2002.1.5

安全センター情報


2001年11月号




世界貿易センター惨事後のアスベスト汚染に関する情報
Laurie Kazan-Allen, IBAS, 2001.9


http://www.cbns.qc.edu/のウエブサイトは、世界貿易センター(WTC)惨事後のアスベスト汚染の可能性に関する最新情報を収集する重要な機能を提供している。ニューヨーク市立大学の調査研究機関(CBN: 自然分類[natural systems]生物学センター)が運営するこのサイトは、連邦保健福祉省(HHS)、ニューヨーク市保健局(DOH)、ニューヨーク市環境保護局(DOEP)、マウントサイナイ医科大学公衆衛生学部、BusinessWeek onlineやNewsday.com等の情報源へのリンクを張っている。

連邦および市当局により、データやプレスリリースが迅速に発表され、緊急時に対応した行動がとられている。恐るべき状況にもかかわらず、各当局は、人々への情報提供を維持するために協力した努力をはらっている。これには、DOHが提供している、大気の汚染状況や環境の状態、商用ビルや住居の室内の汚染状況、衛生官による影響を受けた飲食店の検査に関する報告も含まれている。9月16日のDOHのプレスリリースは、「これまでに得られたアスベスト分析の結果によれば、短期的または長期的な健康影響をもたらすような一般公衆へのリスクはきわめて低い」と述べている。

DOEPの「ビル所有者への通知」は、「火曜日(9月11日)以降稼働していなかった空調システムを再起動させる前には、フィルターを交換すること。可能な場合には、WTCの火災が鎮火するまでは、『新鮮な空気』ではなく、『再循環空気』の設定でシステムを稼働すること」とアドバイスしている。ビルの所有者や管理者は、能力のある専門家にアスベストその他の危険有害物質のチェックをしてもらうことも勧めている。

マウントサイナイ医科大学のウエブサイトにある「世界貿易センターの被災現場付近に住むまたは働く人々の健康にかかわる問題」という文書は、この空調機の使用に関するアドバイスを繰り返し述べ、粉じんを室内に入れないようにすること(すなわち、窓を閉めておく、屋外で湿潤化なしの掃除はしない)を勧告し、また、固い表面の粉じんは湿らして拭いたり掃いたりすること、その他の粉じんはHEPA(高効率粒子空気)フィルター付き掃除機で除去すること、をアドバイスしている。

連邦環境保護庁長官は、9月16日に発表された「テロリストの攻撃/清掃作業におけるアスベスト」という文書のなかで、ニューヨーカーたちを安心させている。クリスティーン・トッド・ホイットマンは、大気および環境モニタリングの結果はアスベストのレベルは低いことを示しており、心配する理由は何もない」と述べた。9月20日に発行されたビジネスウィークの記事「煙のなかに何が潜んでいるか」は、「たとえ低いまたはほとんど検出されないレベルであっても、多数のアスベスト繊維や他の有害な粒子が人々の肺のなかに入ってくる。それらが肺内に滞留すれば、後になってからダメージをもたらす可能性はある」という、ボストン大学公衆衛生学校のリチャード・クラップ教授のような医師の発言

を引用している。CBNのウエブサイトは、きわめ

て重要な情報源であり、あなたのパソコンの「お気に入り」に加える価値がある。

※ http://www.ibas.btinternet.co.uk.
※ 新たに結成された911ASH(Air Safety Hazards)のホームページ(http://www.immuneweb.org/911/)も多彩な情報を提供している。
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世界貿易センターのアスベストの使用状況 Laurie Kazan-Allen, IBAS, 2001.9.19


先週マンハッタンとワシントンで起こった、われわれが目撃した出来事は、信じられない、身の毛のよだつものであった。いわれのない恐怖と罪のない多数の生命の喪失の前に言葉は意味をなさない。にもかかわらず、あまりに突然に肉親をなくした人々に対する悲しみと連帯感を、われわれ全員が表明しなければならない。われわれの愛情は、この残虐かつ野蛮な行いの被害を受けたすべての人々に注がれている。

先週、多くの人が、世界貿易センターにアスベストが存在するのかということを尋ねてきた。その時点では、私はこの問題について何の情報ももっていなかった。生存者捜索のためになされている超人的な努力をはばかって、私は、そうした質問に焦点を当てることを適切でないと感じた。以降、ツインタワーのアスベストの使用状況に関する情報が入ってきている。ニューヨークの港湾管理委員会は、この複合ビル建設当初は、ビルの1-40階については、5,0

00トンのアスベスト含有吹き付け耐火材を使用する計画だった、と知らせてくれた人がいる。41階以上は、ノン・アスベストの代替品が使用されることになっていた。2001年9月18日付けのニューヨークタイムズに掲載された記事によってこのことが裏づけられた。「(ニューヨークにおいて建材へのアスベスト使用が)禁止されることを予測して、建設業者は、最初に建てられた北タワーの建設が40階に到達したところで、この材料の使用を中止した」。港湾管理委員会のスポークスマンによると、「当初のアスベスト含有材料の半分以上を、後に交換した」という。

ニューヨーク安全衛生委員会(NYCOSH)が作成した非常に有用なデータ表(http://www.nycosh.

orgで入手できる、31頁参照)は、「アスベストは、世界貿易センターの建材に使用されていた主要な物質のひとつである。アスベストは、粉じんや瓦礫の成分のひとつである」としている。ゼロ地点でまたはその近くで緊急作業に従事する労働者のための実践的アドバイスには、「帰宅する前に、作業衣から普段着に必ず着がえること。作業衣は作業現場で袋に入れ、汚染を防ぐために、個人用洗濯物とは分けて洗濯すること」という指摘が含まれている。

この数日のうちに、ツインタワーでアスベストが使用されていなかったことが、ビルの急速な崩壊の一因となった」という主張がなされている。ニューヨークタイムズの記事「アスベスト禁止が人命喪失につながったのか?」は第2段落で、世界貿易センターの建築に使用されたノン・アスベストの耐火材の有効性が、アスベスト含有製品よりも劣り、それによって入居者の退避に使えた時間が短縮されたのかどうかを検証している。意見を聞いたほとんどの専門家が、「鋼材やアスベスト、その他のいかなる取り扱いの基準も、異常な高熱と激しい炎のなかでタワーが崩壊するのを防ぐことはできなかった」という点で一致している。ラトガーズ大学の工学専門家Dr. Yogesh Jaluriaを含む多くの者が、ビルの設計と材料についての詳細な調査研究の必要性を支持している。Jaluriaは、「非常に激しい、非常に大規模な火災に対する試験は行われてこなかった」と言っている。ニューヨークタイムズの記事は、誇張のない、バランスのとれたアプローチをとっていて、Junkscience.comのウエブサイトに登場した一方的でまがい物の記事とは対照的である。「アスベストは世界貿易センターで生命を救えたはずだ」の著者Steven Malloyは、Dr. Irving Selikoffは、「アスベストの使用や曝露全体について、パニックのボタンを押すという間違いを起こした。例えば、湿式アスベスト吹き付けのLevine技術では、いかなる健康への悪影響も生じていない」。

