2001.2.25 |
信望あるアメリカ公衆衛生協会(APHA)は、1999年の国際労働安全衛生賞を、ブラジルの労働監督官、フェルナンダ・ギアナジに贈った。選考委員会は、彼女の、労働安全衛生問題への貢献、「欧米ではすでに流行遅れになったアスベストの使用をブラジルの工場で続けている自動車産業界のダブル・スタンダード」告発に当たっての役割、オサスコのアスベスト被災者組織であるABREA設立への参加、国際自由労連(ICFTU)への国際的支持獲得に当たっての努力、を称賛した。 11月9日に、シカゴにおいて、APHAの労働安全衛生部門による授賞式が、多くの参加者を集めて行われた。バリー・キャッスルマンは、日常的な工場監督のなかでもその身に脅迫を受け、政府の担当部局は支援してくれず、不満をもった業者たちの告発によって刑事裁判所の被告にもされたことがあると、ギアナジを紹介した。スピーチのなかでギアナジは、ブラジルの仲間たちを代表して賞をいただいた、「労働者が仕事のために健康を犠牲にしなくてすむ社会を創るためのわれわれの努力」を強めてくれたと述べた。 ブラジルのアスベスト・セメント産業の収入は、1997年に5億4千万USドルであった。10の州にある27の工場が、毎年、200万トンの製品を生産している。製品の40%が、日本、タイ、インド他多数の諸国に輸出されている。ブラジル経済にとってもっとも重要な産業のひとつであり、当然のことながら、アスベスト禁止の要求に対して徹底的に抵抗してきた。 昨年夏、ブラジル政府の環境大臣が、2005年までにクリソタイルを禁止するというEUのタイムテーブルにブラジルもならいたいという政府の意向を表明した。ブラジル最大の労働組合である労働組合総連合(CUT)は、1999年12月14日に、クリソタイル禁止を支持することを宣言。同時に、アスベストから生ずる諸問題に対する注意を喚起する全国キャンペーンを開始した。CUTは政府に対して、国の資金でアスベスト鉱山の労働者が早期に退職できる制度を創設すること、また、鉱山地域に別の新たな産業を興すための投資をすることを要求している。 12月7日、サンパウロでアスベストに反対するデモ行進が行われた。ABREA、アスベスト禁止ネットワーク(BAN)、地方の政治家や社会活動家と労働組合活動家が一緒になって、ブラジルにおけるアスベスト・セメントに大きな利害関係をもつサンゴバンの本社におしかけた。サンゴバンの子会社のひとつブラジリットの営業部長カルロス・ウイリアム・フェレイラは、ノン・アスベスト技術を採用するという会社の方針を確認した。デモ隊はカナダ領事館に移動し、カナダのアスベスト産業とそのブラジルにおける同盟者を非難する横断幕を掲げて、チラシを配った。 今秋オサスコで開催されるアスベスト国際会議(3月号37頁参照)は、アスベスト禁止ネットワーク(BAN)、BAN国際事務局(IBAS)によって組織される。この開催地の設定は意義深い。50年以上にわたって、アスベスト含有製品(建材やブレーキ・システム)の製造業者たちは、労働者と地域住民を高レベルの曝露にさらした。予想されるとおり、この地域におけるアスベスト疾患の発生率は非常に高い。 フェルナンダ・ギアナジは、ラテン・アメリカにおけるアスベスト反対の先頭に立ってきた。彼女は、楽観的に、「アスベスト被災者の集まり、訴え、そして、科学者、健康と安全の専門家、医学研究者等の世界から参集することは、ブラジル政府や世界のアスベスト産業に、反アスベスト運動の連帯を示すことになるだろう」と言っている。 *****
