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2001.2.25

安全センター情報


1998年6月号




洗脳されたジャーナリストたちが帰ってきた


Rory O'Neill, Hazards/WHIN, U.K., 1998.4.14



カナダ高等委員会(high commission)の手厚いもてなしを受けて、イギリスのジャーナリストの大名旅行の一行がカナダのアスベスト鉱山から帰ってきた(1998年5月号32頁参照)。
浮き彫りになった主な問題は以下のとおり。

1. カナダは、イギリスは相対的に取るに足らないマーケットにすぎないが、しかしまた、イギリスにおける禁止は劇的なノックオン効果をもつであろうことも理解している。欧州連合(EU)の動きはこの点を増強する。
2. 例のアスベストフィルの科学者たちの一隊が寄ってきて、カナダの白アスベストは、悪質な茶、青(アスベスト)あるいはトレモライトを含有したものよりも「安全」、というフレーズを合唱している。
3. カナダの主な引用文句は、「あなたが知っている悪魔(すなわち、それらの悪質な(アスベスト)や有害性の定かでない代替物質)よりもまし」といういつものものである。
4. カナダのアスベスト産業のプロフィールは以下のとおり。
年 鉱山数 生産量(100万トン) 雇用者数
1981 8 1.3 6,000
1998 3 0.5 2,000
5. カナダ政府は、アスベスト関連の死亡は無法時代の遺物である。現代のアスベスト規制はリスクを取り除いている、と主張している。

出荷待ちの反論

1. もし、自由貿易原則のもとでアスベストの貿易を容認すれば、何かを禁止または制限するための十分な証拠はまったく得られなくなり、可能な限り低い基準値を設定することもできなくなる。予想されるより危険な多面的投資協定においてさえ、貿易協定のなかで健康に対する関心を起こし、予防策が考慮されなければならない。

2. カナダによって提出された科学的主張は、よくいっても部分的なものであり、悪ければわけのわからないおしゃべりである。いつの時代においても白アスベストが産業殺人者として第1位か、2位か、3位かという議論は無駄な議論である。どんなに膨大な研究結果を与えられようとも、だれも白アスベストがまがうことなき殺人者であるという以外の結論を出すことはできない。

3. 「あなたが知っている悪魔よりもまし」という主張は、注意をそらすための手段である。われわれは、アスベストと代替物質の「美人コンテスト」に巻き込まれないようにしなければならない。もし、カナダ政府が言うように代替物質もまた悪質で、研究が十分でないとしたら、それらもまた禁止しなければならない。
また、 Cape や Eternitなどの世界の巨大なアスベスト製造企業が、アスベストから代替繊維に転換し、それらの代替品がいかに新しく、安全で、よいものかを売り込みにあたって大宣伝していることを忘れないでほしい(私が1980年代初頭にこの産業で働いていたときには、安全な無アスベスト商品を売りつけるEternitのセールスの伝道師たちと取り引きしなければならなかった)。デンマークの建設労働組合が無繊維の代替品に転換する試みに成功したというWHINの記事(51/52)を覚えている方もあるだろう。代替品の研究が不十分なことを議論するのではなく、より安全な代替品と建築技術について議論すべきである。
カナダの経済に関する議論もまた割り引いて検討する必要がある。Cape社(元の Cape Asbestos 社)は3月に、年間税引前利益が890万#(注: 文字化けで£か$か判明せず)と公告した。営業利益は111万#から123万#に増大した。アスベストに関連した補償請求が、前年の240万#から290万#に増加したにもかかかわらずである。この会社は、1968年にアスベスト製品の製造を中止した。会社では、補償請求はいまでは毎年250万から300万#の間で落ち着いていると言っている。
他の多くの大多国籍企業もアスベストの露天掘りから(の転換に)成功している―WR Grace、T&N(当時は Turner and Newell)、その他である。

4. カナダのアスベスト製造業は現在、2,000名の労働者を雇用している。イギリスにおけるアスベストにより死亡する労働者は最近では毎年3,000名である。この双方の生命と生活を守る道をみつけだす必要がある。これは、社会的に生産的で、より危険の少ないものに転換していくことを意味している。受け入れがたい生産から産業社会のなかでの熟練、設備、インフラを生かした他の仕事への変更を容易にするための移行期のようなものを採用する必要もあろう。このようなアプローチは、塩化物質の悪評の高まりに対して、当時アメリカの労働組合OCAWが促進したものでもある。

5. 適切な規制が(リスクを)取り除くという議論はいんちきである。例えば、イギリスの安全衛生委員会は、1993年11月に発行した1992/93年次レポートのなかで、「いまでは1969年の(アスベスト)規則導入後の曝露によって起きたケースもあるという厳粛な証拠がある」と認めている。若年の中皮腫による死亡者数の増加は、規則の適用範囲と同様にアスベストの使用に関連したリスクを示している。 中皮腫による早期死亡に関する イギリスの公式統計 45-54歳人口中死亡診断書に中皮腫とのみ記載されたもの(イギリス)
年 男性 女性
1972-74 101 20
1975-77 146 17
1978-80 168 22
1981-83 166 26
1984-86 204 18
1987-89 273 29
1990-92 323(暫定) 44(暫定)
1993-95 352(暫定) 52(暫定)
出典: HSC安全衛生統計 1996/97, P.194

0-44歳人口中死亡診断書に中皮腫とのみ記載されたもの(イギリス)
年 男性 女性
1972-74 24 7
1975-77 40 13
1978-80 42 17
1981-83 58 16
1984-86 55 18
1987-89 74 10
1990-92 66(暫定) 16
1993-95 42(暫定) 12
出典: HSC安全衛生統計 1996/97, P.194
別の言い方をすれば、中皮腫による死亡は、相対的に最近の、比較的により規制された仕事についた者のなかで増加しているということである。