Levine技術とは、Asbestospray Corporationというアメリカ企業が開発したもので、アスベストを含有しないセラミック繊維の吹き付けをベースにしたものであるということが明らかになっている。イギリスでは、Turner & Newall Ltdが開発したアスベスト耐火材吹き付け工法がマーケットリーダーであった。吹き付けリンペット(Limpet)は、1930年代半ばから1970年代にかけて、世界中で販売された。Dr. Geoffrey Tweedaleによれば、「リンペットは、アスベストとセメントの混合物である。ホースの先端がウォーター・スプレー付きのガンになっており、リンペットが的をはずさないようになっている」。リンペットの吹き付け作業を行う労働者およびその近くで働いた労働者がたくさん、イギリスと世界中で、アスベスト関連疾患によって死亡している。

Malloyの「アスベストは知られている限りで最良の断熱材であり、ヒステリックな公衆衛生上の理由で使用しないということは不合理だ」という主張を、2001年9月18日付けのロンドンタイムズが引用したことは信じがたいことである。30か国以上で採用されている禁止措置が、集団ヒステリーに対する反射的対応ではなく、アスベストに関連した死亡や障害の発生の低減を意図した現実的な決定である。EUにおけるアスベスト禁止提案に関する協議は、長期間かけた、徹底的なものであった。ノン・アスベスト代替物質の性能は調査研究され、有効な代替物質は利用可能であると結論された。1999年7月に採択された欧州指令の改正は、全加盟諸国に、2005年のアスベスト禁止のデッドラインを課した。現在、EU15か国のうちの13か国が、国内の禁止を採用するか、そうする意向を公表している。

ニューヨークとワシントンで起こった大惨事の惨状と恐怖に照らして、ツインタワーの建築と使用されていた耐火材の性能に関して多数の疑問が呈されることは無理からぬことである。そのことを反映させ、レビューし、われらが市民と国家のインフラを防護する術を見つけ出すべきときである。これは、オープンマインドで、集められるかぎりの技術的、科学的革新をで行われるべきである。非難の煙幕や誤解によって、誤った方向に向かうことを期待する。

※ http://www.ibas.btinternet.co.uk.
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世界貿易センター惨事・労働者の健康データ
Factsheet 1, NYCOSH, U.S.A., 2001.9.21


今まさに数千の労働者が、世界貿易センターとその周辺地域の英雄的な復旧・清掃作業に従事している。ニューヨーク安全衛生委員会(NYCOSH)には、労働者、労働組合、ロワー・マンハッタンの住民から、汚染された空気や伝染性疾患の危険など、曝露する可能性のある安全衛生ハザーズに関するたくさんの質問が寄せられている。

このデータ表は、可能性のあるいくつかのハザーズの解説と労働者や経営者がそれらのハザーズを最小化する方法を提供するものである。

ここにあげたハザーズやその他のハザーズ、安全衛生防護措置に関する追加情報を入手するには、末尾にあげた団体に問い合わせされたい。

× × ×

復旧・清掃作業は危険なものである。世界貿易センターの復旧・清掃作業に従事している多くの労働者は、安全衛生トレーニングを受けているが、それ以外の労働者の多くは、よく知らない、深刻な疾病や傷害、死亡を引き起こす可能性のあるハザーズに直面していると思われる。現場は流動的な状況が続いており、新たなハザーズが突然現われてくる可能性もある。労働者と経営者は、存在しているハザーズとそれらを最小化する方法を理解するだけでなく、新たなハザーズ出現の可能性に注意しておく必要がある。

このデータ表は、復旧作業や必要不可欠なサービスの回復、清掃作業に従事する労働者のためのものである。これらの作業はすべて、潜在的に危険な状況や有害物質への曝露をともなうものである。


ハザーズ

以下に列挙するハザーズはすべて、世界貿易センターの復旧・清掃作業中に遭遇することがあり得るものである。ゼロ地点またはその付近で作業する者はすべて、数ブロック離れた場所で清掃作業に従事する者よりもこれらのハザーズに遭遇する可能性は高いが、いかなる場所であっても、世界貿易センターからの粉じんや灰が潜在的な健康ハザーズを引き起こす。

粉じんとヒューム

汚染された空気は健康リスクを生じさせ、それは、汚染物質の性質と濃度、曝露労働者の身体状況に左右される。肺や心臓に何らかの慢性的な問題をもつ労働者は、汚染空気から健康に悪い影響をもたらすより大きなリスクがある。

有害な粉じんやヒュームを含む空気中の汚染物質は、深刻な疾病または死亡を引き起こす可能性がある。世界貿易センター付近の粉じんや灰は、どこであっても、アスベスト、セメント、ドライウォール、ポリ塩化ビニル(PVC)燃焼物質を含んでいる可能性がある。

セメント粉じんとドライウォール粉じんは通常、結晶性シリカを含んでいる。シリカ粉じんを吸入すると、珪肺その他の潜在的な致死的肺疾患を引き起こす可能性がある。セメント粉じんは、炎症を起こし、喘息や慢性気管支炎を引き起こし、または悪化させる可能性がある。

ポリ塩化ビニル(PVC)または断熱材、家具その他に付属していたプラスチックを含む、燃焼

プラスチックの気中粒子は、呼吸器の炎症を引き起こし、喘息や慢性気管支炎を刺激したり、悪化させるかもしれない。

アスベストは、世界貿易センターの建材に使用されていた主要な物質のひとつである。アスベストは、粉じんや瓦礫の成分のひとつである。アスベスト繊維の吸入は、がんを含む、重度または致死的な疾患を引き起こす可能性がある。アスベスト曝露の安全レベルはないが、より高レベルの曝露ほど、より大きな疾患のリスクをもたらす。

その他の粉じんも、喘息や気管支炎、呼吸困難などのその他の呼吸器系の問題を引き起こすかもしれない。あらゆる粉じんが、眼の炎症を引き起こす。アレルギー性皮膚反応を引き起こす粉じんもある。粉じんのついた衣服を作業場以外で着用すると、自動車や住宅を汚染する可能性がある。

有害ガス

世界貿易センター地域における別の心配は、破裂したガス管または貯蔵された化学物質からの、有毒または爆発性ガスの発生である。このようなガスが、狭いまたは行動が制約される場所に存在していることも心配である。

可燃性または爆発性ガスが、破裂したガス管や貯蔵容器から発散しているかもしれない。

無色、無臭のガスである一酸化炭素が、燃焼(火災)の副産物として存在しているかもしれない。一酸化炭素の吸入は、判断能力の喪失から窒息による死亡まで、広い範囲の健康影響を引き起こす可能性がある。