産業界、労働組合、被災者支援グループ、その他の関係者との長々しい協議の末に、イギリスにおけるクリソタイルの使用禁止が導入されたが、数多くの摩擦材や屋根材の製造業者、織物業者、電力会社、防衛省(MOD)契約業者たちが、新しい規則の込み入った内容と適用対象についてあれこれと質問や注文をつけている。これに対処するため、安全衛生庁(HSE)は、1月14日に[イングランド北西部、リバプールに隣接する]ブートル市の事務所で、1999年アスベスト(禁止)(修正)規則に関する1日のセミナーを開催した。 参加者の主要な関心は、除外措置に関してであった。HSEの担当者は断固としていた。「ある製品がクリソタイル代替物質によって製造することが可能であれば、費用にかかわりなく、代替物質を使用しなければならない。売り物にならなくなってしまった在庫品に関する製造業者の不平に答えて、HSEは、「人々はすでに禁止が導入されたことを知っており、(あなた方は)それに従わなければならない」という立場を繰り返し言明した。 圧搾アスベスト繊維ガスケットとシート材についての1年と3年の除外期間は、さらに論議の種になった。これらの製品が広範に使用されていること、利用可能な代替物質に関する証拠に矛盾が多いことを認識して、政府は、現実的な解決を図るためにさらに時間が必要なことを認めた。高温下における手作業のために使用される個人防護衣に関する特例は、グローブ(手袋)、アーム・ガード(腕覆い)、エプロンに対する5年間の除外期間であるとされた。 アスベストとアスベスト疾患に関する問題の複雑多様さは、学問の分野や政府の部署の境界を超越している。例をあげれば、MOD関係者への補償、労災補償給付、DSS(社会保障省)の官僚制、医学的・疫学的研究、苦痛緩解ケア、建築物内のアスベスト管理、汚染土壌、アスベスト除去手順等であるが、これでもわずかな例示にすぎない。 下院に、アスベスト被災者の代表が直接国会議員たちと話し合うための新しい場が設立された。下院議員のマイケル・クラパムとピーター・キルフォイルと、TUC(労働組合会議)の担当者、リバプール地区アスベスト被災者グループ、クライド川周辺アスベスト行動のメンバーが、労働安全衛生に関する超党派議員連盟の中にアスベスト小委員会を設置することで合意したものである。3月16日に初会合が開催される。 *****
アスベスト関連疾患の潜伏期間が長いこと(平均して、中皮腫で15-40年間、肺がんで15-35年、石綿肺で10年以上)は、補償請求を不利にしている。多数の訴訟が提起されるまで、職業曝露に対する使用者の責任は闇に葬られていた。以前の使用者が突き止められていたとしても、使用者責任保険契約のような重要な企業の文書は、容易には入手できない。保険契約を国で登録するようなシステムはなく、企業の登記簿の年次損益計算書にも契約保険業者の名前などは記されていない。賠償金を支払うべきものがいなければ、訴訟を提起することは無意味である。しかるべき時間内に使用者責任保険業者を見つけ出すことは大変なことである。 これまで、専門の弁護士たちは、へたなやり方をしてきた。弁護士、個人傷害法律家協会(APIL)、企業の清算人、以前の従業員、会計士、保険ブローカー、経営者、労働組合、被災者サポート・グループなどにやみくもに当たるという方法である。これは、時間を浪費し、いらだたしいものであり、また、とくに現在の風潮において重要なことは、非常に費用のかかる調査である。 2年前、[イギリスの]環境大臣アラン・ミールは、政府は、「保険産業と協力して、保険業者の照会に関する原告の質問を処理するための実践コード(Code of Practice)を作成する」意向であると発表した。1999年11月1日、環境・運輸・地方省は、使用者責任保険照会のための実践コードを発行した。このイギリス保険業協会(ABI)とロイズ非海事協会(NMA)の協力による自主的な仕組みは、奇妙な混成物である。ABIとNMAは、まったく同一の照会手続、短い期日、訓練および記録保存に関する要求事項を定めたが、これは、アスベスト訴訟の原告にとって有益なものになるかもしれない。保険業界が関与することになった理由がコードの2頁に書かれているが、「イギリスにおける補償をめぐる状況の変化は保険業界に大きな影響を与えている」と述べている。 APIL副会長のフランセス・マッカシーは、「強制力なしの自主的な実践コードはうまくいかないだろう。今後増大すると予測されるアスベスト関連の訴訟を処理するのに効率的なものでないことは確かである」と、強く批判している。強制力をもたないので、この新しいガイドラインに従わない場合も出てくる可能性がある。アスベスト訴訟の専門家のひとりであるイアン・マクフォールは、「過去に使用者責任保険業者を確認しようとしたときの悪夢のような事態と比較すれば、どのような改善でも歓迎する。この仕組みが実際にどのように機能するかをみるまで、判断を保留しておく」として、この仕組みにチャンスを与えてみる価値はあると考えている。 *****
