者を雇用する100の企業が、アスベスト製造にかかわっていた。ほとんどがクリソタイルである、アスベストの3分の2が、4つの工場で、住居や産業用建築物でよく使われる波形屋根板や外装板などの、アスベスト含有建材の製造に使用された。Mikeによれば、「クロシドライトは、圧力パイプや広口径パイプの製造に用いられた」。アスベスト製品を使用する工場は、国中に散らばっており、その年間消費量は数キログラムから数百トンまで様々であった。いくつかのポーランド企業によるアスベストの代替化の動きは、1995年頃に始まったが、経済的理由からこの傾向は進展しなかった。

1976-1996年の間に、アスベスト関連職業病登録システムは、石綿肺1,314件、肺がん154件、中皮腫52件、という数の業務に関連したアスベスト関連疾患を記録している。中皮腫は1986年以来、職業病として認められているものの、1986-1996年の間に発生した中皮腫の総数のうち、業務に関連したものと認められたのはわずか2.4%だけであった。「この低いパーセンテージは、アスベストが中皮腫の発症要因であるという認識が欠如していること、国際基準の認識が適用されていないこと、また、患者の健康に関連する業務の情報が正しく収集されていないこと、を証明している」。

アスベスト製品の適用を禁止するポーランドの法律は1997年9月に発効し、1998年に環境大臣は、既存のアスベスト商品の安全なマネジメント、アスベスト廃棄物の安全な処分、それらのプロセスにおける労働安全衛生確保のルールについてくわしく規定した規則を公布した。1998年1月1日に、アスベスト廃棄物を含めた、新しい廃棄物処理法が発効した。これらの法律にもかかわらず、ポーランドの労働監督官は、広い範囲にわたって、危険な現実が続いていることを発見してきている。雇用労働者数で45,000人の労働現場監督の結果では、497人が解体・改修作業によって直接アスベストに曝露し、さらに1,244人がそうした危険な作業によって飛散するアスベスト繊維に曝露していることがわかった。これらの労働現場で確認されたその他の違反事項には、他の労働者や公衆の曝露につながる作業場所の未標示、発がん物質に曝露する労働者の未登録、曝露労働者への医学的サーヴェイランスの欠如、作業計画、リスク分析と業務上のリスクを最小化するための予防対策の欠如、アスベスト廃棄物の不適切な取り扱いにつながる、除去作業の許可を受けた企業から未許可の業者への下請化などがあった。

労働監督によって、このようなアスベスト規制の無視が明らかにされたことから、主任労働監督官は、2002年から開始される経済省のプロジェクト「ポーランド領域内で使用されているアスベストおよびアスベスト含有製品の除去に関するプログラム」を策定した。このイニシアティブが、「アスベストの有害な性質についての社会一般の関心のレベルを高めるキャンペーンになるとともに、組織的および技術的解決をもたらすことが期待されている。われわれはまた、このプログラムが、アスベスト使用が社会にもたらすコストの問題の喚起にもつながることを望んでいる」。

ルーマニア

ブカレストに
ある公衆衛生研究所のRuxandra Carmen Artenie(Carmen)博士は、「ルーマニアにおける現在のアスベスト問題」について説明した。ルーマニアにおけるアスベストの遺産に対する公けの関心は高まってきているとはいえ、能力のあるスタッフと機器の不足が、何千人もいるルーマニアのアスベスト被災者の確認と支援、一次予防戦略促進の努力を妨げている。ルーマニアの建築物のアスベスト調査は、実施されたことがない。統計は、1990年代はじめにはアスベストを直接取り扱う人々が2,474人おり、1990年代半ばまでにこの数字は1,701人にまで減少したものの、2000年には1,741人と再び増加したことを明らかにしている。ルーマニアで公式に認められているアスベスト関連疾患には、石綿肺、中皮腫、肺がんが含まれるが、1990-2000年の間には、中皮腫ないしアスベスト関連肺がんの事例は記録されていない。ルーマニアでは毎年1万件の新たな肺がんがあるが、どれくらいがアスベスト関連のものかはわかっていない。Carmenは、「現行の疾病率データは、実際の状況を示していない。その理由は、とりわけ曝露した人々の定期的なチェックアップのパーセンテージがなお低い(約60%)ことである。ほとんどのアスベストに起因する疾患が、今なおそれ自体認識されていない」という。

ルーマニアのアスベスト使用の歴史には、バナト州におけるアスベスト採掘、アスベスト・セメント製品、摩擦材、アスベスト織物、コンクリート混合物の製造が含まれる。アスベストのリスクに関する知見が増大しているにもかかわらず、ソビエト連邦、ユーゴスラビア、カナダから輸入されるアスベストの使用は、1973年以降伸びた。クリソタイルとクロシドライトの両方が輸入された。カナダのアスベスト産業を代表する組織であるアスベスト研究所のルーマニアにおける関与と、クリソタイルの国際市場を防衛するために穂先を突き立てる努力についての指摘は興味深い。「1991年、カナダのアスベスト研究所の専門家たちが、Ramnicu Saratのブレーキ・シーリング部品工場でいくらかの測定をやってみせた」。ルーマニアにおける職場のアスベスト曝露の曝露限界は1繊維/cm3であることを心にとめておくと、この工場の製造工程で測定された曝露レベルは恐るべきもので、冷却圧縮摩擦材5-6繊維/cm3、混合摩擦材7.1繊維/cm3、織物9.4繊維/cm3、アスベスト織物5繊維/cm3であった。

公衆衛生研究所で進行中のプログラムは、位相差光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡を用いたアスベストの職業曝露のモニター、職業歴と他の曝露歴に注意を払うことによるアスベスト曝露者の確認と定量化、アスベスト曝露のリスク評価、診断ツールの開発と科学的調査研究プロジェクトの実施、を目的としたものである。1998年以来、国際がん研究機関(IARC)のコーディネートによるマルチ-センター、ケース-コントロール・スタディへのルーマニアの科学者の参加は、これまでに、業務上のアスベスト曝露の経歴のある200人の肺がん患者のなかから5件の対象を確認している。この調査の完了は2001年12月31日と予定されている。ルーマニアにおけるその他の重要な調査研究としては、「断熱材工場およびアスベスト・セメント産業においてクリソタイルに曝露した労働者集団の尿中アスベストの走査型電子顕微鏡による測定」や、アスベストの表面の特性や「アスベストとプロテイン、アルミニウム、ヘモグロビン、DNA等の生物学的混合物との間の物理的・化学的相互作用」に関連した研究がある。