アスベストに関するHSC(安全衛生委員会) の諮問:
意見提出のためのガイド



イギリス労働組合会議(TUC)



* 5月号でお伝えしたように、イギリスでは、クリソタイルの使用禁止の導入は遅れているものの、1987年のアスベスト作業管理規則および1985年のアスベスト認可(Licensing)規則を改正するという提案は予定どおり行われている。安全衛生委員会(HSC: Health and Safety Commi-ssion)の、アスベスト関係規則に関する諮問文書(consultative document)は、HSEのウエブサイトで全文(約200頁、PDFファイル形式)を入手することができる(http://www.open.gov.uk/hse/conducs/cd129.htm、日本の役所も見習ってもらいたい)。

以下は、イギリスの労働組合会議(TUC)が、各労働組合、支部、個人に、この諮問文書に対する意見をどしどし提出しようと呼びかけた文章である(TUCのウエブサイト: http://www.tuc.or.uk/ で入手可)。

安全衛生委員会(HSC)は、アスベスト関係規則に関する諮問文書を発行した。意見表明は、1998年6月19日までに、安全衛生局(HSE)の Carole Lomax 宛てに提出しなければならない。HSE出版部に電話すれば、無料で諮問文書 CD 129を入手することができる。それには応答用の書式もついているが、(任意の形式で)意見を手紙に書いて送るのでもよい。概略を紹介したリーフレットも同じところで入手可能である。

意見の提出

白アスベスト(クリソタイル)輸入、販売、使用禁止の提案が遅れていることを考慮すれば、以下のことを人々が強力に支持しているという事実を、委員会および閣僚たちに理解させることがきわめて重要である。
―白アスベストとその製品の輸入および新たな使用の禁止
―職場の建築物(学校および病院を含む)にすでに使用されているアスベストを調査し、管理する義務
―修理(repair)、保全(maintenance)、修繕(renovation)、除去(removal)作業の曝露に対するより強力な管理
あなたの提案の写しを、地元の下院議員やあなたの所属する労働組合が支持している下院議員たちに送ろう。提案をローカル紙に発表するのであれば、TUCでは、あなたの地域で来年および今後20年間にアスベストのために起こるであろう死者の予測数値を含む、記者発表用資料を用意してある(省略)。

誰が応答すべきか?
誰でもである。労働組合組織(支部あるいは労働組合協議会)、居住者団体、利用者団体、安全キャンペーン団体、アスベスト被害者団体および各個人(とりわけアスベストに曝露する可能性のある方々)に、意見を提出してもらいたい。

HSCの提案の概要
HSCの諮問文書が提案している主な内容は、以下のとおりである。
―ライセンス(認可)が必要な作業をアスベスト断熱ボード関連作業にまで拡大する(しかし、現行の認可対象作業のいくつかを除外する)
―白アスベストの許容濃度(exposure li-mits)を強化する。
―アスベストに曝露するおそれのある労働者に対する教育の実施(および継続)と呼吸用保護具のより安全な使用を、雇用主に義務づける。
―アスベスト曝露を受けやすい作業にはアスベスト管理規則が適用されることを明確化する。
HSCはまた、建築物の所有者に、予想外の曝露を避けるために、建築物におけるアスベスト管理計画を作成する法的義務を課すべきかどうかについての意見も求めている。

何を言うべきか?
あなた自身の言葉で意見を書くのも、あるいは諮問文書の巻末には書式があるから、それを埋めていって送り返すのも似たようなもので、難しく考える必要はない。われわれが主要なポイントと考えていることを以下にあげるので、参考にしてほしい。

主要なポイント

―委員会は、一歩進んで、間接貿易も含めて白アスベストの輸入、提供、使用を禁止すべきである。産出国の抵抗にもかかわらず、白アスベストは殺人者であり、より安全な代替品が存在するという証拠は明らかである。もし代替品が、現在考えられているよりも危険であることが今後立証されたとしたら、それらもまた禁止されるべきである。

―委員会は速やかに、雇用主に対して建築物のアスベストを調査する新たな法的義務を創設すべきである。どんなに最低でも、修繕箇所については、作業開始前に調査し、表示されるべきである。現在でもすでに作業開始前に調査を実施する暗黙の義務が慣例となっているのであるから、十分な調査が課せられる場合にのみ、この作業を実施する経過期間が認められる。

―HSEは、より安全な代替品がある場合には雇用主にその使用を求めている、アスベスト管理規則第8条をより厳格に施行すべきである。代替品はよく知られており、アスベストを含有したセメント、屋根瓦、ブレーキ・ライニングの使用を正当化することはできない。

―白アスベストの管理基準はたしかに0.3繊維/mlに引き下げられなければならないが、それよりも低い基準を設定している国々もある。われわれは、基準を0.1繊維/mlにまで引き下げることを支持する―アスベストに安全限界は存在しないことを忘れてはならない(注: 日本は2繊維/ml)。
―認可対象をアスベスト断熱ボード関連作業にまで拡大するというHSEの提案は正当なものである。しかし、アスベスト含有塗料や漆喰塗りを含め、0.1繊維/mlのアスベスト曝露を受けるおそれのあるすべての作業を認可対象とすべきである。認可されたことがただちにHSEの介入の排除を意味するものではなく、雇用主は引き続き安全基準を改善するようにしなければならない(注: 日本には認可制度はない)。

―労働者の教育(およびリフレッシュ教育)、呼吸用保護具(RPE: respiratory protec-tive equipment)の定期的な試験や検定は、強力に支持されるべきである。

―職場における労働組合の安全代表者は、組合員をアスベスト曝露を防護対策に十分に参加できなければならない。このことは、リスクアセスメント、管理基準、保護機器等々に関して協議する権利が、規則や実践コード(Codes of Practice)のなかで明定されていなければならないということである。

