2001.2.25

安全センター情報


2000年6月号



産業救済法案反対の取り組みが急所をついた


NYCOSH Update, U.S.A, Vol.V, No.7, 2000.4.14


アスベスト産業を訴訟から免罪させるよう議会を説得する2千万ドルをつぎ込んだアスベスト業界のキャンペーンは、ここ2週間の間に障害にぶちあたっている。 誰がアスベスト傷害を補償すべきかをアスベスト産業が定義することを認めるアッシュクロフト-ハイドアスベスト産業救済法案は、主要スポンサーのひとりであるアッシュクロフトによって後回しにされてしまった。
今年再選をめざしているアッシュクロフトは、苦境を共にしている議会の少数の仲間たちと話し合った後で、同法案を上院の議題からはずすことに同意した。彼らにとって、有権者の不評を買うことの明らかな一片の法律に自分たちの名前が載ることが、選挙キャンペーンに不利になってきたのである。

11月[選挙投票日]が近づくに連れ、ニューヨーク、ニュージャージー、ミネソタ、ミズーリ、ペンシルバニア選出の議員たちは、自分たちが攻撃にさらされていることに気がついた。ある議会スタッフがNYCOH[ニューヨークの安全センター]に語ったところでは、現職候補をアッシュクロフト-ハイド法案の支持者だとして攻めたてている候補者もいるという。アスベスト企業が多数の被災者に何億ドルも支払わずに逃げ出せるようにするような法案に名前を載せる者は代議士として全くふさわしくないということを有権者に納得させることはさしてむずかしいことではない。 アスベスト法案に関して選挙攻撃のターゲットのひとりであるアッシュクロフトは、ミズーリの民主党支持の有権者の中で接戦を強いられている。彼は、同州AFL-CIOを含めたミズーリの労働組合から、法案から名前をはずすように働きかけられてきた。同法案を上院の議題からはずという彼の決定は、またひっくり返る可能性のあるものであり、議会筋では、この問題を11月が終わるまで避けておこうとする努力だとみなされている。

この法案を支持した政治的代償をすでに支払っているひとりがコンラッド・バーンズである。彼も今年の選挙に立候補しているが、対立候補がこの問題をキャンペーンに利用しはじめ、モンタナ州の世論調査ではっきりとバーンズの支持が落ちてから、公式に同法案への支持を引っ込めた。 彼が立場を変えてからも世論調査におけ地位が変わらなかったことから、他の議員たちは、この法案を支持し続けることは政治的に危険かもしれないと恐れはじめている。にもかかわらず、この法案は、下院多数派の院内幹事であるリチャード・アーミーのような何人かの議員の熱心な支持を受け続けている。彼は、上院がその立場を考え直すような選挙結果であっても下院を通すつもりであり、11月前に再度この法案を取り上げると、記者に語った。

「アッシュクロフトとロッテがこの法案を上院で廃案にすることに同意したことによって重要な闘いに勝利した」と、NYCOSH事務局長のジョエル・シャフロは語る。「しかし、また来年蒸し返されることになるだろう。なぜなら、アスベスト企業はすでにこの法案に2千ドルもつぎ込んであり、彼らの怠慢によって傷つけられた人々に対する補償を避けるためなら喜んでさらに何百万ドルも費やす考えだからである」。
* 1・2月号75頁、4月号33頁に関連記事。
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アスベスト法案をめぐる激しいロビー活動


The Bergen Record, 2000.4.2


* 前掲記事にもあるように、アメリカではいま、アスベスト企業の補償責任を免除する法案をめぐる攻防が続いている。関連した報道記事等は多いが、ノルウェーの「ベルゲン・レコード」紙に4月2日に掲載されたトップ記事が興味深いので、要約して紹介する。

1999年はじめの寒い冬のある日、有力な法廷弁護士のグループが、アスベスト産業の代表たちを対決するためにワシントンに呼び出した。

タバコ企業に対する勝利を味わったばかりの弁護士たちは、これまでにアスベスト製品を作っていたことがあって、致死的な物質に曝露した人々の和解[訴訟]を制限するような立法に圧力をかけるのをやめない企業は訴訟事件で葬り去ってやるつもりだというメッセージを携えていた。アメリカ法廷弁護士協会[Association of Trial Lawyers of America]のリーダーのひとりジョー・ライスは、これは「核戦争」である、と警告した。

この後に何が起こったかというと、出席したある弁護士によれば、「補償支払額の多い7つの企業の役員はしっぽを巻いて部屋から逃げ出した」。数週間のうちに、いくつかの企業が、思い切って法案に反対すると言い始めた。

ひとつの企業は、後退することを拒否した。 ウェイン市[ニュージャージー州北部]に本拠を置く屋根材その他建材の製造業者であるGAF Corp.は、何十万ものアスベスト訴訟を法廷から締め出し、産業界が資金を出し政府が管理する基金が解決を処理するようにする法案を促進するために、すでに800万ドルも費やしてきた。
これは、かつて造船用断熱材からアスベスト・ライニング・ブレーキまであらゆるものを製造した主要アスベスト企業の多くが本拠を置いていたニュージャージー州の何十万もの住民に影響を与えるものである。