昨年秋、[アメリカ]下院の司法委員会は、いったん、H.R.1283―1999年アスベスト補償法を取り上げた。その時には、議長のヘンリー・ハイドは、代わりの修正案を紹介した。それは、提案された法案の大きな部分をしめることになると思われるもので、GAFコーポレーションがコンサルタントとして起草したものだった。議長は、翌年早々に司法委員会でこの法案を検討するつもりであると述べた。 これらの法案に対するアメリカ労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)の方針が誤って伝えられているために、この文書を発出するものである。H.R.1283のどちらのバージョンにも強く反対していることを明らかにしたい。 AFL-CIOは以前から、アスベスト訴訟システムは改善されるべきであると考えてきた。そのために、民主党、共和党双方の議員、法曹関係者、被災者グループ、製造業者、保険業者、公益グループ、労働安全衛生団体などすべての関係者との対話を行ってきた。このようなアプローチをとっているうちに、どうもH.R.1283のどちらか一方か双方に本当は反対してはいないのではないかとの誤解を与えたようだ。真実はまったく異なる。AFL-CIOは、これらの法案は、加害企業を訴えようとする何十万もの被災労働者を裁判所の扉から締め出そうとするものであると考えている。処理にかかる費用、請求処理の遅延と時期尚早な和解といった非常に現実的な諸問題を解決するどころか、悪化させるものである。 あいにくこの討論は、アスベスト訴訟をめぐる現実の状況に関する十分な情報なしに行われた。討論の参加者たちは、現実に大きな負担がかかっていること、アスベストに関連した多様な状況に対する和解や陪審の裁定の現状、法案の予定する相対的な責任と被告側の利点等に関して、議会がもっている情報を共有していなかった。 このような状況において、不完全で複雑なシステムに大きな変化を加えようとする前に、議会は、こうした疑問点に答えるべきであると考える。それがなされないならば、やはり、関係者による建設的な議論を積み重ねて、合意できるアプローチを模索することがもっともよい行動であろう。しかし、かかる合意は、H.R.1283のどちらのバージョンともまったく異なったものになるだろう。 これらの法案の問題点は、とりわけ以下の点である。 ― 大多数のアスベスト被災者にとって、重要な補償および法定へのアクセスを遅延させる。 ― 現在、不法行為訴訟において重症のアスベスト被災者に認められている、集団訴訟を提起する権利、モンタナのリビー事件のようなひどい事例についての懲罰的賠償を請求する権利 ―などの権利を奪う。 ― 創設される代替紛争解決(ADR)は、複雑であり、連邦政府の資金頼みである。 ― 恣意的な不利な判断をされることの多い、硬直した、時代遅れの医学的基準頼みになる。 ― 現在の和解手順が変化する移行期間に、アスベスト被災者が賠償金を取り戻すことを妨げる役割を果たす。 ここ数か月の間、合衆国中の労働組合のメンバーから、われわれはGAFのアスベスト法案と対決すべきであるという声が届けられている。AFL-CIOはまさにそうするつもりである。建設的な連邦政府の行動の可能性を追及する努力を維持することが、アスベスト被災者の権利への攻撃に対する反対の姿勢が揺らいでいるなどと誤解されてはならない。 AFL-CIO法対部長 レジー・テイラー *****
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