EU: イギリス・ドイツから代替物質関係情報 Laurie Allen, British Asbestos Newsletter, U.K., 1998.4.28

たったいまEUの関係者と、金曜日(4月24日)のEUの科学専門家委員会(CSTEE)で何が起こったのかについて話した。
「3月3日にDGVのワーキンググループは、CSTEEの見解(6月号27頁の囲み記事参照)の評価について話し合うための会合を持った…DGVのスタッフは、4月24日の次回のCSTEEの会合に代替物質に関する追加情報を提出するために、フランスの研究者および(イギリスの)安全衛生委員会(HSC)の関係者たちと連絡をとった…」(注: これは前回3月3日の会合に関する情報)
イギリスとドイツからのアスベスト代替物質に関する情報―いずれも、代替物質の方がクリソタイルよりも安全であるという立場を支持する―が、4月24日の委員会に提出された。フランスからの情報は届かなかった。DGVでは、委員会はいまでは決定を下すのに十分な情報を持っており、次回6月15日の会合までにはそうできるだろうと確信している。それでも、イギリスのEU閣僚会議議長任期の末までにアスベスト禁止が決定(in place)される見込みは少なくなっているようである。

* その後の動きについて19頁以下参照されたい。



フランス: アスベスト被災者のための補償基金


Marc Hindry, Anti Asbestos Committee of Jussieu, France, 1998.5.7



*反アスベスト・ジュッシュー委員会(フランス語では、comite anti amiante jussieu、ジュッシューはパリ大学第7分校のこと)は、フランスにおけるアスベスト禁止促進をリードしてきた団体である(1997年1・2月号参照)。ウエブサイト: http://www.logique.jussieu.fr/www.amiante/ (フランス語)。

このe-mailには、Dr. Claude GOT 経由で厚生大臣に提出された提案のさらに詳しい長文のテキストも添付されている(いずれも英語訳、省略)。 Dr. Claude GOT は本日(5月5日)、(数か月前に委託された)アスベストに関するレポートを Martine AUBRY 労働・雇用大臣および Ber-nard KOUCHNER 厚生大臣に提出した。

この機会にわれわれは、アスベスト被災者のための補償基金の創設を要求するものである。アスベスト・スキャンダルとは、その被災者が補償を受けていないということを含むものである。今日フランスでは、10人に1人より少ない数のアスベスト被災者しか補償を受けていない。しかも、受け取る補償は損害に見合ったものにはなっていない。

この状況は、アスベストがきわめて深刻な―非常にしばしば致命的な―疾病(胸膜中皮腫、肺がん、アスベスト肺)を引き起こし、それがリタイアした家族たちに苦難を与えている状況のなかで受容しがたいという以上のものがある。フランスにおいて毎年2,000名以上の死亡者という問題の深刻さは、アスベストおよびアスベスト産業と行政当局に責任があり、この悲劇に対して迅速かつ公正な解決策の履行に尽力すべき義務がある。

今日の状況は、アスベスト患者の治療の全くの不公平、曝露の状況や責任の違いによっては正当化されない不平等さによって特徴づけられる。それなりの(完全とはいえなくても)補償を期待することができるのは、被災者のうちのごくわずかな者だけである。
職業上の曝露でない被災者たち(環境、近職業上(para-occupational)または家庭内曝露)は、まったく何の補償も受け取れない。

職業上の曝露を受けた被災者は、理論上は、労災補償制度によって補償を受けられるはずである。しかし実際には、そうした被災者たちの大多数は認定されずに、その結果まったく何の補償も受けていない。フランスの労災補償制度の機能障害は、早急に是正されなければならない。しかし、仮に被災者が補償制度によって認定され、補償されたとしても、制度自体の原理のために、損害のごく一部を補償する給付しか受けられない。非常に特別の場合―(雇用主の)「重過失」を証明できた場合にのみ、訴訟を行うことによって、完全な補償を獲得できる可能性がある。

アスベスト被災者たちは、非常に長い疾病の潜伏期間、立証することの困難な複合曝露、しばしば企業が消滅してしまっている等々の多くの困難を抱えており、訴訟を行うことはほとんど不可能である。この状況を打開する唯一の解決策は、アスベスト被災者のための補償基金を創設することである。補償基金の第一の目的は、曝露の源が確定しなくとも推定可能であれば、すべてのアスベスト被災者に対する迅速かつ完全な補償を実施することである。労災補償制度によって給付を認められた被災者に対して、基金は補足的な補償を提供する。労災補償制度によっては補償を認められない者に対しては、基金は全体的な補償を提供する。われわれはさらに、基金の財源は責任の程度に応じて負担すべきことを要求する。したがって、主な供給者としてアスベスト産業の企業およびその保険会社が負担すべきである。

明らかに、そのような基金の創設と運営は行政当局によって扱われなければならず、国もいくらかの財政負担をすべきである。彼らも、何万名(今日ではフランスで毎年2,000名以上)もの被災者を殺すことになるであろうヘルス・スキャンダルを防ごうとしなかった(あるいは、どうしたらよいか知らなかった)ことに対して大きな責任がある。彼らが今日被災者を見捨てていることは考えられないことであり、それゆえ被災者たちは何の手段も持たずにただ一人で補償を獲得するために闘わねばならないのである。アスベスト産業の企業が、その責任を免れ、彼らが引き起こした損害に対する補償の支払を宣告されないなどということは考えられないことである。



ブラジルのアスベスト産業の宣伝


Fernanda Giannasi, Ban Asbestos Coordinator, Brazil, 1998.5.12



ブラジル・アスベスト協会(ABRA: Brazilian Asbestos Association)のウエブサイト(http://www.abra-amianto.org.br/、ポルトガル語)は、 「フラッシュ・ニュース」の見出しに「イギリスがクリソタイル・アスベストの使用(継続)を決定」と書いている。
根拠としているのは、イギリス安全衛生委員会(HSC)の Press Release C07:98 - 11 March 1998 (5月号24頁囲み参照)である。