ルーマニアのシステムを改善するための勧告として、職場のアスベスト曝露限界値を0.2繊維/cm3に引き下げること、より多くのよりよいコントロール手法、一般、産業用、住居用建築物のアスベスト検査、建設業、自動車修理や造船部門の小企業における職場曝露のモニター、アスベスト曝露者の医学的サーヴェイランス、一般開業医や呼吸器科の医師、現在ルーマニアに250人いる労働医学の専門医に対するアスベスト注意喚起トレーニング、があげられる。


ハンガリー

ブダペストにあるハンガリー国立労働衛生研究所(NIOH)のAndras Mandi教授は、ハンガリーでは40年前から、アスベストが原因の肺腺維症、石綿肺が職業病として認められていることを報告した。石綿肺事例の大多数が、アスベスト織物産業における業務上曝露によって発生している。1980年代、アスベスト織物の生産は、禁止されるべき第一のアスベスト加工であった。アンフィボール系アスベスト繊維の使用は、1988年に禁止された。ハンガリーでは、2005年から、アスベスト含有製品の製造および使用が禁止されることになるだろう。

Andrasは、欧州連合(EU)のプロジェクト「INCO Copernicus IC 15-CT 96 0301」により実施された調査研究の成果である、「ハンガリーの肺がんにおける業務上アスベスト曝露の役割(International Archives of Occupational and Environmental Health (2000) 73: 555-560)」と題した自らの論文に基づいたものであった。このプロジェクトは、ブダペストの広範囲にわたる建築物のアスベスト汚染を測定することと、ハンガリーの悪性呼吸器腫瘍患者における業務上アスベスト曝露を評価することの、ふたつの目標をもつものだった。

1997-1999年の間に、NIOHの粉じん研究室は、ブダペスト内の建築時期の異なる500の建築物のアスベスト含有建材を調査した。その結果、以下のように、アスベスト含有建材がみつかった。

・ 住居用建築物の14%
・ 公共建築物の47%
・ 学校・幼稚園の6%

101のアスベスト含有建材を分析したところ、98がクリソタイルを含有、2がクリソタイルとクロシドライト、1がクロシドライトを含有していた。

アスベスト曝露の頻度を確認するために、肺がん患者の臨床検査が実施された。ハンガリーにおける肺がんの発生率は非常に高く、毎年、人口1,000万人当たり6,000の新規事例がある。公刊されたデータに基づき、肺がん事例総数の1-20%は、アスベスト曝露に関連したものだと考えられている。したがって、アスベスト曝露によるものは、最大毎年1,200の患者が発生していると予測することができる。これは、アスベスト関連肺がんを合わせて毎年2-3件という公式統計の数字と対照的である。石綿肺が20-30件、悪性胸膜中皮腫が8-12件という政府統計も、著しく低い。

29項目からなる詳細かつ包括的な質問用紙を、300人の肺がん患者を代表するグループに配布した。この質問調査の結果および蓄積されたデータに基づき、1繊維・年が1繊維/cm3の曝露に1年間フルタイムで従事したことを示すものとして、繊維・年で各個人お累積アスベスト負荷を評価した。ドイツその他では、累積アスベスト曝露が25年超のアスベスト労働者の肺がんを、アスベスト関連または職業病として認定している。ハンガリーではこのような事例はまだない。

300人のがん患者に面談聴取が行われた(297人が肺がん、3人がびまん性胸膜悪性中皮腫)。「3人の胸膜中皮腫患者すべて(100%)と297人の肺がん患者のうちの11人(4%)で、25繊維・年かそれ以上の業務上の累積アスベスト曝露がみつかった。25繊維・年の累積アスベスト曝露は、肺がんのリスクを2倍増加させると見積もられていることから、これらの患者の胸部悪性腫瘍は職業病と認めるべきである」。この調査結果に基づいて、Andrasは、ハンガリーにおけるアスベスト関連肺腫瘍の大多数が認定されないまま、アスベストによって引き起こされた疾病が「診断されずに見過ごされたまま」になっていると結論づけた。


ブルガリア

ソフィアにある国立衛生センター準教授のPetrana Tcherneva-Zhalova博士が、「ブルガリアにおけるアスベスト―歴史、現在の使用状況と見通し」について発表した。ブルガリアの状況は、この国にアンソフィライトとトレモライトの鉱床、自然に土壌がアスベスト混合物で汚染された地域が存在していることによって複雑なものになっている。影響を受けた地域の96,059人を対象に1973-1978年に実施された調査では、720の胸膜肥厚の事例を確認し、その94.6%が40歳以上の者であった。ブルガリアのアスベストの遺産は、アスベストの商業用利用によって悪化され続け、1980年の消費量のデータでは、主にロシアとカナダからの32,000トンのクリソタイル、南アフリカからの1,000トンのクロシドライト、国内で生産された7,000トンのアンソフィライトとトレモライトの使用を記録している。ブルガリア産のアスベストの採掘源は5か所に所在し、原料繊維は2つの工場で加工され、6つの工場でアスベスト・セメントを、1つの工場といくつかの商店施設で摩擦材を製造している。

クリソタイルの許容限界値(TLVs)は、1977年以降、3繊維/cm3から0.6繊維/cm3に引き下げられている。1998年まで、保健省の国家衛生管理[局]が、粉じんによる大気汚染を管轄していた。それ以後、労働・社会政策省が管轄している。労働者の曝露状況の医学的モニタリングに関するブルガリアのシステムは、ILOの基準にしたがい、職業性肺疾患の専門家や放射線技師によって、8つの分野について、地方ごとに実施されている。石綿肺、アスベストによる胸膜肥厚斑、肺がんおよび悪性胸膜中皮腫の診断の用件となる基準が存在している。この作業は、国立職業病センターが監督している。1967-1982年の9,142人の労働者の調査では、206件の石綿肺、492件の前病変化がみつかっている。1982年までに記録された石綿肺事例に関する分析によると、業種との関係は以下のとおりであった。

保温・電気修理業 37%
鉱山・原料アスベストの一次加工 21%
アスベスト・セメント製造 16%
アスベスト・プラスチック製造 10%
アスベスト織物 10%
その他 10%

1980-2000年に記録されたデータによると、毎年、136-201件の石綿肺・胸膜肥厚斑と、アスベスト関連の事例は少ない。人口10万人当たりの悪性胸膜中皮腫の件数は、1991年6件、1992年9件、1993年14件、1997年16件と増加している。これらの患者の職歴に関する情報はないが、ほとんどが業務上のアスベスト使用に起因するものである。「相当な数の労働者がアスベストに曝露してきたことを考慮すれば、専門家の数の不足とともに、おそらくは組織的、経済的、法律的理由から、隠れた疾病率、発生率が存在している」。