GAFは昨年、ロビイストの大群―35人、その後も増加―を伴ってワシントンに攻め入り、立法関係者を説得し、強力な法廷弁護士や労働組合を攻撃してきた。ロビイストの名簿には、元上院議員、引退した州最高裁判事らが含まれている。
同社とその政治活動委員会、GAFの所有者である裕福なハイマンス家から多額の金が、立法スポンサーや上下両院司法委員会のメンバーたちのキャンペーンに注ぎ込まれた。
これは驚くほど首尾よい結果をもたらした。2週間後に、下院司法委員会は、わずか数か月前には不可能と思われていた立法を承認した。法案は上院司法委員会で審議中である。

現在、今[4]月中にもこの法案は下院総会に提出されそうであるが、首都の隅々で宣伝カーや大量のテレビ、新聞広告による戦いが繰り広げられている。立法に激怒すると同時に、被災者たちがまもなく法廷から閉め出されるのではないかと恐れた法廷弁護士たちは、労働組合事務所にレントゲン写真撮影装置を持ち込み、周囲の人々の健診を行っている。
ニュージャージーでは、法案に反対する人々は、トレントン[州都]で法案とその支持者を非難する記者会見を行って圧力をかけている。 法案の支持者たちは、この法案は、不適格な請求を取り除き、真に病気にかかった人々により迅速に補償を提供するものであると言っている。被災者は政府によって監督される基金に請求を行うことになり、陪審が、ある被災者には何百万ドルも与え、同じ疾病の別の者はわずかしかもらえないといった法廷のルーレット・システムはなくなり、誰もが多額の弁護士費用を支払わないですむようになる。

反対者たちは、この立法の厳しい医学的適格条項は被災者の80%以上を補償が受けられないようにしてしまうだろうと訴えている。彼らは、GAFは、ゴリアテに立ち向かう高潔な小さな企業などではなく、毎年何十億ドルもの売り上げを記録している企業であると言う。

労働監視[labor watchdog]グループのニュージャージー労働環境評議会のスポークスマン、ジム・ヤングは、「この立法は、見え透いた詐欺、被災者の権利養護にみせかけた企業救済法案である。彼らはもっと稼ぎたいだけだ」と語る。 戦いがエスカレートするにつれて、議員たちは、毎日両方の側から何百本もの電話の集中砲火を浴びるようになっていると言っている。ニュージャージーでは、AFL-CIOとニュージャージー市民行動が、この法案を支持している議員に対する集中攻撃を計画している。

法廷弁護士と労働組合は、次回の選挙で目標に定める議員のリストを示すことによって攻撃を食い止めつつある。モンタナ州では、病んだ被災者がこの法案のもとでは補償を受けられないと語る様子を紹介した感動的なテレビ番組のシリーズに資金を援助した。同州のある上院議員は、支持率が急落して、法案から名前を外した。 GAFのオーナーがかつて働いていたことがある司法省は、提案は現実問題として事態を悪化させるおそれがあるとして、基金に対する支持を取り消した。司法省は請求の解決を監督することを予定されていたことから、この司法省の支持撤回は大きな転換点である。また、法案を支持していた医学界のリーダーたちも、彼らが指示を与える過程で偽りがあったと言い出した。

一方、主にGAFが資金を提供するロビイング団体であるアスベスト解決同盟は、彼らが法廷を妨害していると主張するたくさんのアスベスト訴訟の一覧を携えて首都中を車で走り回った。
GAFの司法担当役員のリチャード・ワインバーグは疲れきった様子で、「希望は捨てていない。この法案がだめになるかクリントン大統領に拒否されたとしても、来年また復活するだろう」と語った。
そうこうしている間に、GAFの潜在的な補償責任はうなぎ登りに上昇している。同社に対する民事訴訟は12万件に上っている。GAFはすでに解決金として15億ドルを支払っている。

昨年7月、法案を支持する議会の証言の中で、GAFのオーナー、サムエル・ハイマンスは、「世界中の弁護士を追い払うのにはこれでも足りない」と述べている。

これまでに2,500万のアメリカの人々がアスベストに曝露し、10万人がアスベスト関連疾患で死亡していると推定されている。それらの疾患による民事訴訟事件は毎年5万件にまで増加している。GAFがアスベスト事業に関与した期間は比較的短かったにもかかわらず、被告として同社があげられることは多い。

1967年に、アスベスト断熱製品や屋根材を製造し、またいくつかの鉱山や工場を所有していたルーベロイド社を買収したことによって、GAFはアスベスト断熱材事業を開始した。5年後に、GAFはアスベスト断熱材の製造をやめている。
サム・ハイマンスは1983年にGAFを獲得し、1989年に同社を非公開とした。
同社の歴史全体の中で、合計3,500万ドルの利益をもたらしている。今日まで、GAFは、アスベスト関連の請求に15億ドル以上を支払った。
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