私は、Rory が「カナダ政府がうそつきであるだけでなく、それゆえ信頼できない証人である」と言うのに(*未紹介の e-mail の内容。カナダ政府がその公式の Health Canada ウエブサイトで紹介している「人造ガラス繊維(MMVF)とあなたの健康」(関心のある方は、http://www.hc-sc.gc. ca/datahpb/dataehd/English/IYH/mmvf.htm を参照)という文章を評しての言葉)、完全に同意する。しかし、カナダだけではない…。ブラジルのバージョンについてもまた真実である。

ABRA Informa(ニューズレター)の1998年4月号で、彼らは American Governmental Interior Department に基づいて、「アメリカ合衆国ではアスベストに対するいかなる禁止(措置)もない」と主張している。(アメリカ合衆国では)年間2万トンの消費量があり、そのうちの50%は屋根材に、33%は摩擦材に、12%は梱包材に使用されていると伝えている(一方、ブラジルでは20万トン使用している。注: 日本は1997年176,021トン)。アメリカ合衆国では、アンソフィボール類(主にクロシドライト)の使用量はクリソタイルに比べてずっと低い水準できていると主張している。

この情報は昨晩、ブラジルの主要な摩擦材製造企業のひとつが、1998年1月1日から摩擦材のなかのアスベストを根絶することとしていた National Statement(1994年に、ブラジルの2つの主要な労働組合である CUT と Forca Sindical および企業の代表との間で署名された―1995年6月号も参考されたい)の履行を遅らせるための言い訳として使われた。
ブラジルの諺、「Sleep with this noise !」。
* 関連ウエブサイト: http://www.telnet.com. br/~giannasi/ (ポルトガル語)


カナダにおける反アスベスト・キャンペーン


Jim Brophy, Occupational Health Clinic for Ontario Workers, Canada, 1998.5.12



大きな圧力を加えるべき時だ… 私はカナダ政府を攻めたてる必要があると考える。
(アスベスト)禁止の広がりは皮肉なことに、アスベスト生産者たちを開発途上国に向かわせるという功績を得ている。
CBC(注: ラジオ局)は、オンタリオ州中、可能ならばカナダ全土に、なぜカナダの「安全」なアスベスト(それは多くのカナダ労働者を現に殺している)の90%が輸出され、なぜ50%以上が現在開発途上国に輸出されているのかという、カナダ政府の主張の物語を放送している。
カナダにおいても、莫大な数の(安全なカナダのアスベストの)非職業性曝露による中皮腫の被災者が現われている。
来週、カナダ最大の労働組合であるCAW(カナダ自動車労組)は、カナダ首相 Jean Chretien に対して、アスベストと地球的規模での禁止についての卑劣な取り引きを非難する手紙を出すことになっている。
× × ×

(キャンペーンのためにカナダを訪問していたイギリスの WHIN/Hazrds 誌編集者の) Rory は(カナダから)イギリスに向けて出発したが、その前にオンタリオ州中に放送されたCBCの昼のラジオ番組を聞くことができた。彼と私は、ヨーロッパの労働組合がクリソタイル・アスベストの禁止のために取り組んできた努力をカナダ政府が政治力を使って不正に侵害しているというスキャンダルに関してインタビューを受けた。この番組は全体で5分間をこえるものだった。

このなかで最も信じがたい部分は、オタワの国際貿易省がアスベスト研究所からのセールス広告を得てイギリスとフランスのジャーナリストを物見遊山旅行に連れてきたことを認めたことであり―カナダの納税者をスポンサーにして―、しかも同じことをベルギーのジャーナリストに対して行い、近々モロッコのジャーナリストを連れてくることを計画しているというのである。
彼らはまた、世界貿易機関(WTO)を通じてその政治的行動をとると脅していることも認めた。CBCのレポーター Susan Little は、Rory がイギリスにおけるカナダ政府の行動に関して主張したことは真実であると言い続けた。その後、国際貿易省の Head of Communications は必死に Rory と連絡を取ろうとしていた。

数週間以内にわれわれは、中皮腫に罹患した女性と一緒に別の記者会見を行う予定である。彼女の夫はCAW(カナダ自動車労組組合員)の鋳造労働者で、彼女が曝露したのは夫の衣服についたアスベストだけだった。これはここ3週間の間にわれわれがウインザー/サミア地域で発見した3人目の中皮腫に罹患した女性である。私は、これがカナダの労働組合運動にとって決定的なものになると信じている。

* 5月14日付けの追伸では、CBCがインタビューを放送した後、新たな中皮腫のケースの電話相談があった。音響スタジオでラジオ技術者として30年間働いていた労働者とのこと。

*これは、スペインから届けられた e-mail の内容をロンドン・ハザーズセンターの Mick Holder 氏が伝えてくれたもの(1998.5.18)。


スペインからのグッドニュース

*これは、スペインから届けられた e-mail の内容をロンドン・ハザーズセンターの Mick Holder 氏が伝えてくれたもの(1998.5.18)。
4月28日の今年のワーカーズ・メモリアル・デーについては4月号でも紹介し、その後、世界での取り組みの実施状況などの様子もいろいろと伝わっているが紹介できていない。また機会があれば別に紹介したい。
ワーカーズ・メモリアル・デーは、一般的にはすべての大きな町では多くの会合やデモが行われるなど、当地でも首尾よく実施された。