現在、毎年、2,000トンずつ輸入されているアスベストが、4,400人の労働者をリスクにさらしている。今なお、常時アスベストを取り扱っている会社が434、時々アスベストを取り扱っている会社が315、存在している。130の企業がすでにアスベストを無アスベスト製品に代替していると言えることは喜ばしい。今後のアスベスト疾患の予防は、ブルガリアにおける国家的な優先事項とされている。最近数年間の間に、労働安全衛生、職業病登録、アンフィボール系アスベストの全面禁止、いくつかの用途のクリソタイル含有製品の禁止、EUレベルへのTLVsの引き下げ、建築物と船舶の解体の規制、環境汚染の低減をカバーする様々なアスベスト規則・法令が制定されている。


スロヴァキア共和国

ブラチスラバにある学術研究所の労働医学を専門とする医師Margareta Sulcova教授が、「スロヴァキアにおけるアスベスト使用と健康への影響」について発表した。スロヴァキアではアスベストが1940年から使用されている。国内唯一の蛇紋岩鉱山の生産量は、1960年代に減少し、1999年に閉山された。最近では、カナダ、ロシア、南アフリカから輸入したアスベストを使用する、2つのアスベスト・セメント工場があった。ひとつの工場は1999年に、もうひとつは2000年に生産を中止した。法令では、食品産業、製薬産業、ブレーキライニング、造船・建設部門、建材・摩擦材、個人用保護機器でのアスベストの使用は、もはや許されていない。しかし、代替品に取り替えられつつあるとはいえ、消防用には今なお認められている。

アスベストの環境曝露は「事実上コントロールされておらず」、2つの発生源が存在している。

・ 木造建築物や家屋内のパイプの断熱材、耐火材、扉、断熱材、塗料への室内曝露。上下水道管、煙突などのアスベスト・セメント製品への曝露も危険である。植木鉢はアスベスト・セメントで作られていたが、すでに製造が中止されている。

・ アスベスト・セメント屋根材、壁材、廃棄物の投棄、舗装道路へのアスベスト・セメント廃棄物の使用、管理されないアスベスト含有廃棄物の取り扱いや運搬による屋外曝露。そのような廃棄物が危険であることは知られているが、そのすべてが管理されているわけではない。

アスベストへの職業曝露は、国立衛生研究所によって管理され、業務上アスベストに曝露する労働者の登録を行っている。これに登録されている労働者の数は1996年の231人から2000年の92人へ減少している。最近では、これらの曝露は管理されるようになっており、現状は以下のとおりである。

・ アスベスト・セメント製品の製造(1998年で45人の労働者)
・ ボール紙の製造(1998年で36人の労働者)
・ 消防
・ 個人用保護機器の製造
・ 断熱材の製造
・ アスベストに関わる検査・研究

電気工や建設業労働者、とりわけ建築物の解体・改修では、管理されない職業曝露がほとんど一般的である。これらの状況下で曝露している労働者の数に関する情報も知見も存在していない。

スロヴァキア共和国では、ヘルシンキ・クライテリア[1998年6月号参照]にしたがって、石綿肺、石綿肺を伴う肺がん、中皮腫が職業病として認められている。これらの疾患の正式統計は低い。1998年で、7件の石綿肺と4件の肺がん/石綿肺であった。1983-2000年のアスベスト曝露労働者に関する学術研究の結果では、異なる様相を示している。あるひとつの工場で、アスベスト曝露期間が10年超でかつ最初の曝露から20年超の労働者737人のうちで、29件の石綿肺、そのうちの8件は肺がんを合併、5件は胸膜中皮腫を合併していることが観察された。喫煙するアスベスト曝露労働者の肺がんリスクは、非喫煙者の3倍であった。肺がんの相対リスクは、曝露の繊維・年が多いほど増加した。

腫瘍学的中皮腫登録を使って、スロヴァキアの人口における中皮腫の発生率の評価がなされた。スロヴァキアの550万人の住民のうちの悪性中皮腫の数は、過去8年間のうちに急激に増加した。大多数に当たる285件が1978-1997年に発生しており、そのすべての診断が臨床的、組織学的に是認され、60-69歳の患者であった。父親がアスベスト・セメント工場で働いていて、汚染された衣服を自宅に持ち帰っていたという13歳の男子の事例が1件あった。linear and multiplicationモデルから、予測されてきたよりも多くの中皮腫事例が発生していることは明らかである。

これまでに採用されてきた予防対策としては、EU指令にしたがった、アスベスト管理と業務上リスクに対する労働者防護に関する1999年に導入された特別法、規則および政府の命令がある。この規則の主な原理は以下のとおりである。

・ アスベスト含有製品は、他に適当な危険でない代替品が利用できない場合にのみ使用することができる。

・ すべての労働者が、アスベストの健康リスク、喫煙とアスベストの相乗効果について知らされていなければならず、防護手段をとるためのアドバイスを与えられなければならない。

・ 1998年末まで、アスベストおよびアスベスト含有製品の輸入は、アスベスト曝露限界値を設定する権限を与えられている保健省の認可を受けなければならない。それらの限界値は、2002年までにEUと同じになる予定である。

Margaretaは、以下のとおり述べて、話をまとめた。

・ アスベストの採掘およびアスベスト・セメント製品の製造は1999年に廃止された。
・ アスベストおよびアスベスト含有製品のスロヴァキア共和国への輸入は公式には認められていないが、非公式には今なお行われている。
・ 管理された状況のもとでアスベストに曝露している労働者の数は減少している。
・ スロヴァキアのヘルスケア・システムの変化によって、曝露労働者の予防的ヘルスケア・サービスにいくらかの問題が生じている。
・ 管理されない曝露を受けている労働者の数は知られていない。
・ スロヴァキアの住民は管理されない屋内・屋外の発生源からの曝露を受けている。
・ EU指令に基づいた政府の命令は、2002年に実行される予定である。


ラトビア

リガにある労働・環境保健研究所のMaija Eglite教授は、「ラトビアにおけるアスベスト」のなかで、彼女の国のアスベスト使用について論じ、ラトビアがEU加盟の準備を進めるなかでとられつつある現在の進展に焦点を当てた。ラトビアではアスベストは1940年から使用され、1970年代後半には広範囲にわたって使用されるようになった。大部分は、南ウラル山脈とカザフスタンから輸入されたクリソタイルだった。年間消費量は、1993年の4,575トンから2000年の1,490トンに減少してきている。ラトビアにおける重要なアスベスト規制は、