酸素欠乏症: 空気中に呼吸を支えるのに充分な酸素が存在しない場合がある。これは、他のガス(一酸化炭素のような)が酸素に取って代わることによって起こる可能性もある。酸素は、燃焼中にも消費される。

その他のガスへの曝露も、眼、鼻、のどや肺の炎症を引き起こす可能性がある。狭い場所に入る労働者は、これらのハザーズに対するリスクが高い。

伝染性疾患

汚染された血液またはその他の体液に曝露する労働者が、感染する可能性がある。感染が起こるためには、汚染された血液またはその他の体液が、眼、鼻、口または切り傷や擦り傷のような皮膚の裂け目を通じて、労働者の身体に侵入しなければならない。

非衛生的な状態: 労働者の皮膚や衣服は、多種多様な有毒物質や病原生物に曝露するかもしれない。食物、飲料容器、喫煙用具を汚染から守る注意が必要である。


何ができるか


● 粉じん曝露の予防

ある程度の浮遊粉じんへの曝露は避けられないにしても、可能な場合はどこにおいても、粉じんや灰をかき乱して浮遊しないようにすること。かき乱すことになる作業を行う前に、水で粉じんや灰を湿潤化することは、それらが浮遊するのを防止する。清掃作業中では、粉じんや灰を乾いたままでは決して、掃いたり、手で扱ったりしない。HEPA(高効率粒子)フィルターがついていない掃除機では、粉じんを吸入しない。

呼吸保護具(レスピレーター): 呼吸保護具(レスピレーター)は、口と鼻にかぶせて装着し、粉じんや化学物質などの空気中の有害な汚染物質を濾過するマスクである。眼の保護を提供する呼吸保護具もある。眼の保護を提供しない呼吸保護具の場合には、ゴーグルを装着すること。呼吸保護具を装着する場合は、十分な量の呼吸保護具清掃用品、交換用カートリッジまたは交換用呼吸保護具がなければならない。

呼吸保護具は、特定の空気汚染物質からの保護を提供するように設計されている。ある物質から保護するための呼吸器を装着しているからといって、他の物質からの保護も提供するものと思い込んではならない。適切にフィット(密着)していなかったり、シールが汚物で汚れていたりしたら、呼吸器はいかなる保護も提供しない。

いわゆる「粉じん[簡易]マスク」は呼吸保護

具ではない。また、アスベストやシリカ、その他の有害粒子からの保護は提供しない。

広範囲に及ぶ多様な気中ハザーズが存在する可能性のある、ゼロ地点の労働者のための呼

吸保護具は、微粒子用P-100またはR-100(N-

100ではだめ)(次頁上の写真左) HEPAフィルターがスクリューインされたゴム引きのマスクでなければならない。きわめて荒れた作業条件であり、使い捨て呼吸保護具による密封では状況に耐えられないから、使い捨て呼吸保護具(P-100またはR-100等級のものであっても)を使用すべきではない。呼吸保護具のカートリッジは、最低限各勤務シフトごとに、または、それを使っての呼吸が増加した場合にはそのたびに、交換する。

粉じんや灰が主要な気中汚染物質である、ゼロ地点から少なくとも数ブロックの範囲内の労働者のための呼吸保護具は、N-100、P-100またはR-100等級のものであること。交換用カートリッジ付きのものが望ましいが、密封状態を危うくするような状況を防げるのであれば、N-、P-またはR-100等級の使い捨て呼吸保護具でも差し支えない。(上の写真右)使い捨て呼吸保護具(または呼吸保護具用カートリッジ)は、最低限各勤務シフトごとに、または、それを使っての呼吸が増加した場合にはそのたびに、交換する。

粉じん用呼吸保護具は、酸素欠乏または可燃性、有毒ガスからの保護を提供できるものではない。有毒または可燃性ガスが存在する可能性がある、換気されていない区画の空気は、労働者が立ち入る前に検査する。狭隘区画立ち入りの訓練を受けた資格のある者以外は、ハザーズが存在する区画に立ち入ってはならない。

保護衣の着用

炎症を起こす粉じんからの保護のため、いかなる作業中であっても、ゴーグルを装着しなければならない。帰宅する前に、作業衣から普段着に必ず着がえること。作業衣は作業現場で袋に入れ、汚染を防ぐために、個人用洗濯物とは分けて洗濯すること。

血液感染疾患に対する全般的用心

血液感染疾患を防ぐために、「全般的用心」とともに、(1)あらゆる体液を感染しているものとして扱うこと、(2)自分と体液との間に物理的障壁(ゴム手袋やゴーグル、フェイスマスクなど)を設けること、(3)汚染の可能性のあるものはすべて医療廃棄物として分別して廃棄すること。

現実的でよい衛生設備

飲食または喫煙するときに、衣服や髪の毛、皮膚に付着した有害物質を吸入する可能性がある。何らかの有害物質に曝露した場合には、それらを吸入する何かをなす前に、必ず洗うこと。洗うための水が入手できない場合には、飲食前に濡れペーパータオルを使用する。自家用車や住居の汚染を防止するために、汚染した作業衣を脱ぐことも重要である。

このデータ表には、曝露する可能性のあるすべての安全衛生ハザーズを網羅したものではない。何らかの安全衛生ハザーズや労働安全衛生法令に関して疑問がある場合には、以下に問い合わせられたい。

・ ニューヨーク安全衛生委員会(NYCOSH)
・ マウントサイナイ医科大学アーヴィンJセリコフ労働・環境医学センター
・ ニューヨーク大学/ベルヴィル校労働・環境医学診療所
・ ニューヨーク市中央労働評議会
・ 労働安全衛生庁(OSHA)
・ ニューヨーク州労働部公務員安全衛生(PESH)局

※ http://www.nycosh.org/wtc-catastrophe-factsheet.html
※ NYCOSH(NewYork Committee for Occu-pational Safety and Health)は、アメリカの安全センター。今回紹介する2つのFactsheetのほか、すでにFactsheet 3「世界貿易センター惨事現場の職場・住居への復帰」(10月2日)も発行している。
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9月11日の事件の被災者の補償に関する情報
Factsheet 2, NYCOSH, U.S.A., 2001.9.28


世界貿易センター大惨事の空前のスケールは、労働者、使用者、政府機関や保険会社に、「通常どおりの業務」という発想[“business-as-usual” policy]を捨てざるを得なくさせている。長年の規則や規定は、これまでもたびたび改訂されてきたが、いまや危機に対処するために毎日のように修正されている。NYCOSHでは、補償に関する最新の情報を提供するよう努めているが、状況が目まぐるしく変化しているため、ここに示す情報が完全に最新の情報かどうか保証することはできない。新しい情報をご存知の方はNYCOSHに知らせていただきたい。

誰が世界貿易センター大惨事の結果として政府の補償を受ける資格があるか?