もっともエキサイティングだったのは、マドリッドの建設部門が(4月)28日に1日のストライキを実施したこと(マドリッドでは今年、26名の労働者が殺されている)―このような行動を組織することは簡単ではないが、われわれは90%の休業を行った。
また、1999年からは、政府、使用者、労働組合から公式に承認された4月28日を持つことになる。われわれは、このことを議会における論争を通じて獲得し、すでに閣議で承認され、それからすべての3者構成の安全衛生組織を通じて適用された。明確な公式の認知は、関心を高め、地方の行政機関、学校、その他での行事を組織するのに便利である。
それは別として、われわれはいま、2つの重要なキャンペーン―MSDSとアスベストの問題に取り組んでいる。ご存知のように、スペインでは大騒ぎのような行動を起こして、中くらいの成功をおさめるというパターンが多いのだが…。
われわれは遅くとも2002年までにアスベストの禁止を獲得するだろうと確信している。産業界でさえもそれをなくさなくてはならないということを知っているが、何もしなければ、彼らは適応の仕方を選択できるようできるだけ長い間その場しのぎをしようとする(技術面よりもとりわけ市場と特許の関係で)。



イギリス:中皮腫に罹患した主任教師


Mick Holder, London Hazards Centre, U.K., 1998.5.18



われわれは、教師生活のなかで何度かアスベスト粉じんに曝露した後、5年半前に中皮腫と診断された Chester 地域の主任教師と話し合った。彼女は、Cheshire 州議会、Chester、Cheshire 州との間で250,000£の法廷外での和解に同意した。彼女は57歳で、NAHT労働組合のメンバーであり、毎週通院しながらも現在も教職に就いている。
彼女は、マスコミと話すことも含めてアスベスト反対のキャンペーンを熱心に支持しているが、名前を公表することは望んでいない。
診断を受けた時、彼女の主治医はどこでアスベストに曝露したか尋ねたが、彼女は最初、「そんなはずはない。私は造船所では働いていない」と考えたそうだ。
その後、3つの出来事を思い起こしたが、いずれも彼女が働いていた学校でのことだった。
最初は、1960年代のことで、学校の煙突の除去工事が行われ、工事中学校中に粉じんがたちこめた。その時に教師たちは建設業者に文句を言ったが、彼は、「あなたたちは心配ない。これはアスベストで、私の方がその中にいるんだ!」と言った。結局、防壁として何枚かのプラスチックのシートをかぶせることになった。
2回目は、1968〜1973年の間で、その時は学校のボイラーの取り替え工事で、学校中、とりわけ職員室をアスベストのほこりで汚染することになった。
3回目は、現在の学校で1980年代に、彼女は、損傷したパイプの被覆材のほこりを掃除していたという。

カナダがフランスのアスベスト禁止措置を 世界貿易機関(WTO)に正式提訴

* いろいろなところからこの問題に関する情報やキャンペーンの呼びかけが殺到しているが、まずは、アメリカのファイナンシャル・ポスト紙に掲載された記事(Jill Vardy, Ottawa Bu-reau, The Financial Post, 1998.5.29)。 カナダは昨日(5月28日)、その生産するアスベストのマーケットを確保するために、世界貿易機関(WTO)を通じて闘いを挑むと言明した。
同政府は、WTOに、昨年アスベストの輸入を禁止したフランスに対抗する決定を行うよう請求した。
カナダのアスベスト産業を擁護する闘いは、4月に欧州議会(Council of Europe)がアスベスト製品のヨーロッパ規模での禁止を求めるレポートを採択してから緊急のものとなった。これは、2月に欧州共同体(European Community)がアスベストを含有したブレーキを禁止したことに次ぐものである。
「これは明白に世界規模でのアスベストのセールスに衝撃を与える」と、Thetford Mines、As-bestos and Black Lake といった―すべてアスベスト生産地であるケベックの―州代表および市長との会合の後に、(カナダの)国際貿易大臣 Sergio Marchi は語った。
Marchi は、WTOに対して公式に、WTOの対抗措置手順(dispute settlement process)の第1段階である協議の開始を要請した。カナダは、フランスおよび他の諸国に、クリソタイル・アスベスト繊維は政府のガイドラインにしたがって使用すれば安全であるということを納得させようと試みている。
例えば、セメントに混入されたり、タイルや道路、配管に使用される場合には、リスクを生じさせない。「われわれは、このことを証明する証拠を持っており、それをフランス政府にも提供している」とスポークスマンは語った。
カナダは、毎年250億ドルの95%のアスベストを世界中に販売している。 オタワのポジションは、最近発行された New England Journal of Medicine の、アスベストの発がん性は以前に考えられていたよりも低いとするレポートによって支持されている(注: この頁上段の囲み参照)。 この研究によると、ケベックのアスベスト生産地域に住む女性の肺がん罹患率はケベックの他の地域の女性とほとんど変わらなかったという。
× × ×

* 次は、E-Wire - Environmental press re-lease distribution service で世界中に流された情報(1998.5.29)である。

カナダは、フランスにカナダ産のアスベストを輸入させるために、世界貿易機関(WTO)に対して行動をとった。1997年1月1日以降、フランスは、わずかな例外を除いて、アスベストおよびアスベスト含有製品の製造、輸入、販売を禁止している。(カナダの)国際貿易大臣 Sergio Marchi、天然資源大臣 Ralph Goodale とカナダ経済開発担当の国務長官 Martin Cauchon は木曜日に、クリソタイル・アスベスト問題に関してフランスに対抗する決定を出させるために世界貿易機関(WTO)との協議を開始するというカナダ政府の決定を発表した。
Goodale は、「政府の目的は、政府の鉱物・金属政策の安全使用原則にしたがって適切に使用していれば安全であるクリソタイル・アスベスト製品の、市場での流通を維持することである」と語った。
決定は、この問題に関するカナダ政府のパートナーたちと一連の協議を行った後、今朝の閣僚たちおよび Thetford Mines、Asbestos and Black Lake の stakeholeder たちとの会合の最後に公表された。「私は、ジュネーブの使節団に対して、WTOにおける紛争解決手続の第1ステップの協議を正式に申し入れるよう指示した」と Marchiは語った。
「天然資源はカナダの経済発展に大きな役割を果たしており、アスベストはつねに産出地域の重要な経済活動を生み出している」と Cauchon は語った。「カナダは、この産業の発展と雇用の存続に対するフランスの制限に反撃することを求める」。閣僚たちは、ベルギーおよび欧州委員会が最近採用した制限によるクリソタイル・アスベストの輸出に対する悪影響についての関心を表明した。Goodale と Cahchon は、これら2つのケースに関してもカナダは、WTOに請求する可能性について検討していると語った。
× × ×
*Rory O'Neill, Workers' Health Inter-national Newsletter/Hazards magazine, 1998.6.1