・ 2000年4月25日に閣議を通過した、化学物質および化学製品に関する法律のもとで化学物質および危険有害な化学物質の販売を制限および禁止する、規則第158号。EU指令にしたがって、すべての加盟諸国において2005年1月1日までにクリソタイルの使用が禁止されるが、このラトビアの規則は、2001年1月1日までにすべての種類のアスベストの販売および流通を禁止する。既存のアスベスト商品の使用は、よい状態にある場合には、適切に標示される限り、許される。

・ 1998年8月25日に閣議を通過した、労働保護法のもとでアスベスト関連作業にかかる労働安全衛生の諸問題をカバーする、規則第317号。

アスベストおよびアスベスト含有製品の販売は2001年1月1日に禁止されたが、1,380トンの大部分が屋根材であるアスベスト・セメント製品およびアスベスト含有製品が、2001年の1月と2月の間に輸入されている。Maijaは、この法違反は、アスベストの商業利用に段階的禁止の時間が与えられなかったことによるものと説明した。さらに、アスベストの輸入を管轄する政府機関である保健省と環境省は、時間不足から、新たな禁止措置を執行するための適切な準備をしていなかった。最近数か月以上にわたり、アスベストの輸入を制限する政府による新たな管理はうまくいっていなかったが、ようやく機能しだしてきたようにみえる。

アスベスト使用の管理および規則第317号の執行を管轄する労働省は、輸入を規制する権限をもっていない。2000年に労働省は、18件のアスベスト作業ないしアスベスト解体作業の申請を受け付けた。Majiaは、ラトビアで使用されたアスベストの総量を考慮すれば、この申請件数は少なすぎる。2000年に、少量のアスベストを使用するいくつかの中小企業が存在していたが、アスベストの大部分は3つの主要企業によって使用されたものである。

・ 1,100トン使用している、旧Brocenu Cement-Slateの工場である、Brocenu Metala Sistemas
・ 断熱製品製造に3.5トンを使用するValmieras Stikla Skiedra
・ 鉄道のエンジン修理に4.45トンを使用するLoko-motive

大規模事業場における曝露の規制では進展がみられており、大きな問題は中小企業と解体現場にあると考えられる。2001年からラトビアでは、以前は1繊維/cm3であった、アスベスト繊維の「最大許容値」が、0.6繊維/cm3とされた。昨年、アスベスト解体現場で実施された大気測定では、平均濃度3.3-4.6繊維/cm3を記録している。

過去のアスベスト使用を考えれば、アスベスト関連疾患の公式記録は非常に低い。1974-2000年の間に、「アスベスト関連疾患に罹患したとして国の職業病登録に登録」されたのは44件であった。1997-1999年に、52件の中皮腫が確認された。Majiaは、数多くのアスベスト関連疾患が、診断を受けないままになっている、と述べた。。医学トレーニングを増強し、診断技術を改善して、より多くの事例を確認することが期待される。


ブラジル

技師Fernanda Giannasiは、ブラジル・サンパウロ市の労働監督官である。Fernandaは、実験室、子供の遊び場、住宅施設、庭、建設現場、工場、道路脇のスキップのなかのアスベスト含有製品のスライドを見せながら、ブラジルの至るところでアスベストが使用されている現実を鮮やかに示してみせた。ブラジルは、世界第4位のクリソタイル生産国である。1996年に213,000トン、1997年208,000トン、2000年には190,000トンを生産している。ブラジルの生産量の3分の2は、開発途上諸国と日本に輸出されている。

長年にわたるアスベスト生産および使用の結果は容易に見いだすことができる。何千人ものブラジル人がアスベスト関連疾患に罹患しているのである。しかし、政府の統計によると、1900-1998年の間のアスベストに関連した死亡は100件に満たない。ブラジル・アスベスト曝露者協会(ABREA)が作成したそれに代わる数字は、オザスコ市のエターニト社のアスベスト・セメント工場の元労働者960人のうち、549人がアスベスト関連の疾患または症状に苦しんでいることを明らかにしている。ABREAは、アスベスト被災者のことをより世間に知らしめるために闘っている。ABREAのそれ以外の目標には、曝露労働者の医学的サーヴェイランス、アスベスト関連疾患の補償、アスベストのリスクに対する社会の関心の昂揚、世界的なアスベスト禁止のためのキャンペーンが含まれている。

ブラジルと世界のクリソタイル市場を守るために、政府とアスベスト産業は、ブラジルのアスベストに関するいくつかの神話をふりまいてきた。

・ アンフィボール系アスベスト(クロシドライトやアモサイト)だけが危険である
・ ブラジルのクリソタイルの純粋さは安全を保証している
・ ブラジルではアスベスト吹き付けは行われてこなかった。Fernandaは、彼女の手のひらで粉々に砕けてしまうような劣悪な状態の吹き付けアスベストがなされているリオデジャネイロの映画館の写真を見せてくれた。この映画館は閉鎖され、アスベストが除去された。
・ アスベストへの職業曝露だけが危険であって、環境曝露は安全である
・ アスベストの「管理使用」は可能である。この見解の誤謬を示すためにFernandaは、ある工場で撮影した写真を見せた。ひとりの男が、プラスチックで梱包されたLAB(カナダ産)クリソタイルの船積み荷を開けるのに、野球のバットを使っている。彼は、普通の衣服を着て、口を覆う薄っぺらなマスク以外、何も保護具をつけていない。

ブラジルからは、良いニュースと悪いニュースがある。良いニュースは、アスベスト産業が怯えるあまり、「ドミノ効果」がテンポを速めたことである。ブラジルでもっとも工業化の進んだ4つの州と多数の市や町がいまやアスベストを禁止している。悪いニュースは、ブラジルでは、信頼できる情報の不足、元アスベスト労働者の疫学調査や曝露者の医学的フォッローアップ、専門のメディカルケア、医療人への専門トレーニングがないという状況が、依然残っているということである。労働監督機関は、ブラジルのアスベストを使用する全工場の年1回の巡回を保証するのに必要な数の26.6%の安全衛生監督官しか有していない。

[Fernandaのスライド・プレゼンテーションの要約版を参照]