・ 今回の攻撃の結果生じた傷害または傷害のために必要な治療によって休業した者
・ 今回の攻撃の結果生じた精神的トラウマ(外傷)または精神的トラウマのために必要な治療によって休業した者
・ 今回の攻撃によって死亡した者に扶養されていた者
・ 今回の攻撃の結果として個人的財産[person-al property]を失った者または財産に損害を負った者
・ 住居または作業場を通常の使用ができるようにするために清掃または修理しなければならない者

給付を提供する複数の政府のプログラムが存在している

・ ニューヨーク州労働者災害補償評議会[Board]
・ ニュージャージー労働者災害補償部[Division]
・ 労働者災害補償プログラム連邦事務所
・ ニューヨーク州犯罪被害者評議会[Board]
・ ニューヨーク州失業保険
・ ニュージャージー失業保険
・ ニューヨーク市人事管理部[Administration]

異なるプログラムの資格要件の間には相当の重複があるため、複数の機関から補償を受ける資格がある場合もある。

● 労災補償

業務上の傷病の治療を受けるのに医療保険を使うことがなぜ悪いのか? (9月11日の事件の結果、傷害を負い、病気になった人への重要な情報)

弁護士の援助なしに請求
手続を行うことの危険性

労災補償システムは思わぬ落とし穴がたくさんあるため、労働組合や弁護士の援助なしに請求を認めさせようと思っていても、不利な結果を招いてしまうことも少なくない。使用者が労働者の補償請求に異議を唱えるとすれば、使用者は、法廷での審問や請求の妥当性に関する決定を求めてくるだろう。そのような審問の場では、使用者はまず間違いなく、すべてのルールや明らかに有効な請求に対しても反対するために使える先例に通じた弁護士を代理人に立ててくるだろう。

労災補償事件を専門にしている多くの法律事務所が、世界貿易センターの崩壊によって死亡した労働者の家族のために、無料で代理人になることに同意している。報酬の放棄に同意していない事務所であっても、請求がうまくいかない限り、労災補償事件について報酬をとることはできない。NYCOSHは、請求手続をしようとしている人は、自分だけで行わないように強くアドバイスする。NYCOSHは、労災補償法に関する専門ノウハウをもち、依頼人が最大限の補償を獲得するために努力を傾注する弁護士たちの名前と電話番号を提供することができる。

世界貿易センター惨事の被害者のなかには、ニュージャージー州で補償請求手続を行う資格のある者もいるだろうが、ニュージャージー州の給付体系はニューヨーク州とはかなり異なっている。扶養者のいない労働者に関わる死亡給付を除き、ほとんどの場合、ニュージャージーの給付は、ニューヨークを上回る。ニュージャージーで雇い入れられたり、ニュージャージーに住んでいたりという、ニュージャージーと関わりをもつ労働者は、労災補償請求をニュージャージーで行うか、ニューヨークで行うか、弁護士に相談してみる必要がある。

● 死亡給付

業務中または業務後に職場を離れようとしていて殺された世界貿易センターの労働者のほとんどは、ニューヨークまたはニュージャージーの労災補償死亡給付を受ける資格がある。死亡給付は、労働者に扶養されていた者に対して支給される。配偶者は、再婚するまでは、死亡給付を受け取る資格がある。子は、21歳(フルタイムの学生の場合には23歳)になるまでの間、死亡給付の資格がある。ニューヨークでは、配偶者に対する死亡給付の最高額は年20,857ドル。ニュージャージーでは、配偶者は、年30,816ドル受け取ることができる。ニューヨークの労災補償制度は、扶養者のいない死亡労働者の財産(遺産)に対して、50,000ドルの死亡給付を支給する。ニュージャージーは、扶養者のいない労働者の財産には、死亡給付は支給しない。さらに、労災補償からは、6,000ドル以内の葬祭料が支給される。

● 死亡証明書は緊急時対応で発行される

ニューヨーク州では、通常は行方不明になってから死亡証明書を発行するまでに3年間を必要とするが、同州はすでに、世界貿易センターにおける行方不明書の死亡証明書は遅滞なく発行することに同意している。ニューヨーク州労働者災害補償評議会[Board]は、死亡証明が遅れた場合には、労災補償請求手続のための労働者の死亡の証明を自ら行うと発表している。行方不明労働者の扶養者は、請求手続のために弁護士の援助を求めるよう強く助言する。

● 傷害および疾病に対する補償

業務中または業務後に職場を離れようとしていて傷害を負った労働者、業務中または業務後に職場を離れようとしているときに生じた何事かの直接の結果として疾病にかかった労働者はすべて、金銭的賃金補償給付および/または医療を受ける資格がある。9月11日の事件によって生じた休業を必要とする疾病(精神的トラウマや煙の吸入による呼吸器疾患など)もまた、労災補償の対象となるだろう。

● 精神的トラウマに対する補償

精神的トラウマまたは他のストレス関連疾患の結果として医療や休業を必要とする労働者は、たとえ身体的傷害がない場合であっても、労災補償を受ける資格があるだろう。彼らが目撃した出来事(飛行機のタワーへの衝突や人々が窓から飛び降りるなど)の結果としての精神的トラウマにかかっている労働者は、その職場が世界貿易センター内でなかったとしても、労災補償の対象になるだろう。


ニューヨーク州に請求を行う場合には、2年以内に請求手続をすればよいが、使用者に対しては2001年10月9日までに傷害や死亡について通知しなければならない。

請求手続をしようとしていて、まだ労働組合や弁護士と接触していない労働者や遺族は、10月9日までに何らかの行動をとらないと、ニューヨーク州で請求を行う権利を失うことになるかもしれない。他の何らかの手はずをとっていない労働者や遺族は、10月9日までに、傷害を負ったまたは死亡した労働者の使用者に電話をかけ、当該労働者が9月11日に仕事で傷害を負ったまたは死亡したことを通知しなければならない。ニュージャージーでは、事故から90日以内に、使用者に対して傷害または死亡を通知しなければならない。30日(90日)以内の「通知」という必要条件を満たしていなくとも、資格のある者が請求手続を行うことは可能かもしれないが、使用者に電話で通知をしておくことは、今後の請求手続を確実にすることになる。

● 使用者に対する情報

労働者や遺族が使用者にこのような電話をかける場合には、対象となる労働者の氏名と作業場所の所在地、9月11日に業務で傷害、疾病または死亡が発生した状況を知らせなければならない。使用者がそれ以上の情報を求めてきた場合には、質問はこの件を取り扱っている弁護士にするようにと言うべきである。まだ弁護士を雇っていない場合には、弁護士を雇い次第、そちらから使用者に連絡すると伝えるべきである。使用者に電話をかけた日時と話をした相手の氏名を記録しておくこと。