カナダはついにその闘争を公式なものとした(The Financial Postの記事参照―前出)…フランスがアスベストの禁止を導入したことをWT Oに提訴するという決定は、環境保護庁(EPA)のアスベストに関する環境リスクの評価を酷評したとんでもない論文(17頁の囲み参照)の発表と機を一にしているようだ。
Cullen(Lancet, 9 May)と Landrigan (最近のほとんどの親アスベスト的論文を論破したもの)の論文(20頁囲み参照)は、おおかたのマスコミに無視されてしまっている。
私は、6月14日から26日までカナダに行ってくる。カナダの姿勢を打ち破ることに専念してきたい。われわれは先月よいスタートを切ったが、いまこそスピードをあげる必要がある。
もしカナダがアスベスト問題で勝利したら、他のいかなる危険な代替物質についても希望がなくなってしまうだろう。それこそ、アスベスト産業がこのWTOにおける挑戦を支持する理由だと想像している。
× × ×

*以下は、WTOのウエブサイトに、未決定事案6(48)として掲載されている内容である(注: http://www.wto.org/dispute/bulletin.htm)。

「欧州共同体―アスベストおよびアスベスト製品禁止による制限、カナダによる提訴(WT/DS135)。1998年5月28日付けのこの請求は、申し立てによれば、フランスによって課せられた制限、とりわけ輸入禁止を含む1996年12月24日のアスベストおよびアスベスト含有製品の禁止に関する法令(decree)に関するものである。カナダは、これらの制限はSPS協定第2、3および5条、TBT協定第2条、1994年のGATTU、Y、[条を侵害していると主張している。カナダはまた、無効化および各協定のもとで生じる便益の侵害を主張している。」

イギリスとヨーロッパにおける禁止の行方は?

*以下は、ロンドン・ハザーズセンターの Mick Holder 氏からの6月1日の e-mail の内容。その後、6月8日付けの e-mail で、このIEHレポート「クリソタイルとその代替物質、批判的評価」(1998.6.4)を、イギリスの Open Govern-ment Poricy にのっとって安全衛生局(HSE)から送ってもらったという連絡があった。
最近EUの科学専門家委員会に提出されたアスベスト代替物質はより安全だとする環境衛生研究所(IEH)のレポートを入手しようと努力してみた。(イギリスでの)このレポートの担当者は安全衛生局(HSE)ヘルスディレクターの Rob Andrews である。彼は、EU科学専門家委員会の作業が終わるまでは公表できないとしたが、その主要な点について口頭で説明してくれた。すでにご存知の方もあろうが、 このレポートは、主にポリビニルアルコール(PVA)、アラミッド、セルロースの3つの代替物質を取り上げている。
3つの判定項目は、1. 繊維の直径、2. bio-persitance(生物学的永続性)、3. doe/likelihood of ill health である。
レポートでは、この3項目についてクリソタイルと比較して入手可能な証拠を検討した。
レポートは、PVAとアラミッドはより安全であるという強力な証拠があり、セルロースの証拠はそれほど強力ではないと結論している。安全性を増す主な理由のひとつは、繊維のサイズを製造段階でコントロールすることができるということである。
レポートは結局、クリソタイルよりも代替物質の方がより大きな安全性があると結論している。
× × ×

*Mick Holder, London Hazards Centre, U.K., 1998.6.5

今日のコンストラクション・ニュースの中で、ヨーロッパのアスベスト禁止が1999年半ばまで、6か月遅れそうだと報告されている。(予定されていた)今秋からの遅れは、代替物質に関する「古きよき」科学専門家会議が原因であるという。
また、この遅れは、Eagle 下院議員が、今月末までにイギリスの禁止を決定(in place)するという公約を破り始めているということを意味するとしている。
× × ×

*Laurie Allen, British Asbestos Newsletter, U.K., 1998.6.5

コンストラクション・ニュースの記事に関する Mick の e-mail を読んで、レポーターの Hope に電話した。彼は、イギリスの欧州連合(EU)閣僚会議議長任期の終わり(6/7月)までに、ヨーロッパにおけるクリソタイルの禁止を行うと繰り返し言ってきた、Junior Minister の Eagle にインタビューしたとのこと。Eagle は、禁止をめぐるEU(内での議論)の口実にイギリスはうんざりさせられているとほのめかした。ここ2〜3週間の内に、イギリスが「独力で行う」かどうかが判明するだろう。もし、そのような決心がつけば、イギリスにおける禁止は1998年のクリスマスまでには決定(in place)されるだろう。
EUはさらに数か月遅れており、Hope によれば、アスベスト問題は6月15日の毒性、環境毒性および環境に関する科学専門家会議の会合でも落着しない。私は、6月8日からいくつかの会合のために、(来週)月曜日にブリュッセルに行く予定で、帰ってくるまでにさらに情報を入手してきたい。
*6月9日付けの Mick からの e-mail によると、やはり、EUの科学専門家会議の結論は、9月以降になりそうだとのことである。



