2002.1.5 |
3月12日、画期的な評決の中でWTOの上訴機関は、フランスが白アスベスト含有製品の輸入を禁止したことを支持し、2000年9月のパネルの事実認定を覆すことを求めたカナダの要求を却下した。上訴機関は、フランスのアスベスト禁止措置は、人間の健康を防護する必要性を考慮した措置へのWTO諸規則の一般的例外を規定した―1994年関税及び貿易に関する一般協定(GATT)第XX(b)条のもとで正当化されるとしたパネルの基本的事実認定を支持した。もっとも意義深いのは、上訴機関が、アスベストと他のより危険性の少ない代替繊維がGATT第III:4条で定義される「同等」の商品であり、原則としてフランスの市場で同じ処遇を与えられるべきであるとしたパネルの結論については覆したことである。昨年9月に裁定を出したパネルは、ポリビニルアルコール、セルロース、グラス(PCG)ファイバー繊維等の代替品を含有する製品の「同等性」を考察するうえで、クリソタイル・アスベストに関連した健康リスクを考慮することは「適当でない」とした一方で、上述の結論に達していた。 対照的に、上訴機関のレポートは、「ある製品に関連した健康リスクに関する証拠は、1994年GATT第III:4条のもとでの『同等性』を考察するのに適切であるという非常に多くの意見がある」(上訴機関レポート, WT/DS 135/AB/R, $113)と述べている。「発がん性あるいは毒性は、われわれの見方によれば、クリソタイル・アスベストの物理的と区政の側面の定義の構成要素である。対照的に、PCG繊維はこうした特性を、少なくとも同程度には、共有していない。この著しい物理的相違を、1994年GATT第III:4条のもとでの『同等性』を決定する要素として、物理的特性を考察するうえでどのように考慮に入れるべきかは、われわれにはわからない(同前$114)」。 上訴機関の事実認定はWTOにおいてフランスの禁止措置を防衛する「画期的」裁定であるとして、欧州委員会は歓迎している。「この裁定は、WTOがわが市民の関心に敏感であることを示すものである」と、EU貿易局長パスカル・ラミーは言う。当初のパネルの決定は、人々の健康を防衛する側から提起された主張をWTOのパネルが支持した最初の事例となったものの、「同等製品」に関する部分は、「間違った理由で良いことをした」、あるいは、有毒製品と非有毒製品の区別をできなくする危険な前例を作るもの、として環境団体がWTOの決定を非難するもととなったものであり、環境団体や消費者団体は今回の裁定をおおむね歓迎するものとみられている。 上訴機関は、フランスの禁止措置は「技術的規制」を構成するものではなく、それゆえWTOの貿易の技術的障壁に関する協定(TBT協定)の対象とはならないとしたパネルの事実認定に対するカナダの異議申し立てを支持した。法律専門家は、上訴機関の事実認定は、ある措置が人間の健康を防護する必要性があると思われるという見地からTBT協定の原則から免除されると、各国が宣言することを許すという潜在的抜け穴をふさいでいるものとして重要である、と言っている。 このケースは、カナダにとって大きな政治的重要性をもっている。なぜなら、この問題の多い産業が、分離主義的感情が根強く残っているケベック州に集中しているからである―実際、何人かのアナリストは、オタワの連邦政府にアスベスト製造業を防衛するという明確な態度をとらせてきた原因であるとしている。 カナダのアスベスト生産業者も、この裁定は開発途上諸国において著しく否定的な影響をもつ可能性があると警告している。裁定は、アスベスト・セメントでつくられた製品が死亡率の減少に貢献している開発途上諸国の損害よりも、アスベストは危険だとする豊かな国々の主張に重みを与えたものである、とアスベスト研究所所長デニス・ハーメルは3月12日に語った。 グリーンピース・インターナショナル、世界自然保護基金(WWF)、アスベスト禁止ネットワーク、アスベスト禁止国際事務局、国際環境法・開発財団(FIELD)などのNGOは、間もなくこのアスベストに関する決定についての声明を発表する予定である。[次の記事参照] *****
IX. 事実認定および結論 192. 本レポートで提示された理由によって、上訴機関は: (a) パネル・レポート8.72(a)節の、TBT(貿易の技術的障壁に関する)協定は「当該法令のアスベスト及びアスベスト含有製品の輸入禁止に関する部分は、この部分がTBT協定別添1.1の趣旨の範囲内の『技術的規制』を構成するものではないため適用されない」としたパネルの事実認定を取り消して、当該措置は、全体としてみて、TBT協定のもとで「技術的規制」を構成するものである、と認定し; (b) パネル・レポート8.132及び8.149節の、1994年GATT第III:4条のもとでそれらの繊維とPCG繊維の「同等性[類似性、likeness]」を考察するうえで、また、同条項のもとでセメントをベースとしたクリソタイル・アスベスト繊維含有製品またはPCG繊維の「同等性」を考察するうえで、クリソタイル・アスベスト繊維に関連した健康リスクを考慮することは「適当でない」としたパネルの事実認定を取り消し; (c) パネル・レポート8.144節の、1994年GA