● 未登録労働者も労災補償を受ける資格がある

労働者の入国管理上の地位は、労働者が労災補償を受ける資格には何の関係もない。適切に登録されていない労働者も、登録されている労働者が受けられるのと同じ労災補償給付を受ける資格があるが、NYCOSHは、未登録労働者は請求手続を行う前に、弁護士または労働組合の援助を得るよう強く勧める。

● 自力で請求手続を行う労働者は傷害や疾病の証拠を手に入れる必要がある

専門家の援助を受けずに請求を追求することを選んだ労働者は、傷害や疾病の証拠を手に入れる必要があるだろう。労働者が9月11日に医療を受けている場合には、労働者(または労働者の家族)は、その医療の記録の写しを入手しなければならない。そのような記録を入手できなかったり、その記録に傷害や疾病が仕事中に起こったと記載されていない場合には、速やかに医師による治療を受け、医師にその傷害や疾病が9月11日に仕事で起こったことを話すべきである。精神的トラウマで補償を必要とする請求者も、速やかに資格のあるヘルスケア提供者の治療を受け、提供者にその状態が仕事で起こったことを話すべきである。9月11日の事件の結果生じた状態のフォローアップ治療を受ける労働者は、ヘルスケア供給者にそのような状態が仕事に関連したものであることを話すべきである。いったん使用者に傷害や疾病のことを通知し、医師がその状態が仕事に関連したものであることを記録すれば、労働者には請求手続を行うのに2年間の余裕をもつことになる。労働者または労働者の扶養者が請求手続を行う前に、(労働組合に加入している場合には)所属する組合または労災補償専門の弁護士と相談すべきである。


NYCOSHは、疑問があったら、労働組合か弁護士にぶつけてみるよう強く勧める。また、被災労働者のためのニューヨーク州弁護士会[Advocate] 1-800-580-6665に電話して、ニューヨーク州の労災補償に関する情報を入手するべきである。ニュージャージーの労災補償の情報は、1-609-292-2414で入手できる。


● 連邦の労災補償

9月11日に職務中またはその後の救助活動中に傷害を負った、軍人以外の連邦職員は、連邦従業員補償法の対象となる。連邦職員の遺族である妻と扶養されていた子供も、連邦危機管理庁(FEMA)に命じられて救助作業にあたった労働者として、給付を受ける資格がある。連邦の労災補償制度は、扶養者のいない職員の遺産に対する給付は支給しない。

精神的トラウマの傷害を負った連邦職員は、継続45日間までの賃金を受ける資格があり、その後は、障害が続く限り賃金の75%を受け取ることができる。補償には、障害の影響に対する必要な治療、および、必要な場合には職業リハビリテーションも含まれる。遺族は、扶養者の人数に応じて死亡労働者の賃金の50-75%を受ける資格がある。FEMAに命じられている場合には、捜索・救助作業にあたった者も、その緊急活動に関連した傷害に対して、連邦職員と同じ給付を受ける資格がある。

9月11日の惨事に関連した連邦の労災補償制度の請求について質問がある場合には、202-693-0040に電話して助言を求められたい。請求用紙の入手と請求手続に関する基本的な情報は、無料の相談電話1-866-999-FECA(999-3322)で手に入れることができる。連邦労災補償プログラムのニューヨーク事務所は、世界貿易センターの請求を取り扱っている。ニューヨーク事務所の電話番号は212-337-2037。

● ニューヨーク市の警察官・消防士の補償

市の警察官・消防士は、世界貿易センター惨事による労災補償に関しては、所属する労働組合に相談すること。

● 犯罪被害者補償

労災補償は、業務中または業務後に職場から離れようとしているときに負傷または死亡した人々のみを対象としている。他方、犯罪被害者補償は、仕事中かどうかにかかわらず、世界貿易センター惨事の結果として負傷または死亡した者すべてを対象とする可能性がある。犯罪被害者補償は、労災補償制度から給付を受け取っていても入手することができるが、犯罪被害者給付の総額は、その他の制度から受けた合計額によって減額される。例えば、傷害を負った犯罪被害者は、損失した賃金の代わりに週600ドル受ける資格があるが、労災補償から週400ドル受け取る場合には、犯罪被害者補償からは200ドルのみを受け取ることになる。

● 労災補償を受ける資格のない者に対する給付

犯罪被害者補償を受ける資格があるのは、負傷または死亡した者である(60歳超または18歳未満、9月11日以前に障害のあった者は、負傷していなくても犯罪被害者補償を受ける資格があるかもしれない)。犯罪被害者補償は、他の保険や給付プログラムの対象とならない医療その他関連サービスに対する給付を支給する。所得や生活費の損失に対しては週600ドルまで、また、葬祭料、職業リハビリテーションの費用、カウンセリング・サービス、必須の個人的財産(動産)の損失、損傷または損壊の修理または交換の費用、2,500ドルまでの清掃費用も支給する。犯罪被害者補償に関する情報は、1-800-331-0075または1-800-833-6885(TTY)に電話すれば手に入れることができる。

● 連邦危機管理庁の小修理援助

世界貿易センター付近に住んでいて、9月11日の出来事の結果として負傷または死亡した場合には、その住居を安全に住むことができるように清掃または修理した費用が、犯罪被害者補償の対象となる。住居を清掃する必要があるが、負傷していない場合には、住居の清掃費用は連邦危機管理庁の小修理援助プログラムの対象になる。小修理援助プラグラムに関する情報については、1-800-462-9029に電話されたい。

(以下省略―項目のみ記載) ●失業保険/●食糧切符/●個人・家族補助金プログラム

※ http://www.nycosh.org/wtc-compensation.html
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EPA・OSHAのウエブサイトは環境モニタリング・データを提供
OSHA National News Release, USA, 2001.10.3


(前略)

総じて、世界貿易センターの現場からの汚染物質に関する心配にもかかわらず、EPAとOSHAのデータは、人々が心配するような根拠がないことを示している。世界貿易センターからの粉じんが入り込んでしまったビルに戻る住民・労働者は、適切なビル清掃の手順にしたがうべきであるが、収集・分析された広範囲にわたる環境モニタリングのデータに安心してよい。世界貿易センターの現場で作業中の救助・復旧チームは、EPA・OSHAの勧告にしたがって呼吸保護具や洗濯基地を使用することにより、潜在的な汚染物質への曝露から自らを守る手順をとるべきである。

EPAとOSHAは、ニューヨーク市のメトロポリタンエリアから全体で835の大気サンプルを採取した。EPAは現在、ゼロ地点とその周辺の住居・商業地域に設置した16の固定モニターから、データを収集し続けており、EPAとOSHAは、この地域全体の様々な場所からのデータを収集するために、ポータブル・サンプリング装置を使用している。