アスベスト―いまなお発がん物質:論説


Philip J. Landrigan, M.D., Mount Sinai School of Medicine



アスベストは人間の病気の重要な原因である。アスベストは肺がん、胸膜および腹膜の悪性中皮腫、喉頭がん、一定の胃腸がんを引き起こすという、臨床的、疫学的研究が論争の余地なく確立されてきた。

(1) アスベストはまた、進行性の肺の線維性疾患であるアスベスト肺を引き起こす。これらの疾病のリスクは曝露量および最初の曝露からの期間の長さによって増加する。アスベストは、環境保護庁(EPA)および世界保健機関(WH O)の国際がん研究機関(IARC)によってヒトに対する発がん性が証明された物質として宣言されている。アメリカ合衆国における、アスベスト曝露による死亡者数の合計は200,000名を超えると推計されている。
(4) アスベストとは、一定の繊維状の鉱物のグループにつけられた総称である。商業的に重要な4つのタイプがあり、それは、クリソタイル、クロシドライト、アモサイト、アンソフィボールである。クリソタイルが最も重要である。それは現在の世界の生産量の95%に達している。北アメリカで使用されているほとんどすべてのアスベストが、カナダのケベック州のものである。
(2) すべてのタイプのアスベストに発がん性がある。すべてが、臨床的、疫学的、また実験によって完全に肺がん、中皮腫、すべてのアスベスト関連疾患を引き起こすことがわかっている。
(3) クロシドライトはクリソタイルまたはアモサイトより2から4倍も中皮腫を引き起こす能力があり、すべてのタイプが肺がんを引き起こす同等の能力がある。
(5) アメリカ合衆国および他のほとんどの先進国では、政府による禁止と市場の圧力の結果として、アスベストの新たな使用はほとんど完全に終わっている。これらの力はセリコフおよびその同僚たちの歴史的な疫学的研究
(6) および産業界が隠してきたアスベストの発がん性に関する情報が公表されることによって鼓舞されてきた。
(8) 対照的に、カナダおよび他の輸出国によるアスベストの広範囲にわたる攻勢的な売り込みが、開発途上国において続けられている。

(8) アスベストの高度の職業的曝露が事実上なくなってきたことに伴い、医学上および公衆衛生上の関心は、一般環境中の低度の曝露によるリスクにうつっていった。とりわけ、何千もの学校、家屋、商業建築物等の過去の過去の建設施工の遺産として残っているアスベストに関心が寄せられている。
(2) 最初の間違いは建築物にアスベストを使用したことである。いくつかの地域では、適切な安全手続をとらずに行われた学校のアスベスト除去により、親たちが損害を被った。1986年の連邦アスベスト・ハザード緊急対応法(AHERA)の成立によって、合理的な法的管理手続が導入された。AHERAの示した原理は、建築物のアスベストは、繊維が空気中に飛散して吸入する可能性がなければ、健康への危険を引き起こさないと考えるというものであった。

(9) アスベストが残っていても損傷から防護されていれば、安全とみなすことができるとしている。
AHERAは、すべての学校の管理者に、アスベスト含有製品を確認するための目視による検査を要求し、エアーサンプリングは不正確だとして要求されていない。検査の結果および発見されたアスベストの処理計画は公開されなければならない。全体として、AH ERAは成功した。大多数の学校において、アスベストを適切に管理することが実行可能であった。除去(排除手段としてあげられた)は、アスベスト含有製品が目に見えて劣化しているか、修繕が切迫している場合にだけ、要求される。しかし、アスベストの低度の曝露のリスクに関する論争は継続している。

今号のジャーナルに掲載されている研究レポート((10)、17頁囲み参照) の中で、Camus らは、アスベストの非職業的曝露のリスクを評価するのに2つの疫学的アプローチを用いている。両方の分析とも、長期にわたって北アメリカの主要なアスベスト採掘現場であったケベック州の町の女性住民を対象としている。Camus らはまず、これらのコミュニティの女性とケベックの他の60か所(都市部および造船地域を除く)の女性の死亡率を比較している。それから、これらの鉱山地域の女性のなかでの肺がんによる死亡者数とEPAが開発したリスクアセスメントモデルによる予測値とを比較している。
Camus らは、鉱山地域の女性の中に肺がんによる過剰な死亡を認めなかった。加えて、これらの地域の女性の中での肺がんによる過剰死亡数は、少なくとも10のファクターについては、EPAモデルの予測値よりも少ないということを確認した。肺がんのほかに、Camus らは、“胸膜がん”―おそらく中皮腫と思われるが―による死亡が鉱山以外の地域の7倍になることを観察した。また、アスベスト肺による事実上過剰な死亡を認めている。
これらの結果をどのように解釈することができるか? なぜ、これらの女性たちに肺がんによる過剰な死亡がみられなかったのか? ひとつの可能性は、Camus らの言及しているところによれば、アスベストと肺がんの量―反応関係は、EPAモデルで推計したよりも勾配が緩やかであるかもしれないということである。実際、それ以下では発がん性が明らかではないとするアスベスト曝露の閾値が存在するかもしれないということが示唆されている。

(10) これは興味深くはあるが、まったく純理論的なもので、データの裏づけはない。
別の可能性は、ケベックの女性集団の過去の曝露を過大評価しているかもしれず、そのような過大評価は推計リスクを過大にするということである。このようなことはほとんどありえないようにも思えるが、このファクターは、肺がんによる死亡の観察数の中で生じるより小さな誤差よりも説明可能である。3番目の、事実に基づいた可能な解釈は、EPAモデルが基礎にした労働者集団はアスベストのタイプのうちアンフィボールに曝露したものとして知られており、Camus らの研究対象の女性集団はクリソタイル・アスベストだけに曝露したものであるので、このモデルが当てはまらないのかもしれないということである。曝露が異なっているにせよ、クリソタイルが他のタイプのアスベストよりも肺がんを引き起こす能力が少ないという証拠はまったくない。
(11,12)
この研究で観察された肺がんによる死亡の低さの最ももっともらしい説明は、鉱山地域の女性集団が、多くの粒子が肺にまで到達するには大きすぎるアスベスト・エーロゾルに曝露していたということである。これまでの研究によって、採掘、粉砕(milling)産業におけるがんのリスクは、織物製造や断熱のようなアスベストを加工、使用する産業よりもだいぶ低いということが判明している。