インド

インド・ニューデリーにある労働・環境保健センターのTushar Kant(TK) Joshi博士は、「インドにおけるアスベスト逆情報キャンペーン」について発表した。TKは、アスベストの使用が事実上コントロールのらち外にある状況について説明した。インドでは、毎年125,000トンのクリソタイルが使用されている。100,000トンがカナダとロシアから輸入され、25,000トンは国内のビハール州Rajsthanとアンドラプラデシュ州で生産されている。クリソタイルのほとんどが、パイプやシートなどのアスベスト・セメント製品の製造に使用されている。クロシドライトの使用は禁止されているものの、地方で生産されるトレモライトは今なお使用され続けている。

インドにおけるアスベストは、年間総売上高20億USドル、大規模事業所が13、小規模では673がこの広い国中に広がっている。TKは、6,000人の労働者が直接曝露し、ほかに100,000人が間接的に曝露しているという、曝露労働者に関する国の推計は現実を下回っていると考えている。産業界がスポンサーになっているデリーのアスベスト情報センターは、何年間も、産業寄りの集まりや会議の場で、アスベストの「管理使用」を売り込んできた。1996年の環境保護法、1948年の工場法等々の、アスベストに関する政府の法令が存在するにもかかわらず、鉱業省や労働省による執行は存在していないのと同様である。

TKによれば、「インドにおけるアスベストの使用および曝露は、恐るべき、大変な状況である。アスベスト曝露は、『スローモーションの大惨事』を引き起こしつつあるが、記録が整備されていないため目に見えず、法令の執行は画餅にとどまっている。このようなシナリオの結末を想像することは難しくない。最後の分析として、アスベスト曝露は、1994年のボパールのメチルイソシアネート曝露の何倍もの生命を奪うことになるだろう」。


世界貿易機関

Barry Castleman博士の貢献は、フランスのクリソタイル禁止に対するカナダの提訴の様々な段階を通じて明らかになった世界貿易機関(WTO)の内部の機能に焦点を当てたものだった。EUの法律チームの専門アドバイザーのひとりとして、Barryは、WTOの正義の分配者の非民主的かつ秘密主義の慣例の数々をじかに観察した。この紛争事件は、表面的にはフランスの禁止措置に関するものであるが、実際にはカナダは、アスベストの使用に関するこの事件の第3世界に対する心理的かつ先例としてのインパクトに、より関心があった。カナダは自国で採掘するアスベストのほとんど100%を、アスベスト・セメント、自動車ブレーキ、ガスケットや織物向けに輸出しており、フランスの禁止は、残されたアスベスト市場を深刻な危機にさらす可能性があった。

WTOのプロセスは、公開の欠如と産業界寄りの傾向で特徴づけられる。WTOの科学専門家候補の選考経過から、尊敬されているインディペンデントな科学者と医師180名の団体である高名なラマッチニ協会のメンバーである指名者たちは、以前に『アスベスト禁止の要求』[1999年5月号参照]を発表している団体に属しているという理由で除外された。しかしながら、指名者たちは、アスベスト産業との関わりや所属については聞かれなかった。プロセス全体を通じて、秘密が維持された。選ばれた科学者の氏名は発表されず、他の専門家を却下した理由も明らかにされず、WTO画専門家に示した質問事項も秘密であった。

アスベスト産業は、アスベストは「管理使用」体制のもとで安全に使用することができるという立場を維持し続けている。「管理使用」が何を意味しているかの説明は、巧みにかわしてきた。この紛争事件において、カナダは最終的に、この概念を以下のように定義した。

・ 免許を受けた企業のみへの販売
・ 政府機関へのユーザー・リストの提供
・ 製品を寸法に切断することのできる地方センターの設立
・ 「この製造管理の提供に失敗」した場合にはペナルティをともなう、能力の監視を含む下流のユーザーに対する監督

カナダのおとぎ話は、輸出国のあらゆる責任を免除する一方で、「管理使用」のための重荷をアスベスト輸入国の政府とアスベスト企業に負わせるものである。バンコクないしサンパウロのアスベスト・セメント製品の現地製作センターというコンセプトは、アスベスト企業に対する警察の役割のごとく滑稽なものであった。カナダの弁護士は、そのような「管理使用」体制がどこに存在しているのかと聞かれたとき、彼は、議長が答えるよう促したのを辞退した。

ジュネーブで行われた専門家ヒアリングの叙述は魅惑的であった。聴衆は36人に制限され、第3者当事国(アメリカとブラジル)、ILO、WHO、労働組合、メディア、環境団体その他のNGOの代表は締め出された。カナダの専門家には、アスベスト産業界に雇われる常連の「科学者」たちが含まれていた。裁定を下すWTOパネルのメンバーは、この紛争事件の多くの重要な科学的ポイントにあまり関心がないようにみえ、ひとりの裁判官は、長い昼食の後ほとんど眠り込んでしまいそうに見えた。

安全な曝露レベルは存在しない、より安全な代替品は入手可能である、「管理使用」は非現実的であるという、WTOが指名した専門家の全員一致の見解は、この紛争事件にとって重要であった。Barryは、もし4人の専門家のうちのひとりが、「政府の規制は建設産業において機能する可能性があるようだ」と考えていたら、この事件は負けていた可能性があると感じている。2000年10月23日に提出されたカナダの上訴について論じて、NGOに法廷助言者としての意見提出の機会を新たに提供した問題について簡単にふれた。提出された17件の意見はすべて、ひとつの理由またはその他によって上訴機関によって却下された。上訴機関は、フランスの禁止を支持した。

この紛争事件を通じて明らかになった、WTOのプロセスの弱点には、以下が含まれる。

・ 複雑な問題を1年間(と上訴に6か月)という期限内に解決することの困難
・ 完全に、WTOの事務局を構成する顔のないWTO官僚が閉ざされた扉の影で行う作業頼みの、パネルのメンバーを務める貿易外交官や引退した貿易当局者
・ 「非公式」にWTOスタッフにアドバイスする多国籍企業の役割

Barryは、「社会のすべてのセクターからのインプットにより、公開の場で策定された(公衆の安全衛生のための)法律が、意見を述べる地位をもっているのは政府だけというWTOにおける閉ざされたプロセスによって、有罪と宣告され、あまつさえ転覆させられる可能性があるということは皮肉である。地球で最強のパワーをもつグローバル企業だけが、世界各国の政府に、その国家主権を放棄し、貿易によって統制されるこの世界政府のシステムを受け入れるよう仕向けることができてきた。しかし、間近でみると、それは欺瞞かつ失敗であり、その存在は世界中の人々の幸福にとっての巨大な脅威となっている」。