EPAがゼロ地点と隣接地域で採取した合計442の大気サンプル中、アスベスト除去後の学校に子供が再入場できるかどうかを決定するのにEPAが用いている基準―長期曝露の仮定に基づいた厳格な基準―を上回るアスベストのレベルだったのは、わずか27にすぎない。OSHAでは、同じ地域の67サンプルを分析し、そのすべてがアスベストについてのOSHAの職場基準を下回っていた。

ニュージャージーに設置したEPAの4つのモニターで採取した合計54のサンプルでは、EPAの基準を上回るレベルはなかった。世界貿易センターからの瓦礫が運び込まれている、スタテンアイランド・フレッシュキルズのゴミ処分場に設置されたEPAのモニターによる別の162サンプルでは、2つだけがEPAの基準を上回った。

EPAとOSHAが採取した177の粉じん・瓦礫サンプルの分析結果では、EPA・OSHAがアスベスト含有物質の定義に使っている1%をこすレベルのものは48だった。ハドソンリバーとイーストリバーに流れ込む水の初期のサンプルは、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ダイオキシン、アスベストおよび金属のレベルの上昇を示したが、最近の結果では、検出可能なレベルのアスベストはみつからず、PCB、多環式芳香族炭化水素(PAHs)および金属は問題になるレベル以下であった。

EPAとOSHAでは、ゼロ地点とその周辺地域で、金属類(鉛、酸化鉄、酸化亜鉛、銅およびベリリウム)のサンプルも行っている。これらの金属でOSHAの限界値を超えるものはなかった。

EPAは、世界貿易センターの現場とその周辺において、EPAの対策発動のためのレベルを上回るダイオキシンのレベルを測定したが、ダイオキシンによるリスクは長期曝露に基づくものである。EPAとOSHAでは、現場の残り火が消え次第、レベルは下がるものと予想している。

緊急作業労働者の呼吸器防護の適切なレベルの判定に役立てるために、ゼロ地点で採取した、36の揮発性有機化合物(VOCs)サンプルのうち、いくつかのサンプルが労働者に対するOSHAの基準を上回っている。労働者にとって直接のリスクを示すものはなく、火災が消えればレベルは下がるものと予測される。

ニューヨーク市メトロポリタンエリアの地域別のより詳しい情報を含むデータ表は別添のとおり(省略)。

※ http://www.osha.gov/media/oshnews/oct01/national-20011003.html


公衆衛生保護のために設定されている基準等
Laurie Kazan-Allen, IBAS, 2001.9.19


(前略)

以下は、世界貿易センター惨事の余波の環境の状態を評価する上でEPAが使用している、主なベンチマーク、基準、ガイドラインを説明したものである。

アスベスト

● 大気中

世界貿易センターとその周辺のデータを評価するにあたって、EPAは、屋外および屋内のアスベストによるリスクを評価するために、AHERA―アスベストハザーズ緊急対応法による防護基準を使っている。これは、アスベストの除去または減少の後に、子供たちが学校の建物内に再入場してよいかを決定するために用いられる、非常に厳格な基準である。長期曝露の仮定にもとづいたものである。人々が世界貿易センターからのアスベストに長時間曝露することはありそうでないことではあるが、これがもっとも厳しく予防的であるという理由から、EPAではこの基準を使うことにしたものである。

アスベストのレベルを判定するためには、監視装置から、学校建物内の空気を通過させたエアフィルターを収集して、顕微鏡で見る。そして、ストラクチャー―表面または内部にアスベスト繊維を有する物質―の数を数える。計測の結果が1mm2当たり70ストラクチャー以下でなければ、子供たちが中にいることは許されない。

職務中の労働者を防護するために用いられる、OSHA―労働安全衛生法によるアスベスト曝露の連邦基準も存在している。この基準は、8時間日に対して平均0.1繊維/cm3である。可能な限り防護的であるために、EPAでは、世界貿易センター周辺の分析には、学校再入場基準(の方)を使っている。

70ストラクチャー/mm2を超すレベルが、直接の健康への脅威を意味するということではない。アスベスト曝露は、高濃度のアスベスト繊維を長期間吸入する場合に、健康上の問題となる。一回の高レベル曝露または低レベルの短期曝露から、結果として病気が起こることはきわめてありそうもない。

● 粉じん中

アスベストを1%以上含有する物質は、「アスベスト含有物質」とみなされる。アスベスト含有物質の適切な取り扱いおよび廃棄を確保するために実施されている連邦規則が存在している。アスベスト含有率が1%未満の場合には、規則は適用されない。

EPAは、ゼロ地点とその周辺の粉じんサンプルを評価するにあたって、この1%定義を使っている。現在までに採取されたサンプルの圧倒的多数は、1%未満のレベルのアスベスト含有率である。実際、ニューヨーク市のような都会では、通常の状況でも低レベルのアスベストの存在を予想することができる(こうした低い日常のレベルを「バックグラウンド・レベル」と呼ぶ)。

● 粉じんと大気サンプルの違いに関する理解

EPAの提供するデータを吟味するにあたっては、大気中のアスベスト濃度を測定したデータと、地面やその他の表面から採取した粉じんのデータを区別することに注意しなければならない。大気サンプルの方が、人々の汚染物質への曝露の可能性のより正確な指標である。また、粉じんや瓦礫中のアスベストのレベルは、場所によって変化する。EPAその他の機関は、1%を超すレベルの粉じんをいくつかみつけているが、大気サンプルは概して、人々の健康に著しい脅威を引き起こすレベルのアスベスト濃度は示していない。

● 飲料水中

PCB、アスベスト、金属および細菌を含め、広範囲にわたる可能性のある飲料水汚染物質について、ロワーマンハッタンの地下水道管から採取した飲料水サンプルを分析した。これらのサンプルは、人間の健康を防護するために設定された、各汚染物質ごとの飲料水の基準である、連邦最大汚染レベル(MCLs)と比較して評価した。これらの防護基準を超える汚染物質は検出されなかった。

飲料水中のアスベストについてのEPAの基準は、700万繊維/lである。EPAが、ロワーマンハッタンにおける市の給水システムの水道管から採取した飲料水を分析するにあたって使ったのは、アスベスト曝露による健康リスクから人々を防護するために採用されたこの基準である。ニューヨーク市環境保護局では、飲料水の定期的モニタリングを継続している。

※ http://www.epa.gov/air/nyc/activities.htm

※ 被災現場の汚染状況をめぐる議論はまだまだ続きそうだ。10月5日付けのNewsweek Onlineの記事(http://www.msnbc.com/news/638853.asp)は新たな問題が生じていることも報じている。AIHA(アメリカ産業衛生協会)の見解発表も数週間から数か月かかりそうだという。

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アスベスト禁止が人命喪失につながったのか?
The New York Times, U.S.A., 2001.9.18