TT第III:4条のもとでクリソタイル・アスベスト繊維とPCG繊維は「同等の製品」であるとしたパネルの事実認定を取り消して、カナダは、同条項のもとでこれらの繊維が「同等の製品」であることを立証すべき責任を満たさなかった、と認定し; (d) パネル・レポート8.150節の、1994年GA TT第III:4条のもとでセメントをベースとしたクリソタイル・アスベスト繊維含有製品とセメントをベースとしたPCG繊維含有製品は「同等の製品」であるとしたパネルの事実認定を取り消して、カナダは、1994年GATT第III:4条のもとでそれらのセメントをベースとした製品が「同等の製品」であることを立証すべき責任を満たさなかった、と認定し; (e) パネル・レポート8.158節の、当該措置は1994年GATT第III:4条に一致しないとしたパネルの事実認定を取り消し; (f) パネル・レポート8.194、8.222及び8.223節の、係争中の措置は、1994年GATT第XX(b)条の趣旨の範囲内で、「人間の生命または健康を防護するために必要」であるとしたパネルの事実認定を支持して、この結論に至るうえでパネルは、DSU(紛争解決に係る規則及び手続に関する了解)に矛盾せずに行動したものと認定し; (g) パネル・レポート8.265及び8.274節の、当該措置は、1994年GATT第XXIII:1(b)条のもとで訴因を生じさせる可能性があるとしたパネルの事実認定を支持する。 193. カナダは、係争中の措置が適用される諸協定のもとで欧州共同体の義務と矛盾するということを立証することができなかったということはわれわれの事実認定から導き出されたものであり、よってわれわれは、DSU第19.1条のもとでDSB(紛争解決機関)に対して、いかなる勧告も行わない。 原本は2001年2月16日、ジュネーブにて以下の者によって署名された: (座長)Florentino P. Feliciano, James Bacchus, Claus-Dieter Ehlermann *****
フランスのアスベスト禁止を支持した今週のWTOの裁定について、グリーンピース・インターナショナル、世界自然保護基金(WWFインターナショナル)、アスベスト禁止ネットワーク、アスベスト禁止国際事務局、国際環境法・開発財団(FIELD)でつくるNGO連合は、有害なアスベストはより安全な物質と同じではないとした上訴機関の事実認定を歓迎する。 WTOパネルの元の裁定を覆して、WTO上訴機関は、発がん物質アスベストはより安全な代替物質と同じではなく、フランスのアスベスト禁止措置は国際貿易法に違反してはいないと認定した。上訴機関の事実認定は、この事件で法廷助言者あるいは裁判所の友として提出した意見の中で述べたNGOの主張と一致している。 このWTOの決定を受けて、アスベスト禁止国際事務局のローリー・カザンアレンは言っている。アスベスト関連疾患はまさに今何千名もの人々を殺している。上訴機関の最新の裁定を歓迎し、責任ある政府はいまやWTOのことを気にすることなしに、この致死的な物質から自国の労働者と消費者を防護する努力を続行することができる。 上訴機関はこの事件で、WTOの諸規則のもとにおける人間の健康を理由とした例外条項の適用についても検討している。通常、禁止措置はWTOの諸規則に違反していないと事実認定すれば、いかなる例外も検討する必要はないだろう。しかし、フランスの禁止措置は健康例外規定によって許されるとしたパネルの事実認定に対するカナダの上訴は、上訴機関にこの問題をレポートの中で取り扱うことを余儀なくさせた。健康例外規定の適用に関するパネルの事実認定を支持して、上訴機関は、加盟諸国が自国民にどの程度の防護を提供しようとするかはその国次第であるということを確認した。がんを引き起こすアスベストからの完全な防護を提供することを選択するうえで、フランスは禁止措置に代わる合理的に利用可能な代替策を持っていなかったことを、上訴機関は確認した。上訴機関は、健康政策を策定するうえで、加盟諸国は多数派の科学的意見に従うべき義務はないことも付け加えた。 この事件では、フランスのアスベスト禁止を支持する証拠は圧倒的だった、とWWFインターナショナル上級政策アドヴァイザー、エイミー・ゴンザレスは解説する。しかし、上訴機関の科学的見解の妥当性に関するガイダンスでは、すべての加盟諸国は、防護措置を正当化するリスクに関して科学者の見解が一致していない場合でも、人間、動・植物の最大限の防護を選択する権利が与えられているとしている。「これは、貿易関連紛争における予防原則を認めることを意味していることから、重要である」、とグリーンピース・インターナショナル政策局長レミ・パルマンティエは語っている。 今回の上訴機関の裁定は、各国政府が有毒物質と非有毒物質の区別をすることができることを確認することによって、NGO連合からの嫌疑を晴らした。しかし、なぜ上訴機関がNGOからの意見提出を拒絶し、その理由を明らかにしなかったということに関しては、NGOは疑念を残している。昨年11月、上訴機関は、「追加手続」なるもののもとでWTOのアスベスト事件についての第三者からの意見の提出を呼びかけ、そして即座に拒絶した。締切期限内になされた意見提出の申し込みを拒絶したことを正当化するのに、上訴機関は、追加手続で要求した7項目の事項を満たさなかったと述べた。