ケース・スタディ


スペイン

スペインのL’Hospitalet de Llobregatの疫学・がん登録局のAntonio Agudo博士の発表は、刊行論文「悪性胸膜中皮腫とアスベストへの非職業曝露に関するマルチセントリック・スタディ」(The British Journal of Cancer (2000)83(1), 104-111)をベースにしたものだった。スペイン、イタリア、スイスの6か所の地域―そのうちの2か所はアスベスト・セメント工場の近隣―で行われた調査によって、筆者らは、「アスベスト産業から2,000-5,000メートルの間、または、アスベストを使用する産業から5,000メートル以内に居住することは、リスクの上昇をともなう可能性がある。双方の曝露源の強度との間に量―反応関係がみられた」と結論づけている。

[スライド・プレゼンテーション参照]

● スコットランド


ストラクスライド大学(グラスゴー)のArthur(Art) McIvor博士は、「リーサル(死に至る労働)・ワーク―スコットランドにおけるアスベスト悲劇の歴史」という本の共著者である。スコットランドにおけるすさまじいアスベストの遺産は、この国の経済の歴史の結果である。西ヨーロッパ最高のアスベスト関連疾患発生率をもつ地域のひとつである、クライドサイド市の状況はこのことをよく示している。1940年代にイギリスの全建造トン数の40%を生産したクライド川の造船業と、アスベスト製造業は、この地域のアスベスト曝露レベルを上昇させるうえで決定的だった。スコットランドの男性人口における中皮腫の発生率はきわめて高い。

スコットランドにおける過去のアスベスト使用を示す一連の叙述には、以下が含まれる。

・ 1960年代の船舶のボイラールームにおけるパイプのアスベスト保温材
・ グラスゴーで製造された機関車の周囲を覆うアスベスト保温材
・ 1960年代のRed Road flatsに使用されたアスベスト含有建材―これらのflatsは当時建築され、ヨーロッパでもっとも高かった。粉じんのレベルは勧告されているものの15倍であった。

スコットランドにおけるアスベスト悲劇の歴史的再構築には、Turner & Newall社の保管文書、断熱材協会などの使用者団体の記録、工場監督官の記録、政府の文書、労働組合の記録やスコットランド労働組合会議の図書館のファイルなどが役立った。古い文書情報を裏づけ、また、被災者の声をこのプロジェクトに取り入れるために、アスベスト被災者と、しばしばその配偶者へのインタビューを行った。31人の証言内容は、1930年代から1980年代をカバーし、クライドサイドにおける主なアスベスト曝露ポイントはすべて記述された。こうした声は、スコットランドでは一般的であった不快で生命を脅かすような労働条件を明らかにして、アスベストの暗い歴史的遺産に一点の光明を与えるものであった。多くの者が、造船所、工場、建設現場のアスベスト粉じんは、「雪のようだった」と話している。職場の大気中の粉じんの量は、後ろにいる同僚の姿を見えにくくするほどのものだった。作業衣に付着して家庭に持ち込まれた粉じんは、社会を汚染し、家族たちを危険にさらした。労働者がアスベスト繊維で雪だるまをつくるのは見慣れた光景であった。こうした状態は、ハザーズに関する医学的知見が知られ、諸規則が策定されてからも、継続することが許された。

危険な状態が持続した理由を明かす労働者のコメントは以下のようなものであった。
・ 規則と現実の作業慣行の間のずれ
・ 使用者が証拠を無視し、労働者が危険な状態を我慢させるようにその力を利用したこと
・ 管理者による規則の無視
・ 造船所や建設現場ではマッチョな労働文化が存在しており、職場の雰囲気の変化を阻害したこと
・ マスクの供与がない、または、効果のないマスクの供与(アスベストでライニングされているものもあった)
・ 労働衛生と公衆衛生の乖離がアスベスト問題を悪化させた。労働者の健康に対する労働条件の潜在的インパクトに医師たちが早くから関心を向けていれば、予防活動がより迅速にとられていただろう。
・ 規則違反を抑制できない罰則の程度
・ 労働組合の無力さ

アスベスト被災者のインタビューは、アスベスト関連疾患に関連したインパクトが本人だけでなく、家族や社会にもおよんでいることを明らかにした。失業と身体的障害は、自尊心の喪失、社会的活動(園芸、散歩、ダンス)の低下、疎外感、喪失感、社会的排斥をもたらす。多くの被災者とその家族が、ストレスや法廷での複雑差さに対処することもできないような場合には、補償を得るために闘おうという気力も喪失するという状況に直面する。

[スコットランドにおけるアスベスト悲劇の口述による歴史]


解決策

AsbestosRegister.com

AsbestosRegister.comのCEO(最高経営責任者)であるRoss Udallは、イギリスにおける初のウエブをベースにした建築物のアスベスト登録スキームについて説明した。このスキームが実施されると、建築物の所有者、デベロッパー、建築物鑑定士、設計者、建築業者その他が、パソコンや携帯電話を使って、特定の建築物に使用されているアスベスト製品を即座に確認することができるようになる。独善的になることを避けるため、このウエブのアプリケーションはあらゆる電子的フォーマット(MS Wordを除く)でアスベスト情報が入手できるようにしてあり、また、多言語に対応している。一度イギリスでその有効性が証明されれば、その技術は他のEC諸国で複製をつくったり、拡張できることが期待される。

労働組合会議(TUC)事務局長のJohn Monksは、AsbestosRegister.comアプローチの有用性を認めている。「個々の建築物のアスベストの歴史について知られていることはあまりに少ないため、建築業者が改修作業をはじめる場合や、消防士が燃えさかる建築物に入ろうとするとき、いつも彼らは自らの生命をリスクにさらしている。この致死的な繊維の所在場所に関する、内容のある、信頼できる情報だけが、将来の(アスベストによる)死を避けることを可能にできるである。このデータベースは、いま以上の労働者を不必要な死から救うために、まさに必要なものと言えるだろう」。