世界貿易センターは1960年代後半から1970年代はじめに建設されたが、当時、科学者たちは、耐火梁用鉄材に一般に使用されていたアスベスト繊維が、とりわけ鉱山やアスベスト取り扱い工場周囲で、集中的にその繊維に曝露した労働者や傍観者にがんを引き起こす可能性があることを学びつつあった。

禁止されることを予測して、建設業者は、最初に建てられた北タワーの建設が40階に到達したところで、この材料の使用を中止した。

いま何人かの技術者や科学者―少なくともニューヨーク市におけるアスベスト禁止を支持する調査研究結果をまとめた1人を含む―は、代替品はアスベスト含有建材のように効果的だったのか? という悩ましい疑問につきまとわれている。

珪酸塩鉱物繊維であるアスベストは、その融点の高さや科学分解抵抗性のゆえに、耐火用品として高く評価されていた。また、わずかな熱しか伝道せず、その繊維は強くて柔軟性のある製品を創りだした。

技術者や科学者を悩ませているのは、火曜日の業火によってねじ曲がり、タワーの崩壊をもたらすことになった鋼鉄製の梁やけたを、アスベスト断熱材だったら最後まで支えられたかもしれないなどということではない。

実際、ある耐火材の開発、試験、使用の専門家は、鋼材やアスベスト、その他のいかなる取り扱いの基準も、異常な高熱と激しい炎のなかでタワーが崩壊するのを防ぐことはできなかったと言っている。

しかし、アスベスト断熱材が使用されていれば、より多くの人々が逃げ出すのに十分なだけの時間、崩壊を引き伸ばせていたのではないかと考える者もいるのである。また、より重要なことは、世界貿易センターの惨事は、多くの耐火材に関する知識のギャップを明らかにしたと、彼らが言っていることである。

これらの材料は、典型的な通常の火災という条件のもとでの定められた試験を受けているとはいえ、先週の大惨事のような非常な高温下での有効性については一般にわかっていない。アメリカ国内でのテロという新たな時代のなかで、無知はもはや許容できないという専門家もいる。

「非常に激しい、非常に大規模な火災に対する試験は行われてこなかった」と、ラトガーズ大学の機械航空工学教授Yogesh Jaluriaは言う。

1991年のペルシャ湾岸戦争中のクウェートにおける大規模火災をめぐっても同様の疑問が提起されたとして、Dr. Jaluriaは、タワーに対する攻撃でアスベストは何の違いももたらさないとほぼ確信していると述べた。しかし、彼は、決定的なデータはないとも言っている。

耐火技術やその他の技術がテロ防止の代替措置になると信じている者はいないが、ビルの設計や建材については、さらに詳細な分析が行われなければならないという専門家はいる。

「われわれがテレビで見たような状況下で何が起こったのかを、完全にコンピュータ分析する技術は存在している」と、カリフォルニア大学バークレー校の工学名誉教授Dr. R. Brady Williamsonは述べる。

指摘されているように、貿易タワーを再建する前に、「このシナリオに対抗」できるようなビルの設計に資する研究が行われるべきである、とDr. Williamsonは言う。

1962年から1987年までニューヨークとニュージャージーの港湾管理委員会の世界貿易部長としてツイン・タワー・プロジェクトの主導者であったGuy F. Tozzoliは、当時最大のジェット機だったボーイング707が追突しても耐えられるように設計されていたと言う。この検討は、霧のために行方不明になった飛行機の低速での衝撃を想定したものだったという。少なくとも当初は、どちらのタワーも、大型ジェット機ボーイング767の高速での衝撃にも生き残っていた。

耐火材の話に戻れば、港湾管理委員会は当初、乾燥して、華氏1,100度の温度上昇からも鋼鉄を守る断熱層を形成すると目された、アスベストを20%含有した混合物を鋼鉄の梁に吹き付けるようにした。

「その温度で鋼鉄は強さの50%を失い」、ビルの負荷によってねじ曲がりはじめる、とこのような材料を試験した、イリノイのUnderwriters Laboratories[安全性試験団体]の耐火建設部長Robert Berhiningは言う。この耐火材は、Blaz-Shieldの商品名で、ニュージャージーのUnited States Mineral Products of Stanhope社が製造した、と当時同社社長で現在会長を務めるJames Verhalenは言う。その65%は、本質的には岩石である「ミネラル・ウール」で、溶融され、セメント様の成分によって相互に結合されて繊維に加工されている。

しかし、タワーの鋼鉄製の骨組みが建ち上がっていくように、当時マウントサイナイ医科大学の環境科学研究室長であったDr. Irving J. Selikoffによるがんの研究が、アスベスト終焉の開始のシグナルになりつつあった。

建設現場からアスベストが大気中に飛散していることを示した実験が、その将来を封印した。1969年に港湾管理委員会は、アスベストを含有しない代替耐火材に切り替えることを決定し、市当局は1971年に、建材へのアスベストの使用を禁止した。プロジェクトは再び、United States Mineral社が開発した、アスベストを取り除いた、商品名は同じBlaze-Shieldという新製品を使いはじめた。さらに、当初のアスベスト含有材料の半分以上を、後に交換した、と港湾管理委員会のスポークスマンAllen Morrisonは言う。

Verhalenは、新製品は、本質的により多くのミネラル・ウールと結合材を含有しているが、アスベストは含んでいない、と言う。

「Underwriters Laboratoriesでの耐火試験では、アスベスト含有製品と同等の耐性を示した」と、Verhalenは言う。港湾管理委員会も同じ結果をもっている。「われわれは徹底的に試験した」と、ホランドトンネルのニュージャージー川にある料金所から2機目のジェット機の衝突を目撃したTozzoliは語る。アスベスト耐火材を使っていなかったことは、「ビルの崩壊に何の影響ももたらさなかった」、と彼は言う。

しかし、部分的には、この代替材は紙や家具のある通常のオフィス火災に特有な温度では大いに試験されたとしても、今回のような大異変に関しては試験されていない、と疑問を抱く者もいる。

「世界貿易センターの今回の出来事に鑑みて振り返ってみると、代替材料の性能特性が充分であったかどうか疑わしいと思う」と、ブルックリン大学の環境科学研究室長Dr. Arthur Langerは述べる。

Dr. Langerによる大気中のアスベスト測定はDr. Selikoffの研究において重要なものであったが、自らの研究にアスベスト産業からの財政支援を受けるようになってから、回答は決してわからないということを認めるようになった。彼はいまも材料を替えるという決定は、「公衆衛生に対する関心に基づいた正しいもの」と信じているが、Dr. Langerは、火災に対する有効性についての疑問はなお彼を悩ませていると言う。