上訴機関は、7項目のうちのどの事項を満足させなかったのか、あるいはどのような根拠で要求事項を満たさなかったのかを示さなかった。NGO連合は、この上訴機関の対応に満足しなかったため、法的問題に関する書面による意見を提出した。 「NGOからの人々の関心についての主張を聞くことを拒否したことによって、WTOは、上訴機関のフェアプレーおよびデュープロセス(法の適正な過程)に関する主張と矛盾する行動をとった」、とグリーンピース・インターナショナル政策局長レミ・パルマンティエは言う。 「われわれは、法廷助言者に関する手続一般の価値と、紛争解決手続への加盟開発途上諸国および南側の公益グループの関与するキャパシティを拡大する必要性をはっきりと区別するようにしなければならない」、とWWFインターナショナル上級政策アドヴァイザー、エイミー・ゴンザレスは言う。 公益団体がWTOとその関心事についてコミュニケートできるようにする回路が限られている中で、NGOは、法廷助言者としての意見提出を、国際貿易をめぐる決定において公益団体の建設的な参加のための重要な手段としてみていたのである。 * 原文は、http://www.field.org.uk/で入手できる。 *****
モントリオール・2001年3月12日―アスベスト研究所[The Asbestos Institute]は、1997年1月にフランスが施行したクリソタイル・アスベスト禁止措置の範囲に関する2000年9月の特別委員会の判定を無効化しなかった、世界貿易機関(WTO)の上訴機関の決定に失望した。特別委員会は、フランスの禁止措置が仮に国際貿易を律する諸協定に違反していたとしても、人間の健康を防護するために確立された例外条項によって正当化されると結論した。 WTOへ上訴した目的は、クリソタイルを試験することではなかった。特別委員会と上訴機関は、フランスの制限措置が国際貿易を律する国際協定に違反するかどうかを決定しなければならなかった。決定のウエイトは、加盟諸国にはその国民が曝露する可能性のあるリスクの程度を決定する自由があると述べるにとどまった。 アスベスト研究所は、特別委員会の決定を支持したことが、国際的規模で、とりわけ開発途上国において、否定的影響をもちかねないことを危惧する。「WTOはフランスのケースを検討しただけで、その状況は、住宅や飲料水供給施設などの多くの基本的必要性のためにクリソタイルをベースにした製品を使用しなければならない開発途上諸国に移し代えることのできるものではない」と、研究所長のデニス・ハメルは言明している。「代替製品を製造する多国籍企業の支援を受けた反アスベスト・グループは、この決定は世界規模でのクリソタイル禁止を呼びかけるものだと宣伝して、まだ世論やメディア、政治家たちをねじ曲げようとしている」。研究所は、この質問は訴因ではなかったことを指摘しておく。 特別委員会の決定を維持することによって、上訴機関は、より豊かでない諸国よりも、豊かな諸国の主張に重みを与えた。アスベスト・セメントでつくる製品は、飲料水や住宅の欠乏に直面している多くの開発途上国の高死亡率を減少させるのに著しい貢献をしている。健康に対するリスクが完全にはわかっていない代替製品は相対的に、高価であり、寿命が短く、大多数の国の立法者がその使用を管理することはできないということに注しなければならない。クリソタイルの使用を管理しているのと同じ措置を確立することなしに、この代替品の使用を認めれば、リスクが知られず、また管理されていないかった時代にアスベストに悪いイメージをもたらした過ちを再び繰り返す可能性がある。 1989年にアメリカ合衆国がほとんどのアスベストの使用を禁止したものの、この決定は1991年に連邦最高裁判所において、禁止措置はあまりに制限的すぎる解決策であり、禁止に伴う費用はその効果をはるかに上回るという事実ゆえに代替製品は相対的に安全でないと立証されたことによって覆されたことを想起することは重要である。 アスベスト研究所は、この決定が上訴機関によって確認されたことは、公衆衛生上の動機による、あるいは競争相手のロビイ活動の圧力のもとでの、過度の貿易保護規制の採用に道を開くことになるだろうと考えている。本年、欧州連合は、1,200の自然物質と産業製品の禁止または厳格な規制を要求している。広大な自由貿易圏の創設が議題にあがることが予定されているアメリカ・サミットの開会の前に、国際貿易を律している法体系の信用性が揺さぶられてしまった。 アスベスト研究所は、消費諸国において、クリソタイル・アスベストの安全使用を支持する基準を確立するために闘い続ける。それは、カナダ政府のポジションを無条件で支持し、また、クリソタイル禁止は「不合理かつ正当と認められない」措置であり、「管理使用に伴う気づかれていないリスクを不適当な代替品のリスクに置き換えるという命取りの結果をもたらす」とWTOに対して述べたケベック政府によって支援される。 * 原文はhttp://www.chrysotile.com/news/article. asp?ref=20010312で入手できる。 *****
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