建築/不動産部門の関心は増大しているにも関わらず、これまで政府機関からの支援はわずかであった。安全衛生庁(HSE)の最初の対応は、全国登録スキームは『実現可能性』がないと公式に表明したことに示されている。この敵意を考慮して、Rossは、全国的な解決策としてAsbestosRegist-er.comを創設するうえで直面している諸問題について率直に語った。彼は、不動産の所有者/管理者にその建築物のアスベストに関するデータの提供を求める、特別の法規的要求事項なしには、全国的なアスベスト登録を創設することは不可能だと考えている。AsbestosRegister.comはまだ安全衛生委員会(HSC)によってイギリスの基準として採用されていないから、これは営業上きわめて困難なサービスである。HSCは、建築物内のアスベストに関するデータを入手可能にするいかなる特定の方法も提案していない。したがって、不動産の所有者は、表示、標識、文書、インターネットやウエブ―といった利用可能な情報媒体を選ぶまでもない状態のままである。特定されたフォーマットないしプラットフォームの不在は、情報を必要とするビジネスマンや建築業者がどこを見たらよいかわからないというおかしな状況を生じさせている。すべての者が容易にアクセスすることのできる全国登録は、理解しやすい回答である。この理由から、この会社(AsbestosRegister.com)は、当局からのサポートを追求するキャンペーンを開始している。

AsbestosRegister.comの経験から、Rossは、アスベストやその他のハザードに一般の人々がアクセスできるということを成し遂げることができるのはただひとつの道であると信じている。仮に法的要求事項が実施され、公的資金が利用可能になったとしても、技術的解決を提供することができるのは民間部門であるから、そうした必須要件なしには成功しないだろう。ECのどこかの国が、建築物のアスベストによるリスクの管理について真剣に考えるとしたら、施設の所有者/管理者に全国的登録スキームにアスベスト情報を提供することを要求する新たな規則の導入が必要になるだろう。このような規則は実質上公式の宣言に等しく、それが執行されれば、アスベスト曝露によって引き起こされる恐るべき疾病からの労働者の保護を確実なものにするだろう。

ヨーロッパ労連

ヨーロッパ労連(ETUC)のLaurent Vogelは、ヨーロッパの労働組合はいかにして世界的アスベスト・キャンペーンに貢献できるかについて論じた。Laurentは、2年前に制定されたEUの禁止措置を思い起こして、禁止措置の採用を手に入れるのに20年以上かかったと述べた。この遅れはすべての世代の労働者を犠牲にしており、禁止が実現したことは喜ぶべきではあるが、それがあまりに遅すぎたことを忘れてはならない。ヨーロッパではアスベストは禁止されたものの、まだたくさんの問題が残されている。今なおヨーロッパ以外のところでアスベストの使用を助長し、そこから利益を上げ続けている、ヨーロッパの多国籍企業に対する国際行動が必要である。

数か月のうちに、アスベスト作業を規制した1983年のEUアスベスト指令(とその後の修正)の改訂に関する討論が行われる。この指令が制定された時点で、EUは「管理使用」の方針をしまい込みつつあったが、現在では、最善の選択は禁止であり、これは必要な方策に関するETUCの立場を特徴づけるものである。アスベストが禁止されたとしても、多くの人々が、改修作業、解体、補修、アスベスト廃棄物の取扱い等々に従事し続けるだろう。欧州委員会はまだ指令の草案を公表していないが、夏には入手できるようになる[7月30日付けでウエブサイト上に最終草案が公表されている]。ETUCでは、以下の分野について圧力を傾ける方針である。

・ 労働者をアスベストに接触させることになるいかなる作業も、定められた条件に適合する認証された企業によってのみなされなければばならない

・ 加盟諸国全体で、アスベストの許容曝露値の調和がなければならない。現在、国によって値が異なっている。もっとも低いものは0.1繊維/cm3で、委員会はそれよりも高い許容値にすることを望んでおり、それではより少ない防護しか提供できない。ETUCは、ある国が技術的に実現可能と信じ、現に存在し、使われている最低値がヨーロッパ全体で採用されるべきであると考えている。

・ 指令の制定後、各国における適切な検証と適用が要求される。

Laurentは、アスベスト含有の所在の登録義務づけの必要性を強調した。建設業の経験は、建築物にアスベストがあるかどうかわかっていない場合には、適切な準備も警戒もなされないことを示している。アスベスト検査が行わなければならず、情報は公開されなければならない。これらの方策は、労働者を防護するために必要なだけでなく、アスベストへの非職業曝露によるリスクから一般公衆を防護するためにも必要なことである。

EUのWTO(世界貿易機関)に向かい合う姿勢には矛盾がある。一方で、EUは、フランスの禁止措置を防御するなかで公衆、労働、環境保健の勝利を要求したが、他方で、第3世界諸国に対抗するのにWTOを利用している―例えば、ドラッグでのEU対インドの件である。ここには対処しなければならない問題があり、ヨーロッパの労働組合運動にはこの討論のなかで果たすべき役割がある。

エターニット社のアスベスト被災者の世界戦略

オランダ・アスベスト被災者グループの創設メンバーであるBob Ruersは、オランダ上院議員で、弁護士でもある。Bobの報告は、多国籍企業―エターニトの世界中での活動に焦点を当てたものだった。1920年代から、この会社は、世界における主要なアスベスト企業であった。エターニトは、世界中に子会社をもっており、そのうちのいくつかは今もなおその製造プロセスでアスベストを使用し続けている。エターニトに関連のある会社は、様々な名称で存在しており、いくつかは大ぴっらに所有していて、エターニトが株式の大部分を所有し、残りを他の少数株主に与えているというものもある。1985年以来のスイスとベルギーのエターニトの組織図は、現在では各々独立しているとはいえ、今もなお将来の相互の利益のために協同している2つのジャイアントからなる構造を示している。アスベスト製造の有無に関わらず、これらのグループは力と重みを維持している。エテックス(Etex)グループの最新のアニュアル・レポートは、オーストラリアから中国、チリまで46か国に財務上の利害関係をもっていることを明らかにしている。

オランダでは、アスベスト関連疾患の最大の原因のひとつはエターニトである。様々なタイプのアスベスト被災者が存在している。

・ エターニトの工場で働いた労働者

・ つなぎの作業服に付着して家庭に持ち込まれたアスベスト繊維に曝露した労働者の家族。Bobは、父親がエターニトで働いた32歳の男性の代理人として、エターニトを訴えて成功した個人傷害訴訟の事例について話した。その息子は病気になり、エターニトは訴訟を争ったが、結果的には会社の責任を認め、補償を支払った。

・ 工場の近隣に住んでいた人々。工場はアスベスト含有廃棄物を産出し、それは可能な限り安い方法で捨てられた。1945-1980年の間、青および白アスベスト廃棄物が、工場周辺地域に投げ捨てられた。アスベスト廃棄物は、道路脇から何キロメートルにもわたって投棄された。地元の住民は、環境曝露によってアスベストに接触したのである。子供のときにこの地域に住み、遊んだ人々が、中皮腫に罹患した。