(13) 採掘、粉砕では、空気中に多数の繊維の塊や長い縮れた繊維が浮遊している。このような大きな粒子は容易に確認することができ、光学顕微鏡のもとで計測することができるが、小さな粒子のようには肺胞にまではなかなか到達しない。したがって、鉱山の環境中での光学顕微鏡によるエアーサンプリングは、真の肺胞の曝露よりもうわべだけ高い評価をもたらす。
対照的に、アスベスト加工産業では、大きな繊維の塊は、より短く、細長い繊維に粉砕される。このような小さな繊維は、光学顕微鏡ではみつけにくく、電子顕微鏡のもとでのみ確認することができる。しかしながら、肺胞に容易に吸入され、包み込まれることになる。これが、光学顕微鏡で測定して同じレベルの曝露であっても、アスベスト鉱山労働者とアスベスト加工、使用産業の労働者との間で観察される肺がんによるリスクの相違(これらのリスクはファクターによって10から50倍も異なる)の奥底を説明する、現実の肺の曝露における基本的な相違点である。

(13) EPAは十分にこの違いを知っており、そのためそのモデルをつくるときに、アスベスト採掘、粉砕(milling)労働者のデータを除外している。(2) Camus らは(10)、根拠もなくEPAモデルは少なくとも10のファクターについて、非職業的曝露を受けた人々のアスベストに起因する肺がんのリスクを過大評価していると主張する行きすぎをおかしてしまっている。EPAの現在の管理基準は、危険と釣り合った警告のレベルを具体化しているものである。Camus らの、きわめて特異的なアスベスト曝露を受けたケベックの田舎の住民に関する研究データは、アメリカ合衆国の建築物におけるアスベスト管理規制を見直すための基礎とするには不適当である。
最後に、このレポートの正味の教訓は、クリソタイル・アスベストはいまなお議論の余地なくヒトに対する発がん性があるということである。Camus らによる、鉱山以外の地域と比較して7倍以上にのぼる(関連リスク 7.63)鉱山地域における胸膜がんによる死亡率は、カナダのクリソタイルが他のタイプのアスベスト同様に発がん性があることを確証させた。(1,6)
この結果はそれ自体で、クリソタイル・アスベストに関する公衆衛生管理のいかなる緩和にも反対すべきことを示している。そのうえ、クリソタイル・アスベストを安全にみせようとする最近の努力が間違ったものであることも強調するものである。

(14) クリソタイルを開発途上国においてリスクなしに使用することができるという主張は、事実に反するものであり、またきわめて危険である。

(15) *参考文献(( )内数字の箇所)は省略 The New England Journal of Medicine, May 28, 1998, Volume 338, Number 22 (http://www.nejm.org/public/1998/0338/0022/1618/1.htm で入手可)



クリソタイル・アスベストの非職業的 曝露と肺がんリスク: 抄録


Michel Camus, Jack Siemiatycki, Bette Meek



背景
アスベストの大量の職業的曝露は肺がんおよび中皮腫を引き起こすが、アスベストのごく少量の環境曝露もまたそれらのがんを引き起こすかどうかについては知られていない。にもかかわらず、環境保護庁(EPA)を含め監督機関は、今日の環境中のアスベストのごく少量の環境水準(ざっと100,000倍低い)に対して、過去の職業的曝露から推定されている肺がんリスクをもって評価している。われわれもまた、相対的に高水準の非職業的アスベスト曝露を受けた女性集団におけるアスベストに起因する肺がんリスクに関して、EPAのモデルを検討してみた。

方法
ケベック州の2か所のクリソタイル・アスベスト採掘地域に住む女性の中での死亡数を、60か所のコントロール地域の女性の死亡数と比較し、また、年齢を標準化した死亡率を求めた。専門家パネルの協力を得て鉱山地域の女性集団の過去のアスベスト曝露を推計し、関連する肺がんリスクを予測するEPAモデルを用いてこれらのデータを処理した。そして、この予測値と観察された死亡率を比較した。

結果
鉱山地域の推計された曝露をもとに関連する肺がんによる死亡リスクをEPAモデルによって予測すると2.1で、この集団における肺がんによる過剰死亡数は約75になる。対照的に、標準化死亡率は1.0、部分的標準化死亡率は1.1(P>0.05)で、このアスベストの非職業的曝露女性集団における肺がんによる過剰死亡は0から6.5の間と考えられた。観察された胸膜のがんによる死亡は7であった(関連リスク, 7.63; P<0.05)。

結論
2か所のクリソタイル・アスベスト採掘地域の女性たちに、肺がんによる過度の過剰リスクは認められなかった。EPAモデルは、少なくとも10のファクターについてアスベストに起因する肺がんのリスクを過大評価している。

○ Source Information From the Unit of Epidemiology and Biostatistics, Institut Armand-Frappier, University of Quebec, Laval, Que. (M.C., J.S.); the Department of Epidemiology and Biostatistics, McGill University, Montreal (M.C., J.S.); and the Environ-mental Health Center, Health Canada, Ottawa, Ont. (M.C., B.M.).

* この論文に対する ニューヨークのマウントサイナイ医科大学 Landrigan 教授の論説(20頁の囲み)も参照のこと。
The New England Journal of Medicine, May 28, 1998, Volume 338, Number 22
(http://www.nejm.org/public/1998/0338/0022/1565/1.htm で入手可)
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