この疑問に対する彼らのスタンスがどんなものであっても、今回の災害が、将来の建材の選択方法を変えるかもしれないと示唆する者もいる。

他の物質と比較したアスベストの耐火性能は、「正当な疑問」であると、マウントサイナイでDr. Selikoffの跡を継いだ(Dr. Selikoffは1992年に死去)Dr. Philip J. Landriganは言う。しかし、正式な肩書きは社会・予防医学部長である医学博士Dr. Landriganは、代替材がアスベスト含有材と同等であることを示した研究結果に満足している。また、Dr. Selikoffの研究は、アスベスト曝露によって何十万もの人々ががんで死亡していることを示したものであると述べた。

「アスベストによる犠牲は真に甚大なものである。異なる点は、もちろん、それが一度に重なったことである」と、Dr. Landriganは語った。

*****

心配されるゼロ地点のハザーズを一掃
Washington Post Online, U.S.A., 2001.10.16



マンハッタンの地平線からツインタワーが灰燼の中に消え失せてから1か月、ゼロ地点に今なお残っているものは煙である。破壊された鋼鉄のねじれた山から厚い煙雲が立ちこめている。

言い表わすのが困難であるが、忘れることのできないな臭いが残っている。ほのかに甘く、鼻をくすぐり、喉をひりひりさせる。現場で働く作業者は、何万トンもの金属がたいまつの下で燃える巨大鋳造構造にたとえている。

この煙は、連邦、州、市の保健当局が、清掃作業に従事する労働者の健康を心配する種になっている。世界貿易センタービルはそれ自体がひとつの都市として、燃えたり大気中に放出されれば健康への長期的リスクをもたらす可能性のある、燃料や塗料、断熱材、その他の物質を備えていた。ジェット機の混合燃料と推定5,100人近くの殺された人々という有機物質に加えて、ドン・カーソンが制御不能なマンモス解体現場と呼ぶ、風向きと掘削の深さによって鼻をつく蒸気が一瞬のうちに成分を変えてしまう場所が存在しているのである。

カーソンは、国際操作技師労働組合(IUOE)の有害金属トレーニング・プログラムを担当している。カーソンの労働組合は、環境保健科学研究所(NIEHS)の資金援助を受けて、9月15日以来ロワーマンハッタンの現場にいて、呼吸保護具を配り、また、潜在的に致死的な金属を取り扱う最も安全な方法についての現場トレーニングを実施している。

トレーニングを受けるだけでなく、労働者たちは長期間にわたってモニターされなければならない―汚染物質吸入による健康影響は何年間も現われないかもしれないのである。このため、マウントサイナイ医科大学環境・労働医学部長のフィリップ・ランドリガンは、国立労働安全衛生研究所(NIOSH)およびNIEHSと協力して、ゼロ地点労働者、とりわけ有害物質への曝露がハイリスクな者のデータベースを作成しようとしている。

カーソンの労働組合は、自らの必要性からも、有害物質トレーニングの分野のリーダーとしての確固たる評価を得ている。IUOEの組合員は、有害廃棄物清掃現場で機械を操作することも多い。そこで彼らは、どのような状況下でもゼロ地点で一定の役割を果たしてきた。多くのニューヨーク市消防局の有害金属の専門家たちが初期の救助活動のなかで死亡してしまったいま、彼らの存在は一層きわめて重要になっている。

カーソンとその同僚たちは、真っ先に、自らのところの組合員、現場から瓦礫を運び出す巨大クレーンの運転手にトレーニングを行った。しかしそれだけでなく、彼らは、瓦礫の山の上で働く鉄鋼労働者その他の労働者、現場を管理する警察官、遺体捜索のため現場にいる消防隊員、州兵隊、連邦危機管理庁の労働者、連邦の法律執行官やボランティアなど、数千人にトレーニングを行っている。

テネシー出身で現在はウエストヴァージニアに住んでいるカーソンは、モーターカートに乗ってゼロ地点をパトロールしながら、呼吸保護具を配り、呼吸保護具を着けていない者、とくに瓦礫の山の近くにいいる場合は、穏やかに叱りつけている。

「そいつは何の役にも立たない」と先週、カーソンは手術マスクを着けた警察官に話しかけた。「これを着けてみな」と言って、彼はその警察官に呼吸保護具を放り投げた。カーソンがのんびりしていると、人々が素早く集まってくることがしばしばである。

しかしカーソンその他によれば、ハイリスクの最前線にいる者が、呼吸保護具やその他の用心を拒否することがあまりにも多いという。そうしたことは、ビルを建てることにはなれているが、吹き飛ばされた戦争地帯の解体作業の経験はもっていない建設労働者に多い。

「ここでの問題は、明らかにここが標準的な建設現場ではないということだ」、と世界貿易センターの現場で働いているIUOEの産業衛生士ブルース・リッピーは言う。「非常に危険な場所であり、このような人々を働かせることは尋常のことではない。呼吸保護具を着けていない者も多い。われわれは、呼吸保護具を着けるよう彼らをどなりつけている」。

ゼロ地点でトレーニングを行っているIUOEその他のグループは労働者に対して、マスクの装着だけでなく、アスベストやその他の有害物質を家に持ち帰らないようにするため、現場を離れた後、作業衣を脱いでプラスチック・ボックスに入れ、着替えるよう強く言っている。現場に入って、外に出ていく車両は洗車すること。運転手は、自家用車をクレーンから隔離しておくように言われている。

リッピーは、現場からおよそ60のサンプルを採取して、とくに鉛とアスベストの検索を行ったと言う。これまでのところ危険なレベルを示したものはなく、環境保護庁の発表を支持している。しかし、リッピーは、ずっと安全であり続けると信じているわけではない。北側のタワーは40階までアスベストが吹きつけられていた、と彼は言う。40階以下の部分の残骸は、火災がなお続いている穴の底にあるようだ。

「高い濃度になるのかどうかはわからない」、掘削労働者の立場でリッパーは言う。「ここではすべてが流動的だ」。

マウントサイナイのランドリガンは、アスベスト分析用のほとんどのサンプルの採取が、8時間から10時間という時間で行われており、大気中のアスベストの平均した量が低くなっているかもしれないと指摘する。しかし、アスベストは、素早く飛散する可能性がある。

「作業者が梁を拾い上げたり、ほこりをひっくり返すような場合は常に、労働者の顔面にアスベストが舞い上がる可能性はある」、とランドリガンは言う。アスベストへの長期曝露は、肺がんその他の疾患を引き起こす可能性がある。

全国データベース作成のための現場における労働者のテストはまもなく開始される。その間、カーソンは、呼吸保護具が顔からずり落ちないよう、人々の尻をたたいて回り続けるだろう。

「遺体の臭いやフロンの臭いはかぐかもしれないが、アスベストは臭いをかぐことができない。しかし、臭いをかぐことができないものが、実際にあなたを害する可能性があるということなのである」、と彼は言う。
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