最近、Bobは、3人の中皮腫の女性の依頼人の代理人となった。

・ 農夫の妻だった依頼人Aは、今年亡くなった。農場の通路はアスベスト廃棄物でつくられていた。
・ 2年前に亡くなった依頼人Bは、子供のとき農場に住んでいた。彼女は、汚染されたルートのひとつを通って自転車で学校に通っていた。彼女の疾病に対しては、補償が支払われた。
・ 45歳で死亡した依頼人Cは、子供のとき汚染された小道を自転車に乗っていた。エターニトはこの事件を強行に争っている。

Bobは、エターニトはオランダのかかる人々の疾病に責任を負うべきであり、ベルギー、チリ、その他の国々で生じている同じ疾病にも責任を負うべきであると考えている。世界経済のグローバリゼーションは、人権のグローバリゼーションも要求している。同じ企業によるアスベスト被災者の成り行きが、国によって異なるというのは公正ではない。南アフリカで起こった恐るべき事例は、罪のない男女に対する巨大アスベスト多国籍企業の植民地搾取の際だった遺産である。アスベスト企業は、南アフリカから望みのものを手に入れ、労働者、住民、環境を汚染しておいてから、自らの資産を安全な場所に撤退させたのである。その振る舞いを容認することはできず、アスベスト被災者とその代表たちは、多国籍企業の補償を追求する世界的な努力をしなければならない。

オランダ・アスベスト被災者グループとドイツ労働党は、アスベスト被災者と被災者団体の国際的な連帯は、これらの企業にアスベスト被災者に対する補償を行わせる手段を生み出すことができると提起した。Bobは、オランダ・グループでは、エターニトおよびエテックス・グループ関連企業の各国における規模、歴史、労働者の数を明らかにするための情報を収集、照合したいと言って、ブリュッセルでの会議の参加者に情報の提供を呼びかけた。アスベスト被災者の組織は、補償、医学的、その他の問題に関する情報の交流も必要としている。オランダでは、治療はうまく組織されており、オランダの医師たちは中皮腫の患者に対する手続を知っている。中皮腫に罹患したのかどうかを迅速に確証して、補償を保証する中皮腫パネルが存在している。これは他の国ではみられないケースである。いくつかの国々では、中皮腫の診断に関して今なお長々しい討論が行われているが、そうした事態は過去のものとしなければならない。欧州議会は、このような不一致とすべてのアスベスト被災者が補償を受けられるようにする指令の制定に関心を払わなければならない。


アスベスト被災者団体

金曜日に開催された2時間セッションのなかで、アスベスト被災者団体の代表、オブザーバー、労働組合活動家たちは、各国における現在の状況を明らかにした。提起された課題は以下のとおりである。

○ イギリス

・ アスベスト被災者に対して補償を支払う責任のある保険会社の破綻
・ 保険会社の破綻により影響を受けた者に対する完全な補償を復活させる全国的なキャンペーン
・ 好ましくない判決

○ ベルギー

・ 補償請求訴訟を提起するうえでの困難、使用者の過失を立証する必要
・ 法令の改正とアスベスト被災者の自立を促進するための被災者基金の創設
・ アスベスト曝露のリスクに対する社会の関心を高める必要
・ 被災者に自らの権利を教えることの重要性

○ フランス

・ 飛行機墜落事故や他の同様なトラウマ(心的外傷)の被災者に必要とされている、心理学者(による支援)がアスベスト被災者には提供されていないこと
・ 被災者代表の関与のもとで、アスベスト曝露労働者の離退職後のモニタリングが計画されるべきこと
・ 社会保障省は診断のためにX線の使用を好むが、被災者団体はスキャナーの方を好んでいる―被災者には質のよいメディカル・ケアを自由に選択・アクセスする権利があある

○ イタリア

・ カサーレモンフェラートのエターニット社のアスベスト・セメント工場は、1906年に創業して以来、多数のアスベスト被災者を生み出してきた
・ とりわけ1991年以降、8時間・日当たり0.1繊維/cm3をこえる曝露を証明する必要があることによる、個人傷害訴訟の提起が複雑になっている
・ 成功した1993年の1人のアスベスト被災者に対する票決は、当初は多くは続かなかった―労働者が提訴する裁判に対する偏見がある
・ 現在、数百件の訴訟が進行中である
[Bruno Pesceの報告原稿、イタリア語]

○ ブラジル

・ ブラジルにおけるアスベスト被災者の訴訟は10年かかる場合がある
・ アスベスト被災者のことをより世に知らせるため、1995年にブラジルアスベスト曝露者協会(ABREA)が設立された
・ 被災者のかかえる諸問題に対する社会の関心を喚起するため、ABREAは、労働組合やメディアと協力して、社会的デモンストレーションを行ってきた
・ 「think locally, act globally」の方針にしたがって、ブラジルにおけるアスベスト禁止キャンペーンは、草の根レベルで展開されてきた。これは、多くの州や都市で成功し、現在、国レベルの禁止に向けて圧力をかけている
・ WTO紛争と開発途上諸国におけるカナダの鼓動に抗議するための、アスベスト禁止ネットワークやサイバーネットワークを通じて世界中の仲間と連携

[Fernanda Giannasiのスライド・プレゼンテーションからの抜粋]

○ スペイン

・ スペインにおけるアスベスト被災者を支援する主要な同盟者は労働組合である―現在、他の諸国にあるようなアスベスト被災者団体は存在していない
・ アスベスト被災者のためにCC.OOが提起した訴訟の95%は成功している
・ スペインのアスベスト被災者は、主に元、海事、鉄鋼、鉄道部門と自動車修理労働者である―スペインのある地域では、90人の元鉄道で働いていたアスベスト被災者がいる
・ 2001年4月28日、マドリードにおいて、スペイン全国から1,500人をこすアスベスト被災者とその家族も参加した労働組合の集会が開催された
・ 現在、アスベスト製造業者、企業医、保険会社の行為を調査するための法廷を創設する作業が進行中である―提案: 国際法廷の設置

[Angel Carcobaによる仲裁文書]

○ カザフスタン

・ 1930年代に建設されたアスベスト工場や発電所、その周囲の街の状況は、想像を絶するほどひどい―1万トンのアスベスト廃棄物が放置されている
・ ひと目見て汚染されているとわかる1,000名の従業員を雇用する諸工場で大気モニタリングや個人保護機器の提供が行われていない―工場経営者たちの全面否認の弁「過去30年間、アスベストによる死亡はない」
・ 何らかの改善をしようという要求も主体も、公共、民間を問わず、存在していない

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